研究テーマの設定は難しい。特に企業においては商品開発テーマと同等評価が得られるような研究テーマ企画と言うのは、それなりの実務経験がないと企画できないのではないか。
10年後を見据えた基礎研究です、というのは怪しいテーマが多い。しかし30年前はこのような企画を多く見かけた。ゴム会社だけでなく多くの企業でこのような研究企画が多数推進されていたのではないか。
高純度SiCの企画も最初提案した時には、怪しい企画が多く推進されていたにもかかわらず、それらの企画以下に扱われた。最初に提案してから3年後に無機材質研究所留学として実現したのだが、昇進試験の答案に書いたところ0点をつけられたので留学が島流しではないかと不安に思ったりした。
この企画は30年以上たった今でも事業として継続されているので、企業の研究企画としては優れた企画だと思う。また、この企画の中の小テーマの一つにSiC合成の反応速度論があり、2000万円かけて超高速熱天秤を開発し、生産に寄与する研究成果を出している。そして学位論文にもなっている。
しかし、ゴム会社の研究部門では、この企画は全然評価されなかった。評価されなかったどころか、昇進試験に落とされるぐらいのマイナス評価だった。
昇進試験に落ちた結果、研究を完成させる機会が得られたのだから、複雑な気持ちだが、とにかく研究部門における研究テーマの評価として低かったことは確かだろう。
しかし、無機材質研究所長はじめ留学でお世話になった先生方には、研究テーマとして高い評価を頂いた。当時セラミックスフィーバーの最中で留学希望者が多く、この評価が無ければ無機材質研究所への留学は実現しなかった。
ゴム会社の研究部門では散々な評価だったが、ゴム会社の故服部社長には大変褒めていただいた。「なぜ研究部門でこのような企画ができないのか」とまで酒の席で言われた。不思議に思い後日上司に尋ねたら、新事業部門の企画として最初説明されたらしいとのこと。
早い話が、当時の研究部門管理職の方々は、この研究テーマに関わりたくなかったと思われる。この研究テーマに関しては30年以上事業が続いている「不思議さ」以外にFD事件も含め奇妙な体験は多い。ただ、若い時の企業に貢献したいという「思い」の強さが成功に結び付いたと思っている。
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流動性のある物質の中に微粒子が分散している状態をコロイドといい、それが流動性を持っているときにゾル、流動性が無くなるとゲルと呼ぶ。これは化学の世界だけに限らず、日常会話にも登場する。
例えば殺虫剤を散布すれば、エアロゾル(エアゾル)という言葉が出てくるし、今は死語となったガンクロが夏の時期には町に現れ、何やらつまみながら「げるってる」などという言葉を発する光景に稀に出会う。
コロイドとかゾル、ゲルなどという科学用語は、いまやフツーの日本語になりつつある。だから微粒子の分散技術も簡単に理解できる時代ではあるが、現場の技術者は難しく考えている。これは、教科書にも責任がある。
例えば、ゼータ電位の問題。液体の中に微粒子を分散した時にその表面に何らかの電荷が現れ、と説明が始まる。微粒子表面に電荷が現れる現象は、もう日常生活で経験済みである。
昔電気粘性流体の開発を担当していた時にゼータ電位の問題はよく議論していた。現象の理解や説明には便利なパラメーターである。しかし、粒子が凝集したり(クラスターを形成したり)、何か不純物が入ってきたりして複雑になってくると途端にこの問題は難しくなる。計測データを見てもマクロ的な現象から説明をし始めたりする始末である。
何のためにモデル系を作ってゼータ電位を測定したりしていたのでしょう、と自分で自分の行動を笑ってしまう。コロイド科学を真面目に研究するのは難しい。しかしフィラーの分散を直感的にとらえ理解するのはそれほど難しくない。
夏の日のクーラーの効いていない電車の車内を想定して欲しい。乗客が少ない間は、皆距離をおいて乗っている。次第に混雑してきても前からいた乗客は自分の位置を変えて、距離を置こうとする姿を観察できる。混雑していない時に座っている乗客の前に立てば上目づかいで睨まれたりする。感じが悪いのでやはり少し距離を置く。
すなわち混具合で電車の中の人の配置がかわるようにコロイドでも濃度によりクラスターのでき方が変わる。このようなことは直感的にわかる。みるからに恋人どおしのカップルは空いている電車の中でも離れようとしない。これは、高分子の中にフィラーを添加した時と似ている。凝集性の強いフィラーは添加量が少なくても分散は難しい。
だからカップリング剤でフィラーを前処理する必要が出てくるのだが、恋人どおしを引き離すのが難しいのと同様に、凝集粒子をカップリング剤で処理してもその凝集を完全にとくのは、カップリング剤以外に一工夫が必要である。フィラーの分散の問題は科学で真面目に考える前に直感でまず現象を整理していった方が面白いアイデアが浮かぶ。
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仮説設定をして実験をしたり、あるいは観察という手法で科学的に取り組んでも間違った結論を出す、ということは科学的方法で起こりがちな問題である。イムレラカトシュの言う否定証明という科学的解決法に潜む問題を知っていると注意できるのだが。
電気粘性流体をゴムのケースに入れた製品では、ゴムのケースから電気粘性流体へ配合剤が抽出され、ごてごてに増粘し使い物にならなくなる。解決方法は界面活性剤しかないのだが、これが否定証明により否定され当方に応援の仕事が回ってきた。
ゴテゴテになった電気粘性流体にポリエチレンオキシドを添加して振ったところ、少しずつ粘度が下がり、2時間眺めていたら、流動性が出てきた。初めての実験だったので、窓際でじっと観察を続けた成果である。
ポリエチレンオキシドを選んだのは、ゴムの添加剤には極性の高い化合物が多いからだ。ゆえに効果が無ければ粘度変化は無いはずで、効果が少しでもあれば、注意深い観察でそれを検知できる。
通常は粘弾性試験器で粘度変化をモニタ-すれば検知できるが、粘度増加の様子を観察したかった。すなわち、粘弾性試験器では、全体の細かい現象を把握することができるが、不均一な変化を捉えにくい問題がある。このような問題では、マクロな解決法も考えるべきで、そのため目視で観察することにした。
目視観察は正解で、ポリエチレンオキシドを添加したときにはざっくりとした変化が観察され、その後粘度が下がる、という現象を見いだせた。すなわち経験から界面活性剤で解決できる、という結論をすぐに出すことができた。
何か仮説を立てて観察をしたわけではないこの実験が大正解で、すぐに問題解決でき、特許出願や製品化に寄与した。このように実験や観察は、科学的に行う必要はなく、ヒューリスティックに行っても正解にたどりつける。
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ゴム会社の最初のテーマは防振ゴム用樹脂補強ゴムの開発だった。今で言うところの熱可塑性エラストマーである。すなわち加硫ゴムが島で樹脂相が海の当時は新素材の開発である。
この材料は、性能が低くてもよいならば動的加硫という技術を用いて二軸混練機で製造できる。しかし、当時高性能が要求されたのでバンバリーと二本ロールを用いて開発していた。
指導社員からテーマの説明を受けたときに指導社員が製造したというサンプルの物性を評価しながら、評価技術の指導を受けた。
そのサンプルは、指導社員が一回の実験で創りだした材料だった。しかし、物性は座学で教えられた理想の物性に極めて近かった。当方の最初の仕事は、そのサンプルの再現を確認する実験から始まった。
しかし、同一配合のゴムを教えられたプロセスで混練してもなかなか指導社員のサンプルと同じ物性にならなかった。このあたりの話は以前この欄で紹介した。その後分析担当の女性陣がサポートしてくれてゴムの高次構造のプロセス依存性のデータが揃うことになる。
しかし、驚くのはたった一回の実験でベストに近い物性のサンプルを創り上げた力量である。見方を変えると再現性の乏しい技術だからだめだ、という批判も出てくるが、プロセスの勘所を押さえると十分に再現性のある凄い材料になった。
当方は新製品の樹脂を用いて、この材料よりも品質の良い材料を3ケ月未満で開発するのだが、指導社員はシミュレーションで目標を立ててたった1回で仕上げているのである。指導社員は当方の開発した材料を褒めてくださったが、何かイヤミを言われているようで素直に喜べなかった。
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技術の世界でも事務の世界でも問題解決法と言えば科学的な方法が推奨されている。例えば20世紀にシステムズシンキングとかロジカルシンキングとかタイトルにつけた書籍や講演会がもてはやされた。
ところがその科学的方法で建設された福島原発の状況をみれば、科学的方法が万能ではないことに気がつくはずだ。また、海水注入を決断した人は偉いなどと当時書かれていたが、それは海水注入をためらっていた人がいるからで、おそらく後者は科学的判断に基づき、前者は直感だったかもしれない。
ヘリコプターで空から海水をかけるパフォーマンスも行われたりしていたが、科学の成果である原発の一大事では、科学的方法以外の問題解決による意思決定が随所に見られた。
海の向こうアメリカの技術者たちはとにかく何でも良いから冷やせと叫んでいたそうである。原発というシステムで何かエラーが起きて制御不能になったら、何でも良いから冷やすことが鉄則である、と当時何かの番組で外人が語っていた。
とにかく科学的に緻密な計算で安全が担保されていたはずの原発が、ひとたびトラブルに見舞われたときにヒューリスティックな問題解決法に頼らざるを得ない現実をみると、ビジネスプロセスにおいて科学的に厳密な問題解決を追求しているのが滑稽に見えてくる。
実は社会人なったばかりの時に、科学と技術に悩みながら、この科学的問題解決法についても疑問を持ち始めていた。ゴム会社で出会った指導社員は、それらの疑問に一つの回答を示してくれた。
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SMAPが今年の12月31日をもって解散すると13日深夜、所属事務所のジャニーズ事務所が発表した。グループは解散するが、メンバーの中居正広(43)、木村拓哉(43)、稲垣吾郎(42)、草なぎ剛(42)、香取慎吾(39)の5人はジャニーズ事務所に残留する。
何とも奇妙な芸能界の動きである。解散騒動があったのが今年の1月でその後ジャニーズ事務所と各メンバーが面談してこの結論を出したのだという。SMAPファンの方々には衝撃の発表だろう。
少しマンネリ化してきたとはいえ、今はAKBが国民的アイドルブランドだろう。かつての国民的アイドルSMAPとAKBでは、その誕生の仕方が異なる。SMAPはTVのバラエティー番組から育ったアイドルグループであるが、AKBは秋葉原で草の根的活動により育てられたアイドルグループである。
SMAPというグループはTV文化が無ければ生まれなかっただろうし、AKBはおたく文化が育たなかったなら単なる秋葉原のアイドルで終わっていたかもしれない。日本のオタク文化が育てたアイドルは、日本だけにとどまらずアジアのアイドルにまで育った。
ただ面白いのはSMAPは各5人のメンバーキャラクターと1セットでファンの間に浸透しているが、AKBは、ブランド名だけであるように思われる。AKB=前田敦子などという等号は、もう死語である。マリコ様と名前を出してみてもどこのマリコ様となる。時代の流れが速くなったと言うよりも企画コンセプトがSMAPと異なるからだ。
SMAPはインターネットが生まれTV文化の終焉を直前にしたアイドル不毛の時代に生まれている。そしてその売り方は、一人一人のキャラクターを際立てそれぞれのファンをSMAPというグループのファンにして育てていった。すなわちSMAPのファンはSMAPのファンであるとともに、各メンバーの紐付けされたファンでもあるわけだ。
しかし、これがAKBのファンになると少し様子が異なる。総選挙の結果を見たりすると各メンバーに紐付けされたファンがいるように見えるが、その紐付けは1:1ではなく?:1である。なぜなら総選挙における選挙権はCDを多数購入すれば一人で何票もの権利を持つことができるからだ。
さらに、AKB卒業後の各アイドルたちのその後を見れば、AKB時代のファンがそのまま卒業したアイドルのファンとして活動しているようには見えない。すなわちAKBに属している間は特定のアイドルのファンであるが、AKB卒業後そのファンはAKBにそのままとどまり、新たなアイドルを応援するという現象が生まれている。
ところで今IoTが騒がれている。いろいろな物がインターネットで紐付けされるのだそうだ。そしてそこから生まれるビッグデータを活用できる企業が生き残れる、と言われている。すでに熊本地震ではトヨタ自動車が通行可能な道路マップ提供という社会貢献でIoTの力を示した。
SMAPの解散でアイデアが浮かんだ。熊本地震における道路マップ提供をAKB的な発想とすると、SMAP的発想のIoTというものもある。これまでIoTという技術について今ひとつよく分からない部分があったが、SMAPの解散のニュースで「物がつながる」ところに着目していてはその技術の本質が見えてこないことに気がついた。
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夏休み中のためか勉強に関する記事が目につく。中には、何のために勉強するのか尋ねられて答えられない親の問題に触れた記事もあった。その記事では塾の講師が一つの模範解答を述べている。
彼の模範解答は記事を見てほしいが、それは無難な回答であるが、すべての生徒が燃えて勉強をしたくなるような回答ではない。
当方の亡父は、死ぬ直前まで勉強をしていた。毎日向かっていたテーブルの上の本と本に挟まれたしおり、そして広告の裏面に走り書きされたメモが亡くなる前日の勉強の様子を力強く語っていた。
亡くなる前日に何のために勉強していたのか問うのは無意味である。毎日の勉強が生の証だったのだ。100歳の不自由な体で頭脳だけは生き生きとしていた。当方などより世界の動きを深く洞察していた。
亡父は明治の生まれで学歴は小卒である。しかし、警察官として55歳定年まで勤め上げ、在職中の業務に対する表彰状も単行本並みの厚みがあった。当方が中学に上がる前に定年退職していたのでその仕事ぶりなど記憶にないが、これら遺品の数々から並み以上の仕事人であったことを理解できた。
また過去の叙勲の栄誉だけでなく葬儀の日に政府からの賞状も届き、改めてその学歴にそぐわない業績に触れることができた。民間のサラリーマンでは到達できない地位である。
ドラッカーは現代を知識労働者の時代と定義づけ、生涯教育のニーズを著書に書いている。亡父の愛読書の一つにドラッカーもあり、おそらくその影響を受けていたのだろうが、現代を生きるために食う寝ると同様に勉強をし続けたのである。ただ、それだけである。
だから、目的など考えず燃えて勉強する喜びを持てるようになっていたい。必要に迫られて勉強するのは苦痛であるが、自分が学びたいと思ってする勉強は、喜びである。しかし、そのような気持ちになるためには、一度苦痛を味わう経験をしなくてはいけないのも勉強のもつ一面である。勉強もスポーツなどと同じで、能力の不足は汗で補う。
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個人にとって、よい技術を生み出すのに必要なのは、頭の良さよりも意欲が重要だろう。頭の良い悪いは先天的なので、という人がいるが、少なくとも企業で技術開発を担当しているレベルの悪さであれば多少頭が悪くても意欲さえあれば良い技術を生み出すことができる。
ただし、上司あるいは指導者の存在は重要で、上司も頭が悪ければ運に頼ることになり、良い技術を生み出せるかどうかは確率論になる。ただし、弊社のような会社を利用すれば、その確率を上げることが可能となる。
写真学会から賞を頂いた技術では、つくづくこの意欲が頭の良さよりも重要だと思った。頭が良くても意欲が無ければ、頭の悪い人よりも役に立たない。部下の意欲はリーダーシップでも変わるが、よりよい技術を創り出そうという意欲には、リーダーシップでも補えないところがある。
すなわち、モラールアップを図っても頭の良い人の中には否定証明を一生懸命行う人がいる。頭の悪い人はあまり深く考えないから、「できるかもしれないからやってみよう」の一言で、良い結果を出してくれる。技術開発の現場では、前者のような人は通常お荷物となるが、リーダーの中にこのような人を好む人もいるから成果の出ない研究開発部門が生まれる原因になっていると思う。
実は頭の良い人よりも、あまり深く考えない、一般に頭が悪いと思われがちな人の方が、訓練により成長する可能性がある。そしてその可能性は意欲のある人であれば高くなる。
中国で技術指導をしていると言葉が通じないので、頭の良し悪しよりもその人の意欲を見ることになる。意欲のある人は言葉を超えて意思を伝えようとするが、意欲の無い人は当方の顔を見ただけであきらめて去って行く。不思議なことに前者では言葉は通じないが良い成果が出るようになる。意欲は言葉に勝るのだろう。
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電気炉が暴走したときに、観察結果をつぶさに報告している。例え、50℃程度のずれはPIDの設定が合っていないときには発生しうる現象、と分かっていても異常として報告した。
PIDが合っていないときには、100℃以上もオーバーシュートする場合がある。しかし、当方が新品の電気炉を初めて使う、という遠慮と不安から頻繁に電話をかけた。
T先生に早く実験室に来て、電気炉の暴走に対処していただきたかった。ゆえに観察して分かることはすべて報告した。当方は不安だった。だから電話を50℃上昇するごとに入れている。温度が高くなった以外は、観察結果は同じだが、少なくとも当方の声のトーンは変化していった。それがT先生に非常停止の決断をさせた。
もしT先生が実験を最初からすべて行われていたら、異なる実験結果になっていたかもしれない。観察結果にどのような印象を持つのかは、観察者の経験に依存する。あるいは、観察者が立てた仮説にも左右される。
電気炉の暴走では、不適切なPIDという仮説をT先生はもたれたが、その後の当方の慌てた様子から、非常停止を決断している。前者は科学的な判断だが、後者は非科学的な判断である。尋常ではない報告から直感で非常停止の指示を出している。
観察結果の最初の報告では、経験から判断した仮説により誤った指示をしている。このようなことは日常の仮説設定による実験でも起こりうる。仮説を設定したために誤った結論を出すことは、科学的方法で起こりうることなのだ。
仮説により観察している現象の見方が変わる。見たままを受け入れるのが観察の正しい方法だが、仮説により観察で得られる情報を取捨選択したりする。すなわち仮説が先入観となり、重要な変化を見落とす場合を何度も現場で見てきた。
過去にここで触れたが、電気粘性流体の増粘現象では、優秀な科学者集団が立てた仮説のために解決策を見失い一年以上の研究を行っても解決策を見つけられなかった。彼らが見ていた同じ物質を当方は素直な気持ちで観察し、一日で問題を解決している。その時仮説など立てていない。
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電気炉の暴走については、無機材研で問題になった。納入されたばかりの電気炉だったからである。しかし、温度コントローラーの設定や電気炉の運転は、無機材研のT先生がすべてやられた。小生はただ眺めていただけである。
だから、当方の実験はうまくいったが、安全の問題でT先生にご迷惑をおかけすることになった。電気炉の暴走原因を解明しなければいけないという指示が出たのだ。
T先生からいろいろと状況について説明を求められたが、あいにくとその時観察していたのは、電気炉の温度だけだった。電気炉の温度が1600℃になって加熱が止まるのか、と思っていたら、1650℃まで上昇したので慌ててT先生に電話をした。
T先生はPIDの設定が合っていないのでしょう、と言われた。そのまま温度コントローラーを眺めていたら、1700℃になっても昇温の止まる気配が無い。プログラム通り次のイベントに移らず、あきらかに暴走していたような状態だった。
再度電話をしたら、非常停止ボタンを押してください、と言われたので非常停止をおしたところ、温度コントローラーも止まり、計測されていた温度は1800℃から徐々に下がっている状態となった。ところがコントローラーの制御は不思議なことに1600℃保持のイベントに正常に移っていた。
T先生が実験室に来られて、温度コントローラーをご覧になり、あれ正常じゃない、と言われたが、レコーダーの温度記録を見ていただいて、電気炉が暴走していたことを納得していただけた。再度スイッチをいれたら、ちょうど電気炉の温度は1600℃までさがっていたため、温度コントローラーのプログラムに軟着陸した。
後日いろいろ焼成条件を変えた実験を行いながら電気炉の具合を確認したが、この時の現象は再現されなかった。結局温度コントローラーの不具合点は見つからず、初めて電気炉が運転されたときの暴走は、原因不明として報告された。
しかし、不思議な現象はこの熱暴走だけではなかった。前駆体炭化物の処理条件をいろいろ変えても、熱暴走したときに得られた真っ黄色の粉体は得られなかった。カーボンがわずかに残り、少しくすんだ色の粉体として得られていた(注)。
この時の焼成条件がベストだったのは不思議な出来事であり、極めて非科学的である。電気炉の温度変化を観察し続け、異常を察知して電話をしたら、研究者の経験で異常でないという最初の判断が出され、結局二度目の電話で非常停止をかけることになった。それがベストな条件となったのだが、これらの行動は、すべて想定外のことである。
(注)シリカ還元法において、SiC化の反応は、熱力学的には1500℃以上で起きる。ゆえに1600℃前後では確実に反応が進行している。また、この温度領域では、SiOガスも発生する可能性があり、化学量論的に考察すると反応終了後Si不足となり炭素が少し過剰に残ることになる。前駆体を1800℃前後の温度条件におくと、わずかにSiOガスが生成してもすぐにSiC化するためSi不足にならず真っ黄色の粉体が得られた、と推定される。すなわち、分子レベルで均一にCとSiO2が混合された状態でもSiC化の温度条件を選んでやらないと反応に不均一なところができSiOガスが発生する可能性がある。
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