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2014.03/15 理化学研究所の会見について

今回のSTAP細胞の騒動について、理化学研究所の会見が昨日あった。まだ中間報告の段階だが、事実として分かってきたことは、若手研究者に科学の厳しさを指導していなかった(注1)、ということである。

 

理化学研究所の理事長野依先生は名古屋大学では鬼軍曹とまで陰で言われていた、科学に対する厳しい姿勢では評判の先生だった。当方が卒業研究をしていた研究室は野依研とも親しい関係にあり、当方を指導してくださったI先生は野依先生よりは厳しくないとご自分で言われていた。その野依先生より厳しくないI先生は、卒業論文の〆切前日に50報前後の英語論文の山(注2)をつきつけ、卒業論文の書き直しを当時4年生である当方に命じてきた。

 

当方も卒業したい一心で徹夜し、50報もの論文を参考論文として整理し、緒言や実験結果の考察の引用論文として反映し(引用箇所にはすべて正確に論文情報を添付したのは当然だが結構大変な作業である)、すべて卒論を書き直した。ワープロなど無い時代である。しかし20時間程度で完成したのには驚いた。人間必死になればもの凄い力が出るし、またその底力は1年鍛えられた結果でもあった。翌日I先生はできて当然、と言われ卒業論文を見直してくださった。

 

理化学研究所の会見を聞いていると、そのような厳しい姿勢がSTAP細胞論文作成に無かったようだ。小保方さんは当然のように安直に画像の切り貼りをして論文をしあげ、指導する立場の人もそれを許していた。

 

自称野依先生ほど厳しくないと申されていたI先生は、科学者という職業では厳しさを忘れてはいけないことを日々指導してくださった。だから〆切前日論文の山を渡されても粛々と手をぬくこと無く、その厳しさに真摯に応えることが当然と思って誠実に作業を進めた思い出がある。

 

先日S先生の最終講義の日にS先生の指導担当だったI先生もいらっしゃった。いつのまにか優しいI先生になられていた。しかし野依先生には今回の事件で昔の厳しさを取り戻して頂きたい。技術は機能に不具合があれば市場から厳しいペナルティーを被る。技術者は市場から常に厳しい評価を受けながら日々開発現場に臨んでいる。科学者は真理の前に自ら厳しさを課さなければ今回のような事件が起きるのである。今回の事件は単なる捏造ではなく厳しさの欠如から生まれたミスだろう。それでも捏造と騒がれるところが悲しい科学者の立場である。

 

(注1)「厳しく指導する」ことではない。「厳しさ」を教える指導が必要。

(注2)卒論に不足しているだろう論文を予めコピーしておいてくださった親切な先生である。優しさから生まれる厳しさが人を育てる。

カテゴリー : 一般

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2014.03/14 古くて新しいセルロース(6)

液晶ディスプレーは、二枚の偏光板の間に駆動可能な機構を有する液晶を挟み込んだ構造で、バックライトを付設し画像を見やすくしている。現在は液晶をガラスで挟んでいるが、近い将来すべて高分子材料のフィルムで構成された液晶ディスプレーが登場する可能性がある。

 

有機ELやプラズマディスプレーのような自発光型のディスプレーに用いられるフィルムについて、セルロースがいつまで使用されるか不明であるが、液晶の偏光板に使用されるセルロースフィルムは、偏光板の材料としてポリビニルアルコール(PVA)が使用される限り、あるいは偏光板の製造に水が使用される限り、セルロースフィルムが使われ続ける可能性が高い。

 

理由は偏光板の製造プロセスにあり、現在のプロセスではPVAを水性接着剤でTACと貼り合わせ乾燥させる工程になっており、PVAを挟むフィルムが透湿性でない場合には偏光板の水分管理が難しくなる。偏光板の保護フィルム機能としては透湿性フィルムが必要と思われる。

 

ただし現在のTACフィルムは、環境負荷の高い溶媒を使用した流延法で製造されるので、今後セルロースフィルムを無溶媒で製造する新技術の開発が環境対応技術として不可欠である。

 

その他ガラスを置き換えるにはどのような変性が必要か、フィルムそのものを機能化し複数のフィルム機能を1枚のフィルムで達成できないか、さらには溶媒キャスト製膜よりも生産性が高い押出成型によるセルロースフィルムなどの開発課題は豊富である。

 

以前触れたが、ミドリムシプラスチックスはセルロースと類似の多糖類のプラスチックスでセルロースよりも流動性がある。すなわち変性セルロースで押出成形が難しくともミドリムシプラスチックス(パラミロン誘導体)ならば可能なので、この分野にミドリムシプラスチックスが応用されるかもしれない。

 

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.03/13 小保方さんの学位論文の問題

小保方さんの学位論文は英文で書かれており、数カ所に他の論文のベタコピーが存在する、と発表された。STAP細胞発見の業績評価とこの問題は無関係のはずであるが、STAP細胞発見の業績をおとしめるような扱い方である。

 

まず学位論文の問題から明確にしておく。彼女の学位論文はすでに審査されたものであり、学位論文の責任はその審査委員会にある。確かに他の人の論文を引用しながらその引用先を示さなかったのは盗作と言われても仕方がないだろう。しかしそれを指導しなかった審査委員会のザル審査のほうがもっと問題が大きい。

 

その大学の学位論文には、小保方さんの論文以外にも同様の問題が潜んでいる可能性があり、彼女の論文の問題を大きな問題として扱うならば、その大学の学位論文全てを疑惑の対象として調査しなければならない。彼女の論文だけの問題として終結してはいけない。

 

実は学位論文を作成する場合に英文で作成した方が簡単である。理由はすでに海外に投稿した論文の英文をそのまま利用できるからである。また化合物名はじめカタカナで記載される外国語は日本語にするとミスを犯しやすい。また、論理を展開する場合に日本語よりも英語のほうが扱いやすく、さらに英借文という奥の手がある。

 

ちなみに英借文とは、類似議論を行っている英文を探し、一部自分のテーマで書き直す方法で、単なるコピペと異なり、英語論文の指南書にも示されている方法である。英借文は日本人の英語論文を読むと随所に見つけることが可能である。おそらく英借文に対して日本の学会は寛容なのであろう。

 

ただし同様のことを日本語で行うとまことにかっこ悪い結果になる。スムーズな日本語にならない場合が多い。これは日本語の文法が原因である。そのため、化合物名含め学術用語はカタカナが多い点と英借文が使える手軽さから英文で学位論文を作成した方が容易となる。

 

このような理由で国立T大で学位審査を受けるときに当初英文で学位論文を作成していた。しかし、審査途中で主査の先生が他の私大へ転籍され、代わりの先生が主査になられた。そしてその先生から奨学寄付金の要求をされたのである。ちょうどゴム会社から写真会社へ転職したばかりであり、ゴム会社の研究のために奨学寄付金を転職先から支払うこともできず、また金額も高額であったので国立T大で学位取得をあきらめた。

 

一度は諦めたがすでに論文ができあがっていたので、学生時代の恩師にご相談したら中部大学を紹介してくださった。天下の国立T大の先生の指導で書いていた論文なので、そのまま提出すればすぐに学位を頂けるのか、と思ったら甘かった。すべて日本語で作成するように指導された。英文は盗作の問題を抱え込むので日本語で書くようにというのが理由であった。そのかわり語学能力評価については、英語と第二外国語の両方を試験するので心配しなくて良い、と恐怖のありがたい言葉を頂いた。

 

せっかく書いた自分の英語論文を翻訳する作業と語学試験の対策でその日から地獄の日々となった。日本語の学位論文が完成してからも大変であった。化合物名のカタカナ記述の間違い以外に、句読点の位置、改行および行間の取り方まで細かく指導頂いた。論文提出まで結局1年を費やした。しかし、学位審査料8万円だけで学位を頂けて何かお得な感じがした。きめ細かな指導と難しい試験まで受けて一桁の費用である。おまけに学位授与式はたった一人のために学長始めその大学の学監まで勢揃いの中で行われ感動的であった。

 

その時主査の先生がポロッと言われた言葉が印象的で、「他の大学に負けないような学位論文に仕上げたかったので意地悪に見えたかもしれないが勘弁な―――」。世界初の有機無機ハイブリッドによる高純度SiCの合成やその反応速度論を含む「リン、ホウ素およびケイ素化合物を用いた機能性材料のケミカルプロセシングとその評価」という学位論文は、見知らぬ70名以上の研究者の問い合わせを頂いた。印刷した100冊は知人に配れず大半は見知らぬ方へ配布された。しかし20年以上たってもクレームはきていない。中部大学に感謝している。

 

欠陥博士論文が発見されたときにそれは著者の責任では無く、審査した大学の責任である。著者は指導を受ける立場の人間で、指導を受け認められて晴れて「博士」となるのである。また研究者を指導し育てるためにアカデミアがあるのである。むしろ小保方さんはダメ大学に学位審査をゆだねたために研究者として指導される機会を失った被害者とも言える。

 

 

カテゴリー : 一般

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2014.03/12 古くて新しいセルロース(5)

かつて乾板写真の支持体には、ガラスが使用されていた。このガラスに代わる透明で可撓性のあるフィルムを発明したのは、George Eastman と Thomas A. Edison である。

 

この時使用されたのは、セルロースの水酸基に、ニトロ化すなわち硫酸触媒下で硝酸を反応させたニトロセルロース(NC)という合成セルロースである。

 

硫酸と硝酸の比率を変化させてニトロ化を行うと、セルロースのすべての水酸基をニトロ化することができ、これは綿火薬という爆発物である。綿火薬のニトロ化の割合は14%であり、これを11%前後とした材料が、当時写真用ベースフィルムとして使用された。

 

しかし、ニトロセルロースには発火性があり、静電気でも容易に発火する代物で、代替フィルムの研究も行われたがなかなか良いものが見つからず60年ほど使用され続けた。

 

1923年ホームムービー用にセルロースジアセテート(DAC)が用いられたが、低湿下で脆く経時で可塑剤が抜け、その結果フィルムがねじれたり、収縮したりといった問題が生じ普及しなかった。

 

1930年に入り、プロピオン酸と無水酢酸の混合物、またはブタン酸と無水酢酸の混合物をセルロースと反応させた混酸セルロースエステルが発明された。セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、あるいはセルロースアセテートブチレートは、物性がNCよりもすぐれていたので1940年ごろには、順次NCからの置き換えが進んだ。

 

現在のカラーフィルムに使用されているセルローストリアセテート(TAC)については、1950年代にCAPやDACから置き換えが進められた。

 

写真用ベースフィルムの候補として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)やポリスチレン(PS)なども検討されたが、諸物性のバランスから、映画用フィルムや135フォーマットフィルム用にはTAC,Xレイや印刷用フィルムにはPETが使用されるようになった。

 

写真用ベースフィルムとして、新素材フィルムが登場しても、またフィルム製造に環境負荷の高いメチレンクロライドを使用しているにもかかわらず、セルロースフィルムは完全に無くなることはなかったが、アナログからデジタルというパラダイム変化の前には、写真用ベースフィルムは風前の灯状態にある。

 

しかしTACが完全にPETに置き換わらなかった理由を考察することは、合成セルロースの性質と用途を考える上で重要である。PETフィルムに置き換わったフィルムは、いずれも平板状で巻かずに使用する分野である。

 

135フォーマットフィルムも映画用フィルムも長いフィルムを巻いて使用する。すなわち、PETには巻き癖がつきやすい欠点があり、巻いて使用する分野には使用できなかった。しかし、TACには吸湿すると巻き癖が解消される性質があり、現像処理の間に巻き癖がとれるので、現像処理後にカールする心配が無い。

 

このTACのわずかに吸湿する特性はセロハンほどではなく、吸湿による形状変化は殆どない。TACのこの便利な透湿性は、他の合成高分子から製造された透明フィルムに備わっていない性質であり、また添加剤でその透湿性を制御できる特徴がある。

 

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2014.03/11 小保方さん、ガンバレ

STAP細胞論文の共著者山梨大教授が、論文取り下げを呼びかけている、という。おかしな話である。毎日新聞の取材に対してご自分が関与した研究が信用できなくなった、と発言している。現在公開されている状況から、もし間違っていたとしたら科学者として早めに白旗を揚げた方がキズを深くしないと判断された結果だろう。

 

山梨大教授は最も身近で共同研究をしていた人である。彼が白旗を揚げたら小保方さんはどうなるか。科学者としての判断は正しいかもしれないが、男としての判断には「?」がつく。しかし、こと問題は男の器量で議論する問題ではなく科学の問題なので「立派な教授」の行動と考えるべきか。

 

30年ほど前に有機無機ハイブリッドから高純度SiCを合成する新手法を開発し、その反応速度論の論文をまとめていた。学位の相談に国立T大O助教授を訪問したところ、O助教授は「研究として先駆的であり重要だから」と言ってご自分を筆頭にして、論文を勝手に投稿してくださった。実験企画から実験データ収集、データのまとめまですべて一人で行い、その先生には学位論文のご相談にのっていただいただけなのだが、ご丁寧に論文を迅速に出してくださった。

 

STAP細胞の騒動を見ていると、真の発明者を末席にした論文を投稿してくださった先生には感謝しなければいけないのかもしれない。当時無機高分子と有機高分子とが均一に混合され、有機無機ハイブリッドが合成されるという研究は誰もやっていなかったキワモノの研究だったから学位も持っていない人間が一人で論文投稿してもボツになる可能性は大きかった。それを権威ある先生が筆頭で投稿してくださったのだから。

 

また、会社から前駆体高分子の詳細については論文に書いてはいけない、と指示されていた。すなわちノウハウとしてブラックボックス化し、事業を有利に展開した方が良い、という判断で、論文の書き方も工夫しなければいけない状況であった。それを研究には関与していなかったO先生はうまく書き直して出してくださったのだから、親切と解釈すべきか?

 

前駆体高分子の部分をブラックボックス化した結果、他社でまねをすることができずゴム会社は独走することができて、30年経過した現在もその事業は続いている。技術として成功しているが、その後日本化学会から賞を頂くまで科学として評価されることは無かった。

 

科学では、真実が全てである。理研の発表では、現在も研究の概要に間違いは無い、と言っているのだから、STAP細胞の存在は真実の可能性は高いと思われる。小保方さんは、そのSTAP細胞の発見者として歴史に残るだろうし、残って欲しいと思う。学位論文の疑惑も含めいろいろと問題噴出の研究者のようだが、今回の業績は切り離して考えるべきである。山梨大教授も緑色に光るマウスを見て感動した、と1ケ月前には発言していたわけで、ここは彼女を支える側に回り、日本人が感動する人情劇を見せて欲しかった。

 

若い経験の浅い研究者の場合に勇み足はよくある。しかしそれを指導し育てるのは年上の研究者の役割である。今回第一発見者の若手研究者の栄誉も明確になっており、とかく徒弟制度的情景が見られる研究分野では極めて稀なケースではないだろうか。

 

もし本当に大きな間違いであったなら、それは論文執筆者全員の責任である。彼女がインチキでもして他の研究者を欺いていたならば論文取り下げ呼びかけを一人の研究者がマスコミに発表しても良いが、そうでないならば共著者全員の意見が揃ったところで論文取り下げを公表すべきであった。

 

カテゴリー : 一般

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2014.03/10 古くて新しいセルロース(4)

紙の発明は105年とされてきたが、それより250年前にも紙があった、というのが定説である。紙は科学が無い時代に技術だけで発明された情報記録媒体である。科学が無くてもこのような優れた材料を生み出すことができる点に着目し、未来技術へ展開するサイト(www.miragiken.com)を運営しています。

 

ところで、紙の定義は、主として植物体から繊維を取り出して、これを水の中に分散させ、金網や簾で水をこしわけて、薄く平らに絡み合わせて乾燥させたものとされたが、JISではプラスチックの表面を紙のように筆記具で記録可能な形態に変性したものまで紙に入れている。

 

ここでは50%以上のセルロースを含む紙だけをとりあげるが、それでも最近様々な紙が登場している。これらの紙の大半は、セルロースが含まれるパルプと他の材料とのハイブリッドである。

 

例えば、写真の印画紙や高級印刷物、食品容器に使用されるコート紙は、セルロース繊維で作られた紙に樹脂を積層したものである。またインクジェットプリンターで紙に印字するとコクリングが発生するので、その問題を解決するために、ラテックスと複合化したインクジェット専用紙も存在する。

 

また、有機材料であるセルロースと無機材料とを複合化させた有機無機ハイブリッドペーパーも実用化されている。例えば、折り紙で作ったイメージの焼き物を製作するために使用されるセラミックペーパーや、お祝い事に使用される水引に、セルロースと無機材料との複合化により発水性をもたせた超越紙水引と呼ばれる製品も登場している。

 

 

車愛好家に広く知られている“ボール紙ボディーの車”トラバントは、1958年から1991年まで長きにわたり、モデルチェンジもしないで発売された東ドイツの車だが、これは品質が悪いために揶揄された表現で、実際にはセルロース強化プラスチックであるFRPが使用されていた。

 

ちなみに、日本における産業用のゴミの分類では、セルロースからできているパルプが50%以上含まれていれば紙として扱われるので、トラバントの環境技術的先進性を評価すべきかもしれない。

 

約40年ほど前に、環境技術の一手段として古紙のリサイクル性をあげる目的で、混練によるパルプ樹脂複合紙が研究された。10年ほど前には、大阪の町工場で、この材料を用いたゴルフ用品が開発された、とニュースで報じられた。

 

この材料は生分解性を備えており、マナーの悪いゴルファーがティーの形状でゴルフ場に捨てていっても、1年ほどでその形が無くなる、とニュースでは報じていた。しかし、このニュースはいささか怪しく、なぜならばセルロースは多糖類なので土中のバクテリアにより分解しても、複合化に用いた石油由来の樹脂は残るはずである。100%完全な生分解性樹脂ではないが、形状が無くなればゴルファーのポイ捨ての罪悪感は少し救われるのかもしれない。

 

混練によるパルプ樹脂複合材料は、完全な生分解性樹脂ではない、という問題以外に、パルプに含まれるセルロースの水酸基には複雑な構造のアルデヒド類が結合しているので、これが混練時に分解し異臭を放つという難問がある。当然ながら製品にもその異臭は残る。

 

しかしこの異臭の問題については、混練プロセスにおける厳密な温度管理と樹脂の配合を工夫すれば解決できる。その技術で製造されたポリエチレンとパルプの複合材料は、ポリスチレンと同等の弾性率を有し、繊維形状のフィラーの配合された複合材料ゆえに脆さはポリスチレンよりも改善されるという特徴をもつ。フィルム状に押出成形を行えば、記録メディアとして使用可能である。

 

 

紙はセルロースの主要な用途だけでなく、プロセスから材料物性までセルロースの性質をうまく活用した製品と見ることができる。様々な紙の技術が登場しても、歴史のある薄く平らにパルプを絡み合わせて乾燥させた紙は、セルロース分野で優れた商品の位置を占める。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.03/09 古くて新しいセルロース(3)

セルロースが高分子であるがゆえに観察される性質について、結晶性高分子と非晶性高分子の視点で概説する。

 

ここで、非晶性高分子とは、結晶化しない高分子を意味する。そのような高分子は、成形加工などのプロセスでも結晶化することはない。ゆえに密度や弾性率は結晶化した高分子よりも低く、一般に力学物性が劣るとされる。しかし無機ガラスと同様、光学的均一性が高くなるため、結晶特有の性質を利用しない光学特性が要求される分野には、不可欠な高分子である。

 

セルロースは、光合成により反応が進行し、高分子量化したものであり、そのつながった構造を一次構造と呼ぶ。この一次構造が不規則であると非晶性高分子となる。一次構造を不規則にする方法には、対称性の低い低分子を不規則に並べるか、高分子の規則性のある部分に他の低分子を反応させ、規則性を崩す方法がある。

 

後者は、規則性が高い天然高分子を非晶性高分子に変える手段として有効で、合成セルロースの一部は非晶性である。余談だが、光学用高分子として供給されている石油由来の合成高分子のほとんどは、ここで述べる非晶性高分子ではなく、カタログに非晶性高分子と書かれていても加工条件を工夫すれば結晶化できる。

 

加工条件を制御して結晶性高分子を非晶化して用いた場合には、加工後の温度条件や力学的要因などで結晶化する場合があり、品質問題が起きる原因となっている。たとえば無機ガラスで観察され、その機構も明らかになっている失透現象の原因の一つは、部分的に生成した微結晶で引き起こされる。

 

注意深い耐久試験で発見できる現象であるが、非晶性高分子であればそのような問題を心配する必要が無い。セルロースの場合、C6H10O5単位に三個の水酸基が含まれるので、無秩序にこの水酸基を変性すれば規則性が無くなり、完全な非晶性高分子を製造可能である。このような非晶性高分子は、光学分野では現在でも研究開発の対象として重要である。

 

 

非晶性高分子に対して、一次構造に規則性がある結晶性高分子は、結晶化した時に結晶化部分と非晶部分ができる。一般に結晶化部分が多くなるにつれ弾性率が上がる。天然のセルロース類を化学修飾しなければ、規則性が失われず結晶化するので、セルロースは高い弾性率を有する。天然のセルロース類は、この力学物性ゆえに古くから活用されてきた。

 

木の皮をそのまま使用した時代から繊維状の形態で使用した時代になるまでどの程度の月日が必要だったか不明であるが、セルロース系高分子の活用形態としては結晶性高分子としての形態が歴史的に最も長い。パルプはその代表であり、紙の腰の強さは結晶化したセルロースに由来する。スピーカーのコーン紙は、硬くて材料自身は共振しないことが求められ、金属からセラミックス材料まで検討されているが、名器と呼ばれるスピーカーの多くは、硬さとしてセルロースの性質を利用し、振動時のエネルギー吸収を繊維の絡み合い構造で達成している紙を振動板に採用している。

 

水に溶けるように変性したヒドロキシセルロースは液晶としての性質を示す。http://itf.que.jp/lc/lca.htmlにはヒドロキシセルロースを用いた簡単なアクセサリーの作り方が紹介されている。セルロース誘導体の液晶については現在も研究されており、将来高機能樹脂としての応用例が出てくるものと思われる。次章では、現在のセルロースの応用製品について簡単に紹介する。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2014.03/08 古くて新しいセルロース(2)

セルロース(繊維素)は、(C6H10O5)nという化学式で表される多糖類の一種であって、棉、木材、その他植物体を構成する細胞膜の主成分として、高分子量体のまま地球上に豊富に存在している。

 

空気中の炭酸ガスと水分から、太陽エネルギーを活用する光合成という光化学プロセシングにより自然界で大量に合成されている。ゆえに資源は無尽蔵といってよい。一年生草本などの植物のセルロース含量は、10-25%、木材では40-50%、亜麻、黄麻、大麻などでは60-85%であり、これらは重要なセルロース源として活用可能である。

 

セルロースという呼び名は、1840年頃木材から繊維状の物質が初めて単離されたときに、その物質につけられた呼び名で、今日では化学用語として定着している。

 

理論的には、あらゆる植物からセルロースを単離、抽出できるが、実用上は経済的要因に左右され、工業的に製造されるセルロース誘導体用のセルロース源としては、棉リンタおよび木材パルプの二つが主体となっている。そして紙、繊維、フィルム、プラスチック、塗料、接着剤、火薬などのセルロース化学工業用原料として活用されてきた。

 

最近はミドリムシからも多糖類が抽出され注目されているが、こちらはパラミロンと呼ばれる物質である。多糖類の工業材料としてセルロースは多方面で使用されてきたので天然高分子で大変な合成プロセスであっても価格はポリ乳酸よりも安価である。

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2014.03/07 STAP細胞の再現性(2)

昨日の産経新聞朝刊に理研がSTAP細胞の作成方法の詳細を公表した、という記事が載っていた。小保方博士が先月その再現実験手順を作成し、再現実験に成功した、という情報も同時に報じられていた。作成方法の公開記事よりも彼女が元気に実験手順を作成していたことを知りほっとした。

 

当方でも彼女の現在の状況で平常心による仕事ができたかどうか自信はないが、彼女は責任を全うした。相当強靱な精神力の研究者と思われ将来が楽しみなリケジョ(www.miragiken.com)である。現代の研究者にとって社会に受け入れられるかどうかは重要なことである。若い研究者のモラールを萎えさせることなく再現実験を即座に推進できるようにした理研の対応も立派、といえるだろう。そのような恵まれた環境で仕事をした経験がないだけにうらやましい限りである。

 

さて、昨日の記事には再現性のために重要な点として生後一週間を過ぎたマウスの体細胞では作成効率が大幅に落ちることや、細胞を浸す溶液の酸性の度合いが変化しやすいこと、雄マウスの体細胞の方が雌より効率の良いことなどが公開されていた。

 

これらはSTAP細胞作成のための制御因子である。おそらく制御因子の存在を十分に調査せず研究を進めてきた問題が今回の騒動を引き起こしたのだろう。また一方で、研究を独占する方法として、このような制御因子の詳細を研究者は公開したくないことも確かである。後者については、科学者には許されない我が儘であるが、時としてそのような研究者がいる。

 

但しこのような姿勢は研究者には許されないが技術者には許される。技術者はそれにより自らの立場を守ることができるからである。技術者が社会で長生きするためには、機能を創り出すまでのノウハウ(注)を公開せず、機能を実現する方法だけを提供することである。安定に繰り返し再現性が得られる生産システムを自ら開発し、それで社会に貢献すれば技術者の責任は全うされるのである。科学者のように全てを公開する責任を負わず、安全安心安定な技術を提供するだけで良い。そしてできあがった機能について科学的に保証すれば技術者の仕事は終わる。

 

科学者は真理を証明するために全てを公開する必要がある。もし公開せず技術者と同じ態度を取ったならば今回のような混乱を引き起こすだけである。科学者は全てを公開することで名誉を獲得できる。それにより新たな仕事を呼び込むことが可能になる。秘密主義の科学者に社会は研究費を提供しない。秘密の多い科学者は技術者よりも極めてリスクが高くなるからである。

 

おそらく彼女は今回見いだされた制御因子の詳細をご存じないのかもしれない。すなわち彼女の属人的スキルでうまくSTAP細胞を創ることができていたが、STAP細胞に関する科学的研究については山中博士が指摘されたようにこれからスタートする状況と言えるだろう。彼女はSTAP細胞の発見者として評価されるが、STAP細胞の研究者としては他の人が評価される可能性がある。

 

(注)ノウハウの一つが弊社で販売している研究開発必勝法プログラムである

(古くて新しいセルロース(2)は明日掲載します。)

 

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2014.03/06 古くて新しいセルロース(1)

合成セルロース系高分子は、他の合成高分子と異なり、モノマーの重合や縮合などによって得られるのではなく、天然の高分子であるセルロースを化学的にエステル化またはエーテル化することによって得られる種々のセルロース誘導体を主原料とし、これに可塑剤その他の添加剤を配合して製造される。セルロース自体は溶融せず、熱可塑性ではない。

 

しかしサランラップはじめ石油モノマーから合成されたフィルムの普及であまり見かけなくなったセロハンや、これも他の合成繊維の台頭で市場占有率が縮小したレーヨンなどのように、苛性ソーダと二硫化炭素でセルロースを処理後、酸性溶液中に押出して得られる再生セルロースは、他の熱可塑性高分子に似た性質も備えている。

 

かつてセルロースの化学を語るときには、セロハンやレーヨンを中心にまとめれば、それで興味深い読み物になった。また、石油系ラップフィルムと異なりセロハンには透湿性があり、石油系ラップフィルムで包むと湿気で食感の変化するお菓子や惣菜をおいしく包むことができ、そのフィルム物性について読者の興味を引く内容にまとめることができた。40年ほど前には、セルロースの化学は別名繊維素系樹脂として重要な合成高分子の一つであり、高校の化学の教科書にもそのような紹介がされていた。

 

 

時代が変わり、環境ビジネスが取りざたされる昨今、天然高分子としてのセルロースにも注目が集まっている。しかし環境適合性の劣るプロセスで製造されるセロハンやレーヨンは、もはや研究対象ではなく、高度な機能性高分子としてのセルロース、あるいは環境に優しいプロセシングで製造されるセルロースおよびその応用製品の開発が期待されている。

 

(日本化学会から依頼され「科学と教育」へ4年前投稿した論文を本日から連続で掲載します。)

 

 

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