無機材料における結晶成長の速度論的解析は、原子やイオンの拡散など具体的にその様子を頭に描きやすい。それでも、核の発生については観察することはできない、という前提がある。すなわち核は仮想だが、確かにそこから結晶成長が起きていると考えるのだ。
慣れれば、これが自然のことだと理解できる。そしてアブラミの式以外に多数の結晶成長に関する速度式が提案されている。無機材料でアブラミの式は、数多くある速度式の一部に過ぎない。しかし高分子では結晶成長をほとんどアブラミの式で取り扱う。
そもそも高分子の結晶には階層性があり、高分子稀薄溶液から結晶成長するとできるのはラメラ晶である。また融体から生成する結晶は球晶であるが、球晶はラメラの集合体のようなものである。
融体を延伸し繊維化したときにはラメラの積層になる。一方高分子稀薄溶液を攪拌しながら結晶化させると、シシカバブと呼ばれるラメラ晶を串刺しにしたような独特な結晶が現れる。
すなわち高分子の結晶は、分子が折れ曲がり結晶化したラメラ晶が基本であるが通常目にすることが多いのは球晶である。障子の張替ではPVA系のノリを使うことが多く、張替の時に桟にPVAの大きな球晶が観察されることがある。
そして、このラメラ晶なり球晶がどのように成長するのかにより、結晶成長の機構が変化する。この時、結晶の核は高分子の折れ曲がりでできたナノオーダーの結晶の種で、この核生成速度も不均一核生成の場合と均一性核生成の場合で様々である。
高分子の結晶に関する論文でよくわからなくなるのは、アブラミの式を結晶成長のどのあたりまでのデータで処理したのかというところである。高分子の球晶には目視でもわかるぐらいの大きさになるものもあるが、速度論の解析に使えるのはせいぜい20%ぐらいまで結晶が成長したところのデータではないだろうか。
結晶成長の速度論を展開するときに、結晶成長をモニターしたときの経過時間の設定は重要で、長くとりすぎるとアブラミの係数の誤差は大きくなる。速度論の解析では反応をモニターしたときにどれだけ精度の高いデータを集めるかが重要で、SiCの結晶成長の速度論を研究したときにわざわざ2000℃まで瞬時に精度よく昇温可能な超高温熱天秤を開発した背景でもある。
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フェノール樹脂とポリエチルシリケートのリアクティブブレンドから製造された前駆体高分子を炭化すると、シリカとカーボンが分子レベルで均一に混合された前駆体ができる。これを非酸化性雰囲気1600℃以上で熱処理すれば、SiCを合成できる(シリカ還元法)が、ここでシリカとカーボンとの均一素反応の取り扱いができる原料となっている点が学術的に重要である。
シリカ還元法について、その反応機構すなわちシリカが還元されてSiC結晶に成長して行く過程について、1980年当時諸説が乱立していた。
これはSiC化の反応に用いる原料が不均一なために、中間生成物と思われるSiOが揮発して様々な反応挙動を示しているためだ。また、シリカ還元法で生成されるSiCは立方晶系の結晶のはずだが、2Hタイプのウィスカーが副生成物として得られる問題が実用的にも学術的にも話題になっていた。
早い話が、技術的にも科学的にもシリカ還元法のあるべき姿が見えていなかった、という言い方ができる。ちなみにシリカ還元法のあるべき姿は、シリカとカーボンが反応し立方晶のSiCを100%生成できるプロセスであり、これを実現するためには、シリカとカーボンが分子レベルで均一に分散している原料が必要だった。
すなわち、不純物となるウィスカーや未反応のカーボンをを含まないSiCを製造するためにも、SiCの生成機構の真理を追究するためにも,フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのリアクティブブレンド技術の開発は必要だった。
このあるべき姿を実現した原料と超高温熱重量天秤を用いて1500℃以上で恒温測定を行うと、SiOの揮発によるノイズが極めて小さくCOの発生だけを重量減としてモニターできる。
1500℃以上の様々な温度で得られた、時間を横軸にした重量減少曲線を反応速度論に基づき考察すると、その曲線には明確な反応開始の核発生誘導期間が存在する。
これは反応初期に反応速度が最大になるシリカ粉末と炭素粉末との不均一反応の場合と大きく異なる。また不均一反応では、シリカあるいは炭素粉末の表面で反応が進行すると言われている。
すなわち、得られた実験結果は均一固相反応のアブラミの式で解析可能な結果であることを想像でき、実際にデータを速度論の手順で処理するとnは1.5と見積もられた。
また、得られた粉末はβSiC単相の結晶粉末なのでSiCの核が立体的に成長したことが理解され、核成長の次元λは3で反応ステップ数βは0と求められる。
すなわち、拡散律速成長であり、SiCの結晶成長が、瞬間的に核生成するや否や拡散律速で3次元的に成長している機構であることがわかった。
シリカ還元法で様々な反応機構が提案されているのは、副反応であるSiOガスが発生し、このシリカとカーボンの理想的に進行した機構からはずれるためであることも想像できた。
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Avramiをアブラミと書くと、脂身を連想し、お腹のあたりを気にする人もいるかもしれないが、結晶成長の速度論の話である。このアブラミの指数については、無機材料の場合と高分子では、その意味が少し異なっているが、高分子のアブラミの指数は少し怪しい、と感じている。
そもそも速度論なる学問を大学で初めて学んだときにその体系をたいへん怪しく感じた。ゆえに教養部の速度論の授業では疑問だらけであった。しかし、学位ではSiCの結晶成長の速度論に半分割いている。そこで展開しているのはアブラミの指数から考察した結晶成長機構である。
過去の速度式との関係を示すために多くの文献にあたりまとめたが、2000万円かけて手作りした超高温熱重量分析装置で収集したデータの精度が高く、きれいにアブラミの指数が求まった。速度論の解析は過去の結果を参考にするのでコピペをしたくなるが、学位論文を日本語で書くように言われたのでコピペができなかった。
余談になるが、この時論文は英語で書いたほうが書きやすいとつくづく感じた。日本語の難しさは、文章を推敲しなければいけない点にある。英語でも推敲が必要だが、英語の場合には躊躇なく英借分となるので楽である。稚拙な英文となっても恥ずかしさはあまりないが、日本語は自分で自分の書いた文を読みながら赤面することになる。
学位論文でコピペが横行するのも、おそらくこのような背景があるかもしれない。英文ならコピペをしても、日本人に気づかれないので後ろめたさは少ないが、日本語はすぐにばれそうだ。
さて、アブラミの指数だが、無機材料では、界面律速成長と拡散律速成長に分けて扱う。そして結晶成長の次元ごとに過去の知見からそれぞれの指数が求められている。
換言すると、結晶成長過程をモニターして集められたデータを速度論で解析し、アブラミの指数が求まると、結晶成長機構が明らかになる。
アブラミの指数の意義は過去の既知となった無機結晶の成長機構との対比で未知の結晶の成長機構を帰納的に示すことができる点にある。そして注意しなければいけないのは、指数から未知の結晶の成長機構が求められたからといって、それが真とは限らないことである。
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先日涼宮城の話を読んだ友人から電話がかかってきた。あのCMについての議論よりも妄想の話で多くの時間を費やした。友人は文系だから、技術のアイデアを妄想から導くというのは作り話ではないか、と言いたかったようだ。
ところが当方の開発技術のほとんどは妄想から生まれており、単身赴任の時にはとうとう一部の管理職からここから何か良い妄想は無いのか、と引っ張りだこになる始末だった、という体験談を話した。
壇蜜の「行く」というセリフから、宮城で壇蜜とデートしたり、あるいは別のよからぬ想像をしたり、どのような妄想を描くのも自由である。自然界から機能を取り出すときも、自然界でおきている現象を眺め妄想を膨らませて、時には興奮する。
カオス混合装置をイメージできたときには、ものすごい興奮でその日は眠れなかったことを今でも覚えている。妄想を描くのは仮説を考えたりするよりも易しく、いろいろと自由に描くことが可能だ。科学の制約は消し去り、いろいろな角度で現象を眺め妄想する。時には妄想をホワイトボードに書いたりして恥ずかしい思いをしたこともある。
ゾルをミセルに用いたラテックス重合の技術についてホワイトボードで議論しているときは恥ずかしかった。恥ずかしくとも妄想の可能性がある以上非科学的と言われようともいろいろな可能性の図を描いた。
その中から界面活性剤の知識だけで考えていては思いも及ばない、本当に起きていた現象が見つかっている。科学により自然現象がすべて解明されているわけではないのだ。また科学のタコつぼ化した体系では、境界領域の現象について妄想でイメージしない限り、仮説など思いつかないこともある。
この妄想は、アイデアを考える一つの方法である。涼宮城のCMで日本にはアイデアマンが豊富にいることを知った。壇蜜をかわいいおばさんと捉えるとあのCMのイメージは本当に涼しげなCMとなる。亀との対話でもほのぼのとしたムードが伝わってくる。科学の制約をはずした妄想とは、あのCMでいえば壇蜜のシンボルイメージを変えて眺めることである。
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ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は、用いた界面活性剤をその体系の中で考えている限り、完成できない技術である。あるいは勉強不足のK大の先生のように当たり前の現象の技術と誤解する。
すなわち、ゾル粒子へ高分子が吸着する現象として捉え、高分子の吸着した粒子が安定なミセルを形成していると考えない限り実用化できない,界面活性剤の体系から少し離れた高分子の吸着現象の技術である。
これは界面活性剤の科学の体系の特別な現象という説明もできなくもないが、界面活性剤の教科書を読んでいては簡単に見出すことができない技術と考えたほうがよい。界面活性剤の科学知識を一瞬忘れて現象を眺めてみて初めて発見できる技術で、実際にそのようなプロセスで誕生している。
この例以外に、界面活性剤の科学と樹脂やゴムのブレンドにおけるコンパチビライザーの考え方について比較をしてみると面白い。例えばAという樹脂とBという樹脂を安定にブレンドしたければ、コポリマーABをコンパチビライザーとして用いる。
このあたりは、水と油を混ぜるときに用いる界面活性剤の構造の考え方と似てくる。しかし、混練ではミセルという考え方を用いていない。ゆえに全く異なる体系のように思われるが、混練で用いるコンパチビライザーを界面活性剤のような考え方で捉えてもよいし、逆に水と油の混合を混練と同じように考えることも技術開発において現象を眺めるときに必要となってくる。
このとき、よく勉強をしている人は、このような人を「科学を知らない人だ」と決めつけたりするが、技術開発で重要なのは現象からロバストの高い技術を取り出すことであって、真理を極めることではないのだ。科学に囚われるあまり、現象の多様な把握がうまくできずアイデアを出せない状態は技術開発の現場で排除すべきである。
科学は現象を理解する一つの方法に過ぎない。とんでもない妄想が自然界の現象から機能を取り出すヒントになるかもしれない。ノーベル賞学者でも妄想で成功している人がいる。科学は無用ではなく科学があるおかげで目に見えない世界の妄想を描くことができていることも付け加えておきたい。
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昨日8人が科学の妄想のため当方の意図を軽蔑し、たった一人当方の意図した解決策を実行してくれた話の続きになるが、すでに一年以上前の活動報告で紹介している技術なのでいきなり結論を書く。
すなわち、コアシェルラテックスの合成を行うのではなく、シリカゾルを凝集させない不思議なラテックス合成技術とゼラチンの3成分混合溶液を作る方針に変えた。
ここで問題となるのは妄想がいかがわしいかどうかの議論ではなく、電荷二重相の安定性である。界面科学を理解していると、ゼータ電位が異なるコロイド溶液の混合では、これが不安定になったとたんに凝集が生じる機構を思い浮かべることができる。3成分の混合では少なくとも2回そのような状況になる。
ここでシリカゾルをミセルにしてラテックスを重合できれば、凝集が生じるリスクを一回に減らすことが可能になる。また、この時のミセルが安定であれば、ゼラチンを添加したときにやはり安定となり、シリカもラテックスも凝集が生じない。
シリカゾルをこのような安定なミセルに変えるためにダイナフローと呼ばれる界面活性剤をシリカの超微粒子に吸着させたのだ。ゆえにシリカゾルをミセルにしたコロイド溶液のCMCは、ダイナフローのCMCではなく、ダイナフローが吸着したシリカのCMCとなる。
三重大学との産学連携でこのあたりの解析を進めたが、ラテックス重合に必要なダイナフローの添加量はダイナフローのCMCで決まらず、シリカの量で決まる。すなわち、ダイナフローを界面活性剤の科学の体系の中で捉えていては、この物質の機能を正しく評価できない。
技術が出来上がってから、妄想の結果を検証するとこのように科学的に説明できたのだが、これを高分子学会賞に推薦されて説明したら、KO大学の教授から当たり前の技術で誰でも考える対策と言われ落選した。
しかしこの先生、アカデミアにいて勉強不足だった。翌年界面科学の学術雑誌に米国研究者から世界で初めての技術として類似技術の論文が掲載された。その後アカデミアでもご存じない技術という一文と証拠として学術雑誌を添えて写真学会ゼラチン賞を受賞している。
STAP細胞におけるW大学の学位の問題も日本のアカデミアの現状を垣間見る事例だが、これも同様だろうと考えている。いずれも受験偏差値の高い大学だが、最近世界における日本の大学の水準が低い問題が議論されたりする。玉石混交が日本のアカデミアの現状ととらえ諦めるのか、それとも現状に厳しい対応をとるのかーーー。
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表題のCMが話題になっている。表現が低俗で問題だ、とTVで放映されたので確認のために見てみたが、思わせぶりの表現がいくつかあるが、当方の印象ではいやらしくはない。思わせぶりの表現をいやらしいかどうかという判断は、これを見た人が自らの経験を振り返りどこまで想像するのか、という問題だろう。
壇蜜には特に関心が無い当方はこのCMの騒がれる問題がどこにあるのか思わず考えてしまった。すると事前に特定の情報を持っていた人が見たとしたら、その特定の情報に基づく妄想を抱くかもしれないが、それは妄想を抱く人が特定の情報を持っているからであり、このCMが直接いやらしい表現をしているのではない。
TVで問題として紹介していた亀との対話でも彼に対して彼女が何かしているわけではなく、浦島太郎と同じように亀に乗って涼宮城に行きたいと言っているだけなのだ。このシーンであらぬことを考えた人は、頭の中を掃除するとともに、もっと良い方向へイメージを膨らますような習慣にした方がよい。当方はこのシーンを見て女浦島太郎のファンタジーを思い描いた。
しかし亀という言葉から他の事象を想像し、さらにそこで展開される姿を想像したならば、いやらしいのかもしれない。しかし、他の事象を描く習慣が無ければ、あるいはその情報を持ち合わせていなければ、かわいい亀とおばさんの会話である。仮に作り手の意図がいやらしい想像をしていたとしても、受け手にその想像をするための下地が無ければ伝わらない。
こうした問題は、研究開発で遭遇する現象を眺めたときに、自然が備えている階層をどこまで何を研究者が想像するのか、という問題とよく似ている。例えば先日から連載している界面活性剤の事例では、当方がホワイトボードに書いたモデル図から新技術が生まれているが、同じモデル図を8人が見ていて、ゾルをミセルに用いたラテックス重合のイメージまで展開できたのはたった一人だけであった。
もっとも当方はそのイメージを伝えたくて、ゾルをミセルに見立てた思わせぶりな、それこそ歪曲したモデル図を描いた。しかし大半の人は、科学という長年学んだ知識から軽蔑的にその図を眺めていた。たった一人、技術の視点に頭を切り替えて建設的に見てくれた人物がすぐに実験を行い、新技術を成功させた。
目の前の現象を見てそこから新しい機能を思い描くことができるかどうかは、イメージをどのように展開する習慣を身に着けているかに依存する。これは日々のOJTで訓練する必要がある。もし訓練を希望される方があれば弊社へ問い合わせていただきたい。
涼宮城で卑猥な連想をされた人は、日々の習慣を改めたほうがよい。例えば幼稚園児にこのCMを見せてもおそらくなぜ浦島太郎でないのか、という疑問と、お姉さんのキスで赤くなる銅像を笑うぐらいだろう。これは技術開発の経験のないアカデミアの研究者が現象からうまく機能を取り出せないことと似ている。
言葉は悪いが、技術者は現象から見出した妄想をもとに新技術を創り出している。壇蜜を単なるかわいいおばさんとみるか、妙な妄想で眺めるかは、その人の人格のようなものである。涼宮城を低俗とことさら騒ぐのは、妄想で機能を取り出してきた技術者の立場でいかがなものかと思う。
常に特定の自然現象からのシグナルに対してお決まりの科学的妄想を行い否定証明をするのではなく、モノづくりが出来る常に健全な妄想ができるよう訓練する必要がある。CMの放映中断を申し入れた議員団や女性市長が、あの映像から特定の妄想が描かれることを常識と考えているとしたら、日本人は皆作者同様の妄想をすると言っているようなもので国民を侮辱している。
あのCMで宮城ファンタジーを妄想できる人もいるのだ。女性市長は、むしろその方向で妄想を膨らませてほしいとか、健全な視点でCMを眺めてほしいといった談話をすべきだったと思う。誰もが皆いやらしい想像をしているわけではないので、女性市長の談話は壇蜜をいやらしく眺めることを容認した差別発言ともとれる。
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ラテックスを重合するときに界面活性剤が使用されるが、その添加量はCMCから推定される、と昨日書いた。これは、界面活性剤の科学の体系を学んでいると不思議なことではなく当たり前のことである。
ところが、CMCよりもはるかに多く界面活性剤を入れなければうまくラテックスを合成できない場合が存在する。別の表現をすれば、科学の体系で決まってくる界面活性剤の量では安定にラテックスを合成できないので、技術開発をあきらめてしまう場合が存在する。
シリカゾルをミセルに用いてラテックスを重合する技術を開発したときの出来事である。この技術は20年前の新技術で写真学会から賞を頂いている。すでにこの活動報告でこの技術の誕生の背景を紹介しているが、否定証明により危うく没になりかけた技術である。
この技術はコアシェルラテックスの開発過程で合成に失敗した技術から生まれたのだが、科学を忘れるように、という指示を信じてくれた担当者の力で生み出された成果である。まさに科学よりも当方の言葉を信じた者が救われた例の一つである。
コアシェルラテックスの開発では、ライバルの多数の特許群から逃れるために、特許に書かれていない素材を中心に検討していた。すなわち明らかに科学的に構築されたライバルの技術よりも不利な条件で技術を完成しようと担当者は努力していた。
このような状況で、科学的に開発を進めていては難しくなりゴールにたどり着けない場合もでてくる。いったん科学を忘れて素直に現象を眺めることが大切である。すると科学の体系とは異なる視点で新しい機能が見えてくるものだ。これは訓練で誰でもできるようになる。そしてむしろ高等教育を受けていない方が素直にこの行動をとることが可能だ。(続く)
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科学の世界観では、一つの真理は重要なことで、真理が一つゆえに科学の論理展開による推論が意味を持ってくる。しかし、現実の自然現象では、科学で明らかにされたはずの事象でも技術開発でそこで働く機能を用いるときには科学を疑う、あるいは科学の成果を忘れたほうがよい場合が存在する。
例えば、混合や分散の技術では、科学の体系通りには成立していない、あるいは科学のそれぞれの分野で微妙に体系が異なっている事象を扱う。
水に油を分散するときに、界面活性剤を用いることは常識である。そして界面活性剤は親水基と疎水基の構造を持ち、界面活性剤を水に分散すると水の中に疎水場を形成し、この中に油を包含することで安定に油を水中に分散することが可能となる。
界面活性剤の教科書を読むとこのような説明がなされている。さらに、親水基と疎水基を持つ分子でミセルを形成したり、臨界ミセル濃度(CMC)などの説明が続く。この臨界ミセル濃度については、その説明のためにグラフが使われ、ほぼ1%前後と理解できる。
実際にラテックスを合成するときには、このCMC近辺の量で界面活性剤が添加される。また、洗濯の時にはCMC以上の界面活性剤を添加しても汚れの落ち方は変わらない、という生活の知恵も存在する。
直感的に界面活性剤の体系は理解しやすいようにできている。しかし、この体系で考えていると新しい技術アイデアを見落としたりするから大変である。以前にも述べたが科学が新技術のアイデアが生まれるのを邪魔するのである。(続く)
(注)科学の体系に忠実に従い研究され否定証明された電気粘性流体の増粘問題を試行錯誤でたった一晩で解決した事例を以前紹介しているので、今回はダイナフローという特異な界面活性剤を用いて問題解決した事例を紹介する。
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昨日のレンズのように、趣味の世界あるいは人間の感性でその評価が決まる商品では、科学の真理が必ずしも正解とはならない。すなわち人間の営みとしての技術により正解を求めなければならない世界だ。
いまやレンズ設計はコンピューターシミュレーションで光学性能を造りこむことが可能と言われている。ゆえにタムロンやシグマ、トキナーなどのサードパーティーから安価で性能の優れた互換レンズが出てきている。
韓国製サムヤンは新参のレンズメーカーでそこそこの高性能であるが、最近の日本のサードパーティーメーカー製レンズのボケ味に特徴を持たせてきているレンズに比較すると明らかに商品性能は劣る。そしてカメラ関係の雑誌ではこのあたりの新製品に関する商品テストが格好の記事ネタになっている。
あこがれのカールツアイスレンズは、コシナーで製造されているので、日本はレンズ大国である。そしてこのカールツアイスレンズさえも科学の正解を採用していないいわゆる味のあるレンズと雑誌記事にある。
写真が二次元に描かれた絵に過ぎないのに立体的に見え、その絵に表現をもたらせるのに必要なレンズ性能の一つはボケであるが、これは科学的に正解を導き出すことができない、と言われている。
レンズは焦点が合ったときの性能で設計されるからだ。よく知られているように光の波長によりガラスの屈折は異なり、すべての色を一点で合焦させることは難しい。非球面レンズなどの技術が開発されている理由だが、この合焦させたときの性能でレンズを自由に設計することは、科学的にほぼ可能だ。
それにもかかわらず、カールツアイスも含めた日本のレンズメーカーの商品は合焦時の性能は最高であると同時に各社差別化され、個性豊かなレンズが販売されている。
焦点がぴったり合っていると思わせるカリカリの写りのためプロの報道カメラマンに好まれるニコン(注)が必ずしも科学的に正解のレンズを販売しているのではなく、ましてや世界最高のレンズと枕詞がつけられたりするカールツアイスレンズが価格通りの性能のレンズではないのだ。
カールツアイスレンズが高いのはあの値段でも購入する人がいるからだ。ペンタックスは昔からそのレンズ性能に特徴があり、ポートレートを撮影すると独特の写真が撮れる。気に入ればカールツアイスレンズなどばかばかしくて買えない。レンズは科学だけで正解を導き出せない世界の一例である。
(注)最近ニコンは独自コンセプトの技術でボケ味をふわふわトロトロで何とも言えない味わいのレンズを2本出してきた。その写りは、雑誌で作例を比較してもわかる個性である。ただしカールツアイス並みの値段でうんざりしている。
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