組紐実験で天井に放り投げ、出来るだけばらばらになるように床に落としてみると、高分子の自由体積ばかりで構成された状態を創り出すことが出来る。すなわちこれは全くガラス相の存在しない非晶状態である。
実は高分子にガラス転移点がいつも存在する、というのは間違っている可能性がある。ガラス転移点が存在しない高分子材料ができる場合も希にあるのだ。
DSCで高分子材料の測定を行うと、希にTg(ガラス転移点)が現れないことがある。すなわちTc(結晶化温度)とTm(融点)だけのチャート、あるいはTmだけのチャートが得られる場合がある。
Tcが現れない場合は、新たにサンプルを取り替えて測定しても現れないので繰り返し再現性があり、気持ち悪くないが、Tgが現れない場合に、試料を交換して測定し直すとTgが現れ納得する。
このようにTgが現れない現象は再現性が乏しい。ゆえに何らかの測定のミスで科学的な事実ではないと解釈されているようで、高分子にTgが現れる、ということは当然の現象のように教科書には書かれている。
一度樹脂のペレットの一粒一粒の密度を測定し、密度の最も低いペレットについて、ニッパーで粉砕し、得られた試料でDSCを測定したところ再現良くTgの現れないチャートが得られた。
この試料でDSCを測定しているときにTgが現れるであろう手前の温度で昇温を10分ほどホールドし、測定を再開したところきれいなTgの変曲点が観察された。
これらの実験結果は、固体状態で、ある程度高分子鎖が動くことが可能な自由体積部分の存在を示しており、Tgより低い温度でもぴこぴこと動いている間に、少し動きにくい部分が近寄ってきて運動性が凍結されガラス状態へ変化していくように思いたくなる現象だ。
このストーリーは心眼で見た勝手な妄想だるが、間違いないだろうと思う。妄想癖は忌み嫌われたりするが、高分子については妄想が新たなアイデアを生み出したり、科学的に未解明な現象で引き起こされる品質問題の解決を容易にする。
また、高分子物理がまだ発展段階なので技術者はこのような妄想をできるようにしなければ目の前の品質問題を解決できる新しいアイデアを生み出すことができない。頭の中をいつでも思春期のように若々しくする努力が高分子の問題解決に有効である。形式知だけで高分子を眺めていても新たな技術は生まれない。
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以前この欄で高分子を大量の組紐に例え説明したことがある。すなわち、組紐をぐちゃぐちゃにして床に落としてみるとその時3つの構造が観察される、と説明した話だ。
紐が規則正しく並んでいる部分(結晶)とそうでない部分(非晶)がおおざっぱにできる。さらに非晶部分をよく見ると密な部分と疎な部分が存在する。
ここで非晶部分の密度が疎な部分は、高分子材料が固体状態であっても分子運動しているところで高分子の自由体積あるいは部分自由体積と教科書に書かれている状態である。そして非晶部分で密な部分は分子運動性を失ったガラス状態である。
この組紐の束を眺めているといろいろなことが思い浮かぶ。まず、まったく結晶化しない非晶性高分子を合成する、というのは大変なことだろうということだ。逆に結晶化する結晶性高分子は容易に合成が可能と思えてくる。
すなわち、全く結晶化しない高分子にするためには、立体的に完全で無秩序な構造の高分子を合成しなければいけない、というイメージが頭に描かれる。逆に、ある一部分が立体的に秩序正しく、化学構造も同一な場合には結晶化しやすい高分子になると想像できる。
この組紐実験でイメージされる高分子結晶と実際の高分子結晶の違いは、組紐実験では球晶が得られない点である。これは勝手な妄想だが、組紐に磁石のような凝集力を持たせたら球晶が得られるかもしれない、と思っている。
これはなぜ高分子が球晶を作るのかという概略の答えのイメージを提供してくれる。原子のオーダーではかなりの力の場ができているので凝集力がはたらき、それが規則正しければ結晶となり不規則ならばガラスとなると考えても間違いではないし、このような整理は目の前の現象を眺めるときに便利である。
余談だが、χが大きいPPSと6ナイロンを相溶させるプロセスを考案できたのは、このような整理が頭の中でされており、それを確認する実験すなわち特殊なポリオレフィンとポリスチレンを相溶化させる実験を事前におこなっていたからである。
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45万部を突破したと聞いたので石原慎太郎の「天才」を読んでみた。内容は石原慎太郎が田中角栄に成り代わって書いたモノローグであり、2月頃書店で一度手にしたときに決算が迫っている多忙を理由で購入を取りやめた本である。
2ケ月ほど前に立ち読みしたときには、それほど面白い本とは思わなかった。内容の大半はかつての「私の履歴書」や「ロッキード裁判とその時代」、さらには週刊誌や東スポなどで仕入れた情報の焼き直しに思える本だった。
書店で立ち読みすれば30分で読み終えるような内容とタカをくくっていたが、さすが石原慎太郎である。確かにその本に書かれた情報に新しいコトは無かったが、その長い後書きを除けば、立派な小説(失礼!)であり、単なる情報の焼き直しではなかった。
20分ほど立ち読みしていたが、結局半分以上読んだその本を昨日購入してしまった。涙をこらえきれなくなったからだ。久しぶりに泣けた本である。あえてどこがどうだ、と言うことは読んでいない人のために書かないが、情報化時代の今日において、文章などの表現の持つ力の大きさを感じたおもしろい本だ。
モノローグとして書いているところにすべての仕掛けがあるが、日本人は誰もが一度この本を読む必要があるのではないか。特にバブルを享受した団塊の世代である先輩諸氏には読んでいただきたい。また若い人には日本に田中角栄のような「日本という故郷のために」多大な貢献をした政治家がいた、ということを知っていただくために読むべき、と伝えたい。
田中角栄は金権主義の権化かもしれないが、一方で戦後の高度な繁栄をプロデュ-スした重要人物であり、その業績は業績として正しく評価されなければいけない。今の時代は、まず法的遵守が重要視され、これは正しいことだが、その結果そこからはずれた事柄をすべて排除する風潮がある。しかし恩人にも値するような業績をあげた人物については、その功績に報いる姿勢が必要ではないか。
物事には裏表があり、善悪も視点により変わる。田中角栄は確かに法を犯した。しかし、その罪とは無関係にアメリカ人をして「JAPAN as No.1」と言わしめた日本の高度成長の立役者でもある。恐らく著者はその功に報いる意味で本書を出版したに違いない。罪は、確かに罰せられるべきである。しかしその償いが済んだ人物について、いつまでも罪人扱いする社会はどうかと思う。貢献を正しく評価できる社会こそ健全な社会である。
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高分子のガラス転移点について、高分子が紐状であることと結びつけて頭にイメージする作業は高分子材料の熱的変化を考えるときに重要である。ここからは、実践知も混ぜて述べるので、やや科学的ではない表現も出てくる。
科学的ではないが高分子材料を活用する時に考えを整理しやすいという理由で、かなり偏見に満ちた内容も書く。心配な方は教科書を片手に読んでいただきたい。
まず、高分子材料の熱的変化を調べるときにDSCという分析装置がよく使われる。会社によっては、熱的変化を分析する装置としてDSCしか持っていない、というところもあるようだが、これは危険である。
大学の先生に相談するとDSCがまずあれば大丈夫だ、とおっしゃる先生もおられるが当方はTMAや温度分散の測定できる粘弾性装置も揃えておくべきと思っている。また化学変化の簡便なモニターのできるTGAも欲しい。
高分子は有機物である、ということを忘れてはいけない。融点が300℃前後の高分子の熱的変化を測定していて、酸化や熱分解の心配をしないのは片手落ちの仕事の進め方である。酸化を防ぐために窒素雰囲気で測定する、という人もいるかもしれない。
しかし、熱分解や熱による揮発は雰囲気を変えても発生する可能性がある。ゆえに実務で高分子材料を扱う場合には、DSC以外にTGAも揃えておくこと。できればTMAか粘弾性装置も高分子材料の熱的変化をモニターするために欲しい。今これらの装置も安くなってきた。
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この3年間、弊社が中国で活動してきました成果を踏まえ、5月までに3件ほど混練技術に関する講演会を開催致します。いずれも異なるセミナー会社で開催されますが、申し込みは弊社で行いますのでご案内をさせていただきます。
お申し込みは、弊社インフォメーションルームへお問い合わせください。詳細のご案内を電子メールにてさせていただきます。
1.混練技術のトラブル対策に関する講演会
(1)日時 4月21日 10時30分-16時まで
(2)場所:高砂ビル 2F CMC+AndTech FORUM セミナールーム【東京・千代田区】
(3)参加費:27,000円
(4)http://ec.techzone.jp/products/detail.php?product_id=4152
2.混練の経験知を伝承する講演会
(1)日時 5月19日 10時30分-16時まで
(2)場所:江東区産業会館 第1会議室
(3)参加費:49,980円(税込)
(4)https://www.rdsc.co.jp/seminar/160522
3.シランカップリング剤に関する講演会
*日時等弊社へお問い合わせください。
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そもそもガラスの定義は、非晶質でガラス転移点を持つ物質、と無機の教科書には書かれているが、高分子の教科書でこの定義に触れていない場合がある。高分子ならばガラス転移点を持つ、ということが常識化しているためだろうか。
この常識が、そもそもなぜ高分子はガラス転移点を持たなければならないか、とか無機ガラスは高分子ではないだろうか、という疑問を埋没させてしまう。
1970年代末に無機高分子研究会が高分子学会に設立されたが、この無機高分子研究会の設立は10年遅すぎたと思っている。1960年代に無機ガラスの研究がかなり進み、ガラス工学という分野が生まれていたからである。
無機高分子研究会の設立が遅れた原因とこのガラス転移点の理解は無関係ではなく、高分子研究者のガラス状態に対する当時の理解が遅れていたため、と思っている。だから当時ガラスの定義をご存じない高分子の研究者が堂々と授業をできた。いまならば大問題である。
ちなみにガラス転移点を持たない無機物質をどのように物理的に加工してもその物質をガラス化することはできない。そもそも、金属のガラスが誕生したのは20世紀末なのだ。ガラス転移点を持たない無機物質をガラス化することは大変なことだったのである。
ところで1970年前後登場したアモルファス金属はアモルファスであり、ガラスではない。高分子が容易にガラスになることができたのは、やはりその一次構造が長い紐状だったからで、高分子がガラス転移点をもつ、ということを正しく理解することは高分子研究者にとって基本の「キ」であり、技術者には心眼の視点を正しくするために重要な作業である。
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野球に続いてバドミントンでも賭博問題が起き、選手が処分された。先日の選手の会見を聞いていてもかわいそうに思う。ギャンブルは楽しいからだ。
当方も学生時代パチンコに賭麻雀というギャンブルづけになったことがある。地下鉄を降りて大学まで向かう道に、4件のパチンコ屋と無数の雀荘があった。友人の下宿も含めると雀荘の数は不明である。
不謹慎であるが大学の構内も雀荘になった。さすがにこれはエスカレートしたところで学長名で禁止令が出された。学内で行うときに当方は必ず毛布を敷いていたが、消音もせずに大胆にじゃらじゃらと音を立ててやる輩もいたので、これはまずいと思い、禁止令がでる前に大学構内の麻雀を自主的に辞めた。
人間とは不思議なものでギャンブルにはまる前には善悪の判断が出来るが、はまってしまうと麻痺をする。しかし、心の隅に悪いことをしているという負い目がある時に気づけば自分の意思で辞めることができる。しかし、それにはものすごい勇気がいる。
仲間の存在も大きい。パチンコは一人だが麻雀は4人で行うギャンブルである。パチンコを辞める決心をしてまじめに大学に向かっても、通学路にある雀荘から友人が手を振る。もうだめだ。
麻薬にしてもギャンブルにしてもなぜか他人に迷惑をかけていない、というロジックで自分に甘くなり、その行為を正当化してしまう罠がある。公営のギャンブルならば貢献になるのだろうけれど、それが私営の場合にお金がどのように使われるのか不明で、結局他人に迷惑をかけることになる。
パチンコも麻雀も一切やらなくなったきっかけは、4年生になった時である。通学途中のパチンコと麻雀が原因でドイツ語の単位を取得できず、英語だけで語学の単位を揃えていた。講座の教授から大学院進学を勧められ、ドイツ語の単位を取ってこなかった話をしたら、毎朝マンツーマンで指導するから、と言われた。
毎朝の指導でパチンコと麻雀の日々は、健全な学生生活になった。麻薬やギャンブルは習慣である。悪い習慣を身につけるとなかなかそれから抜け出せない。悪い習慣に変わる良い習慣をつけることが最良の策であるが、何らかのきっかけか第三者のサポートが必要である。
スポーツ界における賭博問題の根本原因は、指導陣の甘さにあると思っている。本当に選手が大切ならば、選手に良い習慣をつけさせる努力をすべきだが、それには大変な労力が必要になり、関係者にも厳しさが求められる。
選手の自主性に任せる放任主義は、無責任だと思う。一流選手として悪い習慣を断ち良い習慣を身につけられるようにするには、選手の周囲の関係者にも努力する厳しさが要求される。4年に進級する前に配属講座を決めるとき、当方が配属された講座は厳しい講座と評判だったので不人気だった。
しかし、講座の雰囲気は未熟な研究者を生みださないように教授が先頭に立って当たり前の厳しい指導をしてくれる親切で優しい講座だった。おかげで大学院では授業料免除と奨学金付きで優雅に勉強することが出来た。但し研究者として良い習慣が身につくよう厳しい毎日が一年続いた。そして麻雀もパチンコも忘れた。
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北島康介選手が金曜日引退表明した。100m決勝は大変残念だったので200m決勝ではドラマが起きるのでは、と期待してみていた。前半100mは盛り上がったが、残念ながら5位で終わった。
残念な結果だったので、特にこの欄で取り上げるつもりは無かったが、NHK「深読み」で人工知能について取り上げていたので、残念な気持ちを書き残したいという気になった。
昨日残念な感動のためブログで書こうという気になれなかったが、今日突然書いてみようというちゃらんぽらんな行動はAIにはとれないだろう。また、33歳になっても肉体の限界を顧みずチャレンジする、という行動にAIならば感動しないだろう。しかし、当方は人間で大いに感動した。
彼はインタビューでオリンピックが特別な舞台であり、苦しい練習をしてでもそこにチャレンジしたくなる夢舞台だと言っていた。金曜日にそれは夢で終わったが、視聴者は、たとえ夢が実現しなくても、あるいは失敗のリスクが高い目標でも、チャンスがある限り精いっぱいの努力をする大切さを学んだのではないか。
火事場のバカ力もそうだが、人間の能力は環境で大きく変わる。ゴールに向かって真摯に努力をした結果、仮にゴール未達になったとしても努力しただけの能力向上があることを32年の技術者生活で学んだ。
高いゴールを設定しそれを達成するために努力することは大切である。そのゴール実現が難しい、と悟ると適当にお茶を濁してゴールを目指すのをやめてしまう、あるいはゴールのレベルをさげてしまう優等生をたくさん見てきた。サラリーマンという職業では、組織力という隠れ蓑でそれが許される環境である。
しかし、失敗するリスクが高いとしても成功する可能性が少しでもあるならば、チャレンジする勇気を絞り出す人生が大切(注)だと思う。北島選手の200m決勝は、残念な結果ではあったがチャンスがある限りチャレンジし続ける重要性を改めて確認できたレースだった。
(注)2005年に中間転写ベルト開発のため豊川へ単身赴任した。樹脂の混練や押出成形などはド素人だったので赴任前猛勉強した。大学受験以来の、あるいは学位試験以来の集中度で勉強した結果、科学的に考察すると半年後に必ず失敗するテーマだと理解できた。しかし、赴任前現場で真剣に開発に取り組んでいるメンバーを見て、技術で成功させる道を探す気持ちになった。そしてその道を見つけることができた。なんでも科学で解決しようと考えているとAIに勝つことはできないが、仮にAIがどれだけ進歩したとしても情緒や感情、ヤマ勘、ド勘を発揮できる人間には勝てないだろう。弊社の販売しています研究開発必勝法には従来のロジカルシンキングの手法以外にAIが到達できないヒューマンプロセスも取り入れております。AIの進歩におびえるよりもAIにできない道を弊社は探索しています。
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物質の熱的変化については、材料を実用化する上で重要な情報なので古くから研究されてきた。今でも研究テーマとして存在し、アカデミアで研究される永遠のテーマのように思われる。
金属材料についてはほとんど解明されているが、高分子についてはまだ科学的に解明されていない部分が存在し、高分子学会の年会でも必ずこのテーマの発表がある。
ところが、高分子の熱的変化を考えるときに、まずその状態変化を正しく認識することが必要だが、科学的に解明されていない部分も存在するので大学の先生に説明を伺うと歯切れの悪い答えが返ってくる。
学生時代にびっくりしたのは、ガラス転移点(Tg)の説明を授業で聞いたときに、高分子だけではなく物質すべてに存在する、と教えられた。この先生はおそらくガラスの定義をご存じなかったのだろう。
物質の固体状態には、結晶と非晶の二つの状態が存在し、非晶状態にガラス状態とそうでない状態が存在する。ガラス状態で観察されるのがガラス転移点であり、ガラス状態ではない非晶状態では、ガラス転移点が存在しない。
だから、無機物質でガラス状態をとらない、あるいはとることが出来ない材料(注)にはガラス転移点が観察されない。高分子の先生だから無機材料のことをご存じなくても良い、という話にはならないだろう。
技術者なら知らなくてもアイデアが出にくくなる程度で済まされるが、高分子科学の研究者ならば、なぜ高分子にはすべてガラス転移点が存在するのか、という疑問を持つ必要がある。
(注)例えば非晶質酸化第二スズにはTgが存在しない。ちなみに高純度二酸化スズ単結晶は絶縁体であるが非晶質酸化第二スズは半導体から導体までの様々な電気特性を有する。また、ATOやITOと異なる導電準位も見出された。DSCとTGA、ガスクロによる解析から微量の水分が効いている。またインピーダンスや活性化エネルギーの考察から、電子とプロトンの両者がキャリアであることも実験で見出したが、データの信頼性に問題があったので発表していない。非晶質の研究は難しい。しかし、帯電防止剤として実用化している。ロバストを確保できれば科学で信頼性が乏しくても実用化できるのである。科学と技術の相違点である。
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高分子材料の物理的挙動については、大まかに昔ながらのレオロジーで解釈でき、バネとダッシュポットのモデルによる理解は便利である。岡小天著「レオロジー入門」や村上謙吉著「レオロジー基礎論」は材料技術者にとって今でも役立つ、と思っている。
クリープや一部の現象について注意する必要があるが、昔のバネとダッシュポットのモデルによる理解が無駄だとは思わない。実践知としてその適用の仕方を身につけておけば、現場で材料の問題を解決するときに直感で対策しやすい場面もある。
今高分子材料の力学物性について分子一本から積み上げて、どのような高次構造が作られ物性が発現しているのか研究が行われている。高分子シミュレーター「OCTA」はその思想を目指したソフトウェアーだ。まだ実験例は少ないが、引張試験で得られるSS曲線をシミュレーションすることが可能で、その時の分子挙動も動画として得られる。
おそらく将来「OCTA」で材料設計できる時代が来るかもしれないが、現在はまだ試行錯誤の状態である。試行錯誤の状態ではあるが、この「OCTA」の重要な点は、時として暗黙知を刺激するところである。モヤのかかったような高分子のレオロジー挙動について「OCTA」がヒントを与えてくれる点に高分子技術者は注目すべきだろう。
高分子材料のプロセシングにおいて困るのは可視化が難しいところである。かつて射出成形の金型の一部を可視化した設備や二軸混練機の一部を可視化した設備を見たが、残念なのはいつもその設備で可視化された現象が起きている、という保証が無いところである。
しかし、コンピューターでは自由に高分子融体の画像を書くことが出来る。時として役立たない漫画となる場合もあるが、プロセシングでトラブルが起きアイデアが何も無いときにはヒントになるので「OCTA」はそれなりに役立つソフトウェアーである。
学生時代に「シシカバブ」という構造を見せられたときに、おもわずその構造の名前の由来を授業中に質問したが、先生はご存じなかった。ラテン語を調べても出ていなかったが、これが料理の名前とわかってずっこけた。テストのためには丸暗記で記憶しそれで済ませることが出来るが、もう少しポリマーに関係したわかりやすい名前をつけておいて欲しかった。
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