ゴム会社のものすごく偉い部長の話は誇張ではなかった。最初の指導社員がその偉い部長のような仕事の指示をされる人だった。しかし偉い部長の話と異なっていたのは、親切に指導をしてくださった点である。そして測定値のばらつきに対しては理解があり、多少計算値とずれていても許していただけた。
その優しい指導社員から、偉い部長の話を伺ったところ、ここでは書きにくいもっとすごい話がいくつか飛び出しびっくりした。すごい話を少しだけ書けば、実験もやらず商品を完成させたという。そして市場で何も問題が起きなかった、と言うのだから、うそのようなものすごい話である。
おそらくこの話には尾ひれがついた誇張された話なのだろうけれど、この話の中に出てきた、仮説だけで商品を作り上げた作業を捏造とは呼ばないが、仮説で考えられた機能が実際に市場で問題なく動作したそうなので、市場で仮説検証の実験をやっている状態だったのだろう。
しかし市場に出すまでの社内の品質規程をどのように通過したのか、大きな疑問が出てくる。今話題になっている東洋ゴムの免震装置では、その物性データが捏造されて合格品として世の中に出たために大騒ぎだ。ものすごく偉い部長の場合には、商品を出すまでのどこかの課程でデータの捏造があったはずだ。
STAP細胞では図の切り貼りが捏造とされたが、もしSTAP細胞が実証されていたならば、評価はどのようになったのだろう。当方はそれでもデータ改ざんで捏造のたぐいに見なされたと思う。科学では真理を追究することが使命なので、その姿勢に清廉潔白さが求められている。
性善説どころではないのである。科学者には、研究姿勢に清廉潔白が求められており、その道から外れる行為を「してはいけない」のである。科学者はその生活も厳しく律し、真理の道をまっしぐらに進むことが要求されているのである。
科学者が目指すべき目標は真理であるが、技術者は新しい機能を発明し、市場に価値を提供することである。ところが、科学者が真理では無く、お金や名誉を目指すようになってきたのが昨今の風潮であり、STAP細胞の研究者の実験ノートにはちゃっかりとその目標が落書きされていた。彼女は技術者を目指せば成功したかもしれない。
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STAP細胞の騒動では、学術誌への投稿論文だけでなく学位論文の捏造も問題になった。捏造だけでなく、コピペも指摘され、研究者の資質も問題にされた。学位論文の不正は、日本で博士課程が生まれたときからあったそうなので、新しい事件ではないだろう。当方も某国立大学でその審査のひどさを実体験した。
学位論文は、研究者の能力試験のような側面があり、学術論文とは少し性格が異なる。また、偏差値の高い大学の学位論文でもひどいものがあるので、これは一定の水準を維持しようと努めている学術誌とは別物だろう。
博士の肩書きを名刺につけながら、学位論文のタイトルを尋ねると答えられない人もいるくらいなので、ご自分の学位論文を他人に見せられないような博士もいるかもしれない。STAP細胞の騒動では、学位論文の主査を務めた教授が雲隠れした噂まで出たのだから、捏造以前の問題も学位論文には存在する。
中部大学のように、入り口から出口まで徹底して厳しく学位審査を運営している大学がどれだけあるのか知らないが、厳しい審査のプロセスと荘厳な授与式で授与された学位論文は誇りさえ感じている。入試の不正は社会問題になり罰せられる例もあったりするが、早稲田大学の学位審査では大学が罰せられた話を未だに聞かない。
科学界の論文は難解で大衆には無関係、と思われていたが、STAP細胞の騒動では、コピペやつぎはぎなど誰でもわかるいい加減さが露見し、科学に携わらない人まで第一線の科学者の論文がどのようなものであるか誤解するに至った。
性善説に基づいて、云々といういいわけがなされていたが、本来仮説設定して行う実験そのもに、怪しい側面があることに科学者は気がついているのだろうか。技術では繰り返し再現性あるいはロバストの高さという厳しい関門がある。
その昔、ゴム会社で、世界的な賞を受賞しカミソリのように頭が切れるものすごく偉い部長がいた、という噂を聞いた。その人はレオロジーの理論屋で、仕事では実験内容とその結果の整理の仕方まで指示してきたという。そしてグラフの点を見て、理論から外れていると、理論通りの位置のデータが得られるまで何度も実験をやらされた、という。
ゴム物性にはばらつきがあるから多少はずれてもかまわない、などと言うと、いいわけを言うなとしかられたそうである。たまたま学会の懇親会でお顔を拝見したが、もう優しいお顔の老人になられていた。
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メーカーの技術者ならば常識かもしれないが、事務系の仕事を担当されている方には聞き慣れない言葉かもしれない。これは日本生まれのアメリカ育ち、そしてアメリカから輸入された開発手法で1990年代に日本で普及した、田口玄一先生の考案された開発手法である。
この手法では、開発しようとしているシステムの基本機能の選択が難しい。基本機能の選択を失敗すると1ケ月近く行った実験が全部だめになる。だから田口先生は基本機能の研究をよく行え、と言われ、基本機能の選択は技術者の責任とまでおっしゃっていた。
日本で普及が始まった頃、田口先生のご講演を写真会社でいち早く拝聴させていただいた。その講演会場で、ご講演終了後の質問時間に、某自動車会社の技術者が田口先生に質問をした。
質問内容は、タグチメソッドを使って最適化したけれど、確認実験でうまく再現しなかった、という内容だった。そのしたり顔の技術者の質問に対して、田口先生は一言、「それは君が選んだ基本機能が間違っている」と答えられ、それ以上議論が進まなかった。
すごい先生だ、とびっくりした。その後そのすごい先生から直接3年間ご指導いただいたが、親切な先生だった。講演会場の出来事のような一方的な物言いではなく、実際に電卓をたたきながら、桁数の丸め方がどうの、など細かいところまで見てくださった。
おもしろいのは3年間のご指導で、基本機能について特に注意を受けることが無かった。また、通常L18が使われるが、L8やL9を使用してコンサルティングに臨んでも、それを題材にご指導くださったことだ。怖い頑固な先生という噂を聞いていたが、当方には優しい先生だった。
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古館氏がキャスターを務める番組で最後の挨拶をした元官僚古賀氏の言動が、ちょっとした騒動になっている。詳細はインターネットで配信されているニュースを見ていただきたいが、その後のご本人の「自分にはメリットの無い発言であり」と語られた言葉から、意図的かつ計画的に番組内で発言されたことがわかる。
この古賀氏の言動には賛否両論があると思われるが、日本が改めて素晴らしく自由な国家であることを理解できた事件である。古賀氏の発言内容に対して、官邸から圧力があった、というのは事実だろうと思われるし、その圧力に放送関係者がどのように対応したのかまでも公衆に暴露された。ここで古賀氏までも黙ってしまっていたなら、言論の自由とは何かという問題になる。
ところで、古賀氏がNHKで活動していたならこの行動は問題かもしれないが、これは民放での出来事である。これで古館氏も共感して番組を下されていたならば、もっと事件は面白く展開し、古館氏の「株」も上がったのかもしれない。しかし、所詮古館氏は古賀氏と異なる芸能界で飯を食べている人で、威勢のいいことを言っていても、そろばんをはじいて長いものに巻かれる立場である。古館氏の人柄についても古賀氏は暴露してしまった。そして番組を壊してしまった。
古賀氏が将来の日本の展望をどのように考え、今回の行動をとられたのか知らないが、もしこれが単にその時の感情に基づく行動だったなら大人げないし、国民は今回の出来事を無視してもよいかもしれない。しかし、もし古賀氏が将来の日本のビジョンを描いており、そのうえで現政権批判を行っていたならば、国民は注目すべきである。
現在の政治は、バブル崩壊後の20年間の停滞から再浮上するきっかけを作りつつあり、アベノミクスとして歓迎されている。しかしその一方で株価含めた経済の動きは、バブル期を彷彿とさせるものがある。人間とは愚かなもので調子に乗ると同じ過ちを繰り返す動物である。しかし、言論の自由が保障された国では、その過ちを繰り返さないように警告を発してくれる人が現れる。
古賀氏は官僚時代に日本のシナリオ作成に携わった経験のある人であり、今回の言動が信念に基づくものであれば、その後の行動は注目するに値する。ニュースを読む限り、古賀氏の今回の言動に対する評価は難しい。今後の彼の行動で今回の騒動について正しい評価がなされるものと思われる。
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大塚家具の内紛劇は、娘の久美子社長が61%の議決権を獲得して終わった。父である勝久氏は、今後も筆頭株主として娘と戦う姿勢を示している。新聞には企業価値の毀損を指摘する意見が書かれていた。この内紛劇は、どちらが勝っても未来が見えてこない争いでもある。
このような場合には、どちらかが潔く身を引くべきであろう。いつまでも争う姿を株主だけでなく、お客も見たくないはずである。面白がって見ているのは、大塚家具と無関係で距離を置いている人たちだけだ。
とりあえず今回は父親はあっさり身を引き、父親側についた幹部社員も退職したほうが良い。企業風土に関わらず、企業内で何か争いが起きた時にどちらか身を引かなければ、しこりが残るだけである。ゆえにサラリーマンという職業は易しいようで難しい。
企業内で争いなど無い方が良いに決まっているが、イノベーションが市場で起きているときには必ず企業内で意見の対立が起きるはずだ。このとき生じる対立をどのように納めて方針をうまく一つにまとめてゆくのかも社長に求められる能力の一つである。この観点で大塚家具の場合、大きな問題を世間に曝した。
全く異なる考え方の議論をうまくやり、結論を導き出す方法は、難しい。特に経営では正解が見えないことのほうが多い。大塚家具の場合でも従来のやり方がダメと言うところから議論がスタートしているだけである。新聞に書かれた久美子社長の方針が正しいのか当方にはわからない。
名古屋のひゃっとり家具はいつの間にか無くなっていた。大塚家具の問題が起きなければ気がつかなかった。今回の騒動は、大きなイノベーションが起きた後の市場で生き残った企業の経営の難しさを示している。
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WINDOWS8を使用していて急に応答が遅くなった。バックグラウンドでRAIDの再構築を始めたためだ。10年ほど前からシステムディスクとデータディスクの両方をミラーリングで使用している。SSDも考えたが、スピードよりも安定性を選んだ。そのおかげで昨年末PCが破損した時には、データを失わずに済んだ。
ハードディスクの寿命は3年程度と言われている。しかし耐久寿命と言うのはばらつくものだ。ましてや自作マシンの場合、冷却システムを工夫してもうまく作動しているかどうかは不明である。実際に温度測定をしてみたら、ハードディスク用冷却ファンをつけていても40℃近くまで温度が上がる。プログラムを作っているときなどコンパイルの繰り返しを行うのでハードディスクはかなりの温度が上がる。
MS-DOSの時代はオンメモリーでコンパイルできたが、Windowsになってから中間コードまでハードディスク上におくのでハードディスクのアクセスは、作業中ひっきりなしだ。当然少しでもディスクにダメージを受けるとマシンの安定性が悪くなる。しかしミラーリングでシステムが組まれている場合には、完全にどちらかのハードディスクが壊れるまで安定だった。
ただしWindows7では、ミラーリングの片側がダウンするまでOSから何もシグナルが出なかった。しかし、Windows8では、どちらかのハードディスクに異常が起きるとメッセージが出る。ただメッセージが出ても対応の仕方が不明なので、意味が無い。そして、そのまま使っていたら、突然遅くなった。
グラフィックユーザーインターフェースは、何もなければ分かりやすいが、異常が起きた時にはマニュアルとの格闘になる。オンラインヘルプを読む作業は年寄りには苦痛な作業だ。これがMS-DOSであれば、破損したところの修復がマニュアルで可能だった。昔はハードディスクが高価だったのでRAIDなど贅沢なシステムを組めなかったので、ディスクイメージをCD-ROMに焼き付け、すぐに修復できる体制にしていた。
昨年末から今年にかけて、社長室だけ新しい事務所に引っ越した。その時、昔のCD-ROMを整理していたら、大半を読むことができ無くなっていたので、びっくりした。MS-DOS時代に焼いたCD-ROMは全滅だった。RAIDでは、自動でバックアップを取ってくれているので、システムのバックアップを作成する必要は無いが、時折マシンが遅くなるのには閉口する。Windows7よりも頻繁におきる。ワープロ程度では問題にならないがハードディスクのアクセスが必要なコンパイル作業では影響が大きい。
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3ケ月前に、40年近く使用してきたFMステレオチューナーが、突然壊れた。土曜日の夕方、ラジオマンジャックを聞いていた時、音が突然聞こえなくなったのだ。古いチューナーなので寿命かと思い、買い替えることにした。しかし、今オーディオコンポ用のFMチューナーが電気店に無い。インターネットを調べたらY社から販売されていることが分かったが、秋葉原あたりに行かなければ買えないようだ。
さらに古いチューナーを修理して使うオーディオマニアが増えているとの情報がインターネットにあった。オークションを覗いてみると10年から20年前に販売されたチューナーに混じって40年近く前のチューナーも出品されていて高値がついている。
面白い時代である。しかし、10年以上前のチューナーに1万円以上出す気になれないので、安価なチューナーをオークションで落札しようと試みた。ところがこれが甘かった。当方が入札するチューナーすべてが1万円以上に値があがる。自動入札で10000円を入れていてもなかなか落札できない。
とうとう3ケ月すぎた。当方の壊れたチューナーでもオークションで売れるかもしれない、と思って捨てずに保管していたが、女房から今日は電気製品を廃棄できる日だから捨てるように急かされた。若い時にアルバイト代を貯めて買った、当時最高級のシンセサイザーチューナーで思い出の品でもあった。最後に電源を入れた時のLEDの変化でも見ようとコンセントにプラグをさしてみたところ、チューニングをしているサインが現れた。
もしかして、と思い、アンプとつないでみたら音が出たので驚いた。修理もしていないのに直ってしまったのだ。恐らくマイコンが搭載されているので、それが暴走していただけなのかもしれない。デジタル機器の場合に稀にあるそうだ。
すなわちデジタル機器では回路の制御をワンチップマイコンが受け持っている。何かの調子でこれが暴走すると機器が壊れたような症状になる。リセットスイッチがついておればそれを押せばよいが、通常ついていない。FMチューナーにもリセットスイッチなどついていなかった。しかしコンセントからプラグを抜き、3ケ月も放置していたので、自然にリセットされた可能性がある。
40年近く安定に動作していた機器が突然不安定になる。常識的には寿命と考える。アナログ機器では寿命かもしれないが、デジタル機器ではマイコンの暴走と言う症状もある、ということを教えてくれたROTELの社長に感謝している。
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射出成型技術を科学的に解明し、どのようなコンパウンドでも高品質の成形体が得られるようにする技術の確立が難しいのは、PETを射出成型してみると理解できる。PETの射出成型は困難である、と教科書には書かれている。さらに、PETは、射出成型が不可能なのでフィルムやブロー成形用の樹脂として発展した、と表現している論文もある。
但し、PETの射出成型が不可能という結論は間違っている。生産性を無視し金型温度を徐冷しながら行えば、表面性の良い成形体が得られる。但し弾性率の低いPEのような成形体であり、用途を探すのは難しい。PCやABS、PSのような成形体をPETで得るためには、射出成型技術だけの改良では問題解決できず、どうしてもコンパウンドを改質しなければならない。
PETが登場した時に射出成型技術についても研究され、PET樹脂の変性も研究されたが良好な射出成形体が得られなかったので、PETの射出成型は不可能と言う研究者まで現れるに至った。こうしたPETの技術開発の背景とポリマーアロイの技術の進歩や二軸混練機の革新、そしてPETボトルのリサイクルニーズを見て、イノベーションの好機ととらえPETの射出成型に取り組んでみた。
取り組んで一か月でPET100%の技術に見切りをつけ、ポリマーアロイの可能性を追求し、UL94-V0以上の高い難燃性を得るならばPC/ABSと同様のアプローチが、UL94ーV2レベルならばPET80wt%程度で実現できると結論を出した。
二ケ月目で靱性がやや低いが、UL94-V2に通過できる射出成形体が得られ、三か月目に電子写真の内装材に実用化できる材料の目途が立った。強相関ソフトマテリアルというコンセプトとカオス混合、動的加硫の技術を用いて成功したのだが、イノベーションに成功してみて実行した当方も驚く結果だった。
PETの射出成型を可能にしたコンパウンドは、PCはじめ5種類のポリマーが添加された複雑な組成である。また、このようなポリマーアロイなので、カオス混合を行わなければ、良好な表面性が得られる成形体を製造可能なコンパウンドにならない。この事例にみられるように、射出成型技術に与えるコンパウンドプロセスの影響は少なからずあり、高分子の種類により大きく現れることもあるので、コンパウンド技術を無視して射出成型技術の開発だけを目標に研究を進めるのはかなりの困難を伴う。
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射出成型技術を研究されている大学の先生と議論した時の話。この先生に研究のゴールを尋ねたら、どのようなコンパウンドを用いても高品質の射出成形体を製造できる技術の確立と答えられた。当方は、先生の御研究は永遠に続きますね、とお答えした。
もしこれが企業の研究者の回答だったなら、笑ったかもしれない。しかし、もしこの先生のゴールが実現されたなら、それはものすごいイノベーションになるので、大学の研究者だからそのくらいの目標を持っていただいた方が良いと感動した。ところが、この先生の回答の内容は、企業の立場の研究者の答ならば、いつ実現できるのかわからないゴールという理由で評価が変わる。
射出成型とコンパウンドの関係については、不明点が多い。教科書に書かれている話にも疑わしいケースが存在する。それでも押出成形とコンパウンドの関係よりも易しい問題である。そもそも成形技術とコンパウンドとの関係を科学的に論じようとするならば、分子量はじめ多くのパラメーターを管理して製造したコンパウンドを用いなければならない。
また、実用化されているコンパウンドには、酸化防止剤はじめ多くの添加剤が添加されている。少量と言えども成形体の表面の品質に影響を与えている場合もある。さらに多くのコンパウンドはペレットの形で供給されるが、このペレット一粒ずつの組成や物性等がばらついている。そのばらつきが無視できない場合には、成形体の力学物物性に影響が出る。
このような事情から、コンパウンドと射出成型の関係を科学的研究で明らかにしようとするのは、大変なことなのだ。先生も大変なテーマを選ばれましたね、と申し上げたところ、大変だから面白い、と言われていた。
射出成型だけでなく、その他の成形技術において、コンパウンドの品質が、製造される成形体の品質を左右することはよく知られているが、そのプロセシングで起きている現象については未だブラックボックスの状態に近い。現在でも科学的研究には取り上げにくい分野である。
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日本の会社内の組織は、バブル以降簡素化された。しかし、大手企業では経営者層と管理者層、担当者層という3階層程度は残っている。ドラッカーが述べているように経営者層は、日々イノベーションの機会発見に努めなければいけないが、管理者層及び担当者層になると状況が異なってくる。
この階層において、時には、イノベーションも含め変化を見つけた時に何もしない、という決断が有効な時があるので難しい。例えば、ゴム会社では電池とメカトロニクス、ファインセラミックスを三本の柱として新規事業に力を入れる、という方針が出された数年後、社長が交代しタイヤ業界ダントツトップを目指す、という方針に変わった。
それでも一応新事業開拓を継続する方針も出されていたが、それまで新規事業を担当していた人たちは梯子を外されたようなものだった。まず電池事業が無くなり、メカトロニクスは電気粘性流体が残った。しかしこの事業もやがて無くなり、現在まで続いているのは高純度SiCの事業だけだ。ピュアベータという商品名で半導体冶工具の事業が展開されている。これは、旧住友金属工業小島荘一氏の情熱とご尽力もいただき、当方が転職後無事事業まで育った。
当方はJVが立ち上げた時に業務の妨害を受け、事業の将来を考え、ヘッドハンティングの会社から紹介された写真会社へ転職した。ヘッドハンティングの会社からは主にセラミックス関係の企業を紹介されたのがきっかけであったが、当方は、転職の条件としてゴム会社で担当していた業務と全く異なる企業の希望を出した。当方にとってはキャリアを全て捨てるのだから大変な提案だった。しかしゴム会社でも管理職昇進直前であり、写真会社でも管理職という役割だったので、専門を捨てても何とかなると判断した(注)。
ゴム会社でピュアベータの事業を立ち上げた時に当方は担当者だったが、この経験から担当者層で大きなイノベーションを起こそうとする時には、経営者層と管理職群のバックアップを充分に受けられる体制であるかどうかを見極めることが重要と考えている。経営者層のバックアップだけでは不十分である。
担当者の立場で直接経営者層から激励されるのはうれしいことだが、調子に乗ってしまうと周囲の反感を買う。当時を思い出し、サラリーマンとして未熟だったという反省をしているが、その時の若い年齢で勢いのある時には、なかなか現在の心境になれないのでは、と懸念している。
このような若い担当者を叱咤激励できる、誠実で真摯なマネージャークラスが必須である。時には周囲の盾になる必要から、専門能力は不要だが誠実さと真摯さはマネージャーに必須の要件である。イノベーションに躊躇しない経営者層に誠実で真摯な管理職層そしてイノベーションに果敢に挑戦する担当者層が揃った時にイノベーションは成功する確率が高くなる。
管理者層ならば経営者層のバックアップがあると鬼に金棒であるが、仮に無い場合でもイノベーションの機会を見出したならイノベーションを実行しなければならない。会社にとって充分な利益が見える状況になれば必ず経営者層のバックアップが得られるからである。管理者層でイノベーションの機会を見つけても経営のバックアップが得られないからと躊躇する人は、今の時代その職責を果たしているとは言えない。
ゴム会社で担当者の時に高純度SiCを企画して先行投資を受けた。しかし当時研究所では「駄馬の先走り」と陰口をたたかれていたことも記憶している。そしてイノベーションの機会があっても、何もしないという選択が重要と言っていた人もいた。その人は管理職まで昇進し最後まで勤め上げ退職されたので、サラリーマンとして一応の成功者である。
ゴム会社は、管理職に厳しい会社であるが、イノベーションのチャンスを担当者レベルまで作ってくれるという、意欲のある人には働き甲斐のある優良会社である。退職まで勤め上げたかった会社を途中で転職した身からすれば何もしない選択をできた人を一瞬でも羨ましいと思ったこともあり、イノベーションを考える時にサラリーマン人生との兼ね合いで難しいところもあると思っている。しかし、何もしないよりは何かして失敗したほうが、今後の人生にプラスになる、とこれまでの経験から自信を持って言える。そして失敗を防ぐ方法も学ぶことになる。
(注)結局ゴム会社で身に着けた専門は、趣味で楽しむことになった。現在の弊社の事業が安定したら書きたい論文のテーマがある。だれも研究していないのが不思議なテーマである。
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