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2014.09/11 技術者の専門(1)

現在の教育システムで、技術者になるためにはメーカーに勤務する以外に道は無いように思われる。メーカーに勤務しなくても優れた技術者になった事例としてエジソンが有名だが、凡人には優れた指導者のいる可能性の高いメーカーに勤務することが必要となる。

 

不運なFD破壊事件のため、ゴム会社と写真会社の二社を経験することになったが、積極的に人材育成を行う企業とそうでない企業が存在することを知った。ゴム会社は人事部が中心になり積極的に人材育成を進める優良会社だった。写真会社は自己の気づきが要求される自己責任が常識の会社である。

 

優秀な人は写真会社のようなメーカーでも成長可能だが、凡人はゴム会社のようなメーカーに勤務すると会社の教育サービスで技術者について学ぶことができる。メーカーとしての総合力が高いのはゴム会社で、入社時世界ランク6位から20年で1位になった実績もある。

 

写真会社のような場合には、総合力と言うよりも技術者個人の能力がそのメーカーの技術力を左右する傾向になる。ゆえに技術の伝承も下手でライバル会社に先行していても技術者が退職後は追い越されてしまうことになる。ひどい場合には技術者退職後にその痕跡も無くなり、古い特許からかつての状況を探る、という事態も生じる。

 

このようにメーカーの技術者教育や風土も様々なので、技術者の専門がどのように高められるか一般論を述べるのは難しい。写真会社のようにそれなりの教育メニューを揃えてはいるが積極的に技術者を育成しようとしていない会社でも優秀な技術者は育っている。但しゴム会社と比較するとその能力の平均値は低い。

 

ゴム会社の技術者の平均的な能力が高すぎるのかもしれない。12年間の勤務であったが、優れた技術者に囲まれて仕事ができたのを幸運に思っている。

 

カテゴリー : 一般

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2014.09/10 残念な結果

昨日早朝の全米オープン決勝戦は残念な結果だった。錦織選手有利の下馬評がはずれ、あっさりとストレート負け。試合後のインタビューでは、プレッシャーのため試合に入っていけなかった、と語っていた。

 

勝てる、と思っていても、あるいはデータ上有利と思われる状況でも、やってみなければ分からないのが勝負事である。特に実力差が紙一重の場合にはわずかな変調が勝敗に影響する。仮に圧倒的に実力差があったとしても、油断でひっくり返ることがある。

 

スポーツ大会(テニスシングルス)での優勝経験が一度だけあるが、決勝戦はプレッシャーとの戦いだった。ヘボなテニスプレーヤーでも、決勝戦ともなれば優勝がちらつき、身体が思うように動かない、という経験をする。しかし、相手も硬くなっていることに気がついてから、一方的に試合を進めることができた。

 

また、ゴム会社の地元の市民スポーツ大会ダブルスで毎年優勝していたペアと4回戦でぶつかったときには、最初から試合を投げて適当にやっていたら、面白いようにスマッシュやボレーが決まった。実力差がありすぎて結局は勝てなかったが、休日プレーヤーでもスポーツでは気持ち次第で実力以上の力が出たりする。

 

錦織選手の談話は素直に理解でき、次回ガンバレと声援を送りたくなった。スポーツでは、実力以外の要素が試合結果を左右するが、科学の世界ではスポーツのようなことは起こりにくい。STAP細胞の騒動は、もし現象が正しければその一例になるのだろうが、技術の世界ではスポーツ同様のことが起きる。

 

科学の世界では論理的にプロセスを進めることが前提になるが、技術では機能を実現できるならば、それが非論理的な成果であっても受け入れられるため、運の要素の入る余地がある。KKDにおける3番目の度胸(D)が重要視されるゆえんである。

 

ノーベル賞を受賞したiPS細胞でも、消去法というアミダクジ的実験プロセスや全てのDNAを細胞に組み込んで行うという大胆な度胸で技術ができあがり、科学的プロセスで現在研究が進められている。このあたりについて山中先生はノーベル賞受賞の時に謙遜して述べられていたが、ヒューマンプロセスの成果として自慢されても良い事例である。むしろ未来技術にヒューマンプロセスが重要な役割を担うことを世間に啓蒙できたかもしれない。

 

技術のこのような側面をゴム会社で学んだ。それ以来、運では無く意識的に度胸の結果が幸運を招くようなヒューマンプロセスのルールは無いのか、考え続けてきた。その過程で30歳の時に、無機材質研究所の電気炉が暴走して高純度SiCの独特な熱処理パターンを一発で見つける、という幸運に出会った。この経験で運と運以外のヒューマンプロセスの違いについて開眼した。

 

運による技術成果は、科学的に追試をしてもそれが得られた理由を論理的に説明できない場合が多い。しかしなぜか再現のロバストは高い、という経験則がある。運以外のヒューマンプロセスによる技術成果は発見に至るプロセスの科学的な追試も可能であり再現のロバストも高い。ご興味のある方はwww.miragiken.com をご覧ください。

カテゴリー : 一般

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2014.09/09 2018年問題

18歳人口が2018年から急激に減少し、国立大学さえも倒産の危機になる、というのが2018年問題だそうだ。2031年の18歳人口は、現在より15万人減少し104万人と予想されている。出生数の予測は、2030年に約75万人だから2018年以降大学受験の対象となる18歳人口は確かに激減する。

 

資料によれば、17万5千人規模の都市であれば、国立大学は生き残れるとある。本当か。学生を確保できれば授業料を確保できたことになるので経営は可能である。しかし、大学の使命を考えたときに、単純に学生数確保が生き残りを保証しない。そもそも学生の授業料だけを当てにしているから2018年問題となるのだ。

 

大学の社会的使命を考えたときに、社会人の再教育という重要な市場が存在する。また、若者が少なくなる代わりに老人は確実に多くなる。老人の中にも勉強をやり直したいという人がいるはずである。社会をリタイアした人に大学の門戸を開くとともに社会人から魅力的に思われる講座を準備したらどうだろう。

 

そもそも大学は人類の幸福を願い研究を行う場である。しかし、各大学のホームページを見ていてもどのような研究を行い、それがどのように人類を幸福にしてくれるのか伝わってこない。昔は象牙の塔という言葉があったが、今は何と表現したら良いのだろう。

 

およそ魅力の無い大学という意味では今も昔も変わらない。年間平均100万円前後の授業料を支払い若い人は大学に通っている。4年間通えば最低でも400万円は大学に支払うことになる。週刊紙情報では4年間にかかる費用は2000万円とも書かれているが、果たしてそれだけの価値あるサービスを現在の大学は提供しているだろうか。

 

人口の減少だけで無く、大学進学率も下がったら2018年どころでなく、来年からでもつぶれる大学が出てくる可能性がある。現役合格指向から単純な大学受験人数だけでなく浪人率は急激に低下した。そのため大手予備校が大半の校舎を閉鎖することになったが、進学率が昔に戻ったならば新聞に書かれている予測よりも早く大学がつぶれ始める。

 

2018年問題は単に人口の面から捉えられているが、進学率低下の可能性も考えなければいけない。その様に問題を捉えたときに、大学がこれまであまり考えてこなかった、授業料に値するサービスという視点が重要になってくる。そしてこの視点で考え出された施策は若者だけでなく、社会人や社会をリタイアした老人にも魅力的なはずで、進学人口の増加という現象を起こせるかもしれない。

 

まだスタートしたばかりで物語の展開が見えにくいかもしれないが、www.miragiken.com で未来技術を考える大学の運営を始めました。リケジョが活躍する大学が舞台の物語で、ご興味のある方は一度ご覧ください。

カテゴリー : 一般

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2014.09/08 防振ゴム(3)否定証明

有機高分子と無機高分子を均一に混合する技術を検討していたので、界面活性剤のキットを常に揃えていた。增粘した電気粘性流体の中にその界面活性剤を一滴ずつ添加した20組以上のサンプルを一昼夜放置しただけで結果が出た。

 

ある界面活性剤を添加したサンプルの粘度が下がっていたのだ。その界面活性剤と類似した構造の活性剤をいくつか取り寄せ検討したところ、增粘を起こさない界面活性剤を見つけることができた。ただしこの界面活性剤は界面活性剤というカテゴリーで販売されていない添加剤であった。

 

しかしこの添加剤の構造には親水性セグメントと親油性セグメントが存在したので界面活性剤と分類してもよい。界面活性剤で增粘を防ぐことができるとプロジェクトリーダーに報告したら頭ごなしに否定された。そして一年間の検討成果を丁寧に説明され、検討してもムダと言われた。

 

もの凄い人だと思った。目の前に問題解決ができている状態のサンプルを見せて説明しているのに、そのサンプルはやがてまた增粘すると理路整然と説明されたのである。状況を担当部長に相談したら、模擬耐久試験をすぐにやろうということになり、担当部長の指導で耐久試験をやることになった。

 

ある構造の界面活性剤が添加された電気粘性流体が3ケ月間の耐久試験でも增粘しないという結果が出てきて技術として使えることをプロジェクトメンバーに認めてもらえた。但し、增粘を防止している添加剤は界面活性剤ではなく第三成分と名付けられた。当方は3ケ月の耐久試験を行わなくても技術的イメージから使えることが分かっていたが周囲の視線を気にしながらも快く耐久試験を行った。

 

技術的に可能性あるシーズを科学的観点から懐疑的に見たり、あるいは科学的論理で否定したりすることが何故起きるのか。これは義務教育時代から学んでいる科学的姿勢が大きく影響していると懸念している。イムレラカトシュはその著書「方法の擁護」の中で科学的に完璧に証明できるのは否定証明だけである、と指摘している。さらに「できない」ということを科学的に証明するのは簡単であるけれど、否定証明された事実と反する実験結果がでてきたなら、真摯に新たな仮説で証明をやり直さなければならない、とも述べている。

 

これは当たり前のことであるが、ものすごく大切な指摘である。これはまた科学のカテゴリーの中で技術を構築することは簡単だが、科学的ではない技術を創り出すことは難しい、とも言っているのと同じである。しかし冷静に考えて頂ければ、科学の無い時代にも技術は生まれ発展してきたのである。科学でサポートされた技術だけで世の中が動いているわけではない。

 

否定証明を得意とする人は知らず知らずのうちに新しいアイデアの芽を摘んでいることに気がついていない。科学を尊重することは大切である。しかし、科学に支配されその奴隷になってしまうと科学で解明されていない新しい技術を生みだすことが難しくなる。この問題については「未来技術研究部( www.miragiken.com )」で少し説明しています。

 

 

 

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.09/07 49歳と25日

中日の山本投手が、史上最年長勝利投手の記録を塗り替えた。投げ終わったときに舌が出ている独特のポーズで、派手さは無く地道に中日一筋で活躍している選手である。40歳前後で引退するのが常識のプロ野球界で珍しい選手である。少し前に工藤選手が最年長投手としていたが、その工藤選手の記録も来年抜くことになる。

 

中日落合GMからはいつまでもやっていてよい、と言われたという。うらやましい。転職の時ゴム会社からは慰留されたが、写真会社からは大震災の日が最終日の早期退職である。こつこつと地道に一本の道を歩ける人生が如何に難しいことか分かっているだけに山本投手の今後に関心がある。

 

60も過ぎているので人生とは、と感想を述べても許されるだろう。人生とは自分の好きな道を死ぬまで続けられたら最高だろう。趣味の道でも仕事でも遊びでも何でも良いと思う。大抵は続けられない。スポーツであれば肉体が、遊びや趣味であれば資金が制約となり、どこかで辞めなければいけない時が来る。

 

プロ野球であれば40歳前後という年齢が平均的な引退年齢だろう。ゆえに49歳と25日という年齢が光ってくる。たった9年弱という見方をする人もいるかもしれないが、50歳という年齢を経験しておれば、40歳を過ぎてからの肉体の衰える速度を理解しているのでもの凄い記録に見えてくる。

 

このように年を重ねた人間でなければその驚異的な偉大さが分からない記録は若い人に感動を与えないかもしれないが、少なくとも40過ぎの人たちにはこの49歳と25日という記録はもの凄い記録に見えると思う。90歳まで技術開発を続けたら彼に並ぶことができるだろうか?30年後の未来を目標にwww.miragiken.com  を運営していますのでご覧ください。

カテゴリー : 一般

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2014.09/06 防振ゴム(2)否定証明

自動車のエンジンマウント用防振ゴムには省エネタイヤと同じように二律背反の要求があり、その解決策の事例として樹脂補強ゴムの開発や、電気粘性流体との併用技術の開発体験があることを昨日書いた。

 

電気粘性流体との併用技術では、電気粘性流体へ抽出されるゴムの配合物による增粘が問題になった。この問題では、界面活性剤による解決方法が1年間検討されたが、結局解決できず、解決できない理由を説明した報告書があった。

 

この報告書については見せてもらえなかった。ゴムと電気粘性流体を併用したデバイスで生じる增粘問題を解決するために助っ人としてかり出されたときには、科学的には正しくても商品として成立しない技術の検討をやらされていた。

 

世の中には科学的に正しくても商品として成立しない技術を平気で企画し推進する科学者がいる。このような人に技術開発を担当させると研究成果は出ても新商品は完成しない。研究成果が出るだけでも良い、と考える経営者もいるからびっくりする。このような人は、実は、否定証明も得意で否定証明までも研究成果と考えている。

 

33年間のサラリーマン生活で出会った企業の研究者の何人かはそうであった。商品開発ができない人は、否定証明も好きだ、という事に気がついたのは、技術者生活11年目に担当した電気粘性流体のテーマを担当した、このときだ。プロジェクトにはこのような技術者が3人いた。

 

助っ人を含めた技術者10数名のプロジェクトで3人もこのような人がいると商品はできない。若いプロジェクトリーダーを支えていた担当部長は頭を抱えていた。ゆえにヤミ研実施の相談をしたときにはすぐに賛成してくれた。一度は否定されていた界面活性剤の検討をすぐに行い、1週間で成果を出すことができた。短期間で成果を出すことができたのは、コンビナトリアルケミストリーの手法を使ったからである。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.09/05 防振ゴム(1)

自動車エンジンの防振ゴム、エンジンマウントも省エネタイヤ同様に二律背反を解決する技術が要求される分野である。すなわち、アイドリング時と高速走行時には防振しなければならない振動の周波数が異なり、前者は15Hz付近の運動モードを、後者は75Hz付近のモードを防止しなければならない。

 

また防振ゴムは硬くなければいけないが、硬いと材料の損失係数は低下する。これも二律背反である。ゴム会社で初めて担当した新入社員のテーマでは樹脂補強ゴム(TPV)でこの問題を解決しようとした。そして実用化に成功した。

 

同じテーマをその10年後電気粘性流体の開発で担当した。こちらは電気デバイスとして動作させて防振するのである。これはチームの一員として材料の耐久性を改善する仕事として取り組んだ。

 

電気粘性流体は電場をかけると固体になる流体で、電気で流体のレオロジーを制御できるデバイスであり当時ゴム会社として重要テーマだった。この流体を防振ゴムに封入すると、ゴムの配合物が流体中に染みだしてきて流体を著しく增粘させる。その結果、電源オフ状態でも固体のようになる現象が耐久試験で起きた。

 

そのプロジェクトでは界面活性剤で問題解決しようと1年ほど努力したらしいが、界面活性剤では問題解決できない、という結論が出された。そこで、ゴムから抽出される成分を解析して、それらの成分をゴムに添加しないでデバイス設計を行う方向で活動していたが、それではゴムが十分な物性を維持できない、ということになり、すなわち電気粘性流体の物性とゴムの物性の両立ができない二律背反の問題ということになり、大騒ぎになった。

 

問題解決のアイデアにつきたときに行う手段は人海戦術である。三人寄れば文殊の知恵ではないが、とにかく人を集めれば何とかなる、ということで研究所で重要テーマを行っていない人間が物色された。ゴム会社で、しかもファイアーストーンを買収しその立て直しをやっている最中に半導体用高純度SiCの開発を担当していたのですぐにお声がかかった。

 

プロジェクトには助っ人として参加させられ、最初は文献や特許すら読ませてもらえなかった。とにかくこの仕事をいついつまでにやれ、という命令だけである。しかし素人目にもそれで問題解決できると思えない仕事ばかりである。完全にプロジェクトリーダーは浮き足立っていた。

 

界面活性剤を問題解決手段として提案したら、過去に界面活性剤を検討してダメだった、という話を聞かされ、余分なことは考えるなとリーダーから言われた。ひょっこりひょうたん島の博士のような人物と思っていたのでびっくりし、相当深刻な状態であることが十二分に伝わった。

 

界面活性剤では提案しても採用されないので、「電気粘性流体の耐久性をあげる第三成分検討」という新テーマを提案した。第三成分などと持って回った言い方をしているが、界面活性剤のことである。ただ、界面活性剤では過去に失敗しており、テーマとして採用されないことが分かっていたから、第三成分と言い換えたのである。

 

発泡体を過去に開発した経験があったので、界面活性剤の技術について体得していた。したがって、たった一週間で問題解決できた。ゴムからの抽出物で電気粘性流体の增粘を防止できる界面活性剤を見つけたのである。これが後ほど会社を辞める原因になったのだが、担当したテーマの二律背反よりも人間関係の二律背反の問題が難しかった。ただ当時に比べればサラリーマン経験も積み、人間関係の問題については二律背反に持ち込まないで解決する知恵もついたが。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2014.09/04 省エネタイヤ(5)

省エネタイヤではシリカをフィラーとして添加している。シリカの表面にはシラノールが出ているので親水性が高く、WET SKIDは良好となる。しかし、この親水基のためにゴムへの分散が難しくなり、それを容易にするためにカップリング剤を使用する技術が20年以上前に開発された。

 

最近の技術では末端を変性したSBRを用いることでカップリング剤と同様の機能を発揮でき、シリカの分散性があがる。このゴムの末端変性技術が最近省エネタイヤの主流になった。またその研究発表も行われ、先行していた技術を追いかけるように科学の成果も発表されつつある。

 

フィラーがゴムにうまく分散せず、凝集状態となったために生じる現象として、ペイン効果がある。これは、ゴムに歪みをかけたときに歪み量が大きいと弾性率が下がる現象である。一般にフィラーの凝集体が大歪みにより崩れるから、と説明されている。

 

末端を変性したSBRを添加した処方にシリカを用いるとシリカの分散が進むのでペイン効果は見られなくなる。電子顕微鏡観察により、実際にシリカフィラーの分散が向上している様子も発表されている。

 

ところでこれらの現象はどのくらいのサイズの構造で起きているのか、中性子散乱で計測された結果を読むと、シリカの一次粒子サイズが13.6nmでクラスターサイズが65.4nmとある。そして末端変性SBRがフィラーに吸着している厚みは5.3nmだそうだ。

 

これらシリカフィラーの凝集構造の情報はこの20年間の研究成果であり、粗視化MD法でシミュレーションも行われている。このシミュレーションでは、シリカフィラーによりゴムが拘束されてTgが上昇する様子まで計算に成功している。

 

ゴム会社に入社したときには、二律背反の技術開発事例としてカンと経験の世界のような発表を聞いたが、これが科学として裏付けされつつあるのだ。転がり抵抗の低減で省エネを実現するという大変成果が分かりやすい事例である。30年間の長期テーマで現在も科学的研究が行われており、技術が科学を先導した一例だろう。

 

20世紀は科学の時代とも言われたが、科学誕生以前にも技術が存在したように、科学に依存しない技術の進歩が現在でもある。科学が著しく進歩した21世紀になっても人類の本能的営みとしての技術の進歩は続くと思われるが、便利な科学情報に頼りすぎた技術開発の手法ではそれが難しくなってきた。

 

人間の自らの発想力を促す目標仮説の重要性に気づき、ヒューマンプロセスによる問題解決が必要になってきた。www.miragiken.com  ではその一例を探偵物語を例に説明しています。

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2014.09/03 省エネタイヤ(4)

省燃費用タイヤに使われるSBRは40万t/年になるという。主にトレッド用のゴムの配合に使用されるのだが、この数値だけ見ても省燃費タイヤの普及のすさまじさを知ることができる。ちなみに乗用車用タイヤ1本の重量は概略7kg程度である。すなわちゴムは少なくとも3kg以上は使われているはずなので、配合量を考慮すると数十万台以上の車が省燃費タイヤということになる。

 

さて省エネタイヤは転がり抵抗を低減したタイヤであることは書いたが、これは運動時のゴムのエネルギーロスを少なくすること、すなわちヒステリシスロスあるいは損失係数と呼ばれるtanδを小さくできる材料にすることである。

 

タイヤは路面への食いつきを大きくするとGRIP力が向上するが、この特性とは相反する材料設計が求められる。要するに二律背反の材料設計を求められるわけだが、この解決には、トレドに使われるゴムの運動モードの解析が行われ解決の糸口が見つかった。

 

すなわちタイヤのGRIP力で重要なのは運動の高周波領域における損失係数の向上であり、転がり抵抗の低減では、低周波数領域における損失係数を低減すれば良いことがわかった。ゴムの運動モードと品質特性の関係は省エネタイヤに限らず、防振ゴムやその他ゴム製品で良く出てくるテーマである。古くからゴム会社ではノウハウとして使われてきた。

 

科学的に分かってしまえば簡単だが、40年前は温度時間換算則を使った仮説レベルの内容であった。それは昔は1000Hz以上の高周波数領域のゴム物性など直接測定することができなかったからだ。しかし、ゴム会社の友人に聞いた情報では、10年前実際に装置を開発し高周波数領域の物性を測定し、温度時間換算則の正しさが確認されたのだという。

 

科学では物理学で構築された理論から導かれた現象を説明できる方法が得られると実際にそれを検証したデータが示されて初めて科学的真実となる。ゴムについては、長い間温度時間換算則という仮説段階の理論を使い、高周波数領域の動的物性を推定していた。

 

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2014.09/02 省エネタイヤ(3)

10年程前からシリカの分散を促進するSBRの特許が多くなっている。原因はこれであった。すなわち、40年前はカップリング剤を用いるのがシリカ分散技術のキーテクノロジーであったのが、現在の省エネ技術ではポリマーの改良でシリカの分散状態を制御するのがトレンドである。

 

すなわちシリカの分散制御という目的は40年前と変わらないが、その手段が新しくなり、ポリマーメーカーがこぞってその技術開発を行っているのだ。ポリマーメーカーによるシリカフィラーの補強構造に関する技術発表も多い。

 

この10年日本化学会年会には出席していたが高分子学会の年会には出ていなかった。高分子自由討論会にでていれば十分な情報が入っていると思っていた。

 

今年の高分子自由討論会でもシリカフィラーの分散を促す変性SBRの技術発表があったが、たかが40年前の技術、と軽く見ていた。しかし、特許を整理してみたところ、目的は40年以上前と変わらないがその達成手段が、カップリング剤から変性ポリマーへ変化していたのだ。

 

技術というものはピンポイントで見ると新しさを感じないことがあるので注意が必要だ。高分子自由討論会における変性ポリマーの発表ではシリカの分散を促進する効果のみ強調していたので、40年前の技術を知っていた当方には新鮮みが感じられなかった。

 

しかし、技術のトレンドとしてその新しさを説明してくれていたらもう少し質問したいことがあったのに、と後悔した。下手に生半可な知識があると情報に対する感度が落ちるので注意が必要である。

 

 

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