オブジェクトの特徴となっている機能を異なるオブジェクト上で実現してみる、いわゆるそのまま真似をするのでパクリ戦略でもあるのが戦略6である。パクリではあってもイノベーションを引き起こすことが可能である。
写真フィルムの乳剤に力を加えるとそれだけで感光することがある。いわゆるプレッシャーかぶりで、乳剤の保護層を制御して起こりにくくすることは可能である。この保護層の制御に制振の考え方を導入し、振動を制御する技術をそのままパクリ用いたところうまくいった事例がある。
ゴムにマイカ(雲母、平板な結晶構造が特徴)を添加して制振性能が発現されることは30年以上前から知られていた。これを写真の保護層にそのまま用いたところプレッシャーかぶりを改善できたのだ。
幸いなことに制振技術は公知であったが、写真フィルムにマイカを添加するのは新規であったので特許出願できた。この技術はその後発展し、銀スラッジ防止とプレッシャーかぶりの両者を改善できる技術に結びついていった。
すなわち、Aという分野では常識になっている技術でも異なるBという分野でも常識になっているとは限らないのだ。異なる事業分野の技術がイノベーションのきっかけになることが多いので、異業種交流の重要性がある。戦略6は活用する機会の多い戦略である。
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戦略4(オブジェクトの特徴となっている機能の理想形を追求する)と戦略5(オブジェクトの特徴となっている機能を隠してみる)は、特に対で用いる必要はない。それぞれ独立した戦略である。
技術開発でコンセプトを明確にしてその理想の目標を具体化したとする。しかし開発過程でその理想の姿実現が難しく、妥協した目標へ下げる場合がある。しかし目標を下げる前に一度目標を実体として作り出すことが重要である。仮に実用性のない方法や手段を使ってでも目標を具現化してみるとその過程で新たなアイデアがわくことがある。
すなわちこの戦略4は真似をする場合でなくても重要な戦略である。市場に出ている製品は一見理想の形で実現されているように見えるが、ほとんどは妥協の産物で、どこかに妥協した機能が残っている。だから日々技術開発が行われているのである。
一見完成された妥協のない製品のように見えても、それを開発した技術者が妥協したところがあるはずで、そこを探し出し、技術者が理想としたであろう姿を推定して、それを新たな目標に設定するのが戦略4である。これは真似であっても効果的なイノべーショーンを引き起こすことが可能である。
もし妥協した機能を見出すことができなければ、目につく機能を隠してみる、というのが戦略5である。その機能を取り除くのではない。その機能を発揮している要素を見えなくして製品として成立する姿を考えるのである。これも戦略4と同様に高度なイノベーションを引き起こすことがある。
製品には必ず機能を制御している要素が存在し、その要素はリバースエンジニアリングで見つけることが可能である。もし見つけることができなければ、それは評価技術が不足している。戦略5では、評価技術が存在することを前提にしているが、これについては後日述べる。
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偶然目標の構造や形ができたりすると、あとはロバストをあげる開発を進める、といって突き進んでしまう猪突猛進型の技術者がいる。しかしタグチメソッドを用いて最適化しても十分なSN比が稼げないシステムでは商品化は難しい。6ナイロン相の島にカーボンをくっつけるシステムではSN比を改善できる制御因子が存在しなかった。
システム設計が悪いとSN比を大きく改善できる制御因子が存在しないことがある。このような場合にそのシステムで開発を続けてはいけない。新たなシステムを設計し開発を行うのが賢明である。そこで当初の目標とした6ナイロン相の島にカーボンを選択的に分散できるプロセスをシステムとして採用し実験を行った。
この詳細はすでに特許で公開しているので詳細を省略するが、バンバリーを用いたのである。バンバリーを用いてPPSの海には6ナイロンの島が浮かび、6ナイロン相にカーボンが分散した構造を作り出して押出成形を行ったところ、抵抗が均一で各物性のロバストの高いベルトが完成した。ただし、靱性は低く、MITは1000以下で実用性が無かった。
さて、これを最適化するのか?ここで戦略5(オブジェクトの特徴となっている機能を隠す)真似を実行することにした。すなわち今回前任者から引き継いだ仕事は、PPSと6ナイロン、カーボンで中間転写ベルトを完成するのが目標である。カーボンは抵抗調整のため外せないが、6ナイロンは余分である。
しかし、これはQMSの都合で外すことができないので隠すことにした。どのように隠すのか?PPSへ6ナイロンを相溶させて隠すのである。これはものすごいイノベーションを引き起こすアイデアである。科学者はフローリーハギンズの理論に縛られてこのようなアイデアを出すことはできないが、技術者ならば可能である。
フローリーがノーベル賞を受賞したことを知っている技術者は少ないのではないか?押出成形の現場でフローリーハギンズの理論を知っていた技術者は一人もいなかった。そのおかげで、この無謀なアイデアをすぐにやろうということになり、実行に移された。そしてカオス混合により製造されたペレットで戦略5は成功し、抵抗が安定なだけでなくMITも10000以上という高靱性のベルトが出来上がった。
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PPSにナイロンとカーボンを分散した中間転写ベルトの設計は、前任者の長年の開発経験から生まれた処方である。PPSという材料は大変脆い材料で結晶化しやすい。結晶化しやすいから脆い、と表現したほうがよいかもしれない。ただ、初めて押出成形を体験した時に、前者の表現のほうがあっているような感じがした。
PPSは結晶化度があがると金属音になる。しかし金属音にならなくても靱性の指標であるMIT値が3000前後なのだ。本質的に脆い材料というのが最初に受けた印象である。材料メーカーからこの脆さを改善する目的でナイロンをPPSに分散する技術が出願されていた。
前任者のアイデアは靱性改良の目的でナイロンを添加したのではなく、カーボンの分散を安定化させるためにナイロンを添加したのだという。やや説明がわかりにくかったので、どのような機構で安定化するのか尋ねたら、PPSとカーボンだけでは、カーボンの分散が不規則で押出成形を行ったときに抵抗が大きくばらつく原因になっていた。PPSに6ナイロンを分散するときれいな海島構造になるので、6ナイロンの島の周りにカーボンをくっつけて安定化させたかった、という説明が展開された。
ややおかしな説明である。それならばナイロンの島の中にカーボンを閉じ込めてしまったほうがよいのではないか、とさらに質問したら、最初はそれを狙ったが6ナイロンへカーボンをすべて分散することが難しかった、と本音が出てきた。すなわち二軸混練機でPPSと6ナイロン、カーボンを混錬すると、見た目が6ナイロンの周りにカーボンがくっついている状態の構造のコンパウンドができるのだそうだ。それでこの構造を完璧な形にしようと開発を進めている、という。また、カーボン表面にはカルボン酸がくっついているのでうまく混練を行えば、それができるはずだとも言っていた。
しかし、この願望にはやや無理がある。カーボン表面が酸化された場合にカルボン酸やカルボニルが生成する。ただし酸化処理を行わない場合にはすべてのカーボン粒子に官能基が生成するわけではない。教科書や論文にはこのあたりの説明が無い。
前任者から引き継いだテーマは、開発フェーズが最終段階なので処方を変更してはいけない、という制限もついていた。さっそく戦略4(オブジェクトの特徴となっている機能の理想形を追求する)を実行することにした。すなわち前任者が理想とした6ナイロン相にカーボンが完全に分散した状態を作り出す実験を準備した。
技術開発では、理想の構造や形を追求しながらも、それができなくて中途半端な形で出来上がっている場合がある。PPSと6ナイロン、カーボン系の中間転写ベルトもPPSとカーボンの組み合わせコンパウンドを用いた場合より抵抗が安定していた。まれにスペックを満たすベルトができたりしていたので、開発フェーズが最終ステージまで進んでしまったのだ。(続く)
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模倣によるイノベーションについて、さらに二つ説明する。戦略4は、オブジェクトの特徴となっている機能の理想形を追求する、であり、戦略5は、オブジェクトの特徴となっている機能を隠してみる、という二つの戦略である。これらは、複写機用の部材である6ナイロンを相溶させたPPS中間転写ベルトで実行された。
カラー複写機には、YMCKの4色のトナーで紙に情報を書き込む前に一度ベルトの上に情報を書き出し、それを紙に転写する機構の製品がある。いわゆる中間転写方式のカラー複写機で採用されている機構で、きれいな画像を得るためには直接転写方式よりも良いと言われている。
中間転写方式のベルトではトナーを静電気でベルト上に固定するため、帯電しやすい高抵抗の半導体ベルトが使用されている。ベルト面の抵抗を均一にするために、カーボンとポリイミド(PI)を溶媒を用いて混合した溶液をキャストして製造されている。ゆえに見かけは単に黒い樹脂ベルトであるが大量生産されていても1本が5000円以上の高価格である。複写機の部品代ではさらに高い値段がつくことになる。
もしこれを熱可塑性樹脂を用いて押出成形で作ることができれば大幅なコストダウンと溶媒を用いないことから環境負荷低減のために貢献することになる。しかし、押出成形はキャスト製膜よりも荒っぽい成形方法であり、ベルトの面内の抵抗を均一にするための成形技術は困難であり、どうしても面内抵抗のばらついたベルトとなる。しかし技術開発の努力が実り、低価格のプリンターでコストを下げるために一部押出成形のベルトが使われ始めた。
これを100万円以上の複写機にもPIベルトの代わりに使用できるように長年開発努力が続けられ、1年後に製品搭載へという状況でテーマを引き継いだ時に用いた戦略が、冒頭の二つの戦略である。開発フェーズが最終段階であり、処方もプロセスもいじることができない状況で、改良しなければいけない、難しい状況だったが、これを現在開発されている技術の模倣を行う考え方で二つの戦略をとった。
(続く)
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製品に何か不具合はあるが、その不具合がスペック上問題がないと、そのまま製品化する場合がある。例えばユーザーに影響のない工程上の問題があっても事業機会を優先し製品化したり、製品の価格から判断し、ユーザーが問題にしない性能が他社よりも劣っていた場合などである。
このような場合に良心的な企業は製品の手直しを開発テーマに上げたりする。そして怪しい部品や部材、素材を変更してその不具合を解消しようとする。この時改良技術がすぐに見つかればよいが、大抵の場合にすぐに見つからない。
あるいは開発過程で採用した技術が他の技術と交互作用を引き起こし、代替技術を探さなければいけない場合に、その技術の目先の機能に目を奪われた探索をしたりする。戦略2(オブジェクトの隠れた機能を探し出す。)や戦略3(オブジェクトの特徴となっている機能を無くしてみる。構造は残す。)はこのような場合に効果を発揮する。
科学的視点に頼れば頼るほど、技術の副作用や隠れた機能に着眼しないものである。理解しているつもりでも技術が組み合わさった時に生じる機能に気がつかない。科学的方法の盲点である。技術者は経験的にこのような問題を学んでゆくが、科学者は論理的に考えようとして、新たな技術や方法を探そうとする。その結果、科学的に解明されていない現象について見落としたりする。
技術者は技術の副作用を幾度も経験した結果、戦略2や戦略3をとるようになる。戦略2や3はある意味試行錯誤で問題解決しようという泥臭い方法となる場合が多い。脱Hの技術では、下引層の上層に来る乳剤の種類により物質Hの添加量が変化していることに気が付いたのが発端である。
思い切って物質Hを取り除き、膜厚を0.05μm刻みで変化させて接着力を調べてみたら、ある膜厚で接着力が極大をとることを発見した。そして物質Hが可塑剤として作用しているのではないかという疑いを持った。また物質Hは3官能の物質として重合する可能性も考えられた。そこで物質Hだけを反応させた物質を添加してみたところ、それでも接着力が向上したのだ。
これらの発想は科学的に見えるかもしれないけれど、物質Hに関する科学的に書かれた報告書にはまったく書かれていなかった事項である。また、物質Hについては、教科書を見ても接着力を増加させる機能が書かれている。教科書を見ているだけでは解けない問題だった。
実務には教科書の内容だけでは解けない問題が結構多いだけでなく、教科書に書かれた内容のために間違った判断につながったりすることがある。一部の人は教科書に嘘が書いてある、といったりしているが、教科書には嘘が書いてあるのではなく、科学的記述がされているだけなのだ。自分で実験を行い現象をよく観察する習慣が重要である。
最初の手掛かりは、戦略2の方針で、泥臭い作業である膜厚を変える試行錯誤の実験から得られた。そして戦略3の方針で物質Hだけを反応させて(すなわち失活させて)ポリマーアロイ下引きのヒントを見いだした。
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戦略2(オブジェクトの隠れた機能を探し出す。)を遂行して、Hが接着剤の必須成分ではないことを発見した。見かけの分子構造は接着機能に必須成分の様子ではあったが、薄層のレオロジー解析から可塑剤として機能していることがわかり、シミュレーション結果からもそのことが示された。
次に、可塑剤としての機能を取り払って、物質Hが添加された時のモルフォロジーを考察、すなわち戦略3(オブジェクトの特徴となっている機能を無くしてみる。構造は残す。)を遂行したら、ポリマーアロイ下引層のアイデアが出てきた。
脱Hというテーマは、ただHという物質を下引層から取り除くだけで簡単に完成した。ただし長年の苦労が新たな解析方法の導入で報われたようなプレゼンテーションを行った。そして新たなポリマーアロイ下引を開発するという大きなイノベーションを起こした、と説明した。長年の苦労に報いるために簡単にできたというプレゼンはするべきではないと考えた。
成果においても、脱Hで出来上がった下引層の品質はそれまで使用されていたラテックス下引と同等だった。ほとんどそのまま「真似」と言ってもよい成果であるが、下引層の設計技術において脱Hとポリマーアロイ下引というイノベーションを達成している。
後者については、特許出願を行い権利化できたので進歩性と新規性が認められている技術である。しかしこの技術開発はあまり話さないことにしてきた。ただ物質Hを取り除き、既存のラテックスの組み合わせを変えただけの仕事である。たいしたことは何もやってなく、一年間楽しんだテーマだった。
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フィルムの下引層とは、支持体(たとえばPET)と感光層である乳剤層とを接着するのが役目の層で、この接着層にHという作業環境に悪い物質が使用されていた。このHを使用しない技術開発の努力が長い間繰り返し行われてきたが問題解決できなかった。
このような難問について
戦略2:オブジェクトの隠れた機能を探し出す。
戦略3:オブジェクトの特徴となっている機能を無くしてみる。構造は残す。
という二つの戦略を実行した。
実はこの戦略で、脱Hの検討を開始して1週間で結果が出た。予想はしていたがあまりにも前任者の努力を小ばかにするような実験結果だった。そこでしばらく結果を公開しなかった。このような配慮は企業の研究開発で重要である。
脱Hができるという結果を科学的に示すために、1年間”遊ぶ”ことにした。まず丁寧にデータ収集を行い、架橋剤と言われていたHが単なる可塑剤であり、Hの添加量に依存して下引層の弾性率が変化しているデータを収集する。この結果を実際の薄膜のデータとして示すために使用する薄層の粘弾性測定装置を並行して開発する企画である。
物質Hは、エポキシ基が3つついていたので長い間架橋剤の機能がある、と信じられてきた。そこでこのエポキシ基を加水分解してつぶしたり、様々な条件で処理した化合物を添加した実験を行い、その結果隠れた機能である可塑化効果が見えてきた。戦略1も同時に行っていたのだが、この結果が見えたところでHを添加せず、膜厚だけを最適化して脱Hができるという確信を短期間で得た。
短期間で得られた物質Hの隠れた機能を改めて研究するという作業は、楽しい作業となった。楽しみついでに有限要素法にも取り組んだ。フィルムは積層体なので各層の弾性率が変化すると各層間に働く応力が変化する。この様子を有限要素法で計算し図示する作業である。これは二次元でもできる解析なので有限要素法など使わなくても結果を見通せるが、いわゆる”遊び”である。
ただこの遊びで新たなことも分かってきた。一部ノウハウもあるので詳細を省略させていただくが、戦略3を遂行した時、すなわち物質Hの可塑剤という機能を無くしたときにどのようなことが考えられるか多数のシミュレーションを行っている。このシミュレーション結果には予想していなかった現象も示されていた。
例えば、過去のデータを見たときに、可塑剤の域を通り越してHがかなりの量添加されている配合も存在した。そこでこの配合について、Hを可塑剤ではなくポリマーと想定してその配合の弾性率をシミュレーションしたのである。この作業の過程と結果から、ポリマーアロイで下引層を設計すればよい、という結論も出てきた。
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比較的簡単で誰にでもでき、当たればイノベーションという戦略が次の2つである。
戦略2:オブジェクトの隠れた機能を探し出す。
戦略3:オブジェクトの特徴となっている機能を無くしてみる。構造は残す。
戦略2と3は、別々に実行されてもよいが、一対として実施する場合もあるので、ここで一度に紹介する。まず、当方の開発事例を簡単に紹介する。
転職して奇妙に感じたテーマは多かった。ゴム会社と写真会社の違いと言ってしまえばそれまでだが、この事例ぐらい奇妙に感じたテーマは無かった。すなわち皮膚感作性のある物質Hを感材の下引層からなくそうと企画されたテーマである。
工場の作業環境において物質Hは問題になっていた。そのため毎年工場から脱Hという開発テーマ依頼が来ていた。しかし、このような依頼テーマがあるのに、新製品開発では必ずHが使われていた。理由はHを使わないとPETと乳剤の接着力が弱くなるためである。
開発の最初に脱Hも目標の一つに入れて開発を始めるのだが、乳剤と支持体PETとの接着の役割をしている下引層からHを取り除くと接着力が弱くなり、製品の仕様を満たせない。結局開発期間の最終週あたりでHを添加し製品を完成するという繰り返しが行われてきた。
脱Hだけを取り上げたテーマをやらなかったのか、というと過去に何度もトライして失敗し、結局新製品の時に一緒に技術開発する習慣になったという。たしかに失敗のリスクが高いテーマを製品開発テーマに忍ばせて行う方法は頭がよい、と感心した。一方そのようなテーマの取り上げ方だったので解決するわけがなかった。(続く)
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シリカゾルをミセルにしてラテックスを重合する技術は簡単にできた。あまりにも簡単にできたので公知技術と思っていた。しかしその5年後ある専門誌にゾルをミセルにして水にオイルを分散した科学論文が紹介されており、世界初と書かれていたので慌てた。
一応特許を出願していたのだが、それはあくまでもラテックスに関する特許で、ゾルをミセルに使う方法を権利化する特許では無かった。高分子学会技術賞の審査でも某有名大学の教授が、誰でも知っている技術だ、と批判されたので、当たり前の技術だと思っていた。しかしその論文に書いてあったように、ゾルをミセルにする技術は大変新しい技術だったのだ。著名な大学教授に適当な発言を審査会でされたために技術の価値が下がった、と思っている。
しかし、デジタル化の波が押し寄せ、フィルム事業の終焉を迎え、その技術で生産されていた材料も消えたが、この技術は、超微粒子を高分子に分散する方法として簡便な技術である。もし超微粒子でゾルを製造することができれば、混練時に超微粒子を分散する技術としても使用可能である。ご興味のある方は相談していただきたい。喜んで技術を伝承いたします。
さて戦略1は当方が初めて言い出したことではなく、科学が生まれる前の技術の発展史にもその痕跡を伺うことが可能である。例えばライト兄弟が初めて飛行に成功したのは、科学の力であるが、科学が生まれるその時の学者ガリレオ以前にも人類の発明による模型飛行機の存在は知られている。例えばダビンチのスケッチにも飛行機が描かれている。古くはダイダロスとイカルス親子が空を飛んだ、とギリシャ神話に書かれている。
もっともギリシャ神話の話では鳥の羽を集めろう付けした羽なのでこれを技術として扱ってよいのかどうか異論はあるかもしれないが、鳥が空を飛べるのは羽の機能によることが古くから知られていた証拠にはなる。そしてその機能をそのまま真似たのがギリシャ神話なら、その後の人類史で登場する、鳥の羽とは異なる構造の飛行機は、すべて戦略1(開発対象(オブジェクト)の特徴になっている機能をそれがすでに実現された製品とは異なる構造で実現する方法)で生み出されてきたことになる。
すなわち戦略1は、当方が初めて言い出したことではなく、1世紀以上前の人類も技術開発において用いていた方法である。ちなみに、科学は1500年から1600年ごろにかけて生まれた哲学と言われているが、技術は人類誕生から今日まで脈々と営まれてきた人類の活動の一つである。捏造などが騒がれているように科学の発展の勢いが衰えてきた今、技術の方法論を見直してみるのも大切である。
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