基本特許がライバル会社から公開された時に,ライバル会社と全く異なるコンセプトの技術で対抗するとイノベーションを引き起こすことができる。全く異なるコンセプトを生み出す方法の一つとして戦略1(オブジェクトの特徴となっている機能を異なる構造で実現する)は有効である。
ライバル会社の基本特許をそのまま真似ても特許抜けすることは難しいが、ライバル会社の技術の特徴となっている機能を真似てその実現方法を変え全く異なる構造を創りだせば、ライバル技術の模倣によりイノベーションを引き起こすことが可能である。
コアシェルラテックスでは、ゼラチンのマトリックスの中にシリカゾルが全く凝集しない構造になるように、シリカをコアにしてラテックスをシェルにした。これを真似てコアとシェルを逆転させると、ラテックスをコアにシリカをシェルにした構造が浮かぶ。しかしシリカをシェルにするとシリカ粒子が凝集した構造となるので靱性を上げることはできない。
コアシェルラテックスの一番の味噌は、シリカが凝集しないようにラテックスで被覆している機能である。シリカが凝集しないようにラテックスと共存させる機能をコアシェルラテックス以外の方法で実現できるのか、という問いが思い浮かぶ。難しいことではない。それはシリカをミセルにしてラテックスを重合すればよいだけである。
シリカゾルで安定なミセルを創りだし、その中でラテックスを重合すれば、シリカが凝集しないでラテックスと共存したゾルを創りだすことができ、そこへゼラチンを混ぜて塗布すればゼラチンをマトリックスとしてシリカが全く凝集していない膜を創りだすことができる。(続く)
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ライバル会社からシリカをコアにしてその周囲をラテックスで被覆したコアシェルラテックスが商品化された。ちょうどそのタイミングで転職したので研究管理者として大変に勉強できる体験をした。ライバル会社から新技術が登場すると当然それに対抗した技術開発が行われる。この時どのような戦略を立てたらよいのか。
担当者はお決まりの方法として、関連する特許を調査しリバースエンジニアリングを行い、類似技術の開発を進めていた。もしコアシェルラテックスが20年以上前から存在していたならば、コアシェルラテックスの類似技術を開発しても特許に抵触しない技術を開発できる可能性がある。
しかし、その技術がまったく新規のカテゴリーであった場合には、基本特許が公開されても、基本特許の展開された膨大な数の未公開のサブマリン特許の存在を疑わなければならない。実際にライバル会社からは次々と関連特許が公開されている状態で、そのたびに開発計画を見直す、と言うことが行われていた。
酸化スズゾルの技術では、昭和35年の特許のおかげで開発を始めた時に膨大な公知技術が存在し、その公知技術の上で開発を進めることができた。しかしコアシェルラテックスのような学会でも取り上げられたばかりの技術では、公知技術は少なくライバル会社の特許群を完全に避けることはできないと予想される。実際に1年間眺めていたが、特許抜けを行うことは不可能な状態だった。
このような場合には、特許を買うか全く新規なコンセプトによる技術開発戦略を展開するのか早期に決断をしなければいけない。特許を購入する交渉をしないで同じカテゴリーの技術開発を進めても成功の可能性は極めて小さくなる。むしろ特許を購入する前提でライバル会社と同様の技術開発を進めたほうが良い。(続く)
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スパイスを利かせた模倣によるイノベーションでは従来の技術革新と訳されていたそれと異なり、成功確率が高くなるだけでなく、事業展開のスピードも速くなる。ゴム会社で破壊的な技術革新をめざし苦労した経験から、写真会社では模倣によるイノベーションの方法を探った。
温故知新はさすが賢人の言葉だけあり、いつでも使える戦略である。同様に不易流行に着目するのも良い方法だと思っている。そのほかに、開発対象(オブジェクト)の特徴になっている機能をそれがすでに実現された製品とは異なる構造で実現する方法(戦略1)もある。
写真学会から賞を頂いた高い靱性のゼラチン薄膜製造技術を例にこの方法を説明する。写真フィルムにゼラチンは重要な素材であるが脆いという問題と現像処理時に柔らかくなり傷がつきやすい問題があり、古くからその解決方法として硬いシリカゾルと柔らかいラテックスを併用してバランスを取る方法が使われてきた。
しかし、異なる表面状態のコロイド溶液を混合すると超微粒子が凝集し沈殿したり塗布溶液の安定性が悪くなったりする。すなわち溶液の安定性を保つ手段を講じなければシリカゾルあるいはラテックス粒子が沈殿する。しかし、沈殿を防止できてもわずかな凝集の生成を防止できず、この方法には限界があった。
この限界を克服する方法として、シリカ超微粒子をコアとしてその周囲をラテックスで被覆する技術がライバル会社から実用化されていた。このコアシェルラテックスを分散したゼラチン溶液では、シリカの超微粒子がラテックスで被覆されているので凝集できず、従来技術では実現できないレベルの高靱性ゼラチンを製造することに成功している。(明日に続く)
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イノベーションとは何か、と問われたときに、今は技術革新と答えないことにしている。「革新」という言葉の響きから従来技術の破壊的イメージを与えてしまうからだ。イノベーションをこのような狭い意味でとらえるとイノベーションを起こしにくい環境を創りだしてしまう。
従来技術にささやかな新機軸を打ち出しただけでもイノベーションと呼んでもいいのではないか。新機軸でなくてもよく、不易流行の言葉が示すように、それまで気がつかなかった共通コンセプトを改めて具現化してもそれはイノベーションと思っている。
イノベーションをこのようにとらえてみると、模倣によるイノベーションという方法も存在することに気がつく。もちろんまるっきりそのままコピーしたのではイノベーションにならない。ここでいう模倣とは、大半を模倣し少しだけスパイスを利かせるような模倣である。
酸化第二スズゾルとラテックスによる帯電防止層の技術は、特公昭35-6614の再現であり、すなわち模倣であるが、単なる模倣ではない。誰もが再現できなかった技術をパーコレーション転移のシミュレーションプログラムと新評価技術でロバストの高い製造プロセスを明らかにし、特許の実施例を誰でもできるようにしたのである。
このような技術は、その革新の程度が分かりにくい。しかし30年以上前の優れた技術でありながら活用されてこなかった原因を明確にすると「コロイドでは生じにくいパーコレーション転移を制御できるプロセシング技術」が開発されていなかったことに気がつく。
この場合はソフトウェア―の技術だったが、この考え方を応用してイオン導電性高分子を保護コロイドとしたラテックスで新たな帯電防止層を開発できた。古い技術をスパイスを利かせた模倣で新機軸の技術によみがえらせて、それを用いて異なる技術を生み出すことができたのだから一連の技術開発行為はイノベーションと呼んでもいいと思っている。
ちなみにイオン導電性高分子の保護コロイドを用いた帯電防止層は、酸化スズゾルを用いたそれよりも価格が安い。ただ現像処理後に両者の帯電防止性能に若干の差が存在する。現像処理前には明確になっていないイオン導電性と電子伝導性の差が現れるのだ。また透明性のレベルも酸化第二スズゾルを用いた帯電防止層のほうが高い。写真フィルムが生産されていた時には商品の要求品質に応じて使い分けられていた。
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酸化第二スズゾルを用いた帯電防止層の開発は、温故知新の精神で進められたが、過去の類似技術の開発の歴史を特許から学んでみると、パーコレーション転移という現象が不易流行のごとく見え隠れした。
温故知新はイノベーションを起こすためによい方針だが、不易流行という技術の流れに対する視点はイノベーションのヒントを得るよい手段になると思われる。
技術開発競争が激しい分野では、日々新しい技術が生まれ、それに打ち勝つため新たな技術を開発しなければならない技術者にとって、不易流行を味わっている余裕などないかもしれないが、隘路にはまった時などは、思い切って今の仕事を辞めてしまうのもよい選択である。
そして頭の中をリセットし、過去の開発の歴史を眺めてみるのである。新技術を生み出していたつもりが、実は見落としていた理想の機能を無意識に追及していたかもしれない。
異業種に移るという円満退社の転職で強制的なリセットが働いた。そのおかげで、帯電防止層の開発の歴史を真っ白な気持ちで眺めることができた。そしてパーコレーション転移という数学の本で読んだ現象を思い出した。
さらに温故知新を心掛けていたのでライバル会社の特許に書かれていた自社の古い特許を見つけることができた。見つけた時には、その内容よりも、先輩社員のすぐれた業績であるにもかかわらず周囲のだれもが知らない特許だったことにビックリした。
技術の伝承の問題を放置しておくとこのような問題が発生する。研究報告書や特許を一生懸命管理していても、肝心の技術そのものを軽視する風土ではこのような問題が発生する。事務の標準化が進み、業務は合理化されたが、今後は次世代に伝えるべき技術を整理することが重要と思われる。
この点についてコア技術という視点がすぐに言われるが、技術を生み出しているのが人間である以上、コア人材という視点が重要である。その技術を本当に生み出した人材までさかのぼると不易流行のヒントも得られる。
特公昭35-6616を発見した時、その発明に関係した人を捜し求めたが、実際に発明した人までたどり着けなかった。しかし、その過程で帯電防止層について、科学的ではない、独自の考え方に接することができた。帯電という現象は、一部の金属について科学的な証明がなされているだけで、実際は複雑である。
複雑な現象を科学的に解明しようとする努力は大切であるが、一方で経験論から技術的に解決する工夫も重要である。交流を用いた評価技術のヒントは経験論から生まれ、福井大学客員教授時代に青木先生のご指導で数値計算による科学的な証明にも成功した。
帯電の評価法が直流の視点で組み立てられていた時代に、インピーダンス法はささやかなイノベーションである。そしてインピーダンス法はパーコレーション転移の閾値検出の感度が高く、パーコレーション転移の制御技術開発に重要な役割をした。温故知新で巡り合った帯電現象の評価技術と不易流行のパーコレーションという現象とが結びついた。
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特公昭35-6616特許に書かれた実施例の内容は、透明導電性微粒子と高分子バインダーを組み合わせて透明導電性薄膜を製造した、当時では世界初の技術である。今となっては昔の話になるが、かつて写真業界では現像処理後も安定である透明導電性薄膜の技術が、帯電防止技術の目標となっていた。
その目標はATO(アンチモンドープの酸化第二錫)を用いて、ライバル会社から最初に商品化されたが、やや青みがかっている問題があった。この技術が発表される20年以上前に、完璧に透明な帯電防止層ができていたにもかかわらず、その技術を再現することができなかったので、問題を抱えたまま商品化されたのだ。
もっともライバル会社の特許にはやや青みがかった問題など書かれていない。また多少青みがかっていてもその色味を消すこともできたので問題は無いともいえるが、昭和35年の技術を再現し、その透明度に接すると、ライバル会社の技術とはいえため息が出た。
ATOを用いた帯電防止層の特許は100件以上出願されていた。関係特許も含めると1000件近くに上る。しかし昭和35年の特許のおかげで、ライバルのATOを用いた技術に抵触しない優れた技術で透明帯電防止層を実用化することができたので、これもイノベーションの一つである。
ライバル会社の多数の特許を読みながら、パーコレーション転移という現象が理解されていなかっただけで技術開発に膨大な時間がかかっていた現実と不易流行という言葉の妙を味わっていた。
昭和35年の技術では非晶質導電体が帯電防止層に使われていた。しかし、パーコレーション転移の制御方法が書かれていなかったために未完成の技術と決めつけられ、ライバル会社では結晶質の導電体を用いてその実用化の努力が20年以上行われた。
ライバル会社の膨大な特許は、さすがにトップ企業なので優秀な技術陣によりうまく書かれており、それらを読むとその長い開発の努力の中でパーコレーション転移を制御する技術の開発を意識せず長く不変に続けられてきた様子がよくわかる。まさに不易流行の世界である。
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昭和35年の特許を基に開発したフィルムの帯電防止層は、温故知新の言葉通りのイノベーションだった。金属の塩化物を加水分解して水溶液のゾルを合成する。そこへ高分子バインダーをまぜて帯電防止層の塗布液とする。ここまでは古い特許に記載された通りである。
しかし塗布の条件をうまく制御しないとパーコレーション転移が起きず、導電性の無い薄膜となる。まず、現象をシミュレーションするプログラムを開発し、パーコレーション転移が起きた時にどれだけの導電性の薄膜になるのか予想した。
次にパーコレーション転移の検出感度が高い評価技術を開発し、パーコレーション転移がどのような製造条件で起きるのか探った。見方を変えれば、このような手順は昭和35年の特許に書かれた実施例をリバースエンジニアリングしているようなものだ。
写真会社に転職した時、日本化学会や高分子学会ではパーコレーション転移という言葉は、一般的ではなく、このような現象を考察するときには抵抗の並列接続と直列接続をモデルに考える混合則が一般的であった。ただ、数学や物理の世界では知られており、スタウファーの著書なども販売されていた。
昭和35年の特許が公告となった時は、ITO薄膜が発明された頃であり、パーコレーション転移のような概念は知られていなかった。だから杜撰な発明になっていても仕方がないことである。パーコレーション転移は数学的には確率で引き起こされる現象なので、論理的ではなく偶然発明が完成するということも起きる。おそらく当時の発明者は、本当に驚いて「驚くべきことに」と特許に記載したのだろう。
科学ではこのような場合になぜ起きたかが重要になってくるが、技術では繰り返し安定におきるかどうかが重要になってくる。偶然見出された機能がなぜできたのかわからなくても、同じ動作を繰り返し、安定に機能を再現できれば、技術として完成したことになる。余談だが、これをだれでも設計段階でロバストを高く出来るようにしたのがタグチメソッドだ。
酸化スズゾルの技術では、パーコレーション転移の制御方法が意図的に隠されたのか、あるいは発明者が気がついていなかったのか不明だが、この発明の扱われ方から、後者であった可能性が高い。
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ゴム会社で行ったイノベーションはまさに技術革新であるが、写真会社では、管理職という立場もあり、部下にどのようにイノベーションを説明したらよいのか悩んだ。悩み続けた20年でもある。
その中で、温故知新というフレーズはよく使った。イノベーションとは、破壊的な変革ばかりでなく、穏やかな革新もあるはずだ。新しい価値を生み出すだけでもイノベーションである。温故知新とは、過去の技術成果を見直し、そこへ新たな考え方を結合してイノベーションを引き起こす、あるいは過去の技術を真似つつもそこへ新機軸を盛り込み変革を行う意味で用いていた。
転職した最初の成果である酸化第二スズゾルを用いた帯電防止層の技術は、昭和35年の特許、特公昭35-6616にパーコレーション転移の概念を結び付け、誰でもその実施例を再現できるようにしたもので、日本化学工業協会から技術特別賞を受賞している。
この昭和35年の特許については、実施例がうまく再現されず、ライバル会社からダメな技術という烙印を押されていた。しかし、特許に記載された酸化第二スズの導電性が推定10の3乗Ω程度であり、これを高分子バインダーに分散しパーコレーション転移を起こせば、安定に10の9乗Ωの透明薄膜を製造することが可能となる。
ただし、特許に記載された材料は超微粒子なのでパーコレーション転移を簡単に起こせないのだ。しかし昭和35年の特許ではそれが起きたことになっている。実施例に隠れたある条件を加えると容易に起きるようにできるのだが、その条件が実施されない場合には、帯電防止層として機能しない薄膜となる。シミュレーションでこのようなことを再現した。さらにインピーダンスを用いた評価技術を開発し、この評価技術で製造プロセスを探りながらその条件を見つけ出しイノベーションに成功した。
完成した帯電防止層は昭和35年当時の技術であり、何も新しいところは無い。しかし30年近くライバル企業だけでなく特許を出願していた企業でも実現できなかった技術である。技術の伝承の問題が含まれているが、特許が出願された当時はパーコレーション転移の研究が進んでいなかった時代であり、シミュレーション技術や評価技術も当時の科学水準では実施できなかった。
日本化学工業協会ではこの点を評価されたが、写真会社では何も評価されなかったイノベーションである。まさに穏やかな変革で、この技術を開発した後、イオン導電性高分子を用いた保護コロイドを開発し、新たな帯電防止層技術を開発している。穏やかではあったが、新たな技術を生み出すことができたので、一つの技術革新ととらえている。
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イノベーションは、経営の努力があって組織が動き、そして個人の能力が引き出され、その結果起きるのが理想である。中小企業では、スーパーマンの担当者により引き起こされることもあるかもしれないが、大企業では、いくらトップマネジメントが旗を振っても、ミドルマネジメントにつぶされるということが起きるから大変である。
このことに経営者は気がついているだろうか。高純度SiCの事業化を推進していた時に、上司は短期間にころころと変わった。その中には露骨にセラミックスの研究所をたたむように言ってきた上司もいる。その時はSiCヒーターの企画を提案し切り抜けたが、テーマに対して後ろ向きの上司のほうが多かった。
ゴム会社で最後にご指導いただいた上司は、左遷されたとうわさされていた。当方の上司になることが左遷の意味とは少し悲しかったが、この上司とは転職までの3年弱うまく仕事がはかどり、住友金属工業とのJVを立ち上げるまで業務が進んだだけでなく、副業として設定していただいた電気粘性流体のテーマで傾斜組成粉体や、ホスファゼン難燃オイル(注)、ERFの耐久性をあげる添加剤など多くの成果を出すことができた。
この上司のマネジメントは、それまでの上司と異なり、担当者として仕事がやりやすかった。しかし、ある騒動が起きたときに、うまく収拾していただけなかった。隠蔽の方向に事態が流れたのである。
当方がそれを我慢すればよかったのだが、まだ若かった。犯人捜しをしたのである。繰り返し行われたために犯人を見つけるにいたった。この状況で、上司がどのようにマネジメントを行ってきたのかも分かり、そのご苦労に涙が出てきた。
(注)ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの開発を入社して一年後に行った。このテーマではささやかなイノベーションを引き起こしたにもかかわらず、自分で合成したホスファゼンを難燃剤として用いたために始末書を書かされた。なぜ始末書を、という疑問もあったが、しばらく技術を温めていた。やがてこの技術は、難燃性オイルやリチウム二次電池電解質の添加剤として花開く。後者は日本化学工業から今でも販売されている。
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新入社員に対する講和は、わかりやすく心に響く内容であると忘れない。半年間の研修で多くの講師の方がイノベーションあるいは技術革新というキーワードを講和の中で述べられていた。
CIが導入されたときにも技術革新の方向として電池、メカトロニクス、ファインセラミックスの3つのベクトルが示された。有機高分子と無機高分子のハイブリッド前駆体を用いた高純度SiCの技術は、ゴム会社だけでなくセラミックス分野のイノベーションとも呼べる技術と思っている。
しかし、32年の技術開発経験から、このような技術革新の方法以外にイノベーションを効率よく引き起こす方法があると思うようになった。また、写真会社に転職してからは、意識的に高純度SiCのような技術革新を避け、新たなイノベーションの方法を模索した。
高純度SiCのようなイノベーションは破壊的な威力があり、革新という言葉にあっているが、6年間という長期間事業化で苦しんだだけでなく個人として失うものもあった。あまりにも効率が悪いだけでなく、企業で一人の従業員に期待するには残酷でもある。
高純度SiCの開発を行ってゴム会社から報われたのは学位だけであるが、学位も転職時のごたごたで、某大学の先生から寄付金を要求される事態になり、一度はあきらめかけた。つくづく一担当者がイノベーションを引き起こす難しさを痛感している。
企業でイノベーションを常に起こせる環境を作り出すには経営の努力が重要で、高純度SiCの開発では、かろうじてそれがあったので細々と続けることができたが、事業が立ち上がるまで、中間管理職のマネジメントが弱かった。ある騒動が起きてはじめて中間管理職も含め真剣に取り組んでもらえるような状況だったので、経営陣の理解があると言っても組織としてテーマが運営されていたわけではなく個人への負担が大きかった。
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