ゴム会社から写真会社へ転職し、セラミックスの研究開発から高分子材料の研究開発へ大きく担当する職務が変わった。転職先のセンター長は某フィルム会社T1社から10年前に転職された方で、T1社と異なる某フィルム会社T2から転職された方が次期センター長という位置づけでマネージメントを担当されていた。
ずぶの素人の当方はただ言われるがままの職務をする毎日であったが、素人目におかしな光景がいくつか気になった。そもそも写真会社に伝承されていた高分子技術は何だったのかよく見えない。
PETフィルムの表面処理技術にしても、帯電防止技術にしても、取り上げられていたテーマがおかしかった。その分野の素人なので技術がよく分からなかったのだが、毎日議論されている内容から「問題」は見えてくる。
例えば日々の技術の議論が、ただ処方因子を変化させてうまくいっただのいかないだのという内容である。そしてある程度目標物性に近づくと工場実験を行い、またうまくいっただのどうだったかの議論になる。
係長クラスの担当者に質問すると昔からやってきたことだから、という答が返ってくる。また写真の乳剤というのは難しい技術だから大きな技術の変更はできない、ともいっていた。
すなわち、現在のやり方は過去から伝承された技術だというのである。
日々の仕事のやり方はうまく伝承されているのだが、肝心の技術の中身に関してはほとんど伝承されていない。当方が理解したいために技術の中身について質問すると、昔から使われてきたから、というのがお決まりの回答だった。
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研究開発では自部門で取り扱えない問題を他部門に依頼するケースや、社内の横断的プロジェクトを組んでいるときにテーマ依頼をするケースが出てくる。このときドラッカーが教えるように「何が問題か」を議論したほうが良い。正しいテーマを依頼していない場合もあるからだ。
写真会社に転職したばかりの頃、工場から「工程汚染の改善」というテーマ依頼があり、調べたところ毎年依頼されているテーマだった。担当者から説明を聞いたところ、モグラたたきのような状態になっており、対策をとると問題になっていた物質による汚染は無くなるが、他の汚染が新たに発生している、という状態だった。
この問題はフィルムの表面処理工場の現場から見れば「工程汚染の改善」だが、本質的には表面処理技術のレベルが低いことが問題だった。ラテックス下引きと呼ばれる表面処理技術では硬膜剤が必要でその硬膜剤が工程汚染を引き起こしていたのだ。
毎年の依頼テーマでは、硬膜剤の変更を行うことがルーチン業務になっており、依頼された物質の汚染を0にする成果が出ていた。しかし、翌年には新たな硬膜剤の汚染対策と言う問題が依頼されていた。
この問題では、「硬膜剤を使わないラテックス技術の開発」が正しい問題である。担当者から、「それはできない。あなたは技術を知らないから簡単に言えるのだ」と言われた。先月まで高純度セラミックスの技術開発をやっていたので、担当者の指摘は外れていないが、「何が問題か」考えるのは、素人の方がうまく問題を見つけられるのかもしれない。
昔から岡目八目と言う言葉がよく言われるがこのことを言っているのだろう。他部門からのテーマ依頼を検討する時に全く関係ない企画部門のマネージャーも加えて「何が問題か」議論するのが良いかもしれない。正しい問題を解かない限り、正しい答えは出ない。
「硬膜剤を使わないラテックス下引き技術」は、若手を抜擢し、T大N先生のご指導を仰ぎながら進め、無事開発できた。N先生のご指導も「何が問題か」を考えるご指導だった。硬膜剤の反応という問題を考えるのではなく、レオロジーで解決するという具合だった。またご相談内容も下引きという問題ではなかった。「何が問題か」という問う作業は本質を問う良い質問である。
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リーダーシップは天性の素質があれば容易に発揮できる。しかし素質が無くても管理者になったなら求められ、これで悩む人が出てくる。
高3の時、「僕は君たちのような優秀な生徒を教える自信が無い」と挨拶された先生がいた。この挨拶には受験を前に不安になるとともに驚かされたが、授業は、挨拶以上に謙虚で、黒板の前で本当に悩んでいるのか、と心配になる時もあった。
不思議なことに、この不安を与えるポーズのおかげで授業中に寝ている人や内職をやっている人が皆無であった。皆ハラハラしながらその先生の授業を受講していたのである。
受験を控えた時期であったが、その授業で不満を言う生徒はいなかった。先生が一生懸命生徒に教えている、という意欲が十分に伝わってきたからである。
誠実と真摯は、ドラッカーに良く出てくる単語で、経営者は後継者を選ぶ時に誠実で真摯な人物を選べ、とある。リーダーシップの素質が無くても管理者になった時に、この数学の先生のように誠実で真摯に実践すれば、部下はついてくる。
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ドラッカーによれば、「貢献」と「自己実現」が知識労働者の働く意味である。
貢献とは、仕事を通じて会社に貢献すると、会社の社会貢献により間接的に社会に貢献していることになる。この理解は簡単なようで難しい。サラリーマン時代にどのように会社に貢献しているのか、時々自問自答していた。貢献が認められず写真会社で左遷された時も考えた。会社を辞めるべきか、従来通り成果を追究し貢献するべきか。
退職するつもりで業務を行ったら、カオス混合技術を実現できた。廃PETボトルを用いた射出成型用樹脂ができた。そして、最終出勤日3月11日は東日本大震災で、最終講演も送別会も吹っ飛び帰宅難民となり忘れられない記念日になった。
目標管理を行っている会社は多い。全社方針からブレークダウンされた個人目標を達成すれば会社に貢献していることになる。しかし自分が頑張って目標を実現しても会社の利益が上がらない時など、研究開発を担当しているとそのような矛盾に遭遇する。
研究開発は明日の飯の種を担当しているのだから時間差はできる、というのは一つの回答だが、素直に納得できない時もある。
自己実現は貢献よりもわかりやすいが、意欲を持ち続け実践するのは難しい。自己実現の目標が努力しても遠のいてゆく場合である。若い人の悩みの種になったりもする。
若い人の自己実現を支援するマネジメントは、若い人の意欲を上げ組織目標を達成するために重要であるが、それを実践するのは難しい。管理職の仕事として見えにくい会社もあるからだ。しかし、メーカーでは技術者をまず専門家として育成すべきである。その後管理者として育成しても遅くはない。
ゴム会社では最初高分子の専門家として育成された。その後1980年代のセラミックスフィーバーとCIの導入でセラミックスの専門家として学位を目指すことになった。しかし、学位を取得したのは写真会社へ転職してからである。一度遠のいた目標を達成できたのは、ゴム会社で知り合った諸先輩や先生方の後押しがあったからである。
風土の異なる環境で経済的な面も含め大変だったが、目標を実現してみてゴム会社の人材に対する哲学の伝統を知ることができた。このような風土の会社は強い。
www.miragiken.com は、若い技術者へサービスとしてはじめました。未来技術を取り上げそれをわかりやすく伝えるためにアニメにしました。何かご希望がございましたらお問い合わせください。
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一人で大きなテーマを抱えている、ということは大変なことだった。しかし夢があった。ゴム会社で半導体事業を立ち上げ事業を行う、という夢は、先行投資を決めた方々の共通したゴールだった。
社外にも同様の夢を共有化していた先生方がいた。その方々のことを考えると事業として立ち上げるまでギブアップするわけにいかなかった。運よくS社から半導体治工具のJVのお話をいただけたのは、旧無機材質研究所の先生のおかげだった。
ギブアップしなかったのでJVの話が来た、ともいってくださる方もいるが、研究シーズを無機材質研究所で育てたプロセスが重要だったと思っている。
リスクの高い研究シーズを公的研究機関で育てる産学連携研究は、いつの時代でも有意義な戦術である。事業化が長引き、社内の風向きが悪くなった時に社外の援軍として機能させることができる。
産学連携の有効性に疑問を持たれる方もいるかもしれない。しかし仮に社内で何とかできる研究テーマでも事業化期間が長期になりそうな場合に、シーズの段階から思い切って公的研究機関を巻き込み産学連携体制で研究開発を進めるのは賢明な方法だと思っている。
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30年ほど前の高分子プリカーサーを用いた高純度SiCの研究開発は、2憶4千万円の先行投資でスタートしたが、世界ランク5位のゴム会社が世界ランク3位の会社を買収したことでテーマの位置づけが大きく変動した。
自分以外に誰もいない、1階がパイロットプラントで二階が実験室の広い建屋に独身寮から歩いて数分の距離を通う毎日になった。FC棟と呼ばれたその建物は、社内のメール便の区域からも外され、誰も来ない日が多くなった。精神衛生上良くなかったので結婚して都心から通う習慣に変えた。
この結婚という習慣の変更は大成功でS社からJVの話が舞い込んだ。JV立ち上げで困ったのは2人で動かしていた特殊横型プッシャー炉の運転である。工夫して一人で動かし、5kg生産し、試作用にS社へ供給した。
共同開発契約も締結され、高純度半導体治工具生産に関する事業に必要な特許について共同出願を行った。その後紆余曲折あって現在のゴム会社で継続されている半導体用高純度SiCの事業となっているのだが、このJV立ち上げまでは一人で大変だった。
しかしそれを支えてくださったのは経営陣である。誰も訪問しないFC棟を時々どなたかが覗きに来てくださった。社長まで来られた時にはびっくりした。がんばれよ、の一言だけだったが、それで十分だった。また、この事業が30年近く続いている感激を言葉では表現できない。さらに転職したことで偶然この技術の某学会賞を2回も当方が審査することになった。この裏話は機会があれば公開したい。
一連のエピソードは www.miragike.com のサイトでもアニメで今後展開してゆく予定である。
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研究開発テーマには、社内の状況から方針変更したり、中断したりしなければいけない場合がある。あるいは企画段階では重要テーマだったのだが研究開発中に市場のポジションなどがかわりテーマの重要性が見かけ上極端に下がった場合にはテーマは中断される場合が多い。
このとき管理者の視点とテーマ担当者の視点がずれていると、テーマの見直し過程で担当者と意見が合わず、作業がうまくゆかない。しかし、この時の対処方法はそれほど難儀なことではないのである。コーチングで担当者の視点を是正すればなんとかなる。
難しいのは、視点が一致しており、さらに今後のため、あるレベルまでテーマを続けたほうが良い、と感じている場合である。このような場合、テーマ担当者とその管理者には中断した時の損失と継続した時の利益が感覚として見えているが、部外者にはそれが見えていないために、中断を躊躇していることに対して周囲の理解が得られない。
この場合にはテーマを辞めざるをえない状況だが、会社のために継続することが本当に重要だと「誰かが」感じているのならば、重要性を共有化できる若手にアンダーグラウンド(いわゆる闇研究)で担当させると良い。この時大切なのは、具体的なゴールの姿を関係者で共有化しておくことと若手の了解が得られていることである。
もし若手が働く意味を理解し、誠実で真摯な社会人であれば、見事に闇のミッションを実現し、会社にイノベーションをもたらすに違いない。ワークライフバランスなど労働者の働き方が話題になり、さらに人件費の高騰から、残業の概念を無くす方向で議論が進められているなかで、このような見解は批判を受けるかもしれないが、凡庸な知識労働者がイノベーションを起こす機会はこのような場合である。
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高分子の難燃化技術を担当していた時の上司はマネジメントがうまかったのか下手だったのかよくわからないが、この管理者がいなかったならば、高純度SiCの事業がゴム会社で生まれていなかった可能性が高い。
なぜなら、始末書騒動とならず、樹脂補強ゴムを担当した時のようにテーマが中断され人事異動していたなら、新しい技術シーズが生まれるための土壌ができなかったからである。ホスファゼン変性ポリウレタンフォームを研究したために始末書を書くことになったのだが、始末書を書きあげるまで管理者とのコミュニケーションの時間が大幅に増えたのである。
もっとも当方が、「人に聞けない書類の書き方」にあるように、素直に謝罪して(謝罪する理由は不明だったが)始末書を簡単にかたずけていたならば、コミュニケーションの時間はとられなかったかもしれない。
しかし、何事も円満に解決したい、という管理者のおかげで、始末書をもとに炭化促進型難燃化技術の企画は練り上げられた。そして、ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームという技術が生まれた。
悪く言えば問題が起きないようにその場をつくろうようなマネジメントが、ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームを偶然生み出した、ともいえる。データも十分に無い段階で、燃焼した時の高温度でホウ酸エステルとリン酸エステルが反応してボロンホスフェートが生成するファンタスティックなテーマという少し恥ずかしいフレーズまで言わされた。
こっそりと夜遅くまで実験をやっていたのは大変悪いことだ、と遠回しな表現でくチクリチクリと釘を刺すように責められ、まだアイデア段階で狙っているゴールの姿まで話さなければいけない状況になった。
全て話したところ、すぐに始末書とボロンホスフェートが本当にできているというデータを持ってこい、と言われた。
周囲の評判では、マネジメントが下手で**だと悪いうわさばかりだったが、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームから高純度SiCの新合成法開発までの実験プロセスだけを書き出してみると、典型的な目標管理のプロセスで、歪んではいたがコーチングされていた状況が浮かんでくる。本当は優秀な管理職で、周囲がそれに気がついていなかっただけかもしれない。
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上手くいっていない研究テーマに対して中止の判断をするのは、そのテーマをうまくゆくようにマネジメントするよりは簡単である。STAP細胞の騒動では理研所長は難しい道を選んだのである。理研所長は研究経験豊富な方なので、STAP細胞ができなかった時のリスク、特にご自分の晩節を汚すようなことになることを承知で今回の決断をされたのである。
この理研所長のような管理者により、多くのイノベーションが生まれてきた。そして、その所長の決断を促したのは、小保方さんの熱意であることは、新聞にも書かれているとおりである。小保方さんが誠実で真摯な研究者であることをただ祈るだけである。
企業の研究開発で理研所長のような決断をすることは難しい。しかし、うまくいっていないテーマでどうしても中止しなければならない状況になった時に、管理者はテーマ担当者とよく話し合っていただきたい。そしてテーマ担当者がどうしてもそのテーマを継続したい、という決断を変えないならば、経営に影響が出ない程度に大幅に縮小してテーマを継続できるようにマネジメントすべきである。
一方、テーマ担当者がそれではやりたくないといったなら、中止すべきである。決してここで担当者を激励してはいけない。担当者は責任を放棄しているのである。責任を放棄するような人物に重要なテーマを任せてもうまくゆくはずがないのである。
予算も0で、別のテーマを担当しながらアンダーグラウンドでもテーマを継続したいと担当者が述べたなら、管理者は担当者と心中するつもりで、とりあえずテーマを中止し、アンダーグラウンドでテーマを遂行することを経営陣と調整するのである。
このとき大切なことは全く調整しないで完全にアンダーグラウンドでテーマを継続してはいけない。管理者がいつ人事異動するかわからない時代に経営陣に隠して仕事を進めるのは人材の無駄遣いとなる。
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企業の研究開発において、上手くいっていないテーマについて継続の判断を左右するのは、現場におけるそのテーマ担当者の考え方である。実際の実行責任は管理者が負っているが、管理者がテーマを継続すべきかどうか判断する場合に、テーマ担当者の考え方を重視するかどうかは、管理者が研究開発を理解しているかどうかに影響される。
例えば、STAP細胞の騒動では、学会会長が異例の研究中止宣言を出したにもかかわらず、理研所長は研究継続の判断を下したばかりでなく、小保方さんにも研究の機会を与えている。
もし小保方さんが誠実で真摯な研究者であれば、理研所長の判断が正しく必ずSTAP細胞はできるだろう。また、所長はじめ理研のメンバーも、性善説に従いそこにかけている。しかし、もし小保方さんが、20年以上前当方のFDを壊した犯人のように、誠実さのかけらもないような研究者だったなら、STAP細胞はできない。
学会会長が研究中止宣言を出した段階であれば、理研所長が研究中止を決断しその決断が仮に間違っていたとしても歴史は理研所長を許しただろう。しかし、理研所長は研究継続の決断を下した。
世間は理研のメンツのためにテーマを進めている、と見たかもしれないが、当方は、所長が研究開発と言うものを知り過ぎていたためにあのような判断をしたのだろうと思った。所長は小保方さんを信じたのである。そして、所長自らSTAP細胞の研究に夢を賭けたのである。
経営の視点では極めてリスクの高い選択であり、通常このような決断は下されない。しかし、りーダーが現場担当者と夢を共有化した時に常識とは異なる決断がなされ、イノベーションが起きる。ただし、それは現場担当者が誠実で真摯な人物の場合だけである。
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