フローリー・ハギンズ理論の教科書を見ていただきたい。
今 N0個の溶媒分子、N1 個の高分子があり、φ0 、φ1 を体積分率とするとφ0+φ1=1のとき、φ0=N0/(N0+xN1)、φ1=xN0/(N0+xN1)である。
エンタルピーの変化は溶媒‐溶媒間や高分子‐高分子間の接触に代わり、溶媒‐高分子という接触が生じると仮定して計算される。いま、混合時の体積変化を無視してこのような新しい接触が出来る際のエネルギー変化をe01 とし、 q個の溶媒‐高分子の接触ができたとすると、エンタルピーの変化はΔH=qe01 となる。
さらに、高分子は φ0xz個の溶媒に囲まれている( zは近接する座標の数)と考えることができるので、kTχ=z e01とおけば、混合エンタルピー を ΔH=RTχn0φ1と表せる。
ここでχ は、フローリーハギンズ理論で有名な相互作用をあらわす無次元量のパラメータで、この値が低いほど良溶媒であることを示す。
さて、ここで高分子―高分子間の接触を改めて考えると、χの値が正である場合は、相溶しないという結果になる。
昨日まで式を出さずに述べてきたが、改めて教科書の説明と現実がうまく合わないことに気がつかれたと思う。すでにχパラメーターが正の場合でも相溶する例を説明した。そもそも低分子の正則溶液の理論の考え方をそのまま利用しているところに無理がある。
また、溶媒と高分子の組み合わせでは、混合エントロピーの導入は比較的簡単そうに思われるが、高分子と高分子の場合には工夫が必要である。低分子は束縛無く動くことができるが、高分子は一本の紐状になってFH理論で考えているモノマー単位の自由度を奪っている。
またFH理論は非圧縮下で考察しているが、圧力が加わった場合には相溶しやすくなるはずである。その時混合エントロピーは小さくなると思われる。スリットを利用したカオス混合装置のアイデアはこのような考察から生まれた。
6月6日(金)に東工大で開催される高分子学会のフォーラムで招待講演者としてカオス混合装置の話をする。また、www.miragiken.com でも未来に向かって解決しなければいけない話題、高分子のツボに関する話を取り上げてゆくのでご覧ください。
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高分子技術者ならば、KKDでFH理論を眺めてみたときにそのおかしさに気がつくはずである。すなわち昨日書いたようにエントロピーの扱いを不思議に思うはずである。低分子の正則溶液の混合と高分子の混合ではエントロピーの扱いが大きく変わらなければいけない。さらにほとんどの高分子は多分散系であり、数学的な扱いもかなり煩雑になるはずである。
新入社員の頃、SP値を計算で求めてはいけない、と言われた。便利なSMALLの式があっても必ず有機溶媒にポリマーを溶解してみてその溶解性からSP値を求めるように言われた。サンプルビンにSP値の異なる有機溶剤を入れ実験台の上に並べ、そこへゴムを入れて溶解性を確認する作業は退屈な実験であった。
実験ノートに落書きもしたくなったが、溶解する様子を丁寧にノートに書き貯めた。現在のような便利なデジタル機器など無いので、文章表現力を磨く必要と注意深い観察眼が求められた。「溶けた」や「溶けない」だけではいけないのである。実験ノートには、一定量の溶媒にどれだけの量のゴムを溶解できたのか、またその時の溶け方はどのようであったのか、不溶解分は無かったのか、などきめ細かく書き留める必要があった。
週末には指導社員が実験ノートを見ながら正しくSP値が求められていたのか、そのノートから判断するのである。理研では許されても、ゴム会社ではハートマークなど実験ノートに書けない。そのような記号を書けば「実験中に**のことを考えている」と噂されてしまう。さらにだれでもわかる客観的な表現による記録が実験ノートには求められた。ドロドロ、ベトベトもだめだ。粘度を表現したいならば少なくとも粘度計で計測された値を書かなければならなかった。
おかげで週末に料理をやっていても目の前の状態から添加スピードを変化させたり添加順序を変えたり勘が働く。女房よりも調味料の分散だけはうまいという自信はこの時の実験で身についた。味にムラができるので味の素や砂糖、塩などを無造作に添加してはいけない。ゴム粉でも添加方法が悪いとダマダマになる。溶けないように見えても、すこしずつ撹拌しながら添加するときれいに溶ける場合がある。だから、手抜きをするとSP値が不明になったりする。酢豚で少し塩味が足らないから、と最後に塩を無造作に入れると塩の塊のついた豚肉料理ができたりする。イオン結晶だからいつでも簡単に溶解すると誤解してはいけない。
また、低分子溶媒へ高分子を分散する時に分子量の効果が現れることは素人でも気がつくと思っていたが、写真会社へ転職して驚いた。FH理論を知らなくても構わないが、高分子に分子量という因子があり、それが溶解性に影響を与えていることを知らない人がいた。温度をあげれば何でも簡単に溶解するという誤解もあった(注)。
FH理論のχパラメーターは温度の逆数と相関する式なので、温度を上げた時に生じる現象では、χは小さくなり相溶しやすくなるはずである。しかしそのようにならない場合も存在する。側鎖基に嵩高い基を持ったポリオレフィンにポリスチレン系TPEを相溶させて透明な樹脂を作ったが、それを加熱していったら、ポリスチレンのTgあたりで白濁してきたのである。
この現象はFH理論のχパラメータで説明ができない。さらに面白いのはポリオレフィンのTg近辺でまた透明になるのである。ポリスチレンのTgからポリオレフィンのTgの間で相分離したのがまた相溶し透明になる、というおかしな現象である。マトリックスを構成しているポリオレフィンはTgよりも15℃以上高くならないと加重をかけていない状態では変形しないのでこの現象を可逆的に観察することが出来た。
(注)化学系の学部を出てきて高分子科学の実験を行っている、といってもそれなりの知識があるとは限らないのでOJTが重要になってくる。知識の有無を見抜くのは大変である。知識が無い人という扱いをするとモラールが下がる場合もある。知識があるという前提で指導してもおかしなことが二つ三つ見つかったら知識が不足していると諦め、教育をしなければいけない。このあたりは企業により考え方が異なり、ゴム会社では丁寧な現場教育が慣習になっていたが、写真会社でそれを行っていたら上司から注意を受けた。理研のように未熟な人を全く指導しないという風土もある。未熟も自己責任という考え方である。しかし、30過ぎても未熟と言い訳をされては困るのである。当方は30過ぎたときに、一人で高純度SiCの事業化という死の谷を歩いていた。マーケティングから学会発表まで一人で全て行うのは大変だったが、稀に役員の方が様子を見に来てくれて、大きな会社でありながら社長までガラス張りの環境で仕事ができて楽しかった。
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FH理論の物理学的な基礎事項には、ポリマーの混合におけるエントロピーとエンタルピーの扱いが含まれている。この点は、低分子における正則溶液の混合における扱いとどういう関係にあるのだろうか。
低分子の混合で考察される混合エントロピーの大きな効果は、一般に液相における混和現象に基づくもので、混合によるエンタルピーの扱いではあまり好ましくないためである。低分子の流動性における混合のエントロピーは、分子が自由に混ざり合って集まる状態を全て予測して求める、すなわちコンビナトリアル的なエントロピーである。
手元に教科書があれば見て頂きたいが、これはΣiNiln(Ni)に相関する。ここでNiは、系におけるiという種類の分子の個数を表す。ポリマーにこの考え方を拡張したFH理論では、この項をΣiNiln(φi)に置き換えている。なおφiは、あるポリマーiの体積分率を表す。
各ポリマーは、モノマーの重合によってできている。すなわち、ポリマー一分子には大量のモノマーが含まれている。しかし、ポリマーの混合物を熱力学的に捉える時の分子の個数は、これに比較して少ない。なぜならモノマーa個で1個のポリマーができるので、b個ポリマーが存在すれば、モノマー単位はaxb個存在することになるからである。
ここから得られる結論は、低分子の場合に比較してポリマーの混合のエントロピーは小さく、その相溶性を促進させるエントロピー的な力は弱いということになる。これでは以前この欄で紹介したが立体的に嵩高い側鎖基を持ったポリオレフィンとポリスチレン系TPEとの相溶を考えるときに矛盾が出てくる。
科学的な矛盾を承知し、自らの経験を信じPPSと6ナイロンをその間隔が1mm前後の平行なスリットへ通したら相溶し透明になった。FH理論を考えてきた経験で、すでに科学で説明された事柄でも技術者の長年の経験と合致しないところは、一度経験知で見直した方が良い、と言える。
第三者はそれをKKDによる開発と呼び、中には軽蔑する人もいるが、KKDが大きな発見をもたらし、新たな科学を創り出す事がある。少なくとも科学の存在しない時代には、KKDによる自然現象への取り組みが成されていた。科学の時代においてもKKDは時として大きな発見を導き出す。
例えばSTAP細胞は、植物では起きる現象だが動物では起きない、という科学的常識が、度胸のあるリケジョによりひっくり返され生み出された新たな科学の領域である。理研の笹井副センター長が記者会見でそれに近い発言をされた。経験豊かな日本のトップランナーがリケジョに引きづられた結果KKDでSTAP細胞の科学の世界が生み出されたのは新聞や週刊紙の報じるところである。理研という国民の税金で運営されているレベルの高い場所で作成されたイタヅラ書き程度の実験ノートは、その度胸の大きさを物語っている。
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FH理論は、無理矢理個々の高分子鎖を平面に組み込む、単純な格子理論である。このモデルを実際の現象で表現するならば、高分子がTm以上で完全に溶融し、液相を形成して混ざりあっている状態である。高分子のモノマー単位を一つの格子にそれぞれ当てはめているために、モデルの図を見る限り、ランダムに入っているように見える。
実際の溶融した高分子がこのモデルのように一つの格子に一つのモノマー構造を当てはめるようなコンフォメーションをとれるならば、このモデルを使って相溶という現象を熱力学でうまく説明することが可能である。
ところが現実の溶融した高分子は分子運動しており、様々なコンフォメーションを取るので、厳密な配置計算は明らかに実現不可能である。すなわち単純な格子モデルを用いたFH理論のような現象が起きないだけでなく、仮にそのような現象が起きたとしても一瞬にモデルとは異なる配置になると予想される。
一方で高分子融体についてレオロジーデータでやや怪しいデータに出会うことがある。自分が測定した動粘度よりも高いデータがあるのだ。注意深い研究者ならば、高分子融体が分子鎖一本一本の自由運動で構成されていないのではないかという疑問を持っているので、測定条件を変えて測定を行ったりして間違いに気がつく。
高分子の種類によっては、凝集力が強く高分子一本一本に遊離しにくい場合もある。そのような高分子の場合、高分子融体のレオロジー測定では注意が必要である。例えばPPSについて説明すると、測定器にサンプルをセットしTm以上に昇温しただけでは安定した融体の動粘度を測定することができない。サンプルセット後一定時間不連続な歪みをかけて測定器で混練し高分子鎖をほぐしてやらなければうまく測定できない。
10年以上前に推進された国研、「高分子の精密制御プロジェクト」の成果で、この10年間に高分子鎖1本のレオロジーデータも多数公開されてきている。高分子鎖一本のデータは、今ようやく得られつつある状態なのだ。あらためてFH理論について大胆なモデルで考え直す研究者が現れても良いと思う。FH理論の改良は実務上大変有益な成果をもたらす。STAP細胞と同等以上のイノベーションを引き起こす可能性がある。
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先週行われた理研の会見を受けてネットには様々な反響が書かれている。また、テレビ報道でもやや的外れな意見が述べられたりしており、今回の問題が一般には誤解されやすい事件であると思われる。例えば科学的検証を行うに当たって小保方氏をメンバーから外している点について。
この点について小保方氏がかわいそうだ、という意見があるが、それは科学的検証を厳密に行う、という視点から的外れの意見である。また今回の騒動の原因は小保方氏の科学者として未熟な行動とそれを許した理研の体制にある。そして、STAP細胞は誰の成果か、と問われれば、科学的な成果は未だ得られていないので、誰の成果でもない。
もしこの段階で理研以外の研究チームが再現性よくSTAP細胞を作ることができ、その科学的証明を完璧に行ったなら、その研究チームの成果となる。これが科学の世界の厳しい掟である。税金で運営されている理研としては、まず理研で科学的成果を出すことが最重要課題となってしまったのである。それでは小保方氏が報われないのでは、という意見が出てくるかもしれないが、それに関しては、技術的成果の評価を受けるチャンスが残っている。
技術的成果は特許でその権利が守られる。このあたりは理研も十分に配慮し、論文の取り下げを行っても特許の取り下げまで行っていない。ただ、この特許に対して理研がどこまで配慮しているのかについては、企業で厳しい特許戦争を経験してきた立場から疑問が出てくる。すなわちこれまでの会見内容からインチキ基本特許を出願できる状況を作ってしまったのだ。
例えばSTAP細胞について全く素人の当方でも、現在理研が出願しているであろう特許内容と、それを踏まえた上で理研の特許と差し違え、新たな権利範囲でSTAP細胞の技術を権利化できる特許を書くことができるのである。もし小保方氏が力量のある研究者であれば、このリスクに気がつき、すぐに対策を打つ行動をするはずである。
裁判の戦略を考えるよりも技術の権利についてそれを守り切る戦術を実行することの方が大切である。当方が同じ状況に遭遇したならばその様に行動するし、類似の状況では会社に迷惑をかけないことをまず配慮してきた。STAP細胞の特許の権利については、一個人の権利というよりも国家の利益の観点からも無視できない。
有効な戦術をとらなければ現在出願されているであろう特許でSTAP細胞の個人の権利を守りきれないだけでなく、出願人としての国の権利も守られず税金の無駄遣いとなってしまう。小保方氏がもし研究者としての権利を主張するのであれば、それを守り切る行動を取って頂きたい。自分の権利を守りきる特許群を出願すること、それが彼女の現在とるべき行動であり、それが自分の権利を守ることにもつながるのである。その行動を取れないならば研究者としてSTAP細胞の発見者という資格は無い。腐ったり悩んだりするヒマなど無く、特許出願の行動を取るべきで、ご相談頂ければいつでもアドバイスいたします。
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フローリー・ハギンズ理論(FH理論)は、高分子のモノマーに着目すると低分子の正則溶液に関する考え方と大差ない。だからSP値と相関してもおかしくない。しかし実際の高分子の混合では、高分子特有の「一本のヒモである」分子構造の形が影響するはずである。あるいはスター型や枝分かれした複雑な分子構造の相溶であれば単純にモノマー構造だけで考察しているFH理論とズレが生じるはずである。
そのためFH理論の拡張あるいは改良を目的とした研究も行われているが、今ひとつ決定打が無いために、相溶の説明のために一般の教科書ではFH理論が書かれている。確かにFH理論は初学者には理解しやすい考え方であるが、現象に合っていない部分が多いため、単純な考え方でうまく説明されると時として現象を見誤る場合やアイデアを生み出す障害になったりする。
例えばSTAP細胞の騒動はその例で、植物細胞ではSTAP現象が生じるが動物の細胞ではSTAP現象が生じない、というのが30年近く定説になっていた。それに対して、生物学について科学に対する意識は低いがやる気満々の研究者がSTAP現象を発見し、理研が揺れ動いている。おそらくハーバード大で実験を行った人物が優秀な研究者であったならSTAP現象を見落としていたに違いない。
学位論文の20ページ前後を平気でコピペして仕上げるちゃっかり者の研究者(注1)であったためにそのおかしさに気がつき発見に至り今回の大騒ぎになっている。知識が少ない、ということは先入観にとらわれる危険性が低いことを意味する。
当方もFH理論を疑問に感じたのは、ゴム会社に入って樹脂補強ゴムの研究を始めたばかりのかけだしで、専門知識の乏しいときである(注2)。FH理論を疑っていることについて周囲は冷淡であった。馬鹿にする人もいた。唯一指導社員だけは良き理解者で、カオス混合という概念を教えてくれた。但し、「連続生産で誰も実現できていない方法だが君ならできる」とどのように理解したら良いのか分からない激励の言葉が添えられていた。しかし、この言葉を素直に捉えてFH理論が研究開発に重要となる機会がある度にアイデアを考えてきた。
リアクティブブレンドによる半導体用高純度SiCの前駆体高分子の開発や、ポリオレフィンとポリスチレン系TPEとの相溶実験、そしてPPSと6ナイロンの相溶を実現するプロセス開発は、知識の乏しいときに素直に疑問に思って出てきたアイデアを32年間忘れずに実験してきた成果である。素人でも真摯に努力を続け年を重ねるとそれなりの成果を出せる。
(注1)もっともそのような学位論文に対して平気で学位授与する大学は大問題だが、このような問題は昔から放置されている。ゆえに博士であっても研究開発を満足にできない人が社会に出てきている。
(注2)科学に対する大卒レベルの知識はあった。卒業論文でさえも他人の論文のコピペは悪いことだという意識から実験ノートの書き方の常識だけでなく武谷三男氏やマッハ、湯川秀樹氏の著作物なども読んでいた。
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科学では真理を明らかにすることが重要なゴールになるが、技術では機能実現の方法をさぐることがその使命になる。フローリー・ハギンズ理論から非相溶系となる高分子の組み合わせでもその相溶状態で得られる物性を機能として用いたいときには、その方法を幾つか用意しようとする行為は科学的にナンセンスでも技術的には意味のあることである。
32年間いろいろ考えてきたが、高分子の専門家が誰でも思いつくのが、相溶化剤を用いる方法で、これはすでに各種ポリマーアロイの開発に多く用いられている。相溶化剤を用いないという条件では、リアクティブブレンドが唯一の科学的にも成立する方法である。しかし、これは反応条件を選ぶことができるのかどうか、あるいは反応サイトが必要だという制約があり、汎用的ではない。
ここで相溶化剤を用いる方法があるので、それで機能実現するには十分と言われるかもしれないが、相溶化剤を使用できない場合も技術の現場には存在する。例えばもう過去の遺物となったが、ハロゲン化銀を用いる感材では、乳剤層に悪影響を与えない材料以外用いることができない。あるいは感材以外の他の領域全てに共通な例として特殊なケースとなるが、技術の分かっていない担当者が適当に考えた材料を設計段階で採用し、その仕事を製品化間際で引き継いだときなど新たな配合設計をすることができない、という状況になる。
そのほかに知財の制約、力学物性の制約、高次構造を相溶化剤を使用したときよりも小さくしたいなど相溶化剤を使用できないケースは意外に少なからず存在する。ゆえに非相溶系の高分子の組み合わせでも相溶系に近い状態で使用できる技術手段を用意しておくことは意味がある。
ラテックス状態で混合する方法は、コストがかかるが汎用的方法と言える。特に表面処理工程では有効な方法である。相溶化剤は時としてブリードアウトの原因物質になることもあるが、ラテックス状態で混合し作成された単膜のブリードアウトテストでは、せいぜい界面活性剤が出てくるくらいである。
但し、ラテックスで混合された材料を一般の混練機で混練してはいけない。高次構造が大きく成長することがあるからだ。高次構造のサイズが大きくなると材料物性に影響が出る。高次構造のサイズを小さくできる混練方法はカオス混合である。カオス混合を用いると極めてサイズの小さい高次構造を作り出すことができる。組み合わせによっては相溶状態を創り出すことも可能だ。
あとは特殊な方法だが、分子の立体構造に着目し、錠と鍵の関係になるような高分子の組み合わせを探るという面白いアイデアがあるが、時間や精神的余裕のあるとき以外では行わない方が良い。このアイデアの応用として分子のエントロピーに着目したプロセシング、カオス混合が高次構造を小さくする目的で使用でき、分子の緩和時間が長ければTg以下へ急速冷却することで相溶状態を維持した材料を創り出すことができる。
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リアクティブブレンドでは、反応条件さえ工夫すればχが大きなどのようなブレンド系でも相溶させることが可能である。また、バルキーな側鎖基を有するポリオレフィンにポリスチレン系TPEを相溶させる方法からエントロピーの寄与を確信し、そのヒントと過去の経験から新たなカオス混合装置を開発した。
この装置を用いると混合時のエントロピーをプロセスの中で下げることにより相溶を進行させることが可能と推定しており、緩和速度が遅い高分子の系ではTg以下に急速に冷却してやると室温で相溶状態を維持できる。
それでは非相溶系を均一に相溶させる方法は他に無いのか、とラテックスで検討してみた。モノマー構造でSP値が離れている組み合わせでコポリマーのラテックスを合成すると一応リアクティブプロセシングなので均一な構造のポリマーが得られる。条件によってはコアシェルのようなラテックスもできたりする。
それぞれのホモポリマーでラテックスを合成してそれを混合したらどうなるか。この実験ではコロイド化学の知識が少し要求されるが、安定な塗布液が得られたとして話を進める。この混合溶液で単膜を作成し強度測定を行うと、コポリマーの場合と同様に弾性率の高い方のラテックスが増加すると単膜の弾性率も上昇する。
5wt%前後ではコポリマーのほうが弾性率が高いが、10wt%程度ではほぼ同じ弾性率になる。但し、コポリマーに比較するとややヘイズが高い。得られた単膜の高次構造を調べてみると50nm前後の二種類の球を分散してできたような高次構造が観察される。この高次構造からコポリマーに比較してややヘイズが高いのもうなずける。
一応力学物性については、混練で得られる場合に比較し、相溶状態に近い物性となっている。また、光学物性についても10枚重ねで測定されたヘイズ値に差が見られる程度なので分野によっては使用可能な材料と推定した。完全な相溶系ではないが、二種類のポリマーが相溶したときに期待される物性を技術的に得る方法としてラテックスによる混合は一つの手段と思われる。
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昨日STAP細胞の論文について理研とその調査委員会の会見が生で報道された。専門性の高い内容にもかかわらず、一般会見が頻繁に行われている面白い事件だ。学位論文の20ページ以上を他人が書いた内容でごまかす科学を理解していない未熟な研究者が本来その役目をこなす能力が無いのに抜擢され、そのような抜擢を行ってしまうような管理能力の無い研究者集団の中で起こした事件について、これほど丁寧に記者会見を行っている例はこれまでないのではないか。
科学について詳しい方であれば、今回の事件は、一部の大学で行われている学位の適当な審査も含めいろいろな「些細なこと」と思われる不祥事が偶然積み重なった事件であると理解されているのでは。科学論文が「科学の真理」を追究するために厳格な倫理を守らなければいけない、と言われていても倫理的に問題のあることが日常平然と行われてきた結果である。
学位についていい加減な審査を行っている大学のあることは、審査された学位論文を読めばわかる。またその学位でも審査する先生が審査料とは別にお金を要求してくることもあるのだ。これは当方も国立大で学位を取得しようとして経験した事実である(注)。しかし、こうした問題はあまり事件として大きく扱われずそのまま隠れてしまっていた。
科学とは真理の追究で成立する世界である。また専門性が高くなればなるほどその道の研究者でなければその真理を判断できなくなるので性善説が前提となっていた。その世界では未熟も悪となるぐらいの厳密さを維持しなければ真理を明確にできない。
しかし、この掟も未熟な学習者に対してゆとり教育はじめ様々な「優しさ」でどこかに隠れてしまったのが現代の科学の世界で、そこで起きたのが今回の事件である。理研の鬼軍曹が「とうとう起きたか」と言われたように事件が起きる環境になっていたのだ。
学位論文に他人の書いた文章を引用文献も示さずコピペをしてはいけないのである。まずこれは確実にアウトで自ら学位を返上すべきである。厳格に判断すれば、たとえそれが一般記載であっても許されない。さらに学位論文の画像をその後の新しい研究の成果として用いているのもおかしい。自分で書いていて気がつかない、というのはあり得ないことなのだ。
今回の事件は「科学の真理」について厳格さを求めたために起きている。だから裁判でシロクロを出せないはずで、裁判で出せるのは「真理」の追究のために取られた手順に法律の視点で誤りがあったかどうかである。STAP細胞の騒動の科学的結論まで出すことはできない、という当たり前のことを理解しておくことは重要である。そもそも今回の事件で裁判に持ち込もうという発想そのものに疑問があるのだが。
(注)学位を取得したい人が申請先の先生からお金を要求された場合にどうするか。黙ってお金を払って学位を取得するのか、それ以外の方法となる。科学の世界では前者を選択してはいけないのだ。前者を選択した場合には永遠にこの問題が公にならない。またお金を払わず学位を諦めた場合には、お金を要求した事実を訴えることができるが裁判までするのかどうか。社会正義の観点ではそのような先生を懲らしめることも重要かもしれない。しかし御指導を受けた先生を訴える、という恩を仇で返す矛盾も生じる。だから問題を避けて国立T大で取得することを辞めて中部大学で学位を取得した。中部大学では学位審査料80,000円だけであった。それでも親身な御指導をいただけ、最後にはしっかりと試験と学位授与式までやってくださった。本当に試験がある、と伺ったときには涙が出てきた。アカデミアの使命を十分理解できる体制であり、学位の取得過程は大変だった。楽をさせようと、お金を要求してきた国立T大の教授の気持ちも幾分理解できた。しかし苦労した思い出はお金で買うことはできない。学位論文の大半は、某ゴム会社の現在でも継続されている事業の基になった高純度SiCに関する内容ですべて日本語で書かれており英文のコピペは無い。
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1980年代に樹脂補強ゴムからポリウレタンやフェノール樹脂の難燃化、そして高純度SiCの事業立ち上げ、電気粘性流体の開発、超伝導セラミックスの開発など多種多様な研究開発を手がけたが、フローリー・ハギンズ理論(FH理論)に必ずどこかでお世話になった。
実務では低分子溶媒を用いてSP値を測定していたが、高分子を混合したときの状態予測では、教科書に書かれた高分子のスピノ-ダル分解のマンガを見ながら頭に状況を思い描いていた。もしOCTAのSUSHIがあったなら毎回利用していただろう。
有機高分子と無機高分子はそのモノマー単位が有機と無機なのでχは大きな値となる。すなわち絶対に相分離して均一に混ざらない組み合わせである。実例を示せばポリエチルシリケートとレゾール型の液状のフェノール樹脂を混合しようとしてもすぐに相分離する。
コロイドを撹拌する専用の混合装置を用いても撹拌しているときにも白濁し決して透明にならず、撹拌を止めるとすぐに二相に分離してくる。フェノール樹脂が重いので沈殿するのだ。とても分子レベルで均一になると思えない組み合わせである。しかしここへ両者の反応に共通して用いることが可能な酸触媒を添加すると様子が一変する。
撹拌中に相分離していてもその界面で反応が開始し、透明度が上がってくるのだ。ただしこれは最適な触媒が選択されたときだけで、不適切な触媒、例えば片方の反応速度を著しく早め、両者の反応速度差を大きくするような触媒を添加すると、片方のポリマーだけが反応してゲルになり沈殿してくる。
例えば硫酸を用いるとポリエチルシリケートの反応速度が速まりシリカが撹拌中に沈殿してくる。トルエンスルフォン酸であれば量を最適化しない場合にはフェノール樹脂のゲル化が進行し、撹拌中にフェノール樹脂のゲルとシリカとポリエチルシリケートに分離し悲しい状態になる。
適切な酸触媒を選択してやると、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の界面で反応が進行し、相分離することなく均一のゲルが生成し、このゲルの炭化物を用いてSiC化の反応を行うと均一素反応の取り扱いが可能となりSiC化の反応エネルギーを求めることまでできる(注)。
すなわち、リアクティブブレンドは、1980年代にFH理論で相分離すると推定される高分子の組み合わせでも均一に相溶した状態を作ることが可能な唯一の方法であった。これが21世紀になるとリアクティブブレンドでなくても均一に相溶した状態を作ることが可能になり、PPSと6ナイロンが相溶したフィルムを製造できるようになった。材料技術の進歩である。
しかし、科学的には不明の部分が多いので科学の進歩ではない。このような場合世間では怪しい技術と捉えるが、STAP細胞と異なり再現性が高い、すなわちロバストの高い技術である。この技術については、退職後の研究成果をもとに来月6日に行われる高分子学会主催のポリマーフロンティア21で報告する。招待講演者として選ばれており1時間お話しさせて頂く。
(注)学位論文の一部である。当時2000℃まで計測可能なTGAが無かったので、真空理工(株)のご協力をえて、自ら心臓部分を手作りした。このTGAについては特許を出願したが30年前のことで、楽しい科学者人生最後の頃である。
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