ヨドバシカメラを10日でやめた新入社員の話がインターネットで話題になっている。何のことかと調べてみたら、ヨドバシカメラの採用チームの担当者が10日でやめた新入社員を説得した体験についてブログに書いていた。それも前編と後編にわけて書いているのだから、何かアピールしたかったのだろう。
このブログについて前編後編とも読んでみたが、読み手により判断が分かれる内容である。間抜けなブログと判断する人もいるかもしれない。あるいは採用担当に同情する人もいるかもしれない。だからインターネットでも議論しやすく意見がいろいろ出ているのだろう。ブログにはこのような書き方や内容が受けるのかもしれないが、ヨドバシカメラという企業に対する印象を左右しかねない内容である。
「入社10日目でアルバイトと変わらないつまらない仕事だからやめる」、と正直に言っている新入社員を説得しているのである。ブログを読んでいると、説得している採用担当もその点を認めているように思われる。つまらない仕事しか無い会社なのだろう。
もっともデズニーランドのような誰もが行きたくなる楽しい会社であれば、給料を払うのではなく、社員から入社料を頂かなくてはならない。一般に会社の仕事には快楽的な楽しさの要素は少ないかほとんど無いはずだ。そのうえで「働いて幸せ」という採用担当の価値観を説いて聞かせ、辞めた後の人生の幸せを願っている、という内容である。
この採用担当はどこまで真剣に新入社員の立場まで考え説得しているのか疑問である。新入社員はただ公務員になりたかったが訳あってヨドバシカメラに入ってみたものの勤務している時間がもったいないから辞める、公務員試験の勉強を集中して行いたい、と言っているのである。
当方が新入社員時代に「この会社にはメーカーとしての技術は無い」と言って6ケ月の新入社員訓練を受けて配属の日に退職願を提出した同期がいる。ゴム会社としては大損である。たまたま研修中に交流する機会があり、その個性も含め退職理由も理解できたが、今や某一流企業の社長である。かたや、「技術が無いから僕はがんばる」といってゴム会社で高純度SiCの事業を立ち上げ、頑張ったにもかかわらず気がついたら写真会社を早期退職していた、というサラリーマン人生もある。貢献と自己実現を十分に実践してきたが、「働いて幸せ」と考えたことは無い。「働く場所がある幸せ」は感じていたが。
写真会社で退職願いを出しても「もう少し後でやめれば、優遇制度の退職金上乗せ額が増えるかもしれない」と言ってくれた人もいて、「確かに業績が良くないからそうなるかもしれないが、追い出されて辞めるよりは」、と答えるのが精一杯である。新入社員で会社を辞めるときと、サラリーマンの晩年で会社を辞めるときでは、その動機は全く異なる。サラリーマンの晩年は「働く場所」が年齢とともに無くなるのである。無くなってから辞めるのか、無くなる前に辞めるのか、辞めてからの苦労を考えなければ、幸せ感を持って辞めた方が精神衛生上好ましい。
ヨドバシカメラの新入社員は、説得されなくても公務員という夢を持って会社を去った。若くして会社を去るのはその会社に魅力が無いか何か問題があるときである。おそらく社会に歓迎される話は新入社員の早期退職ではなく、60過ぎたら仕事を自由に選べる会社の話題だろう。弊社はその様な会社を目指して頑張っている。
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高分子のプロセシングに慣れた1980年代には、セラミックスフィーバーの嵐が吹き荒れ、セラミックスの高純度化が話題になっていた。高温度で安定なファインセラミックスを合成後高純度化するには再結晶化以外に手法が無くプロセスコストが問題となっていた。
例えば、半導体用SiCであればアチソン法でインゴットを大量に生産できるが、その純度が低いため昇華再結晶プロセスが必要となり、プロセスコストが嵩み当時1kgあたり10万円以上の価格で取引されていた。ジメチルポリシランを用いる高純度化プロセスも提案されていたが、前駆体となる高分子の価格が高いという問題があった。
カーボン源としてフェノール樹脂(当時350円/kg)、Si源としてポリエチルシリケート(当時750円/kg)を用いることができれば、低コストで高純度SiCの前駆体高分子を合成可能となる。しかし、χが大きなこの二種の高分子を均一に混ぜて高温度まで均一なポリマーアロイを合成することは困難に思われていた。
ここでワンショット法の知識が役立ち、酸触媒を用いて安定な前駆体を合成することに成功した。この方法で合成された前駆体がどのくらい均一であったかは、前駆体を炭化した電子顕微鏡の写真と反応速度論の解析結果から推定された。
すなわち前駆体高分子から得られた炭化物はSiO2とCが分子オーダーで均一になっており、その炭化物を用いてSiC化の反応を行うと均一素反応の取り扱いが可能であった。この方法で合成されたSiCは半導体分野の製品に用いるには十分な純度であり、現在でもピュアベータという商品名で事業が継続されている。
高純度SiCの反応機構は、均一素反応の取り扱いで解析できたので分子レベルの均一性を達成していると推定され、これはχが大きな高分子の組み合わせを「反応させて」均一にする手法の効果である。このようにリアクティブブレンドは、ラテックスで二種類の高分子を混合するよりも高いレベルで高分子を均一にできる。
構造の異なる高分子を二種以上混合するプロセスが必要となるケースは多い。そのとき用いられる考え方は、フローリー・ハギンズ理論である。この理論によれば樹脂補強ゴムの相分離や、それがプロセスの影響を受けロバストの低い条件が存在するのも理解できる。また、χの大きな高分子を組み合わせて均一に混合された材料を設計したい場合には、ラテックスで混合する手法よりもリアクティブブレンドが有効であるが分子構造に制約が多い。
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発明の方法には、科学的成果を科学的に展開し発明に至る方法以外に、蓄積された経験を基に、要求される機能を実現する方法を探り、逆向きの推論を活用して技術を構築する方法もある(www.miragiken.com)。
PPSと6ナイロン、カーボンの処方をコンパウディングしてできる構造は、PPSと6ナイロンが非相溶系なので、バンバリーを使用したときにできる特許の図(特2010-195957)に示したような、PPSに島として分散している6ナイロン相にカーボンが分散した高次構造、あるいは二軸混練機を使用したときにできるPPS相にカーボンと6ナイロンの島相がばらばらに分散した高次構造となる。
カーボンのクラスターの状態で抵抗が大きく変動するパーコレーション転移をうまく制御するためには、カーボンを島相に閉じ込めた前者の構造が好ましいが、この構造では6ナイロン相の弾性率が上がり、材料全体の靱性を劣化させてしまう問題がある。後者では材料の靱性について柔らかい6ナイロンが分散した効果でPPS単一組成のマトリックスよりも改善されるが、カーボンのクラター制御が難しく、押出成形した時にベルトの面内抵抗分布が大きくばらつく。
すなわち、抵抗制御の観点からは前者が好ましく、ベルトの力学物性の観点からは後者が好ましい高次構造である。これらの実験結果から最も望ましいと期待される構造は、非科学的ではあるが、6ナイロンがPPSに相溶しカーボンが弱い凝集力で島相となっている高次構造である。この考えに至ると、6ナイロンをPPSに相溶させるプロセシングを実現する技術が必須となることが見えてくる。
非相溶系であるPPSと6ナイロンを相溶させるプロセシングは、フローリーハギンズ理論を信じる限りリアクティブブレンドだけとなる。この点については後日述べるが、もし二軸混練機のような連続式混練機で実現できたならば、マトリックスのTg以下の温度で相溶状態のまま急冷すれば、複写機の使用環境でその相溶状態が保持された材料になることは、高純度SiCの前駆体高分子を合成した経験から容易に思いつく。
このプロセシングは、二軸混練機からストランドを急冷して引き取れるようにすば実現できるので一般に行われている方法で容易である。残るのは、二軸混練機あるいは類似の連続式混練機で相溶状態を創りこめるかどうかという問題である。
この問題解決に向けて、二軸混練機以外に剪断力の大きいKCKと呼ばれる石臼式混練機で複数回混練したり、二軸混練機とKCKを組み合わせたりしてPPSと6ナイロンが相容するかどうか実験したが相溶しなかった。そこで、ゴム会社時代からの経験を総動員してカオス混合装置を試行錯誤で工夫し考案した。非科学的で怪しいかもしれないが、STAP細胞と異なり、現在も生産で使われているのでこれは本物の技術である。但しそこで起きている現象は現代の科学のレベルでは非科学的現象として扱われる。
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技術の発明には、科学的成果を前向きの推論で使い科学的方法で行う方法と、蓄積された経験(K)を基に要求されている機能を心眼で見つめ逆向きの推論により、創り上げる方法がある。後者については心眼の代わりに勘(K)と度胸(D)をあげて、KKDによる開発として知られているが、単なるヤマカンではなく経験を積み重ねると生まれる心眼を使うところがミソである。
機能から逆向きの推論を進める方法については、花冠大学のホームページ(www.miragiken.com)で紹介中だが、この方法は学校で教えない。企業で伝承されている方法で、ゴム会社で習った。写真会社はもっぱら科学的方法を信奉している企業で、KKDを馬鹿にしている。
ゴム会社ではKKDは大切な一つの方法として認知されているが、実際に行われているのは心眼を用いた方法である。大切なのは商品に要求される機能から逆向きの推論を行い技術を生み出してゆく活動である。この方法を謙遜してKKDと言っている。単なるヤマカンは、ゴム会社でも馬鹿にされる。
経験は大切である。人類は経験を普遍的な知識として伝承するために「科学」という哲学を創り出したのかもしれない。「科学」から生まれた知識を正しく伝承するためには、その知識が「普遍的な真理」として保証されていなければならない。ゆえに捏造が許されないのだ。科学の伝承は性善説が前提となり、そこに邪悪な考えが忍び込むと捏造が起きる。
山中先生まで頭を下げている写真が新聞に載っていた。立派な姿である。一方STAP細胞の騒動では、この一連の謝罪をもとに鬼の首を取ったように自己の捏造を正当化しようとする人がいる。科学の世界では、まず真実の前に謝罪が必要だ。学位論文のデータを転載したのは、明らかに言い訳のできない悪意だ。いくら整理整頓が悪くても自分がまとめた学位論文のデータぐらい記憶している。
STAP細胞については、iPS細胞で山中先生がやられたように、まず技術として生みだし科学として完成させる方法が有効だと思う。科学的方法一本槍では、時間がかかる。当方ならばSTAP細胞の技術を技術として創り出せる自信がある。
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将棋の世界で異変が起きているという。プロ棋士がコンピュータ相手に将棋で負け続けているそうだ。その様な状況で、将棋がコンピュータにより完全に解明されたらどうするのか、と羽生プロに尋ねたら「その時は桂馬が横に飛ぶとかルールを少しだけ変えれば良い」と答えたそうだ。
終盤力が勝負の分かれ目といわれていた将棋は、やがて中盤力の研究が中心になり、現在は序盤が勝負になっているという。将棋の世界は弊社が運営する未来技術研究部のホームページ(www.miragiken.com)で紹介したような逆向きの推論のように解明が進んでいる。押出成形も結論に当たるフィルム材料に着目したならば、押出機や金型だけでなくコンパウンドまで研究を遡る必要がある。
フィルム成形では、溶融しやすいPETやPP、PEなどのフィルム成形は、押出機で何とかなった。しかし、PPSなどのエンプラのフィルム成形やカーボンを分散した半導体フィルムの成形など次第にその成形技術が難しくなってくると、将棋と同じように序盤、すなわち分子設計やコンパウンディングが重要となってくる。
しかし、昔書かれた押出成形の教科書にはコンパウンディングとフィルム成形の関係については書かれていない。押出機で話が始まっている。しかし、押出機だけではフィルムで発生するトラブルを解決できないケースがある。押出機の工夫だけでは解決できず、混練機から金型まで一連のシステムとして捉えなければ、良好の品質のフィルムを成形できないケースが出てきた。
しかし押出成形技術の解明はまだ完璧にされていない。射出成形は金型で樹脂の表面は制御される。ところが押出成形では、金型のリップを樹脂が出た後も樹脂の表面は冷却されながら変化している。表面だけでなくフィルムの中心部も変化しているが温度測定可能な表面に比較し、中心部の変化は複雑で解明が難しい。
カーボンを分散した樹脂でフィルムを押出成形すると、表面と中心部で体積固有抵抗が異なることから冷却過程の高次構造変化が複雑になることを予想できる。コンピューターでシミュレーションをおこなうとすれば、パーコレーションの概念をどのようにプログラミングするのかが問題となる。押出成形は簡単に見えるが将棋の世界よりも難しく、いまだノウハウが要求される分野である。
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押出機については樹脂を押し出す機能だけを考えた方がシステムを組みやすい。すなわちコンパウンディングは混練機で行い、押出機では、それを均一に再溶融して押し出す機能だけ考える。混練機の練りが浅いから、という理由で押出機に混練の機能を持たせる考え方とは異なる。
もし押出機に混練の機能を持たせたいのなら、単軸押出機を二軸押出機に交換し、徹底して混練を行うようにするが、単軸押出機で二軸混練機のコンパウンディングで不足した練りを補うことを考えない方が良い。単軸押出機を使用する場合には、樹脂温度の均一化に配慮することが大切で、高分子にさらに練りを加えるプロセスを考えない。
前工程で混練が完了していることが重要である。もし押出成形の段階でコンパウンドの練りが浅いという問題が発生したならば、混練工程でその問題を解決する。理由は単軸押出機で仮に問題解決できたとしてもロバストの低いシステムになる可能性があるからだ。
高分子の中にはフィルム成形で混練工程が不要と思われている材料も存在する。あるいはフィルムに機能性や高い品質を望まない場合には押出機に樹脂を投入する前に混練する必要はないかもしれない。その様な場合に押出機の中で混練もやってしまおう、という考え方は当然出てくる。この場合には押出機の中で混練が完結していることを確認しなければいけない。中途半端な混練状態で押出機のシステムを立ち上げた時にはフィルム品質はばらつく。
例えばカーボンを高分子に分散し、10の9乗レベルの半導体フィルムを製造するときに、十分に混練されていない場合には抵抗のばらつきが発生する。混練工程で十分に混練し、安定した抵抗となる状態のコンパウンドを用いたほうが良い。
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フィルム成形の単軸押出機で、L/Dの小さな押出機が使われたときの問題は、ミキシングゾーンが短いために高分子融体の均一性が上がらないことである。この問題は設備導入前にすぐに確認できる場合は良いが、多くは導入後の後悔となる。後悔しても、設備は高価なのでL/Dの大きな押出機に交換することができず、それで何とかしようとする。
フィルム成形に用いる押出機のL/Dは中国で会ったドイツ人が言っていたように余裕を持った仕様が良いと思われる。余裕があれば何か問題が生じたときに設定温度の工夫とスクリューの設計で乗りきることが可能だが、余裕の無い設備では、トラブル対策に限界が生じる。L/Dが25と35の設備では、若干35の方が高価だが、もし選択できるのであれば35あるいはそれ以上の設備を購入しておくのが賢明だろう。
L/Dに余裕があるとミキシングゾーンの工夫が可能である。ミキシングゾーンの考え方については定説は無いが、例えば、バリアミキシングと呼ばれる方式のミキシングヘッドを用いた場合には、比較的軟化しやすいポリマーに対して積極的に未溶融ポリマーを残す条件、すなわち高吐出条件をとってポリマーをミキシングヘッドに導き一気に溶融を完了させるとともに固体ポリマーの溶融熱を利用して低温の溶融体を作り出すノウハウがある。
ポリエチレンで低温の融体を得たい場合にはこの考え方は有効である。しかしポリエチレンで成功した手法が他のポリマーでも有効と限らないのが本技術の難しさである。また、問題が見えにくい場合には過去の事例にとらわれ、問題解決できなくなるケースも存在する。
例えばフィルムに散見されるブツの場合には、その原因の特定が難しい。ブツで正体不明の場合(注)には未溶融のポリマーを疑ってみるのは良い着眼点であるが、その対策になってくると考え方は多種多様である。当方は、溶融しやすいようにコンパウンディングで対策を取っておく、というのが正解と思っているが、混練工程を他社にゆだねている場合にはそれが難しく対策として取れない。
退職前に担当した業務では、コンパウンドメーカーにいろいろと要望を出していたら、技術営業から素人には分からないよ、と言われしかたなくコンパウンドを自分で開発することになった。中古の混練機を購入し考えていた方法で混練してみたら一発で問題解決できた。もしコンパウンドメーカーに協力してもらえないときには、問題解決のために混練工程を取り込む必要がある。短い押出機を用いる場合には、混練工程は重要である。
(注)フィルムのブツあるいはボツは様々な原因で発生する。ここで述べた未溶融ポリマーや気泡、フィラーがはいっていたならその凝集物など多種多様である。ブツ対策にはまずその分類が重要でブツの分類を行うと対策が見えてくる。面倒でもまずブツの分類が対策の第一歩である。
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押出成形の教科書を読むと押出機についてかなりのページが割かれている。PETやPPSの押出成形を経験して、押出機にはコンパウンドを溶融し押し出す能力があれば十分と思うようになった。押出成形に用いるコンパウンドは事前に十分な処理を混練機で行っておくのがコツである。しかしこれは少し教科書とは異なる見解である。教科書には押出機で混練する話まで書かれている。
混練機の機能と押出機の役割を明確に分担して考えるのは、射出成形の設計と同様である。射出成形では金型に樹脂を押し流すので、成形後の表面は金型の精度に支配される。ゆえに射出成形では押出成形ほど押出機について深く考えられた歴史はなく、L/Dの短い押出機になっている。そしてそれで不都合は生じていない。しかし、押出成形では、金型のリップ部の仕上げの影響も大きいが、大半はコンパウンドの素性でその表面の性能が支配される。
昔ゴムの押出成形を担当している職人から、「押出成形は行ってこいの世界だ」と教えられた。即ち、プレス金型でゴムを成形する場合には、金型の仕上げでゴムの成形精度は左右されるが、押出成形では、ゴムのコンパウンドの「でき」が成型精度を左右している。「行ってこい」とは、押出成形ではそのコンパウンドを丁寧に送り出すだけだ、という意味である。
この職人の言葉は押出成形技術をうまく表現している、と感心したので30年以上経った今でも覚えている。すなわちフィルム成形に用いる押出機では、コンパウンドを金型に押し出すこと以外を求めてはいけないのである。コンパウンドはその前に十分造り込んでおくのが押出成形の鉄則である。しかし30年の間に出会った押出成形の技術者からこの職人の言葉を聞いたことがないし、教科書にも書かれていない。
PPSの押出成形を担当してさらに理解を深めたのだが、コンパウンドを溶融し押し出すだけでも大変である。温度を上げれば樹脂を溶融できるのではないか、という人もいるがそれは押出成形をご存じない方である。確かに温度をあげればコンパウンドを溶融させることはできる。しかし、その温度を上げた影響がフィルムに現れるのだ。すなわち押出成形では押出機の中ですなおに溶融してくれるようにコンパウンドを造り込んでおかなければ、成形体の表面をうまく制御することはできない。
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フィルム成形には押出機が使用される。一般に押出機といえば単軸押出機を意味するが、二軸押出機も使用される。混練機にしろ押出機にしろ単なる装置と考え、単純に教科書に書かれた一般の仕様で満足している人が多いが、専門技術者により技術に対する見解が異なる。すなわち教科書に書かれているのは一例であって、実際の現場では様々な問題が発生しその解決に当たった結果、特殊な押出機も考案されている。
これは最近中国で建設されたPET工場を見学したときにドイツ人技術者に聞いた話であるが、PETの成膜においてL/Dが40程度の押出機を使うのは常識だそうな。日本で見かけるのはL/Dが25から30程度が多い。PET以外でもPPやPSでもその程度の押出機が使用されている。L/Dが40の押出機を使うといったら日本では笑われるかもしれない。
しかしそのドイツ人が言うには、L/Dが小さい単軸押出機では樹脂の溶融が十分にできないという。通訳を介して聞いた話なので正確性に欠けるが、若干のドイツ語の知識もあったので通訳の言葉に間違いの無いことを理解できた。PETは樹脂の中でも溶融しやすく未溶融ゲルのできにくい樹脂である。当初ばかでかい単軸押出機を見つけたときに中国人がドイツ人に騙された、と思ったが、ドイツ人技術者は理由を真顔で応えていたのでウソではないと思われる。
また、当方の経験もドイツ人の回答を信じたくなる。かつてPET成膜を担当したことがあるが、押出機は、日本の標準的な大きさであった。すでに生産が安定し研究開発も終わっていたが、輝点異物の問題は残っていた。もっともこの問題は無いことになっていたのだが、基巻き一本を体育館に広げて調べてみたら結構見つかったのである。
品質上問題が無ければ0としても良いのだが、技術報告書には正しく実態を残しておかなければ、その後の担当者が0を前提に考えることになり、問題解決できなくなる。表面処理工程で問題が発生したので、その解決策を考えるときに輝点異物を疑ったのである。転職者であったから内部事情などお構いなしの仕事のやり方で原因を見つけることができた。
この時の経験から押出機については少し疑問に思い、フィルム成膜について、コンパウンド段階の処理の重要性を考えてきた。たまたま20年ほど経ち、中国でその回答を見つけた。
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燃料電池の電極には白金系の触媒が用いられる。これがこの電池の泣き所で白金の使用量を少なくする技術開発も重要課題であると同時に白金以外の触媒探索は今でも行われている。
すでに固体高分子型燃料電池は実用化されているがリサイクルシステムが重要となっている。リサイクルシステムがうまく機能すれば、貴金属を使用していてもコストダウンが可能になる。例えば銀塩を使用していた写真感材では、銀回収システムがうまく機能しかつて100円以上したプリント1枚が10円プリントなどという安価なレベルまで下がった。
ところで白金の代替になりそうな触媒であるが、東工大を最近退官されたS先生のクラスター触媒が面白い。S先生のコンセプトの説明では、二核錯体で酵素反応をまねすることだとおっしゃっていたが、酸化還元もこのクラスター触媒で起こすことが可能である。残念なのはご研究半ばで退官されたことで、現在開発されている触媒は有機溶媒中の反応が確認されているだけである。
これまで固体触媒の研究は、触媒を専門とする研究者により推進されてきた。自動車用廃ガス触媒システムも彼らの成果であり、燃料電池の触媒探しも彼らにより行われている。しかし30年以上探索が行われてきても触媒量を減らすことはできたが、代替触媒は見つかっていない。
かつてディーゼルエンジンが発生するススをセラミックスフォームで、トラップレストラップ方式により取り除く開発のお手伝いをしたことがある。そのときススの酸化触媒には銅が用いられた。面白かったのは触媒研究の専門家は表面科学に強いが有機化学反応機構という分野に詳しくなかったことだ。ディーゼルエンジンに含まれるススには芳香族系の様々な化合物が含まれている。乱暴な表現で叱られるかもしれないが、彼らは十把一絡げにそれらを捉え考察していた。
このような研究の進め方ではS先生のコンセプトは生まれないと思う。S先生のコンセプトは、有機電子論に基づき論理的に発想された美しいアイデアに基づいている。最終講義を聴いていてその美しい論理展開に夢心地になり燃料電池の電極でS先生の触媒が作用している光景が見えた。
学生時代に有機金属合成の講座で一年間研究したが、固体触媒の研究文化と明らかに違っていた。燃料電池の電極反応の研究に異分野の研究者によるチャレンジが必要ではないのか。
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