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2017.05/27 仮説で排除されたアイデア(5)

この自動酸素指数測定装置には、現在普及しているS社の酸素指数測定装置よりも精度の高いガス混合装置がついていた。調べたところLOIで0.05の値を制御できるほどの高精度だった。一般の装置では、測定時にLOIで0.5程度のばらつきが出るものもあり、この制御系はかなり高性能に思われた。

 

さらにその仕組みは凝っていて、あたかもハイブリッド車のような仕組みだった。これは燃焼状態をモニターし、LOIを上げ下げするときにそのスピードが異なる仕組みになっているためらしい。しかし、この設備の説明書には、この機構も含め制御についての説明がまったく書かれておらず、ブラックボックス化されていた。

 

詳細な説明は省略するが、燃焼スピードの速いサンプルでも少し工夫すればこの装置で計測できる可能性があった。しかし、マニュアルにはその方法について書かれていなかっただけでなく、設備の操作盤にも当方が推定した方法を実施するためのスイッチやダイヤルがついていなかった。

 

もっともそれを行ったならば、マニュアルで操作した場合と同じになるので、燃焼スピードの速いサンプルについては仕様上除外した可能性が高い。

 

さらにこの装置は、マニュアル操作について細かい配慮がされておらず、むしろ自動化のためについているセンサや制御系を外して使用したほうが、すなわち一般の酸素指数測定装置の状態にしたほうが使い勝手がよくなるという奇妙な設計だった。

 

装置の仕組みをさらに調べていったところ、自動酸素指数測定装置という名前がついていてもサンプルの取り付けは手で毎回行わなければならず、測定が自動化されているために生まれるメリットは、「誰でも計測できる」という点だけである。あるいは、敬意を表して言えば、人為的な誤差が入らないようにした自動化装置と言うこともできる。

 

すなわち、材料組成が原因となって生じるLOIの誤差は少なくとも0.1以上あり、それを考慮し、装置の仕様や使い勝手をその前提で購入前に十分検討したならば、科学的な視点で人為的な誤差を排除できるメリットを重視しない限り、購入しない装置と思われた。

 

しかし仮に設備がこのように自動化されて人為的な誤差を最小にできる仕様になっていたとしても、その設備以外で発生する誤差が大きくなって、自動設備の仕様に対応できなくなり使用できない事態になる可能性があるならば、全体の作業プロセスの視点から見て判断するとその設備は使えない、ということになる。

 

これは、夕方や夜に使用できないという注意書きが前提の自動車用自動ブレーキの話に似ている。先日のニュースによれば、自動ブレーキ搭載の車で間抜けな事件(注)が起きたが、不完全で信頼できない科学的装置ほど無駄な技術の産物はない。

 

夕方や夜など明るさが不安定な時には使わないでください、と書かれた自動車の自動ブレーキは、使えないどころか、知らずに使えば危険な装置となる。これでは無いほうが安全である。

 

そこで、自動酸素指数測定装置についていた、センサーや制御系を取り外すことにした。ただ取り外すだけでは面白くないので、マニュアルで使用したときに便利なように改造も行った。

 

自動ブレーキや自動酸素指数測定装置のような意味不明の自動化設備が生まれる背景も科学の時代ゆえのような気がしている。

 

(注)

<以下は千葉日報2017年4月14日記事より一部抜粋した>

運転支援機能を搭載した日産のミニバン「セレナ」を試乗した客にブレーキを踏まないよう指示して事故を起こしたとして、県警交通捜査課と八千代署は14日、八千代市内の日産自動車販売店の店長男性(46)と同店の営業社員男性(28)を業務上過失傷害容疑で、試乗した客のトラック運転手男性(38)を自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで、千葉地検に書類送検した。運転支援機能付き車両の公道での試乗事故は全国初。

カテゴリー : 一般 未分類

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2017.01/22 高分子材料(13)

シリカをコアにしたコアシェルラテックスの発明は、硬くても脆くないゼラチンの究極の技術とみなされ、この技術に追従する開発がすぐに業界で活発に行われた。

 

このような場合に技術を開発した会社が特許戦略に詳しくない会社ならばよいが、このコアシェルラテックスを最初に開発した会社は業界トップの会社で特許戦略に長けており、追従開発は、至難の道だった。

 

ちょうど転職したころがこのような状況で、担当者が苦労して開発している姿を見てかわいそうだと思った。当方ならさっさとあきらめて他の技術を探す。高分子材料技術では、大抵の場合に同じカテゴリーでなくても異なるカテゴリーのアイデアで同様の力学物性を達成可能だからだ。

 

すなわち少なくともABC3つの複合化カテゴリーがある。さらにコアシェルラテックスを用いたゼラチンの高次構造は、シリカの周りにラテックスが必ず存在し、その周りにゼラチンが海となっている構造で、シリカが直接ゼラチンを補強しているわけではない。

 

シリカが直接ゼラチンを補強し、そのもろさをラテックスが改善しているような構造はライバルの特許に含まれない。この内容を最初に話したときに、その構造ならば旧来の技術と同じで何も改善されない、とすぐに担当者から否定された。これは科学という哲学に毒された若者の典型的な意見だった。

 

科学は技術開発を行う上で重要な哲学である。しかし、科学に囚われない自由な発想はもっと大切である。その発想から生まれたアイデアが実現可能かどうかは、科学で完璧な証明は難しいが否定証明は容易である。ゆえにしばしば自由な発想のアイデアは否定されることになる。

 

 

カテゴリー : 未分類 高分子

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2016.11/13 原子力発電の問題

11月15日に開催される問題解決法のセミナー( https://www.rdsc.co.jp/seminar/161116 )については弊社へお申し込み頂ければ割引価格で受講可能です。
 
ところで、政府が廃炉を含めた抜本的な見直しを進めている日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)で、配管などに残っている放射性物質を含むナトリウムが約760トンに上ることが6日、原子力機構への取材で分かったそうだ。処分方法は未だ決まっておらず、廃炉が決定した場合は大きな課題になりそうだという。
 
現在進められている東電福島原発の後処理の問題も同類だが、原子力技術関係の研究者や技術者は、その問題解決能力が極めて低いと言わざるを得ない。すなわち、今の時代、どのような技術でもそれが搭載された商品について環境アセスメントをしないメーカーは存在しない。PL問題を事業存続を左右する最大リスクとして捉えているからだ。
 
原子力技術について、5年前起きた福島原発の問題で初めてその実体を知ったが、発電所で事故が起きたときや、発電所を閉鎖するときの方法や経済性について考えられていない、いい加減な技術だった。そして未だこの問題に対して誰も国民の満足できる回答を出していないのである。
 
そのような状態で原発再稼働などできるはずがない。福島原発のようなことを想定して、国民がその対策に満足したときに原発再稼働が可能かどうか結論を出せる。福島原発の40年以上かかる後始末について、東電の負担ではなく大半は国民の負担で進められている(注)。その他の原発についても同様の事態が想定されたならイデオロギーやアレルギーは別にしても、論理的に考えてみても再稼働賛成派が多数にならないことは明らかである。
 
少なくとも福島原発の後処理について、東電一社がすべてを犠牲にして行っています、という状態を国民に見せなければ、いくら発電所のアセスメントを完璧に行ったとしても国民の納得は得られない。すなわち原発再稼働の問題は、すでに答えが見えている問題なのだ。
 
それにしてもその商品を廃棄するときの処分方法を考えずに販売しているような間の抜けた事業をどうして原子力事業者は行ってきたのだろうか?納得できる答えを知りたい。問題解決法のセミナーではこのような問題を起こさないノウハウも指導致します。
 
(注)原発の再稼働できない状態でも何とか電力供給は滞っていない。もし、原発を再稼働しない限り現在の生活を維持できない、という状態になれば、考え方が変わる人が出てくるのかもしれない。しかし、再稼働すれば経済負担が増すリスクが高まる状態では、電気を節約してでも再稼働して欲しくない、というのが多くの国民の意見ではないだろうか。東電の退職者には未だに東電から企業年金が支払われたり、給与水準も高い状態であり、これだけでも国民の理解は得られない。本来ならば経営者の報酬0で運営されるべき状態の会社である。日本にはそのような中小企業が多くあり、少なくとも東電の経営もそのような中小企業と同様にすべきである。これは厳しい意見ではなく、先週日曜日NHKで放送された内容では、暗にそのようなメッセージを伝えている。この問題について国民は「あるべき姿」を真剣に考え政府に求めてゆくべきである。
 
 
 

カテゴリー : 一般 未分類

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2016.09/24 企画を成功させる(8)

転職した写真会社で窓際になり、研究部門から豊川にある生産部門へ単身赴任して担当した業務は、研究部門の誰もが「できもしない企画」と捉えていた仕事である。ゆえに、研究部門ではその仕事の後工程を担当していたが、重要テーマとして位置付けられていなかった。そのため、当方が成功し生産段階に移行した時にばたばたと開発を始め、結局開発納期遅れと言う結果になっている。
 
この仕事では、企画した前任者はその仕事が成功後昇進している。一方、納期通り開発に成功した当方は、横滑りで単身赴任終了東京帰任となったことがこの時の成果報酬ぐらいである。それでも転職まで選択しなければいけなかった高純度SiCのテーマに比較すれば幸せな終わり方だった。
 
この中間転写ベルトの仕事では、コンパウンド技術が重要だった。しかし、この重要な技術を外部に依存し、どのようなコンパウンドができているのかわからない状態で、前任者はひたすら押出成形をして開発を進めていた。
 
当方はコンパウンド内製化の企画を立案するのだが、高純度SiCの時と同様に組織内では歓迎されなかった。しかし、上司のセンター長がなかなか腹の座った人物で、無条件に当方を信頼してくれた。このような上司の場合には組織に歓迎されない企画でも進めやすい(当方の部下の課長は、外部から購入したコンパウンドによる開発の継承を主張(注)したため、管理下のメンバーはだれも成果を出せなかったが組織として成果がでた、という奇妙な結果でこのテーマは終了している。)。
 
センター長は、当方を信頼し中古の二軸混練機を買ってくれただけでなく、カオス混合の開発に成功した時にプラント建設に必要な投資の約束もしてくれたのだ。しかし、組織で歓迎されない仕事なので生産開始の3ケ月前までコンパウンドプラントの開発進捗を詳しく報告していない(報告できなかった、と言う表現が正しい)。そのためコンパウンドプラントは開発したのではなく、ただ必要になって立ち上げただけの小さな成果となった(プラントは発注から3ケ月ほどで立ち上がっている。誰が見ても小さな仕事だ)。
 
実際は外部のコンパウンドメーカーでも実現できなかった混練技術と、押出成形プロセスと相関する高度な品質管理技術がコンパウンドプロセスのために開発されたのだが、それらは成果として評価されていない。これら高度な技術を開発するために、報われないことが分かっていても土日を返上し働いた。
  
<ポイント>
組織の都合で正しい仕事が行われない場合がある。例えば豊洲の建物の問題も何か組織の問題があったのだろう。ワイドショーでは縦割り行政の弊害が指摘されているが、組織単位を階層の視点で見れば、豊洲移転は一つのテーマで、下部組織において複数のテーマに分かれてゆく。元石原都知事が言ったとか言わないとか議論されている建築下の空洞問題は、ワイドショーの情報を聞いている限り、下位の組織で独自の判断がなされたのだろう。単純に縦割りの弊害であれば、犯人探しは容易である。本来上位職者が知っていなければいけない金額が発生する業務において、上位職者の知らない状態がおかしいのだ。縦割りという問題ではない。下位の組織で扱えない金額の仕事を自由に担当者が推進できる状態がおかしい。これは、業者からわいろをもらい誰かがお金を着服しても監督指導できない状態である。大雑把にいえば昨日小池都知事が指摘していたガバナンスとコンプライアンスの問題となる。
高純度SiCの企画では、経営者の信頼は得られていたが研究部門は事業化したくない、というねじれた状態だった。すなわち、ガバナンスの問題である。
中間転写ベルトの企画では、一流の外部メーカーからコンパウンドを購入し開発するので必ず成功するという企画内容だった。しかしその「一流のコンパウンダー」の技術をもってしても製造できないようなスーパーコンパウンドが必要な企画だった。この事実を明らかにすれば、開発はすぐに中断となったが、すでに製品化フェーズに入っていたので、開発中断の責任は経営レベルまで及ぶ。だからスーパーコンパウンドを開発できる技術をセンター長に相談すれば、ゴーサインが出ることを当方は確信していた(判断力の無いセンター長ならば決断ができない)。センター長はこの点を理解していたので、当方のカオスな提案についてすばやく決断できた。もし無能な上司だったら、当方の退職が早まり東日本大震災で送別会が無くなる、という事態にはならず、このセンター長と一緒に盛大な送別会となっていた。しかし無事中間転写ベルトの開発に成功し、ついでにPETボトル廃材を用いた射出成型部品まで開発したので退職時期が遅れ、不幸にも大震災の日と重なった。おかげで送別会が無くなっただけでなく、帰宅難民として会社に一泊することになった。
 
(注)開発方針と開発納期を形式で判断すれば、外部のコンパウンダーからコンパウンドを購入し、仕上がったレベルの製品で我慢し生産を行う、という結論にいたる。部下の課長は、外部のコンパウンダーの技術では完成しないという当方の判断を聞き、外部のコンパウンダーに依頼するコンパウンドの検討の条件を増やす方針を出してきた。当方は、真面目な課長の計画を聞き、技術の視点で無意味なのでこの計画に反対だが科学的に否定できないので承認する、と伝え、2000万円の予算外の稟議書を起案している。ロジカルシンキングというセミナーはいつの時代でも受講者は多い。ただ、そのセミナーではロジックの間違いの可能性に技術的視点があることを教えていないのが問題だ。科学的に間違いでは無くても、技術的に実現できないロジックと言うものがあることを知らない人は多い。一方で科学的に間違っていても技術ができる場合があることを知っている人も少ない。PPSと6ナイロンを相溶させる技術は、教科書に書かれたフローリー・ハギンズの理論からは否定される。しかし、この中間転写ベルト用コンパウンドでは、これを技術として用いている。詳細は弊社へ問い合わせていただきたい。

カテゴリー : 一般 未分類

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2015.07/29 未だ科学は発展途上(8)

写真会社に転職した頃に話を戻す。写真フィルムにとって帯電現象はフィルムそのものの品質を低下させるだけでなく、せっかく撮影した作品を台無しにする。ゆえに帯電防止技術は乳剤技術同様に重要な基盤技術である。しかし、転職した会社の帯電防止技術はライバルに後れをとっていた。

 

例えば印刷用感材の帯電防止技術について、ライバル会社の写真フィルムにはアンチモンドープの酸化スズが帯電防止材料として使われ、現像処理後も写真フィルムに高い帯電防止処理能力が残っていた。写真フィルムのような感材の現像処理ではアルカリ性と酸性の水溶液にさらされるので、界面活性剤やイオン導電性高分子などの帯電防止層はこの過程で何らかのダメージを受ける。しかし金属酸化物導電体は化学的に安定であり、その影響を受けにくいので、現像処理後も処理前と変わらない導電性を有しており、感材の帯電を防ぐ。

 

転職した会社ではイオン導電体をエポキシ系の化合物で架橋し、帯電防止層として利用していた。しかしこの技術では金属酸化物ほど現像処理過程で安定ではなく、処理後にわずかばかり帯電防止能が低下する。ゆえにそれを補うために表面層の設計も必要だった。この合わせ技で何とかライバル同等の品質を維持していた。

 

本音は金属酸化物系帯電防止材料を使用したかったが、転職した会社では、長年にわたり出願されてきたライバル会社の特許を回避することが難しいと信じられていた。そのような状況でライバル特許群を読んでいて、科学的におかしな表現を特許に見つけ(すなわち科学ですべてが解明された時代にはうそと言っても良い内容である)、それがきっかけとなり転職した会社で昔出願された酸化スズゾルの特許を発見できた。

 

しかし、酸化スズゾルについては、新素材として数年前T社から上市されていたので、転職した会社では評価が完了し、酸化スズゾルにはライバル特許に書かれているように感材に用いるには十分な導電性が無い材料という結論が出されていた。(続く)

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2015.06/18 私のドラッカー(11)

「道具としてのテクノロジーと、文化としてのテクノロジーが一つのものになるのが、実に「仕事」においてである。」とドラッカーは、「傍観者の時代」(1979)で述べている。すなわちテクノロジーをものの行い方やつくり方としてとらえ、かつ人と社会に関わるものとしてとらえている。

 

科学では論理の厳密性が要求され、真理をねじ曲げ新たに捏造することは許されない。しかし、テクノロジーでは人類に貢献できるように臨機応変、柔軟に変更することは許されるのだ。21世紀はじめに「コト」の時代であることが叫ばれた。すなわち新しい「モノ」ではなく「コト」を考えろ、といわれた。

 

しかし、せっかく新しい「コト」が提案されても、従来通りの科学に隷属した技術開発を行っていては、新技術は生まれない。科学におけるものの行い方では、論理で制御された行い方しか許されない。その結果、科学的に証明される当たり前の技術だけが生み出される。

 

科学で未解明の機能は、たとえそれが有用な機能であっても使うことが禁じられる。これでは技術の進化は科学を追い越すことができないだけでなく、科学の進歩が止まったとたんに技術の進歩も停滞する。

 

「マッハ力学史」によれば、技術は人類とともに生まれ進歩してきたが、科学はニュートン以降に生まれ進歩している。確かに技術は科学のおかげで20世紀に急速な進歩を遂げたが、あくまで科学が便利な道具として使われ、それが急速に進歩したからである。その道具の進歩が遅くなったなら、科学以外の方法も活用し、人類は技術を進化させなければいけない。

 

人類がこれまで価値を生み出してきたのは技術の進化のおかげで、その進化を止めれば新たな価値を創造できなくなる。「コト」で価値が創造されたなら、その「コト」を実現するために新たな技術開発も必要だ。非科学的方法論が重要な時代になってきた。

 

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