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2013.06/03 科学と技術(酸化スズゾル4)

特公昭35-6616に記載された実施例には酸化スズゾルの詳細な製造条件が書かれていない。四塩化スズを加水分解して得られた沈殿をデカンテーションの繰り返しで精製し高純度酸化スズゾルを得る。これをアンモニア水に分散すると、安定な高純度酸化スズのコロイド水溶液ができるのだが、四塩化スズの細かい加水分解条件やデカンテーションの回数等が実施例に記載されていない。

 

デカンテーションの回数については副成する塩素が残らない条件なので10回以上であることが計算から容易に推定がつく。しかし、加水分解温度について詳しく記載されていないのは不思議に思った。四塩化スズと水の混合物が得られてから煮沸するので、100℃までであれば、四塩化スズの添加温度など気にする必要がないようにも思われる。また四塩化スズを液体の状態で添加するのか、あるいは水和物の固体で添加すのかについてはどちらでも良いような中途半端な書き方である。

 

ところが実験をやってみて分かったことだが、発明者はこの加水分解温度の重要性に気がついており、わざと丁寧に記載しなかった可能性があると推定した。

 

タグチメソッドで実験を行うと、この添加温度の因子が感度とSN比に大きく影響する。困ったことに感度を高める条件ではSN比が低下し、SN比の最大をとると、感度は中程度となるのである。

 

最適条件の選択では、田口玄一先生と喧々諤々の議論を行った。田口先生はあくまでSN比を優先すべきだ、というお立場で、当方はSN比中間で感度もそこそこの良さそうなところを、という立場である。何のために動特性で実験を行ったのか、という雷が落ちる。当方は実験を行った感触から、SN比最大で無くとも生産安定化ができる、と予想した。

 

ちなみに非晶質酸化スズの体積固有抵抗は、この時の実験結果で500Ωcmから100000Ωcmまで約200倍以上変動している。タグチメソッドの動特性の実験として典型的な結果が得られる実験系である。SN比と感度の議論では、田口先生が正しい判断をされていることは理解できていても、ものすごい結果を目の当たりにした生徒の立場では未練が残る。ただ、田口先生の一言「科学の研究をやっているのではない、技術開発をやっているのだ。」に、すなおに「はい、分かりました」と納得して答えた。偉い先生である。

 

<明日に続く>

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2013.06/02 科学と技術(有機系太陽電池)

昨日名大名誉教授高木克彦先生の「有機系太陽電池の機能評価と規格標準化」というご講演を拝聴した。色素増感太陽電池の技術に関わる内容だが、この技術が実用化されるのか、単なる科学的な興味の対象で終わるのか不明確であった。

 

講演で示されたデータは、実用化されてもおかしくない技術データである。チャンピオンデータでないことは、学会発表のデータを見てきたから理解できる。色素増感太陽電池をエネルギーシステム商品として見たときに魅力的な企画ができる。発電効率のポテンシャルは現在主流のアモルファスシリコン太陽電池よりも2%低いそうだが、この普及が始まった太陽電池とは異なるカテゴリーの商品企画ができるのである。

 

今朝特許を調べてみたが、この10年出願された特許の中にはそのコンセプトに関する発明は存在しない。ボーイング787の事故があったのでコンセプトに気がついた人がいるかもしれないが、新しいコンセプトを思いつくことがそれほど困難な行為とは思っていなかった。しかし、この10年間の特許に存在しないということは発明を思いつくのが容易ではないのだろう。

 

科学で考えている限り思いつかないコンセプトである。技術で考えれば、当たり前のコンセプトである。おそらくこのあたりが関係しているのかもしれない。弊社の問題解決法プログラムは、このあたりに着眼して開発したプログラムである。

 

以前この蘭でも書いたのだが、科学は真理を追究する思考方法をとるが、技術は機能を追究するのである。科学の思考方法で思いつかないコンセプトでも技術の思考方法で容易に出てくることは32年間何度も経験した。おそらく色素増感太陽電池に関わっている人たちは、科学的思考の研究者ばかりなのだろう。

 

さて色素増感太陽電池は実用化できるのだろうか。量産されたときのコストはアモルファスシリコン太陽電池よりも安くなる、といわれている。その構造からロールtoロールによる生産が可能なので、日本で生産してもコストはアモルファスシリコン太陽電池よりも安くなる可能性がある。

 

発電効率が2%低いというが、明るさとともに発電効率が低下するアモルファスシリコン太陽電池に比較すると、明るさに影響されずほぼ一定の発電効率を示す色素増感太陽電池は、魅力的である。例えば部屋の中で使用するときには、アモルファスシリコン太陽電池よりも色素増感太陽電池のほうが発電量が多い。

 

技術的な観点からは魅力的な商品を思いつく。

 

<明日に続く>

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2013.05/31 科学と技術(酸化スズゾル3)

特公昭35-6616は世界で初めて非晶質酸化スズが導電体であることを示した技術論文である。昭和50年前後の特許では、この特許が公知事例として引用されていたが、50年末から引用されなくなっていった。

 

おもしろいのはこの特許が引用されていたときのライバル特許には結晶性酸化スズ透明導電体を帯電防止材料として利用することが権利範囲として明示されていたのだが、この特許が引用されなくなったあたりから、その存在すら無いような特許の書き方に変わっていった。

 

すなわち結晶質だろうが非晶質だろうがすべてが自分たちの権利範囲だ、という書き方に特許が変わっていったのである。審査請求時の証拠としてあげられている資料を調べると、驚くべきことに昭和35年の特許を誰も証拠書類として出していないのである。

 

科学の歴史から見れば昭和35年に非晶質透明導電体の技術が存在した、という事実は大変なことなのである。その約20年後に高純度酸化第二スズ単結晶が絶縁体であると、科学的に証明されたのだから、技術が科学よりも20年近く先行していたことになる。しかもその特許には透明導電体の湿度依存性までデータが示されており、電子伝導性であることまで記載されていたのである。

 

一般には科学が技術を牽引している、と誰もが信じている。信じているから科学を発展させれば技術が発展し経済が成長する、と考えている。ところが科学の論理的な流れの中の発展とは関係なく、技術では突然変異のような展開をしている場合があるのだ。

 

導電性非晶質酸化スズについて1992年に科学技術大学の協力を得て見直しを行ったところ、暗電流の測定から結晶性酸化スズでは観察されない、導電性に関与するエネルギー準位を見つけることができた。ところがこのエネルギー準位の再現性は怪しく論文発表を見送っている。しかし、その後技術としてこのばらつきの意味が分かってきた。

 

科学では怪しい現象だが、技術では品質管理技術で安定な導電性を得られるようにできる。当時タグチメソッドが日本で流行しはじめた時であり、田口玄一先生の御指導を直接受けながら電流と電圧を測定し動特性でSN比の高い非晶質酸化スズゾルの製造条件をL18で容易に見つけることができた。

 

<明日に続く>

 

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2013.05/30 科学と技術(酸化スズゾル2)

1970年代に酸化第二スズは、絶縁体であるかどうかが科学の分野で重要問題であった。そして完全に近い酸化第二スズ単結晶の合成研究が無機材研で進み、合成された酸化第二スズ単結晶の電気特性を評価したところ絶縁体であった、と言うのが結論である。

 

しかし、技術的には透明導電体としての物性に興味が持たれ、どこまでその導電性が上がるのか、また酸化第二スズ以外に透明導電体が存在するのか、という研究が今でも進められている。

 

すなわち、酸化第二スズに関する研究は科学と技術の向かう方向がまったく逆となった材料である。このような材料の科学的研究の評価は社会から得られにくく、科学的研究を続けることが難しい場合も出てくる。

 

科学的真理の追究に無駄な活動は無い、という考え方が社会に定着しているのが理想と思うが、技術開発の目標に二番ではダメなのか、という認識の大臣経験者がいる国ではこの理想から遠くなる。科学に関して日本は研究者の善意に頼らざるをえない研究環境だろう(但し劣悪な環境というわけでは無い)。

 

緊急度の低い、あるいは重要度の低い科学的真理は存在する。しかし、経済効果が0に近いからといって科学的真理の価値が下がるわけでは無い。技術開発は科学という思想で行われるために、科学的真理すべてに価値がある。ただしその価値の高さには高低があるが、それは歴史が決めることである。

 

高純度酸化第二スズ単結晶が絶縁体である、という科学的真理は、酸化第二スズがなぜ導電体になるのか、という問題を明確にする。「高純度単結晶は絶縁体である」という命題に対して、「絶縁体でないならば高純度単結晶ではない」、という対偶が成立する(注)。

 

すなわち半導体から導電体まで電気特性が変化する材料であるなら高純度単結晶ではない、という仮説を立てることができる。この仮説について、高純度結晶で酸素欠陥が存在する場合、あるいは結晶で不純物が存在する場合についてその導電性を科学的に証明され、アンチモンドープあるいはインジウムドープされた材料の技術的使いこなしや品質管理技術が発展した。

 

しかし、単結晶ではない非晶質の場合にどうなるかの科学的解答はまだ出ていない。

 

<明日に続く>

 

(注)対偶どおしは真であるので、もとの命題を考えにくいとき、あるいは新たなアイデアを考えるために視点を変えたいときには対偶を考えると良い。科学的論理学では、等価と言われている。

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2013.05/29 科学と技術(酸化スズゾル1)

酸化第二スズ単結晶は絶縁体である。昭和30年頃には半導体材料として研究が行われ、1980年前後に科学技術庁無機材質研究所(以下無機材研)で高純度酸化第二スズは絶縁体であることが確認された。

 

この酸化第二スズ結晶に不純物がわずかでも混入したり、酸素欠陥ができると正孔あるいは余剰電子ができ半導体から導体まで導電性が変化する。固体物理の進歩はすさまじく、酸化第二スズ結晶の導電性については詳しく調べられており、導電性に寄与するすべての電子のエネルギー準位まで科学的に説明されている。絶縁体であるかどうかが問題にされ、絶縁体であると科学的に結論が出るまで25年(あるいはそれ以上かもしれないが)かかっている。

 

酸化第二スズが科学的な真理として絶縁体である、と分かっても技術的には影響が少ない。透明導電体を得たいならば、アンチモンやインジウムを不純物として加えれば良く、科学的真理が確定する前からすでに技術として実用化されていた。

 

それでは、酸化第二スズ結晶が絶縁体であるという科学的真理が人類に意味の無い成果か、というとその評価は間違っている。この科学的真理があるから導電性の高純度酸化第二スズに注目するのである。そしてどのように理解したら良いのか思い巡らし技術的なアイデアが生まれてくる。このあたりについては、ファーガソン著「技術屋の心眼」に詳しい。ファーガソンが触れていない点だけ述べれば、正確な科学的真理は、正しい技術ソリューションを導いてくれる。凡人の技術者にとって正確な科学的真理は暗闇の灯台のような役割である。

 

特公昭35-6616という特許は唯一番号を正確に記憶している高純度酸化第二スズ導電体の特許である。小西六工業(現在のコニカミノルタ)の技術者による発明であるが、コニカの社員でさえ1991年にその存在を忘れていた。この特許は高純度酸化第二スズ導電体に関する世界初の資料である。しかも科学的な研究結果が乏しい時代の技術成果である。この特許に記載された非晶質酸化第二スズは物性データから、その後の追試で1000Ωcm未満の導電性を有している、と推定された。

 

この特許は写真フィルムの帯電防止材に関する発明である。塗布でTACフィルム上に高純度非晶質酸化スズを含む薄膜を形成すると湿度に依存しない帯電防止材となる。しかも現像処理後もその導電性が残っている透明の永久帯電防止処理技術である。この発明が公開された後、イースタマンコダック(EK)と富士フィルム(F社)から蒸着によるITO薄膜を用いた透明フィルムの帯電防止技術の発明が数年研究され、特許がそれぞれ10件前後出願されている。

 

その後EKからは非晶質五酸化バナジウムの発明が行われ、この五酸化バナジウムを用いた帯電防止技術を守るように特許戦略が組まれ、おびただしい数の特許が1990年頃まで出願されている。一方のF社からはITO薄膜の発明の後、アンチモンをドープした酸化スズを用いた透明フィルムの帯電防止材に関する発明が、これまた1000件以上2000年頃まで出願されている。

 

<明日へ続く>

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2013.05/28 科学と技術(パーコレーション)

絶縁体である高分子に導電性のカーボンを混合してゆくと、添加量の体積分率(v)がある量(vp:閾値)になると、急激に抵抗が下がる現象が生じる。その後はカーボンの添加量に応じて緩やかに抵抗が低下してゆく。これがパーコレーション転移と呼ばれる現象で、電気抵抗だけでなく、弾性率変化などあるマトリックスへ粒子を添加してゆく時の物性変化で観察される。

 

電気抵抗の場合には1000倍以上の物性変化がパーコレーションの閾値で観察されるのでこの現象の研究に電気特性がよく使用される。弾性率でも柔らかい物質に固い物質を添加した場合には下に凸の関数になったりするのでパーコレーションの閾値を確認できるが、電気特性ほどの変化を示さないので閾値の場所がわかりにくくパーコレーションの物性研究に扱いにくい。

 

パーコレーションの科学は古くから数学者の間でボンド問題とサイト問題として議論されており、パーコレーションという言葉の由来はコーヒーのパーコレーターからきている。日本語では浸透理論となる。

 

パーコレーションを科学的に論じるとクラスターのできやすさを議論する確率理論になる。技術的な解決方法にはマトリックスとフィラーの相互作用やフィラーの界面、フィラーの凝集体の制御など切り口は複数になる。絶縁体高分子から半導体材料を製造するときに電気抵抗制御を導電性材料で行うのだが、必要な電気特性に近いフィラーを使用するのが最も無難な材料設計になる。しかし、経済性の問題がでてくる。

 

技術的な解決方法で注意しなくてはいけないのは、パーコレーションの閾値近辺で材料設計をしてはいけないという点である。物性ばらつきが大きくなるからである。たまたま実験室で物性を安定化できても生産で大きくばらつくことがある。あるいは市場で使用中にばらつくこともある。しかしどうしても閾値近辺で材料設計しなければいけないときにどうするのか。

 

電気特性であれば、Wパーコレーションのアイデアを使用できる。例えばカーボンであれば、カーボンの凝集体を分散し、分散体の体積分率が閾値の手前あるいは閾値を過ぎたあたりになるように材料設計を行う。分散体の凝集力を制御すると分散体の抵抗を制御でき、全体の抵抗を安定化できる。このパーコレーション転移制御技術を利用した製品は6年前世の中に製品(MFPの中間転写ベルト)として販売された。

 

技術ではこのような解決方法が存在するが、科学では、まだWパーコレーションの問題が扱われていない。技術が科学を先行している事例である。科学技術という言葉がある。また、科学と技術は車の両輪である、という金言もある。20世紀は科学が著しく進歩しその結果技術革新のスピードが早くなったが、21世紀は技術が科学をリードしているのかもしれない。山中博士のノーベル賞も技術的成果としてヤマナカファクターが見いだされ、科学的に証明された。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.05/24 難燃性樹脂のリサイクル

LOI21以下の汎用樹脂は燃えやすく、電気製品や自動車部品に用いるときには必要に応じて難燃剤を添加し難燃性樹脂として使用している。難燃性樹脂を混練するときに混練温度の管理は重要である。

 

高分子に含まれる炭素原子と炭素原子、あるいは炭素原子と水素原子との単結合は、280℃以上の高温度になると切断しやすくなる。ポリオレフィン樹脂の熱安定性を熱天秤で確認すると300℃前後まで安定に見えるが、混練時には剪断力も働くので高分子の種類あるいは混練条件によっては280℃以下の温度でも原子間の結合の切断は生じる。また高分子はヒモのような構造なので剪断力を大きくかければ150℃以下でも切断する場合がある。

 

難燃剤の場合にはもっと深刻な問題がある。難燃剤には炭素原子と炭素原子の結合よりも弱い結合が含まれている場合がある。例えばハロゲン原子を含んだ難燃剤の場合には、180℃前後の温度でハロゲン原子が遊離する。ハロゲン原子はラジカルとして発生するので他の物質に再結合する場合もあるが、熱天秤の観察結果では、多くのハロゲン系難燃剤でこの温度近くにおいてハロゲンが遊離する。ある種の難燃剤では150℃以下でも環境条件によってハロゲンが遊離する。

 

樹脂の難燃化機構では樹脂の分解温度近くで分解する難燃剤が理想的と40年以上昔から経験的に知られていた。ただ、熱分解し空気中で効果を発揮する難燃剤の場合には低温度で分解しても効果が発揮されていることが確認されている。ハロゲンと酸化アンチモンの組み合わせ型難燃剤は、空気中でハロゲン化アンチモンを生成し、燃焼中の樹脂表面に滞留して空気の遮蔽効果が発揮され燃焼を止めると言われている。この機構であれば低温度で熱分解してもアンチモンとの反応条件さえ整うと難燃効果を発揮する。しかし難燃剤の開発の歴史を見ると難燃剤の分解温度を高めることは一つの重要な技術課題であった。現在でも280℃以上の温度まで安定な難燃剤は少ない。

 

非ハロゲン系難燃剤は環境問題の関心が高まるとともに重要な研究課題となり、リン酸エステル系難燃剤にも非ハロゲン系の難燃剤が品揃えされるようになった。その中には280℃以上の温度でも安定な難燃剤が存在する。しかしこのような耐熱性の高い難燃剤が使用されている例は少なく多くの場合は、250℃前後から難燃剤は分解する、と考えて対応した方がよい。すなわち混練温度が250℃以上になると難燃剤の分解を心配しなければいけない、と大雑把に考えてよい。ハロゲン系難燃剤の中には150℃前後でも分解する物質があるが、難燃剤メーカーに混練条件を提示した場合にはそのような低温度で分解する難燃剤は供給されない。

 

このように考えると難燃剤を添加した難燃性樹脂の混練は剪断力の効果も考慮すると250℃以下で行うことが望ましい。使用する難燃剤の熱分析データを見て混練条件を考えるべきであるが、そのように行われないケースを見てきた。大手の樹脂メーカーの技術サービスの話を聞くとびっくりするような混練条件の決め方をしている場合もある。熱分析データは熱天秤とDSCの両者を見るべきだが、一度も熱分析データなど見たことが無い、というケースも存在する。そのようなメーカーの樹脂は安くても購入しない方がよい。

 

最初の段階で混練条件が悪ければ、そのリサイクル樹脂についてはどのような温度条件を設定しても難燃剤が熱分解した樹脂となる。しかし難燃剤が樹脂内部で分解していても難燃性能に大きな影響が出ない場合がほとんどである。だから難燃剤の耐熱性に無頓着な樹脂メーカーも存在するのだろう。ただし力学物性や絶縁性に影響が出る問題は深刻である。難燃性樹脂のリサイクルでは樹脂の耐久性に注意する必要がある。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.05/23 半導体領域の高分子材料

1980年頃に書かれた導電性高分子の教科書は、導電性高分子が夢の材料になっており、最も導電性が良好な高分子材料でも半導体領域の導電性であった。そして導電性高分子にするにはカーボンの添加が不可欠との説明がされていた。白川先生の論文が発表されてしばらくしてからの教科書である。

 

高分子の大半は絶縁体である。経済的に半導体領域の材料へ変性するには、今も昔もカーボンの添加が最も効率的である。しかし、この時パーコレーション転移の制御という材料技術が重要である。試行錯誤で半導体領域の材料を製造することができても安定な生産が難しい。

 

パーコレーション転移の概略説明は以前書いているので、ここでは特許を書くコツを幾つか公開する。ただこの説明も工夫しなければ、ここに書いたとたん、コツは分かったが、もう特許に書けない、ということになりかねない。ゆえに公知の範囲で記載し、特許になりそうなところは、文脈で理解して頂けるような書き方をする。奥歯にモノが挟まったような文章になるが---。

 

1.パーコレーションではクラスターが長くつながる確率が問題となる。この確率を100%にできる、あるいは0%に制御できる技術が特許になる。

 

2.パーコレーション転移で得られる導電性は、マトリックスの電気抵抗と粒子の電気抵抗で決まる。粒子の電気抵抗の制御方法とマトリックスの電気抵抗の制御方法はそれぞれ未知の方法が存在する。

 

3.マトリックスの電気抵抗は、カーボンを分散したときに不純物の影響で変化しているはずで、そこをうまく表現した特許は少ない。(ご相談頂ければ詳細説明いたします。)

 

4.粒子の抵抗は、表面処理や凝集状態で変化する。(ご相談頂ければ詳細説明いたします。)

 

5.高分子中にカーボンを分散する方法は、混練技術になるが、混練手段によりクラスターのでき方が異なる。この定量化は難しい。

 

6.傾斜組成の場合と均一分散の場合では、体積固有抵抗と表面比抵抗の関係が崩れる。インピーダンスも変化する。このあたりの関係について論文は少ない。

 

7.パーコレーションは粒子の分散以外にも界面活性剤の分散や、導電性高分子の添加でも観察される。

 

8.PEGは面白い添加剤である。

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2013.05/23 成功する技術開発(28)

ポリエチルシリケートとフェノール樹脂を酸触媒存在下で混合すると透明な樹脂ができる。リアクティブブレンド技術なので両者の反応速度がうまく合わなければならない。このような実験では、試行錯誤で実際に組み合わせて実験を行った方が早く結果が得られる。実際に12時間程度の実験で安定に合成できる条件が見つかった。

 

このような実験方法はアカデミアの先生に理解されない、と思っていたら、iPS細胞発見の実験では、同様の方法でヤマナカファクターを山中先生は見いだしていた。テレビ放送では、その手順については初公開と言われていたので、研究手法として批判を浴びる、と判断され隠されていたのかもしれない。すなわちどうやって見つけたかは秘密にしておいて、iPS細胞ができることだけを示し、その先の研究を行っていても研究として成立する。見いだした方法を秘密にすることも許される。むしろ秘密にした方が権威が出るし、テレビで発表された方法では、SiCの発表を初めて日本化学会で報告したときのように、批判を浴びたと思われる。ノーベル賞受賞後であれば、一定の評価が得られたので、公開した方が世の中のためになる、と評価される。

 

SiC前駆体の合成に関しては、酸触媒の選択方法について当然質問が出ると思い、酸触媒の検討結果を○△×で示したが、これが批判を浴びた。しかし、批判してはいけないのである。新しい実験事実が出ているのであれば、賞賛すべきところである。学会発表は学問の純粋性を追求する場であると同時に進歩を促す場でもあるのだ。もし新発見の事実があり、その発見が今後の研究に影響を与えるのであれば、まず発見できたことを褒めるべきである。

 

山中博士が遺伝子を細胞に全部放り込んだ実験結果をノーベル賞受賞後まで隠されていた気持ちは、よく理解できた。30年経っても変わっていないのである。学会は研究者が切磋琢磨する場であることは認める。しかし一方で新しい研究を促進する役目もあるのである。学会賞はそのためにあるが、この学会賞も嫌な思い出がいくつかある。

 

新しい発見について、まずその事実を評価する議論がなぜできないのであろうか。これは企業内でも同様のことが起きるのだが、直接利益につながる話であれば、論理の厳密性はそれほどの議論にならない。学会よりも企業内の評価は健全である。ただ、企業それぞれの風土により成果に対する評価が異なる。新しい発見を促進できる風土の企業は業界トップになっている。学会同様にプレゼンテーションを重視する企業は注意した方がよい。技術開発の実験よりも書類作成に多くの時間が割かれていないか?

 

企業では結果をまず大切にする姿勢が重要だと思っている。以前この蘭では、まず「モノ」をつくることの重要性を指摘したが、それはゴム会社で学んだことである。「こんな書類を持ってくるよりも、実際にモノを見せてくれれば研究費を出す」と言われて、徹夜してモノを造って翌朝見せたところ、研究予算を認めてもらえた感動は今でも覚えている。(「簡単にできるならやらない方がよい」という評価をだす会社もあるようだが、それは若い研究者の情熱を理解していない会社だ。)発見プロセスやプレゼンテーションなどよりも、目の前に「モノ」が示されている重要性は、研究開発を32年間行ってきてよく理解できた。

 

学問の進歩も新しい事実が示されて促進される点を重視するならば、学会での議論の視点も変わると思う。まずプロセスありき、あるいはプレゼンがまず重要だ、という学会では将来が心配である。

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2013.05/22 成功する技術開発(27)

半導体用高純度SiCについて学会発表当時はデータも少なく、学位論文を辛うじてまとめられる程度であった。学位論文には、新前駆体を用いたSiCの反応機構について研究結果をまとめたが、日本化学会での発表が妥当であったか悩むところである。S教授から散々のコメントを頂いたが、おかげで研究に対する理解と当時の研究動向の最前線について情報が得られた。

 

無機高分子研究会に所属し学会活動をしていたが、SiC前駆体高分子に関する情報を当時の文献や学会から得ることができなかった。特許にも、フェノール樹脂とシリカの組み合わせあるいはカーボンとポリエチルシリケートとの組み合わせが公開されたばかりで、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとの組み合わせについて存在しなかった。

 

そもそもフェノール樹脂とポリエチルシリケートとはフローリーハギンズ理論から相溶しない組み合わせと思われており、この組み合わせで均一になる、というのは驚くべきことなのである。また当時この組み合わせを実験する、ということはフローリーハギンズ理論をよく理解していない、と評価されたのである。S先生のコメントにもそのような見解が入っていた。S先生は当時RIMで実用化されていたリアクティブブレンド技術をご存じなかった。単なる低分子の重合反応という認識であった。χの大きな高分子の組み合わせでリアクティブブレンドが進行するというのは学術の世界ではタブーのようであった。

 

新前駆体を用いた高純度SiCの合成反応は学術の視点から散々な評価であったが、技術としてはまっとうなコンセプトで開発された。すなわちχが大きく均一安定化が難しいので、リアクティブブレンドで安定化させようと反応触媒に視点を置き開発したのである。学会発表でもそのコンセプトをプレゼンテーションしたが、そもそも均一に混ざらない系で触媒を検討する発想を理解できない、とこき下ろされた。

 

S教授のところからその後ππ相互作用を活用した無機高分子の研究などが公開されてくるのだが、技術が学術よりも先行するとこのような事態になる。しかし、このような状況だから春季年会に企業研究者の出席が少なくなってきた、ということをアカデミアの方は気がついているのであろうか。1970年代石油化学が隆盛を誇っていたとき企業研究者の学会参加が多かった、と聞いている。技術と学術が切磋琢磨した時代の話である。

 

学会で技術発表をしづらい雰囲気ができ、企業も技術の成果を機密扱いにして学会発表を控えるようになった。これでは学会に企業研究者の参加が少なくなって当たり前である。ATPの企画で企業参加が少し増加したが、かつての技術と学術が切磋琢磨した状況とは少し異なっている。新しい技術を生み出すために学術が必要かどうかは、人類の歴史を見れば明らかで、学術など無くとも人間の営みとして技術は生まれるのである。しかし、技術の発展するスピードに学術の果たす重要な役割がある。研究のネタを技術の中に探索するアカデミアの姿勢が必要な理由である。1970年代にはそれがあった、と故石井教授から学んだ記憶がある。

 

研究とは新しいことを見つけ出す活動、と故小竹先生は言われたが、この活動は企業の技術者も楽しんでおり、アカデミアだけに許された活動では無いのである。アカデミアがどうあるべきかを論じる立場では無いので、お願いという表現になるが、開発された技術の中に存在する真理を拾い上げそれを人類資産として明確にする活動をできないでしょうか。もしそのような視点の研究発表が学会に増えれば企業研究者は自然に学会参加するようになる。

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