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2013.11/18 ホスファゼン導電体

ポリアセチレンが発見されるまで、有機半導体の研究は、どこまで導電性が上がるのかが興味の関心だった。「有機半導体」という教科書を購入して間もなくポリアセチレン発見のニュースを聞き、高価な教科書がゴミになった悲しい思い出がある。

 

ホスファゼン導電体の研究は、プロトン導電体として企画された。大学院の修了式を終えた後、残務整理として10日ほどでまとめた。導電体以外に数種類新規のホスファゼン誘導体を合成して楽しんだ。大学の研究生活が楽しくて上京するまで実験していた。

 

ポリアセチレンが発見された後だったので、研究の価値はほとんど無かったが、これが電気粘性流体用絶縁オイルの設計やLiイオン電池の電解質用難燃剤へのアイデアにつながってゆく。この経験から研究というものが時代の流れで大きな価値を失ったとしても納得のゆくまでまとめる必要がある、と学んだ。指導してくださった先生に感謝している。

 

会社を退職して満足な研究環境ではないが、会社で十分にやりきれなかったことについて見直しを進めている。セラミックスから有機高分子まで、タイヤや防振ゴムからSiC半導体や感光体、電子情報機器まで様々な材料や商品の開発を経験した。大学では体験できないことである。企業の研究開発の面白さでもある。

 

ホスファゼン導電体同様に今では研究開発テーマとして価値の無いものもあるが、少しずつまとめてみると、面白いことにそこから未来が見えてくるのである。これは経験者で無ければ理解できないことかもしれないが、一生懸命開発していたときには気がつかなかった技術の新しい応用方法が見えてくるのである。温故知新という言葉が好きだが不易流行という言葉が合っているのかもしれない。

 

技術の営みには不易のものがあり、それが新しい技術を生み出す原動力になるのであろう。ホスファゼン導電体を導電体として見ている限りでは、不易はわからない。しかし、PN環の特殊性は不易のものである。その特殊性は時代のニーズの流れの中で新しい発見も加わりいつの時代にも新素材として生まれ変わる原動力になっている。技術も製品化ではそれが具体化された姿しか見えないが、それを概念として眺めなおすと新しい機能を生み出す手段に見えてくる。

 

本欄ではサラリーマン生活32年間の研究開発生活を中心に書いているが、見えてきた未来について別途HPを立ち上げ未来技術をまとめる企画を検討中。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.11/16 SiC基切削チップ

複合材料の設計にタグチメソッドは便利である。また複合材料の設計思想として強相関ソフトマテリアルの考え方はハードマテリアルにも使用できる。この両者の手法は時々材料設計に利用している。

 

25年ほど前にセラミックス製切削チップを企画した。当時SiCで鋳鉄を研磨できないと言われていた。表面にフェロシリコンが生成し摩耗速度が速くなるケミカル摩耗が進行するため、と言われていた。SiCをベースにした切削チップでこの常識にチャレンジした。

 

当時Si-Al-Cの3成分の相図について研究報告が出始めていた。またSi-Ti-Cに関する研究も行われていた。ゆえに情報が出始めたこれらの組成に着目し、プリカーサー法で元素を均一に混合する技術を使用し、S―Ti-Al-Cという新材料の合成を企画した。開発効率を上げるために実験計画法を用いた。ただし、ラテン方格の外側には、荷重を変えた硬度測定で観察される亀裂の幅を変数に割り付けた。

 

タグチメソッドなど知らなかった時代に、タグチメソッドの感度をラテン方格の外側に割り付ける実験計画法を行っていた。これは新入社員時代から開発戦術として統計手法にこだわり続け編み出した方法である。特性値をそのまま割り付けると実験計画法で見いだした条件で最適解が得られないことが多かった。ゆえに研究所では実験計画法が使われなくなったのだが、これをうまく使いこなすことにこだわり続け、相関係数を割り付ける方法を考案した。不思議なことに、この方法で行うとうまく当たるようになったので、愛用戦術の一つになった。

 

TEOSと、Alイソプロポキシド、Tiイソプロポキシド、フェノール樹脂を高速撹拌し前駆体を合成した。ここで、アルコキシドだけ事前に撹拌しておくとフェノール樹脂との反応をマイルドに行う事が可能になる。なぜかという理由は化学の専門であれば考えるとすぐにわかる処方である。SiC化の条件と同様にして、36種類の処方で粉体を合成した。得られた粉体をそのままHPにかけると、99%以上の密度まで全ての処方が焼結した。処方の中には、低温度で液相を生成する場合もあったので、36種の粉体でHPの条件は異なっている。

 

驚くべきことに、硬度計によりつけられた亀裂から求められるK1cが20を越える処方が一つ見つかった。他の処方は、高くてもせいぜい8前後である。ちなみにSiCは2-3と計測される。20以上というのはサーメット製の切削チップと比較しても遜色の無い材料である。電子顕微鏡で組織観察を行うと、大変細かい組織が得られていた。すなわち、焼結過程で液相が生成していてもSiCが異常粒成長を起こしていなかったのだ。

 

この材料で切削チップを作成し、東京都立工業技術試験所で評価して頂いたら、鋳鉄の研磨ができたのである。それを狙って材料設計したのだから当たり前の結果であるが、当時びっくりしたのと感動で、太い鋳鉄が何本も細くなってゆく評価実験を見ながら涙が出てきた。

 

カテゴリー : 高分子

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2013.11/14 SiO2-C複合粉体

TEOSをフェノール樹脂球に含浸させて熱処理を行うと、シリカが炭素中に傾斜組成で分散した球体を製造することができる。熱処理温度を変えることで、中心部分の炭素の抵抗を制御できる。シリカは表面部分に濃度が高く中心にゆくに従い少なくなる傾斜組成をとっている。この分散の仕方は含浸条件を制御することで自由にデザインできる。すなわち表面を高抵抗にして中心部分を導電体にした、帯電しやすく放電しやすいという矛盾した性質を持った粉体を設計できる。

 

この粉体は電気粘性流体用に開発された材料だが、その技術は昨日書いたC-SiC繊維の技術をそのまま使用している。ゆえにこの粉体を1600℃以上で焼成すれば、表面がSiCの粉体を製造可能である。ところがSiC化まで進行させると、表面の抵抗が10の8乗Ωcm以下まで下がるので電気粘性流体には使用できない。電気粘性流体にこの粉体を利用する場合には、1400℃以上の熱処理を行ってはいけない。

 

この傾斜組成の粉体(これをAとする)の御利益がどのくらいあるのか電気粘性効果で比較したことがある。フェノール樹脂球を炭化した後TEOSで表面処理し、表面だけにシリカを析出させた粉体(これをBとする)、非晶質シリカとフェノール樹脂をメタノール中で混合後スプレードライして製造した、シリカ分散カーボン(これをCとする)について電気粘性効果を評価したところ、A>C>>Bとなった。

 

Cの材料でそこそこの性能が発現しびっくりした。当時のプロジェクトで評価していた粉体と同程度の性能が出た。実験結果を基に考察を進めると、Cでも帯電しやすく放電しやすい性質を持っていることがわかった。

 

二律背反の物性を持った材料を設計するときに、複合材料設計というのは考え方の定石であるが、どのように設計したら良いか、すなわち複合化方法にはどのような方法があるのか可能性のある複合化手段をすべて評価しておく必要がある。この時実際に材料を製造し評価するのが最も良いが、時間とコストの問題がある。その時便利なのがシミュレーションである。どんな場合でも適用できるシミュレーション手法があるのでご興味のある方は問い合わせください。

 

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.11/13 C-SiC繊維

炭素繊維はエジソンの発明だが、東レのPAN系炭素繊維で新素材としての用途が拡大した。ピッチ系炭素繊維や、故矢島先生のジメチルポリシランを前駆体とするSiC繊維など各種無機繊維が登場したが、東レの炭素繊維が最も多く使用されている。コストも下がってきており、自動車用途にも使用されるようになった。

 

SiC繊維が登場した数年後に開発されたC-SiC繊維は、表面がSiCで中心が炭素繊維という傾斜組成の繊維である。炭素繊維をFRMに応用しようとしたときに界面で金属炭化物が生成し脆くなる問題がある。その問題の解決を狙い、約30年ほど前に表面だけSiC相を形成した繊維を開発した。

 

作り方はフェノール樹脂繊維(カイノール)にTEOSを含浸させ、特殊なパターンで熱処理を行い、最後に1600℃以上で焼成する。この最後の温度は2000℃まで上げることが可能で、ポリジメチルシランを前駆体とするSiC繊維を1500℃以上に上げると著しい強度低下が生じる欠点があるのに対し、差別化の特徴となっている。

 

ポリジメチルシランから合成されるSiC繊維が1500℃以上の熱処理で強度低下を生じるのは、繊維を形成していた非晶質SiCが結晶化するためで、結晶化を抑えるためにTiを添加したチラノ繊維が上市されている。しかし、C-SiC繊維は、傾斜組成となっているので、1600℃以上の高温度で熱処理を行ってもSiCが異常粒成長することなく繊維形状を保ち、強度低下はわずかである。

 

面白いのは繊維断面の顕微鏡写真で、CとSiCとの界面が見えない。但し、XMAでSiのマッピングを行う事は可能で、中心までSiは拡散していないことがXMA像でわかった。

 

約30年前に少し研究しただけなのでデータは少ないが、Alを用いたFRMの検討まで行っている。炭素繊維を用いたAl基FRMはAl単体よりも強度は上がる。しかしC-SiC繊維を用いたFRMは、それよりも強度が上がり靱性が著しく高くなる。界面のSiCの効果である。

 

カテゴリー : 高分子

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2013.11/12 熱可塑性エラストマー(TPE)

TPEとは、加熱すれば流動して通常の熱可塑性プラスチックと同様の成形加工ができ、常温ではゴム弾性を示す材料である。ちょうどゴムと樹脂の両者の性質を持った材料である。通常の加硫ゴム成形体がバンバリーとロールで混練され成形工程で加硫に長時間かかるプロセシングの問題を一気に解決した。

 

しかし、動的に使用される部分には加硫ゴムほどの信頼性に乏しく、全ての用途を置き換えるまでに至ってない。この状況はおそらく将来もかわらないであろう。なぜならTPEの加硫ゴムと異なる特徴が熱可塑性であり、また分子間で自己補強性を持っている点である。特に前者の特徴から高温クリープという点で加硫ゴムと同等の性質にならないことが予想される。

 

TPEの分類方法は教科書により様々であるが、架橋型と非架橋型の分類が理解しやすい。この分類は、高温では流動するが常温では塑性変形を阻止するTPEの仕掛け、すなわち拘束成分に着目している。架橋型には、拘束形式が動的加硫を行うタイプとイオンクラスターによる場合がある。非架橋型には、凍結相や水素結合、結晶相という拘束形式がある。

 

TPEが登場してすでに70年以上が経過したが、未だに特許出願が多数行われている発展途上の材料である。特に1980年前後に登場した動的加硫技術によるTPEに関する特許が多い。タイヤをはじめ厳しい条件下で使用される歴史のある加硫ゴムに比較し、機械物性が圧倒的に低いからである。

 

TPEと古典的加硫ゴムとの機械物性の差はプロセシングの改良を行わない限り埋まらないのではないかと考えている。それは30年前に樹脂補強ゴムを開発した経験から、古典的加硫ゴムにおけるプロセシングの効果が身にしみついているからかもしれないが、加硫剤の分散一つ取り上げても二軸混練機で容易にロール混練並の分散を実現できると思えないからだ。もしこの点に疑問を持たれた方はご質問ください。

カテゴリー : 高分子

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2013.11/11 動的加硫

ゴム会社で樹脂補強ゴムを開発していた時に、樹脂会社では動的加硫という技術が開発されていた。二軸混練機で樹脂とゴムを混合し、ゴム相を混練しながら加硫する技術である。ゴム相は島で樹脂相が海のため、熱可塑性エラストマー(TPE)になる。面白いのは類似組成を、二軸混練機ではなくバンバリーとロールで混練したときに、物性が大きく異なるゴムとなる。

 

プロセスが異なるので加硫剤や開始剤を変更しなければならないが、圧縮永久歪みや繰り返し引張試験における耐久性などの機械特性が二軸混練機で製造したTPEでは劣る。電子顕微鏡で高次構造を見ると海島構造は同じだがわずかに島のサイズが異なって見える。おそらく組成によりこの差異と物性との関係は異なるだろうが、当時の実験結果ではこのようであり、二軸混練機を用いた動的加硫の技術の可能性について否定的な印象を持った。

 

しかし、生産性は大きく異なる。またバンバリーとロール混練において加硫は成形の時に行う。混練プロセスだけでなく成形プロセスも時間がかかる。学会でTPEの報告を聞くと、耐久試験結果などのデータは出てこない。弾性率や引張試験の結果ぐらいである。

 

樹脂補強ゴムとして開発された組成の加硫剤を変更すると物性が変わる。ゆえに二軸混練機で同一の樹脂とゴムを用いてTPEを製造しても物性の異なる材料になることは予想できる。しかし、弾性率などの物性よりも耐久試験結果が混練プロセスの違いで大きく異なる点は企業がデータを公開しない限り学会で議論されない。

 

ゴム会社でTPEを開発したのは幸運であった。プロセスの影響を肌で知ることができたからである。二軸混練機はL/Dで議論されるが、バンバリーとロール混練プロセスを二軸混練機で実現することは不可能である。例えばPC/ABSのような複雑な組成の樹脂をロールで混練してみると二軸混練では得られないきめ細かな高次構造となる。ただし、樹脂ではゴムほど物性がプロセスから影響を受けにくいのでバッチプロセスで行うありがたみを少ないと感じてしまう。

カテゴリー : 高分子

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2013.11/09 樹脂補強ゴム(3)

入社して初めての忘年会は憂鬱で暗かった。テーマが無くなったので他部署へ異動することになったのだ。忘年会は送別会も兼ねていた。テーマを早く進めることができたので褒められるのかと思ったら意外な展開が待っていた。厳しい会社である。それでも上司が間違えてプレゼンテーションしたおかげで成果がでたわけだから査定が良くなるのかと期待したら、入社2年間の業績では査定がつかない、と告げられ落胆した。ボーナスは新入社員お決まりの金額であった。

 

ただ、10月11月のがむしゃらな仕事の進め方で、多くの方の指導を受けることができ、密度の高い2ケ月間だった。また12月は指導社員が仕事をまとめてくれたので、1ケ月樹脂補強ゴムについてゆっくり勉強することができた。

 

樹脂補強ゴムはバンバリーとロールで混練していたが、当時熱可塑性エラストマーの新素材開発が盛んで、二軸混練機でゴムを混練する新技術が注目されていた。熱可塑性エラストマー(TPE)は1933年にグッドリッチにおいて軟質PVCで実現された歴史の古い技術であったが、性能が中途半端なため1960年頃までゴム屋はあまり注目しなかった。PU系のTPEの成功でTPEの学問的研究が盛んになるとともに市場も加硫ゴム分野に拡大してきた。1970年代には、ポリウレタンRIMを用いたウレタンタイヤが世界中で研究されたが、そのアイデアは実用化困難な技術であると、分かった時代である(注)。

 

1980年前後には二軸混練機の中でゴムの架橋を進める動的架橋技術の研究が始まり、技術と市場が大きく拡大することになる。すなわち、樹脂補強ゴムというのはゴム屋が考えた材料の呼び名で樹脂屋が考えたのがTPEである。また、二軸混練機を用いると生産性が著しく上がるので、動的架橋技術も含め、材料開発は二軸混練機中心に進むことになる。そして樹脂とゴムのあいの子の材料はTPEとして呼ばれるようになってゆく。

 

今でもTPE関係の特許出願は盛んで、特許の中心は二軸混練機の中で行うゴムの加硫方法である。ただ面白いのは最近プロセスの改良を進める特許出願も行われてきており、混練技術に対する関心も高くなってきているように思われる。もし現在の混練技術にご不満あるいはご興味のある方は弊社にご連絡ください。

 

(注)乗用車用タイヤは絶対にポリウレタンRIMで実用化できない、という結論を出すところまで徹底的にタイヤ会社は研究し尽くした。すなわちポリウレタンRIMは事業の根幹を揺るがす破壊的技術だったからである。その成果で遊園地のカートなどの遊具のタイヤはポリウレタンRIMで作られるようになりコストダウンが進んだ。しかし、公道を走る車のタイヤは未だに加硫ゴムである。ゴムという材料はプロセスが異なると性能が大きく変わるのである。樹脂の混練プロセスは、未だゴムの混練プロセス及びその哲学に追いついていない。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.11/08 樹脂補強ゴム(2)

指導社員の完璧な企画書で欠けていたのは、どの銘柄の材料で目標を実現できるのか、という答である。指導社員に質問したら、それが見つかればこのテーマは終了だという答が返ってきた。シミュレーションはあくまで仮想の物性についてその組み合わせを計算しただけであり、実際の材料について材料メーカーの技術資料にその情報が書かれていないから、まず材料のデータベースを蓄積する必要がある、と言われた。

 

データベースを作る意味があるのか、と尋ねたら、シミュレーションした結果の再現性を確認する目的にデータを収集するのでデータベースには意味が無く、物性を実現できる処方さえあれば良い、と明確な回答を頂いた。テーマは防振ゴムに最適な樹脂補強ゴムの開発だが、問題を整理すると市販されている樹脂とゴムの最適な組み合わせを見つける問題になる。

 

このような問題では、最適な組み合わせが存在しない場合には1年経っても問題解決できないことになる。シミュレーションではできることになっているが、シミュレーションに用いられた粘弾性曲線と仮説どおり一致する樹脂なりゴムが見つからない場合には不可能ということになる。もし最適な組み合わせが存在するならば、それを早く見つけることが最も重要な仕事になる。

 

シミュレーションデータを一晩眺めながら、実験時間を短縮できる評価法を考え出した。すなわち材料を製造するプロセスの時間短縮は難しいが、評価法はサンプル数を減らしたり評価時間を短くしたりすることで短縮できる。テーマで最も時間がかかるのは公開情報の無い粘弾性データの収集で、1サンプルの準備から結果が出るまで4時間かけることになっていた。それを20分ですませる方法を考案した。

 

指導社員に実験の進め方の変更を願い出たら了解が得られたので、その方法で実行したら2ケ月でシミュレーションに合致した材料を見つけることができた。即ち1年間のテーマを3ケ月で終了できそうな見通しが得られた。ところが完成した処方を指導社員の了解を得ないで上司が後工程にプレゼンテーションしてしまったので問題が起きた。すぐに商品企画会議でその処方をエンジンマウントに使うことが決定され、研究所のテーマではなくなった。すなわち残り10ケ月の仕事が無くなったのである。

 

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(注)当時研究所はすでに成果主義のマネジメントが行われていた。実験手順も決まっていた完璧な企画書を前に、新入社員の立場で成果というものを考えたところ、開発期間を短縮することぐらいしかなかった。上司に確認したところ、もし年内(3ケ月)に処方が見つかればボーナス倍増ぐらいの成果、という冗談が飛び出した。その言葉に挑戦します、と応えたら上司は笑っていたが、後日本当に冗談だったのでモチベーションが下がった。明日はこのあたりについて。

 

また、弊社で研究開発必勝法プログラムを販売しているが、そのアイデアの基本構想はこの頃できた。指導社員の完璧な企画書は、確実に開発期間を短縮できる、と感じた。その企画書には、開発ターゲットが明確に記され、それを探索する手順まで示されていた。すなわち、開発ターゲットが明確になると、探索手順は複数あることに気がつく。明確な開発ターゲットの機能を実現する目的だけに絞ったときの手順は極めて簡素化される。iPS細胞を実現するヤマナカファクター発見に用いられた発想法である。

 

しかし、実際に開発計画を組む場合には、定常業務品である質評価の一部を取り入れて行う場合がほとんどである。開発ターゲットから考えを進めないからである。荒削りでも良いから最初に開発ターゲットを実現してからそれに合わせて社内規格で要求されるデータを集めれば開発時間を大幅に短縮できる。要するに数研出版のチャート式数学に書かれていた「結論からお迎え」というチャート式格言は受験数学だけで無く実務でも有効である。

 

弊社の研究開発必勝法は、「結論からお迎え」という格言を実務の中でどのように展開するのか、32年間の開発経験をもとにノウハウを一般化したプログラムである。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.11/07 樹脂補強ゴム(1)

ゴム会社で技術者としてスタートした。6ケ月間の新人研修の後10月1日に樹脂研究グループへ配属された。そこではスーパーフィラーに採用された樹脂補強ゴムの研究開発が行われていた。スーパーフィラーは、タイヤのビード部分に実用化された樹脂補強ゴムで硬くて弾力性のあるゴムだ。

 

硬いゴムを設計するには、架橋密度を上げる方法とフィラーであるカーボンブラックを増量する方法が知られていた。しかし、この両者の方法でゴムの硬度を上げると靱性が下がる。硬くて脆くないゴムの処方技術は当時ハイテク分野の技術であり、ミシュランが最初にその開発に成功し、半年遅れてブリヂストンが実用化に成功した。この時使われたのが樹脂補強ゴムで、樹脂は3次元化して硬くなる熱硬化性のフェノール樹脂が使用された。

 

この樹脂補強ゴムの高次構造は樹脂の海の中にゴムの島が存在する海島構造で、フェノール樹脂以外の樹脂でも同様の高次構造を取ることができれば、硬くて靱性の高いゴムを設計できるのだが、組み合わせる樹脂の種類によりゴムの高次構造が変化し目標物性とほど遠いゴムができたりするので、多種類の樹脂とゴムの中からその組み合わせを見つけなくてはいけない難しい技術であった。

 

樹脂補強ゴムは硬くても靱性の高いゴム、という物性の特徴以外に、動的粘弾性に一般のゴムと異なる特徴が見られた。すなわち樹脂補強ゴムでは損失係数が高くなる周波数領域が広がるのだ。例えば自動車では、アイドリング中と走行中ではエンジンの振動数が異なり、アイドリング時にも走行時にも対応してエンジンの振動を防ぐ防振ゴム材料の設計は難しい。しかし、樹脂補強ゴムでは広い周波数領域でエネルギー損失が大きいゴムを設計できるので、使用状態で振動モードが変化する機器の防振ゴムとして最適な材料を設計できる。

 

指導社員は材料物性に秀でた能力の方で、樹脂補強ゴムの設計について組み合わせるゴム物性と樹脂物性のあるべき姿をシミュレーションで明確にしていた。そして、その明確な方針の下で材料探索を行うのが新入社員としての一年間のテーマであった。指導社員の立案された開発計画と材料設計処方案は完璧であった。あまりにも完璧で、残されていたのは樹脂とゴムの粘弾性を評価し、それを組み合わせたときに粘弾性がどのように変化するのか調べる肉体労働だけであった。

 

そして目標通りの粘弾性カーブを実現するゴムができたときに、組み合わせられた樹脂とゴムの粘弾性のカーブがシミュレーションどおりになっていることを確認するだけであった。但し樹脂の分子構造とゴムの分子構造はシミュレーションでも不明だった。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.11/06 難燃化技術へ重回帰分析を適用した例(3)

有機高分子は実火災が発生すれば火元では600℃以上の高温度に曝されるので、空気が存在するところで必ず燃えてしまう。燃焼時の熱でガラスを生成する仕掛けを有機高分子の構造の中に仕込んでおけば、生成したガラスが空気を遮断し、炭化を促進するのではないか、という仮説を立てた。ガラス組成ではないが無機高分子であるアモルファスボロンホスフェートを燃焼時に生成する仕掛けを軟質ポリウレタンフォームの構造に仕込んだ。

 

モデル実験ではすべて仮説を支持する結果が得られていたが、ホウ素原子の難燃効果がリン酸エステルとの組み合わせでどの程度上昇したのか知りたかった。また当時のリン酸エステル系難燃剤には塩素原子が含まれていることが多く、塩素原子の効果との比較もしたかった。

 

ホウ酸エステルとリン酸エステルを組み合わせて添加した難燃性軟質ウレタンフォームは自己消化性を示した。商品として最適化するために市販されているリン酸エステルを組み合わせコストバランスを検討した。40以上の異なる配合と難燃性試験のデータが得られた。多変量解析を行うのに十分なデータ量である。

 

相関行列を見ると、リン原子と塩素原子の間に軽い相関が見られた。塩素化パラフィンを添加した軟質ポリウレタンフォームを数種合成し、全体のデータにおいてリン原子と塩素原子の間の相関を0.5以下となるようにした。ホウ素原子とリン原子の間の相関はほとんど無い。

 

LOIを目的変数として、リンの含有率(P)と塩素の含有率(Cl)、ホウ素の含有率(B)を説明変数とする重回帰式を組み立てたところ、LOI=2.95xP+15.17xB+0.14xCl+18.3という重回帰式が得られた。重回帰係数は0.84と十分な値である。

 

重回帰式の各係数には原子量の違いが反映されているので、このままでは係数から目的変数に対する寄与を見積もれない。各変数の偏微分である偏回帰係数を求めたところ、Pは0.65、Bは0.4、Clは0.11となった。驚くべきことにホウ素原子の難燃効果の寄与が塩素原子よりも高く、また単相関で求めた相関係数よりも遙かに高かったことである。

 

すなわちリン原子とホウ素原子の組み合わせ効果を重回帰分析を行う事で定量的に示すことができたのである。重回帰分析で得られる偏回帰係数により目的変数に対する説明変数の寄与率を知ることができる。また重回帰式は目的変数の予測式として使うことができるが、この時説明変数に用いたデータの変域に注意を払う必要がある。

カテゴリー : 一般 高分子

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