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2013.04/13 樹脂の混練とその装置の問題

高分子を混練するときに問題となるのが装置や製造条件により混練された高分子の状態が異なる点である。例えば加硫ゴムについては、未だにバンバリーとロールを用いて混練している。その組み合わせによりできあがるゴム物性も異なる。加硫ゴムの場合には、弾性率まで変化する場合があるので混練条件についてはかなり神経を使うことになる。

 

ロール混練において、かえしという作業があり、この作業の回数が異なると耐久性まで影響する。ゴムの処方によりプロセスの差異があまり物性に出ない場合もあるが、樹脂に比較すると物性に与える混練効果の影響は大きいといえる。

 

樹脂では結晶化度が物性に大きく影響するので、混練効果の影響がわかりにくいが、注意深い実験を行うと、樹脂の物性ばらつきに混練効果を観察することが出来る。すなわち、平均値で見ている限り混練の影響が小さくとも、ばらつきという視点で見ると混練の影響を観察することが出来る。

 

テストピースの実験で観察される偏差の大きさよりも射出成形体の物性で現れる偏差のほうが大きくなる。これは射出成形の金型の中で混練が進むからである。このため大きい射出成形体では部位に依存した物性の偏差が大きくなる。FEMを用いて設計した金型を変更しなくてはいけない場合も出てくるかもしれない。このような問題に遭遇しても樹脂の混練状態にあまり大きな関心が払われてこなかった。

 

樹脂の混練には、ゴムと異なり連続式の混練機が用いられる。軸の本数により単軸混練機、二軸混練機、多軸混練機などと呼ばれている。軸が多くなれば混練機の価格は高くなるが混練効率は上がる。単軸混練機でも混練は進むが、同じL/Dで比較したときに二軸混練機の半分以下の性能しか無いと考えるべきだ。二軸以上の混練機の性能は単軸以上にスクリューの設計因子が多くなる分、混練効率を上げることができる。2成分以上の高分子を混練するときには、安定な射出成形体を得たいならば単軸では不可能と考えるべきだ。シミュレーション以上の差が実際に発生する。

 

単軸混練機でも混練は可能だが、本来は押出専用機と考えていた方が良い。市場で樹脂の混練に関わる問題が発生したときにスクリューの設計変更を行い混練効率を上げようとしても二軸混練機ほどの効率アップを達成できない。教科書には剪断力を発生させるスクリューデザインが載っていたりするが、温度上昇は一人前に起きるが温度上昇に比較して混練はあまり進んでいないのでがっかりする。単軸混練機でスクリューの設計を変更してもあまり期待した効果は得られない。

 

二軸混練機以上の多軸式の場合には、スクリューの設計は混練効率に大きく影響を与える。特に剪断力を発生するローターはすばらしく、某社のローターは、発熱も抑えられ混練効率が高い。ただしそれでもゴムの混練で用いるオープンロールほどの混練レベルを達成することは難しい。樹脂を一度オープンロールで混練し、その物性を確認してみると連続式混練機の問題が分かってくる。連続式混練機の性能の問題を解決できる技術がありますのでご相談していただきたく。

 

 

カテゴリー : 高分子

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2013.04/12 PENフィルムの巻き癖(質問回答)

スペシャリティーポリマーであるPENについては、昨日で終了予定でありましたが、質問が来ましたので回答します。ガラス転移温度以上の熱処理とガラス転移温度以下の熱処理の違いについて説明して欲しいという質問です。

 

高分子を射出成形あるいは押出成形などで成形すると内部に歪みが残ることがあります。この残留歪みが緩和現象と組み合わさり、成形体が変形したりします。この歪みをとるには、一般にガラス転移温度以下で熱処理を行います。ガラス転移温度以上で行うと、ガラス状態にあった分子が運動するために成形体が歪んでしまうから、とその方面の教科書には書かれています。

 

しかし実際に熱処理を行うと、ガラス転移温度付近で長時間成形体を保持した場合には、ガラス転移温度以下でも成形体は歪んでしまうことがあります。実験を行ってこの状態を観察したときに疑問を持つかどうかで高分子材料に対する知識を実験から吸収できるかどうかが分かれます。

 

ライバル会社の技術者も恐らく同様の実験結果を経験したと思います。ガラス転移温度以下でも成形体が歪むのは温度分布の偏差のため、と自分を納得させ、アニール条件は、成形体が歪まない温度を試行錯誤で決めていった、と推定しています。熱処理の実験を行っている人に、期待した温度で期待した実験結果が得られなかったときに質問すると、必ず温度の偏差を理由に挙げます。有機材料の研究者が抱えるこの問題についても言及したいですが、とりあえず質問の答だけに焦点を合わせます。

 

問題が残っていることを承知の上での回答です。ガラス転移温度以下では、ガラス状態になっているため高分子の分子運動性が拘束されていますが、自由体積周辺では高分子は運動性を持っています。ゆえに、この部分だけが熱処理によりガラス転移温度近辺で熱処理した温度における平衡状態になり、熱歪みが解消されガラス転移温度近くの熱処理した温度領域まで耐熱性があがります。

 

ガラス転移温度以上の熱処理では、ガラス状態にあった分子の運動性が活発になり、自由体積部分だけでなく、ガラス状態にあったところまでその温度の平衡状態へ至ります。このとき動く部分が多くなるのでガラス転移温度以上では、成形体が大きく歪む、と教科書には書かれています。

 

この解答には問題があります。しかし、一般的にはこのように言われており、この説明を信じる限りにおいては、高温短時間熱処理というアイデアは生まれません。高温短時間熱処理は、まだ科学的に実証されていない非平衡における現象を扱った非科学領域のアイデアです。弊社では、このような非科学領域まで取り込んだアイデア創出法を提供しています。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.04/11 PENフィルムの巻き癖(4)

ライバル技術では長時間アニールというプロセス手段を用いて、高次構造の制御を行い、巻き癖を解消していた。長時間アニールで密度がわずかに上がり、応力緩和しにくくなった。この密度上昇が高次構造を制御した結果というのがライバル技術で、その説明にはPENの結晶部分と非晶部分において、非晶部分の自由体積のパッキングが進んだためと書かれていた。

 

高分子の長時間アニールは一般にガラス転移温度以下で行われる。ゆえに特許に書かれている熱処理温度の領域は、高分子技術の観点で公知領域となるが、PENの巻き癖と結びつけた技術は初めてなので特許として成立する可能性が高かった。

 

ところで弊社の問題解決法を当時すでに実戦で使用していた。さっそくホワイトボードにあるべき姿のマンガを書いた。詳細は省略するが、コーチングを行いながら、高温度短時間アニール技術が問題解決した解答として得られた。

 

ガラス転移温度以上で熱処理を行うと樹脂では変形が生じる。フィルムならばでこぼこのフィルムになる。ゆえにガラス転移温度以上のアニールは非常識な結論である。このような結論を頭の良い社員に納得させるためには、自ら解答を出したと満足できるコーチングが最良の方法である。

 

コーチングは効果的で、すぐに工場で試作をしようと頭の良い社員は言い出した。火はついたが燃焼を制御できない状態になった。社内のルールではパイロットプラントで試作を行ってから工場の試作に移るのだが、頭の良い社員は、技術内容がパイロットプラントのデータを活用できない”キワモノ”であることに気がつき、工場で試作した方が早い、と言いだした。失敗すれば1000万円が無駄になるが、若い熱意に動かされ、いきなり工場試作を行う決断をした。しかし、基礎データも何も無く、いきなり工場で実験という手順については社内調整が大変だった。硬直した会社では不可能な調整である。

 

しかしこの写真会社の風土はこのような場合に良い方向に働く。若い人に評判の良い会社である。山を乗り越え、1日工場を借り切って実験を行ったら、大成功であった。ライバル技術の特許に抵触しない巻き癖のつきにくいPENフィルムが高温短時間アニールで完成し、量産試作に成功したのである。”キワモノ技術”と心配したが、面白いことに試作ラインで後から実験を行っても、きちんと再現する”科学的な”技術であった。また、できあがったPENの高次構造がライバル技術のプロセスで作られる高次構造と異なっていることも分析データで得られた。

 

高分子の高次構造制御を解説している教科書は多い。そこには実際に見てきたようなマンガが書かれていたりする。この開発ではそのマンガが大変役にたった。工場試作を行う前に頭の中でマンガが展開されたのである。そしてできたような気になって、若い人の心に火がついたのである。

 

技術開発では”成功する”と信じる熱意がまず重要である。熱意はスピードを生みだす。これほど短時間の技術開発は、ゴム会社で行った高純度SiCの開発以来である。科学的に未解明の領域の技術は、高純度SiCの開発経験で生まれた弊社の問題解決法が効果的に働く。

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2013.04/10 PENフィルムの巻き癖(3)

PENの巻き癖とその高次構造の関係については、科学的な香りをつけた報告がライバル会社から発表されていた。やや胡散臭い論理で技術の正当性が説明されていた。発表内容を読む限りにおいては、唯一のすごい科学技術でそれに取って代わる技術開発は不可能に思われた。学会賞の審査員もそのように思ったに違いない。

 

技術内容は熱処理により高分子の高次構造を制御する“もすごく高度な”技術と言われていた。しかし、熱処理技術は高分子材料分野よりも金属やセラミックス材料分野のほうが進歩している。温度というパラメーターが強度因子であり、容量因子であるエネルギーと異なることの重要性を高分子材料の研究者はあまり考えない。PENの巻き癖解消技術についてもライバル特許は大きな穴を残していた。恐らく気がついていなかったはずである。

 

大量の特許群を整理してみると大穴があいていた。しかもその大穴は長時間アニールする必要が無く、ロールtoロールで巻き癖解消が可能な生産効率の高い技術領域で、むしろ学会賞の技術よりも好ましい領域である。技術開発で注意しなければいけないのは、自分たちの技術が科学的に完璧で唯一の技術とうぬぼれてしまうことである。

 

科学とは技術の世界に包含されることを忘れている。非科学的な技術という領域があることを技術者は、いつも忘れないことである。非科学的な技術とは科学的に解明されていないか、あるいは科学的に否定される技術のことである。

 

実は学会賞を受賞していたが、ライバル会社の説明には科学的に怪しい内容が多数含まれていた。怪しい内容をさも科学的であるがごとく現象をうまく説明していた。学会賞を取るにはこのようなプレゼンテーション能力が重要である。その結果、技術者全員がそれを信じたのだろう。そのおかげで特許に大穴が残されることになった。

 

弊社の問題解決法ではこのような似非科学の技術に対抗するアイデアをうまく考え出すことが可能な方法を提供している。すなわち科学的に完璧に説明されないかぎり、どこかに穴を見いだすことができるのである。科学的に完璧な場合には弊社の問題解決法でも太刀打ちできない。それでも、非科学的技術で解決できる余地が残っている場合には弊社の問題解決法でアイデアをうまく導き出すことが可能である。このPENの巻き癖解消技術でも科学的考察ではなく問題解決法で技術手段を見つけ出した。

 

<明日に続く>

 

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2013.04/09 PENフィルムの巻き癖(2)

PENフィルムの損失係数を規定した特許は脅威に感じられた。しかし、特許をよく読むと、レオロジーを知らないのか、あるいは意図的にインチキ特許を書いたのか不明だが、科学的におかしい特許であった。すなわち損失係数の測定と書かれているが、大きな応力をかけて測定していたのである。

 

粘弾性の測定に詳しい技術者ならば、この測定方法がすぐにおかしいことに気がつく。すなわち粘弾性の性質を評価するためには、本来応力ゼロで測定することが望ましい。しかし、応力ゼロでは物性測定ができないので、わずかな歪みをかけて測定することになる。

 

特許では、サンプルに大きな応力をかけていた。すなわち損失係数の測定と特許には記載してあるが、応力緩和と相関するパラメーターを測定していることになり、物質固有の損失係数の測定になっていないのである。発明者が粘弾性に詳しくないか、あるいは特許審査官の目を欺くための手法なのか不明だが、物質固有のパラメーターを規定した特許になっていないことに気がつき安心した。

 

PENフィルムの巻き癖はPENが応力緩和して現れる現象であることが解明されていた。応力緩和とは、長年使用していたパンツのゴム紐が伸びた状態になるような現象である。中年太りの体型だったので応力緩和の実験量は豊富であった。ゆえにPENの巻き癖解消技術に関してはすぐに理解ができた。すなわちフィルムを巻いた状態にしていると、フィルムの内側は圧縮応力を、外側は引張応力を受けることになる。その結果応力緩和で巻き癖がつくのである。

 

PENの損失係数を規定したライバル特許は、損失係数を扱っているが、実際には応力緩和しない領域をパラメーターで規定しているだけの特許であった。樹脂の応力緩和が高次構造に影響を受けることも当時知られており、異なる高次構造を作り出して応力緩和しにくいPENにすればよいのである。

 

若い技術者に考えたことを説明したら、高次構造の制御と簡単に言うがどのように構造制御したら良いのか、と質問された。ライバル特許を読んでいてすぐに指示してきた仕事であると気がつく頭の良い社員である。頭のいい人はとかく生まれたばかりのアイデアを否定する傾向にある。君ならできる、と持ち上げたら、すばらしいアイデアだから一緒に考えてください、と上司の私が丸め込まれ、PENの高次構造を必死に勉強することになった。確かにアイデアまでは良かったが、世の中に情報が無い世界であった。科学的に難しいのであれば、技術的なセンスで問題解決する以外に方法の無い状態だった。

 

<明日に続く>

 

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2013.04/08 PENフィルムの巻き癖(1)

いまや写真はデジタルカメラで撮影するのでフィルムをほとんど見かけなくなった。またAPSフィルムなど入手がかなり困難になったばかりでなく、APSというフィルム規格など忘れ去られたかもしれない。このAPSフィルムというのはデジタルカメラ普及前のアナログ技術のささやかな抵抗だったような気がする。一般的に使用されていた135フィルム(35mm幅のパトローネ入り写真フィルム)の24x36mmの規格に対し16.7×30.2mmと画像面積がやや狭い規格である。イースタマンコダックが提唱し富士フィルム、キャノン、ミノルタ、ニコンの5社で作り上げた規格である。

 

残念ながらコニカはこの中に入れてもらえなかった。ビジネスとは厳しい世界である。ただ、この規格は写真愛好家から見れば普及する見込みの無い規格に思われた。当時銀塩フィルムの技術が進歩して画像面積を小さくしてもA4レベルの引き延ばし程度ならば差が分からない、ということでイーストマンコダックと富士フィルムがカメラメーカーを巻き込んで普及させようとした規格である。小さくなっても135フィルムと価格差は無いので付加価値をあげることができるメーカーサイドの考え方である。

 

いろいろユーザーメリットが書き立てられていたが、写真愛好家の立場に立てば普及しそうに無い商品である。同じ解像度の技術で面積を小さくしているのだから画像品質は135フィルムよりも悪くなる。規格が登場当時には無視していてもよい商品、と思っていたが、上位2社のフィルム会社が品揃えしているので売れないと分かっていても商品開発をしなければならなかった。画質を愛好するお客様にメリットの無い商品と不満を持ちつつ技術開発を担当した。

 

APSフィルムにはPENという高価なエンジニアリングプラスチックが使用された。135フィルムと同じようにTACでも良さそうに思えたが、巻き癖の問題がありPENが採用された。135フィルムは現像処理後、帯状の状態でお客様の手元に戻るが、APSフィルムではカートリッジの中に巻き込んだままお客様にお返しする。ネガの保存に場所をとらない長所がある、と言われていたが、それほどのアイデアには思われない。巻き込んだまま保管されるので巻き癖がつきやすいTACを使用することができなくてPENが採用され、PENフィルムの物性が規格にもなっていた。

 

20年近く前に標準化を武器に戦う手法が盛んになりつつあったが、このAPSも写真フィルム上位2社が規格を武器に下位2社から特許料を吸い上げる戦法で、お客様のため、と言うよりも企業の論理が強かった。弱肉強食のためならお客様メリットが二の次になる、そんな傲慢な技術に見えた。当然このような規格はすぐに売れなくなったが、それでも商品を揃えなければ写真フィルム会社の面目が立たない、ということで少しでも特許を回避できる技術を開発することが技術者の重要課題となった。

 

PENフィルムの巻き癖解消技術については、富士フィルムの技術が学会賞まで受賞し、技術として完成されていて特許回避が難しい、と言われていた。学会賞では科学的にフィルムの巻き癖という問題を解明しており、それを解消するために10時間以上かかる長時間アニールという技術を完成したとある。ただし長時間アニール技術は元巻き状態で保管時に実施するのでコストに影響しない、といわれていたが、いささか技術としてセンスが悪いように感じた。

 

フィルム技術であれば、ロールtoロールで元巻きに巻かれたときには製品としてできあがっている状態が好ましい。ライバルよりセンスの良い技術を開発しようと意気込んでいたら、フィルムの損失係数を規定した特許が出てきた。物質特許なので知財部から、この特許回避はできないでしょう、と言われたが、科学的には不可能だが技術で回避する、と今から思えば若さから大胆な回答をした、と少し反省している。しかし幸運なことに回避できた。努力は成功を信じて必死でしてみるものである。

<明日に続く>

 

 

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2013.04/07 光学用樹脂の奇妙な構造

昨日非晶性ポリオレフィン樹脂として販売されている光学用樹脂の奇妙な物性について書いた。この奇妙な物性を示した樹脂の高次構造を調べてみると、その構造も不思議である。

 

光学用ポリオレフィン樹脂として販売されている樹脂は単一組成のポリマーなので、非晶性ならば高次構造は均一なガラス構造となっているはずである。実際に通常の高価な分析装置で何も考えず分析する限りは非晶質として観察される。しかし、非晶性樹脂ではなく結晶性樹脂ではないか、と疑っていろいろ実験を行い、その構造の問題を探っていくといろいろ出てくる。

 

例えば、成形体を金槌で破砕しその破面観察を行うと、あるドメインの大きさで異なった弾性率の部分があるために、結晶性高分子の破面と類似の構造とゴムの破面と同様の構造とが混在して作られた汚い破面が観察される。すなわち弾性率が高いために破壊エネルギーの伝播が高速で進んだ領域と弾性率が低く伸びやすいために引き延ばされた構造とが観察される。そしてこの構造の大きさは、射出成形条件の違いで様々に変化している。またそれらの構造以外にボイドらしき構造も観察される。

 

このボイドらしき構造は、射出成形体をアニールしてやると、アニール時間と相関し大きくなり、ある大きさまで成長する面白い性質がある。奇妙なのは光学的性質について耐久試験を行うとこのボイドらしき構造が多い成形体ほど耐久性が良いのである。さらに粘弾性の性質を調べてこのボイドらしき構造との関係を調べてみたり、密度との関係を調べてみたり、いろいろと実験を行った。10年以上前の話だが未だにその時の不思議な興奮を記憶している。

 

それから7年ほど過ぎて、また光学用ポリオレフィン樹脂を取り扱う仕事を担当した。これは5年ほど前のことなので詳細は控えるが、大きな成形体をそのままX線分析装置で測定してみると、期待されたとおりの現象が観察された。1cm前後の間隔で密度の高い部分の分散構造が観察されたのである。すなわち10年以上前は米粒ほどのレンズ材料だったのでミクロ構造の解析しかできなかったが、こんどは豊川のちくわほどの大きさのレンズだったので大きな構造周期を観察することができた。

 

いまだに光学用ポリオレフィン樹脂は非晶性樹脂として販売されている。もし10年以上前の樹脂から大幅な改良がなされ、まったく結晶化しないならば問題は無いが、少なくとも5年ほど前射出成形体に結晶化したと思われるドメインを捉えることができたので表示に偽りがあることになる。大手メーカーの樹脂なので、もし結晶性樹脂であるにもかかわらず非晶性樹脂と偽って販売しているならば、その影響は大きいと思う。ユーザーは高分子の知識が乏しい技術者なのでさらに問題は大きくなる。

 

10年以上前にあるメーカーの技術者にはこの情報を流したが、当方が間違っている、と言われた。しかし、非晶性樹脂ならば起きない現象が実際には発生しており、それが品質問題となっているのである。科学的によく分からないなら非晶性樹脂として販売しても問題ない、というのは材料メーカーとして間違った考え方である。できている構造が結晶かどうかは、おそらく難しい議論となるが、粘弾性試験やキャストフィルムなどを作成し結晶化させることは容易であり、良心的な技術者ならば問題の大きさに気がつくはずである。

 

このように光学用樹脂にはまだ改良の余地があり、完全な非晶性樹脂を開発することができたなら、既存の光学用樹脂を置き換えるマーケットを獲得できる。光学用成形体の射出成型条件や歩留まり、金型構造などの情報は外部にでてこない。その結果品質問題が発生したときに樹脂の問題なのか射出成形技術の問題なのか判断しにくい状況だが、樹脂を分析すれば樹脂に問題のあることがわかるはずである。光学用樹脂の大きなマーケットではパーフェクトポリマーが求められている。

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2013.04/06 高分子材料の熱膨張

昨日高分子材料の気持ち悪い現象について触れた。本日は熱膨張の測定でで観察した気持ち悪い現象。光学材料用ポリオレフィンとしてアペルやゼオネックスが10年以上前から使用されてきた。10年以上前の話で恐縮するが、光学的耐久性を力学的パラメーターから予測しようと実験していた時に体験した話。ここでは気持ち悪い現象だけ説明するが、その深い意味等ご興味ある方はお問い合わせください。

 

材料の熱膨張の測定にはTMAが用いられる。無機材料の研究には良く用いられるが、高分子材料では、DSCやTGAに比較して使用頻度が少ないように思う。ゴム会社で高純度SiCの事業を立ち上げ、セラミックスの研究者としてTMAを使い込んだ経験から、フィルム会社で高分子材料の研究を始めるに当たり購入したのはTMAである。TMAを気に入っている理由は、直感と分析結果が結びつきやすいことである。測定しているのは温度上昇に伴う線膨張で物質の状態変化が生じれば線膨張率が変化する、という単純な現象の測定である。それ以上の情報が得られないのであまり使われない、という研究者がいるが、単純な現象ゆえに物質の異常をマクロ的につかみやすく、商品開発においては便利な道具である。

 

例えば材料の耐熱性を考えるときにガラス転移点が指標に使われることが多い。ガラス転移点まで材料の状態が変化しない、と暗黙的に信じられているからである(これは危険な常識である)。しかし、複合材料になってくると界面の問題が関わってくるので複雑になる。セラミックスでは粒界で生じる現象を考えなければならない。そのようなときにTMAは便利である。ミクロ領域の状態の変化を線膨張率の変化として検出してくれるのである。

 

さて、単体の物質であれば材料の融点までガラス転移点の前後で線膨張率が変化する。高分子材料ではガラス転移点と融点の間で結晶化が起きる場合もある。そのような場合にはガラス転移点と融点の間で結晶化に伴う状態変化が観察される。すなわち室温から融点までの間にガラス転移点で1回目の、結晶化温度で2回目の状態変化に伴う線膨張率の変化が観察される。これは平凡な材料変化の場合で、通常はこのような変化が観察されると安心できる。またこのような情報はDSCでも得られるのでTMAなどいらない、ということになる。

 

しかし、得られる状態変化のパラメーターが同じでもDSCとTMAでは見ている現象が異なるので、DSCでは観察されないが、TMAでなければ観察できない現象が存在する。また、その現象が気持ち悪いのである。

 

いくつか例をあげると、一種類の高分子であるはずのアペルやゼオネックスで観察された現象であるが、ガラス転移点と思われる現象が2つも見つかったり、ガラス転移点が一つの場合でも、ガラス転移点に到達する前に線膨張率が増加したり減少したりする現象が観察された。またアペルやゼオネックス以外でも観察されることがあるが、ガラス転移点を過ぎてから熱膨張のグラフがグニャグニャうねることである。アペルやゼオネックスでは、これがガクンガクンという感じに変化する場合がある。これらのTMAで観察される変化が、DSCでは何も検出されていないので気持ち悪いのである。分かってしまえばすっきりするが、すべてすっきりするまで10年以上かかった。

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2013.04/05 高分子ガラス

昨日光学用樹脂材料について述べたが、ガラスの定義について高分子の教科書にあまり書かれていない場合があるので、少し説明する。無機材料の教科書にはガラスの定義が書かれていたが、最近の無機材料の教科書を読んでみると定義が書かれていないことに気がついた。

 

ガラスの定義は、非晶質状態で、かつガラス転移点をもつ材料と習った。すなわち非晶質材料でもガラス転移点を持たない材料があり、ガラス転移点を持つかどうかで非晶質材料は二種類に分類される。

 

無機材料の熱分析(DSC)結果は大変分かりやすい。しかし、高分子材料の熱分析(DSC)結果には頭を悩まされる。慣れてしまえば悩まなくなるが、ゴム会社で過ごした新入社員時代はその結果によく悩まされた。特にガラス転移点については、信号が出るはずのところにでないときがある。

 

何度も測定を仕直していると、指導社員がコツを教えてくれた。ガラス転移点が出そうなところでスキャンを途中停止し、加熱あるいは冷却状態を保持したまま3分待つ。その後スキャンすればガラス転移点が現れる、というのである。やってみるときれいにガラス転移点がチャートに描かれる。3分という時間も覚えやすい。カップ麵の食べ頃と同じである。

 

ここでまた悩むことになる。このようにして得られたガラス転移点をどのように解釈すれば良いのか。例えば製造条件が異なる材料では、熱履歴に差異があるのでガラス転移点は変化する。まれにガラス転移点が現れなくなる条件もある。特許ネタには良いが、このガラス転移点が現れない状態というのはどのような状態なのだろう。熱的な解釈はできても状態のイメージを未だにつかむことができていない。

 

このように高分子では同一高分子の非晶質状態でガラス転移点が現れる場合と現れない場合がある。無機材料では経験したことが無い。35年の研究開発で無機材料と有機材料の両者を扱ってきて、高分子材料には無機材料に無い不思議な現象をいくつか体験している。

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2013.04/04 光学材料としてのポリオレフィン

20年以上前に光学材料としてポリカーボネートやポリアクリロニトリルが着目された。しかし、いずれも複屈折が大きいため、CD-ROMやDVDーROM、ブルーレイといったデバイス、ピックアップレンズ用の材料には不向きであった。現在レンズ材料として多く用いられているのは、ゼオネックスやアペルと呼ばれている材料である。10年以上前にこれらの材料を1年ほど扱い、その材料設計思想の稚拙さにあきれた。一部の公的機関の研究者もご存じの内容をもとにこの分野の材料開発がまだ必要である点を述べる。

 

ゼオネックスやアペルは、主鎖がポリエチレンと同じようなC-C結合でつながったポリオレフィンとよばれるポリマーの側鎖に大きな基をぶら下げた構造をしている。ちなみにレンズ材料用ゼオネックスはポリスチレンを水素化して合成する。すなわちゼオネックスの場合には、ポリスチレンの性質を一部ひきついだポリマーである。レンズ材料用ゼオネックスの主鎖はエチレンと同じで、側鎖基には6員環がぶら下がった構造をしている。

 

ポリマーの実用的な耐熱性はガラス転移点に制限をうける。このガラス転移点は主鎖の分子運動性とも関係する。ちなみにポリエチレンのガラス転移点は最も低い測定値で-110℃という値が報告されている。一般のポリエチレンをDSCで測定した場合に観察されるのは-20℃前後の値である。ガラス転移点という物性値で注意しなければならないのは、このように同じポリエチレンでも高い測定値がえられたり低い測定値がえられたりする点である。ポリエチレンは特殊な部類だが、ポリマーはその製造履歴によりガラス転移点がばらつくものである。

 

そもそも無機材料で観察されたガラス転移という現象をポリマーにそのまま適用したので多くの技術者の誤解を生んでいる。このポリエチレンのガラス転移を調べれば、物性値としてその気持ちの悪さに気がつき、耐熱性についてこのパラメーターを頼りにする危うさに驚くはずである。ポリエチレンのような単純な構造のポリマーのガラス転移点がこのような状況である。その構造に大きな側鎖基をぶら下げれば、大きな側鎖基が分子運動性を規制し耐熱性があがる、と考えるのはポリマーの物性を甘く見た考え方である。

 

確かにマクロ的には、すなわち構造材料に用いるときには、見かけ上の耐熱性は上がっている。ポリスチレンではガラス転移点は80℃から100℃の間で観察される。多くのカタログでは85℃前後の値が書かれている。そしてポリスチレンの耐熱性は80℃までとされ、ポリスチレン製容器には食洗器に入れないようにと言う注意書きが書かれている。ゼオネックスでは、このポリスチレンのベンゼン環に水素を付加し、より側鎖基どおしがぶつかりやすくし、主鎖の分子運動性を下げ見かけ上のガラス転移点を120℃以上にすることに成功している。

 

しかし、この考え方の問題はミクロ的な領域の分子運動性を忘れている。ゼオネックスを押出成形して様々な熱履歴を与えると80℃前後にガラス転移点をもった材料がえられる。これは面白い、ということで様々な条件で薄膜を作ってみると、カタログには絶対に結晶化しない非晶性高分子と書かれているのに結晶化した薄膜がえられる。なぜブルーレイ用ピックアップレンズにアペルやゼオネックスを当初使うことができなかったのか、この材料を開発した技術者は反省して欲しい。

 

CD-ROMからDVD-ROM,ブルーレイへと変わる過程で光学的耐熱性で考えなければならないドメインの大きさが小さくなっているのである。詳細はここでは書かないが、ポリマーの専門家ならば、すぐに理解できる世界の現象である。現在の光学用樹脂の世界はまだこの程度のレベルの技術である。高分子材料には、まだまだ研究の余地が残っている。固くて歯が立たないセラミックスに比較して取り組みやすいはずである。年寄りにも浮かぶアイデアなので若い人ならばパーフェクトポリマーのアイデアはすぐに出てくるはずである。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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