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2016.01/01 新たな事業

明けましておめでとうございます。
今年、弊社は創立5周年を迎えます。何とか5年間、会社組織を維持することができました。弊社は電子出版を事業としてスタートしましたが、昨年度大手の撤退が続いたように、なかなか事業環境は難しく、早々に事業を再構築するため「未来技術研究所(www.miragiken.com)」をスタートさせました。
 
このホームページには、電子出版サイトよりも多くの方の訪問があり、事業の進め方の方針を見直すことができました。また、新たな弊社の顧客開拓にも成功いたしました。弊社では、未来技術研究所のように技術から芸術まであらゆる新しい価値の創出を狙っています。
 
今年は、新たにカオス混合装置の設計と販売を行うことになりました。このカオス混合装置につきましては、2014年6月に高分子学会から招待講演を受けた混練の新技術を具現化しました装置で、二軸混練機の先に、あるいは押出機と押出用ダイの中間に取り付け、カオス混練を行う装置です。
 
細いスリットと広い空間の組み合わせ構造体へ高分子組成物を通過させることにより、引き伸ばしと折り曲げによる混練を進めるカオス混合を実現できる装置ですが、大変簡単な仕組みであるにもかかわらず、混練効果が高い面白い混練機の補助装置です。しかし、その設計にはノウハウが必要なため、弊社が小平製作所と提携し、混練のソフトウェアーとハードウェアーを一組で事業を展開することになりました。
 
現在実験用二軸混練機もセットで販売できるように準備中ですが、とりあえずカオス混合装置から販売を開始しました。もし現在の混練プロセスでお困りの方は、お問い合わせください。
 
当初弊社では無形の価値を販売する事業を考えていましたが、今後は無形の価値を実現できる実体の販売も併せて行いますのでご期待ください。
 
1980年頃から飽食の時代と言われ、バブル崩壊後は失われた10年、それが20年と続き、今新たな成長の段階に入った、と言われています。衣食住は満たされ、価値の多様化そして新たな価値として「こと」が注目されたりしましたが、社会が成長し続けるためには、常に新たな価値が提供されなくてはいけません。
 
社会に新たな価値が提供され、それにより経済が活性化されて、GDPが上がってゆくと単純に考えますと、新たな価値の提供者こそ今求められています。団塊の世代の退職が始まった10年ほど前から、退職者による起業が増えてきたそうですが、弊社を含め新しく生まれた会社から日本の経済を牽引できるような企業が成長いたしますと、安倍政権のGDP目標600兆円の実現が可能になるかと思います。
 
先に述べましたように、新たな価値を皆様に届けられるように、弊社はソフトウェアーとハードウェアーを一体にして販売する新たな事業を今年始めます。この事業でお客様が新たな価値を創出し、日本の経済成長に貢献できるよう今年もがんばりますのでよろしくご支援お願いいたします。

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2015.12/31 高純度SiCの発明プロセス(4)

フェノール樹脂へアモルファスシリカとリン酸エステルを均一に分散したフェノール樹脂発泡体技術で一番難しかったのは、アモルファスシリカの分散方法である。高分子へアモルファスシリカを均一に分散する技術は、ゴム会社に実践知を有する人が多くいたので問題解決そのものは容易だった。
 
ところが、形式知ならばすぐに技術ができあがるのだが、実践知や暗黙知を活用して技術を組み立てるときには、再現性の問題あるいは技術の安定性の問題、いわゆるロバストの問題との格闘になる。そして、実験室スケールにおける技術のロバストと生産スケールにおける技術のロバストが異なれば、生産立ち上げに苦労することとなる。
 
実験計画法からリン酸エステル系難燃剤とアモルファスシリカとの間に交互効果が存在することが示され、この効果のロバストが低かったので量産化の際に技術の微調整が必要だった。しかし、それでも計画に遅れることなく開発から1年程度で技術移管できたので、無機材質研究所の留学を控えた立場では、計画通りできたことよりも留学準備の時間に余裕ができたことが一番うれしかった。
 
業務移管が無事完了し、開発に使用した様々なフェノール樹脂を処分することになった。社内の廃棄処理施設で処理するには、液状物をすべてゲル化させる必要があった。これはフェノール樹脂と酸触媒をかき混ぜてゲル化させる単純作業である。
 
天井材開発の初期に、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとの混合で相分離してうまくゆかなかったことが気になっていた。フローリー・ハギンズの理論、すなわち形式知からすれば当たり前だが、ポリエチルシリケートが分解したときに生成するシラノールの反応速度はイオン反応よりも遅いので何とか工夫すればリアクティブブレンドできる可能性がある。
 
すなわち、フェノール樹脂とエチルシリケートとの反応バランスを取ってやれば、RIM技術のようにχの異なる高分子でも均一に相溶させることができる(実践知)。フェノール樹脂の反応速度やポリエチルシリケートの加水分解速度の情報はモデル反応において知られており、それらの形式知の情報を見る限り、RIMのようなシステムができると推定された(技術の大半が実践知であっても、20世紀にできあがった技術には形式知の部分が必ず存在し、その形式知の類似性から新しい技術の成功確率を予測可能である。また、材料技術では、少なからず実践知の部分が必ず存在する。例えば高分子の難燃化技術や混練技術は実践知の部分が多い。)。
 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2015.12/30 高純度SiCの発明プロセス(3)

フェノール樹脂にナノレベルのシリカを分散する手段としてポリエチルシリケートを使用する必要はなく、フィラーとして販売されている安価なアモルファスシリカを使えば良い、というアイデアはすぐにひらめく。しかし、フェノール樹脂の難燃性改良をどのように実現するのか、という問題は未解決のままである。
 
この問題については、樹脂の難燃化技術の定石通り、リン酸エステル系難燃剤を使用すれば良いのでは、ということになり、アモルファスシリカとリン酸エステル系難燃剤の組み合わせでクラチメソッドによる実験計画法を行った。このクラチメソッドとは、タグチメソッドが日本で知られていなかったときに、当方が開発したメソッドである。
 
ゴム会社では入社すると技術者全員統計的品質管理の通信教育を受けさせられた。そしてその受講修了後、日科技連が推進していた同様のタイトルのBASICコースを一年受講する、というカリキュラムで統計的品質管理手法と問題解決法を徹底的に身に着けさせられた。さらに実務でそれらを活用することが義務になっており、研修課担当者のフォローがさらに一年間あった。
 
ところが、せっかく学習した実験計画法であったが、実務でうまく結果が出ない場合が多かった。しかし、うまくできない、手法がおかしい、などということは受講直後正直に言えない。会社が1名当たり50万円前後の費用をかけて新入社員の教育に採用している統計手法である。定年退職するまでこの会社で仕事をしてゆこうと決心していた当方は、実務にうまく使用できない手法を前にして悩んだ。そこで考案したのがクラチメソッドだった。
 
当時習った実験計画法では計測値をラテン方格の外側にそのまま割り付ける方法である。このラテン方格の外側にわりつけられた計測値のかわりに、タグチメソッドの感度に相当する相関係数を割り付けて実験したのだ。すなわち、改善効果を相関係数で評価するようにしたらどうなるか、と工夫して実験計画法を使ってみたところ、どんぴしゃで良好な制御因子の組とその値が見つかるようになった。
 
当方は会社の研修で習った手法を用いて問題解決できればよく、当時それがどのような理由でうまく改善できる仕組みになっているのか深く考えなかったが、ちょうどその時田口先生がタグチメソッドを開発されていた時代(注)でもあるので、無駄なことを考えなくて良かったと思っている。
 
 さて、シリカ変性フェノール樹脂天井材の開発では、外側に割り付ける信号因子は、シリカ量を変量したときの極限酸素指数あるいは脆性の値を用いる場合が多かった。この時極限酸素指数の測定方法も便利に測定できるように改良し、会社から改善提案賞を頂いている。これはゴム会社で貢献を認められて頂いた唯一の賞である。(高純度SiCの事業化では随分と貢献したつもりであるが、----。)
 
(注)1979年に経営工学シリーズ18として田口先生の「実験計画法」が日本規格協会から発刊されている。その本に書かれた分散分析の手法に損失関数の記述がある。当時企業では、日本科学技術連盟の統計手法が企業内教育で使用されており、そこには損失関数の概念は述べられていない。当時実験計画法だけでも数冊本を買い込んだが、この田口先生の書籍が一番読んでいて面白かった。但し、この書にはタグチメソッドは書かれていない。

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2015.12/29 高純度SiCの発明プロセス(2)

昨日の続きで、フェノール樹脂天井材の開発について。
フェノール樹脂天井材の開発は、難燃性評価用の炎から逃げるように膨らみ合格した可燃の硬質ポリウレタン発泡体に置き換わる商品として企画された。国内で多発した火災の反省から評価法が見直され、難燃性の規格レベルも高くなり、ポリウレタンではゴール達成が難しいので、フェノール樹脂が選ばれた。しかし、フェノール樹脂でも発泡体になると難燃性能が著しく低下するので新しい技術が要求され、無機高分子で変性する技術を提案した。
 
最初に検討したのは、ケイ酸ソーダから抽出したケイ酸ポリマーの変性効果である。これは当時発表されたばかりの研究成果があり、形式知により良い結果が出ることが見えていた。すなわち、可燃性の有機成分の一部を無機成分で置換すれば、単位重量当たりの発熱量は必ず少なくなる。発熱量が抑制された結果、不完全燃焼となり炭化促進されるという仮説があった。また、無機成分として用いるケイ酸ポリマーの抽出方法もセメントの分析技術として公開されていた。
 
この実験結果は仮説通りになり、無機成分が多いほど難燃効果が高かった。また、フェノール樹脂そのものが炭化しやすい樹脂だったので、ケイ酸ポリマーを増加すれば燃焼後も構造材としても使用可能なレベルの材料ができた。しかし、問題となったのはTHFやジオキサンを使用してケイ酸ソーダからケイ酸ポリマーを抽出するプロセスである。
 
作業環境に悪い有機溶媒を使用するだけでなく、抽出過程も考慮すると、かなりのコストアップになりそうだった。そこで当時半導体用途で市場に出回り始めたポリエチルシリケートに着目した。この化合物は、テトラエチルシリケートを加水分解し、重合させた液状のケイ酸ポリマーの重合体である。タンクローリーで購入すればkgあたり800円という難燃剤として捉えると安価な価格であった。
 
しかし、実験を始めてすぐに挫折した。フェノール樹脂と混合するとすぐに二相に分離するのである。また、混合攪拌し二相に分離する前にフェノール樹脂を硬化させようと酸触媒を増加させると、ポリエチルシリケートが加水分解し、シリカとして沈殿し、その形態でフェノール樹脂に分散して狙った効果が得られないのだ。
 
仮説から期待された実験結果は得られなかったが、この時思わぬ発見をした。超微粒子が分散したフェノール樹脂の脆性が著しく向上するという複合材料の形式知どおりの材料が得られただけでなく、燃焼試験後の炭化したサンプルの靱性も向上しており、難燃効果は小さかったが、燃焼前と燃焼後の力学物性改良技術として使える成果だった。
     

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2015.12/28 高純度SiCの発明プロセス(1)

現在でもゴム会社で続いている異色の半導体事業の心臓部の技術である高純度SiCの合成技術は、形式知よりも実践知や暗黙知の占める割合の高い技術だ。会社を創業してから外国からの問い合わせがあったり、最近は国内のメーカーからこの技術に関係した特許出願があったりと少しブームの兆しがあるように思われる。
 
高純度SiCの注目されている本命のマーケットはパワートランジスタの領域で、ハイブリッド車や電気自動車に必要なインバーターの重要部品である。すでに市場が立ち上がり始め、川上では6インチウェハーの生産が開始され、川下では高級オーディオアンプにも普及し始めた。
 
オーディオアンプへの普及は、高純度SiCの開発に成功した時に一番最初に思いついた分野である。1980年初めにすでに高級オーディオ市場ができつつあり、パワートランジスタのニーズが見えていたので期待した。
 
また、ゴム会社の基盤技術として音や振動分野を制御する技術開発が活発に行われていた時代であり、音の見える化技術やその評価技術を用いた新幹線の騒音対策壁デルタの発明などオーディオ市場につながりそうな気運が社内にあった。また、その技術の担当者の一人は定年退職後オーディオ専門店を始めている。
 
パワートランジスタへの夢を育てる環境はあったが、実際にその夢を会社へ提案するきっかけは、既にこの活動報告に書いたように、社名からタイヤを取り除くCIの導入時に行われた創業50周年記念論文の募集である。
 
この記念論文に応募する時、フェノール樹脂天井材の開発を担当していて、フェノール樹脂へ水ガラスから抽出したケイ酸ポリマーを相溶させたり、その技術の発展形としてポリエチルシリケートの相溶を検討したりしていた。この時は、科学的方法こそ技術開発の王道という時代で、形式知100%のアプローチだった。
   

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2015.12/27 微粒子の表面処理

高分子に微粒子を分散するために、その表面を修飾する方法はよく用いられる。カップリング剤や低分子配位子が使用される場合が多い。しかし困るのはその副作用である。
 
化学修飾された微粒子と高分子の組み合わせによっては、混練プロセスで微粒子から化学修飾した分子がはずれる問題がある。高分子と微粒子だけを混練してストランドを押し出したときには何も起きなかったが、化学修飾された微粒子を用いたときにダイスウェル効果を起こす場合は、微粒子表面の分子が発泡現象を引き起こしている。
 
低分子カルボン酸や低分子アミンで酸化物微粒子を化学修飾した場合などとナイロン系の樹脂と混練するとダイスウェル効果を起こすことが多い。ポリエステル系の樹脂でも起きる場合がある。教科書には、このような副作用について述べられていない。実体験して分かる実践知である。
 
それでは、このような場合の微粒子の表面処理はどのように行ったら良いのか。カップリング剤は一つの答えであるが、カップリング剤でも現象が起きた経験を持っている。おそらく一番無難なのは高分子の吸着機能を利用した微粒子の表面処理だ。
 
この技術については、特許出願を20年近く前に行っているが、あまりPRしていない。重要な実践知であり、暗黙知でもあるから、という理由ではない。写真学会からゼラチン賞を頂いているが、高分子学会技術賞は受賞できなかった。もし受賞できていたら公開していたかもしれないが、落選したので公開する機会が無くなった。
 
しかし、中国で混練技術の指導をしているときにこの方法をいろいろ試してみると、副作用の無い大変良い技術手段であることが分かってきた。過去に超微粒子シリカを分散したゼラチンの改質技術だけしか実績が無かったが、超微粒子の分散など高分子の吸着現象をつかった表面処理方法は現在のところ失敗は無い。日本の某企業で技術を公開したが、残念ながら採用していただけなかった。しかし、中国では砂漠に水をまくが如く何でも素直に吸収してくれる。
     

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.12/26 混練技術のどこが難しいのか

高分子の混練の難しさは、混練されている高分子の状態をそのまま観察することが難しいためと思っている。オープンロールの混練でさえ、すべての状態を観察することが不可能である。ましてやバンバリーや二軸混練機ではオープンロールに比較し見えない部分が圧倒的に多い。
 
10年近く前、上海の某大学で混練の専門家と称する大学教授の怪しい研究室を見学した。自己紹介ついでに行われたプレゼンテーションはどこかで見たような資料だったが、説明が中国語になっていたのでコピペではなかった。
 
最も怪しかったのは、二軸混練機の動作を可視化し研究を進めている、という話だった。実験装置を見せていただいたら、混練機のシリンダーの一部がガラスになっており、実際に高分子が混練されて流動している状態が見えるようになっている。
 
そして目の前で、紅白のペレットをその二軸混練機で混練して見せ、一様のピンクになったストランドを示しながら、高分子の流動がよくわかるでしょう、と言っていた。確かに紅白のまだらになった状態からピンクに変色する過程を見ることができたが、それで何がわかるのか。
 
質問をしたら、混練されてゆく状態を見ることができる、という回答以上のご返事を頂くことができなかった。可視化できるようになっている装置ではあったが、温度計以外のセンサーがついておらず、目で見て楽しむ以外目的の不明な装置だった。
 
さらに怪しかったのは、ポリエチレンにナノカーボンを分散する技術について、この装置で研究していると言っていたことだ。そしてカーボンナノチューブの分散した真っ黒で薄く引き延ばされたポリエチレンシートを見せてくれて、太陽光にかざして見ると光が見える、と誇らしげに語っていた。当たり前の現象にドヤ顔されても返す言葉が無い。
     

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2015.12/25 高分子の混練

今年もまもなく紅白歌合戦を視聴することになる年の瀬である。何とか会社は5周年を迎えようとしている。今年はなぜか高分子の混練に関する質問が多かった。ゆえに来年1月末に混練の講演を&Techの主催で行うことにした。
 
高分子の混練は、形式知だけではどうにもならない分野である。しかし、「形式知でどうにもならない」ということを理解している人が少ないので指導するときに大変苦労する。2005年には、コンパウンドを購入していた某メーカーの技術サービスから「素人はだまっとれ」と言われた。仕方が無いので、黙ってコンパウンド工場を短期間で立ち上げ、コンパウンドを内製することにした。
 
この時の生産ラインでは世界で初めてカオス混合の連続装置が無事稼働した。手作りに近い装置だったが、未だにトラブルが無いので、この装置とコンセプトは異なるが動作がよく似ている、4年間開発を続けてきた新しいタイプを弊社から販売することにした。
 
高分子の混練の実践知は、ゴム会社で新入社員の研修と3ケ月間ではあるが電卓でマクスウェルモデルの計算を行っていた大変優秀な指導社員から教えていただいた。理論派であったが、混練の形式知は当てにならない、と明確に否定し、実践知を科学的に観察を中心にご指導してくださった。
 
残業代も無く、深夜まで業務を行うという、今ならばブラック企業と呼ばれるような指導環境ではあったが、ゴム配合の考え方やロール混練の暗黙知に至るまで丁寧にご指導いただいた。濃厚な教育環境は、今から振り返るとバラ色に輝いており、ロールで混練されていたゴムだけがブラックだった。
 
高分子の混練だけは、現場の指導がどうしても必要と感じている。言葉で技術がどこまで伝わるのか、当方はあまり自信は無い。講演会でもそのようにお話しする予定である。40年近く前の指導社員も同様の発言をしていたが、実践知や暗黙知の伝承の難しさだろう。
 
ちなみに指導社員は、一連のゴム開発プロセスを説明後、ご自分が加硫したゴムサンプルをくださり、このサンプルと同じ物性のゴムができるようになったら、次のステップに進みます、と言われた。そのゴールを達成するのに1週間ほどかかったが、よく短期間で達成できたね、と褒めてくださった。この時は1週間会社に泊まりながら混練の練習をしていた。
 
複雑な配合処方になるとプロセシングの影響がその物性に大きく現れるようになる。単純な配合であったPPSとナイロン、カーボンの三成分系でさえ、混練条件でその電気電子物性は大きく変動し、カオス混合を用いなければ到達しない世界が存在した。カオス混合技術は、新入社員時代のロール混錬の技術から生まれた成果であるが、関心のある方はお問い合わせください。
 

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2015.12/24 ヒット曲

年末は伝統となった紅白歌合戦を筆頭に長時間の歌番組が多い。しかし、今年のヒット曲は何か、と尋ねられても、ちんぷんかんぷんである。これは今年に限らず、すでに20年前からで、若い感性が萎んでしまい、逆にお腹が膨らみ始めたころからだ。ところが、最近はこのような年齢からくる宿命だけでなく、世の中全体でヒット曲が分からなくなっているらしい。
 
新聞を読むと、今年の紅白歌合戦では原点に戻り楽曲を選んだ、と解説されている。また、CDの売り上げの落ち込みだけでなく、CDの売り上げからヒット曲が見えなくなってきているそうだ。ちなみに今CDの売り上げランキング上位はAKBとその関連グループが占めている。
 
NHKの朝ドラのテーマソングの楽譜が品切れになった、と以前ニュースになっていたのでAKBはすごい、と思ってCDのランキングをみると、知らない曲ばかりだ。これも新聞のニュースから知ったことだが、昨今のCDには、握手券などのおまけがつけられて販売されているという。すなわち、CDの売り上げランキングがAKBばかりになっているのは、握手券目当てに一人で10枚以上も買う人がいるからだそうだ。
 
CDの売り上げ減少は、インターネット原因説が主流で、今は楽曲を個人がダウンロードするよりもストリーミング配信で楽しむ割合が多いという。楽曲のダウンロードの時代は高々数年で、ストリーミング配信が一気に広がったようだ。
 
ストリーミング配信と言えば、古くはFM放送がある。今オーディオ店に行くと単体のFMチューナーを見つけることは難しい。10年以上前からFMチューナーを販売するメーカーが少なくなり、今単品コンポとしてFMチューナーを販売しているのは、ヤマハぐらいである。
 
我が家には40年近く前に購入した、当時最先端のチューナーが今でも良い音で鳴っている。年を取るにつれ高域のノイズが気にならなくなったのはチューナーの劣化ではなく耳の劣化だろう。ストリーミング配信をパソコンのスピーカーから聴く音よりも良い音がしている。またこの数年はラジオマンジャックというお気に入りのFM番組もできた。昔は、FMチューナーをプログラミングし、流しっぱなしで無差別に番組を聴いていたが、転職してから勤務先が遠くなり、FM放送をいつの間にか聴かなくなった。事業を始めてから、またFMを聴くようになりはじめた。
 
さて、今はストリーミング配信からヒット曲が生まれている、としたならば、ライブ感の溢れた楽曲がヒットしているのでは、という仮説を立てることができる。なぜなら音だけでなく画像も楽しめる時代だからだ。そのような視点で昨年と今年の紅白歌合戦で選ばれた楽曲を眺めてみると、共通点は仮説を支持している。今年落選したキャリーパミュパミュなどの例外もあるが、ライブ感あふれるスターが選ばれている。今は音楽を目で楽しむ時代になったようだ。
  

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2015.12/23 AVに見るコモディティー化(4)

B&Wというスピーカーメーカーで今年の上期モデルチェンジが行われた。商品のシリーズはそのままで、低価格帯のスピーカーの性能が向上したのだ。高価格帯のスピーカーは従来通りの音を奏でているが、低価格帯のスピーカ-で高価格帯並みの音がする製品がある。
 
このスピーカーメーカーの特徴はツイーターにあり、高価格帯のスピーカーにはダイヤモンドが使用されている。ダイヤモンドが使用されているから高価格というわけではなく、高い弾性率で内部損失の大きい素材ということでダイヤモンドが選ばれているのだ。
 
しかし、パンフレットを読むとダイヤモンドはCVDで形成されたダイヤモンドで、この程度の物性であれば、無垢の金属材料でも実現できそうである。実際に新製品の低価格帯のスピーカーでダイヤモンド並の音を出すスピーカーのツイーターには、アルミニウム振動板が使用されている。
 
当方の耳には、20万円台のスピーカーと60万円台のスピーカーは同じ音色に聞こえる。大変コストパフォーマンスの良い耳だ。しかし、この20万円台のスピーカーと同じ価格帯にある他社のスピーカーとは明らかに解像感が異なる。
 
現在販売されているスピーカーの動作原理は40年前の技術と変わっていない。しかし、スピーカーの性能には形式知で語れない要素があるという。我が家では、ボーズのスピーカーとオンキョーのスピーカーとを組み合わせ4台で音楽を聴いているが、80万円台のスピーカー並みの音がしている(ような気分でいる)。ただし少し音像が大きい不満は残っているがコストパフォーマンスは高い。
 
4台を同時に駆動するのでアンプにはそれなりの負荷がかかる。しかしローテルの20万円台のアンプは十分にその能力を備えていた。オーディオ装置は価格ではないのである。自分の満足する環境を整えるのにずいぶん時間がかかった(注)。しかし、それほどのお金はかけていない。レコードやCD代にはるかにお金がかかった。
 
オーディオマニアではないが、マニアの気持ちはそれなりにわかるような気がする。CDやレコードに記録された音をそのまま聞きたいという願望である。形式知では数値化できない世界がそこには存在する。
 
オーディオ市場はかつてほど大きくはないが現在もそれなりに存在し、生き残っているメーカーの商品には、各社の音の哲学が盛り込まれている印象を受ける。それらは実践知や暗黙知の世界である。
 
(注)おそらく耳の劣化が満足のゴールを引き寄せたのだろう。
  

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