故田口玄一先生に3年近く直接タグチメソッドのご指導をしていただいた。写真会社がタグチメソッドの導入を日本では早い時期に始めたから大変良いチャンスに恵まれたと思っている。ちょうど転職した翌年に先生のご講演を拝聴し、その年に全社でタグチメソッドを行うということで推進委員に選ばれた。
ゴム会社では日本科学技術連盟(日科技連)が推進するQC手法が標準だったので、研究開発では積極的に実験計画法を使っていた。先生の著書「実験計画法」も愛読書として座右にあった。ただ、実験計画法で実験を行ったときに必ずしも最適条件が選ばれない、という問題によく直面した。
そこで実験計画法の改良を行い、物性値ではなく、相関係数を配置して実験計画法を行うと最適条件をうまく見つけられることを発見した。以来ゴム会社で実験計画法を行うときには、いつも相関係数を割り付けていた。
驚いたのは、我流で行っていたこの方法がタグチメソッドによく似ていたことだ。すなわち相関係数の割り付けは、信号因子を外側に割り付けしていることであり、相関係数はタグチメソッドの感度に相当する。我流の方法は感度最大の条件を見出す手法だったのだ。
ただ、田口先生は、感度の最大を求めるのは正しくなく、あくまでもSN比が最大の条件を選ぶように指導をされていた。これをロバスト設計と呼ぶが、それでは感度最大の条件を選ぶのは間違っていたのかというと、田口先生は状況によって、ロバストを犠牲にして感度を優先することはある。しかし、それは品質工学の考え方としてよくない方法だ、と否定はされなかった。
今コンサルティング業務は中国の会社が中心で、毎月1週間ほど上海に出かけるが、開発の指導はすべてタグチメソッドで行っている。日本で中国のモノマネ技術が問題にされたりするが、当方はコンサル条件に独自技術の開発、すなわち特許出願できる技術開発を心がけているので、当方のクライアントに関してはモノマネ技術とは無縁である。
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安倍内閣がGDP目標600兆円を掲げたことに対する批判が多い。当方も常識的には難しいだろうと思う。しかし、いつも達成可能な目標を示すのがリーダーの役目ではない、と言われるように、安倍内閣の決意表明と捉えれば、大胆な目標で意気込みを感じるというような評価になる。
但し前向きの評価をするにしても、それを達成するための道具となる「矢」も、狙いの方向も見えていない。手段もゴールも五里霧中の状態である。ただ会社を経営し始めて今の日本で不満に感じていることがある。それは日本のホワイトカラーの生産性の問題である。
大手のクライアントと仕事をしていてそれを痛切に感じる。当方はゴム会社と写真会社で働いた経験から、ホワイトカラーの生産性が企業により大きく異なることを実体験とした。ゴム会社では昔から現場も含め会社全体の生産性が高い経営が行われている。例えば高純度SiCの事業を立ち上げるに当たり、外部とのJVを始めるまで、0.5人工数しかかかっていない。同様の業務は写真会社であれば3人以上の工数をかける。
また、写真会社でリーダーの立場ですべて責任を持つことができたので、コンパウンド工場を立ち上げたときの平均工数を2人で行ったみた。但し、これは写真会社の工数だけで、生産装置を発注依頼した根津にある中小企業の工数は入っていない。この中小企業に支払った費用も8000万円という破格な値段である。大手のゼネコンに依頼したなら、同じ仕事を依頼した場合に2億円前後はかかっただろう。
今、日本企業におけるホワイトカラーの生産性は、各社大きなばらつきがあるのではないだろうか。もしその生産性を上げていって、余った余力で新規事業を開発していったならば、600兆円は意外にも実現可能な数字になるのかもしれない。
新規事業として何を行うのか、という問題は各社で異なるが、ホワイトカラーの生産性については、二つの風土の異なる企業に勤務した経験から、各企業共通したソリューションが存在している、と思っている。
この各企業に共通したソリューションについて、問題解決案を得るスピードアップの方法、それを推進する戦略と戦術の立案方法が効果的である。問題解決案を考える場合に、ゴム会社ではばっさりと人を削減し推進する方法をとるのに対し、写真会社ではどんと人員をかける。推進するための戦略立案については、ゴム会社では、考えている暇があったなら動けと檄を飛ばす役員がいたが、写真会社ではじっくりと時間をかけろといった具合に各社異なる。
どちらの方法が良いか悪いかはともかく、やや荒っぽいかもしれないが、全体としてゴム会社の生産性が高く世界のトップ企業になったという結果が現れている。
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昨晩、NHKシリーズ「認知症革命」を見た。今晩その続編が行われるので物忘れがひどくなった諸兄は、ぜひ見ていただきたい。昨晩は、「ついにわかった!予防への道」という副題がついていた。すなわち認知症を予防できることが分かったそうだ。そして番組内で予防法を説明していた。そして、それを聞いてびっくりした。最近の自分の変化に合致しているのだ。
まず、番組を見なかった人のために、予防法を簡単に説明する。その予防法のメカニズム等詳しいことは、再放送あるいはNHKオンデマンドでも見ていただきたいが、予防法そのものは大変簡単な方法である。すなわち、一日一時間早足で歩けばよいそうだ。認知症予備軍の人が1週間に3日、一日一時間早足で歩いたところ、症状が改善されたとのこと。
この予防法発見のきっかけは、認知症予備軍の人の歩行状態の研究からだそうだ。歩行速度が秒速80cm以下になると認知症予備軍である、という発見以外に、歩行の時の力のかかり具合が正常な人と異なってくるという。そこで、早足で歩く訓練を取り入れたら、症状が改善されたので予防法の発見につながったそうだ。
番組では、さらに早足歩行と筋力トレーニングを組み合わせるといいことや、記憶力のトレーニングも並行して行うと効果的であるとの説明があった。ところが、当方の体験によれば、これらの方法で正常な人にも思わぬ効果があるので以下その体験について述べる。
数日前の活動報告で、食生活を変えないでダイエットができるかどうか試していることを書いた。そこで、水泳はあまり効果が無かったが、毎日30分以上の早歩きとダンベル体操を行ったところ体重が下がり始めた、と書いた。以前の活動報告では書かなかったが、30分以上の早歩きでは、テンポを維持するために、過去に国際会議で講演を行った時の録音を聞いている。
このような習慣を取り入れてから、体重が減り始めただけでなく、なぜか頭が少し若返ったような気がしていた。買い物の支払いでは、概算の値がレジの値に近くなったり、C#のプログラミングでは、バグをプログラム動作前に気がついたり、何よりも昔チャレンジしたギターをまた弾きたくなったことなど驚くべき変化だ。
写真会社を退職する半年ほど前から、新しい事や細かいことを少し面倒に感じるようになっていた。老化が始まっていたのだが、ダイエットに取り組み始めてから、特に早歩きとダンベル体操を始めてから、身の回りのこまごまとしたことを面倒と感じなくなっていた。なぜかはわからなかったが、昨晩の番組を見てその理由がわかった。脳みそのネットワークが活性化するのだそうだ。もし、50を過ぎて少し老化を感じ始めた方々は、早足歩行と筋トレを習慣に取り入れると良いと思う。特に早足歩行は、医学的にもその効果が解明されているそうだ。
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弊社の事務所は、東上線上板橋駅から上板銀座を川越街道方面へ徒歩5分の場所にある。上板橋駅周辺は東京下町の風情が残り、都内で有数の規模の城北公園もある。緑が豊富で人情もあり環境の良いところである。
そしてあまり知られていないが、駅周辺には30店前後も店舗が存在するラーメンの激戦区でもある。毎年新店舗が現れるだけでなく、店じまいする店もあり、新陳代謝も激しい。また、夜から明け方だけ営業している店もある。全国に有名な蒙古タン麺の「中本」は、二代目になり上板橋駅徒歩1分の場所、10年以上前は常盤歯科だった場所へ移転した。
東京ラーメンは2店舗あり、面白いのはチェーン店なのに店内の雰囲気が異なる。最近話題の家系ラーメン「ヒノキヤ」が、今年廃業したフーチンギョーザの店を改装してオープンしている。ところがそのヒノキヤも最近マイナーチェンジしてカンバンがヒノキヤから少し変わった。
事務所の近くには、開店したばかりの麺屋「楠」がある(注)。ここのラーメンはいわゆる魚介系で濃厚な味だが、後味がさっぱりした旨いスープと三河屋製麺製のオリジナル配合麺である。つけ麺もあり、一通りのメニューがそろっているが、店内には8席しかなく落ち着いてラーメンを食べることができる。
このラーメンの問題は、旨いのでスープを全部飲み干したくなる点である。全部飲み干すと大変である。食後3時間経過後の体重が2kg近く再現よく増えるのである。面白いのは、この体重増加であるが、スープを飲み干さなかった場合には1kg前後の増加にとどまる。
スープを1kgも飲んでいないはずなのに、数値が合わない。ただ、この体重増加は、ウォーキングとダンベル体操を1時間毎日行っている現在の体の代謝機能では、2日ほどで減量する。すなわち取れにくい内臓脂肪になっていないようだ。
食生活はそのままに、運動で体重を減らす習慣に取り組んでいるが、食事の内容で体重の増加の仕方が変わる発見をした。必ずしも食べた量に単純に相関しないことや、睡眠中に代謝が進行し、400から1000g程度体重が減少することにもびっくりした。しかし、ラーメンのスープを飲み干した時に1kg体重が増える収支が合わない問題については、未だに理解できていない。
(注)この店は、いわゆるワンオペレーションである。若い店主一人ですべて行っている。ワンオペレーションのきつい仕事でも問題になっていない。経営者でもあるからだ、といういい方もできるが、正しくは知識労働者だからだ。知識労働社会では、かつての資本家と労働者と言う対立構造は無く、労働者自ら自分の知識に責任を持たなければいけない時代である。知恵のあるものは知恵を出し、知恵の無いものは汗を出せ、とは50年近く前のZ会通信教育の答案に書かれた採点者のメッセージである。汗を出すことにより大学合格が約束されたのである。今は知識が資本と同様の扱いになったので、労働者は資本の支配から自由になったのである。
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故ドラッカーによれば、今は知識が資本と同様の意味を持つようになった知識労働者の時代である。すなわちかつて肉体労働の時代に存在した、資本家と労働者という対立構造は無くなり、労働者は知識を持つことにより、資本家から解放されたのだ。
現在は知識の一部もコンピューターの導入で自動化され、形式知の仕事が少なくなっている。今世の中に存在するのは、人間でなければできない仕事だけであり、その仕事も新たに作りださなければ、減少してゆく。かつて、文明の進歩とは労働から人類を開放する方向に進む、といわれたように、昔ながらの仕事で形式知だけで構成された業務は減少し、実践知と暗黙知の仕事だけが残る。
換言すれば、実践知と暗黙知を持たない人は、仕事が無くなるのである。これは、仕事からの解放ではなく失業と表現したほうが正しいだろう。すなわち、文明の進歩は、新たな仕事を創りだしてゆかない限り、失業者を増やす方向に進むのである。
失業者を増やさないためには、労働者が意識を変えて新たな仕事に取り組むのか、今ある仕事を皆で分担するのか、いずれしかないのである。後者は「資生堂ショック」である。
ここでよく考えていただきたいのが、給与はどうなるのか、という点である。前者は急激なダウンには至らない温情的な結果をもたらすが、後者は、単純に考えれば大きく減少する方向となる。但し後者では売り上げが上昇すれば、その減少を抑えることが可能である。
例えば資生堂の場合に売り上げが伸びていれば、時短の美容院をシフトせずに済んだのであるが、売り上げが減少したために、すなわち減少し続ければ会社が倒産し仕事そのものが無くなるので、シフトで対応したのである。
知識労働の時代になって労働者は、資本の支配から解放され自由を得たが、その結果自らの仕事に責任を持たなければいけない時代になった。自らの仕事に責任を持つ、とは、仕事に合わせ知識を獲得する努力をしたり、仕事に要求されてタイミングよく知識を提供してゆくことである。すなわち、資生堂ショックは、なにも驚くべきことではなく、すでに故ドラッカーが指摘していたことが起きているだけである。その解決は、資本家ではなく知識労働者自らが行わなければ解決がつかない問題であり、その意味で経営者は意識改革と言っているのである。
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9日にNHKで報道された資生堂の美容部員に関する報道が、話題になっている。報道の内容は、資生堂の売り上げが落ちてきたので、短時間勤務の美容部員にもフルタイムの社員と同様に勤務シフトについてもらうという、時代に逆行するものだった。
女性の働き方について、 現在、多くの企業が出産後に職場復帰した女性社員を支援する制度を導入している。そして、育児休暇や短時間勤務などをいち早く導入してきたのが、大手化粧品メーカーの資生堂だった。
ところが資生堂は去年(2014年)4月、こうした制度について大きな方針転換を打ち出した。子育て中の女性社員にも平等なシフトやノルマを与えるという方針だ。その内容に、世間で驚き、 “資生堂ショック”、と言われるようになった。
かつて、某メーカーの社員の意識改革を目指した配置転換が、人員削減施策と誤解され騒動になり、会社はやむなく配置転換を見直すに至ったが、これも同様の社員の意識改革の一環であり、何も驚く内容ではない。幸い、資生堂では社員に会社の方針が正しく理解され、美しく展開されているようだ。
本来この騒動ではマスコミがつけた呼称もおかしかったのであり、知識労働者を前提としたマネジメントに対する理解が進んでいない、知識労働者のわがままである。追い出し部屋問題では、専門知識が要求される職場から、専門知識が無いと評価された社員が他の職場で再起してもらうために人事異動した(注)のであり、社員のことを考えた会社のまともな経営手段である。
資生堂では、逆に専門知識を持った労働者不足が原因で売り上げが落ちたために、短時間勤務にシフトしていた美容部員の一部を通常シフトに戻したのである。某電子写真会社とは少し状況が異なっていたので、意識改革と言う会社の方針が理解されやすかったのかも知れない(続く)。
(注)ゴム会社では高純度SiC(日本化学会化学技術賞受賞)はじめセラミックス材料の開発を主に担当していたが、写真会社へは、高分子部門の管理職が必要と言う理由で、ヘッドハンティングの会社経由で40名程度の高分子材料開発センターへ転職した。写真会社では、バブル崩壊後このセンターをリストラし感材技術研究所へ組織を吸収、その後もリストラが続き気がついたら、自分がリーダーになっていた。そして、酸化スズゾルを用いたフィルムの帯電防止技術(日科協から技術特別賞受賞)やゾルをミセルに用いたラテックス合成技術とそれを応用した高靱性ゼラチン開発(写真学会からゼラチン賞受賞)、変異原性物質を除去したPET表面処理技術、新規アニール技術を用いたPENのまき癖解消その他等成果を出したが、2003年には倉庫として利用していた部屋へ異動(この時さすがに腐りました。この時の思いはいつか書きたい)になった。運よくカメラ会社との統合があったので、その会社の研究部門があった豊川へ単身赴任した。そこでPPS中間転写ベルトの開発やリサイクルPETを用いた難燃性樹脂など開発し、早期退職者制度を用いて2011年3月11日に退職した。知識労働者の時代には、知識で成果を出すことが求められている。労働者にどのような知識があるのか考え、効率的な知識の活用を考える知識がマネジメントであるが、すぐれた経営者がいないと感じたら、労働者側で行動しなければ成果を出せない。その時の行動の基準はいかにして貢献できるか、という点である。そのように行動しても、経営者がだめな会社の場合には報われない場合もある。しかし、成果を出せば、少なくとも社会への貢献はできている。社会への貢献こそが大切なのである。知識労働者は、社会への貢献と言うベクトルでは経営者と対等である。故ドラッカーの考え方で活動し、報われるのかどうかは、いつか答えが出る、と信じ活動している。
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今年の5月から水泳を始めた。増えすぎた体重を減らすためだが、木曜日と日曜日に一日1kmほど泳いでも効果が無い。1週間に2日泳いでいたが、まだまだ泳げそうだったので、それを3日にした。
一日の距離を2kmまで増やしてみたが、疲れるだけで一向に体重は減らない。水泳1kmと水中ウォーキングを組み合わせたところ、少し体重計に変化が現れた。
秋になり、涼しい日が多くなった9月末から、一日30分のウオーキングを始めたところ、600g程度一気に体重が減った。水泳よりもウオーキングの方が効果があると思い、一日一時間歩いてみたところ、変化はなかった。
1週間水泳にウォーキング1時間を組み合わせると疲労が激しいにもかかわらず、一向に体重は減らないので、水泳をやめて、ダンベル体操を組み合わせてみた。すると400g程度の振幅で体重が減り始め、5月ごろに比べ2kg体重を減らすことができた。
食生活はそのままで、体重を減らす方法を見つけた。実は、昨年食事を減らすダイエットを行ったが、1kg程度減ったところで、お客様とラーメン大盛りを食べて翌日2kg体重が増えた。そのため減食ダイエットは困難と考え断念した経緯がある。
今回見つけたウォーキングとダンベル体操による方法では、食生活に制限を加えていない。ラーメン大盛りを食べると、体重が一時的に増えるが、ウオーキング時間を延ばしてやると、2-3日ほどで元に戻る。
年末までに80kgを切ることを目標に、今回見出したウオーキングとダンベル体操をしばらく続けることにしたが、水泳があまり効果のなかったことにびっくりしている(注)。運動と減量の関係について個人差があるようだ。
(注)長距離を泳ぐため平泳ぎをしていたが、太った体が浮いたまま流れていただけかもしれない。
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寄生虫が原因で発病する熱帯病の特効薬に使われる物質「エバーメクチン」、それを作り出す微生物がいたのは、伊東市川奈のゴルフ場で採取した土の中だったそうだ。大村博士が仲間と訪れた、そのゴルフ場で土を採取したのは、1970年代の半ばで、その後研究を重ねエバーメクチンの発見・開発に至ったのはその5年後だという。採取、培養、分析の繰り返しという地道な科学プロセスによる作業の繰り返しでノーベル賞の受賞につながった。
このようなプロセスを発見型創造プロセスと当方は分類している。発見に至るプロセスは科学的であるが、発見そのものは偶然であり、なぜそれを発見できたのかを説明できない非科学的瞬間なので全体は非科学的プロセスとなる。
3年前の山中博士のプロセスと異なるのは、自然現象に潜む偶然をそのままプロセスに組入れている点である。これに対し山中博士の場合は、仮説に基づき実験室の中で作り出した自然のモデルへ刺激を与え機能を取り出そうとしたのである。その後は少しかっこ悪いがあみだくじ式に、すなわち非科学的に実験を行いヤマナカファクターを創造している。
面白いのは、いずれも研究成果が非科学的プロセスの偶然性に依存している点である。科学者が用いる非科学的プロセスに興味を持ち、当方は30年間の技術開発人生において積極的に取り入れるようにしてその効果を検討してきた(注)。
ただし発見型創造プロセスの重要性に気がついたのは、高校生の時であり、名古屋大学平田博士のふぐ毒研究を新聞で読んだ時である。平田博士の発見したテトロドトキシンは、当時中日新聞で何度も取り上げられていた。平田博士以外に野依博士の研究など天然物の生理活性にについて話題になっていた、ちょうど同じ時代に大村博士は土を集めておられたのだ。
大村博士は土を集めて新たな真実の発見を目指されたが、平田博士は毒を持つ生物を求めて手当たり次第に研究を進められたのである。両者ともに、新発見できなければ成果が出ない仕事である。この発見を効率よくできないのかいろいろ考えてみた。そして実務的には、使えそうな工夫、ヒューマンプロセスにまとめることができた(ご興味のある方は問い合わせていただきたい)。
科学の研究は、科学的にまとめなければ評価されないが、技術では非科学的でも安定に機能すればユーザーの評価が得られる。科学の研究でさえも非科学的プロセスが使われているのである。技術開発でも上手に非科学的プロセスを使い、科学的プロセスで開発している他社との差別化を図るべきだと思っている。
(注)周囲から独創性があると、よく言われたが、独創性があったのではなく、創造とは何かを考え続けていたのである。ただこの活動を企業で行うと誤解を受けることも学んだ。転職の原因となった当方のデータ用FDを壊した犯人は、非科学的プロセスを用いて問題解決したことを聞き、小生を叱った人である。非科学的プロセスは、完璧な科学的プロセスを目指す人からは、許しがたい「テキトー」な姿勢に見えるようだ。山中博士もテレビのインタビューで、発見プロセスを秘密にしていたことを語っている。転職後その改良に努めたポイントは少しでも周囲に受け入れもらえるようなプロセスに仕上げることだった。
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日本は、そのシェアーを落としたといっても太陽電池パネルや液晶TVの最先端技術領域の市場では、いまだに強いといわれている。しかし、その分野に今後も経営資源を投入し技術開発を進めてもよいのだろうか。これまで実用化された製品には科学のような形式知で組み立てられた技術と形式知だけでなく実践知や暗黙知で創りこまれた技術が活用されてきた。
液晶テレビのようなデジタル家電は、レゴのようなパーツの組み立て技術である。また、太陽電池パネルは高性能化技術とグローバルニーズがうまくかみ合っていない。液晶テレビは今後技術開発を続けても中国や韓国にすぐに追いつかれるような気がするが、太陽電池は高性能でなければ使えない市場を新たに開発できれば、まだまだ戦えるような気がしている。
前者と後者を同じ土俵で扱い、技術のコモディティー化の事例でとらえられたりするが、後者は、まだ工夫と高性能化が必要であり、高性能化でCDの可能性が残されているので、日本の技術が復権する可能性があるような気がしている。すなわち前者と後者ではその将来性評価において問題点が異なる。
両者で大切なことは、シェアーが落ち中国や韓国による技術の追い上げが激しい状況で、今何をするかであろう。特に太陽電池については開発戦略を見直し、ロードマップを新たに作成したほうがよいような気がしている。遅々として進まない脱原発の問題ともかかわっているからだ。
しかし考え直さなければいけないのは、未だに科学技術立国日本、と唱える人がいることだ。科学はもう形式知として常識の時代である。科学を常識という前提で、実践知や暗黙知の領域に目を向け、技術立国日本という方向が良いのではないか。
長い人類の歴史において科学という形式知をもとに技術開発を進めたのはつい最近のことで、長い間人類は実践知や暗黙知で技術開発を続けてきた。この約250年間、科学という便利な哲学で人類は大変な楽をしたのである。
ところが、科学で生まれるのは形式知であり、今やその情報はインターネットで世界中で容易に共有化されてしまう。すなわち、科学で解明された情報を基にした技術であれば必ずコモディティー化する、ということだ。だから、そのような技術開発をしていたならば中国や韓国に日本は容易に追いつかれる。
もし実践知や暗黙知が形式知に付加されたならば、人材流出があったとしても完全なリベールは難しくなる。ゆえにこれからの日本に必要な技術開発の方向は、科学に基礎を置きながらも科学で未解明の現象を積極的に活用した技術開発の方向になるのではないかと思っている。
実践知や暗黙知を活用するといっても、1000年以上前の科学の芽も無いような時代の方法で技術開発を行うわけではない。科学的に洗練された開発プロセスはすでに戦後の技術開発で経験済みである。ここへヒューマンプロセスを付加し、開発効率を維持しつつリベールの難しい技術開発を行うのである。詳細はご相談ください。
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6日にSTAP細胞の研究費用総額(2011-14年度)が1億4500万円と発表された。これが高額だったかどうかは、その後の評価になるが、人件費を見て驚いた。小保方氏に年間800万円以上も支払われていたのだ。
今時800万円の年収というのは、企業ならば40歳前後の主任研究員以上の役職者の年収である。この感覚からすると高額な印象にうつる。未熟な研究者という評価が出たからではない。ユニットリーダーという肩書きは恐らく企業ならば主任研究員クラスのはずであり、その立場の給与と判断したからである。
客員研究員時代には、総額1630万円支払われていたという。ちなみにゴム会社で高純度SiCの研究開発をスタートしたとき、大卒初任給はすでに18万円まで上がっていたが、30歳独身の研究員の年収は400万円に届いていない。新しく研究所を建てていただき、先行投資2億4000万円を研究費(注)として頂けたので喜んで研究に励んだ。
給与が低くても、会社が研究環境を整えてくれた感謝の気持ちと社会への貢献そして未来のパワートランジスタSiC半導体を夢見て高純度という機能を低コストで実現する技術開発にサービス残業を繰り返し没頭したのだ。留学先から戻って一年後に少し給与に上乗せがあったにもかかわらず年収500万円には届いていないが、それでも独身寮と研究所の往復の日々を過ごしていた。
約30年前のバブル期の人件費との比較は適切さを欠くかもしれないが、バブル崩壊でこの20年間サラリーマンの年収は実質平均200万円以上下がっており、30年前の給与水準よりも低い企業も存在する。その点を考慮すると、小保方氏の年齢の企業研究員で、そのクラスの世間が納得するであろう年収は、せいぜい450万円から500万円程度と推定できる。
特別な役職手当を上乗せしても、600万円を超えることはないだろう。また、単純に35歳前後独身サラリーマンの給与が年収600万円というのは破格であり、十分すぎる特別待遇である。
日本の大手企業では、基本賃金に役職手当を上乗せする形式で給与設計を行うので、仮に飛び級で役職を得たとしても小保方氏の年齢であれば、せいぜい年収は500万円前後となる。ちなみにバブル期のピークに東京圏の労働者の平均年収は800万円だったが、今は40歳を越えても係長クラスであれば、研究職の年収が600万円に届かない企業も存在する。
今時の国の研究員の破格の待遇が垣間見えた記事である。若い研究者よ、これを目標に頑張れと言いたいところだが民間との乖離が大きいので、複雑な気持ちである(現在民間よりも公務員の平均給与は高いが、その点を考慮しても公開された一連の人件費は高額と感じる。客員手当にしてもバブル期の客員教授の手当てに近い。)。
研究者とは本来真実を追究するのがミッションであり、その姿勢を促すためにお金で動機付けを行うのが適切だろうか。お金で動機付けを行ってきた結果、不正多発の土壌ができあがったのかもしれない。人件費を上げるよりも、身分の保障と研究環境を整える考え方が効果的に思う。
科学の研究者の給与については、一般の労働者の動機付け因子でとらえるべきではないだろう。身分の保証と研究環境の充実でもやる気の起きない研究者は、科学の研究職に就くべきではない。エジソンのように技術者を目指すべきである。
倫理感の高い研究者ならば、人類への貢献を生きがいとして、給与を唯一の目標にしないだろう。研究者は霞を食って生きなければならないのか、という議論は新聞発表されたような高い人件費の今日では時代遅れのテーマと感じている。
(注)ゴム会社に高純度SiCの研究開発を行う設備を新品で導入したのでこの金額でも不足した。先行投資から7年後に事業が立ち上がったので良い思い出になっているが、新聞発表では、建屋の値段も入り3億円の投資とされていた。
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