高度経済成長から始まり、バブルがはじける直前には成熟化したオーディオ(A)ブームは、いわゆるコモディティー化したように見えたのだが、その後登場した液晶ディスプレー(V)のコモディティー化による低価格化、そしてメーカーの苦境という流れと比較すると少し様子が異なる。オーディオ業界の今を考察すると、形式知と実践知、暗黙知の存在及びその働きが見えてくる。
オーディオの技術は、ビジュアル機器の技術革新とそのブームの陰に隠れながらAVとして発展し、アナログからデジタルへの変換が進んだ。そして、デジタル化したビジュアル機器のコモディティー化の流れの中でAVメーカーの再編もあり、この30年間に激動の変化をした。
その中で、昔のオーディオファンは、オタクとして生きた化石のようにそのまま残っている。そして、今ささやかなオーディオブームのようなものが起きつつある。レコードが見直され、そのレコードを聴くためのプレーヤーの新製品も登場した。書店にはアナログという、そのままのタイトルの雑誌まで登場した。
デジタル技術全盛の中でオーディファンの正統派は、未だにアナログなのである。1ビットデジタルアンプがもてはやされたこともあったが、真空管をシミュレーションするアンプが登場したりして、アナログ回帰現象がデジタル技術の進化とともに一つの流れになった。
例えば、ギターアンプを始めとして楽器の音を増幅するアンプは真空管式のマーシャルブランドが今でも強いと聞く。コンサートに行くと「Marshall」の文字を舞台で見つけることができる。一方で真空管製造メーカーの撤退で、真空管そのものを秋葉原で探すのも大変な作業となる時代である。
マーシャル以外のアンプメーカーでは、真空管式の旧式アンプをモデリングしたトランジスターアンプが売れているという。これをデジタルとアナログの融合の成果として進歩と見るのか、デジタル化の流れの中で部品調達が難しくなった真空管をデジタル技術で補っている苦肉の策、と見るのかは難しい。
一ついえることは、形式知でアナログからデジタルへの変換を行ったが、人間の感性という暗黙知まで科学技術で満足させられなかったということだ。そのため、オーディオの世界ではアナログが今の時代に見直され、ささやかなブームとなっている。
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世の中の現象を科学ですべて理解できる、と勘違いしている人がいる。また、ロジカルなビジネスプロセスの問題解決法が流行し、コンサルティングも多数行われているので、ロジカルな問題解決法がすべて、と思っている人も多い。
科学の大系はロジカルに構築されているが、科学の世界でいつも真が保証されるのは、科学的に正しいと認められた結果を論理的にに結合したときだけであることに気がついていない。換言すれば、科学的に不明確な仮説を論理の中に取り込んだ瞬間に、そこから導かれる結果は、いつも真とは限らないのだ。
時にはヒューリスティック(経験的判断)による解決法が正しいときがある。かつて過去の成功体験をそのまま使用してうまく行かないのは当たり前で、科学的に問題解決せよ、と科学以外をすべて排除した時代がある。しかし、科学的な問題解決法では解決困難あるいは時間がかかる体験が繰り返され、過去の経験知(実践知)をまず試してみる風潮も出てきた。
ヒューリスティックな方法には、形式知にできない実践知と暗黙知が含まれている。異なる事象に適用されて、成功体験が蓄積されると、ヒューマンプロセスから新たな形式知を生み出す場合もあるので、過去の成功体験をまず試してみる、という姿勢は重要である。ただ、その試し方が問題となる。実践知や暗黙知を使い、問題解決法として利用するためにはそれなりの方法がある。科学的方法と同様に用いると大きな失敗につながる場合もあるので弊社に相談してほしい。
例えば、高分子の未溶融物の問題では科学的に解明されていない部分が多い。しかし、当業者ならばそれがどのような形態であるのか、またどのような不具合を引き起こすのか知っている。ただし、その解決法となると様々である。
樹脂を高温度で溶融するだけで解決する場合もあるし、特定の混練機で混練すれば問題解決する場合もある。温度の問題だけであれば、おそらく単純な試行錯誤で気がつくだろうが、混練機あるいは混練方法の問題になってくると大変である。混練技術そのものが科学的に解明されていないからだ。
ところが混練装置のエンジニアリングについては一応の科学的な大系ができており、教科書も存在する。しかし、それが高分子に適用され、高分子がどのように変性されてゆくのかについては、未だに科学で解明されていない分野である。このことが分かっている人は少ない。
科学的に取り組んで解決できない状態になっても、教科書に頼ろうとする。そして、最後は訳のわからないまま否定証明となる。あるいは、土壇場で実践知を持ち出し、もぐらたたきを始めたりする。それも、穴から顔を出していないモグラを叩き続けるという状態になる。実践知には、うまく活用するコツがある。
抽象的な表現をすると、実践知や暗黙知を用いてモグラたたきを行う場合は、まずモグラを捕まえて縛ってから叩くのがコツである。一発でしとめられる。極めて低率だったPPS中間転写ベルトの歩留まり改善問題もこのように解決した。但し叩く道具が悪ければ、捕まえているモグラに笑われるだけだ。
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科学の発展のために日本のアカデミアはよく頑張ってきた。高純度SiCの開発では実際に技術開発のご指導を受け、そのポテンシャルの高さのおかげで、まったく技術基盤のないゴム会社でありながら先端技術を容易にキャッチアップできた。これは形式知の良いところである。
今後もアカデミアにおいて、形式知における真理の探究という仕事は残るだろう。しかし、今新たな問題が技術の世界で起きている。すなわちこれと実践知や暗黙知との整合性の無さである。本来これらは整合性が無くてもよかった。また無いことで技術の独自性を可能とし参入障壁とすることができた。
一方で品質評価技術の標準化はグローバル経済の中で必須の業務となっている。これに関してはニーズが明確なため、各種標準が生まれているが、ニーズが不明確な領域の技術については整合性がないまま放置されている。ニーズが無いからそのままでよい、というのは近視眼的であり、日本の技術開発の効率を考えると正しくない意見である。
また、標準化された途端にコモディティー化が進むので、と心配する技術者もいるかもしれない。しかし、標準化された結果新しい発見が生まれるメリットもある。さらに形式知や暗黙知の標準化を進めても、形式知との関係が不明確な部分が必ず残るものである。形式知や暗黙知の標準化を進めても、一気にコモディティー化に進むとは思えない。
また独自の実践知や暗黙知であるがゆえに利益を享受できているので、それを標準化されては迷惑だという職人集団もいるかもしれない。しかし、その職人集団には後継者不足で困っているところもあるのだ。
技術に隠されている実践知や暗黙知の標準化という作業は、新たなアカデミアの研究テーマではないだろうか。これらは形式知にできないために、すなわち科学で解明できないために、そのまま残っているのである。今の時代に科学で解明できないことを科学で解明しようとするのは膨大なエネルギーが必要でコストもかかる。しかし、標準化であれば形式知にするよりは易しいのではないか。
具体的な例を出すと、酸化スズゾルの技術がある。この技術で問題になるのは、非晶質という状態の記述である。これは科学的に解明し形式知化するのは極めて難しい問題である。しかし、非晶質の程度というものを定義づけ標準化することは可能だろう。科学的にはやや怪しいが、新たに定義づけられた尺度により新たな技術がこの分野で生まれるかもしれない。このようなテーマがほかにも存在する。それをアカデミアに考えていただきたい、と思っている。
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写真フィルムの乳剤と支持体PETを接着する層に、反応後は活性が無くなるが、反応前は変異原性のある素材が使われていた(注)。そこで、それを使用しなくても乳剤をPETフィルムに接着することができる、新たなコンセプトの接着剤を開発した。ところが、これを製品に展開するには大変な工数が必要だった。
なぜなら、過去に開発された製品についてもその素材を使用しない接着層に変更しなければならないからだ。しかし、その接着層に変更したから性能が上がるわけでもなく、コストも下がるわけでもない。せっかく技術が出来上がっても製品展開の煩わしさを考えると、皆二の足を踏んでしまう。新製品から展開することにしても、製造部長からは全部新技術にしない限り、品種が増え迷惑だ、と言われる始末。
それでも写真会社には、まともな技術者がいた。製品開発を担当していたリーダーが、大変だがやりましょう、と言ってくれたので開発技術が無駄にならなかった。そして無事にすべての品種へ新技術を展開できたが、このような仕事だったので高分子材料部門のリーダーとして評価されなかった。
その後リストラ左遷となり、豊川へ単身赴任することになったのだが、それでもこの技術開発は技術者として推進してよかったと思っている。製造現場の作業環境を大幅に改善したのである。
技術の成果に対する会社の評価は低かったが、新たに開発した単膜の評価技術やその評価を活用した材料設計手法は少なくとも担当した技術者たちの実践知になった。とりわけ架橋剤を用いなくても接着剤を設計できる技術は、ゴム会社では常識でも世間では未だノウハウとなっている。単なる形式知であれば、教科書にその内容が少し書かれているが、その程度では製品に搭載可能な技術を生み出すことができない。
ふとフォルクスワーゲンの技術者たちの行動が頭に浮かんだ。彼らは不正プログラムを搭載した最初の製品が問題にならなかったことに味をしめたのではないか。不正プログラムを搭載した車が1年以上問題にならずに市場で販売されたので、その後の製品開発で不正プログラムを使用しない技術を開発しなくてもいいのでは、と思った可能性がある。
ましてや、不正プログラムを使用し製品化したリーダーが評価され出世していたなら、その後に続く技術者がおいそれとその問題を扱いにくくなる。下手に、不正プログラムを使用しない技術開発など企画したら、出世した前任者に恨まれかねない事態になりそうだ。
長期間不正プログラムを搭載した車が放置され、その後の新製品にもそのまま登載された背景には、最初に不正プログラムが搭載された車を改良する仕事が、評価されない仕事になっていたのかもしれない。しかしたとえそのような扱いになっていたとしても、技術者ならばそれを改善しようとする気概を持ってほしい。
(注)反応活性のある物質は何らかの変異原性反応を示すモノが多い。反応後は活性点が無くなるので無害となるが、1990年代の環境問題関連の法律が検討され始め、メーカーの主要テーマとなりつつある時代の話である。少しでも環境負荷を低減する視点で、担当分野の技術を見直し、最初に手がけたテーマがこの難題だった。
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20世紀に科学は著しく進歩し、ついに人類は生命誕生に関わる科学まで扱いだした。20世紀末には哲学者から提案があり、倫理に基づく一定の線引きがなされ、iPS細胞の発明までたどり着いた。
ところが面白いのはこの発明のプロセスがものすごく非科学的であったことだ。先端の科学では、未解明の真理が少ないので、仮説に基づく実験が繰り返され、仮説の正しさが立証されると新たな真実が誕生する、というゆるやかな歩みで進歩する。
しかしヤマナカファクター誕生は、実験のきっかけこそ仮説が存在したが、その発見のプロセスは学生の大胆な実験結果が運良くヒントをもたらし、そこから消去法という科学の禁じ手を使用し4つの遺伝子を見つけ、この分野に急速な進歩をもたらした。
山中先生がノーベル賞を受賞されたときに、研究はこれからだ、と言われたのは恐らく本心からであり、非科学的方法で技術が見つかっただけの段階と認識していたからだ。
このように科学の進歩には、科学的に美しく行われるプロセス以外に、泥臭く、あっと驚くタメゴロー式のプロセスにより急速な進歩が引き起こされる場合もある。ところが、科学的プロセスを学校で学ぶ機会が多いためか、マスコミで技術を取り上げるときには、あたかもこれが科学のすべてであるかのような取り上げかたをする。
その結果、このプロセスが極めてポピュラーになり、科学の進歩を引き起こす方法として、この方法が正統派だと誤解している人が多い。ところが、むしろ非科学的プロセスにより急速な進歩となった事例が歴史的には多く、非科学的方法こそ効率的にイノベーションを引き起こす手段として注目すべきと考えている。
当方は、科学的に美しく行われるプロセスは優等生ならば誰にでもできるという理由で、タメゴロー式のプロセスを好んで使用してきた。これは大学院時代に指導を受けた恩師の影響が大きい。学部時代は、いかにもアカデミアと呼べる教育を受けてきたので大学院で研究室を異動し指導者が替わったときに多少面食らった。
まず、恩師とうまくコミュニケーションがとれないのである。このとき科学という学問の本質である論理の厳密性が重要であることと、それがアイデアの可能性と広がりに制限を加えていることに気がついた。
この時指導してくださった先生は、読むべき論文をこっそりと用意してくださっているような親切な先生だった。しかし、時々議論で発展した発想の方向へ論理がぶっ飛ぶので話について行くのが大変であった。
大学院時代は苦労した2年間であったが、技術者として就職し実務を初めて見ると、この時の「ぶっ飛び」感覚が技術開発でイノベーションを起こすために重要であることに気がついた。そしてタメゴロー式プロセスを好んで使用するようになった。但し学位は高純度SiCの反応速度論を科学的に美しくまとめている。
科学を重視した非科学的方法こそ現代のイノベーションを起こす方法として注目すべきと考えている。興味のある方はお問い合わせください。
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高分子の混合分散の形式知として、フローリー・ハギンズの理論(以下FH理論)が教科書に書かれている。すなわち高分子の混合分散を科学的に論じる時にはこのFH理論を用いることになるが、FH理論の考え方は科学として正しいかもしれないが、当方の実践知や暗黙知から眺めると、怪しい理論である。
フローリーはノーベル賞も受賞されているので、当方のような技術者が彼の理論を論じるにはおこがましさを感じるが、FH理論は、高分子技術の実務のシーンでよくみかける現象やそこに潜む機能を実用化したい時には重要な理論となるので、コンサルティングの時には必ず一言、仮に不遜と思われても、この理論の批判を行うことにしている。
理由は、パワー半導体用原料として知られるようになった高純度SiCのポリマーアロイを用いた低コスト合成法やPPS・ナイロン相溶中間転写ベルト、ポリマーアロイ下引き、ポリオレフィンとポリスチレンの相溶したレンズなどの発明を可能にした実践知から見ると、大変不完全な理論だからだ。
換言すればFH理論を批判的に見てきたので、これらの機能を実現できた、といったほうが適切かもしれないし、科学にとらわれない技術開発の重要性を説明する時の良い事例になるだろう。
今年京都大学からもこのFH理論に疑問を投げかける研究が発表された。それは、植村卓史工学研究科准教授や北川進物質―細胞統合システム拠点教授らのグループが開発した技術である。これは、新たな機能性材料の開発につながる成果で、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズで7月1日に発表されている。
FH理論で知られているように、ポリマーは同じ種類同士で集まる性質があり、異なる種類の混合は、ナノ(10億分の1)メートルのレベルでは難しいとされてきた。
グループは、微小な穴が無数に開いたジャングルジムのような構造を持つ多孔性金属錯体(PCP)の内部で異なる種類のポリマーをそれぞれ合成した。その後、薬剤を使ってPCPを除去することにより、それらを混合することに成功した。
発泡スチロールの原料であるポリスチレンと、アクリル樹脂の原料であるポリメタクリル酸メチルもこの手法を使い、ナノメートルレベルで混合し、耐熱性を上げることができた。他のポリマーの組み合わせにも適用し、片方の材料の耐熱性などを向上させることが期待できるという。
アカデミアからもFH理論に反する事例が公開されたように、高分子の混合分散についてFH理論にとらわれ過ぎると新しいアイデアを生み出したいときに障害となる。この分野では、特に科学にとらわれない自由な発想が大切となる。
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一流企業の技術者の4割が、9-3÷1/3+1という問題に解答できなかった、とネットで話題になっている。2015年度に1部上場の製造業9社に在籍する、主に20代の技術者1226人を対象に実施されたテストの結果から基礎学力の低下を嘆く意見である。
企業の技術者の基礎学力低下は、今明らかになった問題ではない。昔から基礎学力の低い人はいた。それが、ゆとり教育世代では多くなって目立ち始めただけだ。しかし、基礎学力が低いから企業で役立たないのかと言うと、サラリーマン技術者の場合には、それでも運が良ければ、出世ができてしまう。
また逆に出世した時に専門の学力も含め高すぎると管理職どまりどころか出世そのものができない会社もある。メーカーと言えども基礎学力だけが重視されているのではないのだ。すなわち、その他の能力で会社に貢献できるし、日本の会社では、マージャンやゴルフにつきあう能力を重視したりするところもある。
今回の騒ぎの対象である一流企業の技術者は、恐らく偏差値は50以上の大学出身者と思われるので、その他の能力は平均以上備えているはずだ。だから実務をこなすには不自由しない能力を発揮できるので、一流企業では仕事ができるし、運が良ければ役員にもなれる。
ゴム会社に入社して、いわゆる基礎学力の低い上司と3年間仕事をした。例えばグラフの書き方の基本を身に着けていないので、グラフを見ただけではその意味を理解できず、必ず部下に説明を聞く。部下に説明を聞いて理解できたのかと言うと、グラフそのものの理解はできてなくて、グラフが表現した結果を理解しているだけだった。このことに気がついたのは、ある経営会議に同席させられた時だ(そもそも入社1年程度の若僧が出席するような場所ではなかったが)。
その会議では、うまくプレゼンテーションが終了したので問題はおきなかったのだが、会議終了後、資料に書かれた一次回帰直線が上司から資料の問題点として指摘された。すなわち、なぜこのような余分な直線をグラフに描いたのだ、と質問されたのだ。
実験データの一次回帰式から推定値を求めたので、グラフにその回帰式に相当する直線を書き入れたのだが、主任研究員の上司は、そもそも一次回帰式というものを理解されていなかったのだ。(会議の前に説明していたのでご理解頂けていると思っていた。しかし、コンピューターが無かった時代には、一次回帰式を求めるのは大変なので、知らない人は多かったのかもしれない)
しかし、プレゼンテーションでは、ご自分で説明していて、グラフに書かれた一次回帰直線が気になってしょうがなかったそうだ。横でプレゼンテーションを聞いていた当方は、推定値のことを、実験で得られたグラフからこの結果となり、と説明されていたので、当然理解されていると思っていた。
会議後、事前のデータの説明が不十分だと、本当は苦情を言いたかったのかもしれないが、当方が簡単にデータ群の一次回帰直線です、と答えてしまったので、一次回帰とはなんだ、という話の展開になり、挙句の果ては、統計の説明に始まり、会議が終わったにもかかわらず会議前の説明までやり直すことになった。
この時の体験は、内容を理解していなくてもプレゼンテーションをそつなくこなす、すごい能力の上司というリスペクトした思い出として記憶にあったが、本当は、基礎学力が低くても大企業で主任研究員程度が務まる、という事例なのかもしれない、とニュースの記事を読んで新入社員の能力の心配よりも、メーカーの人材育成や人事評価システムが心配になってきた。
この上司については、ある日の酒の席で、新入社員時代から優秀な部下に恵まれた人だった、という噂が聞こえてきた。当方が入社する20年ほど前の時代は、大卒者に工業高卒の人材が部下としてつけられていたそうだ。
ただ、ご自分の知識不足の領域をすぐに耳学問で補おうとする姿勢は随所で見られ、この姿勢が上司の基礎学力不足を補強していたのだろうと、改めて敬服した。基礎学力不足を嘆くよりも、「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」、という格言を指導することこそ必要だろう。もう、新入社員は社会に出てしまっているのである。
基礎学力が低いからと言って嘆く必要はなく、そのような人材でも活用し育成できる組織こそ必要である。そして常にイノベーションを引き起こすことが可能な組織化能力こそマネジメントに要求されている。基礎学力の低い上司だったが、その組織から今でもゴム会社で事業が継続されている半導体用高純度SiCの技術が生まれている。当時様々な新規事業の提案がなされたが、この上司の組織で生まれた技術だけが唯一生き残っている。
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イムレラカトシュは、その著書「方法の擁護」で完璧な科学的証明法は否定証明である、と述べている。わかりやすく言えば、新現象に潜む機能を技術として活用するときに、科学的方法に忠実になれば、「それはできない」という結論を導き出してしまう、ということだ。
優等生に開発をやらせるとモノはできないから注意せよ、とゴム会社でよく言われていた。実際に電気粘性流体の開発では、その耐久問題の解決法では否定証明が行われた。そして当方は、その「できない」と結論された方法で問題解決に成功した。
科学と非科学の対決構図となってしまったわけだが、20年以上前のことであり、研究所ブームの名残で科学第一主義の人が中核を占めていた時代だ。
科学と非科学は対決していても仕方が無いことで、科学誕生以前の問題解決法がすべて非科学的に行われていたことを理解できれば、科学と非科学を共存させて問題解決に当たる柔軟さこそ今の時代求められていることに気がつく。
非科学的方法で問題解決できるのか、という人はマッハ力学史を読んでいただきたい。古典力学は、非科学的方法で発展してきたのである。ニュートンは非科学的方法で万有引力を発見している。
最近では、山中博士が非科学的方法を使用してヤマナカファクターを発見したと述べておられる。また、ヒューマンプロセスによらなければ、一生かかっても見つけられなかった、とNHKの番組で語られていた。
ノーベル賞級の研究でさえ、躊躇なくヒューマンプロセスを用いているのである。日々の技術開発でヒューマンプロセスを用いて問題解決を行っても悪いはずがない。このような考え方と科学と非科学を組み合わせた効率的な問題解決法にご興味のある方は、是非弊社にご相談していただきたい。ビジネスにおける問題は、解決されてこそ価値がある。問題プロセスにおいて科学的方法だけに高い価値があるのではない。
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高分子には、室温で固体のものから液体のものまで存在する。室温で固体であっても、加熱すると溶融体に変化する高分子は、樹脂あるいは熱可塑性ゴムと呼ばれている。加熱しても溶融体にならず熱分解し、さらに高温度で熱処理すると炭化した残渣を大量に生ずる高分子も存在する。
高温度で溶融体を生ずる高分子や室温で液体の高分子についてその状態は、科学的に解明されているように思っている人が多いが、解明されているのは特殊な場合だけであり、大半は未解明と言っても良い状態である。その昔フローリーにより体系化された高分子科学は、高分子を溶媒に溶解した状態、それも2%未満の希薄溶液の状態で研究された成果である。
教科書に書かれた高分子の性質の大半はこの科学に基づいているため、実務で遭遇する高分子の姿はしばしば教科書とは異なる。ところが教科書と異なる非科学的現象に遭遇した時に無理やり教科書の記述で理解しようとする人が多いのにはびっくりした。
科学の時代なので、教科書に記述された事柄で理解を進めても不都合はないが、教科書の記述とは異なっている、あるいは教科書に書かれたパラダイムと異なっているという認識は持ってほしい。すなわち、科学的に論じても間違いが無い部分と科学的に不明な部分とを認識しながら現象を眺める習慣は、高分子材料を扱う時に重要である。
この習慣を忘れると、例えば、樹脂を融点(Tm)以上で加熱した時に流動性を示すようになるが、この融体が高分子一本一本ばらばらの状態で流動している、という誤解を生じる。この誤解を持ったまま現象を眺めていると、現場で絶対に解決できない問題を生み出すことになる(注)
。
大半の樹脂は、Tm以上で加熱し混合しても高分子一本一本ばらばらで均一な状態にならない。これは粘弾性測定の実験を注意深く行うとそのように納得できるデータが得られる。すなわち、融体に含まれる高分子の一部が未溶融で存在する、と仮定しなければ説明のつかない現象を見出すことができる。そしてこれが科学だけでは理解できない現象を引きおこす。
(注)そもそも実務で遭遇する現象の大半が非平衡状態であることを忘れているのが問題
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射出成型では金型に樹脂が押し付けられるのでボツは発生しない、と思っていたら、昨年面白い体験をした。中国のローカル企業を指導して、高い難燃性を有するPC/ABSの独自処方を開発した時だ。
横軸にPCの含有率をとり、縦軸に衝撃強度や引張強度の値をとった軸でグラフを書いたところ、公知の変化を示すグラフが得られた。引張強度が10%程度グラフ全体で低めになっている点以外は、異常のないデータに見えた。
ただ、全サンプルが10%前後低め、というのが少し気になったので、引張試験片の破断面観察を行ったところ、PCの未溶融物質で形成されたドメインがすべてにおいて観察された。大きなものでは0.5mmほどの大きさのドメインを見つけた。
たまたま上海近郊で知人が樹脂の混練事業をやっていたので、そこの二軸混練機を借りて混練してみたら、某ローカル企業と同一処方の配合で引張強度が20%ほど向上した。破断面観察を行っても異常は見つからなかったので、こちらがまともなデータなのだろうと考えた。
さて問題は某ローカル企業の二軸混練機である。L/Dは42程度で外観に異常はない。フィルターもオートチェンジャーがついている立派な装置である。表示温度が高めに出ているのか、と疑ったりしたが、熱電対に異常はなかった。
一通りの点検をして、スクリューとシリンダーの隙間が怪しいのではないか、と疑った。樹脂を流さないでスクリューを回転したところ、異音はしないが優しい音色である。おそらくこの二軸混練機ではポリマーアロイの混錬は不可能だ、と総経理に伝えたら、何とかならないかと言ってきた。
新しい二軸混練機を買うことを勧めたら、修理してくれと言う。さすがにそれは当方には無理だ、と答えたら、翌日その混練機メーカーの技術者を連れてきて、一緒にやってくれと言う。どうも通訳からうまく総経理へ話が伝わっていなかったようだ。
仕方がないので、スクリューセグメントをメーカー推奨の状態から変更し、さらにカオス混合装置を取り付けるように提案した。
2ケ月後にできあがったカオス混合装置をセットし、混練したところ、驚くべきことに引張強度が20%程度上がったのだ。そして破面観察を行っても未溶融物は見つからなかった。昨年高分子学会から招待されて講演したが、カオス混合装置がものすごい発明であることをもう少し宣伝すべきだった。
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