混練機は押出機と構造が似ている。しかしうまく設計された二軸混練機は、押出機として使用できるが、押出機として設計された装置を混練機として使うことは難しい。素人に、これを説明してもなかなか理解されない。また、中国では装置メーカーでさえも同じものと考えているメーカーが存在する。
押出機として設計された設備のスクリューだけを変更しても、混練できない高分子組成物が存在する。しかし押し出された高分子組成物を見ただけではそれがわからない。電子顕微鏡写真やレオロジー測定を行って、二軸混練機として設計された設備との違いがわかる。
二軸混練機と押出機とが異なる、という説明を理解できた人でも、同一メーカーの同一シリーズで二軸混練機の最大吐出量が異なる装置の違いで、高分子組成物の混練結果が異なる、と説明すると理解できなくなる人がいる。
さらに、同一メーカー同一機種で同一条件で混練しても同一高分子組成物を作り出すことができない、というと「うそでしょう」となる。しかし嘘ではない。同じ機械で生じるばらつきよりも大きなばらつきが観察される時がある。ただ実際にはそれ以上の問題が後工程に存在するのであまり問題になっていないだけだ。
この二軸混練機のばらつきを小さくする技術が開発された。二軸混練機の吐出口に取り付けて使用するカオス混合装置である。この装置で混練された高分子組成物のバラつきは小さい。本装置についてご興味のある方は、弊社へ問い合わせていただきたい。
カテゴリー : 高分子
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中国は80%近くいた農業人口を30%に減らし、生み出した労働力を第二次産業へシフトして工業国へ変わろうとしている。経済特区では建設ラッシュがおき、すさまじい早さで町が生まれ変わっている。
中国の景色を見ていて心配になるのは荒れ果てた農地である。おそらくこのまま進むと、中国は農産物の輸入を大幅に増やさなければいけなくなるのではないだろうか。さらに一人っ子政策の影響で人口構造が変化して国を支えていた産業システムまで変わるのである。
10億人を超える超大国のシステムの変化は、世界に大きな影響を与えるに違いない。この影響を予測しにくいのは、共産主義という政治体制をそのまま維持して産業システムだけを変化させようとしているからと思っている。中国の政治システムは中国研究家に質問しても難しい問題だという。
例えば今の習近平体制を予想した専門家はいないと言われている。自動車という商品を基に企業の経営システムを想像するレベルではないようだ。三菱自動車で最初にリコール隠しが告発されたときに、担当者が市場の品質レポートをロッカーに隠していたと報道された。
この報道から会社のシステムが垣間見えた。しかし大きなシステム変更が行われなかったので再発した。この再発は、多くの人が予測できたのではないだろうか。当時の新聞や週刊誌には辛辣なことが書かれていた。
大企業で問題が起きたときに、その問題から社内のシステムを想像できるのは、事務の合理化や標準化が進んでいるからだ。中国について研究者がそのシステムを描いてみても、どのように将来動いてゆくのか見えないという。これは中国研究者の責任ではない。システムを科学的に描いている限り、中国の正しいシステムを描き出すことはできない。
面白いのは中国企業のシステムも国同様にうまく描くことができない。まったく標準化が進んでいないヒューマンプロセスのシステムだからだ。人件費が高騰して倒産する企業が出てきた、とニュースで報じられているが、人件費の高騰で倒産している企業は、ほんの少しではないかと推定している。信じられない理由で倒産している多くの企業が存在するらしい。
倒産する企業が増えても強引に第一次産業から第二次産業へ労働力を移そうとしている中国のシステムは、国も企業もきわめて不透明である。ゆえにそこで発生する問題について意見が分かれるのは当然のことだろう。10年前に書かれた「10年後の中国はこうなる」という本を読み返したが、一部あたっているが外れている部分が多い。その昔「ジャパン・アズ・No1」というベストセラーもあったが。
カテゴリー : 一般
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メーカーでは技術者が経営に提案しなければいけない時代になった、と昨日書いた。これは技術者が知識労働者だからだ。今の時代は知識労働者も経営者と同じ立場にある。この前提に立ったときに日本のメーカーの技術者はそのように活動しているのだろうか、という疑問がわいてくる。
ゴム会社で半導体用高純度SiCを一人で担当しているときにあたかも社長直下で仕事をやっているような雰囲気だった。今や業界トップの大会社でこのような気分を味わっていたのだから、転職に至った問題はあきらめているが、そこにいたるまで今から思えば信じられないできごとが続いた。
高純度SiCの仕事を提案したのは、CIを導入した時の記念論文募集イベントだったが、このイベントも信じられない顛末だった。もう30年近く前の出来事なので公開するが、首席には10万円の賞金が出ることになっていたのだが、締め切りまでに応募されたのは8件だけだった。そして首席になったのは、締め切り後に書かれたとんでもない内容の論文だった。
当方が記念論文に応募した、という噂を聞いた当方の同期が、応募した論文を見せてみろ、と言ってきた。そして応募した当方の論文を読んで、このようなまじめな科学論文では佳作にも入らない、と言ってきた。当方は締め切り時点で8件しか応募が無いので佳作にぎりぎりはいる、と説明したら、同期は、そんなに応募が少ないのか、と驚いて事務局に電話し、今から応募しても間に合うか尋ねていた。
そしたら事務局は応募が低調なので職制を通じて全社に呼びかけているところだから大丈夫だ、と答えてきた。同期の友人は俺が模範解答を書いてみせる、と宣言し当方に書き上げた論文を見せてくれた。その内容は、実現性は怪しいが未来感あふれるマリンビジネスや豚の繁殖力と牛のうまみを組み合わせた生物を生み出すバイオビジネスの話など荒唐無稽な論文だった。
当方の未だ科学では説明できないが技術的に実現性の高い、有機高分子と無機高分子のポリマーアロイからセラミックスの高純度化を行う技術について、関連技術を調査し裏付けを採って書かれた論文に比較すると、二ー三日で書けるいい加減な論文だ、とコメントしたら、審査する側から見ればどちらも今実現されていないので同じに見える、レオポンが実現されているからトンギューのほうがセラミックスの高純度化よりも科学的に実現性が高く見える、という。さらにこの募集はお祭りの一環で審査員はW大学の先生だから、○○○○な審査になる、と予言していた。
この予言は当たり、「夢にあふれる論文」と高い評価を受け、当方の同期の論文が首席となった。当方の論文は佳作にも入らなかった。同期の指導社員は、こういう結果が予想されたから俺は応募しなかった、と慰めてくれたが、その後海外留学に人事部から指名され、高純度SiCの発明を無機材質研究所で成功し2億4千万円の先行投資を受けて事業をスタートすることになった。
経営が知識労働者に何を期待しているのか具体的に示すことが重要で、CI導入時の記念論文募集イベントは大胆な夢を期待し、それを従業員に示す目的があったのだろうと思った。ただあまりにもすごい論文を選ぶと目的とする意図が伝わらない場合もある。人間性あふれる思考、ヒューマンプロセスの難しいところである。
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その昔、フォード社はすべてを自社で開発する体制を作りあげたという。また、日本では1970年前後に基礎研究所ブームがあり、メーカーの基盤技術開発を自前で基礎から作りあげようとした。日産自動車の基礎研究所が二つ作られたのもその時代だと聞いている。
昔のような基礎研究所の時代ではなくなったが、メーカーのコアコンピタンスとなる技術のマネジメントについてどのように行うのか、今は難しい時代ではある。バブルがはじけた頃に、技術のマネジメント(MOT)が話題になった。メーカーが生産性を上げようとするときに基礎研究所のマネジメントが各企業で話題になったのだ。
ゴム会社では、それよりも10年早く1980年頃に研究所の運営が問題になっていた。これは、指導社員が自分の専門スキルであるダッシュポットとバネのモデルを使うレオロジーが将来無くなる、という発言をしていた背景でもある、と推定した。当方は入社後配属された研究所が縮小されてゆくのに戸惑ったが、ドラッカーを読んでいたので、知識労働者のあるべき姿を悩み解決のため考えた。
その結果、現場の技術者が考え、貢献と自己実現の目的で経営へ提案をしなければいけない時代になった、という結論に至った。ゴム会社のマネジメントもその方向になっていた。ゴム会社の社名からタイヤが無くなり、変化に対して工夫で対応する化工品事業を拡大するという方針で、「電池」「メカトロニクス」「ファインセラミックス」を三本の柱になるように育て事業を展開する、と全社員に社長は説明した。
そしてCI導入キャンペーンの一環として論文募集を会社は全社員向けに行った。社長方針を受け、当時フェノール樹脂の天井材を担当していた当方は、有機物から高純度半導体を製造する技術の提案を行った。紆余曲折あったが、無念の退職をするまで事業立ち上げに経営陣とともに努力した。
今もゴム会社にその事業は残っているが、恐らく当方が会社に残っていたら子会社として独立させるマネジメントを行っていたと思う。また、やめる直前までそのような活動を行っており、住友金属工業とJVを立ち上げたのだ。そのとき出願された半導体冶工具の基本特許はもう権利切れになっているが、このころの活動の証拠文献である。
このJV立ち上げ努力と平行して、日産自動車の基礎研究所と電気粘性流体部品開発のお手伝いをしていた。アクティブサスは、電気粘性流体を用いると大変簡単な構造になり、コストダウン可能な技術に見えたが、シリコンオイルを用いる電気粘性流体が高すぎた。
当時ものにならない技術と思いながらも、高純度SiC事業化のかたわらのお手伝いであってもベストをつくし、3種の電気粘性流体用特殊構造粒子やホスファゼンの難燃性油、そしてこの技術を手伝うきっかけとなったゴムからの抽出物で粘度が高くなる問題を解決した界面活性剤技術などを開発した。短期間になぜ豊富な技術を生み出すことができたのか。それはヒューマンプロセスを用いたからである。その具体的方法につきましてはお問い合わせください。
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(金曜日からの続き)日産自動車は、海外工場の建設を過剰に進めて経営危機になり外資に買収された。その後新社長になり、経営の効率を最優先にして技術開発を置き去りにした。外に現れる商品開発の流れから内部の技術開発システムがうまく機能していないように見える。少なくともメーカーでありながら魅力的な技術が無くなってしまった(注)。
最近「技術の日産」というコピーも聞かなくなった。電気自動車に注力している、といっても独創の技術が見えてこない。燃料電池を用いる水素自動車ではトヨタとホンダが先鞭をつけた。本来ならば日産自動車が最初に商品化すべき車ではなかったのか。それもスカイラインで。今やスカイラインは心臓部を輸入品でお茶を濁す本当に箱だけの箱スカになってしまった。
製造業が農業のように廃れ、労働集約的なサービス産業へ人材が流れてゆくのは、ドラッカーも自然の流れとして指摘しているが、製造業が無くなるわけではないのである。日本の農業が絶えることのない品種の改良の努力で生き残ってきたように、製造業が生き残るためには、やはり市場でイノベーションを引き起こす新技術の開発努力が必要である。
新技術の開発といっても、1970年代の研究所ブームのように一社ですべてをまかなう基礎研究所を建設する時代ではなくなった。外部に依存できる技術は、積極的に外部から導入し、効率を上げる時代である。連携と補完は製造業のマネジメントで重要なキーワードの一つである。トヨタもスバルやマツダと積極的に提携を行い商品開発の効率を上げている。
しかしトヨタと日産を比較すると、その昔+100ccの魅力でカローラが登場したときよりも大きな差が生まれている。当時から80点主義と言われ続けているが、HV自動車や水素自動車にその技術開発の成果が見られるように、トップの自動車会社として生き残るためのマネジメントが機能している。日産は将来マツダやスバルに負けてしまいそうな雰囲気でもある。すでにホンダの後塵に甘んじる企業になりつつある。
かつて選択と集中が叫ばれたが、選択と集中は、意志決定により選択が行われ、それが全体システムの集中という行動となって現れる表現である。選択がシステムの効率化だけならば、教科書通りに行えばよいので誰でも意志決定できるのである。
システムに付加価値をつけられる社長が本当に優れた社長である。社長の給与が自動車業界で一番高い会社が、何も付加価値を社会に生み出していないのは恥ずかしい。挽回するためにヒューマンプロセスが必要で、それが無ければ独自性を作り出すこともイノベーションも起こせない。
ペンタックスは、ホヤに買収された後リコーに切り売りされるような運命になっても、K3-Ⅱに搭載された高精細化技術のような昔ながらの独創を発揮している。技術者の思いが商品に宿っているようだ。企業の技術陣は、社会にその貢献が見えるように活動しなければ技術のブランドを残すことができない。いつまでペンタックスやスカイラインのブランドが残っていくのか注目したい。
フィルムカメラではペンタックスを使い、デジカメではニコンのD2Hを購入度、D3へとニコンに切り替えようとしたが、独創のペンタックスの商品につられ、今ではニコンとペンタックスを使っている始末である。お客様に商品を買わせる技術開発が重要である。ベンツ社のエンジンのスカイラインなど誰も買わないのではないか。いつの間にかスカイラインよりもマークXのほうが売り上げが多くなっている。
(注)1990年頃の日産には、二段階の基礎研究所があったようだ。電気粘性流体の開発を担当していたときに、基礎研究所の最も基礎を研究する部署と共同開発を行っていた。おそらく今はそのような部署はなくなっているだろう。バブルがはじけた後、外人社長によって進められた壮絶なリストラで、多くの優秀な技術者を日産は失った。リストラをやり過ぎて、あとから退職した社員に戻ってこい、という案内を出したほどである。友人の技術者からその話を聞いた。昔のような基礎研究所の時代ではなくなったが、メーカーのコアコンピタンスとなる技術のマネジメントについてどのように行うのか難しい時代ではある。技術者が考え、貢献と自己実現の目的で提案をしなければいけない。
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STAP問題で小保方氏作成のマウスからES細胞が見つかったが、このES細胞がどこから混入したかは謎のままだった。おそらくこの謎を解く目的で、元理研上級研究員がES細胞の窃盗容疑という問題で訴えることを思いついたのだろう。科学の問題を法律で解く(注)、という手段を選んだのだ。
ただこの告発には当方は賛成しかねる。現代の科学のレベルで論理的に導かれる犯人が明確であり、その犯人が真相を語っていないからである。なぜマウスからES細胞が見つかったのかは、実験に関わった方がご存じのはず。しかし、誰もそれを語らない。それは語れない理由があるから、と推定している。
組織内の人物が情報を知っていることがわかっており、それを組織外に出そうとしない意志が働いている内容について、法的手段を使い強引に情報を引き出そうというのは、例え知る権利があるからと言っても判断に迷う問題である。
マウスからES細胞が見つかった理由は、若山研究室のES細胞を盗み出し、悪意があってマウスへ入れたから、という前提で今回の告発が成されている。しかし告発しているのは、研究室外の人物である。なぜ研究室内部の人が告発しないのか。告発できない理由があるのかもしれない。
公の研究機関の事件なので、すべて明らかにしなければいけない、という考え方を理解できないわけではないが、なんともやりきれない告発である。もし科学的に完璧にSTAP細胞の存在が否定されているならば、今回の告発に当方も賛成したかもしれないが、STAP細胞の存在については、まだ、科学的に易しいと言われている完璧な否定証明ができていない。追試をやってみたが、できなかった、すなわちある実験だけが否定された状態である。
ES細胞の意図的な混入に科学的な意味があった可能性も有り、もしそうならば、今回の告発は明らかにその意図を持った人を糾弾している告発になるのではないか。悪意ではなく、それが科学的意味のある行為だったなら、今回の告発は科学の芽をつぶす行為となる。真相を知っている人物は、早急に事実を明らかにした方が良いだろう。
科学の問題は、あくまでも科学で正すべきで、もしそれができないならば、科学を進歩させなければいけない科学者に責任がある。今回の告発を、自然科学の研究における失敗について法的手段で訴える時代になった、ととらえると、性善説を前提としている科学の世界が終焉したことになる。残念である。
(注)科学の時代を「科学ですべてを明らかにできる」と誤解している人がいるが、科学で理解できない現象のほうが未だに多いのである。例えばPPSと6ナイロンの相容やポリスチレンとポリオレフィンの相容を技術で実現しても、教科書に書かれているフローリー・ハギンズの理論に反する事実なので信じてもらえないだけでなく評価もされない。例えそれが商品として成功していても科学で解明されていなかったら科学者は信じないのだ。
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(昨日からの続き)今自動車業界で元気が良いのは、トヨタとスバル以外にマツダがある。「マツダ、マツダ」と女性がささやき耳に残るCMも評判だ。そのマツダは、HV流行の兆しがあっても、既存のレシプロエンジンについて究極の省エネ技術開発を目指した。
その結果スカイアクティブと愛称をつけた一連の技術群からヒット商品が生み出されている。その技術の優秀さは、トヨタ自動車が、マツダとエンジン技術について提携を検討していることからも証明された。
マツダといえば独創のロータリーエンジンが有名である。その開発を中断し、クラシックエンジンのブラッシュアップに開発資産を集中するという意志決定で成功している。コンパクトなロータリーエンジンの特徴を生かしたHV車という魅力的な企画があっても、ディーゼルエンジンやレシプロエンジンの完成を目指した。
トヨタのHV技術は、1980年代のセラミックスフィーバーで開発されたガスタービンとモーターのHV技術にルーツがあり、ガスタービンエンジンのコンパクトさにモーターを組み合わせたそのアイデアは、当時のモーターショーで注目を集めた。ロータリーエンジンも同様にコンパクトなエンジンなので、ロータリーHVとして登場するかもしれない。
昔カローラとサニーの競争で敗れ、万年二位だった日産自動車はといえば、マツダから売れ筋のミニバンのOEM供給を受け、ベンツからはダウンサイジングターボエンジンを導入し、プリンス自動車の系統でかつてのカリスマカーであるスカイラインに搭載した。ベンツのエンジンだからブランドは魅力的だが、その性能はスバルのエンジンに及ばない。
その昔、スバルは日産の傘下にいたのだから、スバルからエンジンを導入してスカイラインに搭載した方が良かったのではないか。おそらく水平対向エンジンを搭載した低いボンネットのスカイラインはデザインも良くて売れたかもしれない。スバルS4に市場を食われているマークX(旧マークⅡ)の対抗車種はスカイラインだった。
スカイラインといえば、ケンメリ、とか箱スカ、羊の皮をかぶったオオカミ、スカG、ジャパンなどと呼ばれ、その各時代において日本を代表する名車の一つであり、日産のカンバンブランドだった。そこに他社のエンジンを積み販売するのである。自動車業界の動きを見ていると、技術開発における意志決定の重要性が見えてくる。(続く)
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水素燃料電池車「ミライ」(www.miragiken.com )を世界で初めて販売した「技術の」トヨタ自動車が2兆円を超す最高益だという。モーターショウやレース場で時折社長を見かけるが、トヨタの元気さはこの「行動する」社長に象徴されている。しかし利益率は傘下のスバル自動車が高い。
すでにこの活動報告で書いたように同じ自動車会社でも会社全体のシステムが異なるために利益率に差が出る(注1)。スバル自動車は、発売する車がすべてヒットしており、注文から2ケ月3ヶ月も待たされることが多いという。北米が好調なのと、国内では燃費の良いダウンサイジングターボエンジンを積んだレボーグが人気なためだ。
そのレボーグには、新車発売から1年たって、ようやくサンルーフもオプションとして用意された。1年ごとに同じ車が改良されて(これを年改と呼んでいる)販売されるのもスバル車の特徴だ。スバル車を購入するときには1年後に同じ値段でさらに良い車になっていることを覚悟して購入する必要がある。(注2)
換言すればスバル車を購入する場合にフルモデルチェンジ直前の車が最もお買い得、と言うことになる。恐らくインプレッサは来年フルモデルチェンジされるはずなのでかなり熟成されているお買い得車だ。
ダウンサイジングターボエンジンと言えば、グリーンディ-ゼルと同様にヨーロッパで流行している省エネ技術だ。日本ではトヨタ自動車が先鞭をつけ、ホンダと競争しているハイブリッド(HV)エンジンが省エネ技術として有名である。
スバル自動車は、開発陣の規模がトヨタ自動車に比較し劣勢なので、マーケティングでは北米に注力するなど選択と集中を徹底した。今やポルシェしか採用していない独特の水平対向エンジンのダウンサイジングターボ化に技術を集中し、1.6lのエンジンで2.5l並の馬力を出すことに成功した。平成26年度燃焼学会技術賞やアメリカの10ベストエンジン賞などを受賞している。
これは、トヨタとホンダがHV化に進んでも、独自の戦略を意志決定し市場に付加価値を生み出しイノベーションを起こした優れたビジネスモデルの成功例だと思う。車のデザインは昔ながら悪いが(スバリストはそこが良いというらしい)、1.6lで2.5l並の性能をレギュラーガソリンの一般車で実現しているのは、驚くべきすごい技術だ。
値段も高いが---。1.6L車の値段になればもっと売れる。2Lを4L並のパワーにしたエンジンを搭載するS4は、その性能から付加価値が高く割安感があるが、1.6Lターボエンジンは、インプレッサ並の価格設定にすべきだろう。そうなれば、ものすごい付加価値を市場に生み出すことになる。S4がトヨタのマークXのお客を食って売れているように、とんでもない売れ方をするのではないか。(明日へ続く)
(注1)システムというのは、機械的なシステム以外に概念的なシステムも考える必要がある。
(注2)
毎年新しくなるペンタックスの一眼レフデジカメと同じだ。もうすぐK3の新型K3-Ⅱが出る。しかし、転職した写真会社では同じ写真業界でもペンタックスとは少し異なっていた。
自動車業界も同様で、トヨタ車ではスバル車のような年改は無く、定期的なマイナーチェンジの時に少し手直しされるだけである。会社により新製品開発のシステムが異なる様子は、市場にアウトプットとして出てくる商品を観察していると理解できる。
同じ業界だからといって、ビジネスプロセスも同じとは限らない。その昔、三菱自動車ではリコール隠しが何度も行われたが、多くの自動車メーカーではリコール隠しなどできないシステムになっている。社長が頭を下げてもビジネスプロセスのシステムが変わらなければ何度でも起きる。
三菱自動車の例は、ビジネスプロセスにおけるシステムというものの重要性を示している。すなわち問題解決においてシステム認識が重要である。問題が起きているときにシステムの見方を変えなければいつまでたっても頭だけを下げることになる。
三菱自動車で繰り返しリコール隠しが起きたのはそのためだ。最近三菱自動車でリコール隠しが行われていないのは、社内のシステムが変わったためと見ることもできる。同時にスバルのWRXと競ってきたランエボの開発も無くなった。
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プログラミングを学習した経験があると「システム」という抽象概念の動作原理を考えることは容易である。面白いのは、プログラミング技術の発展の歴史は、あたかも問題解決法の発展の歴史のように見えてしまう点である。
これは当方だけかもしれないが、C言語のような構造化プログラミング手法が登場した後、それを発展させたオブジェクト指向言語C++が現れ、人工知能分野ではエージェント指向という手法まで研究されている。
ビジネスプロセスの問題解決法はいろいろ登場したが、世間で普及しているのは、せいぜいオブジェクト指向レベルまでである。中には、オブジェクト指向のプロセスをそのまま問題解決法に用いている例もある。USITがそうである。TRIZやUSITが古いという評価の正当性は、プログラミング技法との対比からも明らかである。
いまやエージェント指向の問題解決法の時代である。初学者に古くなった難解なオブジェクト指向の考え方を押しつけ、科学的に当たり前の解しかでない、という落胆状態をかつて見てきた。USITやTRIZの押しつけは、知的拷問以外何物でもない。
ビジネスプロセスの問題解決に必要なシステムは、従来の科学的な「秩序だった」機能と、ある意味「無秩序」な機能の二つを含んでいなければならないはずだ。このように考えると概念的なすべての機能を含むことが可能となる。秩序だった機能は、従来のビジネスプロセスの問題解決法が対応している、と見なせば、ヒューマンプロセスは無秩序な機能と定義づけることも可能だ。このように定義づけるとヒューマンプロセスというものがその役割とともに具体的に見えてくる。
すなわち、科学の時代にその視点で認識されたビジネスプロセスは、秩序だった機能の塊に見える。だからTRIZのような手法を研究しようというアイデアが生まれたり、ISOなどの標準化が進んだ。
標準化されたり科学的問題解決法が普及しても、多くの問題が発生しているのである。さらにそれらは従来の問題解決法では解けなかったり、解決に膨大な時間がかかったりしている。従来の概念と異なる手法で取り組まないかぎり、それらの問題は解決できないはずで、従来と異なる「無秩序な」方法がヒューマンプロセスである。
あらためて難解なプロセスを開発しなければいけないのか、というとそうではない。例えばヤマナカファクターも受験生におなじみの手法で発見され、すなわち昔ながらのヒューマンプロセスを用いてノーベル賞を受賞している。
従来非科学的と排除されてきた問題解決の方法は、少し工夫すると、すべてヒューマンプロセスとして活用できる。軽視されていた非科学的方法をうまく使うように提案しているのが弊社の研究開発必勝法プログラムで、一例をwww.miragiken.comにおいて説明している。
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PPSを押出成形して中間転写ベルトを製造する技術開発は、環境に有害な溶媒を用いてキャスト成膜するPIを用いる技術開発に比較すると、コストダウンだけでなく環境負荷低減という現代の環境経営に大きく貢献する。
しかし、導電性のカーボンを分散してベルトの面内抵抗を均一にする製造技術として、押出成形という手法は適していない。コストや環境負荷を考えなければ、キャスト成膜が精密に抵抗を制御可能で優れている。
押出成形は、「行ってこいの世界だ」、とゴム会社で現場の職長から教えてもらった。要するにゴムの配合がうまくできていなければ、良いものができない、あるいは、配合物の問題を押出工程で解決することなどできない、という意味である。しかし、単身赴任した現場では、ものすごい熱気で、この常識にチャレンジしていた。そしてあと少しのところまで来ているという説明を聞き、びっくりした。
かつてゴム会社の職長の言っていた言葉が間違っていたのか、あるいは、このあと少しでできるという問題は、永遠に解決できない問題なのか、判断に迷ったが、コンパウンドメーカーの「素人はダマットレ」、と言う言葉が、意志決定をさせた。
行ってこいの世界では、配合物が均一にかつ安定にできていることが重要である。これを目標にコンパウンド開発を行う決心をした。この目的は、押出成形でPIベルト並のベルトを製造することである。
問題解決のために「コンパウンドの内製化」はテーマ企画の目的として明確であったが、コンパウンドの物性目標は、明確にできなかった。そもそも外部のメーカーにコンパウンド開発を依頼していても、ベルトの抵抗が均一になるという目標を表現したスペックが決められていなかった。この点について誰も疑問を持っていなかったのは不思議であるが、日々の議論の内容から、目的と目標を混同していることは明らかだった。目標は目的ではないのである。
統合前の写真会社では、目標管理が厳密に行われていたので、このような状況はみられなかったが、統合したカメラメーカーでは、ヒューマンプロセスが文化の会社だった。ゆえにコンパウンド開発に明確な目標など無くても特に疑問は起きなかったようだ。
部下のマネージャーが、内製コンパウンドの目標をどこに置くのか聞いてきた。君は外部のコンパウンドメーカーにどのような目標を設定しているのか、と質問したところ、そこで議論はフリーズした。
しかし、今時のビジネスプロセスでは、明確な目標は目的を実現するために不可欠である。コンパウンドの内製化を進めるに当たり、走りながら目標設定するというヒューマンプロセスをとることにした。目的は明確だった。
ゆえに目的を実現できたコンパウンドからその目標を設定するという、通常のビジネスプロセスとは逆のやり方で業務を進めた。目的と目標の区別ができていない雰囲気だったのでうまく進めることができた。
その結果、電気的特性を粘弾性のパラメーターで品質管理できる独自の手法を開発できた。すなわち強相関ソフトマテリアルでは、材料設計において媒介変数を用いると、事象の異なる変数でも相関するという現象が現れる。その性質を活用した。そして、コンパウンドの開発目標は電気特性ではなく、粘弾性のパラメーターで記述された。ヒューマンプロセスを採用した成果である。
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