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2015.09/01 IoT

IoTを初めて見たときに新たな顔文字と勘違いした。モノのインターネットのことだが、ドイツ政府が提唱した「Industry4.0」とともに現実化してきた。特許検索を行うと、主だったアイデアは続々と特許として公開されつつある。
 
IoTは、まさに「今でしょ」の技術であり、またソフトが勝負を決める技術なので実用化も早い。すでに実績を上げている例もあり、この5年間急速に普及すると思われる。
 
Industry4.0という概念は、1.0が水力・蒸気力、2.0が電力、3.0が計算力であり、産業革命の基盤概念である。そして4.0は、モノのインターネットが新たな産業革命を起こす、となるのだが、アルビントフラー「第4の波」を想起させられる(この概念は、新しいコトではない)。
 
新しい概念が登場するたびに話題に取り上げられたりするが、40年近くその繰り返しを体験してくると、概念が登場した時の姿勢に学習効果が表れる。音楽が趣味でレコードやCDの置き場に困っていたところでインターネットの普及があり、20年近く前からCDやレコードをファイルサーバーに落とし、ネット環境で音楽を聴いてきた。自宅のCDやレコードはすべてファイルサーバーにおとしてある。
 
TVも単身赴任前にインターネット接続可能な大画面液晶TVを導入し、ネットにつながった生活を意識的に進めてきた。家庭にあるものをつないできた経験からいえるのは、つなぎたくないものが出てくるのだ。また、つないだ結果の反省も出てくる。
 
もうネット配信の音楽を聴くことをやめ、音楽用PCはイントラネット環境からも取り外した。そしてローテルのCDプレイヤーを買い、音楽はそのプレイヤーで聞いている。昔に戻ってしまった。なぜかは後日述べる。
 
この経験から、IoTについていろいろつなぐことが騒がれているが、「つながない」あるいは「つなげない」ことにより創出される新事業を今考えると、IoTの先端につけるような気がする。
 
「つながない」から今と変わらない、と思うと大きな間違いである。例えばIoTではクラウド環境を想定しているが、「つながない」ならば、その閉じた系に大容量のストレージデバイスが必要になってくる。
 
今必要となっていないのに、なぜIoTになったら必要になるのか、と疑問を持った人の頭は老化が始まっている。新しい概念が普及すると、仮にその概念を取り入れなくても旧来の環境も影響を受けるので、新しい概念を局所化した技術が要求されるようになる。特許を見る限り、この視点の発明はまだ公開されていない。このあたりの理解を短時間にしたいなら、「ドラえもん」で学習すると良いかもしれない。
 

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2015.08/31 ぱくり技術

某新聞に中国のパクリ技術の実態が書かれていた。新聞記事によるとどこからともなく日本の技術の設計図面が流れてきて、それでモノを生産している、というのである。もちろん記事を書いている人は、それがどこから流れてきたのか知っているのであろう。
 
当方も中国でコンサルティングをやっていて同様のびっくりした体験がある。某社の設計仕様書がそのまま当方に示されて、次回これを生産したいので指導してほしい、というのである。見せられたものをそのまま指導しお金がもらえるならば、それは気楽な稼業である。おそらく同様のことが中国各地で行われているので新聞記事に書かれているようなことが起きているのだろうと思った。
 
当方は、示されたものよりもっといいものを作りませんか、と提案してみた。そしたら、もっといいものができるなら、それをやりたい、と応えてきた。そして設計仕様書と異なる技術をタグチメソッドで開発し特許明細書まで作成したら感謝された。
 
当方の体験からいえるのは、パクリの情報をもとにしてそれより良いものを作るように指導すれば、新聞記事に書かれているような問題は無くなるのである。ところが、冷静に考えると、これはこれで日本企業の技術が中国に負けるという新たな問題を引き起こす。
 
ただ、この問題は日本企業にも新たな技術開発を促進するので技術の進歩を考えれば、パクリ技術が蔓延するよりは良いかもしれない、と考えた。また、よりよい技術開発のために当方への日本企業の依頼も増えるだろう、ととらぬ狸の皮算用をした。
 
中国の第一次産業から第二次産業への転換は急速に進んだ。新幹線から眺める光景には、荒れた田畑や昔村だったところに廃屋がある。農業を捨てた彼らとて、事業の永続性を保証しないパクリ技術がよいと思っているわけではないようだ。ただ、自前で開発するその手法あるいは経験が無いだけなので、そのあたりを弊社はコンサルティングの中心においている。
 
今や技術はグローバル化ボーダレス化しており、技術者は日々の研鑽を怠ればあっという間に使い物にならなくなる時代である。中国がパクリ技術を、と言っている間はまだ幸せなのかもしれない。中国が日本よりも優れた技術開発を行うようになった、という時に日本はどうする?
    

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2015.08/30 新国立競技場の整備費用

安倍晋三首相による旧整備計画の「白紙撤回」から1カ月余り過ぎた。28日に決まった新計画で政権が重視したのは、批判を浴びた建設費について1千億円を超える削減幅だった。安倍首相は、建設費を1550億円に絞り込んだ新計画に胸を張ったが、当方はその時の安倍首相の発言に心を動かされた。
 
「暑さ対策なら、『かち割り氷』だってある」、安倍首相は夏の甲子園名物を挙げ、冷房施設の断念を指示、そこに「首相主導の政治決着」を演出し、1500億円台の「大台」を達成した。
 
スポーツを観戦するのに冷暖房設備は不要である。スポーツ観戦に限らず「生」を楽しもうとする目的はその場の空気も共有したいからで、冷暖房設備の整った観客席でスナック菓子を食べながら観戦するぐらいなら、茶の間でTV観戦していた方が楽しい。「かち割り氷」の表現は「生」の重要性をうまく示している。
 
しかし、新計画ではかなり削減されたが、それでもまだ他の国の3倍強の価格である。いくら日本の人件費が高いと言ってもだまされているような気になる。特に中古の二軸混練機を購入し8000万円でコンパウンド工場を立ち上げた経験から、ゼネコン(General Contractor)の見積もりに対して疑念を持っている。
 
当方が担当したコンパウンド工場の見積もりでは、スケール以外何も指示しなければ、両手に近い価格が提示され、具体的にインフラ状況を示し、交渉を重ね、ようやく片手になる。しかし、根津の中小企業に依頼したなら、一発で1億円以下の価格を提示してきた。指一本もいらなかったのである。要するに担当者がコストダウンにどこまで情熱を傾けるかにかかっている。昔高純度SiCのパイロットプラントを建設した時でも、品質評価設備や研究設備も含め、2億4千万円にきっちり収めた経験を持っている。
 
国立競技場も大手ではなく中堅に依頼してみてはどうだろうか。1/3は無理でも半額になるかもしれない。そのうえ大手よりも柔軟な対応のおかげで納期もゼネコンの半分になった。品質については10年近くトラブルが無いことから、大手同等の品質だと思っている。ちなみに昨年は中国で工場建設のアドバイスを依頼され、今年も一件抱えている。ゼネコンのような仕事はできないが、日本でも工場建設のアドバイスは受け付けます。
   

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2015.08/29 山形市長選と橋下大阪市長

山形市長選をめぐる維新の党内のごたごたで橋下氏が離党した。創業者が離党したわけだが流れから予想されたことで、今後大阪維新の会がどのように動いてゆくのか興味深いものがある(注)。また、橋下氏は政界からの引退を口にしたりしているので維新の党の離党はその動きの中でごたごたのタイミングが重なった結果ともとれる。
 
維新の党を離党した橋下氏が大阪市長の任期を終えればただの人に戻るわけで、そこを狙って自民党がラブコールを送っている、というニュースも飛び交っている。また、一世を風靡した維新の党は今回の橋下氏の離党で分裂するのではないか、という憶測も流れている。
 
政治の世界は技術の世界よりも複雑怪奇である。だいたい山形市長選において維新の党の幹事長が党の支援を決めていない民主党系の候補者を応援したという時点でビックリした。当方は維新の党の支援者ではないが支援者はもっとびっくりしたのではないだろうか。
 
いくら政治の世界は何でもありといっても自分の役割立場を忘れている。このごたごたで面白いのは、比較的早く結果が出てきたことである。橋下氏の決断の速さの結果であるが、技術開発でも同様である。
 
実践知を取り入れた技術開発では、時として予期せぬことが起きる。その時に整理された形式知と起きている現象の対応を迅速にできるかどうかが技術開発のスピードを決める。すなわち科学で真理として確定していることと科学でわかっていないことの分類を行う、といったほうがわかりやすいかもしれない。
 
今回の問題で維新の党の分裂がささやかれるのは、維新の党の内部に民主党支持の議員がいるからで、それで橋下市長は早期の決断をしたのだと思っている。政党というのは志が同じ人の集団でなければいけないのだが、必ずしもそのようにうまく結党できるわけではない。技術開発で扱う現象も同様で、科学で解明された事象ばかりの現象がいつも扱えるわけではないのである。
 
科学で解明されていない事象、あるいは不可思議な事象にであったなら迷わず弊社へ相談してください。問題解決の処方箋を提案させていただきます。
 
(注)大阪維新の会を国政レベルに、というニュースがお昼に流れた。すなわち現在の維新の党を分裂させる引き金が引かれた。変化が早い。おそらく維新の党の執行部は橋下氏の離党を甘く見たのかもしれない。あるいは、橋下氏の離党は現在維新の党がかかえる問題を有権者に顕在化させたかったのかもしれない。大阪都構想の挫折から今日までのニュースを見ていると、橋下氏の節操の無いような動きに見えるのかもしれないが、維新の党の動きをみれば、妥当だと当方は思う。なぜなら問題を明確化することこそ次のステップのためには重要だからだ。橋下氏は節操がないという批判をうけてでも、理想を実現するために問題を顕在化させる道を選んだのかもしれない。
技術開発でも、形式知中心で開発をされている方から見ると、実践知を取り入れた開発は節操が無く見えるときがある。しかし政治の世界では、理想を実現することが重要であり、技術の世界でも実用になるモノを完成させることがゴールとなり、それらが達成されるまでの流れは、形式知で真理を追究するような美しさはない。プロセスの美しさが重要では無く、達成されたゴールが人類へどれだけ貢献しているのかが政治でも技術でも重要だと思っている。

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2015.08/28 日本企業の目指すべき技術

20世紀末に急速な科学の進歩があり、それにより技術も急速に進歩した。また、アナログからデジタルへのイノベーションは、技術のパラダイムを大きく変えた。特に複雑なエレクトロニクス機器があたかもレゴのような組立技術で作られるようになった。そして半導体チップはどんどん集積化と小型化がすすめられ、さらに標準化により、汎用化も進んだ。
 
このような汎用化の進んだ技術をただ組み合わせただけの製品を日本で企画開発していたのでは、仮に特許を取得できたとしても、高々20年の独占しかできない。実際に基本特許の切れた液晶パネルと回路を組み合わせただけの液晶TVのシェアーを日本は大きく落としている。
 
ドラッカーは、企業の30年説をその著書の中で述べており、30年経過したら改めて事業の再定義が必要だと言っている。事業の再定義が必要と言っても資源の無い日本では、何かモノ造りをしない限り、その成長は無いので技術が必要な事業は日本に必ず残る。
 
とにかく時代は変わっても、新しいモノを作っていかななければ生きてゆけないのが日本ならば、モノづくりに必要な技術のパラダイムを見直さなければいけない。
 
高度経済成長では、科学立国日本が声高に言われ、科学技術の追求こそ日本の生き残りが約束される、とまで言い切った方がおられるが、科学のような形式知は情報化時代の現代において、やがて汎用化するのである。
 
一方技術を人類の歴史の中でとらえてみると、形式知に支配されたのは、高々300年程度であり、昔は実践知と暗黙知の伝承で技術開発が進められてきた。また日本のモノ造りの実際を眺めてみても、今でも強い企業というのは、参入障壁の高い市場で事業を行っている企業で、その参入障壁には実践知と暗黙知の光が投影されている。
 
科学にもとづく形式知は重要である。しかし、実践知や暗黙知も同様に重要であるにもかかわらず、形式知が重視されてきたのが20世紀の日本の技術開発である。実践知や暗黙知にもう少し目を向けてもよいのではないか。新しい時代の研究開発方法について弊社にご相談ください。
   

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2015.08/27 技術のコモディティー化

液晶TVやDVD,太陽電池など20世紀に日本が100%近いシェアーを誇っていた電気製品が30%以下のシェアーに落ちていったのは、技術のコモディティー化が原因である、と言われている。
 
確かに20年経過して基本特許が切れ、技術がコモディティー化してどこでも誰でも製造できるようになったので韓国や中国企業の追い上げでシェアーを落としていった、というのは現象の説明としてわかりやすい。
 
ただ世の中にはローテクでどこでも製造できそうなのに参入障壁の高い技術領域があることを忘れている。例えば自動車用タイヤ。自転車やオートバイ用のタイヤは、すでに価格競争に突入し、電気製品と同様の状態になっているが、自動車用タイヤについて、トップ3がブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤーであるのは1990年以降変化が無い。
 
また、レーザープリンターの高級な複合機分野では、キャノンとリコー、ゼロックスのシェアーに大きな動きは無い。CRXの堅実な技術経営の前に他社は食い込めない。
 
これらの分野と液晶TVとの大きな違いは、科学で解明されていない技術領域であるかどうかの違いではないか、と思っている。いわゆる世間でいうところのノウハウが無ければ製品の品質を作りこめない分野である。
 
自動車も同様で、エンジンの組み立てについては自動車会社各社必ず自前で行っているので、参入障壁が高く、トップ企業のシェアーに大きな変動はない。しかし、ここにきて電気自動車の時代になるとこのシェアーに大きな変動が起きるかもしれない、と言われるようになった。なぜなら動力源であるモーターの組み立てにはエンジンほどのノウハウは必要ないからである。
 
このように考えてくると技術のコモディティー化が起きやすい技術領域とそうではない技術領域がありそうに思われ、見方を変えると、科学の急速な進歩により、形式知を中心に進歩した技術領域はコモディティー化しやすい、となるのではないか。
   

カテゴリー : 一般

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2015.08/26 カオス混合

カオス混合は30年以上前に指導社員から教えていただいた混練技術である。彼の説明ではロール混練でそれが起きている、という。そしてその機構をバッチ式ではなく連続式で実現したら混練技術に革新をもたらす、と教えてくれた。そしてその実現が当方の宿題となった。
 
その後ポリウレタンやフェノール樹脂の難燃化というテーマからセラミックスへ仕事がかわり、カオス混合を考える機会が無くなった。しかし、カオスを混合したらどのようになるのだろうと、酒を飲みながら話のネタにはしていた。
 
以前紹介したが、退職前の単身赴任の時に偶然その技術開発を行うことになった。人生とは面白いもので、思い続けているとそれがかなうことがある。カオス混合はいつかやってみたいと思い続けてきた技術の一つだ。
 
思い続けてきたが、ストーカーのように追い続けてきたわけではない。学会で関係する発表があれば、それを聴いてみる、という程度である。印象に残っているのは、日本化学会で発表のあったラテックス粒子の自己組織化現象である。
 
ラテックスが一層流れる程度の薄いスリットの中にラテックスを流すと規則正しく粒子がならぶという報告である。溶融した高分子の粘性流体をそのような細いスリットに流すことは不可能だが、ロール混練の条件に合わせたスリットへ急速に流したらどうなるか、というアイデアが生まれた。
 
アイデアが生まれたがそれを実施するまで10年近く月日が流れた。運良くカオス混合を開発できるテーマが目の前に現れた。そして、単身赴任した開発現場には、それをモデル的に確認できる環境が整っていた。
 
カオス状態とは混沌としたものだが、問題がうまく解決されるときというのは、不思議なことにとんとん拍子に進む。人生全体はカオスのようなものかもしれないが、その一瞬一瞬というのは、努力の積み重ねた結果が現れるのではないか、と思うようになった。
 
だから苦労しているときには、なおいっそう真摯に努力に励まなければいけないのだろう。長期的視野では、努力は必ず報われると信じたくなる、そんな人生である。
    

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.08/25 混練の知性(3)

どのような高分子でも完璧なコンパウンドにできるように、混練技術を形式知として体系化するのは困難だろうと思う。だから、実践知と暗黙知、そしてわずかな形式知の知性の境界を越えた体系化が必要になってくる。
 
混練技術者とはそれができた人を言う。おそらく30年以上前に当方を指導してくださった指導社員は、今でも通用する混練技術者だろう。彼の指導方法はあくまで実践知が中心に据えられていた。彼の形式知さえも本人は懐疑的に見ていた。
 
暗黙知を伝える方法も秀逸だった。二本のロールにゴムを巻き付け、それが混練されてゆく様子を30分眺めていた。そしてそこへ少量のカーボンを添加し、あっという間に真っ黒くなる現象を解説してくれた。言葉ではなく黒くなったゴムをロールから外し、実際に触れることでカーボンがゴムに分散された状態を教えてくれた。その説明に分散混合と分配混合は出てこなかった。
 
彼は職人ではない。ダッシュポットとバネのモデルから導いた常微分方程式を電卓で解き防振ゴムの材料設計を行う京都大大学院出身のレオロジストだった。面白いのはダッシュポットとバネを使ったレオロジーの形式知が将来は使われなくなるだろうと予測していたことだ。
 
また、研究用のサンプルを作成するときにも、小型のニーダーを使用するのではなく、現場のパイロットスケールのバンバリを使用した点である。マスターバッチを大量に製造できるので効率を考えてのことかと質問したら、ゴムはプロセスの履歴が物性に表れる、と実践知を教えてくれた。
 
そのほか彼から教えられた知識は多い。3ケ月間マンツーマンで指導され、ゴムの混練技術とその考え方は良く理解できたが、ゴム会社でその知性を活かす機会は二度と無かった。
 
しかし実践知や暗黙知は、水泳や自転車のように一度身につけると忘れない。形式知は忘れてしまう部分があるが、実践知は体で覚えている。たった3ケ月で身につけた知識(注)であるが、指導社員の熱意とともに自然と思い出す。10年前に単身赴任して、その時初めてバンバリーを操作したときも躊躇なく運転できた。
 
高分子科学は現在もアカデミアの努力で進歩している。特に高分子物理は地味ながら20年前よりも大きく進歩した。まずダッシュポットとバネのモデルでレオロジーを論じる研究者を見かけなくなったことだ。OCTAの登場で容易に高分子物理をコンピューターで学べる環境が整った。今教科書に書かれている混練の形式知はおそらく10年後は異なった内容になっている可能性が高いと思う。
 
(注)今ならばブラック企業という騒ぎになるような勤務状態だった。ほとんど毎日自主的な夜勤と休日出勤だったが、楽しかった。会社の管理も緩い時代だったので、実験を思う存分にできた。指導社員からはバネとダッシュポットのモデルから計算された粘弾性のグラフを渡されており、当方はひたすらそのグラフに合った材料を見いだすのが仕事だった。樹脂とエラストマーのポリマーブレンドがすべて計算通りの粘弾性特性になるわけではなかった。
50種類ぐらい検討を進めたところ、樹脂の結晶化度が影響していそうな傾向が見えてきた。さらにその傾向は2種類の群に分かれ、コポリマーが良さそうに思われた。試作サンプルが100を超えたところで多変量解析を行って整理をしてみた。昼間は指導社員の指導を受け、夜は自分の思うように仕事ができたサラリーマンで一番楽しかったときかもしれない。高純度SiCの事業化は今思い出すと楽しかった時代になるが、この防止ゴム開発の3ヶ月間は明確なゴールとチェックポイントが示され、あたかも宝探しのような楽しさが毎日の仕事にあった。材料開発では、形式知ですべて解決できるわけではなく、試行錯誤の作業が必要になる場合がある。凡才にとって、形式知で解決できないテーマは、実践知を磨くチャンスとなる。指導社員はシミュレーションは完成したが、具体的な材料が分かっているわけではない、と正直に教えてくださった。そしてシミュレーションがはずれた材料一つ一つについて、ダッシュポットとバネのモデルで解説してくださった。最初は本当に材料の配合が見つかるのか不安だったが、指導社員が必ずできる、と励ましてくださったので、がむしゃらに混練を続けたら、最初の1ケ月でゴールに近い材料が見つかり、一週間後にはシミュレーションのグラフとずばり適合する処方が見つかった。その後はさらに探索を進める作業と、見つかった系について耐久試験を進める作業と忙しくなった。テーマを開始して3ヶ月後には新しいコンセプトに基づく防止ゴムの実用配合と、その理論の報告書が完成していた。
まったく新しいコンセプトの材料は、試行錯誤のプロセスを経てできあがる場合が多いのではないか?

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2015.08/24 混練の知性(2)

樹脂を二軸混練機で混練するときに、分散混合と分配混合という考え方でスクリューセグメントの設計を考えるようだ。ようだ、と書いたのは、当方はこの考え方でスクリューセグメントの設計を行わないからだ。
 
「未だ科学は発展途上」で、一流のコンパウンド会社から素人扱いされ、混練のアイデアを受け入れていただけなかった体験を紹介した。そこの技術者は、分散混合と分配混合、弱練りと強練りという言葉などあたかも形式知のように使っていた。
 
しかし、その一流コンパウンドメーカーの形式知をもってしても解決できなかった問題を素人が30年前の実践知で解決したのである。一流と言われたコンパウンダーの混練の形式知とは何か調べてみたところ、某書籍に書いてあり、やはり完成された知識の体系としてまとめられていた。しかし、実際の現象には使えない形式知だと感じた。
 
分散混合と分配混合については、液体モデルに何か分散させたいときの考え方であり、様々な樹脂の混練でこの考え方が当てはまるわけではない。混練では伸張流動と剪断流動が発生し、その力で混練が進む、という形式知程度しか分かっていない、ととらえた方が良い。
 
そのほかに二軸混練機を購入するならば、KOBELCO以外はどこの混練機を購入しても同じ、と以前から感じていたが、この10年の経験からこれは正しいかもしれないと思うようになった。
 
理由は10年前に購入した同社製の中古機が未だトラブルなしで量産に使用されているのと、中古機に対するアフターサービスの良さ、そしてすでに20年以上経っているのに安定に使用できる耐久性などから、made in JAPANのブランドの信頼性の高さが裏付けられたからである。
 
二軸混練機と言えばKOBELCOというのは実践知ではなく形式知になるのかもしれない。そのくらいすばらしい装置である。中国で数社の混練機を実際に使用してみたが、KOBELCOの足下にも及ばないものばかりだった。KOBELCOの唯一の欠点は値段が高いことである。
 
もし二軸混練機の勉強をしたいならばKOBELCOのカタログをダウロードして読んでみると良い。スクリューセグメントの考え方も簡単ではあるが丁寧に記載されている。そして購入したくなったら電話をかけ相談すると、スクリューセグメントの設計まで親切に行ってくれる。依頼すればそのシミュレーション結果もサービスとして送ってくれる。ちなみに弊社は同社と無関係の中立の立場である。
 

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2015.08/23 混練の知性(1)

混練を形式知で記述しようとするときに、装置と混練される材料との関係が問題となる。すなわち高分子材料は、その種類により一次構造が異なればレオロジー特性も異なる。しかし、溶融状態のレオロジーについてはいまだ学会で議論されているレベルである。
 
材料側の物性変化が一義的に定まらない状態で装置と材料の関係を議論するとなると、科学的にどのように論理展開すればよいのか。そこで材料モデルを考案し、近似解を得られるように問題を解くわけだが、ここで怪しいことが起きる。
 
約10年にわたり、樹脂の混練技術に携わってきた。そして新しいカオス混合装置を開発し、そこから創りだされる新たな材料の特許出願もできた。この装置は日本と中国でそれぞれ稼働している。日本で量産に使用されている装置を第1世代とすれば、中国のそれは思想の進歩した第2世代である。
 
第1世代を開発したときに、社内のデザインレビュー(DR)と呼ばれる、ステージゲート法のゲートに似た仕組みを突破するためにシミュレーション技術を駆使した。そのときはDRを通したい都合で、あたかも形式知がそこにあるかのような説明をしてきた。
 
混練のシミュレーションなど普通に計算するとうまく適合した結果など出ないのだが、シミュレーションそのものを実際に合うようにパラメーターを設定して結果を出してきた。すなわち通常粘弾性の測定データを入れるところを、現実にあうパラメータの値を入力し、結果とあわせこんで計算したのだ。
 
実際にあわせて計算しているので、何のためのシミュレーションだ、というつっこみは起きるかもしれないが、実際に計算しているので捏造には当たらない。データを説明しやすいようにシミュレーションで得られるきれいなグラフィックを利用したかっただけである。
 
そのようなシミュレーションのやり方で分かったことはいくつかあるが、スクリューセグメントを設計するために行う混練機の温度シミュレーションは、実践知によく適合すると感じた。もっとも実践知が蓄積されるとシミュレーションを行わなくてもスクリューセグメントの配置から概略温度変化は予想がつくようになりシミュレーションなど不要だが、実践知が無いときには、シミュレーションされた温度データは頼りになるはずだ。
   

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