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2013.08/09 科学と技術(17)

高純度SiCの事業が立ち上がるまで様々なテーマを片手間に遂行していた。ある日、何か成果を出さなければいけないというので、1ケ月後までに新材料と新商品企画を行え、と指示が出た。「まず物を持ってこい」というのが当時の本部長の口癖だったので、この指示は、1ケ月後までに新商品を持ってこい、という指示と等価である。そしてそれができなければ結果は想像できた。

 

さて、何を企画するのか。アイデアは豊富にあった。ただし新材料で1ケ月後に新商品の姿にできるアイデアは、その中で一つか二つである。まだセラミックスフィーバーの嵐は去っておらず、その嵐の中で金属加工に使用する切削チップの開発状況が新聞でいくつか取り上げられていた。従来サーメットで使われていた分野へどんどんファインセラミックスが入り込んでいる、という内容である。それらの記事の中で、SiCで鋳鉄を削れたら低コスト長寿命のバイトができる、と紹介されていた。

 

SiCは脆くてさらに切削中に鉄と反応するので切削工具には使用できない、と説明が書かれていた。これならば1ケ月で問題解決できそうだ、と考えた。すなわちSiCの靱性向上と鋳鉄の反応防止を考えれば良いのである。さっそく弊社の問題解決法にあるK0チャートとK1チャートを作成し開発計画を立案した。

 

すなわち、新商品は切削工具で、そこに用いる新材料は鋳鉄を削ることができるSiC系セラミックスである。SiCの靱性向上策として、当時セラミックスの論文に紹介されていた、超微粒子分散による破壊エネルギーの伝播防止策を採用し、鋳鉄の反応防止策として、TiCを活用することにした。すなわちSiC-TiC系セラミックスを新材料の開発ターゲットに据えた。

 

ここまで具体化されるとあとはタグチメソッドでスピードアップするだけである。しかし当時タグチメソッドを知らなかった。そのかわり日科技連の研修でならった実験計画法を改良したクラチメソッドを開発していた。これは、ポリウレタンの難燃化技術開発で実験計画法を使用していたときに、あまりにも実験計画法が外れるので、それを改良した方法である。すなわち、開発では一般に改善方向が問題となるので、実験計画法を行うときに、測定値をそのまま使うのでは無く、相関係数を用いると面白いのではないかと考えた。すなわち相関係数を最大にできる条件を実験計画法で探ればもう少し当たる可能性が高くなるのでは無いか、と考えた。

<明日へ続く>

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2013.08/08 科学と技術(16)

「科学と技術(12)」で書いた電気炉の不思議な暴走は、装置に異常があったわけでは無い。また、温度調節器のプログラムが間違っていたわけでは無く、PIDの設定値も最適な値であった。原因不明のまま30年以上過ぎゴム会社で高純度SiCの事業も何とか継続している。

 

この高純度SiCの開発過程で弊社の問題解決法が完成した。弊社の問題解決法は、幾つかのモジュールがありフルセットですべて使用する必要はない。半分以上のモジュールは当時普及していた日科技連の手法を研究開発向けに改良してできた手法である。K0チャートやK1チャートは新QC7つ道具の一つPDPC図を使いやすく改良したものだ。

 

PDPC図は、実際に使用してみると初めての仕事や経験の浅い仕事では次のアクションを考えるのが難しくて使いにくい。K1チャートでは一つのアクションが成功したときと失敗したときとに機械的にふりわけ、それぞれについてアクションを考える規則にしているので、次のアクションは考えるのでは無く決断する内容を書き出すことになる。そして、アクションがこの成功したときと失敗したときという2つの事象は、それぞれ補集合の関係になっているので、K1チャートができあがったときには、考えられる全てのアクションを書き上げた図となる。

 

K1チャートだけで成功に導けた研究開発がある。酸化第二スズゾルの量産プロセス立ち上げである。酸化第二スズゾルの生産はY社にお願いしたが、そこで生産立ち上げ時にトラブルが発生した。実験室では、四塩化スズを加水分解したときに簡単に酸化スズの沈殿が得られていたのだが、量産プロセスでは、酸化スズがうまく沈殿せず、洗浄ができなくなる事態になった。

 

できあがった量産プロセスの中で変更できる条件は少ない。ただ、実験室の条件が量産プロセスで再現していないだけなので、全ての組み合わせを実施すれば酸化スズの沈殿が得られる条件が見つかるはずである。この場合タグチメソッドは有効であるが、問題はこの規模でそれを行うと確認実験まで終了するために1ケ月以上時間がかかる点である。

 

タグチメソッドが源流で行うと効果的と言われる背景にはこのような理由も関係する。量産時にもタグチメソッドを使用しても良いのだが、設計段階よりも規模が大きくなり費用と時間の点で不利である。そこでK1チャート作成にとりかかった。

 

全ての条件の組み合わせについて、実験室の結果と照合しながら可能性の高い順に並べ、K1チャートを作り上げた。その時のK1チャートでは最適条件が最短3ステップで求まる図ができていた。最悪の場合には80ステップほどの実験を行うことになる。運良く3ステップで最適条件が見つかったのだが、繰り返し再現性を確認してもロバストの高い条件となっていた。

 

競馬の予想に近い方法だが、科学の仮説立案とも似ている。各ステップを決定するために情報を最大限に活用している。重要なのは実験室で観察した現象を改めて見直す作業である。タグチメソッドでも源流の実験結果が川下で再現しないときがある。そのようなときにはK1チャートは有効である。仮に大きなチャートになったとしても、チャート作成に使用された仮説が正しければ最短でゴールを達成できる効率の良い方法である。

 

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2013.08/07 科学と技術(15:知財の先行出願)

思考実験の効用として特許戦略における先行出願戦術がある。

これは今後事業戦略として進出しようとする分野の特許を事前に出願する戦術である。特許は公開されるまで1年半かかる。ゆえに事業の準備を始めた段階で出願しておくと事業開始の早い段階で審査請求ができ、事業における知財リスクを回避することができる。特許は技術の権利書で有り、類似技術であれば1日でも出願日の早い企業の権利が優先される。

 

写真業界は知財戦略の進化した事業分野の一つである。例えばかつて写真フィルムという市場は、4社の寡占状態で、そのうち2社が日本に存在した。カメラに至っては、現在大半が日本メーカーである。この業界の知財戦略は古くから激しい火花を散らしており、その歴史は昭和40年代までさかのぼる。重要な技術分野と思われるところは、事業にならないような実施例を使ってでも特許を出願してくるのである。

 

例えば結晶性酸化スズが透明導電体として重要な場合では、結晶性酸化スズと写真フィルムの組み合わせを権利化したい。このようなときに、非晶質酸化スズ+写真フィルムの特許が出願されると、物理蒸着により成膜したITOを実施例にして、結晶性酸化スズ+写真フィルムの組み合わせを対抗出願するのである。物理蒸着では生産性が悪いので写真フィルムの生産技術として事業性はないが、結晶性酸化スズ+写真フィルムという組み合わせを権利化することができる。

 

この組み合わせが権利化されると、結晶性酸化スズを用いた写真フィルムの改良技術は、この特許に抵触することになる。このあたりは特許技術も関係するので実際にはもう少し複雑な問題が存在するが、概略のイメージはこのようである。すなわち、事業で必要な技術に関連する項目をピックアップし、技術開発する前に特許を先行して出願しておくのである。仮に発明要件が不十分で権利化できなくとも公知化できるので、知財リスクを軽減する。

 

事業を進めて行く方向にライバル特許が存在しているのは最悪のシナリオであるから、公知化できれば、他社はその範囲を権利化できないので知財リスクを低減することができる。これが先行出願のメリットである。写真フィルムやカメラ、電子写真の特許の出願状況を調べて頂けば実態を理解できるが、おびただしい数の特許が出願されている。例えば酸化スズを帯電防止材に用いた写真フィルムの特許だけでも昭和35年から2000件近く20世紀に出願されている。これは少ない方である。

 

製品開発では新技術との組み合わせ技術も特許要件になるため、このような状況になるのだが、特許が事業を行うための権利書である側面を理解すると先行出願の重要性を理解できる。すなわち先行出願により、最悪でも技術の公知化を行う事ができ、それにより事業展開における知財リスクを低減できる。

 

この特許の先行出願戦術において思考実験は重要な役目を担うことができる。すなわち思考実験を使うと先行出願したい特許案を明確にすることができ、その実施例までも作り出すことができる。特許がパテントではなくペテントと表現されたりする背景にはこのような特許が多いことを示している。

 

科学は真理を追究することが使命なので、論文の捏造は許されないが、技術は機能を実現するのが使命である点を思い出す必要がある。すなわち機能実現のための技術の権利範囲を確定するために実現されるであろう機能が決まれば特許を出願することができ、さらにこの特許は、機能を実現する技術の権利書という意味において、機能が明確になっておればそれを実現する技術に科学的な間違いが無い限り再現可能なので、捏造とはならないのである。

 

ペテントと表現される人はこのあたりをよく理解されていない。実現できない機能を特許にした場合には本当にペテントになってしまうが、確実に実現できる機能は、豊富な技術開発経験と科学的知識から明確にすることが可能である。また豊富な技術開発経験は機能の実現方法を具体化し、科学的知識に基づく思考実験でその方法を真実に裏付けられた実施例で正しく具体化できる。

 

科学情報は真実しか公知化していないので、機能を実現する方法をサポートすることに使えても、科学情報に技術内容が記述されていなければ、その方法の証拠とできない場合が多い。ここにも科学と技術の違いを見いだすことができる。技術とは機能を実現する行為で有り、科学的知識に裏付けられた行為は再現可能である。行為が実際に行われたかどうかは重要では無く、再現できることこそ重要なのである。ゆえに、思考実験による科学論文は捏造になることがあるが、特許の場合には科学的知識を活用する限り捏造とはならない。

 

思考実験は知財戦略の為にも重要な手段で有り、弊社の問題解決法では、このあたりの指導も豊富な経験を実例として使い行っている。

 

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2013.08/06 科学と技術(14)

32年間研究開発では、SiC合成法発見のような不思議な成功体験を大小いくつも経験した。自然現象には科学で解明できない現象が多いことを思い知らされた。その中でも、SiC合成実験における電気炉の不思議な暴走は、その後ゴム会社から2億4千万円の先行投資がされる事業へつながったので人生で最も大きな不思議体験である。さらにそれが現在でも事業として継続されている。

 

このような成功体験を1度すると切羽詰まった時など神様にお祈りをする習慣がつく。ただ、無信教なので、自分が頼っている神がアラーなのかキリストなのか仏様なのか全く不明で最初に手を合わせたときにいつも戸惑いがあった。突然七福神が現れたり、抽象化された八百万の神にお祈りをしたりもした。

 

そのような習慣で実験を行っていたときに、ある日頭の中に実験で起きる反応の全体像および外乱が生じたときに副反応が発生するすべての様子が絵巻物のように自然に浮かんでいることに気がついた。ニュートンは思考実験で万有引力の発見を行ったと聞いていたので、これが思考実験の効果なのかもしれない、と考えた。

 

技術開発で用いられるタグチメソッドでは、考えられるノイズを調合し、実験計画法を用いて使用可能な制御因子を様々に変え実験を進める。すなわち考える対象のシステムについて一応全ての実験条件を確認する実験を行う(実際には実験計画法による一部実施)わけだが、科学では仮説に基づき一部の実験に絞り一因子実験を行う場合が多い。

 

マッハは思考実験を非科学的と認めつつ弟子のアインシュタインにその方法を指導し、相対性理論の発明に導いている。思考実験は、風が吹けば桶屋が儲かる式に行えば良い、と言われるのだが、全ての実験条件を行う事ができる便利な方法なので、桶屋だけに商売をさせておくのはもったいない。

 

それでは思考実験のストーリーを組み立てるにはどうしたらよいのか、あるいは効果的な思考実験を行うにはどうしたらよいのか、それは弊社の問題解決法を勉強して頂ければわかる。

 

神に祈る行為は人を謙虚に導く。若い人たちの実験を見てきたが、とかく慣れてくると実験で手を抜く場合も出てくるようだ。実験で手を抜いたことが無いのでそのあたりの心理を理解できないが、マジメに実験を行おうとするとどうしても工数が増える。マジメな実験計画とは考えられる全ての条件で実験を行う事(注)だが、現実には不可能である。しかし、この現実には不可能な全ての条件における実験を思考実験は可能にする。思考実験で実験の流れをシミュレーションする効果は神に祈るよりも確実に成果が出る。思考実験の重要性に気がついてから神に祈ることを忘れている。しかし、それでも技術開発には成功している。弊社の問題解決法の効果である。

 

(注)半導体用高純度SiCの前駆体高分子の合成では、エチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせで考えられる全ての反応条件の処方を用意し、すべて実験を行った。32年間に10回近く全ての条件で実際に実験を行った経験がある。唯一他社の方と同様の試みをして運良く16番目の処方で目標の材料が得られたときにはほっとした。それはポリオレフィンとポリスチレンを相容化剤無しで相溶させる実験である。透明の樹脂ができるまで考えられる合成条件全てを実験するつもりでいたが、それを他社の方には伝えていなかった。

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2013.08/05 科学と技術(13)

昨日の不思議な成功体験は、その後電気炉メーカーを交えて議論したが、原因が分からなかった。電気炉の暴走もその時の1回限りで、その後の実験では安定に動いていた。

 

当時シリカ還元法でSiCを製造するときに、粉末の粒度を揃える手段としてイビデンの技術が有名であり、化学量論比よりも多くカーボンを用いてシリカと混合しペレット化する方法が知られていた。しかし、有機無機ハイブリッドを用いた場合には、化学量論比のシリカとカーボンが混合された状態で、SiC化の温度条件を工夫しただけで粒度分布がシャープな粉末が得られた。

 

偶然見つかった条件であったが、この条件は、イビデン法が過剰のカーボンを取り除くために焼成処理を行わなければならないのに対して、それを不要にする。すなわちカーボンを取り除くときの酸素(空気)雰囲気下の焼成工程でSiCの表面が酸化される問題を解決できる。この効果はSiCの焼結で大きな意味を持つ。

 

当時プロチャスカの発明によるボロンを0.2%から0.6%、カーボンを2%程度助剤として添加する技術が知られていたが、一部のボロンが不純物のシリカにより酸化され助剤としての機能を果たさなくなる問題が指摘されていた。

 

有機無機ハイブリッドによる高純度SiC粉末では、不純物シリカが含まれていないので、0.05%という少ないボロンの添加量で焼結が進行した。さらに、ホットプレスであればフェノール樹脂を助剤にして、すなわちカーボンのみで焼結できた。これは現在商品化されているヒーターやダミーウェハーの技術である。

 

最初の実験条件は「お祈り」という極めて非科学的な手段で見いだしたが、その後お祈りが無くともその温度パターンで行えば再現よく高純度SiC粉末が得られた。お祈りで見いだした温度パターンが適していることは、その後の研究で、シリカ還元法ではSiCの核が生成する時に誘導期間が存在することを動力学的解析で見いだし、その反応機構を用いて説明ができた(注)。

 

不思議な成功ではあったが得られた結果は科学的に説明ができ、技術的にもイビデンの技術と完全に差別化可能な重要な成果となった。しかしお祈りで電気炉が暴走した原因は今でも不明な不思議な現象である。

 

(注)弊社の問題解決法を考案したのもこの時である。すなわち怪しい体験で得られた実権条件ではあるが、科学的なSiC化の正しい反応機構を理解していればたどり着くことができた実験条件でもある。しかし、その正しい反応機構は当時不明であり(学位取得を目指した動機である)、通常単純に思いつく実験条件とも異なっていた。考えられる全ての温度パターンを実験したときにたどり着ける実験条件である。科学的に全てが解明されていない現象を技術開発で取り扱うときには、可能性のある全ての条件を実験で確認する必要がある、と痛感した。仮説による一部実施は科学的な方法だが、正しい仮説を誰でもいつでも立てられる保証は無い。毎回神頼みではそのうち神に見放される、と思い、技術の問題解決法としてまとめた。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2013.08/04 科学と技術(12)

「勝 ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」、とは勝負師野村克也氏の名言だが、科学では仮説に基づく実験を行うので、「失敗に不思議な失敗あり、成功に不思議な成功なし」となる。ところが仮説に基づく実験を行う科学の世界でも不思議な成功がある。ややオカルトのような体験になり、真夏の夜の夢ではな いか、と言われそうだが、秋も深まり始める10月中旬の栗の名産地で実際に科学者3人が体験した不思議な出来事である。

 

有機無機ハイブリッドからセラミックスを合成する企画が上司から却下され、会社の50周年記念論文にその内容を基にした事業展開を投稿してもボツになった。しかし、おりからのセラミックスフィーバーの中でファインセラミックス分野進出が全社方針と決まり、無機材質研究所に留学することになった。留学して半年が過ぎた頃人事部から衝撃的な電話が入り、その電話の内容を御指導してくださっていた猪股先生が聞かれていた。小生を元気づけるため、1週間だけ自由に実験を行って良い、との許可が下りた。

 

半導体用高純度SiCの合成実験を行うことにした。月曜日にゴム会社へ出向き前駆体高分子である有機無機ハイブリッドを合成し、火曜日と水曜日には無機材質研究所でそれを1000℃で炭化処理した。配合処方からシリカとカーボンの比率が4水準の炭化物が得られているはずである。シリカとカーボンの比率を分析している時間は無い。一発勝負でこの4水準のサンプルを4個のカーボン坩堝につめ、1600℃でSiC化の反応を行う事にした。

 

SiC化の反応は、2200℃まで昇温可能な最新の炭素抵抗炉を使用した。熱処理プログラムは田中先生が設定してくださった。シリカ還元法で必ずSiC化できる反応条件である。SiC化の反応をプログラム制御で行っていたところ、1600℃になってもヒーターの電流は下がらない。PIDの設定が悪いのか、と眺めていたところ、電気炉が突然暴走を始めた。

 

慌てて非常停止ボタンを押したところ、温度が下がり始めた。しかしアルゴンガスを流しているので下がる速度は速く、1600℃以下になりかけたので、ヒーターのスイッチを手動で入れた。電流のつまみを手動で制御しながら、1600℃15分保持した。1600℃以上であればSiC化の反応が進行するはずなので、必ずSiCができている、と確信していた。

 

翌日金曜日4水準のサンプルの坩堝を、猪股先生と田中先生同席の上取り出したところ、2水準の坩堝で真っ黄色のSiCができていた。

 

電子顕微鏡観察を行ったところ、粒度の揃った超微粒子が得られていた。その後、30分温度を保持する条件で、1600℃、1700℃、1800℃で実験を行ったが、黄色い粉末は得られるが粒度分布がシャープな粉末は得られなかった。SiC化の温度条件が粒度分布を決定していることが最初に分かったわけだが、単純に温度を保持しても市販品よりも粒度は揃っていたので、電気炉の暴走した温度条件の実験を行わない可能性があった。

 

この実験結果を製造条件に取り入れた異形横型プッシャー炉の発明に結びつくのだが、まことに不思議な成功であった。この成功要因は、SiC化の反応実験を行うチャンスが1日しかなかったので、電気炉の前につきっきりになり手を合わせお祈りしていたことである。祈りが通じて電気炉が暴走し最適条件の熱処理となった。極めて非科学的な体験だが、以後重要な実験では、気合いを入れこっそりと祈りながら実験を行うようになった。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.08/03 科学と技術(11)

昨日からの続きである。

失敗は成功の始まり、という言葉には昔から勇気づけられているが、最終的に成功しなければ、この言葉の含蓄は分からない。同様の意味として、失敗からノーベル賞が生まれるぐらいなので、失敗したからと言って失敗を軽んじてはいけない、と失敗したときに戒めたりする。

 

少し意味が異なるが、失敗を承知で行った実験からもノーベル賞が生まれているので、たまには軽い気持ちで失敗を覚悟の実験をしてみるのも良いかもしれない。なんやかやと失敗はだめなことばかりではないということが感覚的に分かってくると失敗に対する考え方も変わる。

 

ただし、ここで失敗学を論じるつもりは無い。科学的に分かっていることだけで開発を進めようとすると当たり前の成果しか得られないだけで無く、失敗を科学に反したこととして安易に片付けてしまう姿勢が生まれる問題を指摘したい。

 

仮説を立てて実験を行って、成功すれば仮説が正しかったことになる。うまくいかなかったときには、仮説の見直しをする、ただそれだけで良いのだろうか。うまく行かなかった実験について深く考察する必要は無いのだろうか。このような問題は悩み出すと精神論になってゆく。

 

科学的に実験を行う場合に、現象のある一面だけを見て実験を行っていることに気付いていない。すなわち仮説を確認するために実験を行っているつもりでも考え違いをしているかもしれない。

 

例えば先日紹介したコアシェルラテックスを目標とした事例では、コアシェルラテックスを合成することは最終ゴールではなく、ラテックスと超微粒子シリカ、ゼラチンの3成分を混合したときにシリカが凝集しない状態を創り出す、一つの手段だったはずである。

 

タグチメソッドの実験では、調合誤差を用いてあらゆる面のノイズを載せながらシステムの基本機能のロバストを確認する実験を行う。科学の実験では、仮説でモデル化された特異な条件の実験であり、そのようなことをしない。真理が確実に再現されるかどうか、極めて限定された条件を設定し、真理は一つという管理下で実験を行っている。だから科学の実験は、管理しているとはいってもノイズに影響されやすい条件で実験を行っている、と言えるので、結局大抵の失敗をノイズの影響と片付けても良いのかもしれない。だから思うような実験結果がでなかった場合に、データを平気で捏造する科学者がいるのかもしれない。タグチメソッドではデータの捏造という発想は命取りになる。

 

技術開発における実験計画の考え方と科学の世界の実験計画の考え方は異なる。しかし失敗に秘められた成功の種を見落とさないためには、失敗の価値をすぐに判断できる状態で実験を行うとよい。すなわち、非科学的かもしれないが、一度可能性のある全ての条件で実験を行い、全体を眺めてみる方法が良いと思われる。全ての条件で実験を行っているから、失敗の原因もすぐに分かる。ところが現実にはこのようなやり方はできない。しかし机上実験ならば実現できる。弊社の問題解決法にはこのような机上実験を行うためのツールが用意されている。

 

カテゴリー : 一般

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2013.08/02 科学と技術(10)

昨日までのゾルをミセルに用いたラテックス合成技術は、コア・シェルラテックスの開発過程で失敗した実験の条件に開発のヒントがあった。

 

このような事例は科学の発展の中に数多くある。例えばポリアセチレンの重合実験で、学生が触媒量を間違え導電性高分子を発見された白川先生の話がある。この話は研究目標が導電性高分子であり、ゴールが明確になっている実験においての失敗である。ゆえに失敗実験ではあるが、その実験結果を見落とす確率は低くなる。新聞では「幸運にも学生が実験に失敗した」、と紹介されていた。

 

しかし、ゾルをミセルに用いたラテックスを発見したときの開発目標はコア・シェルラテックスである。ゾルをミセルに用いたラテックスとは対極にあるゴールで、そのうえこのラテックスは明らかに失敗と判断される状態である。このような失敗は、白川先生の事例のような幸運の失敗にならない。よほど注意して実験を行わない限り、第三者から同様の技術が公開されたときに、残念に感じる失敗となる。

 

実はゴム会社で高純度SiCの開発を担当していたときにこのような残念な経験を何度もした。すなわち自分が失敗と思った実験が重要な発見に結びつく実験であった残念なケースである。観察力が無く、勘が悪いと結論づけても対策を打たなければ、このようなケースは改善されない。またこのような残念なケースでは、勘が悪いとしてかたづけてしまう事が多い。しかし3度や4度繰り返すとこの様なケースの対策が重要なことに気づく。

 

それでは失敗を残念なケースにしない対策とはどのような対策があるのだろうか。弊社の問題解決法はこの経験則も取り入れて、失敗を残念なケースにしない対策を提供している。すなわち失敗を新たな技術のヒントにする手法である。

 

一方以前にも紹介しているノーベル賞を受賞したヤマナカファクターの発見は、白川先生のケースと異なり、積極的に成功につながるアブノーマルな実験を行い、それが失敗とはならずに大発見となったケースである。山中博士は「運が良かった」と謙虚に発言されているが、あのような実験は失敗というものが新しい発見を生み出す、ということの重要性に気づいていなければできない。すなわち運ではなく頭の良い実験だったのである。

 

あらためて山中博士のお人柄に感心し、少しでもそこへ近づきたい、と反省した。この山中博士のケースも過去に紹介したように弊社の問題解決法には取り入れている。すなわち弊社の問題解決法は、頭の悪い人間が度重なる失敗経験を重ね、その対策のために生み出した問題解決法で、科学的なTRIZやUSITと異なる。

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2013.08/01 科学と技術(9)

高分子材料自由討論会の質問がきっかけで書き始めた昨日の話を少しまとめる。

ゼラチン水溶液に、シリカ超微粒子とラテックスを分散して塗布液を調製する。この塗布液からは靱性の低い薄膜しかできない。また塗布液は增粘する。塗布液中でシリカ超微粒子が一部凝集し增粘しており、ゼラチン薄膜の中でもこの凝集体が残っているため、塗布膜ではそこが破壊の起点になりひび割れしている。塗布液をどのように調製しても、ゼラチン水溶液と、シリカ超微粒子、ラテックスを別々に添加して混合する限りシリカの超微粒子の凝集体が生成する。コロイド科学では当たり前の現象が塗布液の中で生じているために、シリカの超微粒子をコアにしたコアシェルラテックスを使う以外にこの系における科学的なソリューションは無い。

 

しかし現象をよく見てみると、シリカの超微粒子は凝集しやすいがラテックスの凝集は起きにくいことがわかる。シリカの超微粒子をミセルにしてラテックスを重合し、そのラテックス溶液とゼラチン水溶液をまぜたならシリカ超微粒子の凝集体はできないのではないか、と研究開発しているメンバーに問いかけた。ただし、ゾルをミセルに用いたラテックス重合などという話はコロイド科学に存在しない(注)。

 

たまたまコアシェルラテックスの合成研究を行っていたとき、失敗した合成条件でシリカ超微粒子の表面において全く重合が起きず、シリカゾルとラテックスが安定に分散している状態を経験した担当者がいた。

 

コアシェルラテックスの重合条件としては失敗であったが、うまくシリカゾルがミセルになっているかもしれない。もう一度その条件でラテックスを重合し、ゼラチン水溶液と混ぜて状態を観察したらどうか、とその担当者に指示を出した。翌日笑顔で目的を達成したラテックスができていた、との報告があった。驚くべき事に、シリカ超微粒子が存在するにもかかわらず、その水溶液の粘度は、ゼラチンとラテックスだけを混合した水溶液の粘度と同じレベルであった。シリカ超微粒子とラテックス、あるいはシリカ超微粒子とゼラチン水溶液いずれの組み合わせでも增粘するが、シリカ超微粒子をミセルに用いた場合には、そこへゼラチン水溶液を添加しても粘度上昇が生じない。

 

この技術をすぐに製品展開するとともに、特許も出願した。しかし、本当にシリカ超微粒子からミセルができて、そのミセル内でラテックスの重合が起きているのか、三重大学川口先生の御指導を受けながらコロイド科学の視点で研究を行ったところ、本当にミセルが安定に生成していた。あたかもホワイトボードに書いた絵のようなことが実際に起きていたのだ。この技術は写真学会からゼラチン賞を頂いたが、科学が基になってできた技術ではない。むしろ非科学的な方法で技術が先にできて、それを科学的方法で現象の証明を進めた手順になっている。

 

あるいは失敗という経験を基に技術を作り上げ、できあがった技術を科学的に検証している、と表現できる。もし時間や設備の関係で科学的検証をできなくとも、技術で製品を作ることは可能である。科学的検証はを行わなくともタグチメソッドで品質の安定化が可能だからだ。ここで科学的検証を行った理由は二つあり、一つは人材育成、他の理由は技術を正しく理解し、他へ応用できないか考えるためである。後者は正しい科学的視点から技術を見直すことにより、その上に構築しようとする技術が砂上の楼閣とならないようにするためである。

 

(注)1992年当時の話で、2000年になってからコロイド科学の雑誌「Langmuir」にゾルからミセルを生成し、オイルを安定に分散した研究が発表された。

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2013.07/31 科学と技術(8:高分子材料自由討論会(3))

高分子材料自由討論会で多糖類高分子の発表をした。3年前に日本化学会から依頼され雑誌「化学と教育」に執筆した内容の一部とミドリムシプラスチックを組み合わせての報告。「化学と教育」では少し書いたのですが、18年ほど前に味の素で開発されたバクテリアセルロースに触れなかったことに関して質問があった(ミドリムシよりも昔の技術に関心が高いのか、とがっくりきた)。

 

バクテリアセルロースに関しては当時ゼラチンとの複合系で評価し、弾性率と靱性を同時に向上できる材料として注目をし、「科学と教育」には水分散性高分子フィラーとして面白い材料と紹介した。しかし、他の材料技術と比較評価したときに、コストパフォーマンスの観点であまり面白くない材料という社内の技術的位置づけになった。

 

そのため「化学と教育」では、単なる添加フィラーという用い方では無く一歩進んだ技術を紹介し、高分子材料自由討論会ではナタデココの話題とともに割愛した。そのかわりに「化学と教育」では触れなかった「おから」について少し紹介した。バクテリアセルロースよりも「おから」のほうが少し面白い話題性(注)を含んでいる。

 

ところで、バクテリアセルロースを18年前に高分子材料のフィラーとして評価したときに問題となった、脆いゼラチンを固く割れにくくする技術として、当時シリカをコアとするコアシェルラテックスが最先端の技術として議論されていた。

 

シェルを構成するラテックス成分がゴムで柔らかく、これでゼラチンの靱性を改善し、シリカという固い無機微粒子の存在で硬度を稼いでいるのだ。アナログ写真におけるバインダー技術の最終完成形としてデジタル化の波が起こり始めたときに登場した。

 

コアシェルラテックスは当時の先端技術であり、学会でも様々なコアシェルラテックスが発表されている時期でもあった。ゼラチンにゴム成分のラテックスと固い超微粒子を均一に混合しようとすると、超微粒子が凝集し、それが破壊の起点となり、脆いゼラチンはますます割れやすくなる。この3成分の混合において超微粒子のシリカの凝集を防ぐには、コアシェルラテックスが科学的に考えて最も良い方法である。

 

(科学的に最も良い方法だから科学を知っている誰でも考える陳腐なアイデアとも言える。)

 

ところで、実現したい機能はシリカの超微粒子とゴムのラテックスとゼラチンが凝集体を作らずに均一に水に分散していること、そして塗布してもその状態が維持され、シリカの超微粒子とゴム状のラテックスがゼラチンバインダーに均一に分散し、それが割れにくく固いという物性だ。

 

ホワイトボードにその状態の絵を描けば、他のアイデアを引き出せるかもしれない。ゴム状のラテックスのまわりにシリカの超微粒子が分散している絵を描くことは難しくないだろう。ゴールはその絵で、それを実現すれば良い。

 

このような話をすると優秀な科学者は笑う。コロイド科学の常識では、電荷二重層が存在するので、混合時にこれが乱れどうやってもシリカの超微粒子の凝集ができるはずだ、としたり顔で説明する。実際の開発現場ではもっと辛辣でコロイド科学を知らないからそのような発言ができる、と全員の前で馬鹿にされるような状態であった。

 

転職したばかりであったが、ポリウレタン発泡体の開発や電気粘性流体の開発を通じ一応のコロイド科学の知識を教科書程度持っていたので、シリカの超微粒子をミセルにしてラテックスを重合したらこのような姿にならないか、と嘲笑にくじけず再度提案した。

 

この提案では8割に笑いが起きたが、一人頭の上に電球が灯った社員が現れた。彼はコアシェルラテックスの合成実験をしていたときに、シリカの超微粒子存在下でラテックスを合成したら、まったくシリカの超微粒子表面で重合が起きず、コアを含まないラテックスが合成された経験を持っていた。

 

コアシェルラテックスが目標だったので、その実験条件は失敗だと思っていたが、その条件を見直せばホワイトボードの絵の状態ができるかもしれない、と発言した。開発の検討過程では失敗はつきもので、失敗という経験の中には新しい科学のヒントが隠されている可能性があり、この発言を待っていた!

<明日に続く>

 

(注)討論会でも回答したがバクテリアセルロースに関しては20年ほど前に出願された特許の幾つかが期限切れになり、ブレークする可能性があるかもしれない。ただしブレークするためには、競合するフィラーよりも価格が安くならねばならない。例えば300円/kg以下。

カテゴリー : 一般 高分子

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