消しゴムを長期間、樹脂製のトレイの上に放置していたら、くっついていた、という体験は無いか?トレイがポリスチレン(PS)で、消しゴムがポリスチレンとポリブタジエンの共重合したゴム(SBR)の場合にはこのような現象が生じる。
これはSBRとPSが混ざりやすいためだ。SBRに含まれるポリスチレンの構造とトレイのポリスチレンとは同一構造なので分子間力が高まり、接触している界面で自然と分子同士が混ざり合いくっつく。1年以上放置してあった場合には、消しゴムが溶けたような状態になっている。
消しゴムとトレイの界面では、消しゴムに含まれるSBRの分子運動性の高い部分がトレイのPSの中に拡散して相溶という現象が生じている。すなわち相溶という現象は、高分子の構造が似たものどおし溶け合う現象である。このようにPSとSBRは、接触させても相溶という現象が生じる。
しかし、構造の異なるポリマーの組み合わせでは相溶は自然に生じない。水と油を混ぜた状態を想像して欲しい。二相に分離したまま放置しておいて一相になることは無い。界面も明確にできたままである。しかし、強引に撹拌すると均一になったように見える。が、すぐに油の粒が見えてきて2相に分離する。
水と油の場合は低分子なので室温で容易に分離するが、もし相溶しない2種類の高分子を高温度で混合し、急冷したらどうなるか。もし組み合わせた高分子のガラス転移点が50℃以上の場合であれば混合したときの状態を長期間維持している。すなわち混合したときの分散状態できまる構造のポリマーアロイを製造することが可能である。
例えば公知の混練方法でポリフェニレンスルフィド(PPS)と6ナイロンを混練するとその比率でコンパウンド中の分散状態が変化する。例えば一方が30%以下であれば数ミクロン以下の粒子が分散したような状態の構造であるが、一方が30%を超えた当たりから数十ミクロンから1mm程度の粒子までコンパウンドの中に観察される。
PPSに10%ほど6ナイロンをカオス混合すると透明な樹脂液が吐出される。そしてこれを急冷するとPPSと6ナイロンが相溶したコンパウンドが得られる。初めてPPSと6ナイロンが相溶した透明な樹脂液が吐出されるのを見たときに大変興奮した。高分子の相溶は分子構造が似ていなくともプロセスコントロールで実現できるという事例。特許は多数公開されている。
カテゴリー : 高分子
pagetop
静電気で悩まされる冬も終わり、春めいてきた。静電気で思い出されるのは、フィルムの帯電防止技術を担当したときに見た光景である。
印刷感材でクレームが発生した、と言うことで、営業担当に連れられて印刷工場に出向いた。印刷工場の見学は初めてで仕事でなければ楽しめたのだが、クレームの原因がどこにあるのか考えなければならないので、必死でした。とにかく、アースがとられているかどうかといった、工程内の帯電防止のイロハを実践した。
報告を受けていたクレーム内容は帯電防止されたフィルムが稀に機械に引っかかり、工程が停止するという内容だった。現場で説明を受けている時には問題なくフィルムが流れている。と、その時である。一枚のフィルムが、搬送途中で金属のガイドにくっついた。説明によれば、機械に引っかかる現象とはこのことで、静電気でフィルムが金属のガイドにくっついている、とのこと。
お客様の話では、4時間に1回くらい発生する故障なので、今回早めに見ることができたのは幸運だという。しかし、である。導電性の高い金属に静電気で帯電防止されたフィルムがくっつく現象が起きることを発見してびっくりした。他社のフィルムでは発生していなかった現象と説明され、営業からは必ず解決するようにプレッシャーをかけられ、不思議な現象を楽しんでいる余裕は無かった。
営業からクレームの内容が帯電現象として事前に説明を受けていたので準備してきたサンプルを工程に流したところ、ある集団のフィルムが現象をうまく再現する。実際は金属に帯電したフィルムがくっつくところを見てびっくりしていたのだが、お客様の手前、はったりを噛まし、原因を理解できたので今後は改善したフィルムを納入します、と約束した。
原因はフィルムが特定のインピーダンスであると金属にくっつきやすくなるのだが、くっつく相手は導電体である。教科書に金属でも帯電する、と説明されているのだが感覚的に現象を理解できない。結局特定のインピーダンスの領域にならないよう帯電防止層の処方を変更してクレームを迅速に解決できたのだが、未だに発生した現象を科学的に説明できていないだけでなく、気持ちが悪い思い出として残っている。営業担当には、当時「金属でも帯電すると言われていたのは本当でしたね」と言われても、言っていた本人は未だに気持ちが悪い。
カテゴリー : 電気/電子材料
pagetop
高分子の混練技術についてわかりやすく説明された書籍を見たことが無い。一見学術的に書かれていても、論理の緻密さに欠ける説明も多い。混練で起きる現象は設備と混練物との組み合わせで様々だから説明が難しいのは理解できる。
混練は剪断流動と伸張流動の二つの組み合わせで進行している、と大雑把に理解できればそれ以上の内容は実技の中で習得してゆく以外に方法はない。例えば、スクリューデザインをもとにシミュレーションを行ってもおおよその温度上昇曲線は当たるが、それ以上の情報はシミュレーション技術で得られない。このシミュレーションで得られる温度上昇曲線については、数回実際に混練を経験すれば予想できるようになる。混練技術については未だに経験が学術成果に勝る分野である。
30数年前にカオス混合という神秘的な混練の概念を教えて頂いた。パイ生地や餅つきで起きる混練の現象である。ロール混練でも起きているらしい、と教えられた。教科書にはロール混練で起きる現象は伸張流動と剪断流動としか書かれていない。また、カオス混合の概念も書かれていない。最近では偏心ロールをモデルに発生した流れを解析したカオス混合のシミュレーションによる説明が出てきたが、餅つきやパイ生地で発生している練り、という説明のほうがわかりやすい。
混沌(カオス)混練だから、それを連続生産の中で行ったらものすごいことが起きるのだろう、と若い時にロール混練を行いながら考えた。高純度SiCの発明を行ってから、混練技術を担当する機会が無かったが、退職前の5年間中間転写ベルトの押出成形を担当したときに、外部の樹脂メーカーに混練技術が無く良いコンパウンドを供給して頂けなかったので、自社開発することになった。製品化期限まで半年しかないので、「ここはカオスしかない」と決断し、若い頃のアイデアを実行したところ一発で成功した。
有名なフローリーハギンズ理論では否定されるPPSと6ナイロンの相溶現象を起こすことに成功した。それもコンパチビライザーを添加しないで実現できたのである。分子量分布を計測してみても分子の断裂は起きていない。混練だけで分子レベルの混合が進行したのである。高分子学会賞に推薦され報告しましたが残念ながら受賞できませんでした。しかし、PPSと6ナイロンが相溶し透明な樹脂液が連続して吐出された状態を見たときの感動は最高でした。学術では否定されても技術では実現されている世界が存在するのが高分子物理の現状である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
昨晩のNHKの放送で大人の発達障害を取り上げていた。10数%いるという。その人達が今職場で問題になっている、と取り上げていたが違和感を感じた。
これは社会全体の教育「機会」が減少してきた問題として取り上げるべきであろう。その結果として大人の発達障害と類似の大人が増えてきたのではないか。発達障害ではなく、社会教育機会の喪失で顕在化した現象のように思われる。テレビで説明されていたように、アスペルガー症候群の人物が10数%以上本当にいるのかどうか学者は真剣に取り組むべきである。10数%以上という数値に疑問がある。
また、放送で述べていたような、社会が持っていた教育「能力」の低下がアスペルガー症候群を生み出している、という結論に至る過程に少し不満を感じた。昨日の放送では、社会全体の教育能力の低下の原因について掘り下げず、ことさら発達障害の説明に終始していた。
例えば柔道界の体罰事件と内柴事件は、ニュースにおいて異なるカテゴリーの問題に扱われている。しかし、どちらも教育に関わる問題である。教育システムさえうまく機能しておれば内柴事件も体罰事件も起きなかったはずだ。野獣のような人物を指導者に任命したり、かつては問題にならなかった指導者を匿名の集団で告発したり、このような現象をどこかおかしいと考えず、事務的に問題解決の処理を進めてゆく社会が正常であろうか。
体罰だけを取り出せばだれでもそれが良くない手段であると分かっている。しかし指導者を育成するシステムがおかしくなっていることに気がつかないのでは根本的な解決につながらない。内柴事件でも指導者として充分教育されなかった人材を指導者に任命したからこそ発生した、猫に鰹節の番をさせたような事件である。内柴被告の発言を聞く限り、指導者としてまともな教育を受けてきたように思われないが、一応指導者教育を受けているらしい。ただし教育とはその講義を受けた内容について一朝一夕に効果が現れるものではなく、現場におけるコーチングの機会が必要である。
テレビでは人材育成の余裕が無くなってきたために発達障害が顕在化したという説明になっていたが、人材育成は経営の重大事で有り、各企業最低限のプログラムを用意しているはずである。それよりも、いま職場では標準化が進み、仕事のやり方がマニュアル化されていることが問題のように思われる。マニュアル化される以前は、メンターが仕事のやり方を教え、そのビジネスプロセスを指導する過程でヒューマンプロセスも伝承していたのだが、標準化が進みその指導時間を合理化すると同時にヒューマンプロセスを指導する「機会」までも無くしてしまったことに根本的な問題があるのではないか。時間を短縮することと機会そのものを無くすことでは、その影響は異なる。
もしそうならば、余裕が無くなったからではなく、標準化の進め方を間違えたのである。そこへワークライフバランスなどを導入したので技術の伝承も含めた人対人による教育機会が吹っ飛んだのである。余裕が無いという考察とワークライフバランスがもてはやされている現実は矛盾している。標準化が進められた企業のOJTも含めた社会教育機会の見直しが今考えなければならない問題のように思われる。
弊社はこのような状況で社会教育が事業になる、と考えスタートしました。コーチングと組み合わせた問題解決プログラムを販売しているのは、ヒューマンプロセスの伝承方法を学ぶ題材として適しているからです。この事業は当初BtoBで考えていましたが、個人研修でも対応いたしますので仕事をうまく進めるのが苦手の方は弊社までご相談ください。
カテゴリー : 一般
pagetop
製造業が中国やベトナム、タイへ出て行く中、日本で頑張っている製造業もある。例えば射出成形メーカーは国内に50社前後ある。百円ショップの製品を見てもメイドインジャパンの印字がされている商品がある。説明文が日本語なので、表記は日本製で良いと思うが、多くは「made in JAPAN」と書いてある。
日本に製造業が皆無くなってしまうのか、とも感じたことがあったが、自動化が進んでいる製造業は、日本でも充分やっていける。日本製と書かずにあえて「made in JAPAN」と書いているようにも見える。
日本だけで射出成形事業を行っている会社は、30社あまりあり多くは金型技術も社内に持っている。100円ショップの製品重量を測定してみると100g以下の製品が多い。材料費は高々20円だろう。国内の射出成形メーカーの多くは単に成形機の自動化だけで無く、何か特徴を持っている。例えば迅速、衛生、複雑、精密などの熟語が会社案内に書かれている。
100円ショップに並んでいる日本製の商品からこれらの熟語は感じられないが、おそらく売れ筋商品の場合、100円ショップではQCDのバランスから日本製になっている事情もあると思われる。
国内の製造業に何を残すか、という議論は今も聞くが、経済原理により議論の結論が出る前に淘汰されてゆく。半導体メモリーは射出成形よりも高度な技術なので、云々という意見を聞くとモノ創りの本質を知らない意見だと思う。射出成形技術でも半導体メモリーの製造技術以上に高度な要素があることを知らない人が多い。
射出成形に関連した難解な物理現象として、例えばフローリーハギンズ理論という高分子の相溶理論があるが、まだ理論として完璧では無い。20世紀に半導体分野の理論のほとんどが確立されたが、高分子物理は、試験の成績で表現するとまだ55点。そのような状態でも製造技術として国内で成立している射出成形メーカーは、残りの45点分のノウハウを持っていることになる。
教科書に書かれている技術レベルと教科書には書かれていない技術レベルが存在することに気がつくと、国内に残っている射出成形会社の凄さが見えてくる。多くは中小企業だが、今回の補正予算では、この中小企業に活力を与える施策が盛り込まれている。ようやく日本の政治に製造業を大切にする動きが見えてきた。二番でも良い、という見識では日本に製造業は残らない。
カテゴリー : 高分子
pagetop
樹脂を難燃化するために難燃剤を添加する。難燃剤が無機フィラーであれば脆性の低下が、液状であれば可塑剤として働くために弾性率の低下が問題になる。樹脂を難燃化する時に力学物性の低下は避けられない問題である。力学物性のバランスをとるためにポリマーアロイという手段がある。
しかし、液状もしくはTgが低い難燃剤で力学物性の低下よりも問題が大きいのはブリードアウトという現象である。ブリードアウトという現象は身近な製品で誰でも経験しているはずです。例えば皮状のケミカルバッグやケミカルシューズ、電化製品例えばPCのマウスに使用されているゴム状の部分。長年使用していてべたべたしてきたことはありませんか。
これは、樹脂を柔らかくするために添加していた可塑剤が外に滲み出てきた現象です。構造が異なる分子を混ぜると相分離という現象が生じます。例えば水にヘキサンという有機液体を分散し激しく撹拌し静置しますと2層に分離します。これが相分離という現象で、構造が異なる分子どおしを混合しますと必ず生じる現象です。
樹脂に何か有機物を分散しても構造が異なれば相分離し、表面に浮き出てきます。これがブリードアウトという現象で樹脂製品の外観品質を悪化させます。ブリードアウトという現象は、物質の拡散で生じており、温度が高くなると早く発生するようになります。その時間スケールは物質の組み合わせで様々で有り、製品寿命の間に発生しないように材料設計することは可能で、樹脂製品の多くはそのように設計されています。
難燃剤のブリードアウトで見落としがちなのは、表面で難燃剤の濃度が高くなり、金属が接触していた場合には錆を引き起こしたり、電気製品であれば絶縁性を低下させたりする原因になる故障です。ゆえに難燃性樹脂の促進試験では、市場環境あるいは市場における使用方法を想定した促進試験が重要になってきます。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
pagetop
問題解決をこのように考えますと、答を実現するアクションについて答を決めた時に気がかりになるはずですから、答から逆向きに考えるのはものすごく自然な行為になるはずです。そして問題解決の一番最初にしなければならないことは、答すなわちあるべき姿を具体的に決めることであり、これが具体的に決まりますと難しかった問題について解決の糸口が逆向きの推論で明確になります。すなわち問題解決力とは、あるべき姿を具体化できる意思決定力のことだと思います。そして具体化されたあるべき姿に向けて行動を起こせば人生のあらゆる問題は解決されてゆくと思います。
カテゴリー : 連載
pagetop
1万Ωcmから10が10個前後並んだ領域までの体積固有抵抗を持つ材料を半導体という。下限を1000とか10万Ωcmとしている教科書もある。上限も12個程度10が並んだ領域まで半導体領域とする教科書もある。半導体とは、適当に電気を流してくれる材料なので、その物性も適当に扱われているように見える。
しかし、実用化するときには、厳密なスペックの中に物性をおさめなければならない。これが難しい。例えば、導電体であるカーボンや金属粉を絶縁体である高分子に分散して抵抗を調整しようとすると偏差が4桁以上ばらつく場合も出てくる。
パーコレーション転移が起きるためである。たまたま実験室で安定にできても安心できない。確実にパーコレーション転移を制御できる材料設計を行わない限り、自然現象に任せていてはロバストの高い商品はできない。
絶縁体に導体を分散して半導体領域の材料を設計する場合以外に、金属酸化物半導体もその抵抗は大きくばらつく。難黒鉛化カーボンもロットにより2桁程度抵抗偏差が生じる。半導体領域の材料は、うまく設計しない限り2桁以上は抵抗がばらつく、という常識を持っていた方が良い。たまたま測定値が安定な材料が得られたときに、その原因や理由が明らかになっていなければ安心してはいけない。
コニカへ転職して間もないときに帯電防止材料の新規アイデアを相談してきた人がおり、アイデアを話したところ、その後なしのつぶて。たまたま相談者と廊下で出会ったときに、進捗を聞いたところ、「うまく進捗しているからほっといてくれ」という意味に近いことを言われたので、ばらつきの制御だけは注意するようにアドバイスしたが、その1年後帯電防止層の品質問題が起きて、仕事が自分のところへ回ってきた。量産が始まったところで導電性が2桁程度ばらつき、問題だ、とのこと。帯電防止層の処方を見たら、ただ材料を2種類混ぜているだけで材料設計されていない処方であった。技術を甘くみてはいけない。
実は材料物性において、導電性はその偏差の大小が材料および設計方法により大きく異なる。力学物性よりも測定値の偏差は小さいと思っているととんでもない失敗をする。導体である銅でも純度が管理されなければ1桁程度ばらつく。半導体領域になるとそのばらつきが目立つようになるだけと考えると気楽だが、商品の中には1桁以内に偏差を抑えることが要求される場合もあるので高度な技術が必要になってくる。
この材料設計では、複合材料で半導体を製造する場合と単一組成で半導体を製造する場合とでは戦略が異なる。ただし、プロセスの負荷が小さくなるように設計する方針で考える、あるいは、プロセスの負荷が大きくなる場合には既存のプロセスに改良を加え生産の安定化設計を行うなど、共通する部分もある。大切なことは、半導体領域の材料設計が、絶縁体や導電体よりも安定した物性を造り込むことが難しい点を認識することである。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
pagetop
思考実験はニュートンにより始められた、と言われていますが、案外遠い昔から無意識に行われていた方法かもしれません。それをニュートンは無意識ではなく意識的に行い、それを発明のために良い方法だと気がついたマッハは、弟子のアインシュタインに教えたのでしょう。
祖先が無意識にやっていた経験に基づく問題解決を、科学の時代には科学的方法論でまとめ上げ、それを教育というシステムの中で伝承するようになり、本来人間に備わっていた勘や心眼による方法が軽視されるようになりました。
しかし、山中博士のノーベル賞を受賞した研究から、勘や心眼が持っている問題解決力のポテンシャルを改めて見直しても良いのではないでしょうか。幸いなことに勘や心眼は日常の生活の中で鍛えることができます。さらに、本書で紹介しました問題解決法は、勘や心眼を鍛える道具として使えます。
従来の問題解決法が役に立たない、と否定しているのではありません。そもそも問題を解くとは、答がある問題について答を実現するアクションを考えることなのです。問題そのものを科学的に分析して答を導き出すという行為は、科学者が答を見出すために行う一つのプロセスなのです。従来は問題を解く意味と答を見出すプロセスをごちゃまぜにしていただけです。答を見出すのに、科学的プロセスも使えますが、科学の無い時代のように勘や心眼、さらに経験までも使うことができるはずです。
<明日へ続く>
カテゴリー : 連載
pagetop
カラスは、自動車を使い殻を割りクルミの実を食べるという方法を発見して動作として身に着けたのだろうと思います。他のカラスは、仲間がやっている方法を見て真似をすることでそれが広がっていったのではないでしょうか。
ここで重要なのは、クルミの硬い殻が自動車に轢かれて割れて中から食べられるおいしい実が出てくるのを最初に発見したカラスは、誰なのかということです。すなわち、彼こそがクルミの実という答を発見し、その答を導き出すアクション、すなわち車に轢かせて硬い殻を割るという方法を考案したカラスの世界のノーベリストです。
カラス如きに考案という熟語がふさわしく無いとするならば、この答とそれに直接結び付くアクションがワンセットであることを木の上から偶然見て、その同じ光景を仲間に見せることでその方法を伝承していったのです。すなわち彼は、硬いクルミの実を食べるにはどのようにしたら良いかという問題を偶然の発見により解くことができ、経験を積み重ねながら仲間たちに伝承していったのです。
科学の無い時代における技術の伝承も、おそらく人類はカラスと同じことをやっていたのではないかと想像できます。ただ、人類がカラスと大きく異なるのは想像力という万能シミュレーターを持っていたことです。
硬いクルミが像に踏まれることにより割れるのを見た人類は、像の代わりに自分で踏んでみることを試みたのかもしれません。そして自分の代わりに道具で硬いクルミの殻を割る方法を発明したのではないかと思います。
あるいは「像」に踏まれて硬いクルミの殻が割れるという発見から、「重いもの」に踏まれて硬いクルミの殻が割れるとか、「重い石」でクルミの殻が割れるとか、つぶやきながら頭の中でクルミの殻が割れるシミュレーションを行い、像によるアクションから石という道具の発見があったのかもしれません。
<明日へ続く>
カテゴリー : 連載
pagetop