製品化ステージでコンパウンドの内製化など提案しても反対されたかもしれないが、運よくグループ内の別会社でコンパウンド工場を立ち上げることができ、外部購入のコンパウンドと同等の扱いで開発を進めることができた。開発を進めた、といっても土日を利用したボランティア活動だ。製品化ステージなので集めなければいけないデータは生産に関わるデータだけである。根津にある中小企業のご厚意で実験を進めることができた。
休日にそのような努力と苦労をしていたことなど同僚の誰も知らないと思っていたら、問題社員のひげ親父だけは気がついていたようだ。出世するとたいへんですな、と言ってきた。この仕事ができてもこれ以上出世できる年齢ではないので出世目的ではない、と答えたら、俺も最後の仕事だからいい仕事をしたい、と言ってきた。
まっとうな人物で安心した。臭いのきつい煙草をパイプで吸い、サングラスをかけて現場で仕事をしているその姿は、およそサラリーマンの姿ではなかった。この姿は最後まで変わらなかったが、仕事に向かう姿勢は出会った時と180度変化し、積極的になっていた。知識欲も旺盛であった。
二軸混練機など扱ったことが無い、というので面白い男と二人並べ混練の講義を行った。当方も二軸混練機の扱いは初めてだった。しかし中古機の整備など土日のボランティア活動で薀蓄を語れる程度にはなっていた。その上混練の教科書には書かれていない高分子融体のレオロジーについて講義をしたので先生と呼ばれるようになった。ゴム会社で教えてもらったことがサラリーマン最後の仕事で活きた。
できあがった技術もカオスだがこの時の二人も多分にカオスであった。ただこの二人がいなければ、短期の生産立ち上げから安定生産維持に至るまで供給をショートすることなく立ち上げることができなかった、と思っている。
この二人がどこまで技術を理解して仕事に臨んでいたのかは不明であるが、メヤニはじめ工程で発生した細かいトラブルの対応は見事だった。科学的ではなく、現場的発想のヒューマンプロセスで動きに無駄は無かった。人手もなく予算も無かったので問題解決できればそれでよし、という姿勢を貫いた。お互いが初対面で性格もカオスであったが、量産開始後は安心して二人に仕事を任せていた。
ただ、化学工場の中でひげ親父に堂々とパイプを吸われた時には慌てた。マネジメントで苦労したのは、プラントからは遠かったが喫煙室まで行く習慣をつけなければいけないことぐらいであった。
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実用化された技術は、中古の二軸混練機の先に弁当箱よりも少し大きめの箱が取り付けられただけのシンプルな装置である。大きな弁当箱には、ある幅のスリットが3本内蔵され、ストランドを押し出すための穴が前面に幾つか開いている。このような単純な構造だが、その穴からは、フローリー・ハギンズ理論を信じていては理解できない樹脂が吐出する。
PPSと6ナイロン以外では確認していないので他の樹脂でどのようになるのか不明である。特許を書くためにPC/ABSで実験を行ったところ、驚くべきことに細かく均一に分散したゴム相だけが見える高次構造の写真が得られた。興味のある方は特許を見ていただきたいが、明らかに二軸混練機だけで混練した場合と大きく異なる高次構造である。二軸混練機だけの場合には、不均一なゴム相と他の樹脂相の分散した高次構造が観察される。
科学的な研究も技術開発もほとんど行わず、いきなり生産機を立ち上げたのはこれが初めての経験だった。日本化学会技術賞を受賞した高純度SiCのパイロットプラントを立ち上げた時には、独自開発した2000℃まで測定可能なTGAを用いて速度論的解析を済ませていた。実現すべき機能が明確になっており、それを達成できる手段があるならば、科学ですべてが証明されていなくても技術を作り上げることができる。
科学の無い時代でも技術が存在し進歩できたのは、人類の欲求が機能を明確にし、試行錯誤で達成手段を探すことができたからだ。科学の時代になり、人類は科学の成果に期待するようになった。科学の成果により機能や達成手段がパーツのごとく提供される時代である。そのおかげで技術者は科学の恩恵を受けて科学の無い時代よりも速いスピードで技術を進化させることができた。
その結果、学校教育も科学一辺倒となりネコも杓子も科学的な思考プロセスで問題解決するようになった。確かに科学的プロセスは論理的であり、その結果に誰もが納得する。但し科学で解明された分野は未だ自然現象のほんの一部分であることを忘れている。たとえば高分子融体については科学的に不明の部分が多いにもかかわらず、高分子材料技術者は多く残されている未解明な領域で技術を創り上げなければいけない。そのような状況でも技術者に科学的な答えを要求するケースを見かける。
技術者には技術者特有のヒューマンプロセスがあるはずで、それは時々KKDと揶揄されたりするが、それを大切に伝承する風土がメーカーには必要である。ゴム会社ではそのような風土が存在したが、残念ながら写真会社ではそのような風土を築くことは否定された。科学的プロセス以外は認められなかったのである。弊社の研究開発必勝法プログラムはゴム会社で考案したヒューマンプロセスを独自ツールで使いやすくしたプログラムである。
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若い技術者1名と技能者1名でコンパウンド内製化チームを作った。当方も現場で作業をしなければならなかったが、短期決戦では少人数により効率をあげることができる。特許に公開されているように3mm未満のスリットへPPSと6ナイロン・カーボンが混練された状態で通過させるとフローリー・ハギンズ理論で否定される現象が生じる。すなわちPPSと6ナイロンの相溶が起きて、PPSのTgは85℃まで低下する。
中古機の検収条件として、PPSと6ナイロンだけ混練し透明になることを記載した。この検収条件は科学に反するが、量産開始3ケ月前に一発で検収に成功している。コンパウンドの内製化工場は大成功だった。立ち上げて7年近くになるが問題なく稼働しているようだ。
さて細いスリットへ高分子の混合物を流すアイデアは、1995年にウトラッキーがEFMという装置で実現している。ただ、これは鋭利なスリットを使い、伸張流動を発生させる装置でカオス混合を狙った装置ではない。特許に書いたように平行な距離が10mm以上のスリットでカオス混合が起きる。ロールと同様に剪断流動により生じる急速な伸張で二相界面の規則性は無くなりカオス混合となる。
急速に引き延ばされているので伸張流動という呼び方になるのかもしれないが、スリットの間隙が狭いことから発生する大きな剪断力がカオス混合を実現している、と考えている。この技術実現のためにアイデアは30年以上練られたが技術を実現するために費やされた時間はせいぜい数ケ月である。十分な科学的研究は行われていない。
KKDと批判されてもいいような技術であるが、科学に先行する技術とはそのようなものだ。iPS細胞でもできた当初はKKDの賜物である。KKDと科学を節操も無くブレンドして推進されたのがSTAP細胞だ。
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押出成形技術については、新入社員時代の工場実習でゴム会社の職長から学んでいた。コンパウンドが作りこまれていなければ品質を維持できない、「いってこい」の世界である、と習った。押出工程でできるのは金型の温調ぐらいしかないので、コンパウンド段階で性能を作りこまない限り成形体の品質を安定にできない技術である。
このテーマのコンパウンドで目標性能を作りこむプロセスとは、カオス混合以外考えられなかった。さらにそのアイデアもこれまでの経験から十分に熟成できていた。あとは商品化直前のステージで行う方針変更について周囲を説得する戦術だけであった。
大きな問題は内製場所と予算だった。コンパウンドの内製化はテーマに含まれていなかった。ただこの問題は、二つの企業が統合するに当たりカンパニー制になっていたので、他のカンパニーに依頼すれば解決できる。本来ケミカル会社は現在の電子写真の子会社で会った方が良かったのだが、なぜか幸運にもコーポレートの研究を行う会社の子会社になっていた。ゆえにこのケミカル会社にコンパウンド工場を作ることを決心し調整を始めた。
次に金の問題である。製品化テーマのため開発予算変更は製品価格に影響するので、大幅な変更はできない。ただ、投資を1億円以下にして、数種類の製品でコンパウンドを活用するシナリオにすれば、新たな投資金額を誤差の範囲にできる可能性があった。また二軸混練機の納期は通常半年以上かかるので中古機以外に選択の余地は無いので1億円以下でプロセスを組み立てる見通しも立った。
残るのは人の問題である。製品化まで1年しか無い状態でコンパウンドの内製化技術を立ち上げるとなるとそれなりの人数を割かなければいけない。押出成形技術だけでもいろいろな問題を抱えていた。当方も工数を割かなければ内製化プラント立ち上げまでやりきれないことは見えていた。
また短期決戦では、少人数活動で効率を上げたほうが成功率が高くなる。すなわち、外に出せる業務は可能な限り外部に委託して、外部に委託できない仕事だけを行う方法である。金はかかるが、計画を立てやすい。幸い面白い男は教育のため当方の下につけていた。さらに現場には一名仕事はできるが問題社員のひげ親父がいた。
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朝のミーティングでカオス混合装置の話をしたが、マネージャーからはコンパウンドをどこで作らせるのか、という現実的な話になった。このテーマでは、PPSと6ナイロン・カーボン系のコンパウンドを外部コンパウンドメーカーAから購入して押出成形技術を創り上げることがミッションだった。
製品化まで1年という期間のテーマ、すなわち製品化ステージに入っており、新たに混練技術を内製化する、という変更ができない状態だった。しかし、PPSと6ナイロンを相溶させる以外にこのテーマを成功させる道は無い。結局カオス混合技術を外部コンパウンドメーカーAで実現する以外に道は無かった。
そこで、混練プロセスの見直しを行いたい、という申し出を行ったところコンパウンドメーカーAは非協力的だった。説得するために納入されているコンパウンドの混練方法について少し見解を述べたら、素人は黙っていろ、と同等の厳しい言葉を言われた。
伸張流動が注目されていた時代である。そんな時代に剪断流動を重視した混練を提案しても否定されるのは分かっていた。さらにフローリー・ハギンズ理論に反した結果でこれを信じて1年以内に生産プロセスを作れ、といっても無理な話であることは当方も理解していた。しかし、PPSと6ナイロンを相溶させパーコレーション転移のシミュレーションから導かれた最適なカーボンクラスターを実現するためには、二軸混練機におけるスクリューセグメントの設計から見直したかった。
いくら説明してもダメだった。コンパウンドメーカーAの技術営業の頭が硬いのではなく当方を信じていない、ということが分かった。コンパウンドメーカーAの技術者も自信があるのであろう。当方が担当している押出技術さえ完成すればこのテーマは成功する、とまで言ってきた。早い話が押出成形技術の未完成はコンパウンド技術ではなく当方の責任、と言っているようなものだ。
当方はカーボンクラスターの説明からカオス混合の可能性まで一通り情報提供したが、ムダだった。質問すら無かった。信用が無い、ということはコミュニケーションもおかしくする。せっかく面白いデータが出て、それをすぐに業務へ反映させようとしたが、外部の協力が得られず頓挫した。コンパウンドメーカーAへの対応はマネージャーに任せ、内製化の準備を始めた。
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昨日まで表題の討論会に参加していた。表題の討論会は、昭和30年代後半高分子の物性加工で分からないことが多かった時代に、学会が主催する講演会では時間が少ないのでゆっくり討論できる時間を取るためと官学交流の場として企画されたそうだ。
当方はゴム会社から写真会社に転職した20年前に東大N先生に紹介されて参加している。参加のきっかけは、ゴム会社で半導体用高純度SiCの冶工具事業を立ち上げ、FDを壊されるという事件で転職したばかりの頃、転職先の高分子技術のレベルが低く、当方が研究管理だけやっていたのではだめな状況だったから。
自らが技術を引っ張りあげなければレベルが上がらない、と考え、N先生にご相談した。N先生はゴム会社の先輩に当たり、当方のキャリアがセラミックスであったこと、そして学位を取得したばかりだったことなど考慮してくださり、この討論会を紹介された。
今回の討論会もそうだったが、学会の講演会と異なり、研究としてまとまっていない話題が多い。だから問題点が明確になる。面白い討論会である。また学会発表であれば聞きに行かないであろうテーマの講演もホテルに夜9時まで拘束されるので聞くことになる。
勉強の場として初めて参加したときにレベルの高さについて行けなかったが、門前の小僧習わぬお経を読む、のごとく、2回程参加したところ高分子の先端の話題を理解できるようになった(注)。門外漢には便利な討論会である。
ただ20年近く参加してきて感じていることは、アカデミアから新しい話題が無くなってきたことである。AFMの見直しや高分子の管モデルからの脱却、粗視化の工夫など温故知新的な取り組みには、期待できそうな香りがあったが。
環状高分子の精密合成のようなそれを研究して何に役立つのか分からないようなテーマと思われる講演もあった。ところが、20年近く聞いてきたので感動もしないと思われた環動高分子の基礎と応用で、環動高分子を微量添加したときの物性変化の話題が、このテーマと頭の中で結びつき、疑問に思っていたことが氷解し感動した。
科学の真理の中には、社会に役立つどのような機能に結びつくのか分からないものもある。だから基礎研究はもう不要というのは乱暴で、このテーマのように真理が確定したことで、それを活かすアイデアが生まれる場合がある。科学の研究にムダはない、といった物理学者がいたが、自然界の真理を確定する成果が出る限りにおいて恐らくそれは正しいのだろう。じっくり聞ける講演会の長所である。
(注)OCTAの世界を勉強できたのもこの講演会のおかげである。写真会社の後半の仕事に勉強の成果を活かすことができた。前半の仕事は、酸化スズゾルのパーコレーション転移制御のように「高分子」が無くても出せた成果が多い。
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押出成形機の最大速度で押し出したベルトの電子顕微鏡写真には、6ナイロン相の島が無く、さらにカーボンクラスターの形状も変化していた。面白い男の大発見である。さっそくTダイを手配して、並行スリットの実験を行った。詳細は省略するが、期待していたデータだけでなく面白い結果もたくさん得られた。単身赴任してからアイデアが行き詰まっていただけに喜びもひとしおであった。
分かってしまえば簡単な答でもなかなかそれが見つからない時がある。間隙の狭い並行スリットに樹脂を押し出す実験を行えばすぐに答が得られたわけだが、それが分かっていても、身近に装置がないのでできない、と一度思い込んでしまうと隘路にはまる。その様なときには他人に話してみると良い。この事例のように、他人の頭を借りて自分が陥った隘路を打開するのである。
面白い男の素性が分かっておれば素直に相談したが、まだ転職してきたばかりなので、素直に相談しても相談された側が困るのではないかと遠慮していた。しかし、現場で何気なく話したことで一気に解答が得られた。ところが、彼はその答を得ようとして努力したわけでもなく、むしろ上司の話した内容の否定証明を行おうと思って実験して、思わぬ発見をした。彼はセレンディピティーが優れている。
ところで、科学において間違った命題の否定証明では予期せぬ結果が出るものである。
PPSと6ナイロンはχが大きいので相溶しない。だから成形装置の能力上限で製造したベルトではPPSと6ナイロンは相溶していないだろう、上司の考えを否定するには試作ベルトの結果と装置能力上限のベルトの結果を揃えて報告すれば良い、と彼は考えたのだ。
PPSと6ナイロンはχが大きいのでベルト成型の過程では相溶しない、という前提条件が、この否定照明において間違っていたために、予期せぬ結果となりDSCで測定したTgが大きく下がった。そして電子顕微鏡観察で6ナイロンの島が消失しているデータから新たな真実が生まれると同時に機能が明確になり、開発テーマを成功に導くプロセシング技術の設計が完成した。
自分一人で思い悩むよりも他人を巻き込んでアイデアを練った方が良いアイデアになる。三人寄れば文殊の知恵とは良い言葉である。今回の場合は犬も歩けば棒にあたる、のほうが良いかもしれない。
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面白い男が出社したのでマネージャーとともに呼び出し、15分ほどミーティングを行った。実験結果の説明を受けながら、金型の図面を見て驚いた。リップ部の設計がPETの押出成形で用いていたTダイと少し異なり、並行平面となっていたのだ。
そして面白い男はPPSと6ナイロン、カーボンの組成のベルトをサンプリングするときに、試作していたベルトではなく、試作終了後に押出機に残っていたコンパウンドを清掃のため装置の最大速度で押し出したベルトを採取していた。
なぜそのベルトをサンプルにしたのか尋ねたところ、試作で流れているベルトについてはすでに過去に測定済みで、少しベルトのTgがコンパウンドのそれよりも下がっていることを知っていたからという。さらに、最大速度で押し出したベルトでも同様の結果であれば、上司の言っていることは間違っている、と自信を持って報告できると考えた、と応えてきた。
頼もしい男である。当方は、普通に押し出したのではベルトのTgとコンパウンドのTgが大きく変化しないことは知っていた、と自分で測定したDSCのデータを見せた。さらにDSC以外に自分で計測していた粘弾性のデータを見せて、粘弾性の装置の中で混練を進めるとTgが下がってゆくという現象を説明した。
彼の目が輝くのが分かった。そして彼は口を開き、ご自分で計られたのですか、感動しました、と言ったので、どう思う、と問いかけたら、以前の会社の上司は、決して自分で実験をしない人だったので、と脱力感を味わう答が返ってきた。目が輝いたのは、部長にもなって実験をしている上司に対して驚いていたのだ。
感動して欲しかったのは、粘弾性測定装置のパラレルプレートを回転させて混練を行うと、損失係数のピーク温度が下がってゆく現象だ、と説明した。そして、ベルト成形機の押出速度を上げて実験を行うと、このデータを再現できる可能性があり、それを君に指示しようと思っていたところだ、と付け加えた。
すごいですね、予想されていたのですか、と彼は驚いていた。素直に驚かれると金型のリップ構造を知らなかった当方は恥ずかしいが、兎に角カオス混合を実験できそうな装置が身近にあることが分かった。
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頭の中にカオス混合を実現できる機能とその装置の構造が浮かんでいても、それを実証できる設備が無かった。本当は東工大の実験装置を借りて実験を行いたかったのだが、6ナイロンでは透明になりません、といわれたので頼みにくくなった。
豊川へ単身赴任してから、毎日カオス混合を実現できる実験装置のことばかり考えていた。単身赴任した同じ頃に面白い男が某ゴム会社から転職してきて部下になった。ゴムベルトの開発を担当していて面白くないから、というのが転職理由だったが、転職先でまたベルトの担当になった、と嘆いていた。面接の時に業務内容を聞かなかったのか、と尋ねたら、電子写真のキーパーツ開発だ、と言われたのでベルトではない、と期待したとのこと。
電子写真のキーパーツに中間転写ベルトがあることを知らない君が悪い、ゴムベルトではなく樹脂ベルトなので面白いぞ、と言ったら、どこが面白いのか、と興味を示してきた。例えば目の前のベルトでは6ナイロンは島になっているが、これが相溶したら面白くないか、と言ったところ、フローリー・ハギンズ理論をご存じですか?と科学的では無いことを言っている上司を疑い、さらに不安そうに仕事のことを尋ねてきた。
単身赴任するにあたり、高分子材料のわかる若手を1名確保するように人事に頼んでおいたが、結構期待できる人材を確保してくれた、とこの時感じた。写真会社では上位に入るぐらいの高分子の潜在能力はありそうである。自分の知識で上司の力量を測り、科学的ではない会話で不安になってきたのだろう。冗談ついでに、目の前のベルトのTg評価を行うと、コンパウンドよりも下がっているぞ、と話したら、楽しそうに、計ってみましょうか、と答えてきた。
翌日の朝、机の上にDSCのチャートが載せられており、!マークが2つも書かれていた。定時後、自発的に現場でサンプリングし、冗談で話した実験を実行したことが,そのマークの力強さから伝わってきた。そして驚くような結果だったのでチャートを上司の机の上に置いて帰宅したのだ。
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カオス混合(12)の前に、科学的に未解明の現象が多い状態で科学的真理を導こうとしたときに生じる問題について、STAP細胞を例に考えてみたい。
つい先日、山梨大若山教授から否定証明により、ネイチャー誌に投稿された論文で使われたSTAP細胞が彼から提供されたマウス由来ではないことと、ES細胞だったことを示す科学的なデータが公開された。この結果は科学的に正しい結果だろう。しかも第三者機関が出したデータなので客観性もある。注意しなければいけないのはこのプロセスが否定証明である点だ。
気の早いメディアでは、この結果からSTAP細胞は存在しないという結論を掲載しているところもある。否定証明は、ある命題を否定しただけであって、全てを否定しているわけではない。仮に否定しようとした命題が間違っていたならば、否定証明で得られた結論も正しくないケースも出てくる。今回科学的な真実として示されたのは、現代の科学で証明された事実から導かれた、未熟な研究者が用いた細胞は若山教授が提供したマウス由来ではなかった、という一点である。
未熟な研究者は若山教授のマウスの細胞からSTAP細胞を作った、と主張しているので、現代の科学を元に判断すると、未熟な研究者は論文捏造だけでなくウソまで言っていることになる。もし、ここで理研からSTAP細胞作成成功という実験結果が出てきたら、単にSTAP細胞が存在する、という真実が示されるだけでなく、若山教授の真実まで疑わなければいけない状況、すなわち現在得られている科学の真実を再度見直さなければいけない状況まで生まれることになる。
これは、かつてゴッドハンドを持つ男と言われた考古学者が考古学の発見を捏造したためにそれまでの成果についてすべて見直しを行わなければいけなくなった事件と似た状況である。STAP細胞の論文捏造事件では、誰かがウソをついているのか、あるいは科学に誤りがあるのかどちらかとなる。
科学的に怪しい世界では、科学を厳しく見つめる技術者が必要になる。もし現在の科学の状況でSTAP細胞を作りたいならば、科学的アプローチではなく技術的アプローチを取るべきで、STAP細胞を作りだす機能をまず捜すべきである。そしてそのロバストを高める研究を行い、改めて科学的研究に入るのが正しい問題解決の方法である。
STAP細胞では細いスリットを通過させるプロセスが重要といわれており、このプロセスについては山形大学から最近発表された真理を知らないとその機能が見えてこない。すなわち生化学とレオロジーのクロスした地点がSTAP細胞の重要な機能になっている可能性がある。そしてこの機能が明らかになったときに、細胞刺激におけるレオロジーのような新たな学問分野が生まれるのかもしれない。将来必要となる科学についても(www.miragiken.com)で扱ってみたい。
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