山中博士の見出した四個の遺伝子は「ヤマナカファクター」と呼ばれているそうです。このヤマナカファクターは科学的大成果ですが、その見出だされたプロセスは非科学的です。しかし、「考える技術」として演繹的推論は必ず使われています。ただしその使い方は、科学的な厳密性に拘っていません。逆向きの推論の結果を検証せずに用いています。
ビジネスの問題解決において、ロジカルシンキングは重視されていますが、アイデアを出す作業に限ればロジックの厳密性まで必要はなく推論の性質を利用する程度あるいは問題を意識する程度でよいことを述べました。これは人類の問題解決の歴史を見ても納得のゆく事実です。
例えば論理学の歴史から思想史まで幅広く扱っている伊藤勝彦編「知性の歴史」(新曜社)を読みますと「ある事態に直面したとき、言葉を媒介として冷静に分析したり総合したり、また自分のできることとできないことを弁別して、可能な限りの自分の目的にかなった方向に課題を解決していくこと、それが知性の営みにほかならないとすれば、その真摯、熱意において、人事や自然に対処する人間の基本的構造に歴史や発展があるわけではない。「知性」そのものに歴史はない。せいぜいその所産たる「思想」に変遷があるだけだ。原始人が蒙昧で文明人が理知的と思いこむのは後者の偏見にすぎない。」とあります。早い話が、ロジカルシンキングを知らない原始人でも火が必要になれば問題意識からアイデアを出して火を起こし生活をしていたのです。
問題解決法を科学的あるいは厳格なロジックのルールで拘束する必要はなく、問題解決は人間の営みの一部として捉え自由度の高い方法で行ってもよいように思います。
一方、エルンスト・マッハ著「マッハ力学史」には、ニュートンの思考実験の様子が紹介されています。この方法を用いてアインシュタインの相対性理論が生まれた、という伝説もそこに書かれており、人間は考える営みの中で肉体労働を軽減する道具の発明と同じように思考に便利な「考える技術」も発明し、それを伝承していた様子が伺われます。
ニュートンの思考実験を人類最初の問題解決の技術とみなすと、現在も一部の研究者に使用されていますので、その技術の伝承は約300年続いていることになります。しかし人類は生活を改善するために、科学誕生以前から様々な道具を発明してきましたので、「考える技術」の歴史は300年より古い可能性もあります。
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① についてかなりの自信があったならいきなり消去法の実験を行うことができた、と思いますが、実際には②と③の実験を行い、③の実験から①の答を確信した、とテレビ放送の中で語っています。このことから①の答が正しいという自信はあまりなかったのだろうと、想像できます。当たるも八卦、当たらぬも八卦ぐらいの楽観的な気持ちだったかも知れません。三万個の遺伝子の中からiPS細胞を作る遺伝子を見つける、という壮大な目標に対して強い意志で臨むためにはそのくらいの楽観主義でなければ、やり遂げることができないと思います。もし、ここで説明したような考え方で、いきなり消去法の実験を行い、答を見出していたとしたら、楽観主義者ではなく自信過剰の人物に見えてきます。
余談になりますが、②の実験がどうして必要であったのか説明します。もし四個の遺伝子を同時に組み込むことが必須であるなら、四個の遺伝子が見つかってから、四個の遺伝子の組み合わせ以外では細胞の初期化ができないことを示せば最も実験数が少なくなります。実際に山中博士は四個の遺伝子の組を発見後、再度繰り返しその実験を行った、と著書に書かれておりました。
② 実験が必要であったのは、ある仮説のもとで二十四個の遺伝子を選び出していますので、選び出した遺伝子一つ一つの細胞への機能を確認したかったのだと思います。そして選び出された遺伝子一つ一つでは細胞の初期化ができない、という研究論文を書きたかったのだろうと思います。これは、科学的に完璧な手順で論文を書くことができます。
しかし、絞り込まれた二十四個の遺伝子の中に当たりが入っていたので、科学的プロセスにこだわらず、非科学的プロセスで長期的ビジョンのゴールをなりふり構わず目指したのだろうと想像しました。もし山中博士が長期的ビジョンを持たず、すなわち困難ではあるが達成しなければならない「あるべき姿」を目指していなければ、そこからの逆向きの推論で得られる二十四個の遺伝子を細胞に組み込むという思いつきの実験を行わなかっただろうと推定されます。
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前回説明しました問題解決法を用いまして、山中博士の実験例を考察してみます。
課題ではなくアクションの形式で示しますが、NHKの番組で説明されたiPS細胞発明までの手順は以下でした。
① データベースを活用し二十四個の遺伝子に絞る。
(この組にiPS細胞を作る遺伝子がある。)
② 一つ一つの遺伝子を細胞に組み込む実験。
③ 二十四個の遺伝子をすべて組み込む実験。
④ 一つの遺伝子を抜いた二十三個の遺伝子を細胞に組み込む消去法的実験。
⑤ 細胞を初期化するX個(X=4)の遺伝子の組を細胞に組み込む実験。
但し、テレビ番組では②と③を同時に行った、と説明されていましたが、著書には別々に行った、とも書かれていますので、ここでは著書の説明を採用し段階を追って行った実験としました。また、②から⑤は、答(あるべき姿)を①のプロセスで決めて導かれた問題において、課題をもとにとられたアクションとみなすことができます。
これらのアクションで答①に直接つながるのは③と⑤です。③は①の答の正しさを確認する実験になります。⑤につながるアクションは、②あるいは④です。逆向きの推論で整理してみますと、③は答えの正しさを確認するだけの役割です。③を行う代わりに④を行えばよかったのです。また、④のアクションと②のアクションを比較しますと、④のアクションは②のアクションの結果を含みますので②のアクションも不要になります。
再度、逆向きの推論で整理してみますと、答①→⑤→④となります。山中博士に申し訳ないのですが、彼の細胞を初期化する遺伝子発見までのプロセスは非科学的でありましたが、細胞を初期化する遺伝子発見という目的だけに絞りますと、④→⑤→答①のステップで実験を進める方法が最短であったと思います。
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ボーイング787の蓄電池の事故は、配線ミスとの報道発表がありました。この発表の意味をどれだけの方がご理解されたでしょうか。
すでに報道されたように、蓄電池システムの蓄電池はGSユアサが請け負い、電池のマネジメントシステムはフランスのタレス社が担当しております。すなわち本来一つのシステムとして考えるべき装置を2社に化学が強くないボーイング社は発注しているのです。ここに今回の事故原因の根本があると思います。
例えば自動車というシステムは、多数のメーカーの部品でできております。自動車メーカーはその多数の部品の管理を行うノウハウが財産となっており、参入障壁ができあがっています。例えば、トヨタのリコール台数が多いことが問題にされた記事を読みましたが、これは素人の発言で、リコールを公開できるのはその部品管理システムがうまく機能しているからです。むしろリコールが批判されるほど正直に運営しているメーカーの管理技術がすばらしい、と考えるべきでしょう。
過去に三菱自動車がリコール隠しで問題になりましたが、その後もリコールが少ないことに不安を感じているのは私だけでしょうか。自動車のようにリコールができる商品は、新技術をテストするときに早めに商品として出して市場でバグ出しをした方が開発を速く進めることができます(本当にそのようにやっているかどうかは知りませんが)。以前ブリヂストンのタイヤは多くの安全テストをクリアしなければ商品とならない話を出しましたが、これはブリヂストンという企業の考え方です。リコールという手段が使えるならばリコールを使って、という考え方も技術開発の考え方としてあります(石橋を叩いても渡らないぐらいの考え方で開発された商品をユーザーとして歓迎しますが、リコールできちんと対応して頂けるならば我慢)。また、隠す、という手段もあったわけです(こちらは法律に触れますのでやってはいけない行為です)。
しかし、飛行機の場合リコール前提に新技術を投入されたら大変です。飛行機にはFMEAが充分行われた部品を搭載すべきでしょう。新技術を搭載するときでもすでに実戦に投入された技術を採用すべきです。Liイオン二次電池大容量蓄電池システムはまだ実戦投入された実績はないので、以前ここで飛行機に搭載するのは時期尚早と述べました。
日本では新規開発の飛行機の導入を過去に行わなかったが、今回の787は世界に先駆け行ったので初期不良が目立ちます、という報道を聴きましたときに、怖くなったのは私だけでしょうか。飛行機は自動車と異なる安全基準と思っていましたが運行後の部品事故を容認する発言があるのは、おかしいと思っています。
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高分子材料の最も多い用途は、賦形して用いる用途でしょう。おそらく薄膜も形状の一つとして考えますと7割以上は何らかの形状で用いられていると思います。残りはオイルなどの液体やコロイドとして用いる用途です。薄膜形成方法は多種多様ですが、円柱とかブロックとかバルク形状を形成する場合には金型を用います。この時、金型へ押し出す場合と金型から押し出す場合、またただ高分子材料だけを押し出す場合と空気などその他の物質と一緒に押し出す場合との4通りに分かれます。
技術書により表現は異なりますが、金型へ押し出すのか金型から押し出すのかの違いは重要です。ここで前者にはプレス加工やキャスト製法も含めて考えます。すなわち、製品として出来上がる時に金型の中で形ができるのか、金型から出て形ができるのかの違いは、技術上大きい。また難易度はケースにより異なるが、材料技術の視点で見ると後者が難しいと感じています。すなわち前者は金型表面で製品の外観が規制されますが、後者はいってこいの世界で金型から出た後のレオロジー挙動で外観が決まります。
前者も後者も金型技術のカテゴリーでとらえられ、材料の研究があまり進んでいません。むしろ現場のノウハウとして蓄積されているのではないでしょうか。外観の問題は薄膜をコーティングで形成するときにも問題になります。塗布液の調製が十分できていない場合に規則正しい波状の欠陥が出たり、はじきなどで目玉状の欠陥ができたりと悩まされます。塗布の場合は材料の工夫へすぐに視点がゆきますが、押出成形では金型技術として扱われる場合が多いようです。
確かに押出成型ではサイジングダイも含め金型の工夫で多くの問題を解決できますが、材料で対応しなければ改善できない技術が多いのも事実です。材料の原因を金型で対応しているケースを見ますと感動します。
ある問題が発生してその解決手段が何通りもある場合に何を選択するかは問題解決する人のスキルで決まるようですが、本来はコストやロバストの観点から決めてゆくべき問題でしょう。
カテゴリー : 高分子
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山中博士は、この幸運を逃がさないために、続けて同様な非科学的プロセスで実験を進めてゆきます。二十四個の遺伝子から1個を取り除いた二十三個の組を細胞に入れ、iPS細胞ができなかったならば取り除いた1個が必須の遺伝子である、という消去法的方法で実験を進めているわけですが、この方法では、取り除いた1個の遺伝子の機能があらかじめ科学的に証明されている必要があります。
しかし、その証明がなされていない段階では、遺伝子間の交互作用について確認の実験を行って、論理を緻密に展開しながら四個の組を選び出すのが、いわゆる科学的な進め方です。この実験では、二十四本のくじの中から当たりくじはどれかと、一本一本引きながら、結局全部引いたような実験になっています。くじの引き方としてみても節操がないように思われます。
実は二十四個の遺伝子の任意の組み合わせから四個の組み合わせを選ぶ、という単純な実験を科学的に行なった場合には、順列組合せの公式を用いて計算すると10,626通りの実験が必要となります。10,626通りの組み合わせ実験で一つ一つ細胞を初期状態にリセットできるかどうかを確認して初めて科学的に検証された、と言えるのです。
以上説明しましたように、科学的に進めたならば膨大な実験が必要なプロセスであったはずですが、山中博士は、答えと決めた二十四個の遺伝子の中から最低限必要な遺伝子をただ探すだけ、という単純化された非科学的プロセスを採用して作業効率をあげ成功に至っております。
生化学分野は専門外なので邪推になりますが、テレビ番組の説明を聞く限りでは、もし科学的に探索していったならば、iPS細胞を作り出す遺伝子の組み合わせは、まだ他にもみつかるのではないかと感じました。ただ、それには膨大な実験が必要であり、何年後に見つかるのか予測がつきません。大人の細胞で行う再生医療は、夢の技術であり、その実現は人類の幸福につながります。iPS細胞発見に向けて科学的プロセスを捨て、ヒューマンプロセスで果敢にゴールへ挑戦し、短期間で目標を達成した山中博士に、ノーベル賞は早すぎた受賞ではありません。
そしてこの山中博士のノーベル賞受賞で私たちが学ばなければならないのは、科学的大成果を出すために科学的なプロセスが必要ではなかった、という事実です。科学的大成果であっても、そこに至る道筋について科学的であることに拘る必要は無い、ということです。これは一般の問題解決プロセスにおいても科学的手法にこだわる必要は無く、非科学的方法で構わないことを示しています。
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技術開発は、新機能の開発と思っていました。社会人になって新機能の中にコストダウンも入る、と学びました。すなわちコストも機能だ、と。写真会社に転職し、コストよりも機能という考え方の会社もあることを知りました。この時、機能にはコストの考え方はありません。100円ショップという事業をみますと、やはりコストを機能に含める考え方の方が合理的です。
コンピューターの登場で、ソフトウェアー技術に注目が集まりました。そしてソフトウェアーが標準化されたとき、莫大な利益が生み出されることも知りました。コストダウンという目標はある意味ソフトウェアー的側面があるように思います。すなわち企画からユーザーまでのすべての段階においてコストダウンのネタは存在し、さらには会議のやり方まで含めればコストダウンとは古い技術の領域からはみ出てしまいます。しかしソフトウェアーとしてとらえればこれも技術に入れてもよいと思います。
生産場所を人件費の安いところへ移すのは、簡単にコストダウンする方法です。しかし、それぞれの産業を細かく見てゆきますと、日本で生産できている業種もあります。付加価値の高い業種に多いですが、100円ショップの商品の一部に日本製があるのを見つけるとびっくりします。人件費の問題をうまく解決して日本で生産しているのです。
コストダウンという問題は、弊社の問題解決法の特徴が表れる問題です。従来の問題解決法では当たり前の答しか出なかったのが、当社の問題解決法では奇抜なアイデアも生まれる可能性があります。
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このような独特な問題解決プロセスでiPS細胞を発明できたわけですが、データベースを基に約三万個の遺伝子から二十四個に絞り込む過程において、絞り込む条件の妥当性を実験で確認せず、経験知だけを用いています。また、遺伝子間で働く作用などが不明の段階で、二十四個の遺伝子をすべて細胞に組み込む実験を行ったり、科学的に解明されていない実験結果を活用し、消去法的手順で四個の遺伝子を見出したり、など科学者の研究手順として見た時に、いくつか疑問点が出てきます。このあたりを少し考えてみます。
まず、約三万個の中からデータベースを基に研究対象を絞り込むプロセスでは、例えばiPS細胞はこうすればできるという仮説を設定し、その仮説の正しさを証明する実験、もしくは過去の研究結果を揃え検証し、絞り込む条件や手順の科学的妥当性を示して研究を進めるのが一般的な科学的手順です。
しかし、当時まだiPS細胞を作った人がいませんから、iPS細胞を生成する遺伝子を絞り込む科学的作業とは、約三万個の遺伝子について実験を行い、その機能や遺伝子間で働く作用を調べる実験をしなければいけません。ところが山中博士は、約三万個の遺伝子を対象にこのような実験を行っていません。ゆえにデータベースから遺伝子を絞り込む作業は、科学的プロセスとして不完全です。科学的プロセスではなく、自らの意志で「答えを決めた」プロセスと本書で説明している理由でもあります。
次に、データベースから絞り込まれた二十四個の遺伝子について、一つ一つ細胞に組み込みiPS細胞ができないことを確認したプロセスでは、遺伝子一つ一つの実験結果で何も変化が起きていないことが示されていますので、この実験結果から導き出される「単独で細胞に組み込んだ時に、二十四個の遺伝子の中にiPS細胞を作る遺伝子は存在しない」という結論は、科学的に完璧です。
しかし、同時に行った二十四個の遺伝子すべてを細胞に組み込みiPS細胞生成に成功した実験では、二十四個の遺伝子の細胞内における働きについて科学的に確認していません。そのため、それぞれの遺伝子の作用が不明であり何が起きるのか仮説を立てられないだけでなく、実験結果を科学的に説明できないので、科学的に正しいプロセスと言えません。
ただ、この実験に成功した時に得られる、「大人の細胞でiPS細胞ができた。」、という実験結果は科学的に価値があります。すなわち、iPS細胞を発見するまでのプロセスは科学的とは言えませんが、世の中に存在しなかった大人の細胞の初期化手段が、それを発見した方法で繰り返し再現することができますので、科学的に大きな価値があります。山中博士もテレビ番組の中で説明されていたように、答の正しさを確信したプロセスです。
iPS細胞発見に至るプロセスが科学的ではなく、運が作用したといわれる点についてもう少し考えてみます。仮に経験知で絞り込み、答と決めた二十四個の遺伝子の組み合わせの中に、iPS細胞を作る機能を持った四個の遺伝子の組と、何らかの作用を起こし負の効果を示す遺伝子が不運にも含まれていたならば、その遺伝子により四個の遺伝子が持つ機能が阻害され、大胆な実験も失敗に終わっていた可能性があります。ちなみに遺伝子間の組み合わせで働くこのような作用は交互作用と呼ばれています。
他の因子の作用により本来の因子の機能が隠れたり抑えられたりするのが交互作用あるいは交互効果と呼ばれている現象ですが、ある機能を制御するために使用する因子と交互作用をする因子が同時に存在すると両者のバランスを制御することが難しくなります。自然界にはこのような交互作用で生じる現象が多数存在しています。
このようなことを考慮しますと、注意深く科学的に行った実験からは成果が得られず、二十四個の遺伝子すべてを細胞に入れた大胆な実験でiPS細胞の兆候が現れたのは、幸運以外の何物でもないことがわかります。
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3.11で世の中は大きく変わりました。とりわけ原子力エネルギーに対する考え方は、180度の変化です。国民のだれもが未完成の技術で商用運転を行っていた実態を知ってしまいました。福島原発の事故は、天災で始まっていますが、事故の状況について報じられた内容を見る限り、商用運転してはいけない技術でした。
現在販売されている家電製品のマニュアルを見ていただけばわかりますが、注意書きには起こりえないことまで想定された注意が書かれています。しかし、原発の事故対策は発生確率で低い場合には対策を行わない、という考え方で設計されていたのです。また事故後の対応においても、電源車との接続において、コネクターが合わず電源供給できなかった、とか、ベントにフィルターがついていなかった、とか、およそ商用運転されている商品として怪しい状況が報じられています。さらに、いまだに使用後の燃料棒の処分方法が決まっていない、というありさまです。家電のように家電リサイクル法で商品そのもののリサイクルが義務づけられている時代に、原料の処分法すら決まっていないのです。原発を商品として見た場合に、再稼働を議論するときには、実験運転を行うという前提で議論する必要があります。
原発がこのような調子ですから、未来技術としてエネルギー関連技術が花形産業を生み出す、と考えました。すでに太陽光発電や風力発電が立ち上がっていますが、ごみ発電技術は経済的に可能性が無いのでしょうか。かつて名古屋市長がゴミの分別回収で政府に苦言を呈したことがありました。細かい分別回収をしてきたのにそれが無駄になったからで、さっそく名古屋で有識者が集められてゴミのリサイクルではどの方法が良いのか議論されました。その結果サーマルリサイクルが最も良い、との結論でした。熱エネルギーとして取り出せるならば発電は容易です。
ごみ以外の燃料では、ジャトロワや藻、チップなどのバイオエネルギーの経済的生産技術が立ち上がる可能性が見えています。藻の場合には、ガスタービンを工夫して藻をそのまま燃焼できる技術を開発すれば最も経済的に発電ができます。光合成で藻を育てるのは琵琶湖のような湖を使うことができます。藻の繁殖力と藻の回収速度をバランスさせればよいわけです。藻と水の分離では、熱エネルギーを使うのではなくフィルターワークで十分です。
集中発電の方法以外に分散発電技術も出てきました。エネファームなどの燃料電池で、ガスの供給ラインを使って発電するシステムです。電気代が高騰していますから、経済的に十分釣り合うようになってきました。また、スマートグリッドへの移行も可能です。太陽光発電や風力発電、水力発電、地熱発電など様々な発電技術に可能性が出てきました。このような分散発電では蓄電池が重要になってきます。また高電圧を制御する必要から、パワートランジスタのニーズが高まります。
電気自動車のような移動体に電気を供給するシステムの開発も重要です。わざわざコネクターをつないで電気供給する方法では利便性が悪いです。また高速充電システムも必要になってきます。電気の供給であれば無人化も可能で、ちょっとしたスペースがあれば電気を供給できるような、それこそ駐車場のどこでも駐車中に電気供給できるようなインフラにすれば一気に電気自動車が普及するように思います。新しい電気電子デバイス以外に膜技術も重要です。従来の熱エネルギーを用いた分離方法から膜分離へ移行する可能性があります。膜分離技術は省エネ技術です。
家庭内の創エネ技術も太陽光発電以外に登場する可能性があります。家庭内には発熱製品や振動製品がたくさんあります。そのような発熱媒体や振動媒体から電気を回収するシステムです。コストが問題になりますが、材料技術が進歩すればぺロブスカイト系の材料で経済的な熱電変換素子ができるように思います。
こうしたエネルギー関連の未来技術はまだまだたくさんあり、具体的なアイデアもあります。これらを公開する企画を考えていますが、事前に情報を入手したい方はご連絡ください。
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山中博士以外にも多くの研究者が万能細胞の研究に携わっていましたが、なぜ山中博士が最初にiPS細胞を発見することができたのでしょうか。テレビ放送で説明された研究プロセスから成功の要因を推定してみますと、以下に示すアクションが重要なポイントと思われます。
(1)経験知だけで三万個から大胆に二十四個に絞り込む。答を最初に決める方法。
(2)選ばれた二十四個の遺伝子すべてをまとめて細胞に入れる、大胆な思いつき実験。
(3)二十三個の遺伝子の組を用いる巧みな実験。
(3)につきまして、山中博士の実験のどこが巧みかもう少し詳しく説明しますと、二十四個の遺伝子をすべて細胞に組み込んだ大胆な実験でiPS細胞ができていますから、この二十四個の遺伝子に含まれる特定の遺伝子の組み合わせで、細胞が初期状態にリセットされたと判断できます。この判断の下で以下に説明する消去法的発想に基づく、新たな二十三個の遺伝子を細胞に組み込んだ二十四組の実験を行い、iPS細胞を作るために必要な四個の遺伝子の組を簡単に見つけだします。
すなわち、(2)でiPS細胞ができていますから、この遺伝子の組を答と決めたことが正しいとわかりました。あとは二十四個すべて必要なのか、あるいは特定の組み合わせでiPS細胞ができるのかを決めればよいのです。今iPS細胞を作る為に必要な特定の遺伝子の四個の組を「遺伝子A、遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D」としますと、二十四個すべてからなる遺伝子の組は、「遺伝子A,遺伝子B,遺伝子C、遺伝子D,その他の機能しない二十個の遺伝子」と表現できます。
そこで遺伝子を1つずつ減らした二十三個の遺伝子からなる組を作ります。例えばiPS細胞を作る為に必要な遺伝子Aを取り除いた組は、「遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D,その他の機能しない二十個の遺伝子」、同様に遺伝子Bや遺伝子C、遺伝子Dを取り除いた組も、必要な遺伝子が一つ不足した三個の組と,その他の機能しない二十個の遺伝子として表現でき、この表現の組は四組できます。「遺伝子A、遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D」が揃っている組は、「遺伝子A,遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D,その他の機能しない十九個の遺伝子」の二十組作ることができます。
この新たに作成した二十三個の遺伝子の組み合わせ二十四組をそれぞれの細胞に入れた実験を行いますと、「遺伝子A,遺伝子B,遺伝子C,遺伝子D,その他の機能しない19個の遺伝子」の二十組では細胞が初期化されますが、iPS細胞を作るために必要な四個の遺伝子の組から一つ取り除かれた四種の実験では、細胞が初期状態にリセットされずiPS細胞ができません。その結果、取り除いた遺伝子Aあるいは遺伝子B,遺伝子C,遺伝子Dが、細胞を初期状態にリセットするために必要な遺伝子であった、と明らかになります。
実験手順は、実際に見つかった遺伝子の個数を用いて説明いたしましたが、仮に四個以外の複数の組であった場合でも、iPS細胞ができなかった実験だけに着目すれば良く、大変巧みな実験方法であります。ただしこの方法は選択肢の中に正しい答えがあるとする、すなわちすでに答えを決めてしまっている非科学的な消去法の考え方です。
山中博士がなぜこのような非科学的実験プロセスを選ぶことができたのでしょうか。その理由をテレビ放送の中で(2)の大胆な実験で得られた結果で「成功を確信したから」と説明していました。すなわち(1)でおおよその答を決めて、(2)でその答え正しさを確信し、(3)で答を具体化した、と成功のプロセスを説明していたわけです。
ノーベル賞受賞研究の実験プロセスの説明が本書の問題解決方法と似ており、最初に答を決めることが問題解決のコツと確信したことがこの本を書くきっかけとなっております。答が分かっているならば、それは問題にはならないだろう、という疑問を持たれるかもしれません。すでに説明しましたが、この本で意味する最初に決める答とは、こういう状態であってほしいという願望とか「あるべき姿」のような概念的な答です。この概念的な答が決まると、それを具体化するためのアクションやアクションの組み合わせ、すなわちアクションプランを考えなければなりません。それは問題を解くという行為になります。
最初に答を決めて、何が問題かを明確にし、その次にアクションプランを考える手順が本書で提案した問題解決プロセスの特徴であり、従来行われていたような、先に問題設定がありその問題を分析してアクションプランを求めるやり方とは順序が逆になっているだけでなく、答を設定して問題を考えるというイメージの、常識でとらえると不思議に見える方法です。しかし、この不思議な方法を山中博士は実行し、ノーベル賞を受賞しています。ノーベル賞の効果は大きく、多くの方は不思議と捉えず、頭の良い方法と感じたのではないでしょうか。
もし、山中博士が従来の科学的な問題解決法を用いたならば、iPS細胞を作る技術を問題としてとらえ分析的に問題解決をして、約三万個の遺伝子の中から機能を発揮する遺伝子を探すために一つ一つ調べるというような膨大な実験、それこそ一生かかっても終わらない実験を行うことになります。おそらくこの分野の多くの研究者はこのようなやり方で研究を続け論文を書いていると思います。
しかし、iPS細胞を作る技術という問題には、遺伝子を複数組み合わせて細胞に組み込んだ時の問題とか、そもそも多量の遺伝子を一度に細胞に組み込むことができるのか、とかいろいろ細かい多くの問題があるそうで、これらの問題を分析的に解いていった場合には、問題の中に問題の山が詰まっている状態をさまようことになります。
そこで山中博士は、理化学研究所の遺伝子データベースを使用して、最初に答を決めてから実験を行っていったのです。
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