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2013.03/23 自動車用材料

自動車用途に使用可能な材料の判断基準はコストである、と先輩社員から教えられた。今はどのように教えられているか知らないが、400円/kgは新素材の目標価格であった。

 

カーボンが200円/kg前後であり、当時は天然ゴムが合成ゴムよりも高く350円/kgだった。一般のタイヤは400円/kg以下の材料でできていたが、高級タイヤには1000円/kg以上の高価な新素材も採用されることもあり、何を根拠に設定されたのか分からない400円/kgという数字に悩まされた。

 

材料技術を職業にするつもりで社会に出たが、400円/kgの壁にぶつかった。この価格を目標に新素材を設計するのは容易ではない。新たな生産設備を揃えたならば、固定費がかさみ、新素材を設計するために選択できる原料など無くなってしまう値である。

 

12年間勤めた会社で、独力でこの壁を超えることができたのは、難燃剤として設計した硼酸エステルだけだった。研究開始から6ケ月で試作段階へ、その後採用された。入社して1年後提案した新規ホスファゼン誘導体ではコストが高い材料研究を行った、という理由で始末書を書かされただけにうれしかった。また、材料メーカーから依頼される新素材評価の業務とは異なる達成感を味わうことができ、その後の進路に自信を持つことができた。

 

自動車用材料ではコストに苦しむことになるので、電子材料分野の企画を行うことにした。半導体用高純度SiCを有機無機ハイブリッドで合成する新技術について先行投資を受け試作ラインを立ち上げたが、市場が無かったために6年近く死の谷を歩いた。最近ハイブリッド車などに使用されるインバーターにSiCが使用され始めたがこの材料は400円/kg以上の材料である。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.03/22 導電性微粒子分散系フィルムのインピーダンス

絶縁体高分子に導電性微粒子を分散し成形したフィルムは低周波数領域の電気特性が導電性微粒子の添加量に応じて大きく変化する。500Hz未満の周波数依存性を調べると無添加のフィルムに比較して周波数依存性が大きくなっている。そしてその変化が導電性微粒子の添加量に応じて変化している。また、この変化の仕方はパーコレーション転移とも関係している。

 

高周波数領域では大きな変化が生じていないのでこの変化は、導電性微粒子の電荷二重層の影響であることが想像される。この点に気がつくとマトリックスを構成している高分子との組み合わせや、添加剤の影響をうけることも推定できる。粒子の充填量が増加しクラスターを形成するようになるとそのクラスターの効果が大きく出ることも推定されパーコレーション転移との関係が見えてくる。

 

こうした想像は実験データを揃えてみると間違っていないことが分かってくる。そしてマトリックスの高分子をコンデンサーに見立て、導電性微粒子を抵抗で置き換え、コンデンサーと抵抗との接続モデルを組み立て数値シミュレーションを行うと実験データによくあう結果となる。このシミュレーションは2次元で行っても実験で観察される現象をうまく表現できる。これはクラスターの成長効果の影響が大きいためで、パーコレーション転移とインピーダンスの関係を見積もるシミュレーションであることに気がつく。

 

この導電性微粒子分散系フィルムの低周波数領域におけるインピーダンス変化が重要になってくるデバイスとしてカラーレーザープリンターやカラー多機能複写機に使用されている中間転写ベルトや帯電防止フィルムがある。しかし、これらのデバイス評価を表面比抵抗や体積固有抵抗だけの測定で済ませていないだろうか。インピーダンスと諸特性の関係を調べると今まで見えていなかった世界が見えてくる。研究開発のおもしろさである。

 

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.03/21 加熱系の設計

30年程前にレーザー加熱による熱天秤を発明した。セラミックスフィーバーの嵐が吹き荒れている時代に、世界で初めてポリエチルシリケートとフェノール樹脂を用いて有機無機ハイブリッドの合成に成功し、その応用分野としてSiC前駆体を考えていたからである。もし無機高分子と有機高分子が分子レベルで均一に混合されていたならば、反応速度論でSiC化の反応を議論できるはずである、という仮説を考えた。この仮説を実証するためにはSiC化の反応が生じる1600℃まで短時間に加熱可能な熱天秤が必要であった。

 

当時赤外線イメージ炉による急速加熱天秤が存在したが、加熱範囲が広いために、天秤を構成する材料の耐熱性の問題を抱えており、加熱できる上限は1500℃だった。サンプルだけ2000℃まで加熱できる熱源があれば、当時商品化されていた急速加熱天秤をそのまま使用できる、と考えた。YAGレーザーとその天秤を組み合わせ実験を行ったところ、30秒以内に2000℃まで昇温できることが確認された。しかし、YAGレーザーが照射されている部分では、炭素の昇華が生じていることが分かった。重量減少が起きていたのである。

 

YAGレーザーの直接加熱では、加熱部分が高温度になりすぎるので試料セルの近くに炭素のブロックを置き、その炭素を加熱して試料を温めることにした。しかし単純にブロックをYAGレーザーで加熱する方法は、ヒーターで加熱する方法と差異が無く試料の温度がなかなか高くならない。

 

炭素のブロックの形状を試行錯誤で工夫してみたら、YAGレーザーの同じエネルギーレベルで試料の温度が大きく変化する現象を見いだした。難しい現象では無く、熱伝導も光と同じで直進する、という事実を見落としていただけである。炭素のブロック形状を工夫し、間接的に試料加熱する方法で2000℃まで30秒以内に昇温できることがわかった。

 

直接加熱と間接加熱で昇温速度が同じかというと実際には差があるのだが、センサーの検知速度が遅いだけである。すなわち室温から2000℃までセンサーの温度が上がるのが30秒近くかかっていることが熱容量の計算からわかった。

 

試行錯誤ではあったが何とか2000℃まで30秒以内に昇温可能な熱天秤ができたのでSiCの反応速度を解析したところ均一素反応としての取り扱いが可能で、反応機構と完全に一致する測定値が得られた。すなわちSiCの前駆体は分子レベルの均一性を達成していたのである。超微粒子シリカなどを添加すると気相反応が生じ均一素反応から外れることも観察された。

 

この熱天秤の加熱系の経験は他の分野にも生かせる。例えば電子写真(レーザープリンター)の定着系は急速加熱ができれば使用時に通電することが可能となり省エネにつながる。現在のシステムは急速加熱が難しいのであらかじめ温めなければならない。定着ベルトをヒーターとする面状発熱体の考え方もあるが、この天秤の加熱方法と同様のベルトを間接的に急速加熱するアイデアも使えるのではないか。そのときに重要となるのは、熱天秤で工夫した内容である。

カテゴリー : 電気/電子材料

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2013.03/18 帯電防止技術と電子写真システム

商品の帯電防止は難しい。導電性を向上させれば帯電を防げるのかというとそうではない。金属でも帯電するからである。すなわち静電気は電気をためる条件が揃うとそこに滞留する現象で、導電性を上げた場合には他の物質の静電気をもらう現象が生じる。ライデン瓶は、導体がガラス瓶の表面に塗られていることにより電気を貯めることができる。

 

帯電防止を行うには、表面比抵抗を10の6乗から10の11乗までの半導体領域に設計するのが経験的に好ましいとされる。研究結果によればインピーダンスの値で設計した方が実際の静電気故障とよく対応する。この結果は研究報告が少ないので特許ネタに使える。どのようにインピーダンスを測定したかにも依存し、それが特許のクレーム表現として使える。単なるパラメータ特許は成立しにくいが一ひねりすると商品に合わせた面白い特許になる。実際には科学的に同じ技術であっても、科学的な証拠が無いためにできる特許の権利書という側面を活用するネタである。

 

帯電防止技術に近い商品として電子写真システムがあるが、面白いのは電子写真システムに科学的に説明できない部分が未だに存在する点である。原理が説明できているから科学的に完成された商品、と思っている方も多い。しかし科学的に完璧に説明された商品であれば、教科書にもとづき製品設計を行うことができるはずだが、それができないのである。未だに経験に基づく部分が残っており、怪しい特許を量産できる分野となっている。

 

同じ画像形成システムであるが、後発のインクジェット(IJ)プリンターが普及したのは電子写真システムよりも機構が単純で科学的に解明しやすくコストダウンが容易だったためである。しかし、科学的にIJプリンターの限界が見えており、電子写真システムが今後も残っていく可能性が高いと思われる。電子写真プリンターの便利なところは、どのような紙に印刷しても同等品質が得られる点で、この長所は未だに他の方式がまねできないところである。

 

電子写真システムの科学的な解明が進まない点は、画像形成に使用するトナーを静電気で紙に転写している、電子写真のキモの部分である。大雑把には帯電防止技術と同様に半導体領域の材料でエンジン部分は設計されるが、その導電性と画質との関係は未だ経験の必要な世界である。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.03/17 電気粘性流体を用いた画像形成装置

電気粘性効果(ER効果)をインクに使用して画像形成可能な実用装置ができそうなことを昨日書きました。ER効果は1mmあたり1kV以上の電圧が必要ですが、小さなドットを駆動するのであれば低電圧で可能である。しかし、インクには絶縁オイルを用いる必要があり、これが環境問題を考慮するとネックになる。

 

すなわち環境問題をクリアするためには、絶縁オイルが不揮発性でなければならない。揮発性であるならばインクを完全に回収できるシステムが必要になる。このシステムをどのように設計するかが技術者の腕にかかってくる。火災の問題も解消できるシステムになるとその装置の構造は限定されてくる。このあたりの特許出願はまだされていないのでこの活動報告を読まれた方は幸運である。

 

実は絶縁オイルが揮発性であろうと不揮発性であろうとオイル除去装置が必要になる。オイルを除去する前提になると揮発性絶縁オイルのほうがシステム設計を行いやすい。また、インクの定着機構も単純にできる。すなわちコーティング技術のノウハウをそのまま利用できる。不揮発性オイルであれば中間転写方式となる。すなわち一度絶縁オイルを含んだまま中間媒体に画像形成し、その中間媒体で絶縁オイルを吸収し粒子だけの画像とする。その後紙にこの画像を転写する方式となる。

 

完全密閉システムが可能ならば、揮発性オイルを用いても商用印刷以外に商品展開できる。医用の熱現像システムでは、現像時に感光層から若干の揮発物が出てくる。当初は脱臭剤でごまかす技術で対応していたが、脱臭装置の工夫でシステム外に揮発物が出てこないことが確認された。プリンターの完全密閉システムは意外と簡単なのに驚いた。特許出願される方を考慮して詳細を省略したが、アイデアをご希望の方はご連絡ください。電気粘性流体をインクに用いた場合には、現在のIJのようなノズルずまりの問題を解消できるIJプリンターを設計可能である。おそらく30年近く前にエプソンが電気粘性流体の不完全なアイデア特許を多数出願した背景と思います。

カテゴリー : 電気/電子材料

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2013.03/16 電気粘性流体を活用した画像形成

室温で低粘度の液体であるが、高電圧をかけると固体になる物質を電気粘性流体(ERF)といい、その変化をER効果と呼ぶ。ER効果は1mmあたり1kVの電圧をかけると顕著に表れる。ERFとそれに印加される電圧の間には相関がある。電圧上昇につれ粘度上昇が起きるため、高粘度化したときに固体のような弾性率を示す。

 

ERFは、1980年代に活発に研究され絶縁油と特殊な微粒子との組み合わせで実用になることがわかった。実際に某社の試作車のアクティブサスや防振ゴムとして応用研究が実施されたが、デバイスが単純な構造であるにもかかわらず性能は機械式のデバイスよりも高かった。しかし、コストの問題をクリアできず実用化が見送られた。

 

ER効果を画像形成に利用しようというアイデアは、エプソンから当時多数特許出願されている。単なるアイデア特許であり、中には研究者から見ればインチキな特許も存在した。出願から20年以上たっているので、インチキ特許でも怖くは無い。ER効果を画像形成に利用するアイデアは、ER効果を発生させるに必要な電圧を考えると実用性が無いようにみえる。

 

しかし、画像形成を行うドットの大きさが1/1000mmから1/100mmであることに気がつけば、数VでER効果を出すことが可能で、面白いデバイスができるはずだ。しかし、エプソンからER効果を利用したプリンターは発売されていない。恐らくコストがあわないのであろう。インクジェットのインクよりもコストが高くなる可能性がある。

 

ERFのインクを使用したプリンターの長所は、インクジェットで問題となるノズルづまりを皆無にできる可能性がある点。またインクジェットのようにメディアの受像層の設計で画質が大きく左右される問題も克服できる可能性もある。商用印刷には有効かもしれない。

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2013.03/15 びっくりした光景

静電気で悩まされる冬も終わり、春めいてきた。静電気で思い出されるのは、フィルムの帯電防止技術を担当したときに見た光景である。

 

印刷感材でクレームが発生した、と言うことで、営業担当に連れられて印刷工場に出向いた。印刷工場の見学は初めてで仕事でなければ楽しめたのだが、クレームの原因がどこにあるのか考えなければならないので、必死でした。とにかく、アースがとられているかどうかといった、工程内の帯電防止のイロハを実践した。

 

報告を受けていたクレーム内容は帯電防止されたフィルムが稀に機械に引っかかり、工程が停止するという内容だった。現場で説明を受けている時には問題なくフィルムが流れている。と、その時である。一枚のフィルムが、搬送途中で金属のガイドにくっついた。説明によれば、機械に引っかかる現象とはこのことで、静電気でフィルムが金属のガイドにくっついている、とのこと。

 

お客様の話では、4時間に1回くらい発生する故障なので、今回早めに見ることができたのは幸運だという。しかし、である。導電性の高い金属に静電気で帯電防止されたフィルムがくっつく現象が起きることを発見してびっくりした。他社のフィルムでは発生していなかった現象と説明され、営業からは必ず解決するようにプレッシャーをかけられ、不思議な現象を楽しんでいる余裕は無かった。

 

営業からクレームの内容が帯電現象として事前に説明を受けていたので準備してきたサンプルを工程に流したところ、ある集団のフィルムが現象をうまく再現する。実際は金属に帯電したフィルムがくっつくところを見てびっくりしていたのだが、お客様の手前、はったりを噛まし、原因を理解できたので今後は改善したフィルムを納入します、と約束した。

 

原因はフィルムが特定のインピーダンスであると金属にくっつきやすくなるのだが、くっつく相手は導電体である。教科書に金属でも帯電する、と説明されているのだが感覚的に現象を理解できない。結局特定のインピーダンスの領域にならないよう帯電防止層の処方を変更してクレームを迅速に解決できたのだが、未だに発生した現象を科学的に説明できていないだけでなく、気持ちが悪い思い出として残っている。営業担当には、当時「金属でも帯電すると言われていたのは本当でしたね」と言われても、言っていた本人は未だに気持ちが悪い。

 

 

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2013.03/12 難燃剤のブリードアウト

樹脂を難燃化するために難燃剤を添加する。難燃剤が無機フィラーであれば脆性の低下が、液状であれば可塑剤として働くために弾性率の低下が問題になる。樹脂を難燃化する時に力学物性の低下は避けられない問題である。力学物性のバランスをとるためにポリマーアロイという手段がある。

 

しかし、液状もしくはTgが低い難燃剤で力学物性の低下よりも問題が大きいのはブリードアウトという現象である。ブリードアウトという現象は身近な製品で誰でも経験しているはずです。例えば皮状のケミカルバッグやケミカルシューズ、電化製品例えばPCのマウスに使用されているゴム状の部分。長年使用していてべたべたしてきたことはありませんか。

 

これは、樹脂を柔らかくするために添加していた可塑剤が外に滲み出てきた現象です。構造が異なる分子を混ぜると相分離という現象が生じます。例えば水にヘキサンという有機液体を分散し激しく撹拌し静置しますと2層に分離します。これが相分離という現象で、構造が異なる分子どおしを混合しますと必ず生じる現象です。

 

樹脂に何か有機物を分散しても構造が異なれば相分離し、表面に浮き出てきます。これがブリードアウトという現象で樹脂製品の外観品質を悪化させます。ブリードアウトという現象は、物質の拡散で生じており、温度が高くなると早く発生するようになります。その時間スケールは物質の組み合わせで様々で有り、製品寿命の間に発生しないように材料設計することは可能で、樹脂製品の多くはそのように設計されています。

 

難燃剤のブリードアウトで見落としがちなのは、表面で難燃剤の濃度が高くなり、金属が接触していた場合には錆を引き起こしたり、電気製品であれば絶縁性を低下させたりする原因になる故障です。ゆえに難燃性樹脂の促進試験では、市場環境あるいは市場における使用方法を想定した促進試験が重要になってきます。

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2013.03/11 半導体領域の材料設計

1万Ωcmから10が10個前後並んだ領域までの体積固有抵抗を持つ材料を半導体という。下限を1000とか10万Ωcmとしている教科書もある。上限も12個程度10が並んだ領域まで半導体領域とする教科書もある。半導体とは、適当に電気を流してくれる材料なので、その物性も適当に扱われているように見える。

 

しかし、実用化するときには、厳密なスペックの中に物性をおさめなければならない。これが難しい。例えば、導電体であるカーボンや金属粉を絶縁体である高分子に分散して抵抗を調整しようとすると偏差が4桁以上ばらつく場合も出てくる。

 

パーコレーション転移が起きるためである。たまたま実験室で安定にできても安心できない。確実にパーコレーション転移を制御できる材料設計を行わない限り、自然現象に任せていてはロバストの高い商品はできない。

 

絶縁体に導体を分散して半導体領域の材料を設計する場合以外に、金属酸化物半導体もその抵抗は大きくばらつく。難黒鉛化カーボンもロットにより2桁程度抵抗偏差が生じる。半導体領域の材料は、うまく設計しない限り2桁以上は抵抗がばらつく、という常識を持っていた方が良い。たまたま測定値が安定な材料が得られたときに、その原因や理由が明らかになっていなければ安心してはいけない。

 

コニカへ転職して間もないときに帯電防止材料の新規アイデアを相談してきた人がおり、アイデアを話したところ、その後なしのつぶて。たまたま相談者と廊下で出会ったときに、進捗を聞いたところ、「うまく進捗しているからほっといてくれ」という意味に近いことを言われたので、ばらつきの制御だけは注意するようにアドバイスしたが、その1年後帯電防止層の品質問題が起きて、仕事が自分のところへ回ってきた。量産が始まったところで導電性が2桁程度ばらつき、問題だ、とのこと。帯電防止層の処方を見たら、ただ材料を2種類混ぜているだけで材料設計されていない処方であった。技術を甘くみてはいけない。

 

実は材料物性において、導電性はその偏差の大小が材料および設計方法により大きく異なる。力学物性よりも測定値の偏差は小さいと思っているととんでもない失敗をする。導体である銅でも純度が管理されなければ1桁程度ばらつく。半導体領域になるとそのばらつきが目立つようになるだけと考えると気楽だが、商品の中には1桁以内に偏差を抑えることが要求される場合もあるので高度な技術が必要になってくる。

 

この材料設計では、複合材料で半導体を製造する場合と単一組成で半導体を製造する場合とでは戦略が異なる。ただし、プロセスの負荷が小さくなるように設計する方針で考える、あるいは、プロセスの負荷が大きくなる場合には既存のプロセスに改良を加え生産の安定化設計を行うなど、共通する部分もある。大切なことは、半導体領域の材料設計が、絶縁体や導電体よりも安定した物性を造り込むことが難しい点を認識することである。

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2013.03/07 有機物で電池の正極を創る(2)

エネルギー問題への関心やボーイング787の事故もあり、Liイオン二次電池に対する関心が高いのでしょうか。昨日の報告に対して反響が結構ありましてびっくりしています。本日続編でもう少し詳細情報を書きますが、一部有料情報につきましてはお問い合わせください。

 

まず、講師の先生は、京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻教授吉田潤一先生です。開催場所は、高分子学会高分子同友会会議室。ここで月に何回か勉強会が開催されています。詳しくは高分子学会へお問い合わせください。

 

講演のタイトルは、「高性能リチウムイオン電池のためのピレンテトラオン構造をもつ有機ポリマー正極材料の開発」で、講演内容のポイントは

(1)Liイオン二次電池の正極物質に最適な分子構造を理論計算により設計。

(2)設計した分子を導入したポリマーを合成し、Liイオン移動型の二次電池を開発。

(3)高蓄電エネルギー密度、高い充放電サイクル特性、高速充放電を実現。

 

1980年代にブリヂストンでポリアニリン正極を用いたLiイオン二次電池が実用化され、日本化学会化学技術賞を受賞いたしました。この業績は、正真正銘の世界初の高分子Liイオン二次電池の実用化であるとともに白河先生のノーベル賞の具現化でもあります。

 

しかし、吉田先生のご研究は、このポリアニリン正極よりも遙かに性能が良く、新たな可能性を示す成果をあげられており、すばらしいご研究と思いましたので昨日取り上げました。また、この成果の公開を許可されたP社にも敬意を表したいと思っています。

 

企業研究の場合にそれが新しいコンセプトであればあるほどなかなか外部発表までさせて頂けません。例えば、フローリーハギンズ理論から絶対に相溶しないと思われる有機高分子と無機高分子を新しいコンセプトで均一に相溶することに成功したポリマー前駆体を用いた高純度SiCの技術についてなかなか発表できませんでした。ポリアニリンのLiイオン二次電池の発明よりも早く実現していたのですが、日本化学会化学技術賞の受賞はポリアニリン二次電池の受賞から20年以上過ぎていました。

 

そのような経験もあり、昨日の研究報告を許可されたP社の技術に対する自信に敬意を表したいと思っています。

カテゴリー : 電気/電子材料

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