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2013.12/14 否定証明

特殊な構造をした半導体微粒子を絶縁オイルに分散すると電気粘性流体(ERF)ができる。1年以上前にこの欄でその開発の様子を書いたが、このテーマを担当するきっかけとなったのは、ERFをゴムに封入して用いたときにゴムの添加物がERF中に抽出されて增粘する、という問題が発生し、その解決方法が見つからなかった時だ。

 

このような問題は界面科学の問題である、と科学の知識がある方は現象を見てアイデアを思い巡らす。ERFの開発を推進していたメンバーもその様に考えて市販の界面活性剤を科学的に分析しながら增粘を抑える対策として検討を進めた。しかし、增粘を抑える界面活性剤が見つからなかったので、界面活性剤では解決できない、という証明を沿えて、それ以外の対策方法の探索を進めていた。

 

一人で高純度SiCの開発を続けていた立場では、このようなときにすぐにネコの手として引っ張り出される。そしてじゃれる程度の仕事を手伝うことになる。企業で研究開発を担当された方はこのような立場を理解できるのではないかと思う。じゃれているだけではつまらないので、アンダーグラウンドで独自のアイデア実験を進めたところ3日間で解決策が完成した。

 

ところがその解決策は、プロジェクト正規メンバーが不可能という結論を出した方法だった。すなわちERFの增粘を抑える界面活性剤が見つかったのだ。それも否定されていた構造に近い材料だった。納期が迫っていた開発だったので一応採用されたが、一部のプロジェクトメンバーから反感を持たれたのは確かである。

 

その結果ゴム会社を退職することになるのだが、科学的な方法で進める研究開発で陥りやすい否定証明については、イムレラカトシュという哲学者が「方法の擁護」という著書の中で、科学的方法で完璧にできるのは否定証明である、と述べている。

 

すなわち、できない理由を科学的に証明することは易しいのである。技術開発を科学的に解析しながら進めていて失敗が続くとこの罠に陥る。技術開発では「モノ」を創りださなければいけないのだが、頭の良い人ほどこの罠にはまる。この罠にはまらないような研究開発を進める方法の一つが弊社の研究開発必勝法である。失敗続きで家族に迷惑をかけているが、今夜は必ずおいしいオカラハンバーグを完成させる。

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.12/13 肉ダンゴをふっくらさせるコツ

先日12月6日付けの産経新聞の生活欄に「肉団子をふっくらさせるコツ」というのが載っていたので、昨日おからを紹介させて頂いた。水だけを入れた場合とおからを使用した場合とでは栄養価が異なる。また、1個あたりのカロリーも新聞に紹介された方法よりおからを使用した方が下がりヘルシーな肉ダンゴとなる。歯の悪い老人食としては新聞に紹介された肉ダンゴよりも柔らかくヘルシーである。

 

今週紹介したように肉ダンゴはうまくできたが、肉ダンゴを大きくしたハンバーグになると難しさは数倍になる。すなわちおからに水分が多量に含まれているので焼き上げたときに密度が下がり、ハンバーグの食感が失われる問題と、ダンゴと異なり大きくなるので少々焼きづらく調理の難しさという新たな問題が発生した。

 

肉ダンゴの配合に近い処方でもハンバーグ形状のものはでき、味覚にうるさくない老人にはそれで十分かもしれない。ところが鍋種の場合には柔らかさをホクホク感でごまかせるが、ハンバーグは食べている間に温度が下がり、何かスポンジを食べているような食感になる。牛スジをダシにして作ったスープでおからを処理しても、この食感のために倍増した味覚が生きてこない。食感の重要性を改めて認識した。

 

ところが食感までおからを使用して制御しようとすると難易度が高くなる。現在モスバーガーレベルを目標に開発を続けているが、この開発で最も重要なのは毎週土曜日の食卓がおから料理となる家族の理解である。この2ケ月我が家の食卓は毎週おからハンバーグである。このような状態になると食感よりも味を飛躍的に向上させる技術を導入した方が良い。

 

これは研究開発と同じで、ゴールを他社並にして開発しているとそこそこの製品しかできないが、革新的な新たなコンセプトで飛躍的なイノベーションを行い、ダントツトップを狙った開発を行うと多少難有りでも商品にまとめ上げることができれば市場に受け入れられるのである。研究開発を理解していない女性議員がスーパーコンピューターの開発で「目標を2番にしたら」と発言したのは有名であるが、市場をコントロールできる立場の企業であればそのような開発でも許されるかもしれない。

 

しかし、大抵の日本企業はダントツトップを狙う研究開発をしなければ市場で生き残れない時代である。目標設定が企業の生存を左右する状態で、ほとんどの日本企業は研究開発を続けなければいけない。しかしバブル期にこれを忘れた企業も多く、なかなかバブル崩壊から立ち直れなかった。自分たちの技術を乗り越えるだけでなく、否定するぐらいのイノベーションが日々の研究開発で求められている。

 

おからで実現できた肉ダンゴをふっくらさせるコツをすてるアイデアがおからハンバーグの開発に必要だ。おからを使った場合には、おからに含まれる水分のためにどうしてもふっくらとしたハンバーグになってしまう。またハンバーグにはタマネギを入れるので水分がさらに多くなる。従来の発想を破壊するようなアイデアが無ければおからハンバーグの完成は無い。新たな気持ちで明日の夕食の処方アイデアを練っている。果たして明日家族の感動した顔を見ることができるのか。失敗した状況を考えるよりも成功したときの喜びを期待することが研究開発のコツである。

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.12/08 成形技術と混練技術

加硫ゴムを扱う会社では、コンパウンドを自前で設計しているケースが多い。例えばタイヤ会社でコンパウンドを外注している企業は皆無だ。しかし、樹脂成形メーカーはコンパウンドを外注している企業がほとんどである。

 

それぞれにメリットデメリットがあるが、汎用樹脂のような高い混練技術が要求されないコンパウンドでは成形工程と混練工程が異なる企業の分業体制でもかまわないが、高度な混練技術が要求される成形体、すなわち成形体の物性が混練技術で左右されるようなケースでは、混練工程から成形工程まで一貫生産した方が好ましいし、差別化技術となる。

 

タイヤという商品は、混練技術も成型技術も高度なレベルを要求される商品である。その品質を維持するために両者の研究スタッフを抱えていなければ事業を展開することが難しい。しかしポリエチレン容器の成形業者は、成形機を備え付けて外部から安価なコンパウンドを購入すればいつでも事業を始めることができる。すなわちタイヤ事業は技術的な参入障壁が高い事業だが、汎用樹脂の射出成形事業は技術の参入障壁が低い事業だ。その結果、後者では製品の価格競争となるが、前者では市場の価格決定権は技術の高い企業にある。

 

また、複合電子写真機の開発担当となって知ったことだが、成形業者は樹脂のサプライヤーの技術サービスに依存しているケースが多い。成形業者のコア技術は金型技術にあるようで、他の成形業者が真似できない安価で高機能な射出成形体を製造することがミッションとなっているようだ。その結果、樹脂成形業界はコンパウンダーが成形業者の技術をサポートできる程度の研究開発スタッフを抱えている。

 

5年間日本のコンパウンドメーカーと交流して驚いたのは、成形事業者を如何に納得させるのか、という技術を一生懸命開発している。本来樹脂を丸め込んでうまく混練するのがコンパウンダーのミッションのはずだが、多くのコンパウンダーは、如何に現在供給している樹脂をそのまま使わせるのかという技術開発に終始している。少し混練条件を変えるだけでも性能が上がる可能性があっても現在の混練条件を維持しようとする。

 

数t/時間の量産技術で市場に供給しているのだから一人一人の顧客に対応出来ない、というのがその理由のようだが、その結果混練技術開発の進歩が止まったようだ。このような市場に新たな混練技術で参入したらどうなるか。特にABSやPC/ABS、TPEの分野では2成分以上のポリマーをブレンドする必要がある。

 

例えば、二軸混練機を改造しカオス混合可能な装置で混練したPC/ABSでは、ナノオーダーの均一な高次構造が観察されたが、市販品は構造のサイズが10倍以上、あるいは100倍以上異なっている場合もある。またゴム相の分散状態も市販品は不均一である。コンパウンドの高次構造が新しい混練技術では既存の商品のそれと明確に異なり、樹脂のレオロジー特性も異なっている。このような技術を導入したコンパウンダーが市場に現れたら、既存のコンパウンドメーカーは今までの混練技術に対する考え方を見直すはずだ。

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.12/07 未完成な混練技術

30年以上前にゴムの混練技術を習得し、8年程前にラインから外されたおかげで樹脂の混練を研究できる機会を得た。ポリエチレンとパルプとの複合材料やレンズ用ポリオレフィン樹脂の混練、PPSとナイロンを相溶させる新技術の開発、この技術を用いた射出成形可能な再生PET樹脂の開発、他社のポリマーアロイで発生したクレーム対応および供給元変更に伴う現場指導などじっくりと混練技術の研究をしたかったが、PPS樹脂の混練を担当して以来研究時間は無くなった。

 

ラインへ戻され電子写真用キーパーツ開発や外装材開発を担当することになった。落ち込まなくて良かった、と思ったのもつかの間、落ち込みたくなる状況の連続だった。外部の樹脂メーカーの混練技術の未熟さに何度も泣かされたのだ。

 

例えば前任者から引き継いだPPS系の材料を扱った開発では外部からコンパウンドを調達する企画で業務が進められていた。満足な成形体ができないのでコンパウンドメーカーの技術者を呼び説明を聞いたところ、コンパウンドメーカーがコンパウンドの問題ではなく押出成形技術の問題、などと言うので議論が進まない。その結果、コンパウンドを内製化することになり、短期間にプラント建設しなければならない悲劇となった。

 

幸い混練プラントの技術を持った中小企業を知っていたので窮地を脱したが、常識はずれの開発で体重が5kg減少した。単身赴任で不規則な食生活となり5kg体重が増えたが、東京に戻る頃にはこの開発のおかげで元の体重になっていた。

 

ゴムの混練と樹脂の混練の両者を経験しわかったことは、ゴム屋と樹脂屋で混練に対する哲学が異なる点だ。PPS系の材料開発ではコンパウンドメーカーの技術サービスから素人には分からない世界です、と言われたが、確かに素人には理解できない対応を技術サービスはしていた。

 

当方が成功に至るアドバイスをしているのにそれを素人発言として却下してきたからだ。ゴムを混練してきた経験からとてもゴールにたどり着けない、と思いアドバイスしたのだが、聞き入れてもらえなかったので自分でコンパウンドを生産することにしたのである。

 

連続式混練機を中心にした樹脂の混練技術は、ポリエチレンやポリプロピレンに色材を分散している程度ならば十分な技術であるが、パーコレーション転移を制御して半導体樹脂を製造しようという高度な材料設計には対応出来ていない未完成の技術である。退職後改めて昔の混練技術も含め見直しているが、樹脂の混練技術には生産システムも含めイノベーションが必要である。

 

例えば、成形工程で発生しているテープ剥離のような品質問題は混練技術で解決した。これは長らく成形工程の問題とされていたのだが、コンパウンドメーカーが指導を依頼されたのでそれに応えたところ問題解決した。このような成形技術の問題に押しつけずコンパウンドの問題として受け止め誠実に混練の技術革新に励んでいるコンパウンドメーカーもある。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.12/06 ケミカルアタックと混練技術

ケミカルアタックは、樹脂に樹脂を膨潤させる油が付着したときに、樹脂の強度を著しく低下させる品質故障の呼び名である。樹脂に油が付着しても、その油が樹脂を膨潤させなければ樹脂の強度低下は起きない。しかし、樹脂に添加剤が多く混練されている場合には、その添加剤が油を樹脂内に導いたり、あるいは油が樹脂内の添加剤を吸い上げ樹脂強度を低下させる場合もある、と聞いている。

 

油が樹脂内の添加剤を吸い上げるという表現をおかしい、と感じられるかもしれないが、添加剤の溶解性が樹脂よりも油で高くなる場合(注1)にその様な現象が発生する。SP値というパラメーターがあり、その現象の指標として用いることができる。メカニズム不明の場合も含め樹脂のケミカルアタックの問題は構造用材料として樹脂を用いるときに致命的な品質故障となるので成形業者にとって深刻である。

 

ケミカルアタックによる品質故障を防ぐには現場における油の管理が重要である。これを徹底して行う必要がある。少なくとも成形現場でケミカルアタックの原因を完全に取り除いておかないとケミカルアタックの品質問題は解決が難しくなる。例えば混練技術が未熟な企業のコンパウンドでは、樹脂の混練が不十分なために射出成形体が不均一になりやすく、その結果部分的に強度の低下した成形体ができることがある。例えば成形体にボスがあるケースで、ボスの部分にスが入り強度低下が起きる、ということを経験した。

 

この問題では、特定ロットのコンパウンドでペレットにスが入っており、混練時に高温度に曝されコンパウンドに含まれる成分が分解した可能性が疑われた。ペレットの電子顕微鏡写真や熱分析、粘弾性解析など手元にある高分子の評価技術で解析したところペレットの生産時に温度異常があった可能性が高い、という結論が出た。そこでコンパウンドメーカーの中国の工場を監査したところ制御盤の指示温度の幾つかが設定温度よりも高くなっており、20℃以上も高いゾーンがあったので、解析結果を裏付ける証拠写真を撮った。また、その時生産されていたロットの一部のペレットにもスが入っていた。

 

ところが、混練現場で混練条件が管理されていない証拠写真を見せて樹脂メーカーと日本で議論しても成形現場のケミカルアタック説で押し切られた。とことん議論しても平行線となり、ペレットに「ス」が100%入っていないコンパウンドを納入する、という条件を認めさせて議論は決着した。このように誠意の無い樹脂メーカーの場合(注3)には、すべての原因を顧客の責任にする傾向があるので成形業者は注意が必要だ。成形業者は怪しいと感じたら混練現場を監査する必要がある。樹脂の混練技術は、2世紀近い歴史を持つバンバリーとロールで混練されるゴム材料に比較して、開発の歴史は50年弱(注2)であり、現在も新しい連続式混練機の提案がなされている。

 

(注1)このような場合、系の自由エネルギーを検討する。SP値もフローリーハギンズのχも熱力学のパラメーターであり、このような現象解析で用いられる。しかし、低分子のSPは理論と合う場合が多いが高分子では50%程度の信頼度である。高分子のSPについては溶媒から用いた値を用いる方法もあり、この方法で求めたSPではよく一致する。

 

(注2)連続式混練機の発明は100年以上前とも言われているが、連続式混練機が発明されてもゴムの混練にはバンバリーとロールが使用された。

 

(注3)コンパウンドメーカーとケミカルアタックについて議論した話を引用するのは3回目だが、サラリーマン生活において悔しい思い出の一つである。誠実かつ真摯に対応して100%完璧な白黒決着をつけることができるほど高分子の分析技術は現場まで普及していないし、学術的にも難しい問題である。このことを高分子技術者は知っているので誠実に議論すると灰色の結論になる。その結果、図々しい方の意見が通る、というのがケミカルアタックという故障である。この体験では、成形体の引張強度が部位によって大きくばらついているデータを見せても、それは正確なダンベル型のサンプルで測定したデータではない、というへりくつをつけられた。他のロットに比較し分解物が多い、という証拠として熱分析結果を見せても、ベースラインがおかしいだけだ、と押し切られた。最後に混練現場で設定温度よりも高い温度で混練されていた写真を見せた場合には、樹脂メーカーの担当者も少し驚いたが、ケミカルアタックの問題が起きたロットではない、と否定された。会議の終わり際に、それでは、このスのいっぱい入ったコンパウンドで正常だと思っているのか、とケミカルアタックの疑いがあった成形体に用いたコンパウンドそのものを机の上に出して見せたら、「ス」の無いコンパウンドを納入します、となった。顧客を馬鹿にしたような話であるが、これは実話である。ちなみに成形現場では油の管理基準があり、十分に管理された状態だった。このコンパウンドメーカーの混練技術は、技術サービスとの議論や現場の状況からゴム会社のそれよりも低い、と判断された。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.12/05 混練機構(6)

高度経済成長時代と異なり、サラリーマンは大変な時代である。管理職の階層も簡素化された企業が多い。簡素化されても会社の先行き不透明感からカオス状態のプレーイングマネージャーもいるかもしれない。多くの階層があった状態が、失われた20年の間に圧縮され折り曲げられて、経営者層管理者層担当者層の区分けがよく練り上げられた組織体制に変貌していった。

 

混練にも層流状態が折り曲げられ、分配混合と分散混合をうまく組み合わせて進行するカオス混合がある。カオス混合は餅つきやパイ生地練りに見られる混練方法である。例えばオープンロールによる混練ではカオス混合を実現できる技があり、効率良く均一分散と微細化を進めることが可能となっている。

 

オープンロールでは、ロールにゴムを巻き付けて運転するだけでも狭いギャップのロール間を通過するだけで高い応力がかかり、分散混合で微細化が進行する。ここにナイフを用いた返し作業をうまく行うとカオス混合となるが、このナイフ作業には高いスキルが要求される。30数年前このナイフ作業で悪戦苦闘し技を1週間で習得した体験がある。

 

この悪戦苦闘のきっかけを与えてくれたのは当時の指導社員で、カオス混合を機械で連続的に実現する装置を考えると混練に革新をもたらすと教えてくれた。カオス混合とはどのようなプロセスなのか勉強するためにオープンロールの技を鍛える必要があったのだが、練習の効果が出てナノオーダーで樹脂が分散した樹脂補強ゴムを開発することができた。TEMで撮影されたナノオーダーの海島構造を見たときに感動した。

 

10年ほど前に偏芯二重円筒で発生するカオス混合流に関するシミュレーションの論文が発表されている。偏芯二重円筒の装置以外にも写真会社から二軸混練機に取り付けてカオス混合流を発生させる装置が実用化され5年前に特許出願済みである。この装置を用いるとPPSと6ナイロンを相容させることが可能となる。

 

最近混練分野においてカオス混合に関心が高くなっている。混練は2世紀近い技術開発が行われてきたが、ナノテクノロジーの生産性を改善する目的で研究開発すべきではないだろうか。もしこの技術に興味のある企業があれば、研究のためにご協力をお願いしたい。新たな構造を考案したのでそれを実験で確認したいのだが弊社には混練機が無い。実用性のある研究テーマです。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.12/04 混練機構(5)

高分子とカーボンブラックの組み合わせで混練がどこまで進行したのかカーボンブラックの分散状態から決めるのは難しい。理由は、カーボンブラックの凝集体の分散が見かけ上一定になっても、力学物性が安定していなかったからだ。すなわち電子顕微鏡で観察したカーボンブラックの分散状態に差異が無くともゴムの力学物性に差が存在した。

 

新入社員時代に練習用サンプルの混練を行っていたとき、日々サンプルの分析を分析グループの女性陣が親切にやってくれた。指導社員がそのように手配してくれていたわけだが、日々力学物性と分析データをつきあわせる会議は担当者に囲まれ一瞬のうちに1時間が過ぎた。混練の難しい配合に四苦八苦している姿を周囲は「いじめ」に見ていたようだが、内心は竜宮城に通うような日々であった。そこで混練の進み具合をカーボンブラックの分散状態から探るのは難しい、という結論となった。

 

当時は混練の進み具合の指標がよく分からず、結局力学物性が最良の状態で安定したところが合格ラインという結論になったのだが、この問題を再度考えるチャンスが50代に訪れた。写真会社でラインから外され、自由な時間が増えた時だ。その時にこの問題を考えるため外部のメーカーにお願いし混練機を借り、混練で樹脂の部分自由体積の変化がどうなるか調べた。処遇が原因で業務に対するモチベーションが下がった場合には、腐るのではなく若く希望に燃えていた時代を思い出すのが一番である。

 

ポリオレフィン樹脂を小型バンバリーで混練し、部分自由体積の変化を調べたところ、30分以上混練すると部分自由体積の量が一定になることを見いだした。部分自由体積の軸とレオロジーのパラメーターの軸で混練条件の異なるサンプルをプロットしたところ興味深い結果が得られた。

 

市販のポリオレフィン樹脂だけで混練を行ったときの変化を観察し、混練で進むのが分散だけでなく高分子の変性も行われていることをデータで確認できたわけだが、この結果からカーボンブラックの分散が見かけ上均一に見えたとしても、混練が不十分であると力学物性が安定化しない、といった新入社員時代に体験した現象について理解できた。

 

若い時には辛い仕事を楽しい環境で推進できモチベーションが上がったが、50代は辛い環境で楽しい仕事を行いモチベーションが下がるのを防いだ。仕事が楽しければ面白いように成果が出る。「サラリーマン、腐ったら負け」という言葉があるが本当だ。

 

運良く社長まで昇進できる人もいるが、社長になっていたら若い時に竜宮城で頂いた玉手箱を開ける機会もなかった。運良くラインからはずれたため実験を行う時間ができて写真会社でゴム会社で出会った問題を解くことができた。「自由に何でもしてよい」とは、当時の上司の言葉だが、50過ぎのサラリーマンの身には一瞬残酷に聞こえたが竜宮城の玉手箱の存在に気がつき、幸運の一言になった。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.12/03 混練機構(4)

混練時に樹脂に働く力は伸張流動と剪断流動の組み合わせで表現でき、分配混合と分散混合で混練は進行する。それでは、どのくらいの時間混練を行えば良いのだろうか。あるいはどれだけ混練を行えば、それ以上混練を進めても無駄である、という状態になるのか、このことを詳しく書いた教科書を見たことがない。ただし、混練された結果の写真は、学会報告などで度々登場する。

 

ゴム会社で指導社員から教えて頂いたのは、指導社員が混練したサンプルと同じ物性になったときが混練状態の最良の状態ということであった。指導社員が用意してくれたマスターバッチのゴム20kgを見て驚いたが、100g前後で練習しゴールを達成したときに、ほとんど無くなっていたことで混練の難しさを理解できた。

 

その練習期間に物性の変化を見ると、引張強度はじめ諸物性は向上するが、興味深かったのは、混練の「技」の習熟度が進むと圧縮永久歪などの耐久試験で著しく改善が見られたことである。周囲が「いじめ」と茶化したのは、練習に用いたゴムの処方が高い混練技術を要求される処方であると皆知っていたからだ。他の新入社員は簡単な処方から練習するが、いきなりウルトラC級の「技」が要求されるゴムで練習させられていたので「いじめ」とみられたのである。しかしおかげで混練がどういう「技」なのか体で理解することができた。

 

ゴムの処方では、カーボンブラックを補強用フィラーとして添加する。ロール混練だけでカーボンブラックを分散するのは、ゴム種によっては少し大変な作業となる。すなわちカーボンブラックのカミコミの悪いゴムではロール周辺を汚し掃除が大変なのである。バンバリーを用いると5分もすれば、どのようなゴム種でも見かけ上分散したように見える。しかし、電子顕微鏡で見ると様々な大きさのカーボンの凝集体が分散しているだけである。

 

これがロール混練されるとある分散を持ったカーボンブラックの凝集体だけとなる。コロイド化学をご存じの方であれば、この様子は目に浮かぶかもしれない。コロイドとしての性質だけでなく、カーボンにはストラクチャーと呼ばれる製造条件由来の構造があり、一次粒子のサイズまで高分子中に分散を進めることは不可能である。また、カーボンのストラクチャーの単位まで分散を進めることも困難で、高分子中におけるカーボンの分散は凝集体で分散することになる。

 

その結果どこまで混練を行えば良いのか、という問いに対しては、平衡で決まるカーボンの凝集体のサイズまで行えば良い、というのは一つの答だが、そのサイズとはどのように考えればよいのか、という新たな問題が生じる。(明日に続く)

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.12/02 混練機構(3)

昨日分配混合と分散混合を説明したが、スタティックミキサーは、分配混合に特化した混合装置である。このミキサーには駆動部が無く、ねじれた流路で流体を交互に反転させて効率的な位置交換を行いながら均一化を進める構造になっている(注)。

 

スタティックミキサーは、その構造から粘度が低い流体の混合に用いられるが、注意しなければならないのは、分散粒径の微細化が得意ではないことである。すなわちメカニカルに微細化を進めることができないので、ケミカルに微細化する仕掛けを流体の中に仕込んでおかない限り、数ミクロンオーダーの構造の分散までが限界であることを知っておく必要がある。

 

このオーダーであると最終的な材料の力学物性に影響を与えるケースがでてくる。例えば弾性率が高い材料の場合には靱性に影響が出る。もしスタティックミキサーで混合して得られた材料物性の力学強度が期待された値よりも低い場合や脆さが期待された感覚よりも脆い場合にはスタティックミキサーを疑った方が良い。スタティックミキサーには流体の均一化には効果があるが微細化にはあまり有効な混合方法ではない。

 

スタティックミキサーのこのような欠点や分散粒径が靱性に影響を与えることはあまり知られていない。また引張強度や曲強度は、靱性と弾性率に影響を受ける。すなわち分散粒径は強度と関係することになる。ただ、分散粒径と靱性の関係は材料の弾性率が変化すると変わるのでこの点に気がつかないことがあるが、これは線形破壊力学に書かれている科学の話である。またスタティックミキサーの欠点に気がついたのは経験の話である。その経験では痛い目に遭った。

 

スタティックミキサーは簡便な混合装置なので普及しているが、高機能部品の製造ラインにも用いられているのを見てびっくりした。例えばシリコーンLIMSの処方を混合するときにスタティックミキサーが頻繁に使用されているが、高機能シリコーン部品を実現できる実力があるとは思っていなかった。しかし高機能シリコーン部品でしばしば品質問題が起きている、という話をよく聞くし、先の痛い目にあった経験はシリコーンLIMSを使用した部品である。強度の問題であればスタティックミキサーすなわち分散を必要とする材料のできあがった構造を疑った方が良い。

 

ところでウトラッキーの伸張流動装置は、ギャップの狭い鋭利な空隙に流体を通過させて高い応力で伸張流動を発生させ、分散混合を進める機構である。この装置の問題点は微細化を進めるために伸張流動を発生させている空隙が流動を妨げ生産効率を落とす問題である。現在樹脂生産に用いられている時間当たり1t以上の吐出量の混練を実現しようとすると実現不可能な大きさの装置となる。

 

特許は出ていないが、スタティックミキサーに伸張流動装置を組み合わせるのは良い方法で、本日この欄を読まれた読者は幸運である。シリコーンLIMSをスタティックミキサーで混合していて問題が発生したら伸張流動装置を組み合わせてみると良い。その他のアイデアもあるのでご興味を持たれた方はご質問ください。

 

(注)スタティックミキサーでも伸長流動と剪断流動が発生しているので微細化が進行する、と勘違いしている人がいる。バンバリーミキサーが微細化を不得意としているようにスタティックミキサーも微細化は得意では無い。微細化はできない装置とまで書きたいが、そこまで書くと間違いを指摘されそうなので書かないが、その程度の混合装置なので使用に当たって注意が必要である。スタティックミキサーで微細化を行いたいときには、化学の力をを必要とする。

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.12/01 混練機構(2)

溶融した樹脂が混練で変形する時の変形の仕方、すなわち流動状態及びその時に樹脂に働く力は、剪断流動と伸張流動の2つの組み合わせで表現できるが、その結果混練機の中で2種以上の成分の混合が進行するモデルは、分配混合と分散混合の2種に分けて考えられている。これは最近の研究成果で30年以上前にはなかった考え方である。

 

分配混合は系全体にわたる各成分の均一化に相当するモデルであり、分散混合は、分散相の微細化に相当するモデルである。分配混合では、歪みの作用による各成分の引伸ばし、重ね合わせによる相対的な位置交換が重要となる。このため、各成分が濡れることができるかどうかが問題となり、その結果形成された界面へ作用する歪みの大きさとその方向が混合を進める支配因子となる。

 

昨日変形による歪み速度は、応力F/溶融状態におけるその時の粘度ηで表現されると書いたが、この関係から分かるように、樹脂の粘度で歪み速度が影響をうける。すなわち混合が進行しているときの樹脂の粘度で分配混合が影響を受けることになる。

 

このモデルで問題となるのは、樹脂の動的粘度は温度と周波数に依存して変化しているが、シミュレーションの時には適当な粘度を放り込んで計算していることである。なかなかシミュレーションと実際の樹脂の混合の様子が一致しないのは動的粘度の扱いが難しいことも影響している。混練の経験の無い人はここで勘違いをすることが多い。あるいは、このような考え方なので新しいアイデアを出せないあるいは目の前の問題解決で間違った対策をすることになる。

 

また、分散混合のモデルでは分散相の分裂と微細化の考え方が重要で、応力の作用が支配因子となる書き方が一般の教科書で書かれている。しかし、混練機の中では、壁面への衝突や熱輻射が働いており、単純に混練機のローターで働く剪断力だけでは応力の作用をモデル化できない。さらに無機のフィラーの混合では壁面で発生する摩耗の効果を考えなければならない。粘度や流動状態の影響があるのは分配混合と同じであるが、微細化過程の考え方は、多数の因子が働くので論文に書かれているような単純なモデルでは説明が難しいと思っている。

 

長い間、剪断流動により微細化は難しい、と言われてきた。10年ほど前の国研、高分子精密制御プロジェクトではナノテクノ本命技術を目指し、L/Dがとてつもなく大きい二軸混練機を製作し、伸張流動を中心にした混練が検討された。またウトラッキーにより発明された伸張流動装置も同時に検討された。それなりの成果が出て、ナノオーダーへの分散が機械装置でできることが示されたが、一方で産総研の研究結果では高速剪断流動でもナノオーダーの分散が進むことも発見された。

 

 

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