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2013.12/18 高分子の相溶(2)

高分子ガラスには、DSCを測定した時にTgが現れないことがある、と昨日書いたが、不思議な現象ではないのだろうか。無機材料では、アモルファス相でTgを持つ物質をガラスという、と明確に書いてあるが、高分子ではすべてTgを持っている前提になっている。そのためこのTgを示さない高分子アモルファス相について、ほとんど研究が進んでいない。

 

例えばAとBの高分子を相溶させたときに、Aの高分子のTgとBの高分子のTgが一つになった時にAとBの高分子は相溶している、と判断され、電子顕微鏡で一相になった様子を観察した結果が示されている。粘弾性で測定されるTgも同様に一つになる。またTMAで観察されるTgも一つになり、アモルファス相でAとBがガラス相で一相になっている、と同定できる。

 

それではTgが観察されない高分子のアモルファス相はどのような状態だろうか。やはりガラス相と同等に扱うべきという考え方で少しトリックを使いTg変化をチャートにだすような測定方法で良いのだろうか。それとも無機材料のようにガラスではなく単なるアモルファス相と扱うべきではないだろうか。高分子の相溶現象はアモルファス相で生じるのだが、このアモルファス相の理解を進めなくてもよいのだろうか。

 

光学用樹脂として有名なアペルやゼオネックスは非晶性樹脂として知られているがこれはウソである。ただしこのウソは今年話題になったホテルの食材偽装と性格は異なり、材料を供給しているメーカーの技術水準を問われる問題だが、少なくとも10年前のアペルやゼオネックスはある条件で結晶化させることができた。そしてわざわざアペルやゼオネックスの結晶を作って営業担当にこの問題の回答をお願いしたがいずれも回答を頂けなかった。この2つの樹脂には、世間であまり知られていない技術に関わる問題を引き起こす物性が隠れている。そのため品質問題が起きても迷宮入りとなる。

 

アペルを非晶性樹脂として扱う技術上の問題については、とことん実験を行い理解を深めた。ゼオネックスについてもその問題の幾つかを実験していたが、PPSと6ナイロンの相溶を扱うようになって時間が無くなり、非晶性樹脂とうたっている怪しいベールの全てを剥がすことができなかったが、結晶化させることができたのでこれも結晶性樹脂といってもよいと確信している。そしてその結果ゆえに引き起こされる問題をゼオネックスもアペル同様に内在している。

 

さてアペルであるが少なくともそのアモルファス相(非晶相)は2つある。一つのアモルファス相はTg以上で膨張する相であり、他の相は収縮する。そしてこの比率は射出成型条件で変化する。そして時々起きる偶然がTMAで観察される見かけ上のTgを30℃以上も引き上げる。TMAのTgは高く観察されるが面白いことにDSCのTgはほとんど変化しない位置に現れる。

 

アペルのアモルファス相の不思議な現象からアペルにポリスチレンが相溶するのではないか、と考えた。理由を簡単に説明するとフローリーハギンズ理論の見かけのχが大きな組み合わせでもコンフォメーションを安定化させる錠と鍵の関係になれば、自由エネルギーが下がり(χが小さくなり)相溶する可能性がある、と考えた。これはフローリーハギンズ理論で説明されているようなモノマー単位の親和性ではない立体の安定化の要請から生じる現象である。

 

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.12/17 高分子の相溶(1)

2種類の高分子を混合したときに混ざって均一になるのかどうか、すなわち相溶するのかどうか、という問題は高分子溶液論から導かれたフローリー・ハギンズ理論(FH理論)で論じられχが0となるときに相溶する、といわれている。また、それぞれの高分子のSP値をモノマー構造から計算して、SP値が近い高分子は相溶しやすいとか議論したりする。

 

高分子の相溶性だけでなく、何か添加剤を高分子に添加したいときにその分散性を事前評価する場合にも用いられている。添加剤についてはカーボンブラックやチタンホワイトなどの粒子表面のSPなども提案され、微粒子が高分子に分散する状態を表現することに成功した、という論文もある。

 

ところでχパラメーターやSPは溶液論の延長から導き出された値である。これらのパラメーターを用いる高分子加工分野の大半は高分子を無溶媒で混合するプロセスであり、FH理論がそのまま当てはまる、と考えてよいのだろうか。ゴム会社に入社したときに最初に頭に浮かんだ疑問である。

 

高分子の相溶は高分子のアモルファス相(結晶になっていない部分、非晶相)で起きる現象である。高分子相溶系で結晶が生成し始めるとスピノーダル分解で2相に分離することはよく知られている。

 

ところが高分子のアモルファス相は無機のアモルファス相と少し異なる。また、アモルファスである無機ガラスと似ていると言われているが、やはり少し異なる。一応高分子のアモルファス相にもガラス転移点(Tg)が観察されるので、アモルファス相という言葉よりもガラス相という言葉が高分子の教科書で使用されている。

 

アモルファス相にはTgを持つ相と持たない相があり、Tgを持つ相の物質をガラスと呼ぶことはガラス工学の教科書に書かれているが高分子の教科書には書かれていない。すなわちガラスであるためにはTgを持っていなければならず、Tgは高分子の基礎パラメーターとして常識となっている。

 

ゴム会社に入社して、からかわれた思い出がある。今ならばいじめに近いが、ある高分子の示差熱分析(DSC)を測定していたらTgが出ない。これは新発見、と驚いたら、DSCの測定方法としてちょっとしたテクニックが知られており、そのテクニックを使用するとどのような高分子でもTgが出ると教えられた。しかしこのちょっとしたテクニックを知っていることは高分子研究者の常識だとからかわれた。

 

この思い出のおかげで高分子ガラスに疑問を持つようになった。大学院の生活は無機材料の、それもガラスも扱っている研究室でリン系の材料の合成研究をしていた。その時は、Tgがあるのか無いのかはガラスの判定基準であった。しかし、高分子の世界では、姑息な手段でDSCのチャートにTgがわざわざ現れるように測定するのである。これは科学としてインチキである。ただ、高分子のアモルファス相はガラスという常識があるからTgの無いDSCチャートではかっこつかないから姑息なテクニックが生まれたようだ。

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.12/14 否定証明

特殊な構造をした半導体微粒子を絶縁オイルに分散すると電気粘性流体(ERF)ができる。1年以上前にこの欄でその開発の様子を書いたが、このテーマを担当するきっかけとなったのは、ERFをゴムに封入して用いたときにゴムの添加物がERF中に抽出されて增粘する、という問題が発生し、その解決方法が見つからなかった時だ。

 

このような問題は界面科学の問題である、と科学の知識がある方は現象を見てアイデアを思い巡らす。ERFの開発を推進していたメンバーもその様に考えて市販の界面活性剤を科学的に分析しながら增粘を抑える対策として検討を進めた。しかし、增粘を抑える界面活性剤が見つからなかったので、界面活性剤では解決できない、という証明を沿えて、それ以外の対策方法の探索を進めていた。

 

一人で高純度SiCの開発を続けていた立場では、このようなときにすぐにネコの手として引っ張り出される。そしてじゃれる程度の仕事を手伝うことになる。企業で研究開発を担当された方はこのような立場を理解できるのではないかと思う。じゃれているだけではつまらないので、アンダーグラウンドで独自のアイデア実験を進めたところ3日間で解決策が完成した。

 

ところがその解決策は、プロジェクト正規メンバーが不可能という結論を出した方法だった。すなわちERFの增粘を抑える界面活性剤が見つかったのだ。それも否定されていた構造に近い材料だった。納期が迫っていた開発だったので一応採用されたが、一部のプロジェクトメンバーから反感を持たれたのは確かである。

 

その結果ゴム会社を退職することになるのだが、科学的な方法で進める研究開発で陥りやすい否定証明については、イムレラカトシュという哲学者が「方法の擁護」という著書の中で、科学的方法で完璧にできるのは否定証明である、と述べている。

 

すなわち、できない理由を科学的に証明することは易しいのである。技術開発を科学的に解析しながら進めていて失敗が続くとこの罠に陥る。技術開発では「モノ」を創りださなければいけないのだが、頭の良い人ほどこの罠にはまる。この罠にはまらないような研究開発を進める方法の一つが弊社の研究開発必勝法である。失敗続きで家族に迷惑をかけているが、今夜は必ずおいしいオカラハンバーグを完成させる。

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.12/13 肉ダンゴをふっくらさせるコツ

先日12月6日付けの産経新聞の生活欄に「肉団子をふっくらさせるコツ」というのが載っていたので、昨日おからを紹介させて頂いた。水だけを入れた場合とおからを使用した場合とでは栄養価が異なる。また、1個あたりのカロリーも新聞に紹介された方法よりおからを使用した方が下がりヘルシーな肉ダンゴとなる。歯の悪い老人食としては新聞に紹介された肉ダンゴよりも柔らかくヘルシーである。

 

今週紹介したように肉ダンゴはうまくできたが、肉ダンゴを大きくしたハンバーグになると難しさは数倍になる。すなわちおからに水分が多量に含まれているので焼き上げたときに密度が下がり、ハンバーグの食感が失われる問題と、ダンゴと異なり大きくなるので少々焼きづらく調理の難しさという新たな問題が発生した。

 

肉ダンゴの配合に近い処方でもハンバーグ形状のものはでき、味覚にうるさくない老人にはそれで十分かもしれない。ところが鍋種の場合には柔らかさをホクホク感でごまかせるが、ハンバーグは食べている間に温度が下がり、何かスポンジを食べているような食感になる。牛スジをダシにして作ったスープでおからを処理しても、この食感のために倍増した味覚が生きてこない。食感の重要性を改めて認識した。

 

ところが食感までおからを使用して制御しようとすると難易度が高くなる。現在モスバーガーレベルを目標に開発を続けているが、この開発で最も重要なのは毎週土曜日の食卓がおから料理となる家族の理解である。この2ケ月我が家の食卓は毎週おからハンバーグである。このような状態になると食感よりも味を飛躍的に向上させる技術を導入した方が良い。

 

これは研究開発と同じで、ゴールを他社並にして開発しているとそこそこの製品しかできないが、革新的な新たなコンセプトで飛躍的なイノベーションを行い、ダントツトップを狙った開発を行うと多少難有りでも商品にまとめ上げることができれば市場に受け入れられるのである。研究開発を理解していない女性議員がスーパーコンピューターの開発で「目標を2番にしたら」と発言したのは有名であるが、市場をコントロールできる立場の企業であればそのような開発でも許されるかもしれない。

 

しかし、大抵の日本企業はダントツトップを狙う研究開発をしなければ市場で生き残れない時代である。目標設定が企業の生存を左右する状態で、ほとんどの日本企業は研究開発を続けなければいけない。しかしバブル期にこれを忘れた企業も多く、なかなかバブル崩壊から立ち直れなかった。自分たちの技術を乗り越えるだけでなく、否定するぐらいのイノベーションが日々の研究開発で求められている。

 

おからで実現できた肉ダンゴをふっくらさせるコツをすてるアイデアがおからハンバーグの開発に必要だ。おからを使った場合には、おからに含まれる水分のためにどうしてもふっくらとしたハンバーグになってしまう。またハンバーグにはタマネギを入れるので水分がさらに多くなる。従来の発想を破壊するようなアイデアが無ければおからハンバーグの完成は無い。新たな気持ちで明日の夕食の処方アイデアを練っている。果たして明日家族の感動した顔を見ることができるのか。失敗した状況を考えるよりも成功したときの喜びを期待することが研究開発のコツである。

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.12/08 成形技術と混練技術

加硫ゴムを扱う会社では、コンパウンドを自前で設計しているケースが多い。例えばタイヤ会社でコンパウンドを外注している企業は皆無だ。しかし、樹脂成形メーカーはコンパウンドを外注している企業がほとんどである。

 

それぞれにメリットデメリットがあるが、汎用樹脂のような高い混練技術が要求されないコンパウンドでは成形工程と混練工程が異なる企業の分業体制でもかまわないが、高度な混練技術が要求される成形体、すなわち成形体の物性が混練技術で左右されるようなケースでは、混練工程から成形工程まで一貫生産した方が好ましいし、差別化技術となる。

 

タイヤという商品は、混練技術も成型技術も高度なレベルを要求される商品である。その品質を維持するために両者の研究スタッフを抱えていなければ事業を展開することが難しい。しかしポリエチレン容器の成形業者は、成形機を備え付けて外部から安価なコンパウンドを購入すればいつでも事業を始めることができる。すなわちタイヤ事業は技術的な参入障壁が高い事業だが、汎用樹脂の射出成形事業は技術の参入障壁が低い事業だ。その結果、後者では製品の価格競争となるが、前者では市場の価格決定権は技術の高い企業にある。

 

また、複合電子写真機の開発担当となって知ったことだが、成形業者は樹脂のサプライヤーの技術サービスに依存しているケースが多い。成形業者のコア技術は金型技術にあるようで、他の成形業者が真似できない安価で高機能な射出成形体を製造することがミッションとなっているようだ。その結果、樹脂成形業界はコンパウンダーが成形業者の技術をサポートできる程度の研究開発スタッフを抱えている。

 

5年間日本のコンパウンドメーカーと交流して驚いたのは、成形事業者を如何に納得させるのか、という技術を一生懸命開発している。本来樹脂を丸め込んでうまく混練するのがコンパウンダーのミッションのはずだが、多くのコンパウンダーは、如何に現在供給している樹脂をそのまま使わせるのかという技術開発に終始している。少し混練条件を変えるだけでも性能が上がる可能性があっても現在の混練条件を維持しようとする。

 

数t/時間の量産技術で市場に供給しているのだから一人一人の顧客に対応出来ない、というのがその理由のようだが、その結果混練技術開発の進歩が止まったようだ。このような市場に新たな混練技術で参入したらどうなるか。特にABSやPC/ABS、TPEの分野では2成分以上のポリマーをブレンドする必要がある。

 

例えば、二軸混練機を改造しカオス混合可能な装置で混練したPC/ABSでは、ナノオーダーの均一な高次構造が観察されたが、市販品は構造のサイズが10倍以上、あるいは100倍以上異なっている場合もある。またゴム相の分散状態も市販品は不均一である。コンパウンドの高次構造が新しい混練技術では既存の商品のそれと明確に異なり、樹脂のレオロジー特性も異なっている。このような技術を導入したコンパウンダーが市場に現れたら、既存のコンパウンドメーカーは今までの混練技術に対する考え方を見直すはずだ。

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2013.12/07 未完成な混練技術

30年以上前にゴムの混練技術を習得し、8年程前にラインから外されたおかげで樹脂の混練を研究できる機会を得た。ポリエチレンとパルプとの複合材料やレンズ用ポリオレフィン樹脂の混練、PPSとナイロンを相溶させる新技術の開発、この技術を用いた射出成形可能な再生PET樹脂の開発、他社のポリマーアロイで発生したクレーム対応および供給元変更に伴う現場指導などじっくりと混練技術の研究をしたかったが、PPS樹脂の混練を担当して以来研究時間は無くなった。

 

ラインへ戻され電子写真用キーパーツ開発や外装材開発を担当することになった。落ち込まなくて良かった、と思ったのもつかの間、落ち込みたくなる状況の連続だった。外部の樹脂メーカーの混練技術の未熟さに何度も泣かされたのだ。

 

例えば前任者から引き継いだPPS系の材料を扱った開発では外部からコンパウンドを調達する企画で業務が進められていた。満足な成形体ができないのでコンパウンドメーカーの技術者を呼び説明を聞いたところ、コンパウンドメーカーがコンパウンドの問題ではなく押出成形技術の問題、などと言うので議論が進まない。その結果、コンパウンドを内製化することになり、短期間にプラント建設しなければならない悲劇となった。

 

幸い混練プラントの技術を持った中小企業を知っていたので窮地を脱したが、常識はずれの開発で体重が5kg減少した。単身赴任で不規則な食生活となり5kg体重が増えたが、東京に戻る頃にはこの開発のおかげで元の体重になっていた。

 

ゴムの混練と樹脂の混練の両者を経験しわかったことは、ゴム屋と樹脂屋で混練に対する哲学が異なる点だ。PPS系の材料開発ではコンパウンドメーカーの技術サービスから素人には分からない世界です、と言われたが、確かに素人には理解できない対応を技術サービスはしていた。

 

当方が成功に至るアドバイスをしているのにそれを素人発言として却下してきたからだ。ゴムを混練してきた経験からとてもゴールにたどり着けない、と思いアドバイスしたのだが、聞き入れてもらえなかったので自分でコンパウンドを生産することにしたのである。

 

連続式混練機を中心にした樹脂の混練技術は、ポリエチレンやポリプロピレンに色材を分散している程度ならば十分な技術であるが、パーコレーション転移を制御して半導体樹脂を製造しようという高度な材料設計には対応出来ていない未完成の技術である。退職後改めて昔の混練技術も含め見直しているが、樹脂の混練技術には生産システムも含めイノベーションが必要である。

 

例えば、成形工程で発生しているテープ剥離のような品質問題は混練技術で解決した。これは長らく成形工程の問題とされていたのだが、コンパウンドメーカーが指導を依頼されたのでそれに応えたところ問題解決した。このような成形技術の問題に押しつけずコンパウンドの問題として受け止め誠実に混練の技術革新に励んでいるコンパウンドメーカーもある。

 

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2013.12/06 ケミカルアタックと混練技術

ケミカルアタックは、樹脂に樹脂を膨潤させる油が付着したときに、樹脂の強度を著しく低下させる品質故障の呼び名である。樹脂に油が付着しても、その油が樹脂を膨潤させなければ樹脂の強度低下は起きない。しかし、樹脂に添加剤が多く混練されている場合には、その添加剤が油を樹脂内に導いたり、あるいは油が樹脂内の添加剤を吸い上げ樹脂強度を低下させる場合もある、と聞いている。

 

油が樹脂内の添加剤を吸い上げるという表現をおかしい、と感じられるかもしれないが、添加剤の溶解性が樹脂よりも油で高くなる場合(注1)にその様な現象が発生する。SP値というパラメーターがあり、その現象の指標として用いることができる。メカニズム不明の場合も含め樹脂のケミカルアタックの問題は構造用材料として樹脂を用いるときに致命的な品質故障となるので成形業者にとって深刻である。

 

ケミカルアタックによる品質故障を防ぐには現場における油の管理が重要である。これを徹底して行う必要がある。少なくとも成形現場でケミカルアタックの原因を完全に取り除いておかないとケミカルアタックの品質問題は解決が難しくなる。例えば混練技術が未熟な企業のコンパウンドでは、樹脂の混練が不十分なために射出成形体が不均一になりやすく、その結果部分的に強度の低下した成形体ができることがある。例えば成形体にボスがあるケースで、ボスの部分にスが入り強度低下が起きる、ということを経験した。

 

この問題では、特定ロットのコンパウンドでペレットにスが入っており、混練時に高温度に曝されコンパウンドに含まれる成分が分解した可能性が疑われた。ペレットの電子顕微鏡写真や熱分析、粘弾性解析など手元にある高分子の評価技術で解析したところペレットの生産時に温度異常があった可能性が高い、という結論が出た。そこでコンパウンドメーカーの中国の工場を監査したところ制御盤の指示温度の幾つかが設定温度よりも高くなっており、20℃以上も高いゾーンがあったので、解析結果を裏付ける証拠写真を撮った。また、その時生産されていたロットの一部のペレットにもスが入っていた。

 

ところが、混練現場で混練条件が管理されていない証拠写真を見せて樹脂メーカーと日本で議論しても成形現場のケミカルアタック説で押し切られた。とことん議論しても平行線となり、ペレットに「ス」が100%入っていないコンパウンドを納入する、という条件を認めさせて議論は決着した。このように誠意の無い樹脂メーカーの場合(注3)には、すべての原因を顧客の責任にする傾向があるので成形業者は注意が必要だ。成形業者は怪しいと感じたら混練現場を監査する必要がある。樹脂の混練技術は、2世紀近い歴史を持つバンバリーとロールで混練されるゴム材料に比較して、開発の歴史は50年弱(注2)であり、現在も新しい連続式混練機の提案がなされている。

 

(注1)このような場合、系の自由エネルギーを検討する。SP値もフローリーハギンズのχも熱力学のパラメーターであり、このような現象解析で用いられる。しかし、低分子のSPは理論と合う場合が多いが高分子では50%程度の信頼度である。高分子のSPについては溶媒から用いた値を用いる方法もあり、この方法で求めたSPではよく一致する。

 

(注2)連続式混練機の発明は100年以上前とも言われているが、連続式混練機が発明されてもゴムの混練にはバンバリーとロールが使用された。

 

(注3)コンパウンドメーカーとケミカルアタックについて議論した話を引用するのは3回目だが、サラリーマン生活において悔しい思い出の一つである。誠実かつ真摯に対応して100%完璧な白黒決着をつけることができるほど高分子の分析技術は現場まで普及していないし、学術的にも難しい問題である。このことを高分子技術者は知っているので誠実に議論すると灰色の結論になる。その結果、図々しい方の意見が通る、というのがケミカルアタックという故障である。この体験では、成形体の引張強度が部位によって大きくばらついているデータを見せても、それは正確なダンベル型のサンプルで測定したデータではない、というへりくつをつけられた。他のロットに比較し分解物が多い、という証拠として熱分析結果を見せても、ベースラインがおかしいだけだ、と押し切られた。最後に混練現場で設定温度よりも高い温度で混練されていた写真を見せた場合には、樹脂メーカーの担当者も少し驚いたが、ケミカルアタックの問題が起きたロットではない、と否定された。会議の終わり際に、それでは、このスのいっぱい入ったコンパウンドで正常だと思っているのか、とケミカルアタックの疑いがあった成形体に用いたコンパウンドそのものを机の上に出して見せたら、「ス」の無いコンパウンドを納入します、となった。顧客を馬鹿にしたような話であるが、これは実話である。ちなみに成形現場では油の管理基準があり、十分に管理された状態だった。このコンパウンドメーカーの混練技術は、技術サービスとの議論や現場の状況からゴム会社のそれよりも低い、と判断された。

 

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2013.12/05 混練機構(6)

高度経済成長時代と異なり、サラリーマンは大変な時代である。管理職の階層も簡素化された企業が多い。簡素化されても会社の先行き不透明感からカオス状態のプレーイングマネージャーもいるかもしれない。多くの階層があった状態が、失われた20年の間に圧縮され折り曲げられて、経営者層管理者層担当者層の区分けがよく練り上げられた組織体制に変貌していった。

 

混練にも層流状態が折り曲げられ、分配混合と分散混合をうまく組み合わせて進行するカオス混合がある。カオス混合は餅つきやパイ生地練りに見られる混練方法である。例えばオープンロールによる混練ではカオス混合を実現できる技があり、効率良く均一分散と微細化を進めることが可能となっている。

 

オープンロールでは、ロールにゴムを巻き付けて運転するだけでも狭いギャップのロール間を通過するだけで高い応力がかかり、分散混合で微細化が進行する。ここにナイフを用いた返し作業をうまく行うとカオス混合となるが、このナイフ作業には高いスキルが要求される。30数年前このナイフ作業で悪戦苦闘し技を1週間で習得した体験がある。

 

この悪戦苦闘のきっかけを与えてくれたのは当時の指導社員で、カオス混合を機械で連続的に実現する装置を考えると混練に革新をもたらすと教えてくれた。カオス混合とはどのようなプロセスなのか勉強するためにオープンロールの技を鍛える必要があったのだが、練習の効果が出てナノオーダーで樹脂が分散した樹脂補強ゴムを開発することができた。TEMで撮影されたナノオーダーの海島構造を見たときに感動した。

 

10年ほど前に偏芯二重円筒で発生するカオス混合流に関するシミュレーションの論文が発表されている。偏芯二重円筒の装置以外にも写真会社から二軸混練機に取り付けてカオス混合流を発生させる装置が実用化され5年前に特許出願済みである。この装置を用いるとPPSと6ナイロンを相容させることが可能となる。

 

最近混練分野においてカオス混合に関心が高くなっている。混練は2世紀近い技術開発が行われてきたが、ナノテクノロジーの生産性を改善する目的で研究開発すべきではないだろうか。もしこの技術に興味のある企業があれば、研究のためにご協力をお願いしたい。新たな構造を考案したのでそれを実験で確認したいのだが弊社には混練機が無い。実用性のある研究テーマです。

 

 

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2013.12/04 混練機構(5)

高分子とカーボンブラックの組み合わせで混練がどこまで進行したのかカーボンブラックの分散状態から決めるのは難しい。理由は、カーボンブラックの凝集体の分散が見かけ上一定になっても、力学物性が安定していなかったからだ。すなわち電子顕微鏡で観察したカーボンブラックの分散状態に差異が無くともゴムの力学物性に差が存在した。

 

新入社員時代に練習用サンプルの混練を行っていたとき、日々サンプルの分析を分析グループの女性陣が親切にやってくれた。指導社員がそのように手配してくれていたわけだが、日々力学物性と分析データをつきあわせる会議は担当者に囲まれ一瞬のうちに1時間が過ぎた。混練の難しい配合に四苦八苦している姿を周囲は「いじめ」に見ていたようだが、内心は竜宮城に通うような日々であった。そこで混練の進み具合をカーボンブラックの分散状態から探るのは難しい、という結論となった。

 

当時は混練の進み具合の指標がよく分からず、結局力学物性が最良の状態で安定したところが合格ラインという結論になったのだが、この問題を再度考えるチャンスが50代に訪れた。写真会社でラインから外され、自由な時間が増えた時だ。その時にこの問題を考えるため外部のメーカーにお願いし混練機を借り、混練で樹脂の部分自由体積の変化がどうなるか調べた。処遇が原因で業務に対するモチベーションが下がった場合には、腐るのではなく若く希望に燃えていた時代を思い出すのが一番である。

 

ポリオレフィン樹脂を小型バンバリーで混練し、部分自由体積の変化を調べたところ、30分以上混練すると部分自由体積の量が一定になることを見いだした。部分自由体積の軸とレオロジーのパラメーターの軸で混練条件の異なるサンプルをプロットしたところ興味深い結果が得られた。

 

市販のポリオレフィン樹脂だけで混練を行ったときの変化を観察し、混練で進むのが分散だけでなく高分子の変性も行われていることをデータで確認できたわけだが、この結果からカーボンブラックの分散が見かけ上均一に見えたとしても、混練が不十分であると力学物性が安定化しない、といった新入社員時代に体験した現象について理解できた。

 

若い時には辛い仕事を楽しい環境で推進できモチベーションが上がったが、50代は辛い環境で楽しい仕事を行いモチベーションが下がるのを防いだ。仕事が楽しければ面白いように成果が出る。「サラリーマン、腐ったら負け」という言葉があるが本当だ。

 

運良く社長まで昇進できる人もいるが、社長になっていたら若い時に竜宮城で頂いた玉手箱を開ける機会もなかった。運良くラインからはずれたため実験を行う時間ができて写真会社でゴム会社で出会った問題を解くことができた。「自由に何でもしてよい」とは、当時の上司の言葉だが、50過ぎのサラリーマンの身には一瞬残酷に聞こえたが竜宮城の玉手箱の存在に気がつき、幸運の一言になった。

 

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2013.12/03 混練機構(4)

混練時に樹脂に働く力は伸張流動と剪断流動の組み合わせで表現でき、分配混合と分散混合で混練は進行する。それでは、どのくらいの時間混練を行えば良いのだろうか。あるいはどれだけ混練を行えば、それ以上混練を進めても無駄である、という状態になるのか、このことを詳しく書いた教科書を見たことがない。ただし、混練された結果の写真は、学会報告などで度々登場する。

 

ゴム会社で指導社員から教えて頂いたのは、指導社員が混練したサンプルと同じ物性になったときが混練状態の最良の状態ということであった。指導社員が用意してくれたマスターバッチのゴム20kgを見て驚いたが、100g前後で練習しゴールを達成したときに、ほとんど無くなっていたことで混練の難しさを理解できた。

 

その練習期間に物性の変化を見ると、引張強度はじめ諸物性は向上するが、興味深かったのは、混練の「技」の習熟度が進むと圧縮永久歪などの耐久試験で著しく改善が見られたことである。周囲が「いじめ」と茶化したのは、練習に用いたゴムの処方が高い混練技術を要求される処方であると皆知っていたからだ。他の新入社員は簡単な処方から練習するが、いきなりウルトラC級の「技」が要求されるゴムで練習させられていたので「いじめ」とみられたのである。しかしおかげで混練がどういう「技」なのか体で理解することができた。

 

ゴムの処方では、カーボンブラックを補強用フィラーとして添加する。ロール混練だけでカーボンブラックを分散するのは、ゴム種によっては少し大変な作業となる。すなわちカーボンブラックのカミコミの悪いゴムではロール周辺を汚し掃除が大変なのである。バンバリーを用いると5分もすれば、どのようなゴム種でも見かけ上分散したように見える。しかし、電子顕微鏡で見ると様々な大きさのカーボンの凝集体が分散しているだけである。

 

これがロール混練されるとある分散を持ったカーボンブラックの凝集体だけとなる。コロイド化学をご存じの方であれば、この様子は目に浮かぶかもしれない。コロイドとしての性質だけでなく、カーボンにはストラクチャーと呼ばれる製造条件由来の構造があり、一次粒子のサイズまで高分子中に分散を進めることは不可能である。また、カーボンのストラクチャーの単位まで分散を進めることも困難で、高分子中におけるカーボンの分散は凝集体で分散することになる。

 

その結果どこまで混練を行えば良いのか、という問いに対しては、平衡で決まるカーボンの凝集体のサイズまで行えば良い、というのは一つの答だが、そのサイズとはどのように考えればよいのか、という新たな問題が生じる。(明日に続く)

 

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