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2013.11/11 動的加硫

ゴム会社で樹脂補強ゴムを開発していた時に、樹脂会社では動的加硫という技術が開発されていた。二軸混練機で樹脂とゴムを混合し、ゴム相を混練しながら加硫する技術である。ゴム相は島で樹脂相が海のため、熱可塑性エラストマー(TPE)になる。面白いのは類似組成を、二軸混練機ではなくバンバリーとロールで混練したときに、物性が大きく異なるゴムとなる。

 

プロセスが異なるので加硫剤や開始剤を変更しなければならないが、圧縮永久歪みや繰り返し引張試験における耐久性などの機械特性が二軸混練機で製造したTPEでは劣る。電子顕微鏡で高次構造を見ると海島構造は同じだがわずかに島のサイズが異なって見える。おそらく組成によりこの差異と物性との関係は異なるだろうが、当時の実験結果ではこのようであり、二軸混練機を用いた動的加硫の技術の可能性について否定的な印象を持った。

 

しかし、生産性は大きく異なる。またバンバリーとロール混練において加硫は成形の時に行う。混練プロセスだけでなく成形プロセスも時間がかかる。学会でTPEの報告を聞くと、耐久試験結果などのデータは出てこない。弾性率や引張試験の結果ぐらいである。

 

樹脂補強ゴムとして開発された組成の加硫剤を変更すると物性が変わる。ゆえに二軸混練機で同一の樹脂とゴムを用いてTPEを製造しても物性の異なる材料になることは予想できる。しかし、弾性率などの物性よりも耐久試験結果が混練プロセスの違いで大きく異なる点は企業がデータを公開しない限り学会で議論されない。

 

ゴム会社でTPEを開発したのは幸運であった。プロセスの影響を肌で知ることができたからである。二軸混練機はL/Dで議論されるが、バンバリーとロール混練プロセスを二軸混練機で実現することは不可能である。例えばPC/ABSのような複雑な組成の樹脂をロールで混練してみると二軸混練では得られないきめ細かな高次構造となる。ただし、樹脂ではゴムほど物性がプロセスから影響を受けにくいのでバッチプロセスで行うありがたみを少ないと感じてしまう。

カテゴリー : 高分子

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2013.11/09 樹脂補強ゴム(3)

入社して初めての忘年会は憂鬱で暗かった。テーマが無くなったので他部署へ異動することになったのだ。忘年会は送別会も兼ねていた。テーマを早く進めることができたので褒められるのかと思ったら意外な展開が待っていた。厳しい会社である。それでも上司が間違えてプレゼンテーションしたおかげで成果がでたわけだから査定が良くなるのかと期待したら、入社2年間の業績では査定がつかない、と告げられ落胆した。ボーナスは新入社員お決まりの金額であった。

 

ただ、10月11月のがむしゃらな仕事の進め方で、多くの方の指導を受けることができ、密度の高い2ケ月間だった。また12月は指導社員が仕事をまとめてくれたので、1ケ月樹脂補強ゴムについてゆっくり勉強することができた。

 

樹脂補強ゴムはバンバリーとロールで混練していたが、当時熱可塑性エラストマーの新素材開発が盛んで、二軸混練機でゴムを混練する新技術が注目されていた。熱可塑性エラストマー(TPE)は1933年にグッドリッチにおいて軟質PVCで実現された歴史の古い技術であったが、性能が中途半端なため1960年頃までゴム屋はあまり注目しなかった。PU系のTPEの成功でTPEの学問的研究が盛んになるとともに市場も加硫ゴム分野に拡大してきた。1970年代には、ポリウレタンRIMを用いたウレタンタイヤが世界中で研究されたが、そのアイデアは実用化困難な技術であると、分かった時代である(注)。

 

1980年前後には二軸混練機の中でゴムの架橋を進める動的架橋技術の研究が始まり、技術と市場が大きく拡大することになる。すなわち、樹脂補強ゴムというのはゴム屋が考えた材料の呼び名で樹脂屋が考えたのがTPEである。また、二軸混練機を用いると生産性が著しく上がるので、動的架橋技術も含め、材料開発は二軸混練機中心に進むことになる。そして樹脂とゴムのあいの子の材料はTPEとして呼ばれるようになってゆく。

 

今でもTPE関係の特許出願は盛んで、特許の中心は二軸混練機の中で行うゴムの加硫方法である。ただ面白いのは最近プロセスの改良を進める特許出願も行われてきており、混練技術に対する関心も高くなってきているように思われる。もし現在の混練技術にご不満あるいはご興味のある方は弊社にご連絡ください。

 

(注)乗用車用タイヤは絶対にポリウレタンRIMで実用化できない、という結論を出すところまで徹底的にタイヤ会社は研究し尽くした。すなわちポリウレタンRIMは事業の根幹を揺るがす破壊的技術だったからである。その成果で遊園地のカートなどの遊具のタイヤはポリウレタンRIMで作られるようになりコストダウンが進んだ。しかし、公道を走る車のタイヤは未だに加硫ゴムである。ゴムという材料はプロセスが異なると性能が大きく変わるのである。樹脂の混練プロセスは、未だゴムの混練プロセス及びその哲学に追いついていない。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.11/08 樹脂補強ゴム(2)

指導社員の完璧な企画書で欠けていたのは、どの銘柄の材料で目標を実現できるのか、という答である。指導社員に質問したら、それが見つかればこのテーマは終了だという答が返ってきた。シミュレーションはあくまで仮想の物性についてその組み合わせを計算しただけであり、実際の材料について材料メーカーの技術資料にその情報が書かれていないから、まず材料のデータベースを蓄積する必要がある、と言われた。

 

データベースを作る意味があるのか、と尋ねたら、シミュレーションした結果の再現性を確認する目的にデータを収集するのでデータベースには意味が無く、物性を実現できる処方さえあれば良い、と明確な回答を頂いた。テーマは防振ゴムに最適な樹脂補強ゴムの開発だが、問題を整理すると市販されている樹脂とゴムの最適な組み合わせを見つける問題になる。

 

このような問題では、最適な組み合わせが存在しない場合には1年経っても問題解決できないことになる。シミュレーションではできることになっているが、シミュレーションに用いられた粘弾性曲線と仮説どおり一致する樹脂なりゴムが見つからない場合には不可能ということになる。もし最適な組み合わせが存在するならば、それを早く見つけることが最も重要な仕事になる。

 

シミュレーションデータを一晩眺めながら、実験時間を短縮できる評価法を考え出した。すなわち材料を製造するプロセスの時間短縮は難しいが、評価法はサンプル数を減らしたり評価時間を短くしたりすることで短縮できる。テーマで最も時間がかかるのは公開情報の無い粘弾性データの収集で、1サンプルの準備から結果が出るまで4時間かけることになっていた。それを20分ですませる方法を考案した。

 

指導社員に実験の進め方の変更を願い出たら了解が得られたので、その方法で実行したら2ケ月でシミュレーションに合致した材料を見つけることができた。即ち1年間のテーマを3ケ月で終了できそうな見通しが得られた。ところが完成した処方を指導社員の了解を得ないで上司が後工程にプレゼンテーションしてしまったので問題が起きた。すぐに商品企画会議でその処方をエンジンマウントに使うことが決定され、研究所のテーマではなくなった。すなわち残り10ケ月の仕事が無くなったのである。

 

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(注)当時研究所はすでに成果主義のマネジメントが行われていた。実験手順も決まっていた完璧な企画書を前に、新入社員の立場で成果というものを考えたところ、開発期間を短縮することぐらいしかなかった。上司に確認したところ、もし年内(3ケ月)に処方が見つかればボーナス倍増ぐらいの成果、という冗談が飛び出した。その言葉に挑戦します、と応えたら上司は笑っていたが、後日本当に冗談だったのでモチベーションが下がった。明日はこのあたりについて。

 

また、弊社で研究開発必勝法プログラムを販売しているが、そのアイデアの基本構想はこの頃できた。指導社員の完璧な企画書は、確実に開発期間を短縮できる、と感じた。その企画書には、開発ターゲットが明確に記され、それを探索する手順まで示されていた。すなわち、開発ターゲットが明確になると、探索手順は複数あることに気がつく。明確な開発ターゲットの機能を実現する目的だけに絞ったときの手順は極めて簡素化される。iPS細胞を実現するヤマナカファクター発見に用いられた発想法である。

 

しかし、実際に開発計画を組む場合には、定常業務品である質評価の一部を取り入れて行う場合がほとんどである。開発ターゲットから考えを進めないからである。荒削りでも良いから最初に開発ターゲットを実現してからそれに合わせて社内規格で要求されるデータを集めれば開発時間を大幅に短縮できる。要するに数研出版のチャート式数学に書かれていた「結論からお迎え」というチャート式格言は受験数学だけで無く実務でも有効である。

 

弊社の研究開発必勝法は、「結論からお迎え」という格言を実務の中でどのように展開するのか、32年間の開発経験をもとにノウハウを一般化したプログラムである。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.11/07 樹脂補強ゴム(1)

ゴム会社で技術者としてスタートした。6ケ月間の新人研修の後10月1日に樹脂研究グループへ配属された。そこではスーパーフィラーに採用された樹脂補強ゴムの研究開発が行われていた。スーパーフィラーは、タイヤのビード部分に実用化された樹脂補強ゴムで硬くて弾力性のあるゴムだ。

 

硬いゴムを設計するには、架橋密度を上げる方法とフィラーであるカーボンブラックを増量する方法が知られていた。しかし、この両者の方法でゴムの硬度を上げると靱性が下がる。硬くて脆くないゴムの処方技術は当時ハイテク分野の技術であり、ミシュランが最初にその開発に成功し、半年遅れてブリヂストンが実用化に成功した。この時使われたのが樹脂補強ゴムで、樹脂は3次元化して硬くなる熱硬化性のフェノール樹脂が使用された。

 

この樹脂補強ゴムの高次構造は樹脂の海の中にゴムの島が存在する海島構造で、フェノール樹脂以外の樹脂でも同様の高次構造を取ることができれば、硬くて靱性の高いゴムを設計できるのだが、組み合わせる樹脂の種類によりゴムの高次構造が変化し目標物性とほど遠いゴムができたりするので、多種類の樹脂とゴムの中からその組み合わせを見つけなくてはいけない難しい技術であった。

 

樹脂補強ゴムは硬くても靱性の高いゴム、という物性の特徴以外に、動的粘弾性に一般のゴムと異なる特徴が見られた。すなわち樹脂補強ゴムでは損失係数が高くなる周波数領域が広がるのだ。例えば自動車では、アイドリング中と走行中ではエンジンの振動数が異なり、アイドリング時にも走行時にも対応してエンジンの振動を防ぐ防振ゴム材料の設計は難しい。しかし、樹脂補強ゴムでは広い周波数領域でエネルギー損失が大きいゴムを設計できるので、使用状態で振動モードが変化する機器の防振ゴムとして最適な材料を設計できる。

 

指導社員は材料物性に秀でた能力の方で、樹脂補強ゴムの設計について組み合わせるゴム物性と樹脂物性のあるべき姿をシミュレーションで明確にしていた。そして、その明確な方針の下で材料探索を行うのが新入社員としての一年間のテーマであった。指導社員の立案された開発計画と材料設計処方案は完璧であった。あまりにも完璧で、残されていたのは樹脂とゴムの粘弾性を評価し、それを組み合わせたときに粘弾性がどのように変化するのか調べる肉体労働だけであった。

 

そして目標通りの粘弾性カーブを実現するゴムができたときに、組み合わせられた樹脂とゴムの粘弾性のカーブがシミュレーションどおりになっていることを確認するだけであった。但し樹脂の分子構造とゴムの分子構造はシミュレーションでも不明だった。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2013.11/06 難燃化技術へ重回帰分析を適用した例(3)

有機高分子は実火災が発生すれば火元では600℃以上の高温度に曝されるので、空気が存在するところで必ず燃えてしまう。燃焼時の熱でガラスを生成する仕掛けを有機高分子の構造の中に仕込んでおけば、生成したガラスが空気を遮断し、炭化を促進するのではないか、という仮説を立てた。ガラス組成ではないが無機高分子であるアモルファスボロンホスフェートを燃焼時に生成する仕掛けを軟質ポリウレタンフォームの構造に仕込んだ。

 

モデル実験ではすべて仮説を支持する結果が得られていたが、ホウ素原子の難燃効果がリン酸エステルとの組み合わせでどの程度上昇したのか知りたかった。また当時のリン酸エステル系難燃剤には塩素原子が含まれていることが多く、塩素原子の効果との比較もしたかった。

 

ホウ酸エステルとリン酸エステルを組み合わせて添加した難燃性軟質ウレタンフォームは自己消化性を示した。商品として最適化するために市販されているリン酸エステルを組み合わせコストバランスを検討した。40以上の異なる配合と難燃性試験のデータが得られた。多変量解析を行うのに十分なデータ量である。

 

相関行列を見ると、リン原子と塩素原子の間に軽い相関が見られた。塩素化パラフィンを添加した軟質ポリウレタンフォームを数種合成し、全体のデータにおいてリン原子と塩素原子の間の相関を0.5以下となるようにした。ホウ素原子とリン原子の間の相関はほとんど無い。

 

LOIを目的変数として、リンの含有率(P)と塩素の含有率(Cl)、ホウ素の含有率(B)を説明変数とする重回帰式を組み立てたところ、LOI=2.95xP+15.17xB+0.14xCl+18.3という重回帰式が得られた。重回帰係数は0.84と十分な値である。

 

重回帰式の各係数には原子量の違いが反映されているので、このままでは係数から目的変数に対する寄与を見積もれない。各変数の偏微分である偏回帰係数を求めたところ、Pは0.65、Bは0.4、Clは0.11となった。驚くべきことにホウ素原子の難燃効果の寄与が塩素原子よりも高く、また単相関で求めた相関係数よりも遙かに高かったことである。

 

すなわちリン原子とホウ素原子の組み合わせ効果を重回帰分析を行う事で定量的に示すことができたのである。重回帰分析で得られる偏回帰係数により目的変数に対する説明変数の寄与率を知ることができる。また重回帰式は目的変数の予測式として使うことができるが、この時説明変数に用いたデータの変域に注意を払う必要がある。

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.11/05 難燃化技術へ重回帰分析を適用した例(2)

ホウ酸エステルは、脂肪族のジオールとホウ酸を脱水しながら混合加熱すると容易にエステル化するが、加水分解しやすいという論文があった。加水分解しやすい材料では実用化が難しいだろうと考え、実験を行う前に分子モデルを組み加水分解しにくい構造をシミュレーションした。分子モデルなので20分もあれば1つ新規化合物を合成できる。

 

ジオールとしてジエタノールエミンを用いると、アミンの孤立電子対がうまくホウ素原子に配位し安定化する構造をとることがわかった。類似アミン類のモデルを作っては壊し、試行錯誤で見つけた構造だが、2mほど上から落としても壊れない。ものすごく安定だ。但しこれは丸善から発売されていた樹脂製の分子モデルキットによる考察である。

 

自前で購入した分子モデルキットを独身寮で組みながら、MZ80Kでインベーダーゲームをする生活は今でいう“オタク”そのものである。ただ、給与の大半をコンピューターに使ったので、これで何か有益なことをしたい、という思いはあった。またMZ80Kを購入した当初の目的も統計計算を行うことだった。諸々のことがつながり、重回帰式の偏回帰係数でホウ素の寄与率を求める実験シナリオが分子モデルを組みながら浮かんだ。

 

分子モデルで見いだしたジエタノールアミンとホウ酸のエステルは加水分解に対して安定なだけでなく、合成も簡単で、両者を化学量論比で混合し加熱撹拌するだけである。水を除去する必要もないことにびっくりした。通常のエステル化は脱水しなければ反応が進行しにくい。エステル化で副成する水はポリウレタンの発泡剤に利用できるので除去する必要も無い。カールフィッシャー法で定量すれば、不足分の水を追加してそのまま使用できる。

 

化学的に安定で合成も容易なジエタノールアミンの硼酸エステルでも問題があり、アミンのためポリウレタンの発泡反応が加速される。そのため10%以上添加しようとすると、スズ触媒を多量に添加して反応バランスを制御しなければならない。すると全体の反応が早くなりすぎて原料の混合が難しく、力学物性の良好な発泡体が得られない。アミン類のホウ酸エステルで加水分解の問題を解決できたが、扱いにくい難燃剤となった。またこの反応バランスを取る必要から10%という添加量の上限という制約が出てきた。

 

問題はあったが、難燃評価を行い得られたデータを単相関で評価したところ、ホウ素原子の難燃効果は小さかった。10%程度軟質ポリウレタンフォームに添加してもLOIで1から2程度の改善効果である。ばらつきも大きく、10%添加してもLOIの改善効果が見られないこともあった。しかし、リン酸エステル系難燃剤と組み合わせるとリン原子の難燃効果を安定に1.5倍程度まで高めることが可能であった。またチャー面にはボロンホスフェートが生成していること、そして添加したリン酸エステルに相当するリン原子の量が残っていることなど確認されていた。

 

実験計画法でも交互効果は現れていた。さらに熱分析装置を使った解析や、燃焼を途中で止めたり、窒素中の加熱実験などのモデル実験の結果では、すべてホウ酸エステルとリン酸エステルとが燃焼時の熱で反応していることを確認できた。感動したのは、モデル実験の一部のサンプルにチャー面がきらきら輝くことがあったことだ。その輝く物質のIR分析でボロンホスフェートの生成が確認された。

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.11/02 難燃化技術へ重回帰分析を適用した例(1)

高分子の難燃化技術を科学的に研究するときに難しい点は、実際に燃焼しているときに作用する難燃化要素の機能を証明することである。その場観察が最も良い方法であるが、高分子の燃焼時に分子が機能しているところをその場観察する手法が無い。コーンカロリーメーターでは、1917年に発見された酸素消費量1kgに対して有機材料の燃焼カロリーが13.1MJと一定である観察結果を利用して燃焼に実際利用された酸素の量を求め、燃焼挙動のその場観察に成功している。

 

発生ガスと残渣からリンの難燃化機構を推定した研究報告も30年以上前に発表されているが、その場観察の結果ではなく説得力が乏しい。このような状況で難燃化に作用する元素の寄与については一般化された理論は未だ提案されていない。ハロゲンと三酸化アンチモンの組み合わせが最も効果がありそうだ、と経験的に信じられているだけだ。

 

35年前に燃焼時の熱を利用してガラスを生成し空気を遮断するとともに燃焼面の粘度上昇でドリッピングを抑えることができないか、というアイデアを思いついた。もともとこのアイデアは、リン酸エステル系難燃剤を検討していて、燃焼後の残渣にリン原子がほとんど残っていないことに着目し考案したアイデアである。当時の論文には、リン酸エステル系難燃剤は燃焼時の熱でオルソリン酸として揮発し空気を遮断する効果がある、と書かれていた。またその効果でチャー生成を促進している、という考察まであった。

 

しかしこの考察は、ホスファゼンで変性したポリウレタン発泡体の難燃化を研究し怪しいことが分かった。ホスファゼンを使用した場合には、燃焼後も生成されたチャー面に添加量に相当するリンとして残存しているが、リン酸エステル系難燃剤の場合にリンは全く残っていない。そしてホスファゼンのリンの難燃効果をLOIの増加率で表現するとリン酸エステル系難燃剤に含まれているリンの1.3倍程度高かった。

 

すなわちオルソリン酸として揮発したリンのユニットは機能していない可能性が出てきた。むしろリンを含むユニットは燃焼時に溶融した高分子の中で機能すると効果的に作用すると考えた方が観察された現象とうまく合いそうに思われた。そこでリン酸エステルを燃焼時に燃焼系内に閉じ込める手法として無機高分子のガラスに着目し、アイデアを練り上げた。

カテゴリー : 連載 高分子

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2013.10/20 パチンコ台とケミカルアタック

学生時代にパチンコにはまったことがある。地下鉄本山駅で降りて大学へ向かうために交差点に来るともうダメである。3方にパチンコ店があった。おまけに大学への道は、二件のパチンコ店の間を通らなくてはいけない。ここを無事通過しても雀荘の窓から友人が手を振る。男装の麗人ならば絵になるが、スズメの巣のような頭のヒゲズラである。集団遊戯は時間調節が難しいが、一人の遊戯は自分の意志で時間調節ができる、とくだらない理屈でパチンコにはまった。

 

当時のパチンコ台の盤面は、ガラス製であった。まれにガシャーンと大きな音がする。負けが込んでキレた客が台を叩きガラスが割れた音である。このような客を相手にするパチンコ屋も命がけである。パチンコ台のその他の材料は、木材とセルロイドであった。

 

先日数十年ぶりにパチンコ店に入って驚いた。チューリップがどの台にも無い!さらに驚いたことに音も静かである。玉が盤面のガラスに当たる刺激的な音が皆無でヤクモノのミュージックが店にあふれている。ここはどこだと叫びたくなるぐらいの違和感があった。よく見ると、なんと盤面はすべて樹脂製である。ものすごい材料革命だ!それと同時にパチンコの客が減った理由も理解できた。玉がガラスに当たる刺激的な音こそパチンコの魅力の一つであったはずだ。耳の穴にパチンコ玉や百円玉を詰めていた客も絵になった。そんな客もいない。

 

久しぶりにイスに腰掛けて遊戯を開始するとあっという間に玉は静かに台に吸い込まれた。本当に静かであった。その瞬間ケミカルアタックが心配になった。パチンコ台には至る所にオイルが使用されている。また、そのためパチンコ玉の表面は油で汚れている。恐らくパチンコ台の材料革命はケミカルアタックとの戦いであったはずだ。

 

昔使用されていたセルロイドはケミカルアタックに比較的強い樹脂だ。セルロイドを溶解する溶媒はメチクロぐらいである。昔読んだ、元旭化成の役員の上出先生の論文によればアセトンも良溶媒となっているが、アセトンへセルロイドを溶解するためにはそれなりの技術がいる。このようにセルロイドは、それを溶解する溶媒を探すのが難しいくらいの樹脂だからその辺の油では容易に膨潤しない。ゆえに昔のパチンコ台はケミカルアタックの問題から解放されていた。

 

ところが今のパチンコ台にはポリカーボネートやアクリル樹脂のようなものが使用されている。目にIR分析の機能が無くても叩けば分かる?タネを明かせば取り外されていたパチンコ台を店員に頼んで見せて頂いたのだが、至る所に樹脂が使用されており、樹脂名が印字されている。これらの樹脂はケミカルアタックを受けやすいはずであるが、盤面を観察してもひび割れやクラックは見当たらない。大発見であった。

 

事務機で発生すると大問題となるが、滅多に発生しないケミカルアタックだったので対症療法しか開発経験は無く、また樹脂メーカーもユーザーの責任に転嫁する場合ばかりだったのでSP値程度の考察しかしてこなかったが、パチンコ台の樹脂化ではケミカルアタックの嵐が吹き荒れていたはずで、多くのケミカルアタック解消技術が開発された可能性がある。

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.10/19 混練のノウハウ(6)

二軸混練機を用いた場合に、教科書に書かれているような使用方法ではバンバリーとロール混練によるバッチ操作以上に混練を進めることが可能なプロセス設計は難しい。しかし、この連続式混練機の改良努力は現在でも行われている。

 

例えば量産設備は難しいが、10年以上前に開発された毎分1000回転以上の高速混練機で、剪断流動でもナノオーダーの分散を実現できることが示された。またポリマーアロイの研究者として有名なウトラッキーの開発したEFMでは既存の連続式混練機の先に取り付けるだけで伸張流動によるナノオーダーの分散が可能である。但し何段階もの細い隙間を通す必要から量産性は無い。

 

ウトラッキーは細い鋭利な隙間で発生する伸張流動に着目したが、隙間がある距離で並行に続くと壁面では剪断流動となる。すなわち隙間を広げれば壁面で発生する剪断流動でウトラッキーの装置よりも吐出量を上げた混練が可能となる。この点に着目して写真会社から連続式混練機の先に取り付ける新しい混練装置が特許出願された。

 

この方法の面白いところはカオス混合と類似の現象が発生している点である。実際にこの装置を用いると混練レベルを大幅に上げることが可能で、特許にDSCのTg変化で示したようにPPSと6ナイロンが相溶する。このアイデアの改良を現在も続けているのでご興味のある方はお問い合わせください。

 

さて、連続式混練機のもっと面白い使用方法は無いかと調べてみると、詳細のノウハウは開示されていないが、ベント孔から粘土鉱物のスラリーを樹脂の流動方向と反対に流し込み他のベント孔から水を水蒸気として取り出す力業を見つけた。この方法で粘土鉱物を樹脂にナノオーダーで分散させることに成功している。

 

粘土鉱物は層状構造なので高い剪断流動で容易に劈開する。また、層間にアミン類をインタカレーションさせて劈開しやすくした粘土鉱物もナノフィラーとして販売されている。またこの変性粘土鉱物は変性剤の種類により樹脂に分散しやすくできる長所がある。

 

配合処方の工夫とプロセシングの改良により連続式混練機の混練性能を上げることが可能であるが、L/Dの制約で混練時間の問題が残る。しかし、これも複数回連続式混練機を使用すれば解決がつくのでバンバリーとオープンロールの組み合わせに迫る混練プロセスを連続式混練機で行えるようになってきた。また、ラムスタットミキサーと呼ばれるバッチ式と連続式を組み合わせた新しい混練装置も4年前に開発された。

 

今年の高分子自由討論会では、キャピラリーの樹脂流動で発生する壁面の現象に関する発表があった。写真会社で出願された特許の現象を支持する実験結果が得られていた。ラムスタットミキサーでは伸張流動で混練が進むと説明されていたが、壁面で発生してる剪断流動により混練が進んでいる可能性がある。

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2013.10/18 混練のノウハウ(5)

混練は伸張流動と剪断流動で混合を進めるプロセスである。前者の混合効率は悪いが微細化に効果があり、後者の混合効率は高いが分散の微細化に難点がある、と教科書には書かれている。

 

ロール混練では、ただ二本のロールを用いているだけであるが、剪断流動も伸張流動も発生している。面白いのは慣れてくると分散状態が目に見えるような錯覚にとらわれる。またL/Dとスクリューセグメントの制約がある二軸混練機に比較し、混練の制約がロール混練には無い。コストは上がるがオープンロールでは長時間混練しても高分子へのダメージは少ない。

 

バンバリーとロールによる混練はバッチ操作であり、生産効率が悪い。連続生産可能な二軸混練機の発明以来、加硫ゴム以外の高分子の混練にはほとんど使われなくなった。しかし、樹脂や熱可塑性エラストマーの混練に使用できないわけではない。もし樹脂や熱可塑性エラストマーの混練レベルに不満があるのなら、一度オープンロールを用いたロール混練を試してみると良い。二軸混練では得られないレベルの混練物ができる。

 

セルロースをポリエチレンに分散するにあたり、二軸混練機を用いるとセルロースの含有率を30%以上にあげるのが難しくなる。剪断力が不足するためで、この剪断力不足を解決した連続式混練機KCK(俗称石臼式混練機)が発明された。しかし、このKCKを用いても40%前後が限界である。

 

ノンプロ練りをバンバリーで行うと80%レベルまで分散することが可能となる。プロ練りをオープンロールで行うと、ポリエチレンに50-55%のセルロース含有率でポリスチレン同等の複合材料が得られる。この実験から、二軸混練機などの連続式混練機の位置づけがご理解頂けるのではないかと思う。

 

KCKはかなり剪断力を高く発生させることが可能な連続式混練機であるが、バンバリーにはかなわない。また長時間高分子を安定に混練できる、という点においてオープンロールによる混練に勝る方法は無い。

 

しかしプロセスコストが高くなるのですべてバージン材を用いてポリスチレン並の複合材料を製造してもメリットは無いが、ポリエチレンやセルロースの廃材を用いれば価値が出てくる。かつてフィルムの樹脂缶はポリエチレンでできており、ラボから大量に入手できた。また印画紙の廃材やオフィスの廃ペーパーも大量に工場から入手できた。もう近所に写真屋さん45も無くなり、銀塩フィルムを使う機会も大幅に減った。この技術はアナログ時代の話である。

カテゴリー : 一般 高分子

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