長期間使わなかったビニール製品あるいはゴムなどで表面がべとべとしたような状態になった経験はないでしょうか。これは、高分子製品で特にやわらかい風合いの製品で多く見かける、低分子化合物が表面に浮き出てくるブリードアウトという現象です。固い樹脂製品でも起きる現象です。
実用化されている高分子材料の製品には必ず何か添加剤が入っています。カメラのレンズやDVDプレーヤーのピックアップレンズのような光学樹脂にも必ず添加剤が入っています。その添加剤と高分子との相性が悪い場合には早く表面に浮き出てきます。相性が良い場合でも必ず表面に出てきます。また固い高分子に添加されている場合よりもやわらかい高分子に添加されている場合の方が早く出てくる傾向にあります。
高分子に添加された低分子化合物が表面に浮き出てくる、このブリードアウトという現象は、高分子材料では宿命のような現象で、添加剤を高分子に反応させない限り防ぐことはできません。他の添加剤と組み合わせてブリードアウトする速度を遅らせることはできますが、完全に防ぐことはできません。
そのためブリードアウトという現象を目立たせないように、あるいはブリードアウトで商品の品質が損なわれないようにする技術がいくつか開発されています。同じ材質のビニール製品でもべとべとするものや、しないものがあるのはそのためです。高い技術がその差に隠されているのです。高分子材料技術にはこのような目立たない技術も存在します。
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樹脂の混練は固体分散が基本で、液状物の添加剤を通常用いない場合が多い。しかし、液状の難燃剤を用いたい場合も出てくる。同等の機能の固体の難燃剤を選択した方が良いが、液状の難燃剤を使うために二軸混練機のサイドフィーダーで対応する場合もある。あるいは、他の添加剤とあらかじめバッチ式分散機でプレミクスを行い添加したりする場合もでてくる。いずれもコストにも関わる問題であり、二軸混練機で樹脂を混練する場合には液状の難燃剤が敬遠されがちな理由である。また、プロセスの問題以外にブリードアウトなど製品においても液状の難燃剤が問題となる場合がある。
製品の問題については後日触れますが、本日はプロセスの問題に限定して液状の難燃剤を樹脂に混練する場合について考えてみます。液状の難燃剤を二軸混練機で分散する場合に経験的には、マスターバッチ法で作った高濃度の難燃剤を含む樹脂として添加する方法が良いと思っています。コストでは若干不利になりますが、安定した製品を作ることができます。
サイドフィーダーで行う方法もよいですが、マスターバッチ法に比較し、ばらつきが大きくなります。サイドフィーダーの問題は液状の難燃剤に限ったことではありませんが、ペレットのばらつきを生じる原因となっています。L/Dが十分大きな混練機であればよいが、そうでない場合にはばらつきの問題を対策する必要がある。ばらつきの問題を回避するために、できあがったペレットをタンブラーで混合してから、それを1バッチとして扱う場合もある。しかしこれが原因不明の問題を引き起こすことがある。
何も市場で問題が発生しなければ、選ばれたプロセスは妥当なプロセスとして採用されるが、二軸混練で樹脂を混練する場合には、分散のばらつきをいつも抱えていると覚悟した方が良い。液状の難燃剤の分散ではそれが顕在化するだけである。二軸混練機の抱えるばらつきの問題を小さくする技術も開発されています。ご相談ください。
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樹脂を難燃化するときに一般的な手法は難燃剤を添加する方法です。難燃剤には(1)樹脂に相溶して分散する難燃剤、(2)相分離し分散する難燃剤、(3)固体として分散する難燃剤の3種類があり、それぞれ効果が異なる。
同一分子構造の難燃剤で比較することは難しいが、軟質ポリウレタンで実験を行った結果では、予想通りP基準の添加量の順番は(1)<(2)<=(3)である。リンの含有率対LOIのグラフで考察すると、赤燐の形態すなわち(3)で添加した場合には、3-4割ほど(1)の場合よりも多く添加しなければならなかった。しかし、赤燐粒子は9割以上がリンなので全体の添加量は少なくなるが。
興味深い結果となったのは(2)と(3)である。(3)と等しくなる場合もあれば(1)と1割前後の差しか生じない場合があった。(2)でも樹脂へ一部相溶して分散していると考えればこの結果を容易に理解できる。しかし(1)と(2)に差が生じるならば難燃剤と樹脂の相互作用を考慮し、難燃剤の選択をしなければならない。
ポリマーブレンドの場合にはさらに複雑な結果が予想されるが、OCTAを使用すると最適な難燃剤を選択することができる。SP値だけでもおおよその比較はできるが、温度依存性や各相への分配を考えるとなるとSUSHIが便利である。
たった1割前後の節約のためにコンピューターシミュレーションまで持ち出すのか、と思われる方もいるかもしれませんが、難燃剤のコストを考えると1割の節約効果は大きい。高価なエンプラならば難燃剤のコストへの影響は小さいが、kgあたり200-300円程度の樹脂の場合には、半日程度かけてシミュレーションを行うだけの価値はあります。
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過去にも高分子の混練技術に触れましたが、混練時に発生する重要な機構として剪断流動と伸長流動が重要です。10年ほど前に推進された高分子の精密制御プロジェクトでは、伸長流動についてかなり研究されL/Dの大きな二軸混練機まで試作された。伸長流動について集中的に研究されたのはナノ構造を達成するためである。剪断流動は混練効率の高さに比べ分散してできる構造の大きさがミクロンオーダーまで、と言われている。過去の実験で混練時間を伸ばしても伸長流動の場合はナノオーダーまで達成できていたが、剪断流動ではミクロンオーダーまでであった。
同プロジェクトでは高速剪断についても研究され装置も試作された。一般の二軸混練機の2倍以上の回転数すなわち1000回転以上の高速で混練し、ナノオーダーまで達成できたことになっているが、市販された実験装置で実験を行うと、分子量の低下が著しく使いモノにならない。また実用レベルの装置を作るとなると巨大なモーターが必要になる実用性のない装置でありました。
カオス混合という幻の混練技術がある。新入社員時代指導社員に教えていただいたパイ生地の混練方法であるが、伸長流動と剪断流動がうまく組み合わさり、混練効率と達成できる構造の緻密さでこの右に出る混練方法は無い。過去にロール混練をいろいろ工夫してみたが、ロール混練でも同様のことを達成可能であるが、専用装置にはかなわない。ロール混練はバッチ式となり生産性が悪い。
混練の世界についてはシミュレーション方法も発展し、かなり解明が進んだが、問題はラボのデータを生産機で実現できないことである。新入社員の時に指導してくださった方は混練の神様のような人で、その方曰く、「実験室でも生産機を使え」であった。周囲が小さなニーダーで実験していたのをしり目にパイロットプラントで豪快に実験をやっていた思い出がある。大きなロールで混練を行うのは恐怖でしたが混練という技術を学ぶには良い体験でした。
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Liイオン二次電池の電解質には有機溶剤が使用されています。電解質をポリマーにした電池も存在しますが、その場合でもイオン伝導率を上げるために可塑剤として有機溶剤を使用します。すなわち電解質として水ではなく、有機溶剤を使用している電池は非水系電池と呼ばれています。
ゆえに電解質を燃えにくくするための工夫が必要になります。イオン性液体を使用するのも一つの手段です。あるいは難燃剤を添加する方法もあります。しかし、忘れてはいけないのは、エネルギーを貯めるデバイスというのは爆発の危険性があるということです。電解質が水になっても同様で、アルカリ電池でもショートさせますとポンと音をだして壊れます。
ボーイング787の事故で電池は無様な姿になっていました。ただ難燃対策は効果があったようで、安全に壊れたようです。あの壊れ方は、それなりの技術が生かされていた、とみるべきで、電池も含め蓄電システムに異常があった時のY社の回避技術は高い、と思いました。電池に回避技術が搭載されていなかったならば、怪我人が出ていた可能性もあります。最近公開された写真を見る限り、壊れ方は安全方向に設計されていたように思いました。
電池は化学反応で電気を起しています。放電は反応速度が関係しますので、加速要因が入れば、必ず発熱します。これを制御するのが、パソコンや充電器にも使用されているパワーマネジメントシステムです。今回の事故ではY社は電池だけ納入していました。電池の故障解析には時間がかかりますので、事故原因の解明は難しくなることが予想されます。化学屋の視点からは、電池が壊れるようなマネジメントシステムが悪いような気がしますが、原因を早く知りたいと思っています。
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先日の新聞記事に、ミドリムシからプラスチックスを作る話が掲載されていました。ミドリムシの作り出す糖を利用するのだそうです。現在の石油リファイナリーからバイオリファイナリーの流れの中で普通の記事として思っていましたが、アイデアがわきました。
単なる思いつきのアイデアで申し訳ないですが、ミドリムシ以外のプランクトンでも同じことができるのではないか、あるいはプランクトンをスプレードライで乾燥させて、その後脱色洗浄したらそのまま樹脂として使用できないか、と考えました。少なくとも樹脂の増量剤あるいは可塑剤程度に使用できるのではないか、と思っています。
さらに運が良ければ、難燃剤としての機能を有するプランクトンもいるのではないかという予想です。プランクトンの中にはミネラルを豊富に含むものも存在し、さらにそのミネラルは生物由来ですから、原子レベルで分散している、と期待できます。30年以上前に難燃剤が活発に研究されていたころ、元素別の難燃効果という論文を読んだことがありますが、金属酸化物には粒径が小さくなると難燃効果が出てくるものがある、と結論されていました。当時ナノオーダーの粒子技術が存在しなかったので論文には期待のあるような書き方がされた、と話半分のつもりで頭の隅に記憶として残しておきました。
昔の記憶がどの程度のものか確認するために、数年前酸化スズゾルの難燃効果を調べましたところ10部程度の添加でLOIを1程度上げる効果がありました。また、燃焼面にはチャー生成量の増加していることも目視で確認できました。1ミクロン程度の酸化スズには効果は無かったので、明らかに金属酸化物の粒径の効果です。ミネラルの多いプランクトンを難燃剤として活用できる可能性が出てきました。
プランクトンを材料として実用化しようとする時に問題となるのはコストです。おそらく広大なプールが必要になりますので過疎地で作物の作れない土地で培養する事業になるのではないでしょうか。もしスプレードライして得られた乾燥物が50円前後であれば、樹脂の増量剤として活用でき、難燃効果があるのであれば100円前後までコストの上限は広がります。簡単な還元漂白程度の加工でプランクトンを利用可能であれば面白い素材です。
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高分子の難燃化技術について、この30年間の進歩は様々な樹脂の難燃剤が開発されそれぞれの樹脂について最適化が行われてきたのが成果だと思います。1980年頃に高分子の難燃化手法に関し、その方向が決まり、様々な縮合リン酸エステルが開発されました。その後登場したのが臭素系難燃剤で1990年代に一気に普及しましたが、環境問題の影響で、一部の臭素系難燃剤が、縮合リン酸エステル系に置き換える検討が進みました。
1970年代の難燃化技術の進歩に比較しますと、基礎科学としてはほとんど進歩していない領域と言ってもよいかもしれません。難燃化技術の1970年前後の進歩には著しいものがあり、1980年代の方向性を決めることのできる成果が基礎科学として出ております。
これは、高分子の熱分解や耐熱性高分子の研究が1970年代に盛んに行われ、それと並行して難燃化技術研究が行われた影響が大きいと思います。欧米の動向も同様であり、1970年代の成果を踏まえ、ULなどの規格が1980年代にほぼ決まりました。日本の建築基準の大幅な見直しも1980年初めに行われております。
高分子の難燃化技術はもう開発の必要のない分野のように見えますが、世間で発生している品質問題を見ますと、これまでの研究開発と異なるコンセプトでテーマ設定を行う必要を感じています。何かご質問がございましたらお気軽にご相談ください。
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昨日高分子同友会第一次東アジア化学企業調査団報告を拝聴いたしました。
この活動は、高分子同友会が1979年以来5年ごとに行っている化学企業の調査ですが、以前は先進国の調査が目的でした。しかし、今回は成長著しいアジア諸国が対象で、その第一回ということだそうです。
アセアン地区のベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアが候補で今回はタイとインドネシアの状況報告です。
詳細内容は高分子同友会で訪ねていただきたいが、タイではPPT Global Chemicalという巨大コングロマリットが生産活動を行っており、その規模と技術に驚きました。基礎化学品の生産能力があれば20年後日本の企業はいらなくなるのではないか、と思われるような状況です。
インドネシアではPT.Chandra Asri Petrochemical社へ訪問したそうですが、ここは天然ゴムベースのABSを製造している会社で興味を持っていたのですが、詳細説明はありません。
終了後の懇談で事務局に問い合わせましたら、今回はバイオ関係のテーマは調査からはずし、基礎化学品に絞ったとのこと。ベトナムも含めこの地区の特徴はケナフやジャトロワ、そして古くからある天然ゴムという非可食バイオポリマーの産地であり、それを利用した産業が重要と思います。
しかし、研究開発力が未成熟の為、バイオケミストリーまで手が回らないとのこと。感心したのは、これだけ化学工場が活発に生産活動を行っていても、公害が起きていないことです。訪問団の感想として、日本よりも空気がおいしかったとのこと。おそらく日本をよく勉強したのだと感じました。次回は2年後。
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EFM(The extensional flow mixer)は、ウトラッキーが開発した伸長流動装置です。単軸あるいは二軸押出機もしくは混練機の先にとりつけて使用します。EFMの中で樹脂は細いスリットの効果で伸長流動状態になり、ナノオーダーまでの混練が進むことになります。
ただし、多くのスリットを通過するために樹脂圧が高くなり、通常の100kg/h以上の生産機の仕様に合わせますと、馬鹿でかい装置になります。しかし伸長流動の効果を得たい場合には現在のところこの装置が最も良いのかもしれません。
かつて剪断流動ではミクロンオーダーまでが限界だが混練効率が高く、伸長流動では、ナノオーダーまでの混練が可能だが、混練効率が悪い、と習いました。しかし、産業総合研究所の研究結果では、剪断流動でもナノオーダーまで混練が進むことが分かりました。しかし、分子量低下も同時に起きています。産業総合研究所の装置については特許も出ていますが、モーターの設計が難しくなりそうです。
ウトラッキーはポリマーアロイの分野で有名な研究者で、EFMを考案したのは伸長流動でナノオーダーの高次構造のブレンドを達成したかったからでしょう。EFMは実験室レベルならばそこそこ使えるそうです。
EFMよりも良い装置ができないものか、と考えたのが疑似カオス混合装置です。ご興味のある方はお問い合わせください。
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原子が共有結合でつながり、分子となり、分子の分子量が共有結合でつながって大きくなり高分子となります。この高分子が集まってナノオーダーからミクロンオーダーさらには目で見えるレベルまでの構造ができると、それを高次構造と呼んでいます。共有結合でつながっている分子を一次構造と呼んでいますが、その上は二次構造三次構造と言わずにいきなり高次構造と呼んでいます。DNAような二重らせんを二次構造と呼ぶ人もいますが、高分子材料の専門家の多くは、一次構造の次は高次構造と大雑把にまとめてしまっています。
ナノテクノロジーが注目され始めたころから少し細かい構造だけに絞って研究する流れができ、メソフェーズ領域という言葉が出てきました。40年近く前に、炭素間の共有結合だけでできた分子を高分子と呼んでいたのを、炭素間の共有結合以外に、例えばSiO結合や、PN結合などの少しイオン結合性を含んでいる高分子を無機高分子と呼び、高分子の概念を広げた効果と同じように高次構造の研究手法や新材料の生み出されるスピードが上がりました。
コンセプトが変わると研究の視点が変化し新しい分野が広がるためでしょう。高分子の高次構造の設計をするために利用できる情報が豊富になりました。ただ残念なことにプロセシングが追いついていません。量産技術ができなければ材料を工業製品に応用することができません。実験室レベルでメソフェーズ構造を自由に制御できても、大規模なスケールでそれができなければ商業生産できません。
プロセシングの問題以外に高分子の一次構造の制御を大スケールで完璧にできていない問題も大切ではないかと思うようになりました。分子設計技術は20世紀かなり進歩し、その結果多くのスペシャリティーポリマーが登場しました。しかし、よく現象を観察してみますと、まだまだ分子の構造制御が十分できていないところが見えてきます。プロセシング技術が遅れているために目立っていませんが、プロセシング技術が進歩した後パーフェクトポリマーを要求される時代が来るのではないかと思います。
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