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2012.11/25 有機無機ハイブリッド材料

32年間の材料技術者生活で様々な商品開発に携わった。開発した新材料(部材)も多い。もっとも多く開発したカテゴリーは、有機無機ハイブリッド材料である。

 

ホスファゼン変性ポリウレタンフォームやホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームでは、難燃化システムとしての有機無機ハイブリッド材料の可能性を検討した。

 

半導体用高純度SiCでは、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂をリアクティブブレンドにより世界で初めて相溶化を達成した。TEOSを中心とした有機無機ハイブリッド材料の研究が活発になるのは1985年以降なのでこの技術は有機高分子と無機高分子を均一に混合した世界初の事例です。

 

ゾルをミセルに用いた有機無機ハイブリッドラテックス薄膜では、1996年に世界初のゾルをミセルに用いたラテックス重合技術を開発し、容易に有機無機ハイブリッド材料を合成できる道を開いた。コロイド関係を扱う学術雑誌(Langmuar)に世界初のゾルをミセルに用いたイギリス人の論文が登場したのは2000年でコニカの特許は4年早い。

 

酸化スズゾルのパーコレーション転移を制御した帯電防止膜では、プロセシングを駆使し体積分率15vol%でパーコレーション転移を達成している。酸化スズゾルの一次粒子は球状であるが、合成条件を工夫し金魚のウンコ状にした。ただ商品化では内製ではなく他社のゾルを用いたので20vol%前後で制御している。

 

その他中間転写ベルトや電気粘性流体など自分で企画しなかった技術もありますが、有機無機ハイブリッド材料は機能部材としての用途が広いキーテクノロジーと思います。

開発された有機無機ハイブリッド材料で汎用的なのは、ゾルをミセルに用いたラテックス技術とポリエチルシリケートとフェノール樹脂を相溶させたリアクティブブレンド技術です。この2つを使い分けて生み出される有機無機ハイブリッド材料の可能性は広い。

 

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カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2012.11/24 傾斜機能粒子

電気粘性流体の開発を担当した25年前、3種類の複合粒子を開発した。電気粘性流体に使用される粒子は帯電しやすく放電しやすい二律背反の性質を有する粒子が必要で、このような材料は単体粒子では材料設計が難しく、どうしても複合材料として設計しなくてはならない。

 

傾斜機能粒子は、表面は絶縁体で、中心部分が半導体の粒子です。すなわち最表面のすぐ内側から中心部にかけて半導体領域で抵抗が低下している粒子です。単純に均一な抵抗を示す半導体粒子の表面に絶縁体を被覆した粒子を合成し、電気粘性効果を比較すると電気粘性効果がきわめて小さい。粒子の製造条件によりましてはほとんど電気粘性効果を示さないこともあります。

 

単純に半導体粒子の表面にシリカを付着しただけでは電気粘性効果が表れなかったので、半導体粒子の表面から内部にかけてシリカの濃度が変化している傾斜機能粒子を合成したところ大きな電気粘性効果を示した。すなわちシリカの濃度で絶縁体領域から半導体領域まで抵抗を調整することにより、帯電しやすく放電しやすい粒子ができました。

 

傾斜機能粒子が発明されたときにプロジェクトメンバーから驚きの声が上がった。当時このような材料は最先端の材料であり、それが企画から2日程度でできましたのでなおさらです。製造方法は極めて簡単で、フェノール樹脂粒子にエチルシリケートを含浸するとエチルシリケートがフェノール樹脂内部に加水分解しながら拡散するので、表面から内部にかけてシリカ濃度の変化したフェノール粒子ができる。このシリカ濃度が内部から中心部にかけて変化しているフェノール樹脂球を800℃以上で炭化すると、目的とする傾斜機能粒子ができる。傾斜組成についてはエチルシリケートの含浸時間を調節するだけで様々な粒子を合成できます。

 

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2012.11/23 SiCスタックシミュレーション

炭化ケイ素(SiC)は、大別するとαSiCとβSiCの2種類の結晶系が存在する。βSiCは立方晶で1種類であるが、αSiCには2H、6Hなど積層状態のわずかな違いで多数の種類が存在する。このような積層状態の違いで多数の結晶ができる現象を多形という。

 

約30年ほど前、無機材質研究所へ留学しました時に、井上善三郎先生のご指導でSiCの積層状態をシミュレーションするソフトウェアーを開発した。当時のコンピューターは16ビットが普及し始め、PC9801のシェアーが伸びてきた時代である。言語は当初BASICで作成したが、50層までの中間データを得るのに1ケ月かかった。これをCで組むと10日ほどで完了した。フロッピーへデータを書きだしていたので、CとBASICの差は入出力がボトルネックとなりそれほどの差が出なかった。おそらくオンメモリーで計算したならばCで1日だろうと思いました。

 

PC9801とBASICの組み合わせで3ケ月かかって50層まで計算した。面白いのは数千も多形が存在するのに2H、4H,6H、3Cを選択的に安定して合成できることです。6Hについては、温度条件が厳しく、4Hが出現したりするが、この安定に合成できる4つの結晶系以外は、不純物として観察できる程度であった。

 

昇華法でSiCウェハーなどを製造できるのも多数の多形があるにもかかわらず、特定の結晶系が安定に生成するためであるが、これら結晶系の自由エネルギー差はわずかであり、生成機構に関わっていると推定している。約30年前シミュレーションをしてこれまで時折眺めてはアイデアをためてきたので、スタックの形態に確率因子と結合因子を導入し、特定のスタックができるシミュレーションソフトの開発を目指したい。

 

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2012.11/21 電気粘性流体と微粒子

電気粘性流体は絶縁オイルと半導体微粒子からなる流体で、電場の強度で粘度を制御することができます。電場で粘度が制御されるメカニズムは、電場0の場合には流動性を示す懸濁オイルが、電場をかけることで粒子が帯電し電極間で整列した結果、粘度が上昇し、電界強度が上がるにつれて粒子の帯電量が変化するとともに粘度が急激に上昇してゆきます。しかし電界強度が0になると微粒子の帯電が無くなりもとの流体に戻ります。このようなメカニズムです。

 

この流体の機能を発現しているのは、粒子の帯電し分極やすく放電しやすい、すなわち電気を流しやすいが帯電した時の分極も大きいという二律背反の性質です。よく知られているように金属でも帯電しますが導電性が高いために帯電量はごくわずかです。絶縁体は導電性が無いために帯電量は多く容易に分極し誘電体としての性質を示します。ゆえにウィンズロウに発見された当時は絶縁体微粒子に水を吸着させ絶縁オイルに分散し電気粘性流体として使用されていました。

 

このような絶縁体に水を吸着させた粒子は40年ほど研究されましたが耐久性が無く実用化されませんでした。急速に実用化が検討されたのは、表面に有機残渣が残った生焼けの炭素が水を添加しなくとも高い電気粘性効果を示すことが分かったからです。B社で発見されこの材料を中心に研究開発が進められました。

 

このテーマを担当するきっかけとなりましたのは、ゴムの容器に電気粘性流体を入れて用いると、ゴムに添加された材料が絶縁オイルに抽出されて電場0の時でも粘度が上がったままになるため、この問題を解決する応援技術者として駆り出されたからです。プロジェクトのメンバーに加えられたにも関わらずなぜか重要な論文や特許を少しづつ要求した時だけしか見せていただけず、同じ会社のメンバーであるにもかかわらず、奇妙な扱いを受けたことから嫌な予感がして早く問題解決しプロジェクトを離れたいとプロジェクトに加わった時に思いました。ただS社と半導体事業でJVを立ち上げる準備を進めていましたので我慢して真摯に仕事を簡単にいなし、担当して1週間程度で解決方法を提示し、1ケ月で実用化テストに入る状態まで仕上げました。弊社で販売している問題解決技術の成果です。

 

せっかく電気粘性流体のメンバーに加わりましたので、高純度SiCを開発した時に用いた問題解決法で問題を解き、傾斜機能粒子、微粒子分散微粒子、コンデンサー分散微粒子の3種類が電気粘性流体に最適という解答も出してみました。せっかく面白い解答が得られましたので傾斜機能粒子を高純度SiCの試作プラントで製造してみました。絶縁オイルに分散し電気粘性効果を測定しましたら生焼け炭素よりも高い電気粘性効果を示しました。電気粘性流体に構造制御した微粒子を用いた初めての技術でささやかなイノベーションを起すことができました。

 

このようなイノベーションを起すことができましたのは弊社電脳書店で販売している「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」で説明している問題解決法を用いたからですが、40年間誰も気が付かなかったのが不思議です。わかってしまえば当たり前のことだからです。40年間優秀な研究者がたくさんの論文を生産してきたわけですが、微粒子を能動的にデザインして電気粘性流体に用いたのは特許情報からB社が最初でした。

 

 

 

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2012.11/20 帯電防止技術と電気粘性流体

帯電防止技術は高抵抗の半導体領域の特性を示す材料設計技術ともとらえることができる。B社勤務時に電気粘性流体の技術開発に携わったが、この材料に用いる微粒子は「帯電はするが、放電が速い」という二律背反の性質を持つ必要があった。研究開発のプロジェクトに加わったことが転職しなければならない状況を生み出したのだが、今から思いおこせばデータディスクを壊されたのは帯電防止技術を研究開発するための運命だったのかもしれない。

 

二律背反の性質をもった粒子が要求されるので材料設計は高度な技術が必要です。当時カーボン材料がプロジェクトで検討されていたが、3種類の複合材料粒子をプロジェクトに提案した。弊社電脳書店で販売している問題解決法で見出した(1)体積固有抵抗が表面から粒子の中心部にかけて低くなった傾斜機能粒子、(2)導電性の異なる2種の素材からなる超微粒子分散型微粒子、(3)コンデンサー分散型微粒子の3種を提案したのだが、いずれもプロジェクトで検討していた単体カーボン粒子よりも高い性能を示した。

 

帯電しやすく放電しやすい材料は導電性を高める必要がある。電気粘性流体では10の9乗Ωcmよりも高くなければ応答性が悪くなるが、この導電性では電場をかけた時に電流が流れすぎて電気粘性流体として使い物にならない。電気粘性流体に使用できる粒子としては絶縁体が望ましいので材料設計方針として複合材料となる。提案した3種の材料の構造を微粒子で創り込むのは高度な技術が要求されたが、半導体用高純度SiC合成プラントの設備が稼働していたので容易に開発できた。

 

この電気粘性流体の研究で帯電防止層の体積固有抵抗として10の9乗から10の10乗Ωcmであればよい、という経験知を獲得したが、実際に帯電防止層の研究開発を担当し、パーコレーション転移が起きているならば体積固有抵抗の上限は10の11乗Ωcmとなる、という経験知に修正された。日々の実務で獲得される経験知は重要で、教科書に書かれていない知識であれば研究を行い確実なものとして身に着けるのが望ましい。必ずしも日常業務の時間内でできないというのであれば、産学連携テーマとして実行するとよい。それが難しいならばヤミ研という方法がある。

 

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2012.11/19 高純度SiCの威力

フェノール樹脂とポリエチルシリケート、有機酸触媒の3成分によるリアクティブブレンドを用いた高純度SiC前駆体合成法の発明(1982年6月に実験に成功し1983年10月高純度SiC化に成功)でSiCウェハーができることは、すでにSiCの昇華法の技術が公開されていたので可能でした。当時最も注目したのは、エンジニアリングセラミックスに世界が注目するきっかけになったプロチャスカの実験結果です。

 

プロチャスカとは世界で初めてSiCの常圧焼結に成功した人物で、βSiCにボロンを0.2-0.6%、カーボンを2%-4%助剤として添加すると常圧焼結が可能となることを示しました。特許が公開されるや否やGEからαSiCについて同様の権利が出願され、1年半後に特許論争が起きました。結局両方成立しておりますが、重要なことは常圧で焼結できなかったSiCが、常圧でできるようになったことでした。

 

SiCについて当時の技術は、加圧しながら焼結するホットプレス法や反応焼結法で焼結することしかできませんでした。ホットプレスであれば、カーボンだけ、あるいはボロンだけ、その他遷移金属の一部などの助剤が見つかっており、焼結が可能でした。反応焼結では助剤を使用せず焼結できますので高純度カーボンを適量含む高純度SiCができれば、高純度シリコンを含浸させ半導体治工具ができました。住友金属とのJVをスタートさせた1990年ころは反応焼結で半導体治工具を製造することからはじめたぐらいですから技術として普及していました。

 

高純度SiCが初めて無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)で合成されたときに研究所所員がビックリしたことは2つあり、一つは高純度を示すその色と助剤の量がプロチャスカが発見した量の半分以下でも焼結できたことです。そして助剤が存在しなければ猪股理論どおり常圧焼結ができませんでした。

 

前駆体法による高純度SiC合成法の良いところは、高純度カーボンと高純度SiCの混合された状態を作り出すことができ、そのままホットプレスすれば半導体用ヒーターを作ることができたり、反応焼結体を製造する原料になったりすることです。高純度SiCの合成法は発明から30年以上たちますが、SiCパワー半導体の普及とともに注目されています。本技術で学位を取得しましたが、学位論文の別刷100冊は2年で無くなりました。問い合わせもあることから電子出版の無料公開も考えたいと思っています。

 

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2012.11/18 インピーダンスとパーコレーション転移

パーコレーション転移とインピーダンスの周波数分散あるいは誘電率の周波数分散との関係がわかると、高分子に導電性物質を分散した時に生じるパーコレーション転移の性質を詳しく調べることができる。一番の長所は精度よくパーコレーション転移の閾値が求まることである。

 

パーコレーション転移の閾値の推定には表面比抵抗や体積固有抵抗の測定で可能であるが、感度は20Hzにおけるインピーダンスの絶対値の方が高い。例えば酸化スズゾルをラテックスに分散した時に偏差3%程度で体積分率の制御が可能である。

 

酸化スズゾルのような導電性微粒子のコロイドは水溶性高分子、例えばゼラチンとの組み合わせではパーコレーション転移を生じにくく、本技術の開発当時採用されていたプロセシングではほとんどパーコレーション転移を生じないので、酸化スズゾルを初めて帯電防止層に用いた特許である特公昭35-6616が小西六工業の特許であったにも関わらず、技術が使われていなかった。

 

精度の高い評価技術を用いてゼラチンバインダーにおける酸化スズゾルのパーコレーション転移制御技術を開発したところ、驚くべきことに体積分率30vol%程度でパーコレーション転移を起すプロセシング条件が見つかった。この値は高分子導電体を絶縁体高分子バインダーに相分離させて生じるパーコレーション転移とほぼ同じである。すなわち1-2nmの超微粒子は分子と同様の振る舞いをしていることを示す事例と思います。

 

インピーダンスとパーコレーション転移との関係を利用した評価技術は精度よくパーコレーション転移の挙動を解析できるので帯電防止技術だけでなく絶縁体高分子バインダーへ導電性物質を分散するときの評価技術、材料設計技術として利用可能である。

 

パーコレーション転移については、弊社の電脳書店で販売中の電子セミナー「高分子材料のツボ」でも扱っており、購入者の質問も受け付けております。質問が多いようであれば、パーコレーション転移に関する電子セミナーも販売したいと考えております。なおパーコレーション転移については日本化学会や高分子学会で発表済みで日本化学会では当時の部下が講演賞を、コニカ株式会社は日化協技術特別賞を受賞しています。

 

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2012.11/17 タバコの灰付着テストとインピーダンスの絶対値、パーコレーション転移

写真フィルムの帯電防止評価技術には表面比抵抗や電荷減衰などの電気的測定方法以外に様々な実技評価技術がある。しかし電気的測定方法と実技評価技術の間には相関が無いので製品開発では実技評価が欠かせない。1991年当時の電気的測定方法はすべて直流的であったので交流を用いた評価技術の開発を始めた。材料評価に交流を用いる技術は電気化学分野で1960年前後から行われ、誘電率の周波数分散に関する議論が等価回路を用いて行われていた。粘弾性のストークスモデルやマックスウェルモデルを用いた議論も当時岡小天先生らによりされているので研究の最前線のテーマだったのかもしれない。しかし、パーコレーション転移と誘電率の周波数分散あるいはインピーダンスの周波数分散との関係は1991年まで議論されていない。

 

一方フィルムの帯電防止評価技術に交流を導入したのは、特許情報からコニカが最初である。半年遅れでAGFAから等価回路を模した電極を用いて交流の共振点でフィルムの抵抗を決めるというトリッキーな技術が公開された。この特許が公開されたとき、コニカではすでにタグチメソッドの基本機能としてインピーダンスの絶対値を採用していた。インピーダンスの絶対値が実技評価との相関が高いので採用されたわけであるが、とりわけタバコの灰付着テストにおけるタバコの灰付着距離との相関は高かった。また、インピーダンスの絶対値のある値以上でタバコの灰が付着しなくなるので社内規格としても有用でありました。

 

しかし実技評価技術との関係よりもパーコレーション転移との関係はさらに面白く、表面比抵抗や体積固有抵抗の変化ではわかりにくいパーコレーション転移の閾値が鮮明になるという特徴があった。すなわち、導電性微粒子を絶縁体である高分子に添加していったときに、インピーダンスの絶対値は緩やかに上昇するが、パーコレーション転移の閾値では急激な変化を示す。抵抗因子だけでなく容量因子の情報も拾っているためであるが、この性質を用いると、表面比抵抗や体積固有抵抗ではわかりにくかった閾値の測定が可能になるので、パーコレーション転移の性質の研究に有用である。

 

例えば導電性微粒子の酸化スズゾルは、製造プロセスにエラーが発生すると僅かな凝集を生じ、構造粘性により僅かに粘度が上昇する。酸化スズゾルをラテックスに分散し塗膜にした時に、表面比抵抗で測定する限り、このエラーを検出できない。しかしインピーダンスの絶対値を用いると容易に検出できる。すなわちパーコレーション転移の閾値近辺で材料設計していた場合に、表面比抵抗では多少の構造変化を検出できないが、インピーダンスの絶対値では2ケタ以上の変化となって現れるので検出できることになる。このようなインピーダンスの絶対値とパーコレーション転移との関係は、誘電率でも同様に観察できる。

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2012.11/16 実技と相関する評価技術(3)

タバコの灰付着テストにおけるタバコの灰の付着距離が20Hzにおけるインピーダンスの絶対値と負の相関を示す現象を解析するために、帯電防止層の導電性物質を変量したサンプルを作成し、実験を行った。横軸に帯電防止層に添加された導電性物質の量をとり、左の縦軸には20Hzのインピーダンスの絶対値を、右の縦軸には表面比抵抗を用いてプロットした。

 

グラフは、横軸の添加量に依存したパーコレーション転移を示す曲線が得られるが、興味深いのは、表面比抵抗とインピーダンスの絶対値の変化が逆向きであることと、表面比抵抗ではパーコレーション転移の閾値付近における変化が緩やかであるが、20Hzのインピーダンスの絶対値の変化は急激であることである。すなわち、インピーダンスの絶対値は導電性物質の量が増える(抵抗が下がる)とともに増加し、パーコレーション転移の閾値付近で急激に増加するので、パーコレーション転移の閾値を決めるのにインピーダンスの絶対値は表面比抵抗よりも感度が高いパラメーターであることがわかった。

 

さらにこの結果は、タバコの灰の付着距離と比較すると、パーコレーション転移の閾値を過ぎればタバコの灰が付着しないことを示しており、タバコの灰の付着距離とパーコレーション転移との関係が明らかになった。すなわちタバコの灰の付着距離が0になるためには、20Hzにおけるインピーダンスの絶対値が500000Ω以上にならなくてはいけないが、そのためには導電性物質の種類によらずパーコレーション転移が生じていることが不可欠である。

 

パーコレーション転移とゴミ付着距離との関係は、帯電防止層における導電性物質の電荷二重層を考えると理解できる。導電性物質間の距離がある場合には、そこがコンデンサー成分となる。導電性物質間の距離が短くなるとホッピング伝導で電気が流れ抵抗成分となる。すなわちパーコレーション転移がおきるとすべて抵抗成分となったつながりが一つでき、その結果等価回路は抵抗成分だけの回路とコンデンサー成分と抵抗成分が直列につながった回路との並列接続になり、インピーダンスの絶対値は急激な変化を生じることになる。

 

このインピーダンスの絶対値とパーコレーションの関係については、等価回路モデルを使いシミュレーションを行ったところ、実験値と同様の変化を示すことが明らかになった。このシミュレーションについては、福井大学青木幸一先生のご指導をいただいた産学連携の成果である。

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2012.11/15 実技と相関する評価技術(2)

タバコの灰付着テストで測定されるタバコの灰が摩擦帯電したフィルムにくっつき始める距離(以下タバコの灰付着距離)とインピーダンスの絶対値とが相関する現象をもう少し詳細に説明します。インピーダンスには周波数依存性がありますが、樹脂フィルムのインピーダンスは一般に低周波数領域で少し高くなります。特に測定周波数1kHz未満で周波数が低くなるに従い高くなる異常が観察されます。この低周波数領域については測定器や測定環境の影響を受けやすく測定が難しいので工夫が必要です。電極とサンプル、および電極と測定器までの配線にシールドを注意深く行わないとノイズを拾います。

 

タバコの灰付着距離とインピーダンスの絶対値との相関は、周波数20Hz以下で相関係数が1に近くなります。そして、例えば周波数が20Hzの時のインピーダンスの絶対値が500000Ω以上でタバコの灰付着距離は0になり、500000Ω以下でタバコの灰付着距離と負の相関を示します。この実験結果には最初戸惑いました。なぜならインピーダンスは交流の抵抗ですから抵抗が低いほどタバコの灰付着距離が延びる、すなわち帯電しやすくなる、という直感と異なる結果だからです。電気に詳しい方ならば容量因子の影響が出た、ということに気がつかれると思いますが、このあたりの測定結果の理解は、福井大学で客員教授の研究テーマとして完成させるまでよくわかりませんでした。

 

タバコの灰付着距離と20Hzにおけるインピーダンスの絶対値との負の相関が見いだされたのですが、インピーダンスの絶対値が大きくなるに従い帯電しにくくなるという結果に最初は戸惑いつつも、驚くべき結果ですから特許出願を行いました。俗に言うところのパラメータ特許になりますが、測定法自体も新しいので4件の特許を出願できました。この出願から2年後AGFAから特殊構造の電極を用いたフィルムの導電性評価法とその測定結果と商品を結びつけた特許が公開されました。

 

この測定方法は、等価回路とそっくりの電極の抵抗部分にサンプルをセットし、周波数を変えながら交流を印荷し、共振したところで抵抗の値を得るという方法です。これはインピーダンスの周波数依存性で低周波領域で異常がおきますが、周波数依存性に直線性が成立する最も低い周波数の時の等価回路で抵抗部分の抵抗を測定しているようです。特殊な電極構造がそれを行うために重要な働きをしています。特許では、こうして計測された抵抗が帯電防止と関係するという内容でした。

 

インピーダンスの値を帯電防止評価に使用する、というコンセプトでは両者はよく似ています。特許は半年ほどコニカが早かったのですが、両者の特許が成立しています。後日インピーダンスと帯電防止についてシミュレーションやパーコレーションの関係を書きますが、過去の帯電防止評価技術がどちらかと言えば直流の視点で測定されていたのに、同じ時期に日本とドイツで類似コンセプトの測定方法が出てきたことに感動いたしました。同時にドイツ人の科学に対するきまじめさに脱帽いたしました。AGFAの特許に書かれた電極構造は、明らかに抵抗とコンデンサーを用いた等価回路を前提にしています。そして測定器の周波数を変化させ共振点で測定する行為は、等価回路のコンデンサー成分をキャンセルする意味があります。

 

しかし、この考え方はロジックはきれいですが、実際のフィルムの等価回路がどのようになっているのか不明なので、真に科学的かどうかに疑問が残ります。素直にフィルムのインピーダンスを評価しているコニカ法で、測定値の背景に隠れている材料設計因子を探す技術的アプローチのほうが、泥臭いですが、科学的結果が得られるように思います。すなわちドイツの方法は、プロセスは科学的に見えますが、結果の解釈において科学的に疑問が残ります。しかし日本の方法は、プロセスは、ただ計測して得られた値と実技評価結果との相関を見ているだけなので、技術的色合いが濃いですが、考察して得られた結果は科学的成果が出ています。来年電子セミナーでも公開します。

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