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2015.11/24 酸化スズと技術者(4)

高分子に導電性物質を分散したときに観察されるパーコレーション転移は、1980年代の材料科学の分野ではポピュラーな考え方ではなく、そのかわりに電気抵抗の並列接続と直列接続をモデルにした複合則が一般に用いられていた。
 
パーコレーション転移は数学の分野で発展した考え方であり、この20年前にボンド問題とサイト問題という有名な議論が展開され、パーコレーション転移の科学的理解は進み、当時は山火事などのシミュレーションに用いられていた。
 
パーコレーション転移は、形式知なので誰でも論文を理解すれば獲得できる(注)。一方材料科学分野では、パーコレーション転移で生じる現象を経験則から導かれた複合則(あるいは混合則と呼ばれていた)を用いた議論が行われていた。
 
化学という学問は科学の一分野でありながら、このように経験則を科学的議論に持ち込むようなことがよく行われるので注意が必要だ。例えばかつて高分子のレオロジーを論じるモデルとして、ダッシュポットとバネのモデルがあった。このモデルを用いてマックスウェルの方程式を解きながら現象理解を進めるという方法も実践知から生まれた形式知である。
 
ダッシュポットとバネのモデルではクリープ現象をうまく説明できなかったので、1990年代にこの考え方は消えていったが、防振ゴムや制震材を設計するときに用いると、材料設計を容易にできる、という便利さがあった。また、粘弾性測定の結果もこのモデルで理解すると、材料の高次構造理解に役だった。故に形式知としては廃れたが、実践知として今でも使用しているゴム技術者は多い。
 
同様に、高分子に導電性物質を分散したときに現れる現象について、科学的に論じるときに複合則を用いる人はもういなくなったが、かつては複合材料の教科書に書かれていた複合則を用いて、それを用いて計算される微粒子の導電性を議論していた。写真会社へ転職したときは、実践知と形式知をごちゃ混ぜにして誤った結論を導いてもそれが科学的論理で展開されていたなら正しい、と信じられていた時代である。今でもそのような光景が見られるので、弊社は新たな問題解決法を提案し、科学的間違いに早く気がつくツールを提供している。

 
(注)パーコレーション転移が形式知としてまとまってから、材料科学分野へ普及するのに20年以上かかっている。1979年にゴム会社へ入社したときに、指導社員はパーコレーション転移をご存じでカオス混合などのマカ不思議な言葉と同じように教えてくださった。大学で合成化学を専攻してきたので、数学物理系の指導社員に巡り会ったのは技術者として幸運だった。
  

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2015.11/23 酸化スズと技術者(3)

転職した当時に、新素材として酸化スズゾルという商品が多木化学から販売されていた。それは、四塩化スズの加水分解で製造された酸化スズをアンモニアに分散したゾルの水溶液で、特公昭35-6616の実施例に書かれた酸化スズゾルと同等の材料だった。
 
この材料については、ライバル特許に抵触しない可能性のある材料という理由で、十分な検討が社内でなされ、科学的な研究レポートが数報書かれていた。そしてそれらの最終レポートでは、この商品の酸化スズは絶縁体に近い、と結論されていた。
 
特公昭35-6616の実施例が正しいと信じて、この実施例の結果をシミュレーションしたところ、酸化スズゾルは帯電防止剤として十分な性能がある、と推定された。ところが、高分子にこの材料を分散した時に、パーコレーション転移が起きない場合には、十分な導電性が発現しないことがわかった。
 
すなわちシミュレーションの結果から、酸化スズに導電性が無いのではなく、適切な実験条件が選択されない場合には、パーコレーション転移が起きないので、あたかも絶縁体のような振る舞いになる。ただし、これは計算機上の結果であり、これを実証できる現物がなければ、この技術を用いた新たな商品化企画を周囲は受け入れない。
 
なぜなら、酸化スズを用いる帯電防止層は、すでに社内で検討済みという結論が出ている仕事なので、実際に現物で再現できることを示さない限り、周囲の同意が得られないだけでなく、提案の仕方を間違えると反発を招く可能性がある。
 
これは、ゴム会社で電気粘性流体の耐久性問題を解決した状況と類似で、進め方を間違えてFDを壊される(注)ようなひどい目にあった経験をマネジメントに活かすことができた。さらに、何もドープされていない酸化スズが本当に導電性を持つのか、という科学的疑問も個人的にあった。
 
個人的な興味という理由は、無機材質研究所から、高純度酸化スズ単結晶は絶縁体である、という論文がすでに公開されていたから非晶質でどうなるのか興味があったからである。ただ非晶質でも絶縁体であるかどうかは、科学的に証明されていない性質であった。
 
(注)ゴムから溶出する物質で電気粘性流体が増粘するという問題を一年かけて検討した結果、界面活性剤では問題解決できない、という科学的な証明が他の研究者から出されていたが、たった3日でその方法を用いて技術により問題を解決した。「できる」という実験結果が、「できない」という多くの実験結果で否定されたSTAP細胞の騒動では、一流の研究者が自殺するというショッキングな事件(注2)や、ES細胞の盗難疑惑を明らかにしようと警察へ刑事事件として告発する動きまで現れている。研究者で構成された社会では、時として信じられない事件が起きるケースがあるので、細心の注意のマネジメントが要求される。理研の環境やあの時の状況が特別なのではなく、一般企業の研究所でも、マネジメントに配慮しなければ、いじめなどの子供社会で起きるような事件が発生する可能性がある。被害者は事件が放置されると孤立感が進み恐怖感に変わってゆくものであり、マネジメントではメンタル面のケアが重要になるが、管理職にその知識が欠如している場合が多い。弊社では、研究所の健全な風土醸成のノウハウ提供も行っています。
(注2)STAP細胞の存在は未だに科学的にその存在が証明されていない。特定の条件で作ることができない、と科学的に証明されただけである。なぜSTAP現象が人間の細胞で起きないのか、という問いに対して科学的な解が出されない限り、できる可能性が残っている。この分野の素人でも理解できる状況で、一流の研究者は、否定証明の嵐の中で板挟みになったのだろう。誰かが他の組織を示してあげる必要があった。管理者は孤独なものだが、知識労働者は管理職でなくても孤独にさらされる。上位職者の役割は、孤立している当事者を改めて組織で機能できるように道筋を示してやることである。研究者は組織を失えば自己実現も貢献もできなくなる大変脆弱な職業である。組織(コミュニティー)が無くなれば、その職業をやめなければならない。
  

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2015.11/22 真摯に成果にこだわる

プレミア12の日韓戦は後味の悪い試合だった。好投していた大谷選手を球数も問題なかったのに、なぜ交代したのか。おそらく監督は本当の理由を言わないだろうが、その後の選手の起用を見て、おおよそその心中を推し量ることができた。
 
しかし、日本中のファンが期待していた勝てそうな試合だったのである。長いシーズン中の1試合ではないのである。勝ちにこだわることこそ大切なことだった。あの場面では、チームとしての勝利にこだわってこそ、真のリーダーである。昨日コールド勝ちできるような実力がありながら、また、今年優勝できるチャンスは十分あったのに、と思いながら悔しさのあまり同じようなことを書き始めてしまった。
 
ビジネスにおける類似の状況を昨日紹介したが、会社により人材の育て方は異なる。故ドラッカーは人材育成について、誠実で真摯な人材を選ぶことの重要性を述べている。ゆえに人材評価がうまく運営されるかどうかについては、誠実で真摯な評価者が多数いるかどうかできまる。
 
人事評価のシーンで時折おかしな状況を体験したり評価者の立場で見たりしてきた。例えばAさんが貢献して出した成果であるにもかかわらず、組織の都合でBさんを昇進させたいという理由でその成果をBさんの成果として評価しているケースがある。
 
これは、ゴム会社で担当者の立場で明らかに歪んだ評価を付けられた事例。3人で1チームとなり、ある商品を開発していたが、一人が長期休暇した。その間に二人は、計画を見直し、その一人がいなくても納期を守れるように仕事を遂行し成果を出した。その後長期休暇していた人物が出社した。この人物は、テーマの企画をしたわけでもなければ、休みに入るときの引き継ぎもやらず、2人に尻拭いのような仕事を残していたりと、まったく組織貢献していなかった。
 
ところがボーナス査定を見て驚いた。当方の給与明細書の数字は、査定がついていないどころかマイナス査定だったのである(注1)。一緒に苦労した他の一人も同様だった。さすがにおかしいと言うことで、同じ職場の課長補佐に相当する方に相談(注2)したら、おかしな評価であるが、長期休んでいた人を昇進させるために課長はその人に高い査定を付けたかったのだろう、と解説してくれた。
 
すなわち課の原資は決まっていたので、特定のメンバーに高い査定を付けるときにはマイナス査定を誰かに付けなくてはいけない仕組みになっていた。長期休暇をしていた人の貢献を明確にするために、サービス残業までしてがんばった二人を犠牲にしたのである。
 
このゴム会社の担当者の立場で経験した人事評価は、その後のサラリーマン生活に大きく影響した。すなわち職務評価に振り回されることなく、自己実現に努め成果を必ず出すことにこだわる仕事の進め方になったのだ。その後ゴム会社の某人事部長から研修中の酒の席で、「君は人間リトマス試験紙だ」と言われた。当方の評価で上司である管理職を評価できたからだそうだ。
 
(注1)成果給の意味があるボーナスの配分表を公開している企業は多い。そしてその配分表から自己の評価を知ることができる仕組みになっている。すなわち、仕事の評価を会社が伝達することにより、その努力に報いたことを伝えるためだ。このようなシステムでは、誠実な評価をしない場合には逆効果となる。また社員どおし給与情報などをこっそり見せ合うことも行われる場合もあるので、評価者は誠実さが重要になる。
(注2)仕事の評価に不服な場合に評価者に直接相談してもダメである。第三者で状況を理解している人に客観的な理由を聞いて納得すること。客観的な説明が例え不条理であっても知識労働者は納得しなければいけないのである。知識労働者が成果を出すためには組織が必要であり、納得しない、ということは、その組織を認めないことにつながる。被害者の立場で転職してみて、組織と知識労働者の関係について、まさに故ドラッカーが指摘していたとおり、と痛感した。組織が変われば、新たな知識を獲得しない限り、知識労働者は成果を出せなくなるのだ。貢献と自己実現のために必要な組織はその目的のために大切にしなければいけない。しかし、誠実さと真摯さがないがしろにされるような組織あるいは組織風土ならば改善する必要があり、難しい問題が生じる。

カテゴリー : 一般

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2015.11/21 プレミア12準決勝の結果について

プレミア12準決勝の結果(日本3―4韓国(2015年11月19日 東京D))について評論家がいろいろ語っているが、監督の投手継投策を問題視している点は共通している。素人が見ていても100球どころか90球にも到達していない大谷投手をなぜ交代させる必要があったのか疑問である。
 
監督は、「8回は、則本でいくと決めていた。」と語っていたが、大谷投手が打たれてからでも大丈夫だったように思うし、あのまま8回を大谷投手が投げても不都合となる因子は何も無かった。さらには9回まで投げさせても良かったのではないか。勝負にこだわったなら、それが正しい判断だったように思う。
 
原因は、監督の慢心にあったのではないか。たった3点で勝利を確信したのだろう。しかし、負けた今となっては本心を語ることはないが、ほぼパーフェクトだった投手を交代させた理由は、何かドラマを期待した慢心以外に写らなかった。
 
さらに理解不能の采配は、若干20歳の左腕をものすごいプレッシャーの中で起用するというむちゃくちゃな決断をさせた。おそらく、監督はリーダーの資質に問題があるのでは、と思いたくなるのが、今回のゲームを最後まで見た当方の感想である。
 
研究開発でもこのようなタイプがいた。酸化スズゾルを用いる帯電防止技術が実験室レベルでほぼできあがり、生産技術に関する課題を詰めなければいけない時に、センター長命令で企画調査から進めてきた当方が突然テーマから外された。
 
転職して1年程度しか経っていなかったので、指示に従ったが、驚いたのは技術開発から完全に手を引けというのである。ものすごいマネジメントだと思った。そして若い係長クラスの女性をリーダーにした製品化開発チームが新たに結成された。そのバックアップをする管理職スタッフチームも決められたが、その中に当方は入れていただけなかった。
 
ところが、新チームのメンバーはパーコレーション転移を甘く見て、製品化に失敗をする。そして、「酸化スズゾルの技術は物にならない」という結論をそのチームは出して、時間が無いという理由でSbドープの酸化スズを帯電防止材にして新製品に採用したのである。
 
さすがにこれにはびっくりした。バブルがはじけて運良くリストラがあり、当方が高分子材料開発部門のリーダーになった。すぐに、酸化スズゾルを用いた帯電防止層を製品化できそうな商品を探し、印刷感材で商品化を成功させた(注)。最初の製品化失敗から半年後のことである。
 
当時のセンター長は若い女性に大きな成果を出させたかったのだと思うし、リストラ後そのように語っていた。しかし、なぜ当方を開発チームから外したのか言われなかったが、恐らく酸化スズゾルを用いた帯電防止層を簡単な技術と誤解したのだろう。パーコレーション転移の理論と実践知を完璧に理解しておれば、確かに簡単な技術である。しかし、形式知だけでは困難な問題に遭遇したときに解決できなくなる難しい仕事でもある。
 
実際に若い女性のチームが失敗した配合処方と、その半年後当方が製品化に成功した処方とは大差が無かった。ただ、生産技術における対策を十分に行ったかどうかの違いである。いくらロバストが高い結果が出ているからといって、それは生産技術を甘く見ても良い、と言うことではない。生産技術には形式知だけでは語れない問題が時にはある。研究開発では、製品が無事完成するまで気を抜いてはいけないのである。
 
3点差があるから勝てるだろう、と考えたかどうか知らないが、もし、監督が準決勝に絶対に負けることができない、と不安に感じていたなら、大谷投手が韓国チームのバッターに捕まるまで続投させるという判断となったように思う。
 
そのくらい大谷投手のピッチングは完璧だった。あの状態で投手交代を行ったのは、勝利以外の要素に目が奪われたのだろう。リーダーたるものは、最後まで油断してはいけないのである。ましてや勝負を自分でデザインしようとする驕りは禁物である。
 
(注)この商品は印刷学会から技術賞を受賞した。また帯電防止技術は日本化学工業協会技術特別賞を受賞した。

カテゴリー : 一般

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2015.11/20 酸化スズと技術者(2)

写真フィルムの帯電防止には透明材料が必要になる。導電性を有する酸化スズは、着色が薄いので、その候補材料になる。今は廃業したアメリカの大手写真会社は、20世紀末特許回避のため導電性の五酸化バナジウムウィスカーを帯電防止剤として使用していた。
 
日本の写真会社では同じ頃、酸化スズに関する膨大な量の特許を出願していた会社はやや青みがかったSbドープの酸化スズ結晶を用い、そのライバル会社は、イオン導電性高分子を帯電防止剤に用いていた。
 
イオン導電性高分子は、湿度依存性や現像処理後に導電性が劣化する問題を有していたが、それらを技術的に回避する方法で実用化していた。技術的には、同等機能を実現していたので同等性能だった。ただし、プロセス上のある問題をこの技術は抱えていた。
 
その問題を克服するために、特公昭35-6616特許を中心にした技術開発をはじめた。すなわち公知技術の範囲内で技術を開発すれば、ライバル特許に抵触しない技術を作り出すことができる(注)。
 
ライバル特許群によれば、特公昭35-6616に記載された酸化スズには導電性が無いことになっていた。しかし、実施例のデータから推定される酸化スズの導電性は1000Ω以下であることがうかがわれた。
 
ただ実施例を実験で行うとうまく実施例のデータを再現できない。この特許を捏造データによるペテントと捉えるのか、隠れたノウハウが存在すると捉えるのかは、難しい判断となる。
 
(注)特許の視点からは、この考え方は危険で、例えば組み合わせ特許を成立させて、相手の権利範囲を使えないようにすることが可能である。また科学的に不確実な場合にはインチキ特許で同じことが可能になる。転職した時の最初の仕事はライバル特許の整理だった。この仕事は、高純度SiCの技術開発を行った時の最初の上司が知財部長を経験された方だったので、十分なトレーニング機会をゴム会社で体験しており、証拠探しも含め楽な仕事だった。
   

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2015.11/19 酸化スズと技術者(1)

酸化スズは金属酸化物であり、その高純度結晶は絶縁体である。酸化スズが絶縁体であるらしいことは、昔からわかっていたが、それが科学的に証明されたのは1980年代になってからである。
 
また酸化スズは、ガラス構造をとらない。すなわち結晶とガラス構造では無い非晶の二つの構造だけである。高純度結晶は絶縁体だが、非晶になると電気を通すようになる。
 
また、金属酸化物半導体なので、InやSbをドープすると導電体になる。だから液晶などのディスプレーの透明電極としてITOが実用化されている。今では常識であるが、ITOが良導電体であることは、大変なことなのである。
 
昭和35年に公開された、特公昭35-6616には、非晶質酸化スズを透明導電体として実用化した技術が書かれている。そこには湿度依存性が無いので電子伝導性であることまで確認したデータが記載されている。
 
この昭和35年頃というのはITOの研究が活発に行われていた頃で、その十年後には透明導電フィルムやNESAガラスなども登場している。しかし、科学的にその導電機構が明らかにされていたわけではない。
 
正孔や電子を用いた導電性の仮説による説明は教科書に書かれていた(注)が、肝心な酸化第二スズの特性が良く理解されていなかったからだ。高純度の酸化第二スズ単結晶が絶縁体であることは、先に書いたように1980年代に無機材質研究所で証明された成果である。
 
しかし、それまで、科学的証明が不完全な材料にもかかわらず実用化が先行していた。すなわち、技術が科学よりも先行していたのだ。だからこの期間におかしな特許が、某写真会社からたくさん出ている。残念だったのはその特許群にライバル写真会社の技術者たちが手も足も出ない状態だったのだ。
 
(注)科学で証明されていないことが、さも真実のごとく書かれていた。だから説明が分かりにくい。大学の授業では科学ではないことを科学として教えていた時代である。非晶質導電体については、ガラスの導電性が真面目に研究されていた時代である。ガラスからの結晶成長と言う研究を当時発展途上であった電子顕微鏡を活用し盛んに研究していた時代である。写真集と言ってよい論文が増産された時代だ。
  

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2015.11/18 ドラッカーの技術史観と不正問題

ドラッカーの著作を読むと、技術は科学の誕生とともに生まれたと書かれており、科学誕生以前のそれは体系化されていない技能として説明されている。そして、彼は、技術の誕生で知識の意味が変わり、知識労働者の時代になったとして、現代を論じている。
 
テクノロジーの訳として技術と言う言葉が使われているのだが、マッハ力学史には、科学誕生以前にも技術は存在していたと述べられている。また、ファーガソンの「技術者の心眼」では、技術を形式知に偏った技術と実践知と暗黙知も含む技術という扱いをしている。
 
ドラッカーは技術者ではないが、ファーガソンは技術者であり、マッハは科学者である。ファーガソンの「技術」の意味は、マッハのそれに近い。すなわち、形式知から実践知や暗黙知によるものまで技術として扱っているからである。ドラッカーは形式知による技術だけを技術としているようだ。
 
形式知で技能を体系化できたことにより、産業革命以後の技術革新が急速に進み、知識の役割や価値が大きく変わり、すなわち知識も資本と同等になり知識労働者の時代になった、と言うわけである。
 
21世紀になり、フォルクスワーゲンのディーゼル車不正問題や旭化成子会社の杭打ち問題のような知識を悪用した不正が目立つ。これを倫理観の欠如の問題にするのか、QC活動の知識を身に着けていない技術者が作業を行った結果として捉えるのかは、ISO9001がグローバルスタンダードとなっている現代において議論の必要は無いだろう。
 
ドラッカーの技術史観から現在起きている不正問題は、知識労働者のマネジメントを誤った経営者の責任となり、そのペナルティーとして、市場からの撤退という事態にも至る可能性がある。環境問題を放置すると企業の突然死を招く、といった経営者がいたが、今回の不正問題の解を倫理感に求める経営者には事態の解決ができない。
 
マネジメントの意味が、成果を目的として知識の適用の仕方に関する知識とドラッカーの書に書かれているので、QCの知識を持っていない作業者の教育を怠った責任が経営者に求められているのだ。技術分野の知識労働者の再教育について弊社へご相談ください。

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2015.11/17 タグチメソッド

故田口玄一先生に3年近く直接タグチメソッドのご指導をしていただいた。写真会社がタグチメソッドの導入を日本では早い時期に始めたから大変良いチャンスに恵まれたと思っている。ちょうど転職した翌年に先生のご講演を拝聴し、その年に全社でタグチメソッドを行うということで推進委員に選ばれた。
 
ゴム会社では日本科学技術連盟(日科技連)が推進するQC手法が標準だったので、研究開発では積極的に実験計画法を使っていた。先生の著書「実験計画法」も愛読書として座右にあった。ただ、実験計画法で実験を行ったときに必ずしも最適条件が選ばれない、という問題によく直面した。
 
そこで実験計画法の改良を行い、物性値ではなく、相関係数を配置して実験計画法を行うと最適条件をうまく見つけられることを発見した。以来ゴム会社で実験計画法を行うときには、いつも相関係数を割り付けていた。
 
驚いたのは、我流で行っていたこの方法がタグチメソッドによく似ていたことだ。すなわち相関係数の割り付けは、信号因子を外側に割り付けしていることであり、相関係数はタグチメソッドの感度に相当する。我流の方法は感度最大の条件を見出す手法だったのだ。
 
ただ、田口先生は、感度の最大を求めるのは正しくなく、あくまでもSN比が最大の条件を選ぶように指導をされていた。これをロバスト設計と呼ぶが、それでは感度最大の条件を選ぶのは間違っていたのかというと、田口先生は状況によって、ロバストを犠牲にして感度を優先することはある。しかし、それは品質工学の考え方としてよくない方法だ、と否定はされなかった。
 
今コンサルティング業務は中国の会社が中心で、毎月1週間ほど上海に出かけるが、開発の指導はすべてタグチメソッドで行っている。日本で中国のモノマネ技術が問題にされたりするが、当方はコンサル条件に独自技術の開発、すなわち特許出願できる技術開発を心がけているので、当方のクライアントに関してはモノマネ技術とは無縁である。
 
 
  

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2015.11/16 ホワイトカラーの生産性

安倍内閣がGDP目標600兆円を掲げたことに対する批判が多い。当方も常識的には難しいだろうと思う。しかし、いつも達成可能な目標を示すのがリーダーの役目ではない、と言われるように、安倍内閣の決意表明と捉えれば、大胆な目標で意気込みを感じるというような評価になる。
 
但し前向きの評価をするにしても、それを達成するための道具となる「矢」も、狙いの方向も見えていない。手段もゴールも五里霧中の状態である。ただ会社を経営し始めて今の日本で不満に感じていることがある。それは日本のホワイトカラーの生産性の問題である。
 
大手のクライアントと仕事をしていてそれを痛切に感じる。当方はゴム会社と写真会社で働いた経験から、ホワイトカラーの生産性が企業により大きく異なることを実体験とした。ゴム会社では昔から現場も含め会社全体の生産性が高い経営が行われている。例えば高純度SiCの事業を立ち上げるに当たり、外部とのJVを始めるまで、0.5人工数しかかかっていない。同様の業務は写真会社であれば3人以上の工数をかける。
 
また、写真会社でリーダーの立場ですべて責任を持つことができたので、コンパウンド工場を立ち上げたときの平均工数を2人で行ったみた。但し、これは写真会社の工数だけで、生産装置を発注依頼した根津にある中小企業の工数は入っていない。この中小企業に支払った費用も8000万円という破格な値段である。大手のゼネコンに依頼したなら、同じ仕事を依頼した場合に2億円前後はかかっただろう。
 
今、日本企業におけるホワイトカラーの生産性は、各社大きなばらつきがあるのではないだろうか。もしその生産性を上げていって、余った余力で新規事業を開発していったならば、600兆円は意外にも実現可能な数字になるのかもしれない。
 
新規事業として何を行うのか、という問題は各社で異なるが、ホワイトカラーの生産性については、二つの風土の異なる企業に勤務した経験から、各企業共通したソリューションが存在している、と思っている。
 
この各企業に共通したソリューションについて、問題解決案を得るスピードアップの方法、それを推進する戦略と戦術の立案方法が効果的である。問題解決案を考える場合に、ゴム会社ではばっさりと人を削減し推進する方法をとるのに対し、写真会社ではどんと人員をかける。推進するための戦略立案については、ゴム会社では、考えている暇があったなら動けと檄を飛ばす役員がいたが、写真会社ではじっくりと時間をかけろといった具合に各社異なる。
 
どちらの方法が良いか悪いかはともかく、やや荒っぽいかもしれないが、全体としてゴム会社の生産性が高く世界のトップ企業になったという結果が現れている。

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2015.11/15 昨晩のNHK「認知症革命」がーーー

昨晩、NHKシリーズ「認知症革命」を見た。今晩その続編が行われるので物忘れがひどくなった諸兄は、ぜひ見ていただきたい。昨晩は、「ついにわかった!予防への道」という副題がついていた。すなわち認知症を予防できることが分かったそうだ。そして番組内で予防法を説明していた。そして、それを聞いてびっくりした。最近の自分の変化に合致しているのだ。
 
まず、番組を見なかった人のために、予防法を簡単に説明する。その予防法のメカニズム等詳しいことは、再放送あるいはNHKオンデマンドでも見ていただきたいが、予防法そのものは大変簡単な方法である。すなわち、一日一時間早足で歩けばよいそうだ。認知症予備軍の人が1週間に3日、一日一時間早足で歩いたところ、症状が改善されたとのこと。
 
この予防法発見のきっかけは、認知症予備軍の人の歩行状態の研究からだそうだ。歩行速度が秒速80cm以下になると認知症予備軍である、という発見以外に、歩行の時の力のかかり具合が正常な人と異なってくるという。そこで、早足で歩く訓練を取り入れたら、症状が改善されたので予防法の発見につながったそうだ。
 
番組では、さらに早足歩行と筋力トレーニングを組み合わせるといいことや、記憶力のトレーニングも並行して行うと効果的であるとの説明があった。ところが、当方の体験によれば、これらの方法で正常な人にも思わぬ効果があるので以下その体験について述べる。
 
数日前の活動報告で、食生活を変えないでダイエットができるかどうか試していることを書いた。そこで、水泳はあまり効果が無かったが、毎日30分以上の早歩きとダンベル体操を行ったところ体重が下がり始めた、と書いた。以前の活動報告では書かなかったが、30分以上の早歩きでは、テンポを維持するために、過去に国際会議で講演を行った時の録音を聞いている。
 
このような習慣を取り入れてから、体重が減り始めただけでなく、なぜか頭が少し若返ったような気がしていた。買い物の支払いでは、概算の値がレジの値に近くなったり、C#のプログラミングでは、バグをプログラム動作前に気がついたり、何よりも昔チャレンジしたギターをまた弾きたくなったことなど驚くべき変化だ。
 
写真会社を退職する半年ほど前から、新しい事や細かいことを少し面倒に感じるようになっていた。老化が始まっていたのだが、ダイエットに取り組み始めてから、特に早歩きとダンベル体操を始めてから、身の回りのこまごまとしたことを面倒と感じなくなっていた。なぜかはわからなかったが、昨晩の番組を見てその理由がわかった。脳みそのネットワークが活性化するのだそうだ。もし、50を過ぎて少し老化を感じ始めた方々は、早足歩行と筋トレを習慣に取り入れると良いと思う。特に早足歩行は、医学的にもその効果が解明されているそうだ。

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