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2015.11/04 PPSと6ナイロンの相溶

ポリマーアロイを設計するときに重要な理論としてフローリー・ハギンズ理論がある。この形式知では、χパラメーターが定義されているが、その実体は自由エネルギーである。だからこのパラメーターが正の時に高分子は相溶しない、というのは容易に納得できる。
 
しかし、これは平衡状態における話だ。非平衡状態ではこの限りではない。当方の実践知によればしかるべき条件が揃ったときに、コンパチビライザイーが無くても二種の高分子の組で相溶が生じる。
 
この実践知を獲得したのは新入社員の時だ。二種類のゴムをロールに巻き付け混練すると、相溶しないので全体は白っぽくなる。形式知に合致した現象が起きているのだが、ある日、それが透明になる瞬間を発見したのだ。どのようなゴムの組み合わせでも透明になるこの不思議な現象は、カオス混合装置を考えるヒントになった。
 
最初にその現象を発見したときには、目を疑った。その後頭を疑った。そして学生時代には理解しにくかったフローリー・ハギンズ理論をすっきりと整理できたのでびっくりした。形式知と実践知をうまく組み合わせて考えることができるようになったのだ。教科書では曖昧な説明がなされているχパラメーターの問題について、その曖昧の中身が見えた瞬間である。指導社員は当方を熟練者の仲間入り、と褒めてくれた。
 
STAP細胞の騒動では未熟な研究者が話題になった。あの事件では、彼女の年齢と一時期でも学位を授与されたキャリアから彼女自身の責任は大きいが、もっと責任が大きいのはこのような研究者を生み出している大学である。自動車ならばリコールすべき事態である。リコールとは修復して社会に戻す作業を言う。スクラップにするのは損失が大きいので、リコールで修復するのである。リコールして修復しないのは、社会的責任が欠如していると言っても良い状態だ。
 
話が脱線したが、STAP問題の原因の一つに形式知と実践知、暗黙知という知識の特性をよく理解していない「無知」の問題があった。そして倫理感も含め、科学者として未熟という言葉が使われた。「PPSと6ナイロンを相溶させる技術」では、もし当方が無知な状態であれば、実用化できなかった。この技術開発では、周囲の理解と期限内にプラント建設の資金を得る必要があった。そのため形式知と実践知を迅速に周囲と共有化する必要があり、未熟な状態ではゴールにたどり着けなかった。
 
すなわち形式知と実践知を周囲に理解させる手段や方法は大きく異なり、前者は科学的論理で正しく行えば良いので容易だが、後者はそれだけではダメで納得を得るための細心の配慮が必要なのである。前者は、仮に理論だけであってもそれが真理の積み重ねであれば周囲の支持が得られやすい。そして、新たな仮説を確認するための実験を行うチャンスもできる。ところが、後者では、実体が経済性も含め再現よくできることが厳しく求められ、繰り返し再現性が否定された時点で、議論は終わりとなる。
 

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.11/03 小保方氏の学位問題

小保方氏の博士の学位を早稲田大学は取り消したという。それに対して、小保方氏は弁護士を通じて早稲田大学に失望したという声明を出した。事件直後新聞にも書かれていたように、コピペの学位論文に博士の学位を出すような大学に、彼女は何を期待していたのだろうか。
 
そもそも学位の審査は大学ごとに異なる。また、偏差値の高い有名大学の学位の価値が高く、地方の無名大学のそれは低い、という社会的な評価などなく、博士の学位は、その学位論文の中身で価値が決まるのである。また、それゆえに博士の学位は、一人前の研究者としてスタート地点、出発点に位置づけられるのである。
 
当方は、かつて旧七帝大に属す大学で学位を取得したいと努力していたが、たまたま転職する事態になった。事情を3年間お世話になったその大学にお話ししたところ、審査の主査となられた教授に、転職先から奨学金を出すように言われた。このときゴム会社が当方の学位授与でお世話になっているという理由で、多額の奨学寄付金を払っていてくださったことを知り涙が出たのだが、転職先からも持ってこい、という一言で出かかった涙も引っ込んでしまった。
 
学位も取得したかったが、奨学寄付金の話が障害となった。写真会社における役職及び立場で判断すると、新しい職場の業務とは関係ない高純度SiCの研究が半分以上占める学位のために奨学金を出すわけにいかなかった。退職金があったので、それを使うことも考えたのだが、学位とはそのようなものではないという結論に至り、英文の学位論文はまとまっていたがその審査を辞退した。
 
まとめていた学位論文の中身については、その大学の過去の学位論文と比較して十分なレベルとの自信(注1)があったので、一応製本して人生の記念とした。見本にしようと図書室で読んだ学位論文には、研究テーマとしてひどいものがあった(注2)。一応論理展開が科学的に行われているので、学位としての体裁がとれてはいるが、技術者である当方の目で見て新規性や進歩性の観点で明らかに0点の論文もあった。だから自信をもって辞退する決断をすることができた。
 
この話を学生時代にお世話になった恩師にした所、中部大学に無機高分子の研究者がいるので、そこで審査してもらったらどうだ、という情報をくださった。恩師はまだ教授ではなかったので主査になれないという理由で、中部大学の研究者を紹介してくださったのだ。
 
恩師が紹介してくださった中部大学に製本した論文を提出したところ、半年ほどして赤ペンが多数入って返却されてきた。そして、すべて日本語に修正するようにとのコメントもつけられていた。旧七帝大の先生と共著で書いた論文に赤ペンが入っていたので感動するとともに、自分の中にわずかに残っていたわだかまりもすっかりなくなった。なお、すべて日本語に書き直す目的は、コピペ防止のためでもあった。
 
その後、主査の先生の指示に忠実に従い論文を作成しなおし、学位審査料8万円を支払い、試験も受けて、無事工学博士の学位を中部大学から頂いた。9月末の学位授与式は小生一人しかいなかったが、学長から学監、大学理事長など総勢10名ほどご列席の中で壮大に行われた。
 
ところが、授与式の前日は業務出張で福井県にいた。そして台風が接近していたので名古屋へ新幹線で向かっている途中で車中泊となり、そのため授与式には着替える間もなくヨレヨレの姿で出席することとなった。授与式の会場で主査の先生は角帽とマントを当方に着せてくださり、登壇するように背中をたたいてくださった。転職したストレスと戦いつつ、苦労の中で多くの人に支えられての学位取得は人生の良い思い出となっている。
 

(注1)ゴム会社はこの研究を元に事業を開始し、学位論文に書かれた高純度SiCの合成手法で日本化学会から化学技術賞を受賞している。
(注2)傲慢に見えるかもしれないが、実際に公開されている学位論文を見ていただきたい。最近はワープロが高性能になったので見た目やできばえは良くなっているが、20年以上前は、手書きの論文も存在し、怪しいグラフが書かれている論文を見つけることも可能である。研究の中には、自明のことを一生懸命分析して、写真をいっぱい載せ、という内容の論文もある。研究者としてスタート地点に立つ、という趣旨ではいいかもしれないが---。
 
 
 
 

カテゴリー : 一般

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2015.11/02 旭化成子会社の杭打ちの問題

杭打データ改竄問題は、泥沼の様相を呈してきた。すなわち、杭打ちに失敗したらデータをごまかすことが常態化していた、と新聞に書かれていたからだ。そして横浜のマンション以外にもデータを改竄していた建築が見つかった。
 
ゴム会社と写真会社の二つのメーカーに勤務してきた経験から、現場のマインドは会社の風土により形成されると思っている。この体験から、今回の事件について最も恐ろしいシナリオは、杭打問題以外にも、と想像が膨らんでゆくが、建築業界に詳しくないため現場のあるべき姿について述べる。
 
そもそも日本の製造業の成功は、トヨタ看板方式等で世界的に有名になった「カイゼン」という言葉が示すような、現場力にあった。これは、日々少しでも品質向上を図るためにQCサークルで、現場を少しでも良くしようとする活動から生まれる力である。
 
そこではデータを改竄しようという発想は出てこない。生データは、カイゼンのための重要な情報の一つであり、データ取得に失敗したら必ず取り直すのが決まりごとになっているからだ。むしろデータ改竄は現場で仕事をする人たちの首を絞める事態になるので絶対にしない。日本の健全なメーカーの現場とはそのようなものだ。
 
新聞には工期に追われて改竄する以外に道が無かった、と書かれているが、それが本当ならば、現場で改善活動が機能していなかったことになる。旭化成は、化学メーカーでありながら、へーベルハウスという商品を販売し、化成品の販売チャネルまで自社で構築することにより、効率的な事業展開を行い、斜陽化した繊維事業を立て直した日本の伝説的なメーカーである。
 
すなわち化学という強みを活かして事業再生に成功した、日本を代表する化学メーカーの一つである。日本のQC活動も繊維事業で十分に学んできたはずだ。しかし事業を転換する時に、メーカーにとって大切な現場を軽視するミスを行った可能性がある。
 
技術を重視するゴム会社では、現場現物主義が今でも徹底しているが、科学を重視していた写真会社は、やや現場軽視の傾向があった。またそのような風土だったので、電子写真機の製造現場をすべて中国に移す大胆な経営も可能となり、中国の安価な人件費の恩恵を過去に享受することができた。しかし、今、人件費の高騰で過去のメリットと、日本の大切な製造現場も無くなった。
 
新たに開発された技術を安定に商品へ転写する作業が現場で行われているので、優れた品質を造り込むためには、現場力が重要である。すなわち、開発部隊がいくら優秀でも現場力が弱ければ高い品質の製品を消費者に供給できない。現場力が弱くなったメーカーで何が起きるのか、ご心配な方は弊社へご相談ください。
 

カテゴリー : 一般

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2015.11/01 環境技術が車を変える

金曜日から東京モーターショーが一般公開された。ゴム会社に就職した時に、自動車部品会社だったので、平日に出張扱いで見学することができた。それ以来、二年おきに開催される乗用車のショーを欠かさず見学している。
 
セラミックスフィーバーの時には、各社夢の技術として、セラミックス部品を搭載したエンジンを展示していた。かつてジウジアローデザインの117クーペやピアッツアのような話題となる車を生産していた、いすゞは、東京モーターショーに先立つ半年前に、オールセラミックス断熱エンジンの「セラミックスアスカ」を公道で走らせることに成功し、それを展示していた。
 
また、各種環境規制の法律が整備され、環境技術が未来技術として注目されるようになると、ケナフをはじめとした環境負荷の低い材料技術が東京モーターショーの中心テーマになり、前回から、それらは常識となり、燃料電池やパワートランジスタなど心臓部の革新を中心とした環境対応技術がテーマになった。
 
ご存じのように日本ではハイブリッド車が環境技術の中心だが、欧州ではグリーンディーゼルが環境対応技術である。ところがフォルクスワーゲンの不正問題が今年世界を驚かせた。その影響があったためか、欧州各社はディーゼルエンジン車の展示は控えめで、フォルクスワーゲンはまったく展示していなかった。
 
日本車でも同様で、トヨタは関係会社のブースでディーゼルエンジンの環境対応技術の推移を展示しているにとどめていた。唯一マツダは、スカイアクティブ技術の目玉として1.5lと2.0lの二種類のディーゼルエンジンを展示していた。
 
そのマツダは、現在販売を中止しているロータリーエンジンについて、環境対応のスカイアクティブ技術を応用し復活する、というのがプレス発表の目玉だった。そして、展示舞台の中心に設置されたスポーツカーの新車がお披露目となったが、残念ながらそのパワーソースの展示はなかった。
 
週刊誌情報として、次世代のロータリーエンジンはハイブリッド化される、と言われている。その情報の真贋は不明だが、ロータリーエンジンが採用された初代コスモスポーツ以来、ロータリーエンジンのコンパクトさを活かした小型スポーツカーが定番だったが、RXビジョンとして紹介されたスポーツカーは大型だった。リアのデザインなどから4駆の可能性も伺われ、環境技術が車の設計へ影響しているかのようだった。
 
先にガンダムのようなコンセプトカーのデザインが多かった、とレポートしたが、パワーソースが、水素燃料電池や蓄電池で動くモーターの車にはよく似合う。ガソリンタンクに比較し、水素ガスのタンクや、蓄電池は、現在の技術では、どうしても大きく重くなる。その結果デザインに制約が出てくる。
 
一方電動モーターは、レシプロエンジンに比較し、補器類も含め小型化が可能で設置場所の自由度も上がる。ゆえに駆動輪周りのデザインはその影響を受ける可能性がある。その結果、駆動輪の設計も変わってくるのかもしれない。
 
駆動輪と言えばタイヤだが、そのタイヤについて、ブリヂストンからパンクしないタイヤが公開されていた。それは従来の空気タイヤとは全く異なる、樹脂の弾性を利用したタイヤでリサイクル可能な材料でできているという。

カテゴリー : 一般

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2015.10/31 東京モーターショー2015「車のデザイン」

マツダ車のデザインが好評を博している。そのデザインには、独特の赤が似合うためか、モーターショーで展示されていた車のほとんどは赤色だった。モーターショーでは、「鼓動」に変わる新しいデザインとして、「越える」デザインが展示されていたが躍動感のあるデザインである。
 
マツダ車のコンセプトカーは、このように現在のデザインの路線でマツダカラーを打ち出していたが、面白く感じたのは、それ以外の日本車のコンセプトカーのデザインが、ガンダムっぽいデザインが採用されていたこと。
 
ガンダムっぽいデザインは、2年前、スバルのコンセプトカーで初めてみたが、今年はスバル以外にトヨタや日産、そして三菱自動車まで似たようなデザインの車の展示があった。
 
1980年代に、角型デザインの車が流行した時代があり、あの時には、折り紙細工のような自動車が街にあふれた。その中で、ホンダ車だけは、ホンダ独自のデザインで際立っていた。
 
その後、各社の個性が車に反映されるようになり、例えばマツダのプレマシーのOEMである日産のラフェスタは、日産車そのもののデザインになっている。この10年ほどの間に販売された車は、30年前と異なり、デザインが洗練されメーカーの顔をつけるようになった。
 
今回モーターショーに登場した各社のガンダムっぽいコンセプトモデルは、何を意味するのだろう。パワーソースがレシプロエンジンからモーターへ変わることを予見させるデザインにも見えるし、今の若者が好むデザインという見方もできる。
 

カテゴリー : 一般

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2015.10/30 デンソーのSiCウェハー技術

今年の東京モーターショーでデンソーは、SiCウェハーの6インチサイズを展示していた。クリー社から8インチウェハー技術ができた、という発表があったが、まだ市場に出ていない。ゆえに、現段階では最先端の商品であり、自動車に興味のない人でもこの分野に興味のある人には、一度見に行って説明員から話を聞くと勉強になる。
 
東京モーターショーでは、よくコンパニオンが話題にされるが、美しいコンパニオンに目が奪われている技術者は、企画マンとして失格である。自動車は我が国の基幹産業であり、そこに展開される技術のトレンドを調査する現場として、東京モーターショーはコストパフォーマンスの大きい有益な情報源である。
 
今自動車は、石油原料から水素燃料へ、あるいは電気自動車へ技術革新が始まったばかりである。これから30年間進められる技術革新で、未来の車の姿が明確になり、新たな産業も立ち上がる。SiCウェハーは、インバーターに絶対必要なパワー半導体の本命であり、この産業がどのような展開をしてゆくのか興味がある。
 
すでにシリコーンウェハーと異なる発展の様相が見えてきており、異業種から新規参入するには良い機会である。おそらくこの10年は、最後の参入の機会になるのかもしれない。
 
デンソーは、従来の昇華再結晶法(レーリー法)と気相成長法の二刀流で技術開発に取り組んでおり、やがてクリー社を技術開発で追い抜く可能性がある。ウェハーからその応用されたデバイスまで開発できる市場のリーディングカンパニーという立ち位置が強みである。
 
かつてブリヂストンも日本化学会化学技術賞を受賞した時にSiCウェハーの開発を行っていると報告していたが、2011年にその開発をやめ、高純度SiCの創業時の事業である、ダミーウェハーやヒーターなどの半導体治工具(注)へ特化している。
 
ブリヂストンの高純度SiC技術に用いられる有機物前駆体からは、様々な状態の高純度SiCを合成することが可能で、昇華再結晶法に適した技術、と期待していただけに残念である。なお有機物前駆体法による高純度SiC技術の合成法とその速度論については学位論文として公開しているのでご興味のある方は問い合わせていただきたい。
 
(注)元住友金属工業(株)小島荘一氏のご尽力の賜物である。
 
 
 
 
 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2015.10/29 東京モーターショープレス発表

10月30日から東京モーターショーが公開される。公開に先立ち、一足先に昨日プレス発表に出席した。取材結果については、モーターショーが終了した頃に未来技術研究所(http://www.miragiken.com)にて公開しますので、一度ご訪問ください。
 
ここでは、今年のモーターショーの見どころを簡単にレポートします。二年前のモーターショーでは、電気自動車や水素燃料電池車が話題をさらいましたが、これらは既に実用化されました。今年は自動運転が話題になるのか、と期待していましたが、日産など一部のメーカーが細々と紹介していた程度でした。
 
NHKの夜9時のニュースでは、若者に配慮した、わき役としての車を主題にしているかのような紹介がなされていましたが、当方は、トヨタブースの展示に今年のモーターショーの本当のテーマを見たように感じました。午後2時15分から15分間プレス向けに行われたプレゼンテーションで、トヨタ社長は、「WOW!を形にしたい。」と宣言しました。
 
そして、「今の非常識を常識にする」、その為には、「居心地のよいところから抜け出さなければいけない、常に新しいチャレンジが必要!」とメッセージを発し、ビッグゲストを舞台に招き、そのゲストの口から同様のメッセージを語らせる、という演出がなされました。
 
これも若者へのメッセージと捉えれば、NHKのニュースのような取り上げ方になるかもしれないが、当方には80点主義トヨタの並々ならぬ決意表明のように思われました。実際にブースの展示は、二年前の「都市型タクシーのコンセプト」や、「水素燃料電池」、「Fun to Drive 」のように複数のメッセージをちりばめたものではなく、新型プリウスを中心に展示した、トヨタの大胆なチャレンジの姿勢を世界に発信しようと努力した内容になっていました。
 
ところで、トヨタブースのビッグゲストとは、あのイチローで、彼は、毎年バッティングフォームを変更し、チャレンジしている体験を引合いにだし、トヨタ社長のメッセージをわかりやすく解説していました。
 
今年はフォルクスワーゲンの不正が発覚して、自動車業界に激震が走りました。若者の車離れもあり、トヨタは自動車産業全体に危機感を感じて、今年のモーターショーのプレス発表を企画したのでは、と推測しました。会場全体のイメージも、少し地味でした。
 
自動車産業の動向は、他の産業への影響が大きいので、ぜひ自動車メーカー各社はイノベーションを心がけ、新しいモータリゼーションの大波を創りだすことに期待したい。やはり、モーターショーは、若者が押し寄せ、お祭り騒ぎのような状態になっている姿が似合っている。

カテゴリー : 一般

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2015.10/28 微粒子の分散

高分子へ微粒子を分散するには技術が必要である。特に超微粒子になるとその必要な技術レベルは格段に高くなる。例えば、混練プロセスで分散するときには、その濃度が高くなるにつれ、指数関数的に難しくなる。
 
微粒子の分散を促すためにその表面処理を行うアイデアは古くから検討されてきた。その結果、各種カップリング剤が市販されている。しかし、微粒子の表面処理に成功しても、20vol%を過ぎたあたりからクラスターを作りやすくなる。
 
ゆえに20vol%以上添加する場合には、プロセシングによる分散制御技術が重要になってくる。これをカップリング剤あるいは何らかの界面活性剤等の技術だけで行おうとするとうまくゆかないケースが多い。
 
高分子へ微粒子を分散するときに、ラテックスを使用するのはよいアイデアだが、コストが高くなる問題がある。しかし、設計した部材によってはコストよりも性能を重視する必要からラテックスを使用するケースもある。
 
この場合、コロイド科学の知識があれば混練よりも技術的難易度は少し下がる。さらに実践知もあれば、50vol%程度までクラスターの生成を抑えた分散に成功できる可能性が出てくる。
 
いずれにしても微粒子を高分子に分散しようとするときには、科学の形式知だけでは難易度は高く、開発を始める前に予備実験を行い実践知を蓄える必要がある。微粒子の濃度やその他の状態によっては、開発不可能な場合や実践知と暗黙知によるトリッキーなアイデアで簡単に成功してしまう場合などさまざまである。
   

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.10/27 知識労働者の時代

昨日のレジ担当を知識労働者として扱ったことに違和感を持っている人がいるかもしれないが、今世間を騒がせているマンションの基礎の「杭打ち作業」さえも知識労働として捉える必要があった、と指摘すれば、知識労働というものが、単純な高い専門性を要求される仕事だけでないことに納得していただけるのではないか。
 
アルビントフラーが指摘した「第4の波」は、過去の肉体労働を機械で置き換えるだけでなく、新たな知識労働を生み出した。すなわち、機械ではできない、あるいは機械で置き換えるとコストがかかる,人間にしかできない仕事を創りだしたのである。
 
また、過去において肉体労働として誤解されていた知識労働も存在し、第4の波は、それらの労働も知識労働であることをクリアにした。例えば職人の仕事はその例の一つであり、機械で置き換えることが可能な仕事は機械で置き換えられ、そうでない仕事は今も残っており、それらは知識労働として認められ保護し未来まで暗黙知を伝承しようと検討されている。
 
先進諸国では、ホワイトカラーの合理化が進められ、知識労働の仕事がかなり減少したが、過去において肉体労働として見られた分野について、知識労働としての見直しが進んでいない。その結果発生したのが旭化成の子会社で起きた杭打ち作業における不正問題である。
 
杭打ち作業をマンションの品質を高めるために要求される、「知識が必要な仕事」として考えていなかったために、作業者に対して十分な研修を行っていなかったばかりか、親会社役員の口からいい加減な作業者と語らせるような人材配置になっていた。
 
故ドラッカーがすでに指摘したように、現代の仕事は知識が必要なので、それに携わる人は皆知識労働者なのである。職人には暗黙知が重要で、レジ担当はその店独自のソフトウエア―に裏付けられた研修で教育されなければ売り上げ増加につながらない。杭打ち作業者には、その作業についてマンションの品質に与える影響を知識として身につくように十分に教育しなければいけなかった。
 

カテゴリー : 一般

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2015.10/26 正規雇用と非正規雇用

この数年表題の話題が多い。24日土曜日夜には、NHKスペシャルでその討論会が行われていた。小泉政権時代の負の遺産とか言う人もいるが、働き方の多様性を広げるためと、どこまでも高くなる人件費削減のために必要な改革だった。後者に着目すると暗い改革に写るが、前者に着眼すれば夢のある改革となる。NHKスペシャルでは限定正社員なる制度も紹介された。
 
NHKスペシャルの討論会でもそうであったが、労働者の意識が40年以上前と変わっていない点は大きな問題である。すなわち、昇進や出世、あるいは正社員になることにとらわれすぎている。
 
重要なのは知識労働者が貢献するために自分は何をすべきか考え自己実現に努力することである。わかりやすく言えば、自分がどのような知識やスキルで貢献できるかをよく考えることが重要である。
 
かつては会社が研修を通じて社員の能力やスキル向上のサービスをしてくれたが、終身雇用が崩れたので自分の能力は自分で磨かなければいけない時代になった。その磨くべき方向は、競争相手が少ない方向で社会に価値を提供し貢献できる能力(注1)である。
 
誰でも安直に身につけられる資格をとってみても、それがすぐに実を結ばないのは当たり前である。学位はとうの昔に価値が無くなったが、いまや一部の資格を除き、それが雇用を約束するものではなくなった。
 
さらに知識労働者は受け身ではだめで、積極的に自ら職探しを行わなければいけないが、今日本で一番の問題は、その仕事が少なくなったことである。かつての知識労働者の仕事の大半は、バブル崩壊後のホワイトカラーの合理化、すなわちコンピュータに取って代わられたのである。
 
さきの討論会で提案されなかったが、知識労働者に要求される仕事を社会が創出するための努力が必要で、それは各企業の定年を迎えようとしている運よく「出世できたサラリーマン」に課せられた義務ではないかと思っている。
 
定年後再雇用の制度のある会社は多いが、出世したサラリーマン、とりわけ役員までなられた方々は、それだけの能力があるのだから、また退職金も多くもらえるのだから、是非仕事創出のため起業して欲しい。
 
今の日本に一番必要なのは、知識集約型の仕事であり、出世できた有能なサラリーマンが、その能力を発揮し仕事と新たなコミュニティーを創出すれば、表題の問題は解決してゆくと思われる(注2)。既存の企業の努力だけでは、新たな仕事創出に限界がある。
 
(注1)NHKの番組では、レジ担当を非正規雇用から正規雇用へ転換する動きを紹介していた。レジ担当はスーパーマーケットの顔であり、お客とのインターフェースの役割がある。すなわち人と人の高いコミュニケーション能力と好感度の高い印象を与える動作が要求される知識労働の仕事で、これを単純労働としてとらえ、非正規雇用としていてはお客を増やすことはできない、と考える経営者が増えてきたためである。
(注2)問題のとらえ方として、非正規雇用の賃金の低さが指摘されているが、仕事が多くあり労働力不足になれば、賃金は増えるはずである。労働力不足になれば、安定な労働力を確保するために、魅力的なコミュニティーを形成しようとする努力が社会に生まれる。今社会に要求されている価値を生み出す仕事が圧倒的に不足しているのである。

カテゴリー : 一般

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