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2015.10/24 高分子の難燃化技術(4)

高分子の難燃化技術で最も難しい点は、生産技術によりその性能が左右される場合があるところだ。実験室で技術開発に成功しても量産過程でそれが再現しない、ということがある。タグチメソッドを用いても、制御因子や誤差因子がうまく選ばれなければ、痛い目にあう。
 
特にフィラーを添加していると、ローソク現象も加わり、現場で手直しが難しい場合がある。難燃化技術開発になれてくると、量産時に備えた実験計画を立てることができるようになる。しかし、それでも量産設備の制約から研究時の性能を再現できず、あわてることになる。
 
樹脂の製造に用いられる二軸混練機は、L/Dやそれに対応したスクリューセグメントの組み方が重要になってくるが、現場で使用されている二軸混練機の大半は、L/Dが50以下である。これが50以上あっても恐らく満足な結果は得られないかもしれないが、50以上になってくると樹脂によっては、プロセスによるダメージを心配しなくてはいけない場合も出てくる。
 
すなわち、高分子の難燃化技術では、難燃剤の分散をどのように均一にあるいは不均一に行うのかが重要である。不均一の制御は難しいが、均一ならば二軸混練機の吐出口にカオス混合装置を取り付けると実現できる。
 
以前面白い体験をしたが、UL94-V2合格品の市販PC/ABSをカオス混合装置で処理したところ性能が上がりV0になったのでびっくりした。難燃剤を分析したところリン酸エステル系の化合物が検出されて納得ができた。
 
30年以上前、軟質ポリウレタンフォームで実験をした時の経験知があり、現象の理解は容易だった。しかし、分散状態で難燃性能が大きく変わるという現象は、分散状態の数値化が難しいこともあり、科学的にうまく実証されていない。
 
 

カテゴリー : 高分子

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2015.10/23 旭化成の子会社の不正

旭化成建材と親会社の旭化成は昨日の夕方、記者会見で過去11年間に旭化成建材が行った杭(くい)打ち工事は全国で3040件で、このうち41件に横浜のマンションの杭打ちを担当した現場代理人が関わっていたと発表した。
 
記者会見では不正が手の込んだものであり調査に時間がかかるとの見通しを述べたが、ニュースで報じられた限りでは41件以外についてどうするのか明言を避けていた。
 
これは推定になるが、今回の事件が起きた背景として杭打ち作業についてトラブルが発生した場合に、どのように対応すべきかの行動指針が明確でなかった可能性がある。すなわち、杭打ち作業のトラブルは必ず工事のやり直しを行う、という手順が徹底されておれば、発生しなかったと思う(注)。
 
さらにその工事のやり直しで工事期間が遅延するのは了解事項にしてあれば、今回の不正を防止できたものと思う。すなわち、杭打ちエラーは、初期段階で対応しなければ費用がかかるとの視点で、現場の行動指針を徹底するのである。
 
これが工期優先、コスト優先の行動指針になっていると、今回のような不正は再発する。事件が発生した時に性善説で運営されているというコメントがあったが、問題点のとらえ方が異なると思う。これは現場の作業手順書にエラー回避の配慮が不足していたのである。杭打ちデータを揃えておくことが単なる作業手順の一つとして簡単に処理されていたのではなかろうか。
 
その後に与える影響まで知識として作業者に知らされ、エラー回避する方向で作業手順が作成されておれば、問題は起きなかった。エラーがさらに大きなエラーの連鎖を生む可能性がある場合に、エラー回避に努めることが作業者のメリットになるよう作業手順が組まれておれば、作業者は必ずその手順に従い、うっかりミス以外を防ぐことが可能となる。
 
作業のエラーが重大な事態を招くような場合に、コストダウン重視の手順を徹底すると結果として大きな損失を招くものである。すなわち作業手順について冗長性やエラーが起きた時にそれを報告する行動が有利に働く手順にすることが大切なのである。
 
例えば車のリコールが多発していることがニュースになったりするが、これはリコールしなかった時のペナルティーが大きいので各社リコールするのである。このリコール制度があるにもかかわらず、三菱自動車はリコール隠しを昔行っていたが、これは明確な悪意として罰せられた。その後リコール隠しは再発していない。
 
(注)QC手法にFMEAという方法がある。これは作業工程や部品、材料までさかのぼりエラーが発生したときに製品にどのような影響が出るのかを予測する品質管理手法である。日本でQCを導入しているあるいはISO9001を取得している企業ならば皆実施しているはずである。杭打ち作業は、ニュースで報じられている状況からFMEAを行うとそこで発生するエラーの大半は重大エラーになるはずで、必ずエラー防止の対策を行うことになる。一流企業ならばこの手法を理解しているはずで「性善説で」という寝ぼけた発言は出ないはずだ。当然こうした手法の全社への導入は、経営者の責任となる。また、これは技術経営として重要なことだ。
  
 
 
 

カテゴリー : 一般

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2015.10/22 高分子の難燃化技術(3)

ホスファゼンおよびその多数の誘導体は高分子の難燃剤として1960年代から期待されていた。しかし、その事業化に成功したのは1970年代に入ってからで、今はブリヂストンの子会社となったファイアーストーン社から販売された耐熱ゴムが最初の商品で、宇宙船ジェミニに採用された。
 
その後世界で事業化に乗り出す企業が多数現れ、1980年代には10000円/kgの商品も現れた。修士論文も提出し、就職まで1ケ月近く暇だったので、ホスファゼン誘導体を数種類、また当時としては世界で初めての環鎖状型高分子を1種類合成して論文とショートコミュニケーションを書いた。
 
ご褒美として、自分で昇華精製したホスファゼンを1000g試験管に封管して頂いた。これが一年後ゴム会社で役立った。軟質ポリウレタン難燃化技術の企画事例としてホスファゼン変性ポリウレタン発泡体を開発できたのだ。以前この活動報告で始末書騒ぎになった顛末を書いた。
 
紆余曲折はあったが、この開発成果は高分子学会でも報告でき論文としてまとめることができた。まだ、企業の研究所は、そのような時代だった。その後この技術は、電気粘性流体のオイルやリチウムイオン電池の電解質用難燃剤としてゴム会社で発展するが、とにかく高価だった。
 
昔は日本で10社以上、世界で4社(?)程度ホスファゼンの事業に名乗りを上げていたが、今は日本で3社、世界で2社程度になった。事業を行っている会社は少なくなったが、難燃剤としての魅力は衰えていない。未だに特許でさまざまな技術が公開されている。
 
ホスファゼンを難燃剤として用いたときに現れる魅力は、リン酸エステル系難燃剤と比較にならない。ただ、化合物としていわゆる”ホスファゼンオタク”にしかわからない姿もあるので、関心のある方は弊社にお尋ねください。日本では大塚化学が30年以上前から頑張って事業を続けており、供給の問題も解決し価格も下がり、利用しやすくなった。
   

カテゴリー : 高分子

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2015.10/21 安倍首相の米ブルームバーグ本社の講演

 安倍首相は9月29日、米ブルームバーグ本社で講演し、「一にも二にも三にも、私にとって最大のチャレンジは経済、経済、経済だ」と述べたことに対する室井佑月氏の批判がYAHOOニュースに出ていた。
 
彼女の批評では、「経済、経済、経済」を「金、金、金」と捉えていた。一昔前の短絡的な意味であれば、それは正しいかもしれない。しかし、今日的な「経済」の意味には、「金」以外の要素が深く関わるようになった。
 
すなわち、現代において「経済」という言葉は、「金」という一つの因子で支配されない多因子用語だ。首相の講演内容の全文が紹介されていないので真意は不明だが、講演場所及びその対象者を考慮すると今日的な経済の意味の言葉を使っているはずであり、低次元の「金」という一因子的意味ではないだろう(もしこの推定がはずれたならば彼女が言うように恥ずかしい)。
 
故ドラッカーの言葉を借りれば、経済はもっとすごい表現になる。すなわち「社会が経済を支配するようになった」。この表現において、もう「経済=お金」ではないのである。
 
彼女の批評は、町の「おばさん」感覚的発言が多く大変わかりやすいが、その役割を活用して、「経済」の今日的意味を大衆に説明すべきだろう。経済の意味が単なる金儲けの話ではないことは、起業の今日的意味を考えれば明らかである。
 
これもドラッカーの請け売りになるが、それは「個人の能力を社会の貢献に活用できる機能を備えた組織を作ること」という意味である。20世紀末からNPOの起業が増えてきたが、これは非営利でお金儲けを目的とした組織ではなく、社会に有用なサービスを提供することにより、経済を活性化させてゆく。
 
知価社会において、知識はお金に換えることができるが、お金では買えない知識も存在することを知れば、「経済、経済、経済」がお金の連呼ではないことを理解できるのではないか。
     

カテゴリー : 一般

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2015.10/20 高分子の難燃化技術(2)

PPSやザイロンなど特殊なエンジニアリングプラスチック以外の大半の有機高分子は可燃性である。例えばPETやPBTなどのポリエステルはLOIは19前後なので空気中でよく燃える。多くのポリエーテル系軟質ポリウレタンはLOIが18.5程度で、ポリエステルよりもよく燃える。そしてこれらの材料は比較的難燃化しにくい高分子でもある。
 
高分子の難燃剤として、一種類だけ用いて効果があるのは、ハロゲン系化合物とリン系化合物だけである。しかし、この一種類で難燃化できる高分子は限られ、大半の高分子は、これらの化合物と他の化合物を組み合わせて難燃化しなければならない。
 
例えば、ハロゲン系化合物と三酸化アンチモンの組み合わせは有名で、特に臭素系化合物と三酸化アンチモンの組み合わせは最強であり、どのような高分子でも難燃化できてしまう。1990年代には大変多くの臭素系化合物が開発された。しかし、21世紀になり環境問題が騒がれるようになると、ノンハロゲン系難燃剤が技術のトレンドになってきた。
 
特に樹脂のリサイクルを考えると、熱分解しにくい難燃化システムが求められる。そこで新たな難燃化システムの開発競争が盛んになってきたが、その技術の中心はリン系化合物を中心とした組み合わせ技術である。
 
リン系化合物と他の化合物との組み合わせシステムについて、30年以上前に当方は燃焼時の熱でガラスを生成するシステムを開発し、ポリウレタンに実装して難燃性ポリウレタンの開発に成功した。この成功後高分子の難燃化をさらに研究したかったが、高純度SiCの事業化へテーマが変わったので中断していた。
 
カオス混合技術は指導社員から頂いた宿題であったが、この高分子難燃化技術は自ら生み出した宿題で、その宿題を完成できる機会を待っていたら、昨年から立て続けに高分子の難燃化技術の相談を受け、リン系化合物を中心とした組み合わせ技術について一つの解答が得られた。
     

カテゴリー : 高分子

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2015.10/19 高分子の難燃化技術(1)

高分子の難燃化技術は、科学として扱いにくい分野である。なぜなら、火災という現象が単純ではないからである。自然現象は複雑だから、それをモデル化して扱うのが科学であり、何を言っているのか、という批判が出てきそうだが、そのモデル化が難しいのである。
 
例えば燃焼は急激に進行する酸化反応である、と教科書には書かれている。単純に急激に進行する酸化反応をモデル化し、燃焼のしやすさを数値化したのが極限酸素指数法(LOI)で、1960年代にその原理は登場している。JIS化は1980年に入ってからである。しかし、このLOIは高分子の燃焼のしやすさの指標として一応使用可能だが、実火災を前提としたときには役に立たないケースが多い。
 
ちなみにLOIとは、試料が燃焼を続けるために必要な酸素濃度を指数化したもので、空気をLOIで表現すると21となる。ゆえにLOIが21を越える高分子は、空気中で燃焼を続けることができない(自己消火性を有するという)、と言いたいのだが、「いつでも」成立する真理ではない。雰囲気温度やサンプル温度も室温という条件の時成立(注)するだけである。
 
すなわち、小さなサンプルでLOIが21と計測されても、空気中で同じ材料の大きな物体に大きな火源で火をつければ、ばんばん燃える。LOIは、決められたサンプルの大きさと火源、管理された測定雰囲気だけで成り立つ指標である。だから、例えば電気製品の通常使用の状態における難燃性の指標には不適である。こちらにはUL94-V試験というのが適している。
 
以前新幹線で自殺者が原因で初めての火災があったが、鉄道用の難燃試験では、あのような状況を想定していなかったので、車内は丸焦げ状態になった。飛行機では航空機用の厳しい試験法があり、あのような事件が起きても、シートが燃えないので火を消すことが可能となる。そもそも大量の可燃性液体を飛行機内に持ち込めないので類似事件の心配はないが、飛行機のシートと鉄道車両のシートでは難燃基準が異なるので、飛行機で同じ状況になっても火を消すことが可能となる。
 
LOIに関して、その測定値については多くの燃焼試験の中で比較的科学的に得られ繰り返し再現性も高い。また、その測定値の考察において他の科学的な分析データと同様に扱え科学的論文を書くには便利な試験法である。しかし実火災に適用する場合には、それぞれの業界が作成した燃焼試験法が使用される。
 
(注)サンプルに着火して燃焼すると、サンプルも雰囲気も温度が上がる。ゆえに、LOIの測定では常にフレッシュな酸素と窒素の混合気体を流しながら行い、雰囲気温度を上げないようにしている。しかし、それでも測定時に注意をしないと、雰囲気温度が高くなる。あらかじめ、ローソクの炎よりも小さくちょろちょろと燃え続ける条件を求めてから、酸素濃度を0.5さげてやる(酸素が少なくなる)と着火してもすぐに火が消えるか、着火しなくなる。その後、酸素濃度を0.2上げてやると同様の現象となるか、あるいは、ちょろちょろと燃え続けるようになる。次に再度0.1下げて、火が消えるかどうか確認してLOIを決定する。結構面倒な測定方法で、フィラーが入ってくるとサンプルのばらつきも加わり難しくなる。
    

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2015.10/18 旭化成子会社杭打ち偽装問題

傾いていることが発覚した横浜市都筑区のマンションは、施工時にくいの一部が固い地盤(支持層)まで届いていなかった上、検査データの改ざんだけでなく、16日にはコンクリート量に関するデータの改ざんも明らかになった。
 
建物の基礎になる重要な工事だけに、専門家は「理解しがたい」と言っている。また、一度建ってしまえば、不具合が出るまで見抜くことは困難で「犯罪に近い」との声も上がっているそうだが、意識してやっていたなら、これは犯罪である。
 
現在調査中のマンションで同様の不正が無いことを祈るだけだが、ニュースで報じられた内容を聞く限り、現場で勝手に判断して(その瞬間は悪意は無く)作業を進めた結果ではないか、と想像している。
 
20年近く前の話だが、問題行動をとる部下がいた。一番大きな問題は、自分の問題行動を問題と思っていないことだった。今やドラッカーが言うように知識労働者の時代であり、これは知識労働者ゆえに発生した問題である。
 
直属の上司は、その問題に気がついていて、日々コーチングで優しく対応していた。ただ、彼の場合には、雷こそ必要だったのだ。三度ほど当方は、直属の上司を前にして本人に直接雷を落とした。三度落とした結果、行動の前によく考えるようになり、問題行動は少なくなった。
 
問題行動について幾つか書くと本人を特定するようなことになるので、もう痕跡の無くなった建物で起きた事件について説明する。その建物は古い実験室だったが、特殊な実験装置があり、建物を壊す時に移転予定の条件付きで、安全維持のため随所に通行止めの張り紙と縄を張り使用していた。
 
ただ、昔使用していた実験室なので、通行止めの目印の向こうには、使用可能な工具などが放置されていた。彼はその実験室で実験をしようとしたときに、たまたま必要な工具を忘れ、通行止めの張り紙の向こうにある使えそうな工具を見つけた。幸いなことに誰も見ていない。急いで通行止めの縄をまたいで、工具を取りに行こうとしたら、それに足が引っかかり転倒し骨折した。
 
業務中の事故なので社内の安全委員会で当方が報告することになったのだが、彼に説明を求めたところ悪びれることなく、急いで実験を進めようと思い、近くの工具を取りに行こうとして骨折した、と説明してきた。当方はその実験室の状況を理解していたので、報告が終わるやいなや雷を落とした。「なぜ通行止めの縄を超えたことを報告しないのだ!」
 
横にいた直属の上司は、すぐに彼をかばった。しかし、当方は安全委員会で正直に間の抜けた事実の報告をする、と静かに伝えた。彼は心配して、「通行止めの縄を張ったことが、安全上問題になりませんか?」と尋ねてきた。何が問題なのか分からない、あるいは正しく問題を捉えることができない知識労働者が増えているのかもしれない。
    

カテゴリー : 一般

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2015.10/17 昨日のNHK「あさイチ」情報が熱い

昨日のNHK「あさイチ」でIoTを取りあげていた。そこで紹介されたのが、自動洗濯物たたみ機。さすが主婦にターゲットを絞った番組である。サラリーマンの定年退職で大きく変わったライフスタイルで一番のメリットは、朝9時まで「あさイチ」を見られるようになったこと。
 
主婦が何を考えているのか、この番組を見ているとよく分かる。現役世代の男性諸氏は、録画してでも見るだけの価値があり大変勉強になる。たまに夜の番組と見まがう時もありますが、ある意味NHKらしくない番組でおもしろい。
 
さて、主婦の労働を軽減する可能性が高いこの装置の能力は、未だ実用レベルではなくTシャツを折りたたむのに3分以上かかったり、どのような洗濯物でも折りたためるわけではない。しかし、それでは商品として成立しないのでは、と今の時代、考えてはいけないのである。IoT時代とは、このような中途半端な商品でも市場に出せてしまうすごい変化がおきる時代だ。
 
ここで、中途半端な商品では売れないのでは、という疑問を持つような従来のパラダイムでしか考えられない人は、もう少し産業革命が起こりつつある現代の技術を勉強した方が良い。アジャイル開発とIoTの組み合わせというスタイルが企業にとっても消費者にとっても過去のパラダイムでは想像できなかったメリットのある商品を生み出す。
 
昨日紹介された自動洗濯物たたみ機がそこまでのポテンシャルがあるかどうか、その装置を生み出したメーカーの技術力が分からないのでコメントが難しいのだが、小生は、メーカーとユーザーが市場で行う価値の共創の観点で、その装置のポテンシャルを感じた。
 
残念ながら「あさイチ」は技術番組ではなく、あくまで主婦向けの番組だったので、Tシャツを折りたたむシーンだけで終わってしまったのだが、もう少しその場にいた担当者の深い説明を聞きたかった。当方と同じようなアイデアを持っていたのかどうか、関心がある。
 
今IoTにより引き起こされる産業革命が騒がれているが、ユーザーメリットを生み出すイノベーションについて、従来のパラダイムと異なると一目で理解できる具体的な姿が見えてこない。それは、パラダイムの理解そのものが企業機密になるからだ。書籍に書かれたパラダイムに関する抽象的な説明を具体化できない企業は弊社にご相談ください。
   

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2015.10/16 東洋タイヤと旭化成子会社の不正問題

東洋タイヤで免震ゴムに続き防振ゴムの不正が発覚した。また、旭化成子会社がデータを捏造して建築した横浜のマンションに2cmほどのずれが生じた、と大騒ぎになっている。業界は異なれど日本のモノづくりに、ほころびがみえた事件である。
 
フォルクスワーゲンの事件に驚いたのもつかの間、日本の製造業でも不正が連発している。東洋タイヤに至っては、難燃断熱材の不正も含めると3例目である。東洋タイヤで興味深いのは、再発防止のためのコンプライアンス研修を受けた社員による内部告発で判明したと伝えられたと思ったら、その社員の所属は、免震ゴムの問題で監査を済ませた部署だった、というニュースが聞こえてきたこと。
 
旭化成子会社の不正では、他の測定データから測定値を推定し記入するという手抜きである。東洋タイヤも旭化成子会社も、その公開された情報から、現場で行われた不正を管理者がチェックできてないために発生しているような構造が見えてくる。すなわち、フォルクスワーゲン社の不正の構造とは少し異なる。
 
仮に、現場の技術者の不正を管理者がチェックできていないために発生した、とした時に、どこに問題があるのか。これは、ゴム会社と写真会社の二つの会社を体験して気がついたことだが、企業により現場に対する管理者の意識が大きく異なっていた点に着目している。
 
ゴム会社では、現場の技術を正しく理解することが管理職に強く求められ、写真会社では現場の人事管理が強く求められていたのである。わかりやすく言えば、課長レベルならばゴム会社では担当者と同等以上の技術の知識が求められたが、写真会社の課長レベルにはそれが強く求められていなかった。
 
写真会社に転職した時に、主任研究員として処遇されたが、自ら志願して一担当者として一か月ずつ様々な現場の作業を手伝った。しかし、同僚から奇異の目で見られたり、センター長からは、当方に期待しているのはそのような仕事ではない、と言われたりした。ゴム会社では信じられない雰囲気だったが、当方は技術部門の管理職としてそれが正しい姿と信じ、半年間、現場に拘った。
 
すなわち、管理者の現場力が低下しているために不正が見抜けない、あるいは、管理者が不正を不正として部下を指導できない状況について、経営者は気がついているだろうか。また、そのような状況を生み出す風土(注)をメーカーとして好ましくないと考えていないのだろうか。コンプライアンスの研修だけでは解決がつかない問題である。
 
(注)二つの会社を経験し、管理職の現場力が低下する原因をほぼ理解できている。ご興味のある方はお問い合わせください。かつてのヒエラルヒーが崩れ、簡素化した組織で重要なのは中間管理職の現場力である。

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2015.10/15 微粒子の表面処理

高分子へ微粒子の分散を向上するためにカップリング剤による微粒子の表面処理は常套手段として行われている。また、カップリング剤の一部については、その反応機構や微粒子表面の反応速度について研究されている。しかし、注意しなければいけないのは、研究報告の内容が技術へそのまま展開できないときがあることだ。
 
すなわちカップリング剤が微粒子表面で反応している、と信じて混練機で微粒子の分散を試みても、うまく微粒子の凝集が改善されない、とか、耐久評価試験をしたときにカップリング剤がブリードアウトしたりする場合がある。
 
また、カップリング剤による微粒子の分散処理方法は、ノウハウになっており、特許に書かれた材料の組み合わせや手順を行ってもうまく再現しない場合もある。特許が間違っているのか、というとそうではなく、手順の一部がノウハウとして隠してあるのだ。
 
それでもカップリング剤による微粒子表面処理技術のリバースエンジニアリングは比較的易しく、試行錯誤で実験を進めてゆけば、そのうちにノウハウが見えてくる。ところが高分子の吸着による微粒子の表面処理技術は、カップリング剤のリバースエンジニアリングよりも難しい。
 
そもそも高分子を微粒子に吸着させて表面処理を行う方法など教科書に書かれていない場合が多い。当方は、その手の教科書の執筆を依頼されると、シリカを凝集しないようにゼラチンに分散した技術を例に、高分子吸着による微粒子の表面処理技術について書くようにしているが、どのように見いだしたか、あるいはどのように評価を進めたかについては詳しく書いていない。
 
それは、微粒子に高分子を吸着させる表面処理技術は、ノウハウの塊であり、実用的な技術は科学で説明がつかないからだ。科学では説明が難しいが、技術はできており、できあがった材料について高分子学会などに報告している。
 
高分子吸着による微粒子表面処理の一番の利点は、高分子を用いているので、吸着していない処理剤がブリードアウトしにくい点である。カップリング剤による場合には、カップリング剤が低分子オリゴマー程度までの大きさしかないので、微粒子に反応せず余っている過剰なカップリング剤がブリードアウトする問題がどうしても残る。
 
先日熱伝導高分子の開発を指導していたときに、微粒子の表面処理を高分子の吸着で行い材料開発に成功したが、湿熱劣化の耐久試験で吸着剤がまったくブリードアウトしなかった。
 

カテゴリー : 高分子

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