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2014.05/13 理研の対応

先週行われた理研の会見を受けてネットには様々な反響が書かれている。また、テレビ報道でもやや的外れな意見が述べられたりしており、今回の問題が一般には誤解されやすい事件であると思われる。例えば科学的検証を行うに当たって小保方氏をメンバーから外している点について。

 

この点について小保方氏がかわいそうだ、という意見があるが、それは科学的検証を厳密に行う、という視点から的外れの意見である。また今回の騒動の原因は小保方氏の科学者として未熟な行動とそれを許した理研の体制にある。そして、STAP細胞は誰の成果か、と問われれば、科学的な成果は未だ得られていないので、誰の成果でもない。

 

もしこの段階で理研以外の研究チームが再現性よくSTAP細胞を作ることができ、その科学的証明を完璧に行ったなら、その研究チームの成果となる。これが科学の世界の厳しい掟である。税金で運営されている理研としては、まず理研で科学的成果を出すことが最重要課題となってしまったのである。それでは小保方氏が報われないのでは、という意見が出てくるかもしれないが、それに関しては、技術的成果の評価を受けるチャンスが残っている。

 

技術的成果は特許でその権利が守られる。このあたりは理研も十分に配慮し、論文の取り下げを行っても特許の取り下げまで行っていない。ただ、この特許に対して理研がどこまで配慮しているのかについては、企業で厳しい特許戦争を経験してきた立場から疑問が出てくる。すなわちこれまでの会見内容からインチキ基本特許を出願できる状況を作ってしまったのだ。

 

例えばSTAP細胞について全く素人の当方でも、現在理研が出願しているであろう特許内容と、それを踏まえた上で理研の特許と差し違え、新たな権利範囲でSTAP細胞の技術を権利化できる特許を書くことができるのである。もし小保方氏が力量のある研究者であれば、このリスクに気がつき、すぐに対策を打つ行動をするはずである。

 

裁判の戦略を考えるよりも技術の権利についてそれを守り切る戦術を実行することの方が大切である。当方が同じ状況に遭遇したならばその様に行動するし、類似の状況では会社に迷惑をかけないことをまず配慮してきた。STAP細胞の特許の権利については、一個人の権利というよりも国家の利益の観点からも無視できない。

 

有効な戦術をとらなければ現在出願されているであろう特許でSTAP細胞の個人の権利を守りきれないだけでなく、出願人としての国の権利も守られず税金の無駄遣いとなってしまう。小保方氏がもし研究者としての権利を主張するのであれば、それを守り切る行動を取って頂きたい。自分の権利を守りきる特許群を出願すること、それが彼女の現在とるべき行動であり、それが自分の権利を守ることにもつながるのである。その行動を取れないならば研究者としてSTAP細胞の発見者という資格は無い。腐ったり悩んだりするヒマなど無く、特許出願の行動を取るべきで、ご相談頂ければいつでもアドバイスいたします。

 

カテゴリー : 一般

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2014.05/12 フローリー・ハギンズ理論(7)

フローリー・ハギンズ理論(FH理論)は、高分子のモノマーに着目すると低分子の正則溶液に関する考え方と大差ない。だからSP値と相関してもおかしくない。しかし実際の高分子の混合では、高分子特有の「一本のヒモである」分子構造の形が影響するはずである。あるいはスター型や枝分かれした複雑な分子構造の相溶であれば単純にモノマー構造だけで考察しているFH理論とズレが生じるはずである。

 

そのためFH理論の拡張あるいは改良を目的とした研究も行われているが、今ひとつ決定打が無いために、相溶の説明のために一般の教科書ではFH理論が書かれている。確かにFH理論は初学者には理解しやすい考え方であるが、現象に合っていない部分が多いため、単純な考え方でうまく説明されると時として現象を見誤る場合やアイデアを生み出す障害になったりする。

 

例えばSTAP細胞の騒動はその例で、植物細胞ではSTAP現象が生じるが動物の細胞ではSTAP現象が生じない、というのが30年近く定説になっていた。それに対して、生物学について科学に対する意識は低いがやる気満々の研究者がSTAP現象を発見し、理研が揺れ動いている。おそらくハーバード大で実験を行った人物が優秀な研究者であったならSTAP現象を見落としていたに違いない。

 

学位論文の20ページ前後を平気でコピペして仕上げるちゃっかり者の研究者(注1)であったためにそのおかしさに気がつき発見に至り今回の大騒ぎになっている。知識が少ない、ということは先入観にとらわれる危険性が低いことを意味する。

 

当方もFH理論を疑問に感じたのは、ゴム会社に入って樹脂補強ゴムの研究を始めたばかりのかけだしで、専門知識の乏しいときである(注2)。FH理論を疑っていることについて周囲は冷淡であった。馬鹿にする人もいた。唯一指導社員だけは良き理解者で、カオス混合という概念を教えてくれた。但し、「連続生産で誰も実現できていない方法だが君ならできる」とどのように理解したら良いのか分からない激励の言葉が添えられていた。しかし、この言葉を素直に捉えてFH理論が研究開発に重要となる機会がある度にアイデアを考えてきた。

 

リアクティブブレンドによる半導体用高純度SiCの前駆体高分子の開発や、ポリオレフィンとポリスチレン系TPEとの相溶実験、そしてPPSと6ナイロンの相溶を実現するプロセス開発は、知識の乏しいときに素直に疑問に思って出てきたアイデアを32年間忘れずに実験してきた成果である。素人でも真摯に努力を続け年を重ねるとそれなりの成果を出せる。

 

(注1)もっともそのような学位論文に対して平気で学位授与する大学は大問題だが、このような問題は昔から放置されている。ゆえに博士であっても研究開発を満足にできない人が社会に出てきている。

(注2)科学に対する大卒レベルの知識はあった。卒業論文でさえも他人の論文のコピペは悪いことだという意識から実験ノートの書き方の常識だけでなく武谷三男氏やマッハ、湯川秀樹氏の著作物なども読んでいた。

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.05/11 フローリー・ハギンズ理論(6)

科学では真理を明らかにすることが重要なゴールになるが、技術では機能実現の方法をさぐることがその使命になる。フローリー・ハギンズ理論から非相溶系となる高分子の組み合わせでもその相溶状態で得られる物性を機能として用いたいときには、その方法を幾つか用意しようとする行為は科学的にナンセンスでも技術的には意味のあることである。

 

32年間いろいろ考えてきたが、高分子の専門家が誰でも思いつくのが、相溶化剤を用いる方法で、これはすでに各種ポリマーアロイの開発に多く用いられている。相溶化剤を用いないという条件では、リアクティブブレンドが唯一の科学的にも成立する方法である。しかし、これは反応条件を選ぶことができるのかどうか、あるいは反応サイトが必要だという制約があり、汎用的ではない。

 

ここで相溶化剤を用いる方法があるので、それで機能実現するには十分と言われるかもしれないが、相溶化剤を使用できない場合も技術の現場には存在する。例えばもう過去の遺物となったが、ハロゲン化銀を用いる感材では、乳剤層に悪影響を与えない材料以外用いることができない。あるいは感材以外の他の領域全てに共通な例として特殊なケースとなるが、技術の分かっていない担当者が適当に考えた材料を設計段階で採用し、その仕事を製品化間際で引き継いだときなど新たな配合設計をすることができない、という状況になる。

 

そのほかに知財の制約、力学物性の制約、高次構造を相溶化剤を使用したときよりも小さくしたいなど相溶化剤を使用できないケースは意外に少なからず存在する。ゆえに非相溶系の高分子の組み合わせでも相溶系に近い状態で使用できる技術手段を用意しておくことは意味がある。

 

ラテックス状態で混合する方法は、コストがかかるが汎用的方法と言える。特に表面処理工程では有効な方法である。相溶化剤は時としてブリードアウトの原因物質になることもあるが、ラテックス状態で混合し作成された単膜のブリードアウトテストでは、せいぜい界面活性剤が出てくるくらいである。

 

但し、ラテックスで混合された材料を一般の混練機で混練してはいけない。高次構造が大きく成長することがあるからだ。高次構造のサイズが大きくなると材料物性に影響が出る。高次構造のサイズを小さくできる混練方法はカオス混合である。カオス混合を用いると極めてサイズの小さい高次構造を作り出すことができる。組み合わせによっては相溶状態を創り出すことも可能だ。

 

あとは特殊な方法だが、分子の立体構造に着目し、錠と鍵の関係になるような高分子の組み合わせを探るという面白いアイデアがあるが、時間や精神的余裕のあるとき以外では行わない方が良い。このアイデアの応用として分子のエントロピーに着目したプロセシング、カオス混合が高次構造を小さくする目的で使用でき、分子の緩和時間が長ければTg以下へ急速冷却することで相溶状態を維持した材料を創り出すことができる。

 

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.05/10 フローリー・ハギンズ理論(5)

リアクティブブレンドでは、反応条件さえ工夫すればχが大きなどのようなブレンド系でも相溶させることが可能である。また、バルキーな側鎖基を有するポリオレフィンにポリスチレン系TPEを相溶させる方法からエントロピーの寄与を確信し、そのヒントと過去の経験から新たなカオス混合装置を開発した。

 

この装置を用いると混合時のエントロピーをプロセスの中で下げることにより相溶を進行させることが可能と推定しており、緩和速度が遅い高分子の系ではTg以下に急速に冷却してやると室温で相溶状態を維持できる。

 

それでは非相溶系を均一に相溶させる方法は他に無いのか、とラテックスで検討してみた。モノマー構造でSP値が離れている組み合わせでコポリマーのラテックスを合成すると一応リアクティブプロセシングなので均一な構造のポリマーが得られる。条件によってはコアシェルのようなラテックスもできたりする。

 

それぞれのホモポリマーでラテックスを合成してそれを混合したらどうなるか。この実験ではコロイド化学の知識が少し要求されるが、安定な塗布液が得られたとして話を進める。この混合溶液で単膜を作成し強度測定を行うと、コポリマーの場合と同様に弾性率の高い方のラテックスが増加すると単膜の弾性率も上昇する。

 

5wt%前後ではコポリマーのほうが弾性率が高いが、10wt%程度ではほぼ同じ弾性率になる。但し、コポリマーに比較するとややヘイズが高い。得られた単膜の高次構造を調べてみると50nm前後の二種類の球を分散してできたような高次構造が観察される。この高次構造からコポリマーに比較してややヘイズが高いのもうなずける。

 

一応力学物性については、混練で得られる場合に比較し、相溶状態に近い物性となっている。また、光学物性についても10枚重ねで測定されたヘイズ値に差が見られる程度なので分野によっては使用可能な材料と推定した。完全な相溶系ではないが、二種類のポリマーが相溶したときに期待される物性を技術的に得る方法としてラテックスによる混合は一つの手段と思われる。

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.05/09 理研の会見

昨日STAP細胞の論文について理研とその調査委員会の会見が生で報道された。専門性の高い内容にもかかわらず、一般会見が頻繁に行われている面白い事件だ。学位論文の20ページ以上を他人が書いた内容でごまかす科学を理解していない未熟な研究者が本来その役目をこなす能力が無いのに抜擢され、そのような抜擢を行ってしまうような管理能力の無い研究者集団の中で起こした事件について、これほど丁寧に記者会見を行っている例はこれまでないのではないか。

 

科学について詳しい方であれば、今回の事件は、一部の大学で行われている学位の適当な審査も含めいろいろな「些細なこと」と思われる不祥事が偶然積み重なった事件であると理解されているのでは。科学論文が「科学の真理」を追究するために厳格な倫理を守らなければいけない、と言われていても倫理的に問題のあることが日常平然と行われてきた結果である。

 

学位についていい加減な審査を行っている大学のあることは、審査された学位論文を読めばわかる。またその学位でも審査する先生が審査料とは別にお金を要求してくることもあるのだ。これは当方も国立大で学位を取得しようとして経験した事実である(注)。しかし、こうした問題はあまり事件として大きく扱われずそのまま隠れてしまっていた。

 

科学とは真理の追究で成立する世界である。また専門性が高くなればなるほどその道の研究者でなければその真理を判断できなくなるので性善説が前提となっていた。その世界では未熟も悪となるぐらいの厳密さを維持しなければ真理を明確にできない。

 

しかし、この掟も未熟な学習者に対してゆとり教育はじめ様々な「優しさ」でどこかに隠れてしまったのが現代の科学の世界で、そこで起きたのが今回の事件である。理研の鬼軍曹が「とうとう起きたか」と言われたように事件が起きる環境になっていたのだ。

 

学位論文に他人の書いた文章を引用文献も示さずコピペをしてはいけないのである。まずこれは確実にアウトで自ら学位を返上すべきである。厳格に判断すれば、たとえそれが一般記載であっても許されない。さらに学位論文の画像をその後の新しい研究の成果として用いているのもおかしい。自分で書いていて気がつかない、というのはあり得ないことなのだ。

 

今回の事件は「科学の真理」について厳格さを求めたために起きている。だから裁判でシロクロを出せないはずで、裁判で出せるのは「真理」の追究のために取られた手順に法律の視点で誤りがあったかどうかである。STAP細胞の騒動の科学的結論まで出すことはできない、という当たり前のことを理解しておくことは重要である。そもそも今回の事件で裁判に持ち込もうという発想そのものに疑問があるのだが。

 

(注)学位を取得したい人が申請先の先生からお金を要求された場合にどうするか。黙ってお金を払って学位を取得するのか、それ以外の方法となる。科学の世界では前者を選択してはいけないのだ。前者を選択した場合には永遠にこの問題が公にならない。またお金を払わず学位を諦めた場合には、お金を要求した事実を訴えることができるが裁判までするのかどうか。社会正義の観点ではそのような先生を懲らしめることも重要かもしれない。しかし御指導を受けた先生を訴える、という恩を仇で返す矛盾も生じる。だから問題を避けて国立T大で取得することを辞めて中部大学で学位を取得した。中部大学では学位審査料80,000円だけであった。それでも親身な御指導をいただけ、最後にはしっかりと試験と学位授与式までやってくださった。本当に試験がある、と伺ったときには涙が出てきた。アカデミアの使命を十分理解できる体制であり、学位の取得過程は大変だった。楽をさせようと、お金を要求してきた国立T大の教授の気持ちも幾分理解できた。しかし苦労した思い出はお金で買うことはできない。学位論文の大半は、某ゴム会社の現在でも継続されている事業の基になった高純度SiCに関する内容ですべて日本語で書かれており英文のコピペは無い。

カテゴリー : 一般

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2014.05/08 フローリー・ハギンズ理論(4)

1980年代に樹脂補強ゴムからポリウレタンやフェノール樹脂の難燃化、そして高純度SiCの事業立ち上げ、電気粘性流体の開発、超伝導セラミックスの開発など多種多様な研究開発を手がけたが、フローリー・ハギンズ理論(FH理論)に必ずどこかでお世話になった。

 

実務では低分子溶媒を用いてSP値を測定していたが、高分子を混合したときの状態予測では、教科書に書かれた高分子のスピノ-ダル分解のマンガを見ながら頭に状況を思い描いていた。もしOCTAのSUSHIがあったなら毎回利用していただろう。

 

有機高分子と無機高分子はそのモノマー単位が有機と無機なのでχは大きな値となる。すなわち絶対に相分離して均一に混ざらない組み合わせである。実例を示せばポリエチルシリケートとレゾール型の液状のフェノール樹脂を混合しようとしてもすぐに相分離する。

 

コロイドを撹拌する専用の混合装置を用いても撹拌しているときにも白濁し決して透明にならず、撹拌を止めるとすぐに二相に分離してくる。フェノール樹脂が重いので沈殿するのだ。とても分子レベルで均一になると思えない組み合わせである。しかしここへ両者の反応に共通して用いることが可能な酸触媒を添加すると様子が一変する。

 

撹拌中に相分離していてもその界面で反応が開始し、透明度が上がってくるのだ。ただしこれは最適な触媒が選択されたときだけで、不適切な触媒、例えば片方の反応速度を著しく早め、両者の反応速度差を大きくするような触媒を添加すると、片方のポリマーだけが反応してゲルになり沈殿してくる。

 

例えば硫酸を用いるとポリエチルシリケートの反応速度が速まりシリカが撹拌中に沈殿してくる。トルエンスルフォン酸であれば量を最適化しない場合にはフェノール樹脂のゲル化が進行し、撹拌中にフェノール樹脂のゲルとシリカとポリエチルシリケートに分離し悲しい状態になる。

 

適切な酸触媒を選択してやると、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の界面で反応が進行し、相分離することなく均一のゲルが生成し、このゲルの炭化物を用いてSiC化の反応を行うと均一素反応の取り扱いが可能となりSiC化の反応エネルギーを求めることまでできる(注)。

 

すなわち、リアクティブブレンドは、1980年代にFH理論で相分離すると推定される高分子の組み合わせでも均一に相溶した状態を作ることが可能な唯一の方法であった。これが21世紀になるとリアクティブブレンドでなくても均一に相溶した状態を作ることが可能になり、PPSと6ナイロンが相溶したフィルムを製造できるようになった。材料技術の進歩である。

 

しかし、科学的には不明の部分が多いので科学の進歩ではない。このような場合世間では怪しい技術と捉えるが、STAP細胞と異なり再現性が高い、すなわちロバストの高い技術である。この技術については、退職後の研究成果をもとに来月6日に行われる高分子学会主催のポリマーフロンティア21で報告する。招待講演者として選ばれており1時間お話しさせて頂く。

 

(注)学位論文の一部である。当時2000℃まで計測可能なTGAが無かったので、真空理工(株)のご協力をえて、自ら心臓部分を手作りした。このTGAについては特許を出願したが30年前のことで、楽しい科学者人生最後の頃である。

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.05/07 フローリー・ハギンズ理論(3)

すでに指摘したように教科書に書かれているフローリー・ハギンズ理論(FH理論)は、二次元平面の中に二種類の高分子を仮想的に混合状態にして押し込んだときの自由エネルギー変化を議論している。そして、このモデルではそれぞれの高分子のモノマー構造が重要な意味を持っている。換言すればモノマー構造だけで判断しているに過ぎない。

 

だからSMALLの方法というSP値の計算結果とχパラメーターはうまく相関する。実際の高分子を混合したときには、このモノマー構造以外に鎖状の高分子が取る立体構造にも自由エネルギー変化は影響を受けるはずである。

 

このような仮説で、側鎖基にバルキーな基を持ったポリオレフィン樹脂にポリスチレン系TPEを相溶させる実験を行った。どのようなポリステレン系TPEでも相容するわけではない。ちょうどポリオレフィンの錠に対してカギの関係になるような立体構造のTPEだけが相溶し、透明な状態になる。

 

10年以上前にD社お願いし、様々なポリスチレン系TPEを合成してもらい、この錠と鍵の関係を探す実験を行ったら、うまく16番目に合成されたTPEで透明なポリマーアロイを合成することができた。この実験結果は、モノマー構造だけでなく高分子の立体構造も高分子の相溶に効果があることを示している。

 

余談だがこのポリマーアロイでフィルムを製造すると偏光フィルムとなり、クロスニコルの位置にすると暗くなる。ベンゼン環が複屈折を持つためだが、この詳細の特許出願は成されていない。当時の開発目標とは異なる性質で特許出願ができなかったためである。もしご興味のあるかたは問い合わせて頂きたい。

 

この実験に成功すると、二種類の高分子が混合された状態で圧縮を受けるとどうなるかが興味を持たれる。メカニカルな力で強引に高分子を接触させるぐらいの状態にして、緩和時間以内に両者の高分子のTg以下に冷却すれば相溶した状態を保持できるはずである。

 

このような仮説で実験したのが先日書いたPPSと6ナイロンの相溶化である。これは運良く開発ステージが製品化直前で、PPS/6ナイロン/カーボンの処方を変更してはいけない、という状態でテーマを引き継いだので大手を振って実験ができた。ポリオレフィンとポリスチレン系TPEの時のようにこそこそ実験を行う必要が無かった。

 

 

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.05/06 卓球世界選手権

昨晩日本は中国に完敗で、石垣選手が1ゲーム取っただけであった。この3日間毎晩卓球選手権を楽しみに観ていたが、昨晩はややつまらなかった。選手の目の色が石垣選手以外オランダ戦や香港戦の場合と少し違っていたからだ。

 

特に香港戦における平野選手の逆転劇では鳥肌がたったが、昨晩の平野選手にはそのようなシーンは無く、あっけなく終わった。中国が強すぎたのか?確かにすべて3-0で勝ち上がってきた中国は強いかもしれないが、オランダ戦や香港戦における日本選手の戦いぶりを観ると勝負に臨む意識や姿勢も大きく影響しているように思う。

 

中国戦で石垣選手が唯一1ゲーム取ったときにその様に確信した。世界ランキングが30位以上も異なる相手に対して1ゲーム取るのは大変なはずだ。実力以上の力が働かなければ勝てないだろう。たとえそれが相手の苦手意識だったとしても実力以外の要素である。勝負に勝つためには能力以外の要素を引き寄せる力も必要だと思っている。そのために誠実かつ真摯な日々の努力が必要なのだ。

 

32年間の研究開発経験でも能力を超える現象を何度も見てきたので、その努力の重要性を信じている。例えば半導体用高純度SiCの合成に初めて成功したときには原因不明の電気炉の暴走という事件があった。但し、その暴走のおかげで最適なプロセス条件がたった一回の実験で見つかり、ゴム会社から2億4千万円の先行投資を受けることができた。

 

PPSと6ナイロンを相溶させるプロセシング技術を開発した時においても、運良く押出機の能力で必要な剪断速度が得られる実験環境が目前にあり、試作機を新たに立ち上げなくとも押出機を含むシステムをそのまま試作機として活用できた。また、ポリオレフィンにポリスチレン系TPEを相溶させる実験では、それを担当していた派遣社員のモラールが下がり始めた16番目(注)のTPE合成条件で初めて相溶し透明になるポリマーが見つかった。

 

さらに驚いたのは、昨日の地震である。実は6月6日に高分子学会主催ポリマーフロンティア21が開催され、その招待講演者に選ばれているが、そのために必要な資料が紛失していて、予稿集を書くときに苦労した。退職者の立場で公開されている実験データは重要である。講演までに探さなければいけないが、と悩んでいたら、震度5弱の地震のおかげで資料棚に積み上げてあった資料の一部が崩れ落ち、なんと崩れた資料の一番上に探していた大切な資料が現れたのだ。これにはびっくりした。

 

 

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2014.05/05 フローリー・ハギンズ理論(2)

テルマエロマエ2を観た。前回同様にばかばかしいお話しで無条件に面白かった。現代の温泉からアイデアを拝借し古代ローマの風呂を発明する、という方法は技術における発明の一つのやり方である。毎回平たい顔の部族として日本人が紹介されるが、古代ローマ人を演じているのも日本人の俳優である。同じ日本人でもその顔は立体的に大きく異なるのである。

 

フローリー・ハギンズ理論では、立体的に大きく異なる2種の高分子を、二次元平面の格子の中に押し込んでその自由エネルギー変化を論じている。高分子が平たい形態をとって挙動しているならば、この二次元平面における考察でうまく説明できる。しかし、高分子はその長さ方向にも様々な形をとり、これをコンフォメーションと呼ぶが、そのエントロピー変化はこの理論において無視されている。

 

テルマエロマエでは、時空を越えた古代と現代の往来の表現をオペラの歌声とともに高速の流れとして表している。今回はその流れの表現として水洗便所まで飛び出した。そして太った関取が時空の流れの中で変形せず、詰まってしまう。詰まってしまったのに次のシーンではうまくワープしているのである。ばかばかしい。

 

2種類の混合された高分子の融体を細いスリットに高速で通したらどうなるか。恐らく大きな剪断応力が発生し、分子は長く引き延ばされる。1mm前後の厚みで幅2cmのスリットへPPSと6ナイロンを混合し押し込んだら相溶し透明な樹脂が流れ出してきた。GPCで分子量分布を測定しても特に低分子が増えたというわけではないので、大きな剪断応力がかかっても分子の断裂は起きていない。

 

本来非相溶系の組み合わせがとんでもない領域にワープしたのである。そのままPPSのTg以下へ急冷すれば6ナイロンが相溶した材料ができる。その材料で作られたフィルムはPPS単独の場合に比較し、もの凄く靱性が向上していた。

 

 

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.05/04 フローリー・ハギンズ理論(1)

ポリマーアロイを設計する際によりどころとなるのは、高分子の相溶を扱うフローリー・ハギンズ理論(FH理論)であるが、この理論のモデルは極めて単純で実際のブレンドされた高分子を議論するには不十分である。

 

この理論ではχパラメーターが定義されているが、高分子の立体的な構造の寄与、すなわちスター型とリニア型の差異を議論することができない。また、低分子の混合から導かれるSP値と相関するがこれも高分子の分子量のことを考えると気持ち悪い。

 

実務では、低分子溶媒に高分子を溶解しSP値を求めているので、χパラメーターで議論するよりはSP値で議論していることになる。またFH理論は単純な格子理論から導かれたものであり、高分子のモノマー単位(構成単位)をそれぞれの格子に隙間無く当てはめて考えているので、そのモデルで扱える高分子は限られる。

 

実務で用いている方法に近い研究から高分子のSP値を求める計算方法(Smallの方法)が導かれている。官能基の引力定数表をもとにモノマー構造からSP値を計算するのだが、経験的には60%前後の精度で当てはまるように思われる。

 

かつてラテックスの分子設計ではSmallの方法を用いていたが、40%前後ははずれたために手直しが必要だった。具体的にはPETとゼラチンとの接着層の設計で使用していた。PETのSP値に合うようにラテックスを設計するが、実際に接着力を計測すると、40%前後はほとんど接着しなかった。そのためラテックスのモノマー構成を見直し、再度合成するのだが2-3回の試行でうまく接着できるラテックスが見つかった。

 

これをOCTAのSUSHIを使って検証してみても同じような確率である。SUSHIにしても相溶の判定はSP値を用いているからだが、面白いのは界面幅というパラメーターだ。このパラメーターは、おおよその相溶性のズレを予測する時に使えそうである。

 

カテゴリー : 連載 高分子

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