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2015.12/15 高分子の混合における科学の問題

高分子の混合分散の形式知として、フローリー・ハギンズの理論(以下FH理論)が教科書に書かれている。すなわち高分子の混合分散を科学的に論じる時にはこのFH理論を用いることになるが、FH理論の考え方は科学として正しいかもしれないが、当方の実践知や暗黙知から眺めると、怪しい理論である。
 
フローリーはノーベル賞も受賞されているので、当方のような技術者が彼の理論を論じるにはおこがましさを感じるが、FH理論は、高分子技術の実務のシーンでよくみかける現象やそこに潜む機能を実用化したい時には重要な理論となるので、コンサルティングの時には必ず一言、仮に不遜と思われても、この理論の批判を行うことにしている。
 
理由は、パワー半導体用原料として知られるようになった高純度SiCのポリマーアロイを用いた低コスト合成法やPPS・ナイロン相溶中間転写ベルト、ポリマーアロイ下引き、ポリオレフィンとポリスチレンの相溶したレンズなどの発明を可能にした実践知から見ると、大変不完全な理論だからだ。
 
換言すればFH理論を批判的に見てきたので、これらの機能を実現できた、といったほうが適切かもしれないし、科学にとらわれない技術開発の重要性を説明する時の良い事例になるだろう。
 
今年京都大学からもこのFH理論に疑問を投げかける研究が発表された。それは、植村卓史工学研究科准教授や北川進物質―細胞統合システム拠点教授らのグループが開発した技術である。これは、新たな機能性材料の開発につながる成果で、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズで7月1日に発表されている。
 
FH理論で知られているように、ポリマーは同じ種類同士で集まる性質があり、異なる種類の混合は、ナノ(10億分の1)メートルのレベルでは難しいとされてきた。
 
グループは、微小な穴が無数に開いたジャングルジムのような構造を持つ多孔性金属錯体(PCP)の内部で異なる種類のポリマーをそれぞれ合成した。その後、薬剤を使ってPCPを除去することにより、それらを混合することに成功した。
 
発泡スチロールの原料であるポリスチレンと、アクリル樹脂の原料であるポリメタクリル酸メチルもこの手法を使い、ナノメートルレベルで混合し、耐熱性を上げることができた。他のポリマーの組み合わせにも適用し、片方の材料の耐熱性などを向上させることが期待できるという。
 
アカデミアからもFH理論に反する事例が公開されたように、高分子の混合分散についてFH理論にとらわれ過ぎると新しいアイデアを生み出したいときに障害となる。この分野では、特に科学にとらわれない自由な発想が大切となる。
 
 

カテゴリー : 高分子

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2015.12/14 9-3÷1/3+1

一流企業の技術者の4割が、9-3÷1/3+1という問題に解答できなかった、とネットで話題になっている。2015年度に1部上場の製造業9社に在籍する、主に20代の技術者1226人を対象に実施されたテストの結果から基礎学力の低下を嘆く意見である。
 

企業の技術者の基礎学力低下は、今明らかになった問題ではない。昔から基礎学力の低い人はいた。それが、ゆとり教育世代では多くなって目立ち始めただけだ。しかし、基礎学力が低いから企業で役立たないのかと言うと、サラリーマン技術者の場合には、それでも運が良ければ、出世ができてしまう。
 

また逆に出世した時に専門の学力も含め高すぎると管理職どまりどころか出世そのものができない会社もある。メーカーと言えども基礎学力だけが重視されているのではないのだ。すなわち、その他の能力で会社に貢献できるし、日本の会社では、マージャンやゴルフにつきあう能力を重視したりするところもある。
 
今回の騒ぎの対象である一流企業の技術者は、恐らく偏差値は50以上の大学出身者と思われるので、その他の能力は平均以上備えているはずだ。だから実務をこなすには不自由しない能力を発揮できるので、一流企業では仕事ができるし、運が良ければ役員にもなれる。
 
ゴム会社に入社して、いわゆる基礎学力の低い上司と3年間仕事をした。例えばグラフの書き方の基本を身に着けていないので、グラフを見ただけではその意味を理解できず、必ず部下に説明を聞く。部下に説明を聞いて理解できたのかと言うと、グラフそのものの理解はできてなくて、グラフが表現した結果を理解しているだけだった。このことに気がついたのは、ある経営会議に同席させられた時だ(そもそも入社1年程度の若僧が出席するような場所ではなかったが)。
 
その会議では、うまくプレゼンテーションが終了したので問題はおきなかったのだが、会議終了後、資料に書かれた一次回帰直線が上司から資料の問題点として指摘された。すなわち、なぜこのような余分な直線をグラフに描いたのだ、と質問されたのだ。
 
実験データの一次回帰式から推定値を求めたので、グラフにその回帰式に相当する直線を書き入れたのだが、主任研究員の上司は、そもそも一次回帰式というものを理解されていなかったのだ。(会議の前に説明していたのでご理解頂けていると思っていた。しかし、コンピューターが無かった時代には、一次回帰式を求めるのは大変なので、知らない人は多かったのかもしれない)
 
しかし、プレゼンテーションでは、ご自分で説明していて、グラフに書かれた一次回帰直線が気になってしょうがなかったそうだ。横でプレゼンテーションを聞いていた当方は、推定値のことを、実験で得られたグラフからこの結果となり、と説明されていたので、当然理解されていると思っていた。
 
会議後、事前のデータの説明が不十分だと、本当は苦情を言いたかったのかもしれないが、当方が簡単にデータ群の一次回帰直線です、と答えてしまったので、一次回帰とはなんだ、という話の展開になり、挙句の果ては、統計の説明に始まり、会議が終わったにもかかわらず会議前の説明までやり直すことになった。
 
この時の体験は、内容を理解していなくてもプレゼンテーションをそつなくこなす、すごい能力の上司というリスペクトした思い出として記憶にあったが、本当は、基礎学力が低くても大企業で主任研究員程度が務まる、という事例なのかもしれない、とニュースの記事を読んで新入社員の能力の心配よりも、メーカーの人材育成や人事評価システムが心配になってきた。
 
この上司については、ある日の酒の席で、新入社員時代から優秀な部下に恵まれた人だった、という噂が聞こえてきた。当方が入社する20年ほど前の時代は、大卒者に工業高卒の人材が部下としてつけられていたそうだ。
 
ただ、ご自分の知識不足の領域をすぐに耳学問で補おうとする姿勢は随所で見られ、この姿勢が上司の基礎学力不足を補強していたのだろうと、改めて敬服した。基礎学力不足を嘆くよりも、「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」、という格言を指導することこそ必要だろう。もう、新入社員は社会に出てしまっているのである。
 
基礎学力が低いからと言って嘆く必要はなく、そのような人材でも活用し育成できる組織こそ必要である。そして常にイノベーションを引き起こすことが可能な組織化能力こそマネジメントに要求されている。基礎学力の低い上司だったが、その組織から今でもゴム会社で事業が継続されている半導体用高純度SiCの技術が生まれている。当時様々な新規事業の提案がなされたが、この上司の組織で生まれた技術だけが唯一生き残っている。

 

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2015.12/13 ヒューマンプロセスによる問題解決法

イムレラカトシュは、その著書「方法の擁護」で完璧な科学的証明法は否定証明である、と述べている。わかりやすく言えば、新現象に潜む機能を技術として活用するときに、科学的方法に忠実になれば、「それはできない」という結論を導き出してしまう、ということだ。
 
優等生に開発をやらせるとモノはできないから注意せよ、とゴム会社でよく言われていた。実際に電気粘性流体の開発では、その耐久問題の解決法では否定証明が行われた。そして当方は、その「できない」と結論された方法で問題解決に成功した。
 
科学と非科学の対決構図となってしまったわけだが、20年以上前のことであり、研究所ブームの名残で科学第一主義の人が中核を占めていた時代だ。
 
科学と非科学は対決していても仕方が無いことで、科学誕生以前の問題解決法がすべて非科学的に行われていたことを理解できれば、科学と非科学を共存させて問題解決に当たる柔軟さこそ今の時代求められていることに気がつく。
 
非科学的方法で問題解決できるのか、という人はマッハ力学史を読んでいただきたい。古典力学は、非科学的方法で発展してきたのである。ニュートンは非科学的方法で万有引力を発見している。
 
最近では、山中博士が非科学的方法を使用してヤマナカファクターを発見したと述べておられる。また、ヒューマンプロセスによらなければ、一生かかっても見つけられなかった、とNHKの番組で語られていた。
 
ノーベル賞級の研究でさえ、躊躇なくヒューマンプロセスを用いているのである。日々の技術開発でヒューマンプロセスを用いて問題解決を行っても悪いはずがない。このような考え方と科学と非科学を組み合わせた効率的な問題解決法にご興味のある方は、是非弊社にご相談していただきたい。ビジネスにおける問題は、解決されてこそ価値がある。問題プロセスにおいて科学的方法だけに高い価値があるのではない。
 

 
 

カテゴリー : 一般

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2015.12/12 高分子の未溶融体

高分子には、室温で固体のものから液体のものまで存在する。室温で固体であっても、加熱すると溶融体に変化する高分子は、樹脂あるいは熱可塑性ゴムと呼ばれている。加熱しても溶融体にならず熱分解し、さらに高温度で熱処理すると炭化した残渣を大量に生ずる高分子も存在する。
 
高温度で溶融体を生ずる高分子や室温で液体の高分子についてその状態は、科学的に解明されているように思っている人が多いが、解明されているのは特殊な場合だけであり、大半は未解明と言っても良い状態である。その昔フローリーにより体系化された高分子科学は、高分子を溶媒に溶解した状態、それも2%未満の希薄溶液の状態で研究された成果である。
 
教科書に書かれた高分子の性質の大半はこの科学に基づいているため、実務で遭遇する高分子の姿はしばしば教科書とは異なる。ところが教科書と異なる非科学的現象に遭遇した時に無理やり教科書の記述で理解しようとする人が多いのにはびっくりした。
  
科学の時代なので、教科書に記述された事柄で理解を進めても不都合はないが、教科書の記述とは異なっている、あるいは教科書に書かれたパラダイムと異なっているという認識は持ってほしい。すなわち、科学的に論じても間違いが無い部分と科学的に不明な部分とを認識しながら現象を眺める習慣は、高分子材料を扱う時に重要である。
 
この習慣を忘れると、例えば、樹脂を融点(Tm)以上で加熱した時に流動性を示すようになるが、この融体が高分子一本一本ばらばらの状態で流動している、という誤解を生じる。この誤解を持ったまま現象を眺めていると、現場で絶対に解決できない問題を生み出すことになる(注)

 
大半の樹脂は、Tm以上で加熱し混合しても高分子一本一本ばらばらで均一な状態にならない。これは粘弾性測定の実験を注意深く行うとそのように納得できるデータが得られる。すなわち、融体に含まれる高分子の一部が未溶融で存在する、と仮定しなければ説明のつかない現象を見出すことができる。そしてこれが科学だけでは理解できない現象を引きおこす。

  
(注)そもそも実務で遭遇する現象の大半が非平衡状態であることを忘れているのが問題

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2015.12/11 射出成形体のボツ

射出成型では金型に樹脂が押し付けられるのでボツは発生しない、と思っていたら、昨年面白い体験をした。中国のローカル企業を指導して、高い難燃性を有するPC/ABSの独自処方を開発した時だ。
 
横軸にPCの含有率をとり、縦軸に衝撃強度や引張強度の値をとった軸でグラフを書いたところ、公知の変化を示すグラフが得られた。引張強度が10%程度グラフ全体で低めになっている点以外は、異常のないデータに見えた。
 
ただ、全サンプルが10%前後低め、というのが少し気になったので、引張試験片の破断面観察を行ったところ、PCの未溶融物質で形成されたドメインがすべてにおいて観察された。大きなものでは0.5mmほどの大きさのドメインを見つけた。
 
たまたま上海近郊で知人が樹脂の混練事業をやっていたので、そこの二軸混練機を借りて混練してみたら、某ローカル企業と同一処方の配合で引張強度が20%ほど向上した。破断面観察を行っても異常は見つからなかったので、こちらがまともなデータなのだろうと考えた。
 
さて問題は某ローカル企業の二軸混練機である。L/Dは42程度で外観に異常はない。フィルターもオートチェンジャーがついている立派な装置である。表示温度が高めに出ているのか、と疑ったりしたが、熱電対に異常はなかった。
 
一通りの点検をして、スクリューとシリンダーの隙間が怪しいのではないか、と疑った。樹脂を流さないでスクリューを回転したところ、異音はしないが優しい音色である。おそらくこの二軸混練機ではポリマーアロイの混錬は不可能だ、と総経理に伝えたら、何とかならないかと言ってきた。
 
新しい二軸混練機を買うことを勧めたら、修理してくれと言う。さすがにそれは当方には無理だ、と答えたら、翌日その混練機メーカーの技術者を連れてきて、一緒にやってくれと言う。どうも通訳からうまく総経理へ話が伝わっていなかったようだ。
 
仕方がないので、スクリューセグメントをメーカー推奨の状態から変更し、さらにカオス混合装置を取り付けるように提案した。
 
2ケ月後にできあがったカオス混合装置をセットし、混練したところ、驚くべきことに引張強度が20%程度上がったのだ。そして破面観察を行っても未溶融物は見つからなかった。昨年高分子学会から招待されて講演したが、カオス混合装置がものすごい発明であることをもう少し宣伝すべきだった。

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.12/10 フィルムのボツ対策

高分子成形体で発生するボツ対策はノウハウであり、この欄で書きにくい内容である。公知事項の範囲で書こうとすると読み手からは靴の裏から足のかゆいところを書くような状態になる。また、思いつくまま書いているので、読み手には余計に分かりにくい内容になっていると思う。もし疑問に感じたらいつでも問い合わせていただきたい。
 
フィルム成形をしていてボツを見つけると、まずボツの分析を行う、というのが一般的なアクション。その時の分析手段は、電子顕微鏡や光学顕微鏡が一般的だろう。まず、目で観察する、というのは、小学校で習う科学の姿勢である。
 
ボツを目視で観察し、原因が分かることもある。すなわち、異物が原因でボツが発生しているときには、何らかの手段でその部分を観察すると容易に原因を特定できるので、対策に結び付けることが可能である。
 
まず大きな異物であれば、フィルターワークで対策できる。その異物がコンパウンド外から入ったものであれば、クリーンルームの作業に切り替えたり、作業着対策や作業者の訓練で解決できる。コンパウンドに添加されたフィラーが原因であれば、分散を改良したり、フィラーを変更したりして対策を進める。
 
とにかく、見える化で原因を特定できる時には、その原因を除去すればボツを減らすことが可能となる。しかし、それでもボツを0にはできないのが一般的で、フィルム製造の実技では毎度問題になる定番の品質欠点である。すなわち、見える化を行っても正体不明のボツがあり、その対策がわからないのでボツを0にできないのだ。
 
この正体不明のボツは、高分子の未溶融体であり、科学では理解できない現象である。もしできるという人がいれば教えて頂きたい。少し技術的センスのある人ならば、正体不明のボツを集めて、熱分析を行うだろう。DSCや粘弾性測定を行うと正体不明のボツの姿が見えてくる。GPC測定も情報を与えてくれる。
 
正体不明のボツの姿がおぼろげながら見えてくると、その対策を考えることになるが、これが大変なのである。ここでも少し書きにくい。コンパウンドの混錬の話になるのだが、ここにたどり着いた人は弊社にご相談ください。良い方法がある。(明日もボツ)
 
 
 

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.12/09 PPS中間転写ベルトのボツ

高分子の未溶融物の問題は難しい。例えばPPS中間転写ベルトは、PPSにカーボンを分散して製造するので、押出成形でボツが発生した時に、カーボンに含まれる異物でボツが発生しているのか、未溶融物でボツが発生しているのか原因を特定しにくい。
 
科学で現象が解明されていない場合に技術で問題解決することになるのだが、PPS中間転写ベルトのボツ問題は、技術による問題解決でうまくいき、実践知を多く身に着けることができた。また、コールドスラッジについても一般に言われている話が必ずしも正しくないことも学んだ。
 
開発がうまくいっていない状況で引き継いだ業務だったので、押出金型の見直しも行う経験ができた。Tダイをそのまま丸くしたコートハンガーダイやスパイラルダイ、スパイダーダイなどいろいろなダイをためし、ダイによりボツ発生に差異があることも発見した。
 
ここでは書きにくいので興味のある方は問い合わせていただきたいが、このような世界は実践知と暗黙知の世界であり、技術者により見解がわかれる対策もある。しかし、ボツを減少させるソリューションの一つとしてコンパウンド段階の対策は、有効だと思っている。
 
過去にこの欄で紹介したが、カオス混合によるコンパウンドは、未溶融物により発生するボツを減少できる。すなわち、コンパウンド段階で十分に練を進めて可能な限り分子状態でバラバラにできれば、押出成形で未溶融物の発生を減少できる。
 
カオス混合以外の混練方法では、二軸混練機2機種、石臼式混練機、バンバリーなどを検討したが、ボツ発生を抑えることはできなかった。この経験からカオス混合は高分子の未溶融物を少なくできる混練方法との実践知を得た。(明日もボツ)
  

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2015.12/08 フィルムのボツ

高分子の未溶融体で品質問題となった時にわかりにくいのが、押出成形により製造されるフイルムで発生するボツである。ボツについては、原料に含まれる異物で発生しやすいので、フィルターワークや工程のクリーン度をあげたりして対策する場合があるが、これで問題解決できれば幸運である。
 
高分子の未溶融体でボツが発生しているときにその正体を見つけることは不可能である。すなわち、正体不明のボツを見つけてはじめて高分子の未溶融体の存在を考えることになる。高分子の未溶融体は、フィルターワークでも除去できない場合が多いので消去法で答を見出すことになる。
 
光学用フィルムでは、延伸工程でボツが消失し、輝点異物となる場合がある。ある日PETフィルムの輝点異物を集めて分析したところ、結晶化したPETが他の部分よりも多く含まれていた。このような結果ではない場合も存在したので、断定的な結論を避けるが、高分子の未溶融体は結晶部分がまずその原因として考えられる。
 
写真会社で経験したTダイによるPETフィルム成形では、ボツの問題で悩むことは無かったが、しばしば遭遇する輝点異物には迷惑した。後工程の下引き処理で発生するエラーとの区別が難しいために、時々対策を誤ったりした。詳細をここでは書きにくいが、ボツが100%発生しないフィルムは存在しない、ということとボツの発生個所には局在化している場合とランダムな場合が存在する点は注意したい。全体のシステムでボツの発生の仕方が変わる(ただしここでは輝点異物がすべてボツ由来と仮定している)。
 
PPSは20年ほど前からそのフィルムが登場しているが、ボツの発生により量産体制に入るまでその対策に苦労した樹脂と聞いている。フィルムの中央のボツが少ないところを商品として供給していたようだ。PPSフィルムの成形は経験が無いが、PPSベルトについては10年前に業務を引き継いだ経験がある。抵抗の安定化とボツ問題の解消が最後に残ったミッションと言われ、やや尻込みした。
 
前任者が言うには、某フィルムメーカーがPPSフィルムの量産をできるようになったのは、写真会社でベルト成形の研究を進めたおかげだそうだ。当方が単身赴任する前に、前任者は大変低い歩留まりのPPSベルトをある方法で商品化していた。フィルムはマグロのトロのように部位を選んで切り取ることができるが、ベルトは、円柱状で成形しそのまま使用するので、それができない、だから技術的に大変難しい。
 
それを実用化できたのだから、と自慢し、歩留まりを上げるのが当方の仕事と言っていた。当方はその傲慢な物言いに憤りを感じたが、PPSメーカーが聞いたならもっとカチンときたかもしれない。しかしベルトはフィルムのように押し出された中央部分だけを使うということはできないので、一理ある。(明日に続く)

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2015.12/07 管理職の仕事(5)

外部のコンパウンドメーカーに樹脂技術を依存する開発組織をコンパウンドから技術開発を進める組織に変革した。しかし組織が、環境負荷の低減で社会に貢献するという使命は変わらない。そこで、電子写真の内装材や外装材に用いられる環境対応樹脂の開発も開始した。
 
ただし、これはデザインだけを業務として、生産は外部で行うスタイルの仕事として企画された。生産量が中間転写ベルトのコンパウンドよりも桁違いに多くなるからである。コンパウンド技術ができたからといって、コンパウンド生産まで常に自社で行う必要ない。すなわち仕事というものは、果たすべき役割によりその内容が決定されるものだ。
 
環境対応樹脂が電子写真機に採用されれば、それで環境負荷の低減が可能で、社会に貢献したことになる。コンパウンドのラインができた、すなわち生産技術ができたからといって、それに縛られる必要は無いのである(注)。使命を達成することこそ重要なのである。
 
当時環境対応樹脂と言えばポリ乳酸が代表格でその商品は市場に出ていたが、コストは通常の樹脂の2倍であった。新製品開発の目標に常にCDは存在し、市場でも価格低減は歓迎されていた。このような状況でポリ乳酸など使えないのである。バイオプラは環境対応樹脂の一つであるが、リサイクルも環境対応技術として重要な手段である。
 
市場では、PETボトルのリサイクルPET樹脂が低価格で販売され始めていた。しかし、PETは射出成形が難しく、押出成形やブロー成形で用いられる樹脂である。リサイクルPETが安価といってもそのままでは採用できないので、射出成型できるようにする新たなPETの変性技術が必要となった。まだそのような技術はアカデミアでも研究されていなかった。
 

しかし、知識の活用の仕方の知識がマネジメントであり、成功したてのカオス混合技術を外部のコンパウンドメーカーで活用することにした。半年後無事開発された材料は製品に搭載され、これを最後の仕事に2011年3月11日に退職した。
 
(注)コア技術の重要性がよく言われるが、それは強みであって、ミッション遂行にコア技術をどのように使うのかは戦略となる。コア技術のソフトウェア―部分だけ活用するという戦術となっても良いのである。さらにコア技術にとらわれず新たな技術開発となっても良いのである。

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2015.12/06 管理職の仕事(4)

組織を定義し直すと、仕事のやり方も変わる。但し貢献のゴールが変わるわけではない。中間転写ベルトの開発では、外部のコンパウンダーから樹脂を購入する仕事のやり方を変え、自らコンパウンドの開発を行うことにした。しかし、このようなイノベーションは、時として周囲の反発を招く。管理職の置かれた立場により、マネジメントは自ずと制限を受ける。
 
それを調整するのも管理職の役割である。反発を招くから、やめる、というのでは、マネジメントにならない。知識の活用の仕方が大切で、反発が起きないような手順で仕事を組み立てるのがマネジメントである。それでも妥協しなければならないところが出てくる。仮に妥協してもゴールを実現しなければ周囲に目指した目標が理解されなくなる。
 
細かい話になるが、中間転写ベルトのゴール実現のためには、パーコレーション転移の制御という知識をどのように周囲に理解させ、共感を得るのかが最低限重要であった。
 
すなわちこの知識に対する共感が得られれば、コンパウンドから内製するという生産技術開発の戦術に対する理解が得られるからである。理由は、一流のコンパウンドメーカーができなかったコンパウンドを量産できる技術というのは、最先端のカオス混合技術しか無いからで、これを外部のコンパウンドメーカーが採用しないと言っていたからである。メーカーの管理職は、時にアカデミアの先端よりも先を考えなければいけない状況にさらされる。すなわち科学に頼っていてはゴールを実現できないこともある。
 
日本の管理職はこのような場合に大変な脆弱さをみせる。科学技術立国日本というかけ声の中で生きてきたからである。時には瞬間芸的に解決策を出さなければいけない状況は多い。メーカーの開発管理職は、技術というものを正しく理解していなければ勤まらない、と言われるのはこの理由からである。弊社では、技術を中心にした問題解決法を提供している。ヒューマンプロセスをご理解していない管理職でご興味のある方はご相談ください。
 
故ドラッカーが言っているマネジメントの役割を果たすためには、問題解決力が不可欠であり、管理職の仕事の大半は、何らかの問題解決のはずなのでそれを日々磨くことは重要である。残念ながらドラッカーは問題解決の重要性を指摘しているが、実務の具体的方法を著作に明らかにしていない。中間転写ベルトの量産化はカオス混合の実用化により成果となったが、この技術についてもご興味のある方は弊社へお問い合わせください。
 
 
 
 
 

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