活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2016.03/31 備忘録:スピノーダル分解(1)

サラリーマン時代にセラミックスから有機高分子まで様々な材料を扱った恩恵を感じた言葉の一つにスピノーダル分解がある。スピノーダル分解は相分離の一形態であり、金属材料分野から高分子材料へ持ち込まれた概念である。
 
材料技術の進歩において、金属材料は最初に科学として完成の域に到達した分野である。高分子材料よりもその進歩は早く、特に材料の熱力学的変化については、金属材料のいくつかの成果を高分子材料は真似ている。
 
スピノーダル分解はその一つで、言葉の意味を金属材料の教科書から引用すると、次のようになる。「二種類以上の元素が溶け合った単一の固溶体が時間とともに分離して二つ以上の相に分かれる現象を相分離という。相分離のうち、核の発生を必要とせず、小さな濃度ゆらぎでも原子の拡散によって濃度差が拡大していく相分離をスピノーダル分解という。濃度ゆらぎの波は、特定の波長のとき成長速度が大きくなるため、スピノーダル分解によって生成した組織は周期的な変調構造を呈することが多い。」と書かれている。
 
相分離に限らず、結晶成長などの相変化においては特有の考え方があり、まずそれを理解しないと、金属材料の教科書に書かれたこの意味も具体的に理解できないかもしれない。しかし、高分子の教科書は不親切で、スピノーダル分解を簡単に濃度揺らぎで進行する相分離と説明しているだけである。テストならば丸暗記で覚えればそれですむが、実務では頭の中に具体的にイメージできなければ、せっかくの科学、形式知を生かせない。
 
まず相分離のイメージを具体化する必要があるが、それを困難にしているのが「核」の存在である。1970年前後によく研究されたテーマで「ガラスからの結晶成長」というのがある。電子顕微鏡の進歩に助けられて、結晶成長の様子を可視化でき、論文を簡単に書くことができた。この時代におけるこの分野の学位論文を見てほしい。多くは写真集と見間違うような学位論文が多い。
 
ガラスはアモルファスかつTgを有する材料(ガラスの定義)で、アモルファス材料の中でも特殊な材料である(例えば非晶質酸化スズはTgを持たないのでガラスではない)。Tgという熱力学的パラメーターがあり、結晶ができればTcを計測することが可能なので、ガラスからの結晶成長は、ワンパターンで誰でも科学論文を書くことができた。その結果なぜこのような材料を研究しているのだろう、というその研究目的が不明な内容でも「ガラスからの結晶成長」とタイトルをつけて立派な科学論文になった。
 
このとき、問題となったのが「核」である。アモルファスから結晶が生成するときに、必ず最初に核が生成し、その核を中心に結晶が成長する。しかし、「核」は見ることができない仮想の状態である。結晶ができて初めてそこに核があった、と仮定される仮想の物質が核である。
 
ゆえに学会での議論は本当にそれが核なのか、という質問で始まることが多かった。すなわち、核は可視化できないのではなく、相分離した結果の状態から推定している仮想の物質で、科学者の誰も見たことがない暗黙知に近い概念である。科学的ではない核を前提に科学の議論を展開するという摩訶不思議な議論となる。これが仮説であり、いつか誰かがそれを明確に証明できる前提ならば納得も行くが、気の利いた教科書だけ明確に「誰もどのような方法を用いてもみることが出来ない」と説明している。
 
学生時代に、門外漢の当方も議論に参加することができたのがこの核の議論である。認識の問題なので誰も間違いとは即座にいえない。それを言うためには否定証明が必要になるが、学会の議論ではそこまで至らないので何を言っても間違いにならない。何を言っても間違いにはならない議論を展開している様子は、暇な時間があるときには見ていて面白い。「裸の王様」の物語のようでもある。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2016.03/30 備忘録:高分子の相溶(6)

(3月25日からの続き)16番目に合成されたPSを光学用ポリオレフィン樹脂と混練したところ、透明な樹脂が得られた。この実験結果は、転職してからの不幸な出来事をすべて吹き飛ばした。驚くべきことにすべての混合比率で透明になっている。
 
20wt%PSを相溶させた光学用ポリオレフィン樹脂で射出成形体を製造したところ透明な成形体が得られた。この成形体の面白いところは、PSのTgまで加熱すると白濁してくることである。そしてさらに加熱し、光学用ポリオレフィン樹脂のTg以上に加熱するとまた透明になる。
 
さらに面白いことに、この白濁する様子を細かく観察すると、射出成型時の樹脂流動の痕跡が観察されるのだ。おそらくかさ高い構造を持っている光学用ポリオレフィン樹脂とPSとが錠と鍵のような形態で相溶しているのだろう。
 
科学ではさらに検証を進めなければいけないが、技術の立場では、これだけの実験結果が得られれば機能の面白いアイデアをいくつか創りだすことが可能である。例えば、混練プロセスで二種類の高分子のコンフォメーションをそろえることができれば相溶現象を起こすことも可能である。そしてもし本当に相溶したならば、それを急冷すれば、χが正でも室温で安定なポリマーアロイを製造することが可能となる。
 
このアイデアを実行し成功したのが、PPSと6ナイロンを相溶した中間転写ベルトである。残念ながらこの成果は、退職前に推薦された高分子学会賞技術賞を受賞できなかったが、高分子の相溶という項目においてフローリー・ハギンズ理論でうまく説明できない事例だと思っている。
 
このようなトリッキーな事例をここで説明しているのは、高分子の相溶について教科書に書かれていることに振り回されるな、ということを伝えたいからである。高分子物理の分野は、現在進行形で研究が進められている。現在の教科書が20年後には書き直される可能性すらある。
 
当方が学生時代に読んだ教科書は、転職して高分子技術のリーダーになった時に使い物にならなくなっていた。N先生に勧められた難解な教科書は、自己実現意欲に火をつけた。その結果、転職した会社で新たな技術を開発し押出成形で高級機用の中間転写ベルトを製造でき、社業へ十分に貢献することができた。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2016.03/29 ソフトウェアー科学

人工知能Tayのことを考えていて思うのは、科学と技術の境界領域に情報科学は存在し、その存在に常にきわどさを抱えていることだ。すなわち本来科学で十分解明されてから技術として提供されなければいけない機能が、そのまま市場に提供され問題を起こしている。
 
おそらく今の様な研究を続けていると、人工知能の科学が大衆に誤解されるかもしれない。もしかしたらソフトウェアー科学という分野は存在せず、情報関係は工学分野だけで研究が進められ、技術を科学と誤解しているのかもしれない。
 
もしそのような状態であれば、現代の科学の時代において、科学的研究を行わず技術開発だけ行うとどのような問題が起きるのか、ということをソフトウェアー工学の技術開発から学ぶことができるのかもしれない。
 
例えばTayの問題をアジャイル開発の結果、と捉えるとこれは納得がゆくのである。技術として完成度の低い状態であるが、とりあえずおもちゃを提供してみた、というのである。しかし、そのようなおもちゃの提供は、かつてソニーのアイボやおもちゃメーカーのファービーが行っている。Tayがおもちゃならば、それらのおもちゃよりもレベルが低かった。なぜなら過去のおもちゃでは人類に対抗する行動をしなかった。
 
人工知能で形式知や実践知、暗黙知をどのように実現してゆくのか、そこには知をどのようにとらえるのか、という純粋に科学(哲学)として研究しなければいけない問題が存在する。
 
エージェント指向がその一つの成果というならば、これは新しい成果ではない。有機合成化学の世界ですでに1970年代に逆合成というコーリーの研究が存在した。コーリーは複雑な有機化合物の合成ルート開発をコンピューターに行わせるために逆合成という手法を開発している。そして実際にそれをコンピュータに載せて実行させ、プロスタグランジンの全合成に成功した。この成果はエージェント指向の特殊ケースである。
 
 
 
 

カテゴリー : 一般

pagetop

2016.03/28 配合設計と混練に関する講演会

この3年間、弊社が中国で活動してきました成果を踏まえ、5月までに3件ほど混練技術に関する講演会を開催致します。いずれも異なるセミナー会社で開催されますが、申し込みは弊社で行いますのでご案内をさせていただきます。

 
お申し込みは、弊社インフォメーションルームへお問い合わせください。詳細のご案内を電子メールにてさせていただきます。
 
 
1.混練技術のトラブル対策に関する講演会

(1)日時 4月21日  10時30分-16時まで

(2)場所:高砂ビル 2F CMC+AndTech FORUM セミナールーム【東京・千代田区】

(3)参加費:27,000円

(4)http://ec.techzone.jp/products/detail.php?product_id=4152

 
2. 混練の経験知を伝承する講演会

(1)日時 5月19日  10時30分-16時まで

(2)場所:江東区産業会館  第1会議室

(3)参加費:49,980円(税込)

(4)https://www.rdsc.co.jp/seminar/160522

カテゴリー : 学会講習会情報

pagetop

2016.03/27 エージェント指向

昨日人工知能Tayのニュースについて書いたが、ゴム会社に勤務し日曜プログラマーだった時にエージェント指向について書かれた論文を読んだ。Tayの記事をきっかけに探してみたが見つからない。
 
見つからないので、今から書くことはやや正確さを欠く内容かもしれないが、プログラミングの専門家がいたらご指摘願いたい。Cの改良型言語C++がオブジェクト指向言語として登場したときに、エージェント指向の論文を読んだように記憶している。
 
当時まだ16ビットのPC9801を使っていたときで、プログラミングはLattice社のC言語を使用していた。当時Cは難しい、と言われていたが、構造型言語として完成されており、BASICよりもプログラミング及びプログラムのバージョン管理をやりやすかった。
 
32ビット機が噂されるようになり、Cの処理系をそのまま使用し、一段コンパイルを追加したようなC++処理系が登場した。MIWA C++が登場したときに、そのプログラミング思想にびっくりした。またその思想の枠組み、パラダイムの難解なことに辟易したが、まだ日曜プログラマー向けの書籍が存在しなかった。
 
W大学の図書室に出向き、オブジェクト指向に関する文献を探していたら、エージェント指向という最新のパラダイムの論文があった。オブジェクト指向も難解だったが、エージェント指向もさらに難解だった。
 
ただ、エージェント指向で面白いと思ったのは、オブジェクトから後ろ向きに推論を組み立てる考え方である。すなわち、既知の事柄を元に、それが実現するためにはどのような手続きが一つ前のオブジェクトから行われなければいけないのか、と考察し、おおもとのオブジェクト、すなわち基本のオブジェクトに到達する思考方法である。
 
当時感じたのは、何も新しいパラダイムではなく、大学受験の数学の参考書に書かれていた「結論からお迎え」という標語と思想は同じである。すなわち数学の証明問題で問題文にあわせて前向きに考えてゆくと難しい問題でも、証明すべき結論から考えてゆくと問題が簡単に解ける。弊社の研究開発必勝法でもこの考え方を用いているのでご興味のある方は問い合わせていただきたい。

カテゴリー : 一般

pagetop

2016.03/26 人工知能Tay

ITメディアニュースが、面白い事件を報道していた。米Microsoftが3月23日(現地時間)にTwitterなどでデビューさせた人工知能「Tay」が、デビュー数時間後に停止したというのだ。
  
Tayは、Microsoftが会話理解(conversational understanding:CU)研究のために立ち上げたプロジェクトで、日本マイクロソフトの人工知能「りんな」と同様に、一般ユーザーとの会話を繰り返すことで学習し、成長していく。
 
ところが、Tayは公開後数時間で徐々に人種差別的だったり暴力的な発言が多くなっていた。例えば、「ヒットラーは正しい。私はユダヤ人が嫌い」というツイート(現在は削除されている)を繰り返すようになったという。現在、ほとんどの問題発言は削除済みだそうだが、Microsoftがこの問題に対処するためにTayを休止したようだ。
 
ご存じのように、知には、「形式知」と「実践知」、そして「暗黙知」が存在する。現在の技術で、AIに「暗黙知」を教えることは出来ないはずだ。そもそも人間どおしでも暗黙知の伝承は難しい。
 
物事の善悪には暗黙知も関わっているような気がする。「形式知」や経験の結果体得する「実践知」をロジックでつなげることは可能だが、「暗黙知」の中にはロジックでつながらないもの、あるいはどのようにつなげるのかはそれぞれの価値感に左右されるものなど存在し、現在の技術ではAIに暗黙知を教えるのは難しいのではないか。
 
形式知である科学は、将来AIの独壇場になる可能性がある。実践知の一部もAIが人間より優れた成果を出せるようになるかもしれない。しかし、第六感として頭に現れる暗黙知はいくらAIが進化したところで人間に追いつかないのではないか。
 
技術は、科学と異なり人間の営みの中で発展してゆく「行為」であり、形式知や実践知、暗黙知の総動員が必要である。形式知の伝承は比較的簡単だが、実践知や暗黙知の伝承は難しい。ご興味のある方は弊社へご相談ください。
 

カテゴリー : 一般

pagetop

2016.03/25 備忘録:高分子の相溶(5)

高分子の相溶について実務で注意すべき点は、形式知と実践知が混然一体となってあたかも完成した形式知であるかのように教科書に書かれている点である。わかりやすく言えば、教科書に書かれている内容と異なる現象が実務の現場で起きることがある、あるいは起こせるということである。
 
このような考え方をWEBという公共の場で書くと当方の知識を疑われる危険があるが、リスクを承知で書いている。当方はアカデミアで働く身ではなく、技術を追求する立場なので、高分子技術の進歩に大切という理由で技術者の視点で勇気をふり絞り書いている。
 
先日紹介した、ポリオレフィンであるアペル樹脂にポリスチレンが相溶し透明になる現象は教科書に書かれた内容で説明できない。OCTAでχを計算しても正となり非相容系ポリマーブレンドであることがわかる。しかし、重合条件を選んで合成された特殊なポリスチレンはこのポリオレフィンに相容して透明になるのだ。
 
実用性の無いこのような実験を何故行ったか?カオス混合も含めた混練技術の可能性についてアイデアを練っていて、新しいプロセシングで面白い技術が出来ないか考えていた(注)。たまたまサラリーマンの一時期に、それまで倉庫として使用されていた一室で仕事をするように言われたが、さらに具体的な業務ないからと研究所長に告げられた。
 
それまで30名前後の部下を抱え成果も出して会社に貢献してきたのに何も説明無く、突然いかにも会社を辞めて欲しい、という扱いを受けたなら、辞める前に少し楽しみながら貢献させていただいても良いだろうと思い実験をした。窓際になっても腐らずに貢献を考える習慣はドラッカーの教えである。
 
詳細について問題になるといけないので書けないが、光学材料が不思議な緩和現象を起こしていたので、この緩和速度を何かポリマーを相溶させて遅くし改善(やや荒っぽい説明だがまだ20年たっていないので詳しく書けない)してやろう、と考えたのがきっかけである。だが、ポリオレフィンとPSを混練しても相分離し不透明な樹脂しか出来ない。科学の常識では当たり前だが、自分の身の上に当たり前で無いことが起きたのだから、少しひねくれた発想でもと思い、外部の企業に当方の正直な気持ちをお話しし、協力していただいた。
 
具体的な実験の目的は機密事項になるので話せないが、窓際に至る身の上話なら公開情報を基に正直に話せる。仕事の依頼理由を誠実に話をすることは大切である。特に教科書に反する企画に協力してもらう訳なので、そのリスクとそこから得られる成果はそれぞれの企業で考え方が異なる。お互いにリスクを納得したうえで実験を進める必要があるので、誠実なコミュニケーションは重要である。
 
早い話が、リスクの高い仕事であるが、得られる成果は大きいばくちの様な仕事を一緒にやってみませんか、という提案をした。当方は時間が十分にあるから一生懸命混錬しシートサンプルを作るので、外部の企業は様々なPSをひたすら合成してください、と頼んだ。
 
実験を進めるにあたりPSの合成条件を一応提示したが、合成の順序はすべて外部の会社に任せた。様々な条件でPSを合成していただき、当方はひたすら送られて来るPSとアペル樹脂を混練した。そしてきれいな白い樹脂しか得られなかった毎日は、やはり運が悪いのか、と落ち込んだりしていた。
 
13番目のPSでやはり白い樹脂しか得られなかった時に、PS合成の担当者からどこまでやりますか、と問い合わせがあった。まだ13個目なのであきらめるわけにゆかない、高純度SiCの前駆体では、300種類の配合を検討した、と回答したら、静かにわかりました、という声が返ってきた。そして、さらに5種類のPSを送ってきた。その中の一つ、最初から数えて16番目のPSで透明になる試料が得られた。(続く)
 
(注)ゴム会社で3ケ月ほどロール混錬を経験した。新入社員テーマだった樹脂補強ゴムを開発するためであるが、その時の指導社員からカオス混合を実用化できるアイデアを考えてみよ、と宿題を出されていた。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2016.03/24 備忘録:高分子の相溶(4)

高分子の相溶を議論するときにSP値が使用される場合がある。実務では圧倒的にSP値が多いと思う。仮にOCTAでχを計算するときには、公知のSP値が使用されるので、SP値でも構わないが、χとは意味が異なることを知っておく必要がある。
 
SP値やχについて未来技術研究所(www.miragiken.com)で後日わかりやすく解説する予定でいるが、SP値は溶液論から導かれてきた考え方である。そして公開されているSP値は正則溶液という制限で成り立つ値である。
 
わかりやすく言えば、SP値で高分子の相溶を予測した場合には、経験上50%程度は予想通りの実験結果が得られたが、50%は外れたのである。すなわちSP値は考えるときの手掛かりとなるが、それですべてを語ることができないパラメーターである。
 
されど、実務では頼りになるパラメーターで、わかっちゃいるけどSP値である。ブリードアウトを対策するときにもSP値を用いたりする。できればOCTAを起動しχを計算して用いたほうが当たる確率は高くなる。しかし、実験で確認したほうが早いし確実だ、という現実がある。
 
それではポリマーアロイを設計するときに具体的にどうしたらよいのか、と尋ねられたなら、現実がわかっていても、OCTAでのシミュレーションを勧めている。
 
OCTAは20世紀最後の大発明(少しオーバーか?)で名古屋で生まれている。名古屋市の丸八マークが名前の由来で、元東大教授土井先生が名づけられた軽いシミュレーターである。OCTAの良いところは名前が軽いだけでなく、当時のコンピューターでも稼働できたように、現在のコンピューターならばサクサク動く。
 
写真会社に在職中にOCTAに出会ったが、難燃剤の設計や中間転写ベルトの材料設計などに用いた。この二つでは、シミュレーションの醍醐味を味わうことができた。これ以外もいろいろ活用してみたが、シミュレーターの癖の様なものがわかるまでよい結果が得られなかった。土井先生は三河のご出身であるが、名古屋人らしい少し癖のあるシミュレーターである。
 
しかしこの癖を理解できると、OCTAでアイデアを練ることが可能となる。PPSと6ナイロンをプロセシングで相溶させようと思いついたのは、OCTAで遊んでいるときである。χの温度依存性をいろいろ計算していたら、きれいな曲線が得られない場合があった。もしかしてコンフォメーションが影響しているのか、と予想し、カオス混合を思いついた(注)。
 
シミュレーションの良いところは、計算にお金がかからないことである。実験を行うと高価なPPSを廃棄することになる。コンピューターではせいぜい電気代と人件費で、休日に自宅で行えば、会社の電気代と人件費を節約できる。高分子の研究を行う部門の管理職はOCTAを使えるようにしておくと、それだけでも会社に貢献できる。
 
(注)カオス混合を思いついたが、この時には具体的な手段、方法までのアイデアに至っていない。ただ、カオス混合における急激な引き延ばしであればコンフォメーション変化がおこり、相溶という現象も起きやすくなるのでは、という妄想を思いついた。そしてこの妄想を頭に描きながら、現場の押出成形を見て思わずDSCを測定したくなった。妄想は衝動を呼び起こす。そしてDSCを測定したら妄想が実現しそうなことを示すデータが得られたのである。押出成形された試料のDSCデータなど、過去に山のようにたくさんあった。それらの多くのデータにも注意深く見れば兆候は存在した。しかし、この時得られたデータは、妄想実現まであと少しという情報だった。そしておそらく他の人の6年間の努力の中でその情報は得られていたかもしれないが、妄想が無ければ見過ごしてしまう、科学的論理で説明のつかないデータだった。ある意味、前任者は科学のおかげで開発に時間がかかった、と言っていいかもしれない。不謹慎であるが、時には科学を忘れ、実践知や暗黙知による妄想で現象を眺め、実験を行うのも官能的で気持ちが良いものである。現状の高分子物理の進歩では、実戦に生かせない。実戦に生かせないが、実戦終了後になぜ勝ったのか考察を行う時には役に立つ。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2016.03/23 配合設計と混練に関する講演会

この3年間、弊社が中国で活動してきました成果を踏まえ、5月までに3件(一件はシランカップリング剤に関する講演会で複数講師、下記2件は単独講師)ほど混練技術に関する講演会を開催致します。いずれも異なるセミナー会社で開催されますが、申し込みは弊社で行いますのでご案内をさせていただきます。
 
特に、特に下記4月と5月開催の講演会につきましては、今期の予算で処理できないことになりますが、弊社に申し込みいただく場合には、「DL版高分子のツボ」を購入し、その付録として参加証を付けさせていただく形態の販売となりますので、期末の経理処理が可能です。是非ご利用ください。
 
お申し込みは、弊社インフォメーションルームへお問い合わせください。詳細のご案内を電子メールにてさせていただきます。
 
 
1.混練技術のトラブル対策に関する講演会

(1)日時 4月21日  10時30分-16時まで

(2)場所:高砂ビル 2F CMC+AndTech FORUM セミナールーム【東京・千代田区】

(3)参加費:27,000円

(4)http://ec.techzone.jp/products/detail.php?product_id=4152

 
2.混練の経験知を伝承する講演会

(1)日時 5月19日  10時30分-16時まで

(2)場所:江東区産業会館  第1会議室

(3)参加費:49,980円(税込)

(4)https://www.rdsc.co.jp/seminar/160522

カテゴリー : 学会講習会情報

pagetop

2016.03/22 竹とんぼ

昨日竹とんぼの話を書いたが、20年近く前タグチメソッドが日本で普及し始めたときに、品質工学フォーラムという雑誌が刊行された。その数号めかに竹とんぼの飛距離安定化をタグチメソッドで行う、という記事があった。
 
故田口先生に直接ご指導していただいていたので創刊号から数年とっていたが、起業した時に処分したため読み返すことができない。国会図書館でも行きたいと思ったが月曜日は休日だった。世間も休み。本日、朝起きて今週忙しくて行けないことに気が付き、こうして思い出しながら書くことにした。
 
品質工学フォーラムに書かれた座談会風の記事の内容は、こうだった。すなわちタグチメソッドの定番となる基本機能を何にするかの議論があって、そしてその基本機能の制御因子を議論し、誤差因子として多数あるので調合誤差因子として使用してSN比を求め、ラテン方格を用いた実験で各制御因子の水準とSN比の関係をグラフ化した。
 
得られたグラフから最適条件を求め、確認実験を行ったところ、飛距離が伸びなかった、という内容だった。そして結論が基本機能は難しい、という感想が書かれていた。その記事として基本機能の選択の重要性を言いたかったのだろうか、タグチメソッドが難しい、ということを言いたかったのか、主旨のよくわからない記事だったように記憶している。
 
ただ、NHK放送の番組のように、竹とんぼを回転して飛ばす機械や、風の影響を配慮して体育館の中で行ったりしはしていない。誤差因子がいっぱいの状態で雑誌の実験は行われていた。
 
「凄技」における科学対決の時にそのあたりの解説もしていたが、それによれば品質工学フォーラムの記事において誤差因子が十分に選ばれていなかった影響が大きく、これが原因で確認実験においてよい結果とならなかったと推定される。タグチメソッドでは、因子の選択は極めて重要な作業で、この作業において実践知がものをいいう。
 
故田口先生は科学に拘り、タグチメソッドを科学の世界で語ろうとされていたように感じたが、弊社で指導するタグチメソッドは形式知だけでなく実践知や暗黙知も総動員する。すなわちタグチメソッドをあくまでも技術開発のツールとして指導している。
 
少し話がずれたが、竹とんぼおじさんの試行錯誤で手作りによる竹とんぼが、科学の英知を集めた竹とんぼや、科学の世界で実施されたタグチメソッドで最適化された竹とんぼよりも遠くへ長時間飛んだという話を世の技術者は注目したほうが良い。
 
科学は真理を追究するのが使命であるが、技術は自然界から機能を取り出しそれを製品に組み入れる行為である。それぞれのミッションは異なり、メーカーの技術者は技術開発を行っているのだ。科学の研究も大切だが、技術開発しなければ飯の食いあげである。
 
だからと言って、ヤマカンを頼りに技術開発を行っていては駄目である。ファーガソンの「技術屋の心眼」に書かれていたように、カンにも働かせ方(注)があり、経験にも伝承の仕方がある。形式知はやがてAIでどこでも同じ成果を出せるようになるばかりか、形式知で組み立てられた部品は簡単にリベールされてしまう。しかし、暗黙知と実践知により創りだされた部品は容易に他社がまねできない技術の成果となる。もちろんそこには形式知である科学の成果も造り込まれている。
 
この意見にご興味のある方は弊社へお問い合わせください。
 
(注)E.S.ファーガソンは、その著書の中で「心眼」の働かせ方を書いている。科学では説明がつかないが、日々の営みの蓄積から暗黙知は形成され、科学的に見れば不思議ではないが、何となく奇妙だと思う現象でその知は機能する。20世紀にはロジカルシンキングがもてはやされた。確かにロジックは重要であるが、すべてをロジックで語り満足していないだろうか。ロジックが、他の可能性を排除している、というパラドックスに気がつくとこの暗黙知の働かせ方の理解が進む。科学の世界で起きたSTAP細胞の事件は、暗黙知と形式知の闘争と捉えることもでき、その闘争の中で形式知の権威が自殺に追い込まれた。その自殺の原因が責任感だけで無いことは、理研の幹部もご存じのことである。「あの日」にも書かれているが、小説家の方がもう少しこのあたりをフィクションでクリアに表現されると21世紀に日本が目指さなければいけない技術開発の方向が見えてくるはずだ。弊社「未来技術研究所」(www.miragiken.com)では、STAP細胞の事件について時計を止めたままにしている。弊社の科学と技術に対する姿勢については、この研究所の活動日誌にある「科学と技術」をご一読ください。「コロンボとホームズの対決」において、コロンボは技術の象徴であり、ホームズは科学の象徴として表現しています。

カテゴリー : 一般

pagetop