科学的方法では、実験は仮説を確認するために行う。ゴム会社の研究所在職中には、仮説の重要性を厳しく説かれる方もいたが、指導社員のように、実験ではまず新しい現象を見いだすことが重要という方もいた。
その方によれば、仮説を確認するための実験は暇なときにやれば良く、新しい現象を見いだすために実験を行う、すなわち特許に書ける「驚くべきこと」が見つからなければと新しい技術を生み出すことができない、と教えられた。
京都大学理学部大学院を出てこられた方にしては「テキトー」な考え方に当初は感じたが、その方の仕事ぶりは「テキトー」ではなく、数値計算のシミュレーションを用いたエレガントなやり方だった。
ただ、ゴムという材料が計算通りの物性にならない、プロセスの影響の大きく出る材料という現実を体験し、独自の哲学に至り、その結果陰で泥臭い試行錯誤の実験をやる習慣になっていた。
その姿は弟子の立場でなければ見ることができなかった。なぜなら課内会議ではエレガントな報告だけ成されていた。そして実験は仮説を証明する最低限の結果だけでまとめられていた。
このような仕事ぶりが良いのか悪いのか、という議論はナンセンスで、科学的な仕事が推奨される環境では、このようになってしまう。
この方はアイデアマンで知られていたが、アイデアがなぜ豊富に出てくるのかを知っている人はいなかった。弟子として感謝しているのは、無駄知識を有益なアイデアに変換する手法をその方の仕事ぶりから学ぶことができた点である。
実験では時々「失敗」という無駄に遭遇する。しかしこの失敗には有益な情報が含まれている。仮に凡ミスであったとしても、それは予期せぬデータである。そこから学ぶべきことを抽出し、サンプルを廃棄する、凡ミスでも無駄にしない姿勢は大変参考になった。
実験を仮説の検証の方法と位置づけるのは科学の基本であるが、実験を自然現象との対話の機会として位置づけている人は、自然界から機能を取り出さなけれなならない技術者である。
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昨日の耐熱可塑剤のアイデアは、ナイロンの相溶を実現したときに生まれた。PPSにナイロンが相溶するとTgが下がる。その結果PPSの耐熱性が下がることになる。PPSの耐熱性はそのままに溶融温度を下げ、混練しやすくできる添加剤はできないかというのが最初の着想である。
高分子に低分子を添加すると可塑化効果が観察される。すなわちTgやTmが下がる。しかし、うまく添加剤を設計してやればTgを下げずにTmだけを下げることができるのではないか、と考えた。
詳細は省略するが、新しいアイデアは常識を疑ったり否定したときに生まれる。科学の世界では、科学で正しいと思われていることを一度疑ってみると新しいアイデアが生まれる。
STAP細胞のアイデアもそのようにして生まれ、大騒動になり、STAP現象の存在がドイツの研究者らにより発表され、と面白い展開になっているが、教科書に書かれていることがいつも正しいとは限らないのだ。
教科書に書かれていることを疑うのは勇気がいる。ましてや、それを口に出すときには馬鹿にされることを覚悟しなければいけない。だから、現象が再現良く見極められるまではこっそりと実験を行う必要がある。STAP細胞は再現性が乏しい段階で口にしたから大騒動になった。
新しいアイデアを実用化するには多くの障害を越える必要も出てくる。高純度SiCの事業化経験はそのための貴重な財産である。アイデアをどのように展開し、実現してゆくのか、困っている方は一度相談して頂きたい。
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PPSやPPEなどのエンプラを混練する時に困るのは、混練温度が高いことである。すなわち混練温度が高いことから、これらの樹脂と組み合わせる添加剤に耐熱性という制約が付く。
PPSと6ナイロンの配合についてカオス混合を行うときに、PPSの混練温度は低く設定している。どの程度に、というのはノウハウの範囲だが、この技術が高分子学会技術賞に推薦されたとき、説明に困った質問があった。
ナイロンが分解して低分子量になり、相容したのだろう、という審査官の決めつけによる質問である。混練温度は低いので分解は起きていない、と回答したら、それではPPSが溶解しないだろう、と質問が返された。
低い温度で混練が進行する特殊な技術だと説明したが理解して頂けなかった。サラリーマン最後のチャンスで技術賞を取り損ねたが、残念と言うよりも科学的な現象以外信じて頂けないという状態に頭を抱えた。
20世紀は科学が技術を牽引した時代だが、21世紀は技術が非科学的な現象をどんどん実用化し、科学を牽引しなければ、イノベーションは生じない。特に高分子分野は科学的に正しいと信じられている内容にも怪しい部分が存在する学問である。
セラミックスも同様で、かつて焼結理論に関して大激論があった。高分子分野にもこの時のような議論がされても良い理論が幾つかあるが、日本の高分子研究者は優しい人ばかりだ。
さて、PPSと6ナイロンの相溶は、それを達成しなければ開発が失敗し、その責任を取らされる立場で実現している。退職前だったのでそのような役割が回ってきたのだが、すなおに失敗するのは悔しいからカオス混合を考案した。
しかし、その時耐熱可塑材のアイデアも同時に誕生した。PPSに6ナイロンを相溶するとそれぞれのTgが一つとなり、両者のTgの中間に現れる。PPSにとってはTgが下がることになる。その結果、PPSのTgを基準にした耐熱性は低下する。
耐熱可塑剤のアイデアは、エンプラの耐熱性を落とさずに混練時の可塑化効果だけを狙った化合物ができないかというコンセプトであり、可塑剤と呼ぶのは正しくないが、適当な言葉が無い。良い名称は見つかっていないが、ようやくコンセプトを実現出来た。ご興味のある方はお問い合わせください。
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投票日直前に野党統一候補を掲げた石田純一氏の都知事立候補の話題が出るなど都知事選の影響がどのように選挙に出るのか心配されたが、2011年以降の流れを反映した選挙結果ではなかろうか。
野党の方には申し訳ないが、福島原発の処理で見せた政府のいい加減な行動に象徴されるように、日本の野党の政治は信用を失っているのである。また、その後の元党首の方たちの無責任な言動が信用回復を遅らせている。
今井絵理子氏の人気には驚いたが、当選後の基地問題に対する発言にさらにびっくりした。しかし冷静に考えると、沖縄の基地問題の日本全体における位置づけはそのような状態かもしれず、正直な発言と捉えると、政治家として案外期待できるのかもしれない。
今回の選挙では数字に出ているように自民党が圧勝かというと、沖縄と福島で現閣僚が落選している。沖縄と福島は政治家が真摯に取り組むべき問題を抱えており、今井絵理子氏の発言のような状態を批判する結果となっている。
都知事選に立候補を表明した小池百合子氏は、自民党の分裂選挙になることを「私は根回しが下手だ」と弁解していたが、そのような素人政治家ではこの難局を乗り切れないことは明らかである。しかし、国民が政治家に素人の香りを求めているのは最近の傾向である。
選挙結果がすべて出たところで、18歳まで選挙権が与えられた影響などの解析が進められるのだろうが、今回自民党が圧勝したかのような結果になったのは、国民の記憶に過去のトラウマが残っているためと思われ、野党勢力はさらなる自己変革が求められている。二大政党の時代はまだ遠い。
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この3年間、弊社が中国で活動してきました成果を踏まえ、5月までに3件ほど混練技術に関する講演会を開催致しました。
いずれも異なるセミナー会社の主催で行われましたが、リクエストがございましたので下記予定で7月と8月も開催します。一部内容は重複致しますが、過去の講演と同様に新規内容を盛り込み企画しています。また、弊社で現在展開しております二軸混練装置の販売につきましても状況をご報告させていただきます。
7月の講演会では、樹脂用の新添加剤のご紹介をさせていただきます。また、カオス混合技術につきましても過去の講演会同様に解説致します。
8月の講演会におきましては、シランカップリング剤の添加では問題解決できなかった熱電導樹脂を事例に、フィラーの分散制御技術の盲点を独自の視点で解説致します。
お申し込みは、弊社インフォメーションルームへお問い合わせください。詳細のご案内を電子メールにてさせていただきます。弊社で申し込まれましたお客様につきましては特典がございますので是非お問い合わせください。
1.機能性高分子におけるフィラーの分散制御技術と処方設計
(1)日時 8月25日 13時-16時30分まで
(2)場所:高橋ビルヂング(東宝土地(株)) 会議室 (東京都千代田区神田神保町3-2)
(3)参加費:43,200円
2.9月以降に機能性高分子の難燃化技術の講演会を2回ほど行います。お問い合わせください。
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研究開発のテーマとして何に取り組むのか、という問いはどこの組織においても重要である。企業では事業分野に直結し2-3年で貢献できるテーマが選択される傾向になってきた。これが30年以上前の研究所ブームの時には、今実現できないことに挑戦するようなテーマも選択されていた。
例えば、ゴム会社では熱可塑性エラストマーでタイヤを製造する研究やカルスによるゴム栽培の研究も当時テーマとして推進されていた。そのような雰囲気の研究所だったから、セラミックスブームの時に容易に高純度SiCの企画が採用されるかと思ったらあてがはずれた。
セラミックスブームの時に研究所は現業の支援を中心に活動する方針となっていた。一方で社長はCIを導入し、新規事業の3本の柱としてファインセラミックスと電池、メカトロニクスを方針として出してきたので研究所はちょっとした騒ぎになった。
もっとも電池については、ポリアニリンを正極に使うポリマー電池の企画がすでに研究所で動いており、メカトロニクスについては電気粘性流体の企画が進行していた。しかし、ファインセラミックスの企画だけ研究所に存在しなかった。
そのときセラミックス溶射技術がテーマとして認められた。しかし当方は今ひとつ魅力に乏しいと感じて、高純度SiCの企画を提案したのだが、結局研究所で袋だたきのような扱いをされ、挙げ句の果ては追い出される結果になった。FDをイタズラした人は電気粘性流体のメンバーだが、あれはゴム会社に似つかわしくない事件だと思った。
しかし、誠実真摯に成果をあげることにだけ集中した結果、TEOSとフェノール樹脂から合成された前駆体を中心にした技術は、日本化学会技術賞を受賞し、現在まで30年以上事業として生き残っている。
研究開発のテーマはいくら良い内容であっても、推進メンバーに成果に対する誠実さや真摯さが欠けると結局失敗し、事業も続かない。ポリアニリン電池事業も電気粘性流体も事業を中断している。ポリアニリン電池事業に至っては日本化学会技術賞受賞後に事業を終了という残念な結果である。高純度SiCの事業が今でも続いているのは奇跡に近いが、その陰にはいろいろたくさんの人間ドラマがある。
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一般に高分子材料は導電性や熱伝導性がわるい。ゆえに樹脂の導電性の改良には、カーボンなどの導電性フィラーを添加し、熱伝導性の改良にはダイヤモンドやBNなどの熱伝導性フィラーを添加する。
このような高分子材料へフィラーを添加する物性改良方法では、パーコレーション転移が観察される。面白いのは導電性の改良時に現れるパーコレーション転移の挙動と熱伝導性材料で観察される挙動が異なることだ。
熱伝導性材料で観察されるパーコレーション転移の挙動は、弾性率の変化で観察されるそれと近い。理由を知りたい方は弊社へ問い合わせていただきたいが、古典的には、複合材料の教科書には、混合則として十把一絡げで説明されている。
また、少し手の込んだ方法としてMaxwell-Euckenの理論式やNielsenの理論式が知られている。しかし、高分子材料にフィラーを添加したときには、クラスター生成を確率的に捉えるスタウファーらによるパーコレーションの考え方で、統一的に理解可能である。
面白いのは、導電性材料で観察される不安定さでは、パーコレーションという現象を直感的に理解していただけるが、熱伝導や弾性率の問題では、ぴんとこない人が多い。
この理由は、例えばフィラーの熱伝導性が大きく変化しているのに、添加量と複合材料の熱伝導率の関係が一つの曲線上にプロットされたり、アスペクト比の効果が導電性ほど顕著に現れなかったりと導電性材料とは少し異なった挙動となるからだ。
現象を科学的に正しく理解できないと材料開発を進めることができないので、年に2-3件はこの関連の質問がある。科学的にはフィラーの分散をパーコレーションで説明でき、パーコレーションによる考察が可能となれば、あとは技術で改良するだけである。
ただし、科学的な美しいデータが得られないこともある。科学と技術の違いを理解できておれば難しい問題ではないのだが。また、熱伝導性フィラーとしてダイヤモンドが要求される場面は少なく、シリカやアルミナ程度でフィラーとして十分目的を達成できる場合が多い。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
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配合設計を組み立てる段階では、タグチメソッド以外の統計手法で開発を進めてもよい。例えばドリップ防止に用いられるフッ素樹脂の組み合わせ効果については、一因子実験による分散分析で有意性を示すことができる。
また、メラミンイソシアヌレートや硫酸メラミン、リン酸メラミンなどのメラミン系の添加剤にも他の難燃剤との組み合わせについて交互効果が存在する。こうした組み合わせ効果を見つけるには、タグチメソッドを使用するよりも多変量解析や実験計画法で探索した方が効率的である。
システムが決まっていない段階で、タグチメソッドは、SN比を求めるための実験数が多くなり探索に時間がかかる。ポリマーアロイの難燃化を検討するときに、評価技術の知識以外に開発手法の特徴を理解して、効率的にロバストの高い技術開発を指向するとよい。
複雑な交互効果を用いた事例として、ホスファゼンとリン酸エステル系難燃剤の併用システムを開発した。ホスファゼンとリン酸エステル系難燃剤の組み合わせは公知となっているが、うまく計画を組んで実験すると、このシステムを最適化でき、その交互効果が顕著に表れる場合がある。そしてイントメッセント系の高価なリン酸エステルを用いなくても低コストなシステムを組むことも可能となる。
また、PC/ABSのような相分離系ポリマーアロイでは、難燃剤がどの相に分散しやすいのかという問題もある。このような問題では、OCTAを活用でき、シミュレーションでリン酸エステル系難燃剤の分散をある程度予測することが可能である。
ちなみにホスファゼンとリン酸エステル系難燃剤の組み合わせシステムについて、シミュレーションで見いだしたリン酸エステルを用いてタグチメソッドによる最適化を行い、すべての樹脂材料がリサイクル材である難燃性PC/ABSの開発に成功した。
この時、基本機能にLOIを用いて、信号因子として組み合わせ難燃剤の添加率を3水準、誤差としてLOI評価に用いるサンプルの厚みをとってタグチメソッドを行っている。その結果、ホスファゼンと特定のリン酸エステルとの組み合わせでSN比3dBの改善効果を見いだした。
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あらかじめ難燃化システムが決まっている場合には、材料評価技術として難燃規格だけを用いてそれに適合するよう開発を進めることも可能である。
すでに説明したように、この場合にはタグチメソッドが便利で、基本機能のパラメータとして燃焼時間や燃焼速度、あるいはLOIを利用できる。
例えば電子機器の外装材として需要が伸びているPC系のポリマーアロイでは、UL94-V0規格の燃焼時間を基本機能として採用しタグチメソッドで開発を進めることができる。この時サンプル試験片の厚みや事前のエージング処理などは外側因子として配置し実験する。
ただし、すでに難燃化システムが決まっている場合には、外側因子として難燃剤の添加率を信号因子に採り実験を組んだほうが好ましい。また、この時の基本機能には、難燃剤の添加率に対して線形性が高いLOIを使用した方が良い。
故田口先生は、タグチメソッドは「手法」であり難燃化システムや基本機能の選択は技術者の責任である、と言われていたが、システムとして古典的な三酸化アンチモンとハロゲンの組み合わせを採用するのか、ノンハロゲン系を指向してイントメッセント系の難燃剤を使うのか、新たな難燃化システムを組み立てるのか、あるいは基本機能として何を選ぶのかなどは、まさに技術者の責任である。
ところで、ポリマーアロイの難燃化システムについては多数の特許が存在しており、特許回避策も技術開発を進める上で重要である。幸いにもPC/ABSでは主要な難燃化手法が公知技術となっている。ゆえに特許回避策として公知技術の組み合わせを選択することが可能である。
公知技術の組み合わせでも驚くべき事実が出れば、それは発明となる。
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このシリーズ(13)で行った考察により、燃焼時の熱でガラス(無機高分子)を生成してリンを燃焼している系内に固定化して、その触媒作用によりチャー生成を効果的に促進する難燃化システムを配合設計した。
ジエタノールアミンとホウ酸とを反応させて、ホウ酸エステルオリゴマーを合成し、リン酸エステル系難燃剤であるTCPPと組み合わせ軟質ポリウレタン発泡体に配合したところ、驚くべきことにTCPPを用いてもリンの含有率に対するLOI増加率はDAPPと同程度に高くなった。
このホウ酸エステルオリゴマーを他のリン酸エステル系難燃剤と組み合わせても同様の効果が得られるのかどうかを40種以上の配合系についてLOI法で調べた。そして実験で得られた多数のデータを多変量解析で処理した。
ホウ酸エステルオリゴマーだけを軟質ポリウレタン発泡体に添加しても、LOIの変化はわずかであり難燃効果が認められなかったが、驚くべきことに、ホウ素原子の標準偏回帰係数がリン原子との交互作用の影響で高くなっていた。
重回帰式 LOI=2.95×(P含有率)+15.17×(B含有率)+0.14×(Cl含有率)+18.3
標準偏回帰係数 P含有率:0.65 B含有率:0.40 Cl含有率:0.11
重回帰係数 0.84
さらにTGAの測定データでは、600℃における残渣が多くなる傾向が観察され、その残渣を化学分析したところ、ホウ酸エステルオリゴマーとリン酸エステル系難燃剤が反応して生成したと思われるボロンホスフェートが配合量に相当する含有率で確認された。
ホスファゼンを用いた難燃化システムで見出された、燃焼時にリンをその系内に固定するとリンの難燃効果を高めることができる、という経験仮説に基づき、燃焼時の熱で無機高分子を生成しリンを系内に固定化する難燃化システムを考案することができた。
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