酸化スズゾルを帯電防止材として世界で初めて使用した特許(特公昭35-6616)を見つけても、酸化スズゾルには導電性が無いから帯電防止材として使えないと結論が書かれたレポートがテーマを起案するための障害になった。それは、科学的な実験データでサポートされていたためである。そこで、この否定証明をひっくり返す実験を行わなければならなかった。
科学の限界を論じた哲学書「方法の擁護」のなかでイムレラカトシュは自然現象の証明を完璧にできる科学的方法は否定証明しかないと述べ、科学の方法で新しい自然現象の完璧な肯定証明は難しいことを指摘している。すなわち、できない、ということは、できないという実験結果とそのできない理由を述べればよいので簡単であるというのである。一方できることの証明は、誰も実現できていないことをまず成功させる必要があり、それが障害になるというのである。
科学的方法は分析や解析には便利だが、その使い方に気をつけなければ否定証明のオンパレードとなり、新しい技術を生み出せなくなる。現実に、酸化スズゾルを帯電防止材として使用できるかどうか、という検討では、新技術を生み出せるチャンスがあったにもかかわらず、否定証明で結論を導き、酸化スズゾルには導電性が無いという証明をデータで示して行っていた。
すなわち酸化スズゾルの添加量を変えて実験を行っても添加量に応じて抵抗が下がる現象が観察されなかったので、科学的推論を展開して酸化スズゾルの導電性を否定したのである。しかし特公昭35-6616に書かれた実施例では十分な導電性が得られたことになっている。担当者に尋ねてみたら、それは特許だからでしょう、といとも簡単に特許が嘘を書いているかのごときしたり顔の回答である。
ただし、市販の酸化スズゾルを評価したレポートでは、酸化スズゾルに含まれている微粒子の導電性を計測していなかった。この点について担当者は、それは薄膜の表面比抵抗の値から混合則を用いて推定できる、と述べていた。ただし、パーコレーションの閾値については考察していなかった。担当者と科学の議論をしていても科学的に正しく否定されるだけなので、自分で思いつき実験を行ってみた(注)。すなわち、酸化スズゾルを自然乾燥して微粒子を取り出し、それを錠剤成形してテスターを当てたところ元気よく針が動いたのでびっくりした。(続く)
(注)思いつきの実験を頭ごなしに否定する人がいるが、部下の思いつきの実験を否定してはいけない。むしろ思いつきばかりで仕事を進めようとする計画性のなさを気づかせることが重要である。知識に裏付けられた、戦略的な「思いつきの実験」というヒューマンプロセスの一つは発見という行為のために重要である。思いつきを意図的に行えるようにしたら思いつきではない、というつっこみはしないでもらいたい。部下に対するコーチングでは、思いつき=直感を促す質問が重要である。新現象から機能を取り出す訓練には、この直感を養う方法も含まれている。
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写真会社に転職した頃に話を戻す。写真フィルムにとって帯電現象はフィルムそのものの品質を低下させるだけでなく、せっかく撮影した作品を台無しにする。ゆえに帯電防止技術は乳剤技術同様に重要な基盤技術である。しかし、転職した会社の帯電防止技術はライバルに後れをとっていた。
例えば印刷用感材の帯電防止技術について、ライバル会社の写真フィルムにはアンチモンドープの酸化スズが帯電防止材料として使われ、現像処理後も写真フィルムに高い帯電防止処理能力が残っていた。写真フィルムのような感材の現像処理ではアルカリ性と酸性の水溶液にさらされるので、界面活性剤やイオン導電性高分子などの帯電防止層はこの過程で何らかのダメージを受ける。しかし金属酸化物導電体は化学的に安定であり、その影響を受けにくいので、現像処理後も処理前と変わらない導電性を有しており、感材の帯電を防ぐ。
転職した会社ではイオン導電体をエポキシ系の化合物で架橋し、帯電防止層として利用していた。しかしこの技術では金属酸化物ほど現像処理過程で安定ではなく、処理後にわずかばかり帯電防止能が低下する。ゆえにそれを補うために表面層の設計も必要だった。この合わせ技で何とかライバル同等の品質を維持していた。
本音は金属酸化物系帯電防止材料を使用したかったが、転職した会社では、長年にわたり出願されてきたライバル会社の特許を回避することが難しいと信じられていた。そのような状況でライバル特許群を読んでいて、科学的におかしな表現を特許に見つけ(すなわち科学ですべてが解明された時代にはうそと言っても良い内容である)、それがきっかけとなり転職した会社で昔出願された酸化スズゾルの特許を発見できた。
しかし、酸化スズゾルについては、新素材として数年前T社から上市されていたので、転職した会社では評価が完了し、酸化スズゾルにはライバル特許に書かれているように感材に用いるには十分な導電性が無い材料という結論が出されていた。(続く)
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特公昭35-6616に書かれた酸化スズゾルは、ライバル企業の科学的に正しくない特許で非晶性と決めつけられた。実は注意深い実験を行うと、特公昭35-6616に書かれた合成法では、結晶性から非晶性まで様々な酸化スズゾルを合成できるので、この特許を証拠として、その後のライバル企業の特許のいくつかは公告になる前につぶせた。
もし当時老舗の写真会社に在職していたら、多くのライバル特許をそのまま成立させるようなことをしなかった。企業の技術者はいつもライバル会社の特許を監視しなければいけない。一方で科学論文も読まなければいけないので、アカデミアの研究者よりも忙しくなる。
ところが、会社で論文を読んでいると遊んでいるように思う不勉強な管理者もいるので、休日にこっそり読むことになる。技術者と言う職業は大変忙しい職業なのだ。また論文を読んでいる時間を労働時間に入れると日本における給与は安いということになる。
少し脱線したが、現代の科学の視点で特公昭35-6616を眺めると、ある合成条件で製造された結晶性酸化スズの導電性については、科学的に説明することが可能で、暗電流を測定すると公知の準位の導電性のレベルが確認され、分析結果からサポートされる酸素欠陥の存在を示すデータを科学的にうまく取得できる。
しかし合成条件を変えて結晶化度を下げてゆくと、次第に導電性が複雑に変化し、科学的に未解明の準位の導電性レベルが観察されるようになる。驚くべきことに1000Ωcm未満の導電性を示す非晶質の酸化スズゾルを合成可能で、この導電機構については未だ科学的に解明されていない現象である。
特許の都合でこれまで公開してこなかったが、すでに当方の書いた基本特許も切れているので秘密にしておく必要もなくなった。そこで、ある事実を公開する。すなわち、当時の私的な分析結果を示すと、合成条件により結晶化度が低下するとともに、酸化スズが構造水のようなものを持つようになる(実は酸化スズの構造水という表現は科学的に正しくない。正しくないがそのように思いたくなる面白い現象である)。すると導電性が出てくる。科学的に厳密な研究をやっていないが、この材料で導電性が最も良いものについて某大学の先生に評価をお願いした導電性の解析結果も存在し、非晶質酸化スズゾルが絶縁体ではなく導電体であることが20年以上前に証明されている。
しかしこれは内部文書なので公知の科学情報ではない。ゆえに非晶質の酸化スズゾルの物性については未だに科学的に解明されていないままである。さて科学的に未解明のことが多い状態では、どういうことが起きるか―――(明日に続く)
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業務において科学で未解明の現象を扱わなければいけないときに、科学的な問題解決法だけで取り組んでいるとおかしなことが起きる例を述べてみたい。これは実際に体験したことである。少し長い話になるので、数日に分けて書きたい。
20年以上前に実用化した酸化スズゾルは、その性質が科学で未解明の材料の一つだ。高純度の結晶性酸化スズについては、セラミックスフィーバーのさなかに無機材質研究所でそのすべてが解明された。その結果、高純度酸化スズの単結晶は絶縁体であることがわかり、インジウムやアンチモンをドープしなければ導電性が発現しないこと、そしてその導電機構について、この時に世界で初めて科学的な説明がなされた。
実は1960年前後にインジウムをドープした酸化スズが高い導電性を持つことは発見されていた。そして、物理蒸着プロセスによる透明導電膜が実用化された。その頃日本の老舗フィルム会社で(この会社は日本で初めて写真事業をスタートした会社だが)世界初の塗布方式による透明導電膜の発明に成功している。
特公昭35-6616がその発明による特許だが、これが公開されるとアメリカの写真会社や日本のベンチャーでスタートした写真会社から透明導電膜の特許が大量に出願されるようになった。老舗のフィルム会社は怖気づいたのか、一発花火のようにこの特許を一件出願しただけで、その後10年近く透明導電フィルムの出願をやめてしまった。
面白いのはベンチャーのフィルム会社の発明で、結晶化した酸化スズには導電性があって、特公昭35-6616に書かれた非晶性酸化スズには導電性が無く、自分たちが初めて塗布による透明導電膜の製造に成功したと特許で主張していたことである。科学的に酸化スズの物性が解明されていなかった時代の出来事であり、技術の発明として特許出願され公告となった。もちろん現代の科学の視点から見れば正しくない内容の発明である。
その後、本来は特公昭35―6616の改良特許の位置づけであったにも関わらず、この分野の特許出願状況は、ベンチャーの写真会社が酸化スズを用いた帯電防止技術の本家であるような展開になっていった。今の科学の常識から考えると特許の主張は間違っていたのだが、酸化スズについて科学で未解明の時代には、言ったもの勝ちとなる。(続く)
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パーコレーションという現象は、すべてが科学的に解釈されている訳ではない。特に微粒子分散系の高分子あるいは相分離した高分子において発生したパーコレーションの問題は個別に技術者の経験と勘で解決されている。しかし、日本のたいていの大企業がそうであるように、社内のプレゼンテーションで、勘と経験と度胸で問題解決しました、という内容では製品化にゴーサインはでない。
まれにゴム会社のようにKKDの成果でも許される場合があるが、それでも恥ずかしながら科学的香りを匂わせてKKDのプレゼンを行う。聞く方も了解しているからその点について突っ込んだ質問をしない。写真会社に転職して困ったのはこの点である。だから転職してすぐにパーコレーションの問題に遭遇したときにシミュレーションプログラムの開発を行った。また、導電性微粒子が分散した系で感度よくパーコレーション転移の閾値を評価できる技術も開発した。
シミュレーションプログラムと評価技術の開発を優先して行ったのは、パーコレーションという現象がすべて科学で説明できる現象ではないからだ。すなわち科学で未解明な事柄をカプセル化したオブジェクトの振る舞いを科学的に議論できるようにするためにシミュレーションプログラムと評価技術が必要だった。
酸化スズゾルを用いた帯電防止フィルムについては、技術的に開発が困難という科学的結論が出されていた。すなわち哲学者イムレラカトシュが言うところの科学的に容易な否定証明である。科学的に否定された事柄を技術者の勘と経験でできました、とやってしまったら馬鹿にされるのは雰囲気から理解できた。
おそらく日本の多くのメーカーがそうであるように科学的に問題解決された成果でなければ評価しない風土では、仮説とそれに基づく実験が重視される。ところが、そのような風土では否定証明が流行し、新しい技術の芽が生まれにくくなる。評価や分析では科学的問題解決法が便利で、また、その方法が一番良いと思うが、ものつくりでは、科学で未解明の現象から機能を取り出し利用することもあるので非科学的な問題解決プロセスも必要になる。
iPS細胞の山中先生でもヤマナカファクターをKKDで発見したことをNHKで告白したのである。KKDを見直してもいいと思っている。ただし、ヤマカンやドカンはさすがにダメであり、KKDにも山中流のような由緒正しき流儀がある。
 
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昨日シームレスベルトの押出成形をコートハンガーダイで行うときにウェルドの問題が難しい、と書いたが、カーボンを分散し抵抗調整した中間転写ベルトを製造しようとしたときに、外観以外にウェルド部における抵抗変動という内部エラーの問題が極めて難しい。
高分子に微粒子を添加したときに生じるパーコレーション転移の問題だが、パーコレーションの現象を数学的に理解するための科学はほぼ完成している。ほぼ、と表現したのは、いまだ研究されているようだからだ。当方はどこにまだ数学の問題が残っているのか知らないが、実務の現象についてシミュレーション可能なソフトウェアーは20年以上前にLATTICE C で開発したプログラムがある。
時間ができたらC#で書き直したいと思っているが、なかなか時間が無い。計算が必要になったときにはPC9801を立ち上げて計算している。計算結果はLAN経由でファイルサーバーに落とし、WINDOWS8で利用するという面倒な手続きだが、使用頻度が低いのでそのままになっている。しかし、生きている間にオブジェクト指向の処理系に書き直したいと思っている。
科学としてパーコレーションの数学上の研究課題については不明だが、実務上は問題解決できた、と思っている。ただ微粒子とマトリックスの相互作用までを含めた物理と化学の現象については、未だ科学的に未解明の事柄が多い。実務においては勘を働かせて問題解決する以外に無い。もしこれを科学的に解決できる、という人がいたら、それはペテン師だ。
高分子の微粒子分散系で観察されるパーコレーションという現象を普遍の科学的解を与え、実務で生じる問題解決は、その科学知識でできる、という人がいたら是非ご紹介して欲しい。パーコレーションという現象について数学で理解されている限りにおいて確率が関係していると言われているので、パーコレーションの現場の問題を解決するには、その確率を制御する方法を示した科学が実務では必要だ。概略は科学で語ることができるが、現実はその語られたとおりにならないケースが多い。パーコレーションという現象を制御するには未だ技術者の経験とそれに裏付けられた勘が必要である。
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20世紀に科学の成果はどんどん実用化され、科学の恩恵が感じられたが、21世紀に入り少し陰りが見えてきた、という人もいれば、一方で文教行政の見直しを唱える人もいる。現実には大学の独立行政法人化の効果が現れてきて、大学の研究環境は厳しくなってきた。
ただ忘れてはいけないのは、科学で未解明の自然現象が未だに多い、という現実である。大学の先生の中には、例えばダッシュポットとバネのモデルでレオロジーを研究してきた人のように、仕事が無くなった研究者もいる。いまでもこのモデルで高分子を研究しているとしたら大学の教員をやめて企業に行くべきである。企業には、そこそこ便利なこのモデルの技術ニーズがあるかもしれない。
高分子のレオロジーは、あまり注目されていないが、若い優秀な研究者はどんどんチャレンジできる面白い分野だ。もしこの分野が飛躍的に進歩したならば、高分子材料の現場で困っている大半の職人は大喜びする。技術者がうまく問題解決できない現象が多いためだ。
中間転写ベルトの開発を引き継いだときに金型をシンプルなコートハンガーダイに固定して問題解決した。シームレスベルトの押出成形に用いられるスパイラルやスパイダーなどの金型は、コートハンガーダイのウェルドの問題を解決するために考案されたようだが、その金型内部における樹脂の流動は複雑になる。
ウェルドの問題は残るが、シームレスベルトの押出成形に用いられるコートハンガーダイの内部における樹脂流動は大変シンプルで考えやすい。PETの成膜で用いられるTダイと同様の考え方もでき、問題解決が容易である。
実際にウェルドの問題を解決したら順調に量産が立ち上がった。ウェルドの問題は難しい、と敬遠されがちだが、難しい一個の問題と複数の訳の分からない問題とどちらを選んだら良いかは、趣味の問題もあるかもしれないが、当方は前者を選ぶ技術開発スタイルである。高分子の樹脂流動について科学で未解明の事柄は多いので一個の問題に集中する方が賢明である。
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超音速滑走体については、大学時代にお遊びの実験という批判があった。東海道新幹線でさえも早いと感じていた時代で、それより早い乗り物を希望するならば飛行機がある、という意見もあった。確かにロケットエンジンをつけて直線を走らせているだけの実験は、門外漢には実用化にほど遠く見える。しかし、陸上を音速以上で走る乗り物を実現できれば飛行機特有のリスクを解決できるので面白いアイデアの一つであり、研究に対する批判は夢の無い意見である。
大学に進学した時に新聞や雑誌からも超音速滑走体の文字がすっかり消えたので、昔の新聞の切り抜きを学生時代に処分した。名城大学の実験記事には子供のころ少し胸が熱くなったりもしたが、化学に興味があったので新聞の切り抜きを集める程度以上にはのめりこまなかった。だから鍋田干拓の実験場まで見学をした経験もない。
しかし研究の最盛期にはTVで実験の様子が毎日のように映し出されたりしたので今でも鮮明な記憶がある。マッハ2のスピードで滑走するロケットのような滑走体に亀を載せた実験では、滑走体がストッパーに激突したのに、奇跡的に亀は生きていた。なぜ亀なのか、と不思議に思ったこともあったが、東京-大阪間が12分で結ばれる時代とはいかなる世界か、と夢が膨らんだ。
今日本のリニアモーターカーが最も早い乗り物と騒がれているが、東京-大阪間は67分かかる。リニアモーターカーのニュースを見て、昔亀が人類よりも早い乗り物を体感したことを思い出し、当時なぜ亀を載せたのか今頃になって理解できた。
リニアモーターカーでも超音速滑走体の1/5以下のスピードである。技術が科学に追いついていない分野であるが、このような分野はいくらでもある、と最近思うようになった。一方で、物理の分野でも化学の分野でも技術のほうが先行し、科学がそのあとをおいかけるようなシーンがときおりみられる。
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20世紀は「科学の時代」と言われた。今「科学の時代」という言葉をあまり聞かない。科学が当たり前になってきたからかもしれない。一方でSTAP細胞の騒動のようにこんなことも分かっていなかったのか、という事柄が突然飛び出しビックリしたりする。
STAP細胞について動物ではありえないことになっている、ということを初めてあの騒動で知った。植物でカルスが話題になった時代にその現象を学んでいたからだが、そのとき動物では現在研究中となっていった。
昔先端技術のごとく書き立てられていたことがその後どうなったか調べてみたところ面白いことがわかった。機会があったらこの欄で書いてみたいが、STAP細胞のような騒動が過去にもいくつもあったのだ。ただ、あそこまで大騒ぎにならず、一度科学雑誌などで話題になり、その後消えていった科学の成果がいくつかある。
社会人になった時にタイヤ会社に入社した関係で超音速滑走体の研究がその後どうなったのか少し調べたことがある。当時もう誰も見向きもされなくなっていたその研究は、当方が小学生の時に名城大学の某先生がご研究をされていた。
地元の中日新聞は実験があるたびにニュースとして取り上げていた。国の補助金が使われていたからかもしれないが、地球上を滑走するもっとも早い乗り物というのが当時のキャッチフレーズで新聞には鍋田干拓地の実験場の写真が一面に載っていたりした。当方が大学に入ったころにはその話題を聞かなくなった。(続く)
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昨日フェノール樹脂天井材の開発において、最初にポリエチルシリケートとフェノール樹脂のリアクティブブレンドを開発初期にチャレンジし成功した話を書いた。この検討を最初に行うかどうかで開発の見通しが変わるので最初に検討しようと提案したのだが、前例の無い反応なので科学的に成功するかどうか可能性を議論できない。すなわちやってみなければ分からない実験である。
フローリー・ハギンズ理論に反するブレンド技術だが、ポリウレタンRIMでは成功実績があると聞いていたので、科学で否定されるようなチャレンジでも臆することなく実験したいと思った。成功したときのメリットが大きかったからである。またポリエチルシリケートをせいぜい15wt%程度ブレンドするだけだったので、何とかいける、と判断していた。また、そのための事前検討として水ガラスからケイ酸ポリマーを抽出しフェノール樹脂にブレンドするヤミ研も行っていた。
いろいろ前準備を行っていたので、仕事として取り組むときのリスクについて科学的な見通しは無かったが、経験の蓄積があり、自然と度胸はできていった。またチャレンジしようとしていることが科学で保証されていない実験であることも承知していたので、観察だけは注意深くしようという心構えもできていた。
技術者は、技術者としての心構えで準備を行えば、科学で未解明の現象からうまく機能を取り出すことができるのである。ただし、そのためにわずかばかりの度胸がいる。このあたりについてE.S.ファーガソンは心眼で思いを巡らす、と述べているが、その心眼は技術者の不断の努力により蓄積された経験知に基づくものだ。
昨年のSTAP細胞の騒動の原因は、科学と技術を同じまな板の上で料理したことだとこの欄で指摘したが、小保方氏は未熟な科学者であっただけでなく技術者としての訓練を受けていなかった悲劇も災いした。おそらく度胸はかなりの大きさであることはその行動からうかがわれたが、技術の重要性を理解していなかった。理研の偉い方々も技術開発が必要であることを分かっていなかった。
騒動の最中、たった一度でもSTAP細胞ができれば良い、と言っていた人がいたが、それは科学の立場である。技術の立場では、繰り返し再現性が重要になる。たった一度でも皆が見ている前でできれば、できたという真理ができ、科学としての証明の実験になるかもしれないが、これは技術ではない。しかし、STAP細胞では、技術ができている必要があった。すなわちその後の解析で複数の細胞が必要になるからで、もしその当たりに気がついて小保方氏が技術開発をこっそりとやっていたならあのような騒動にならなかった。科学者に度胸は不要である。
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