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2017.03/20 パーコレーション転移のシミュレーション

パーコレーションについて研究を行うときに、コンピューターは大変便利な道具である。特に最近はメモリーも安くなり、なんといってもCPUが30年近く前よりもけた違いに高速になった。はじめてコンピューターに触れたのは、大学の計算機実習だが、フォートランの簡単なプログラムを動かす作業でも一日仕事だった。


プログラミング環境もRAIDが充実し、その使用方法を習得すれば、ベッドの上で寝転がって鼻歌交じりに窓の開閉が可能で見栄えのする入力デザインの計算プログラムを作成可能である。30年前は、Cの処理系をパソコンへインストールする作業から入り、エディターをセットしなければプログラミングを始めることができなかった。


苦労してプログラミング環境を立ち上げても、見栄えのしないプログラムしか作ることができなかった。当方はもっぱら入力も出力もファイルを通じて行うプログラムを作っていた。自分専用だからこれで十分だった。また、MS-DOS環境ではパイプラインを使えたので、ファイル形式さえ統一すればデータを他のプログラムで活用でき画面入力よりも便利だった。


さてパーコレーション転移のプログラムのアルゴリズムについては、シミュレーションの応用分野が高分子半導体だったので導電性微粒子を絶縁体に分散したときに生じる現象を立方体を用いたモデルにキルヒホッフの法則を応用したものである。プログラムを作成したときにまだ同様の考え方のプログラムは報告はなされていなかった。


しかし学会で報告するために文献検索を行ったら雑誌「炭素」の二か月前の号に同様の考え方の論文が投稿されていたことがわかった。学会報告はすでに申し込んでいたので発表するかどうかを迷ったが、論文に書かれていたプログラムのアルゴリズムと少し異なる部分があったので、その論文を引用してとりあえず資料を作成し発表した。しかし論文にまとめるところまでは諦めた。


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2017.03/19 パーコレーションと複合材料(5)

酸化スズゾルとゼラチンバインダーとを複合化して透明帯電防止層を製造する技術は、特公昭35-6616に書かれている。ただし実施例には一部重要なノウハウが書かれていない。この特許が出願された時代は、ITOが盛んに研究されていた頃で、酸化スズは透明導電体材料として注目されていた。ただしその導電機構については解明されていなかった。


高純度酸化スズが絶縁体であると科学的に解明されたのは1980年代で、無機材質研究所の成果である。長い間酸化スズの導電性について科学的解明が難しかったのは高純度単結晶を製造する技術が無かったからである。


無機材質研究所では、各種金属酸化物単結晶の研究過程で高純度酸化スズ単結晶の合成に成功し、その電気特性の解明が可能となり、それが絶縁体であるとの科学的結論を導き出した。そして高純度酸化スズ単結晶は絶縁体であるという科学的に正しい真理を確定している。


フィラーの電気特性でさえこのように科学的解明が難しいのに、そのフィラーとマトリックスとの相互作用になってくると天文学的な難易度になる。すべてが解明されてから技術を開発する、などと考えていたら技術開発競争で負けてしまう。


だから、どうしても非科学的技術開発が必要となってくる。科学的情報が乏しい中で開発が進められた酸化スズゾル透明帯電防止層は、間違いなく非科学的方法の成果だった。


面白いのは、写真会社へ転職したときに酸化スズゾルでは写真フィルム用の帯電防止層を製造できない、という社内論文が書かれた直後で当方がパーコレーションのシミュレーションプログラムのアルゴリズムを完成させたときだった。このような否定証明の科学的論文が正しく書かれていたのは、パーコレーション転移という現象が関係していたにもかかわらず、混合則で考察が進められていたからである。すぐにパーコレーションをシミュレートするプログラム開発に着手した。


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2017.03/18 高分子材料(54)

樹脂材料を製品に用いるときにその耐熱性が問題になる。困ったことに用途でこの耐熱性に対する考え方が異なるので注意が必要である。まず樹脂材料の熱物性を表すパラメーターには、ガラス転移点(Tg)、結晶化温度(Tc)、溶融温度(Tm)の3種類存在する。

 

無機材料では結晶が溶ける温度と融点はほぼ一致するから製品設計でTcとTmを区別して考える必要はないが、樹脂では耐熱性を考えるときにTcを区別してとり上げなければいけない場合が存在する。すなわち樹脂の応用分野における耐熱性がTmよりも低いTcにより左右される場合である。

 

もっともTgはそれよりも低い領域に現れ、強度や熱膨張が製品の耐熱性を議論するためのパラメーターであるならば、複合材料以外ではこの温度未満で樹脂を使用するように製品設計する、と簡単にいえる(簡単にいえるが、これがいつも当てはまるわけではないことを本欄で以前紹介している。すなわち一般に行われている判断でもそれを適用してはいけない場合が存在する。詳細は弊社へ問いあわせていただきたい)。それに比較し、Tcまで問題にならないと思われる製品性能で設計する場合にTcの決め方が問題になる。樹脂の物性表に書かれたTcを安直に耐熱性の上限として採用すると市場で品質問題を起こす原因になる。

 

よく教科書に材料の耐熱性はTgやTcで左右されると書かれていたりするが、製品設計で樹脂の耐熱性を考えるときには、開発の初期段階で実際の使用環境に近い最高温度に樹脂の成形体を置きその影響を調べる姿勢が求められる。安易にTgやTcでその耐熱性を判断してはいけない。

 

例えば強度や熱膨張が製品の耐熱性に影響する場合に樹脂のTgで使用温度の上限が決まると先に述べたが、繊維強化複合材料では樹脂のTg以上でも強度材料として用いることが可能となる場合が存在する(これは「簡単にいえる」場合と逆の事例である。早い話が高分子材料で耐熱性という品質を設計するときにはいつでも現物を実際の使用環境で評価する必要がある。TgやTc,Tmだけで耐熱性を決めてはいけない)。

 

科学的に考えると耐熱性はTgやTcで議論できそうで、実際に議論できる領域も存在したとしても、製品設計では現物でその使用環境における耐熱性を調べる実験を行いその使用できる上限温度を決める必要がある。非科学的かもしれないが、品質問題を起こさないために科学で安直に判断してはいけない。

 

製品の耐熱性がTgよりもはるかに低い温度領域となる場合も存在するからである。このような科学的に想像のつかない世界が存在するのが製品設計の世界である、というのはタイヤ会社において新入社員発表会の席で学んだ忘れられない言葉である。

 

 

 

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2017.03/17 パーコレーションと複合材料(4)

複合材料のパーコレーション転移で、フィラーで形成されるクラスターを自由に制御する技術は大変高度であり、この特殊なケースは自己組織化というカテゴリーに分類されたりする。


この制御因子が、科学的に解明されているのかされていないのかはっきりしていないのが現在の状況である。だからパーコレーションの制御技術について、前回は運に左右されるようなことを書いた。


すなわち、この制御因子は、複合材料の種類や材料を製造したり賦形したりするときのプロセシングで重要ではあるにもかかわらず科学的に解明されていない、と当方は考えている。


腕のいい技術者ならば概略の制御因子を述べる(注)ことができても、それが科学的に必ず成立するとは言いがたい。だからパーコレーション転移の制御技術は、時として非科学的方法が有効であったりする。


PPS中間転写ベルトにおいて、カーボンがパーコレーション転移を起こしている島状のクラスターをパーコレーション転移が起きないように均一に分配混合を進める技術は非科学的方法で開発された。ただし神棚を作ってお祈りをしたわけではない。いわゆるKKDだ。ただしKKDといっても弊社で指導しているPPAPやその他の問題解決技法を駆使したうえでのKKDだ。ヤマカン頼りではない。


ところで、このような技術を科学的に開発できると思っている人は、科学者として優秀な方かとんでもない勘違いをしている人かどちらかだろう。優秀な方であれば、いつでもどのような材料やプロセスでも成立する具体的な理論と方法を示すことができるはずである。しかし実際にはそれができないから、特殊な材料や特殊な条件でうまく組織構造を制御できた系について自己組織化と称して研究を進めている。


(注)中間転写ベルトのPPS/6ナイロン/カーボンという処方は当方が考えたのではない。前任者の部長とその部下のマネージャーが、PPS/カーボン系においてパーコレーションの制御ができなくて、島状に相分離する6ナイロンにカーボンをくっつけたらよいのではないかという願望アイデアから考え出されたらしい。このアイデアがよかったかどうかについては批判をする気になれない。このアイデアのおかげで退職前の仕事が生まれたのだから。現代の技術にも非科学的な成り立ちの技術が存在する。iPS細胞でもとりあえず24個の遺伝子を突っ込んでみた、という試みがノーベル賞のきっかけとなったことを山中先生はインタビューで話されていた。


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2017.03/16 ブラックと疑われる大学の研究室

「不正を暴いて波風を立てることにメリットがない…
学生や研究員を追い詰めるような「ブラック研究室」は研究不正の温床になる。学生にとってはブラック研究室の実態を暴くことにメリットはなく、目標にはなり得ない。研究室から円滑に卒業し、就職やステップアップなど次の活躍の場を得ることがゴールだ。そのためには不正を暴いて波風を立てることは合理的でない。果たして倫理教育で学んだモラルはどこまで有効なのだろうか。」

 

以上は、昨日WEBニュースの記事の引用である。この記事では、先生の指示で実験を行っているが思ったような結果が出ない。どうも先生の仮説が間違っているようなので異なった実験で先生の意図されるようなデータを出して卒業した学生の事例なども紹介されている。

 

科学における捏造の問題は、20世紀末から多くなったのではなかろうか。記事に紹介されているような先生から請け負ったテーマでデータが出ないときに先生の顔をつぶさないようにデータを捏造する学生の話を聞いたことがない。

 

昔は学生と先生が対立することが多かったので、先生が無能と気がついた学生は、さっさと異なるテーマを立案し、研究を進めた。大学の先生も先生で、そのような元気のよい学生のご機嫌を損ねないように卒業させていた(注)。

 

大学のテーマ管理が今ほど厳しくなく、どのような研究内容でも論文が出ればよい、という研究室もあったくらいだから、捏造の問題は起きなかったのだろうと思う。今や研究費を獲得するために研究の競争が激しくなってきている。それが捏造を生み出す背景にもなっているように思う。

 

ただ、学生の姿勢にも問題があり、やはり不正は自らの卒業に心配があったとしても正すべきである。仮に卒業が危ぶまれたとしてもそのような学生を大切にする社会でありたいと思う。

 

(注)大学院に進んだときに教授から「ホスホリルトリアミドの重合」という研究テーマを頂いた。文献調査をしたところ、10年以上前に特許出願があったうえに研究発表も十分に成されていたテーマだった。助手の方から、さっさと他のテーマを研究した方がよいと言われ、当方もそのように感じて他の先生にも相談したりしたら、あの先生の出されたテーマで最後まで研究した学生は一人もいない、と言われた(このような状態でも大学教育が社会で認められていた時代でもある)。この一言で、教授の出されたテーマで論文を書いてみようという気持ちになった。ホスホリルトリアミドとホルマリンとの共重合体やホスファゼンとの共重合について研究し、修士論文は「ホスホリルトリアミド及びその誘導体の重合」というテーマでまとめるとともに、二年間に3報論文を発表することができた。この研究がゴム会社に就職したときに、ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体やフェノール樹脂発泡体の無機高分子による難燃化研究に役だった。そして、30年以上も事業として続いた高純度SiCの前駆体高分子(ポリエチルシリケートとフェノール樹脂のコポリマー)の発明と実用化に至っている。科学の研究は捏造など考えず誠実真摯に行うべきである。当方の調査結果を基に、教授がどのような意図でテーマ立案されているのか直接説明を伺っても当方には理解できなかったので、さっさとテーマを放り出そうとも考えた。しかし当方は、まず教授を信じることにした。師と生徒の関係はまずそこから始まる、というのはそのときの亡父の名言である。その結果、有機金属化合物が多数研究されていても、当時それらは有機物から眺めた応用展開であり、無機物から眺めた誘導体の展開については一部のリン酸系に限られていて研究テーマの化合物の誘導体についてはまったく研究されていなかったことを見つけた。

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2017.03/15 パーコレーションと複合材料(3)

フィラーを高分子に分散するときには必ずマトリックスとなる高分子とフィラーとの間に相互作用が働く。フィラーのサイズが小さかったり静電気を帯びやすかったりしたなら、フィラーどおしの相互作用も問題になる。


このような相互作用を考えて科学的にこの問題を解こうとすると複雑になり難しい問題となる。科学の世界では、真理をわかりやすく導くために、しばしば現象を簡単にして議論が見えるようにする。


これをモデル化と言ったりしているが、パーコレーションの数学的取り扱いでは、最初に一切の相互作用を無視して統計的にパーコレーションが生じるモデルで議論している。そして今ではn次元のモデルまでパーコレーション転移の閾値が計算されている。


科学の世界は楽しく、何に活用できるのか分からないn次元までパーコレーションという現象が解明されているのだ。そしてモデルにより閾値が微妙に変わることまで確認されている。


すなわち、フィラーと高分子材料との間にまったく相互作用が無い、と仮定してもその閾値は、現象のモデル化すなわち現象のとらえ方で変化するのがパーコレーション転移である、と正しく理解していることは重要である。


具体的な知識として、導電性微粒子が真球でマトリックスとの間で相互作用がないと仮定したときに、体積分率で30vol%から60vol%の間で、閾値はばらつくということである。微粒子に異方性が出てくれば、それが20vol%あるいは10vol%さらにはそれ以下になる場合がある。


導電性のカーボンを高分子に分散して10の9乗Ω前後の体積固有抵抗で安定に作るという技術は、配合やプロセシングで工夫しなければ不可能に近いことだと容易に想像がつく。またもしこれがうまくいっているのなら、それは運がよかったということになる。


PPSと6ナイロン、カーボンという配合を変更せずにそのような体積固有抵抗で安定な無端ベルトを半年で完成してください、という要求は、パーコレーションという現象を正しく理解しているなら神頼みと同じことなのだ。引き受けた当方もプロセシングに一縷の望みをかけてサラリーマン最後の仕事としておみくじを引くつもりだった。


それがカオス混合技術という大吉のおみくじを引くことになっただけのことだ。ここまでは運がよかったが、退職日を2011年3月11日に決めたことは運が悪かった。当方のために用意された最終講演会も送別会も吹っ飛び帰宅難民になった。


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2017.03/14 パーコレーションと複合材料(2)

フィラーを高分子材料に分散しようとすると、フィラーと高分子材料との間には必ず何らかの相互作用が働き、思うような高次構造を実現出来ない、というのが材料屋の悩みで古くから混合則が議論されてきた。


混合則では、例えば導電体を高分子材料に分散して抵抗を制御しようとする問題において、その抵抗変化の関係がR=n1xR1+n2xR2(直列接続)と書き表されるのか、1/R=(n1/R1)+(n2/R2)(並列接続)と書き表されるのか、といった議論となる。


すなわちフィラーが直列接続的に高分子材料に分散しているのか並列接続的に分散しているのか、という議論である。そのままこの議論を聞いていると科学的な議論に聞こえる。


電子顕微鏡など直接高次構造を見ることが可能となってもこのような議論がなされており、さらに、フィラーの分散状態について混合則の式を改良してより近似式として「自分の実験データ」をうまく説明できる式が幾つか提案される始末である。


この混合則の議論について歴史的に調べたなら、科学が重箱の隅をつつき始めたときにどうなるかが見えてくるのではないかとさえ思いたくなるぐらい幾つかの近似式が過去に提案されている。


複合材料の世界では、混合則による議論が30年以上続けられており、それをまじめに扱った学位論文を読んだときには、思わず吹き出してしまった。重回帰式で式を求めるだけの仕事で学位が取れた時代がこの半世紀の間にもあったのだ。


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2017.03/13 パーコレーションと複合材料(1)

PPS中間転写ベルトの高次構造の話を先週書いていたら、パーコレーションの理解が重要であることに気がついた。パーコレーション転移については、数学者によりかなり昔から研究されていた内容だが、複合材料の世界ではその現象を混合則で1980年代頃まで議論していた。


当方が日本化学会で酸化スズゾルのパーコレーション転移に関する研究を1990年代に発表しても同じセッションで混合則を用いた現象の考察がされていたような状況だった。


まず、混練機などを用いてフィラーを高分子材料に分散するとどのような現象が起きるのか簡単に説明すると、フィラーと高分子材料との間で相互作用が全く働かなければ、フィラーは高分子材料に統計的に分散して行く。教科書には分散混合と分配混合で分散が進行すると説明しているが、ここでは現象を簡単にとらえて説明する。


フィラーの添加量が少なければ、フィラーは凝集することなく高分子材料にばらばらに分散する。今フィラーが真球だとすると、30vol%前後添加された段階で、フィラーどおしの接触(凝集)がどこかで起きやすくなる。


これが60vol%前後になるともはや凝集を全く起こさずに分散することは難しくなり、必ず凝集ができる。このフィラーどおしがくっついた状態をクラスターと呼ぶ。


このクラスターの生成する現象について科学的に論じようとしたのがパーコレーションの理論である。パーコレーションの問題は材料の世界だけでなく、例えば山火事でも問題になり、数学者は山火事の問題を議論していて、抵抗変化などもその議論の中に組み入れていったらしい。


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2017.03/12 先日の講演会の余談

川村氏の講演会の手土産代わりに,名古屋から駆けつけた高木君提供の1969年11月22日の出来事の写真と何枚かの冊子が配られた。それは文部省「高校生の政治活動禁止の通達」に抗議した旭丘生によるデモについて書かれたものだった。

 

105組担任だった廣林先生が準備された書類だという。ただ、配布された内容を読みデモの思い出よりも日本の教育のありかたについて改めて疑問を感じた。

 

デモには1000人以上が参加した、と書かれていたが、これは主催者側の発表した数値で、当時の新聞によれば800名前後だったように記憶している。主催者側の数値が大きくなるのはこのデモに限ったことではないので問題にしない。

 

ただ、その冊子にデモへ参加しなかった高校生の考察が書かれていなかったのは残念である。すなわち、デモをしたことが立派であった、という書き方である。

 

当方は当事者だったのでこの冊子をそのまま肯定的に懐かしさを込めて読むことができなかった。むしろ一度は教師を目指しながら考え直し技術者として生きてきてよかったと改めて感じた。おそらく教職を選んでいたなら、今の当方の価値観では後悔でその人生を終えたかもしれない。

 

かつて教職は聖職と言われたが、今や単なる知識労働者の一部門となっている。そのように社会が動いた結果だが、デモ当時はまだ聖職者を気取る先生がいらっしゃった。一方で教師も労働者だと血走った目で語る先生もおられた。

 

この高校生のデモの一シーンの裏には、文部省の通達に対してデモではなく他の継続的抗議手段を模索した生徒たちもいた。そしてデモは全校一致ではなく有志で行われたことなどの説明は、その歴史の1シーンとしてそれを正しく語るために重要なはずである。

 

当時の校長室封鎖に始まりデモに至る全校集会の議論では、デモがその目的ではなかった。当時の教育と教師の姿勢、そして大きくは社会体制が問題にされていたのだろうと事件の顛末について自分なりに総括している。そしてデモが終わった瞬間にすべてが日常に戻っていたことに疑問をもっていた。もしデモが戦いの始まりだったならデモの翌日からのあの授業の平穏さを説明できない。

 

単純にデモに突入した生徒も生徒だが、翌日の平穏を見て胸をなでおろしていた教師も教師である。あれでは単なる受験勉強のガス抜きだ。もし先日配布された冊子のような思いがあったなら、生徒の尻をもっとたたくべきだった。教師や生徒の非日常から日常への切り替えの早さに納得していなかったのは当方以外にも多数いた。教師という職業は知識労働者の仕事の中でも貢献のし甲斐のある尊い仕事である。しかし今日に至るまでその本来の目的や教師の役割が明確にされぬまま放置されている。

 

例えば今新聞に毎日のように活字が出てくるいじめなど当方の中学校時代でも存在したが、当方はいわゆるいじめっ子と戦っていた中学生だった。だからいじめっ子にとっては当方がいじめっ子に見えたかもしれない。時には危険な目にあいそうになったが、そのようなときには交番に駆け込んだ。生徒が危険な状態になっても先生が守ってくれないことを経験から知っていたからである。たかが子供の喧嘩と軽く見てはいけない。チェーンや刃物などが校内に持ち込まれ、生死を賭けた光景も現実に見られた。だからお巡りさんが時々学校に現れた凄まじい教育環境だった。しかしそれは隠蔽された。

 

通学していた中学校は名古屋市内でも、知る人ぞ知るその方面で少し有名な学校だった。ゆえに自分で自分を守る知恵はその生活の中で自然についた。教師を交えたデモの議論でも当方の目には同様に映った。なぜ全校一致ではなく「有志」でデモを行わなければいけないのか。先生はなぜ一緒に戦わないのか、すなおに不思議に思った。県教委通達も問題だが、それに対して短絡的に生徒だけでデモをしようという意見に疑問を持った。

 

ドラッカー流に何が問題なのか、考えても答えを出せるほどの大人ではなかった。ただ、亡父から渡された「断絶の時代」を理解しようと辞書を片手に毎日必死に読んでいた。「世代の断絶」という言葉は、著者と異なる意図でこの年の流行語となった。1969年は、ドラッカーが愛読書になった思い出の年である。大切なことはイデオロギーで過去を正当化したりせず、豊かで健全な未来を築くために皆が誠実で真摯に努力することだろう。

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2017.03/11 65歳からの生き方

昨日高校同窓会主催の月例会で川村容子氏による表題の講演を拝聴した。当方含む川村氏の同級生が大半であるが60名近い聴講者で普段の月例会の2倍の人数だった。故郷名古屋から参加した同級生も多数いた。

 

あと一年たてば必ず誕生日の順番に皆65歳を過ぎるので関心が高かった。さすがエディターとして生きてこられた方の講演だと、表題からも感じた。そのキャリアが生かされ講演全体が大変わかりやすく聴衆に自然に浸透する内容だった。

 

1時間という講演時間を考えた表題の付け方や素材の選び方、そして説明の仕方などが勉強になった講演会でご興味のある方にはご紹介いたします。

 

さて、その内容は東大が考える100歳までの人生設計(川村氏は編集者の一人)がもとになっており、年をとっても如何に社会とのつながりを維持して健康に気をつけて生きるのか、というのがポイントだ。

 

早い話が死ぬまで働けば社会とのつながりを維持できるが、社会の最小単位である夫婦のあり方も重要である。講演で示されたグラフによると、男性は健康のままぽっくり死ねる人が1%程度いるが女性はそのような人はいなくて、徐々に老化し死んでゆくのか、どこかで急激に老化し、その状態で長らえ死んでゆくものらしい。

 

実際に母は亡くなる約15年ほど前に脳梗塞を患い、言語が不自由なまま当方が単身赴任中に葬儀をすることになったが、その4年後母の後を追うように父は100歳で入浴中に心不全でぽっくりと亡くなった(注)。

 

母が亡くなる前は、母を病院に連れて行くのが父の日課だったが、まさに川村氏が講演で紹介していたグラフを示すような1%の男性がリードした典型的な長寿夫婦の一生だった。そして亡父は高齢社会の超エリート男性だったのだろう。

 

2050年平均寿命は男性84歳、女性90歳になると言われているが、男性はもっと頑張ってヘルシーエイジングしないといけない。女性より先に死ぬような生き方では、健康のままぽっくりとあの世へ逝くことができないのである。1%を目指し夫婦生活は最後まで亭主関白でありたい、と頑張っている。

 

(注)2010年の年末の、亡くなる数日前出張で豊川へ出向いた帰りに名古屋へ立ち寄り、2011年3月11日に早期退職し起業することを伝えた。これが亡父との最後の会話となった。

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